系列パターンの追従課題における習得レベルの差が
適応制御段階に及ぼす効果に関する研究

(2005年9月10日、日本スポーツ心理学会第32回大会研究発表、早稲田大学)


keyword:フィードバック制御段階,保持段階,適応制御段階,適応レベル

はじめに

 これまでの学習過程の実験パラダイムは、習得・保持・転移の3つの段階の手続きを含む実験が行われてきている。その学習実験パラダイムとは、習得段階で被験者に学習を施し、その後数分間から数日間の保持時間を置き、保持時間で習得内容の再生により保持レベルの確認を行い、転移段階でパラメータの異なる課題を課して学習過程を見るというものである。適応過程の実験では、その多くがフィードバック(以下FB)制御・適応制御の2つの段階の手続きを含めて行われており、適応制御段階は構造パラメータを変化させた課題が設定されている。これを学習過程の実験パラダイムで考えると、FB制御段階は習得段階、適応制御段階は転移段階に対応させることができ、習得・保持・転移の3つの段階の手続きによる実験モデルを構築することができる。
 前回、FB制御段階・保持段階・適応制御段階の3つの段階の手続きで実験を行ったが、保持段階が適応レベルに重要な影響を及ぼしていたことが示唆され、適応制御段階における適応レベルはFB制御段階での学習効果を確実に反映していないと思われた。そこで本研究では、保持段階のない、FB制御段階と適応制御段階の2つの段階の手続きで実験を行い、実験条件を比較検討することで、習得レベルの違いによる適応制御段階への影響と適応レベルを明らかにすることを目的とした。

方 法

 系列パターン追従課題であるFB制御段階で系列パターンを3回完全に見越し反応で追従する「A-1」群と、同様の課題を3回連続で完全に見越し反応で追従する「A-3」群に大学生男子各10名ずつを割り当てた。実験はすべて系列パターン追従課題で行った。実験装置は被験者の前方70cmの位置に”用意”の合図となる刺激ボックス(PEEP音)と6つの発光ダイオードの刺激呈示ボックスが5cm間隔で設置された。6連の刺激呈示系列位置を便宜上左から1-2-3-4-5-6とした。また、これらの刺激呈示ボックスに対応して、被験者の手元には6つの反応器が5cm間隔で設置された。まずA-1群の被験者は、FB制御段階で系列位置が2-5-1-3-6-4の系列パターンを1系列1試行として、1回完全に見越し反応で達成するまで追従した。この習得基準達成後即時に、構造パラメータとしての系列位置が変化した5-2-1-3-6-4の系列パターン(「2-5-」が「5-2-」に変化)が呈示される適応制御段階へ移行し、見越し反応での追従を目標に10試行を追従した。A-3群はFB制御段階での習得基準が3回連続して完全に見越し反応で追従することとし、それ以外はA-1群と同じ手続きであった。
 刺激点灯時間は100ms。刺激呈示間隔時間は500ms。4つの反応測度は、無反応・誤反応・正反応・見越し反応のパーセントを検討した。

結 果

 A-1群・A-3群がFB制御段階・適応制御の各段階で示した4つのパフォーマンス測度の比率を各系列位置に対して整理したものが図1である。各段階間と段階内のパフォーマンスの変化を検討するために、FB制御段階の最初の1〜5試行、6〜10試行と最後の5試行、適応制御段階の前半にあたる1〜5試行と後半にあたる6〜10試行の結果が示してある。
 主要な結果は次の通りである。
 (1) FB制御段階の1〜5試行においては誤反応の発生がA-1群よりA-3群のほうが有意に少なかったが(F(1,18)=4.61, p<.05)、見越し反応・正反応の発生はともに差がないことが示された。
 (2) FB制御段階の6〜10試行においても誤反応の発生がA-1群よりA-3群のほうが有意に少なかった(F(1,18)=13.39, p<.01)。また、A-1群ではFB制御段階の1〜5試行から6〜10試行にかけて変化が見られなかったが、A-3群では見越し反応の発生が有意に増加し(F(1,9)=7.05, p<.05)、誤反応の発生が有意に減少していた(F(1,9)=7.17, p<.05)。
 (3) FB制御段階の最後の5試行は、両者の習得レベルに差をつけた結果であり、A-3群のほうがエラーの発生が少なく優れたパフォーマンスを示した。
 (4) 適応制御段階の1〜5試行において、構造パラメータの変化として系列位置が一部変化した影響でA-1群・A-3群ともエラーの発生が増えているが、習得レベルが高いA-3群のほうが誤反応の発生が有意に低く(F(1,18)=11.94, p<.01)、6〜10試行においても同様であった(F(1,18)=11.94, p<.01)。
 (5) 両群内において適応制御段階内での反応測度の比率の変化において差が見られた。A-1群では適応制御段階の1〜5試行から6〜10試行にかけて正反応の発生が有意に増加し(F(1,9)=7.43, p<.05)、無反応の発生が有意に減少していた(F(1,9)=14.63, p<.01)。A-3群では見越し反応の発生に増加傾向が見られ(F(1,9)=5.03, .05<p<.10)、無反応の発生が有意に減少していた(F(1,9)=5.66,p<.05)。
 (6) A-1群・A-3群それぞれの群内において、FB制御段階1〜5試行および6〜10試行の間で各反応測度を比較した結果、差は見られなかった。

考 察

 実験では群間でFB制御段階の10試行までの間に誤反応の発生において差が出てしまい、これは個人差によるものであると思われるが、群内の被験者間の習得レベルはFB制御段階終了後の時点でそろえられている。
 FB制御段階で両群との間に習得レベルの差をつけたにもかかわらず、両群ともFB制御段階に比べ優れたパフォーマンスを示さなかった点が興味深い。これは保持段階を設定した前回の実験結果とは異なるものである。保持段階のない今回の実験では、結果(5)はFB制御段階における習得レベルに対応した純粋な適応レベルであると考えることができるのではないだろうか。

図1 A-1群・A-3群の各刺激段階における系列位置に対する4つの反応測度の比率

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