サカタルージの「マレー半島の男」
第五話『高級ホテルの男』

  12月29日
今日は39kmだけの移動で楽勝だったし、いいコトばっかりであった。
お昼を食べた食堂のオジさんが、「やぁ、がんばってるねぇ!」って歩きながら飲むようにと店先のヤシの木から実を採ってきてくれて、
キレイに皮を剥き、ストローをさして持たせてくれた。
ストローを吸いながら5歩くらい歩いたボクは、見送るおじさんをおもむろに振り向き、
空に向い、声高らかに「アロイナァ〜(オイスィ〜)!」と叫んだ!
おじさんは笑いながら出したグーの親指を立てていた。
夕方近くなり、そろそろ本日の目的地のチャーアムってところまでやってくると、
道端にズラッと20店くらい並んだ露天でスイカが売られていた。
店のオバさん達は口を揃えて「ねぇ、こっちに来て買っていって!」などと声をかけてくる。
「ハッキリいって無理でしょう!スイカってデカいよ。」
こんなところで油を売っているヒマはない。脇目もふらず歩き続ける。

「ねぇ!」

その声に振り返ってしまった!今迄のオバさん達とはジェネレーションが違う声。
振り返るとカワイらしい女性が水の入ったアルミのコップを差出しながら店の外に出てきた。
「スイカを買わなくていいから水飲んでいって!」って。
「コレは油を売らねば!」

咽も乾いていたが、それより心が乾いていたのか?
気が着いたらその店の中で水をお代りしていた。

そうとうイイ飲みっぷりにビックリしたのか、
「ナック」というそのカワイい女性は「お金はいらないよ!」って、
店で売っているスイカやマンゴー、飴などを次から次へとボクにくれた。
とりあえずは遠慮しながらも、やっぱりスゴくお腹が減っていたからバカみたいにバクバク食べてしまった。
「コォップン マーッ!(どうもアリガトォ!)」ってその店を後にしたのだが、ハッキリいってずっといたいくらいだった。
これ以上ココにいたら「ナック目当てのジャップ」ってのがミエミエだ! 一時間が限界だった。
歩き出したボク。「それにしてもタイって気持ちのイイ国だなぁ!」
そこから2〜3kmで、本日の目的地「チャーアム」に到着。
ビーチリゾートのこの町は昨日迄の宿とは違って、ゲストハウスなる安宿がないのだ。
しかも年末で安そうなホテルは全て埋まっている。
宿が決まらないまま仕方なくとりあえず腹ごしらえ。
食べながらそこの食堂のボクと同い年の男とバカ話をしていると、その男の友達という男がやってきた。
「なに?キミは今日泊まる所がない?ハハハ!それならウチに泊めてあげるよ!」

「なんとラッキーな男なんだ!俺は!」
その男と食堂を出て、裏にあるという彼の家へ向った。
裏っていっても裏にあるのはあまりにも高級過ぎて泊れそうもないとはじめから諦めていた、真っ白なホテルだけだ。





彼は、この辺ではかなりデカいホテルの息子であった。

タイに来て初めて暖かいシャワーで汗を流し、これまた初めてのエアコン付きの部屋に
とまどいながらもベッドでこの幸運をかみしめていると、
彼(=オーナーの息子)がやってきた。
「ねぇ、今晩、ディスコに友達連れて行くけど、もちろん行くよなぁ?」

「ここんところ結構歩き続けて脚が痛いボクは歩くのも困難なくらいで、〜〜〜」
と最初は丁寧に断ったが、あまりにも執拗に誘ってくれる彼に結局イヤと言えず行くハメに。
(あぁあ、行きたくないなぁ)

しかし、イヤイヤ付いて行くことになったディスコで、あんなスバラしい出会いが待っていようとは、、、。
知る由も無いボクであった。


本日の行程
ペチャブリ〜チャーアム 距離39km
行程時間:7時間
バンコクからの総歩行距離:168km
マーライオンまであと:約1803km

(続く)


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