サカタルージの「長江の男」
最終話『断念する男』

久々にすごく良い天気だ!体の調子もバッチリである。
朝9時半に望江旅館のみなさんに挨拶をし、清溪鎮の村を出発。
とりあえず川岸を歩き、 手を振る村の人たちが見えなくなったところで
ウエットスーツに着替え、長江の中に入った。
天気も良く、河の流れもおだやか。かなり調子よく進んだ。
今日はなぜか行き交う船もまばら。広くなった河幅のお陰で見通しも良く、
スピードが上がる河の中央を進んでも心配ない。
最高に優雅なクルージングを楽しむボク。
2時間程元気に進んだところに大きな中洲があった。
「よし、ここでお昼にしよう!」
中洲に上陸する前、いつものように小さな漁船がボクを救助しに来てくれたが、
「ボクはこの河を観光しながら下っております!」と丁寧に断った。
清溪鎮で毎日近所の人たちと話をしていたから、そのくらいは問題なく話せるようになっていた。

荷物を下ろし、バッグの中から村で買っておいたパンを取り出す。中洲には拳大の丸い石がゴロゴロと転がっていて、腰を下ろすと熱くなった石が心地良く体を暖めてくれた。
あまりにも気持ち良く、ついついお昼の後の昼寝までしてしまう。
顔が焼けるように熱くて目が覚めた。1時間位休んだだろうか?、そろそろ出発しよう。
それにしても暑い!周りの石も焼けるように熱くなっている。
荷物をまとめて防水バッグに入れ、閉めると完全に防水になってしまうというスバラしいジッパーを下げた。

『バリッ!!!』  「?? ぬぉ ???」
プラスチックとゴムでできたスバラしいジッパーはこの暑さで溶けてしまっていたらしい。
接合部分のゴムも完全にバッグから取れてしまった。
『バッグを壊した』

『バッグが浮かない』

『前に進めない』

『長江の男計画終了』
あっけない最後であった。

バッグを見下ろし呆然としているボクのそばをさっきの漁船がまた通りかかった。
「観光は終了したから船に乗せてください!!!」

下流の村まで連れていってもらったその後のボクは、大きな観光船に乗り換え、
武漢まで本当のクルージングを楽しんだ。
って言っても、かなりヘコんでいる。
結局60キロ〜70キロしか泳いだことにならない長江の男。
船のデッキから河をずっと眺めていた。
泳いでる時よりも高い目線だからなのか、デッキから河を見ると
ところどころあの渦巻きが大きな口を開けているのがよく分かった。
しかも流れがキツくなった途中の川岸には何艘もの船の残骸らしき物体がゴロゴロとしている。
やっぱりあそこでやめておいたのは正解だったのカナ?
少し恐くなったついでにチビりそうになりトイレへ。
??ん??
トイレといっても便器の穴からは長江の河が丸見えであった。
やっぱやめておいてよかった!

そういうワケで今回の「長江の男計画」は見事に失敗に終わった。
河の上流の空は夕焼けできれいな朱色に染まってきていた。
(「長江の男」おわり)




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