サカタルージの「長江の男」
第八話『竹槍の老婆』
朝、どうしようもなく苦しい吐き気で目が覚めた。
やられた!昨日の肉だ!
ベッドから起きあがろうとするだけで吐きそうになるし、頭はガンガンするし、、、
やっとのことでブタ小屋の中、柵でブタさん達と仕切られている便所に辿り着く。
やっぱり下痢の王様だ。
柵から鼻を出しこちらに愛情表現をするブタさん達に見つめられながら、その彼らの肉で目に泪しながら下痢をしているボク。
最高にせつない光景ではないか!
しかし、この事実をこの家の住人に言う訳にはいかない!
言ってしまったら親切な彼らは
「体調回復するまで何日でもいなさい!そんなに調子が悪いんじゃ、もっと栄養のつくものを!」と言ってくれるに違いない!
そんなことになったらボクはもう日本には戻れないと確信し、この家を出ることにした。
虚ろな笑顔でお世話になった彼らに別れを告げ、重い荷物を担いで出発したボク。
このまま河に向かって歩きたかったが、それはできない。
とりあえず川岸の山道を一段上の道路目指して歩こう。
家の前で見送っている彼らの視界の届かないところまではなんとしても元気そうに歩かなくては!
しかし、まったく力が出ない。
100メートルも歩かないうちに力尽きた!
結局、心配して駆け付けてくれた漁師に荷物をお願いして黄土色の砂埃が舞う道路?に到着。
ここからは荷物をコロコロ付きのキャリアーに乗せて引いていくから、なんとか前進できるだろう。
ふらふらと歩き出すボク。こういう日に限ってモノ凄く天気が良い。
この地域は「火鍋」と言われる程暑いらしく、直射日光の下、
目を白黒させながら日陰を探し進むこと30分。
民家の前に気持ちのよさそうな日陰を発見。
その日陰に入って休もうと歩くスピードを上げてみる。
目の前の景色がぼんやりと気持ちよく動いてきた。
力が抜けた。
顔がどうしようもなく熱くて目を覚ました。
どうやら日陰に入る前に倒れて1時間程気を失っていたらしい。
垣根の日陰に這うようにして入り込み、一息つくボク。
「おやっ?」
垣根の向こうからじっとボクを見つめている物体を発見。
この家のおバァちゃんがボクを睨んでいた。その目には明らかに敵意が感じられた。
しかもその手には竹ザオらしき物を握っているではないか!
その竹ザオの先端の微妙な尖り具合もいささか気になる。
しかし悪いことをしたわけではないから竹でつつかれることはないだろう。
おバァちゃんにできるだけの笑顔でお決まりの自己紹介とついでに水をください!と言ってみた。
それを聞いたおバァちゃん、30秒程ボクを睨み続けた後、スルスルっと家の中に入っていって、
魔法瓶を抱いて戻ってきた。
こちらでは冷たい水を飲むという習慣はないらしい、しかも冷蔵庫なんてないのだ。
食堂でビールを頼んでも生ぬるいものを出してくれる。
熱い湯でもとりあえず咽が乾いていたからゴクゴクと飲めた。
水筒にもそのお湯をいただいてこの場を離れることにした。
しばらく休憩したから、だいぶ楽になってきたらしい。
しかしこのままこの未舗装道路を進む元気は残っていない。
転がるように長江の川岸に下りていき、テントを張ってすぐ眠ってしまった。
(続く)

第九話
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