系列追従パターンの習得・保持レベルと適応過程の関連性
(2002/10/13、日本体育学会第53回大会研究発表、埼玉大学)

keyword:系列追従パターン課題,保持レベル,適応過程

目 的

 運動制御の適応制御過程の研究では、まず運動機能の安定化をめざすフィードバック制御過程が検討対象になる。さらに、外部環境の構造パラメータの変化に対する適応制御過程を問題にするが、その適応の優劣を左右する重要な要因としては、適応過程前の習得・保持レベルが関与していると考える。本研究では、特にフィードバック制御段階の習得とその保持過程に焦点をあて、それらと適応過程の関連性を検討する。

方 法

1)被験者
 大学生男子20名。被験者は、フィードバック制御段階の系列追従パターン課題を1回完全に見越し反応で達成するA群と、同様の課題を3回完全に見越し反応で達成するB群に各10名ずつランダムに割り当てた。
2)課題と手続き
 実験課題は系列追従パターン課題を用いた。実験装置は被験者の前方70cmの位置に「用意」の合図となる刺激ボックス(ブザー音)と6つの発光ダイオードの刺激呈示ボックスが10cm間隔で配置された。また、これらの刺激呈示ボックスに対応して、被験者の手元には6つの反応器が10cm間隔で設置された。
 まずA群の被験者は、フィードバック制御段階で系列位置が2-5-1-3-6-4の系列パターンを1系列1試行として、1回完全に見越し反応で習得するまで追従した。この習得段階達成後、系列パターンの提示が36秒間(10試行分)停止された保持段階に移行し、1回完全に見越し反応で習得パターンを再生するよう要求しされた。しかし、刺激停止時間内に習得基準に達しない場合は、設定された刺激停止時間終了後に刺激が呈示され、習得基準に達するまで系列パターンを追従した。また、保持段階の習得基準を達成すると構造パラメータとしての系列位置の変化した5-2-1-3-6-4の系列パターンが呈示される適応制御段階に移行し10試行を追従した。
 これに対して、B群はフィードバック制御段階での習得基準が3回完全に見越し反応で追従する以外は、A群と同じ手続きであった。
 刺激点灯時間は100ms、刺激呈示間隔時間は500ms。4つの反応測度は、無反応・誤反応・正反応・見越し反応のパーセントを検討した。

結果と考察

 両群がフィードバック制御・保持・適応制御の各段階で示した4つのパフォーマンス測度の比率を各系列位置に対して整理したのが図1である。また、各段階間と段階内のパフォーマンスの変化を検討するために、フィードバック制御段階の前期の5試行と習得基準の試行直前の後期5試行、さらに適応制御段階の前後5試行の結果が示してある。
 主要な結果は次の通りである。
1)両群のフィードバック制御段階の前後の結果に差は見られないが、注意すべき点はB群の習得達成基準は3回完全に系列パターンを追従しているという点である。
2)フィードバック制御段階の習得レベルがどの程度正確で安定しているかを、刺激停止条件での保持レベルでみると、前期は見越し反応の出現比率以外では、両群とも無反応と誤反応が大半を占めた。それが、後期では両群とも習得パターンを再生し、その効果はA群よりもB群のほうが優れていた。また、ここでは表示していないが、刺激停止時間内に1回完全に見越し反応で追従することが不可能であった被験者が、刺激呈示の再開で習得基準に達した試行数で両群を検討すると、B群のほうが優位に少ない試行数で習得基準を達成していた。
3)B群の系列を見越し反応で制御する能力は、構造パラメータの変化した適応制御の前期、さらには後期の結果からも明らかであろう。以上の点から、フィードバック制御段階の習得レベルの冗長性や保持段階内の後期での修正や再学習がその後の適応制御段階への移行に重要な役割を果たしているといえよう。


図1 フィードバック制御段階での習得レベルが異なるA(上段)・B(下段)両群の保持段階と適応制御段階

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