長江の男

サカタルージの「長江の男」
第一話『壮大?なプロジェクト』

 もう、コレはかなり前のハナシになります。
高校3年生になったボクは、クラスの皆と同じく大学進学の為に受験勉強をしなければならなかった。友達のほとんどが「試験に出る英単語」とかなんとかいう参考書を持って来ていた。そして休憩時間にはその問題を友達同士で出し合いながら和気あいあいとしていたもんだから、ボクもいささか焦ってしまった。「ヤバい!置いてけボリだ!そいつを買って勉強しなきゃイカン!」と、日曜日に母親から貰った図書券を持って本屋に行ってみた。いままで「ドラえもん」以外の本なんて買ったコトはなかったボクであったが、いざ参考書コーナーに足を踏み入れると、一気に受験生気取り。「ナニナニィ?こんな参考書があるのかぁ!」「うん、コレはなかなかいい本だゾ!」なんてそれっぽく物色していたが、ハッキリ言ってワケがわからない!そしてふと、参考書コーナーの隣にあった本を手に取ってみた。「ぬぉっ!!」そしてボクは参考書よりもっとオモシロい本を見つけ、それを買って帰って来た。
植村直己の「青春を山に賭けて」であった。

 そして卒業−上京。壮大なプロジェクトの為、東京のスポーツ用品店で働くようになったボクはいつもワクワクしていた。プロジェクトに必要な道具を揃え、そのための資金を稼ぐにはココは最高の職場であった。ココで働いていた1年間は、週1日の休みのほとんどをその為の準備、トレーニングに費やし、その他の遊びはいっさいやらないという、一般的には「最高に社交性のない男」のボクであったが、「最高に楽しい準備期間」であった。

   そして全ての用意が整った。パスポート、容量100リットルの完全防水ダッフルバッグ、テント、フルオーダーのウエットスーツ、足ヒレ、ライフジャケット、携帯ストーブ、ナイフ、ザイル、浄水器などなど。  ボクがいう壮大なプロジェクトとは、
『長江の男計画』。
中国最長の河、長江(揚子江)の上流である重慶から河口の上海までの2000キロを泳いで下ろうというモノであった。あの「本」を読んでから「今しかできないコトをしたい!とにかく早く海外に出ていろんなモノを見てみたい!」と考え、一番興味のある国、『中国!』と漠然に思うようになった。ただ、行くだけではつまらないから、なにかやってみたいなぁ!と、始めはイカダでも作って下ろうか?なんて考えていたが、イカダを作るための材料の調達や都市部に入ってからのイカダを繋いで買物などにいった時のことなどを考えると、結構面倒だなぁ!と思い、「それなら泳げばいいじゃん!」と、いうことでこの計画は決定したのだ。

 そしてボクは『長江の男』になるべく、長江の上流、四川省重慶市長寿村に来ていた。  ここで2日間ほど準備を整えていざ、出発!という計画であったのだが、結局1週間も長寿村で過ごすことになってしまった。これには列車でこの村に向かう途中知り合った長寿村の医師、劉先生一家や、この村の人の大歓迎があったという理由と、もうひとつ大きな理由があったのだ。(続く)




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