| in MY LIFE |
act2:星のありか
「どういった心境?」 夕食に招待され、料理の腕は新一以上だろう服部の料理を堪能し、哀は新一にコッソリと耳打ちをする。新一に過保護な服部と快斗は、今はキッチンで後片付けをしている。 つくづく新一は甘やかされているものだと、哀は過保護な二人に呆れて見せた。 だから今、リビングには、哀と新一しかいなかった。 「何だよ?」 「写真撮るなんて」 「変か?」 リビングのソファーに腰掛け、観るともなく付けっ放しにされているテレビから、タイトルも判らないドラマの歌が流れている。 新一は、数日前に発行された推理小説を片手に、突然問われた台詞に、哀を間視する。 「以前の貴方、歩美達にせがまれて写真に収まってたけど、今積極的に撮る必要、ないんじゃない?形に残すの、賛成しないわ」 組織は解体し、確かに以前のように、付けねらわれる心配はなくなったのかもしれない。けれど組織が壊滅した時、組織に関する情報は、予想通り、何もかも闇に葬りさられていたから、末端組織の事などは何一つの情報はなかった。だから組織の解体自体の真偽は、不鮮明なものでしかない。だからこそ新一は、何食わぬ顔をして大学進学は果たしたものの、出席日数は極端に低い。その意味を、此処に在る面子で、気付かない人間は存在しない。気付けないようなら、新一の傍らになど、存在できない。 「俺さ、あいつになにも残してやってねぇんだよ」 「……貴方…バカな事、考えてないでしょうね?」 逃げるなと、真摯な力感で告げたのは、新一の方の筈だ。 「一つくらい、形残してやらねぇとさ、辛いばっかじゃねぇ?」 泣くでもなく、ただ静邃な眼差しばかりで哀を凝視すれば、哀の方が不意に泣き出しそうに、顔を歪めた。 「彼に聴かれたら、ひっぱたかれるわよ」 優しい西都の名探偵と、稀代の怪盗の二人が、掛け値なく、この稀代の名探偵を大切にしている事を知っているから、新一の台詞に、哀は胸が押し潰されそうになる。 「約束、してるんでしょ?」 どうか喪失えてしまわないで…。 祈りさえ孕んで告げられている言葉を、哀は知っている。それは哀自身の祈りで願いでもあるからだ。 「貴方も、救いようないバカね…。鏡見てみたら?」 哀の台詞に、新一は言外の意味を咄嗟に理解し、自嘲とも苦笑とも付かぬ笑みを見せる。『ひっぱたかられそうな表情をしている』 それが新一の切なさばかりを映すものだと知っているから、哀は堪らなくなる。 「ひどい人ネ……」 新一に聞こえないような細い声が、零れ落ちる。 大切にしている人達を残して、大切にされている人達を残して、喪失えてしまうつもりなのだろうか?この稀代の名探偵は? 「そんなつもり、欠片もねぇよ」 哀の内心を正確によんだかのように、新一はまっすぐな眼差しで、哀を視ている。 「お前ぇらさ、勘違いしてるんだよ。俺は、いつだって完璧なんかじゃねぇし、完全なんて望んじゃいないし、悟ってもいねぇ」 だからそんなに不安にならないでほしいと、新一は思う。 優しい彼等は、自分を大切にする事で、傷付いていく。それが新一には辛かった。気遣われる心地好さとは相反し、胸が傷むのも事実だった。 そうして、彼等は、新一のそんな疵を、知らない筈はなく、だからますます大切にして行く。優しくなって行く。それは悪循環などではなく、たたそういう事なのだ。彼等の感情の中で。 新一はソファーから立ち上がると、リビングの窓を開いて佇んだ。 「風邪、引くわよ。閉めなさい」 途端、年上の口調で哀が言うのに、新一は背後を振り返り、可笑しそうに笑う。 「寒いんだけどさ、俺冬って好きなんだぜ?」 「聴いたわ。『倖せ色』、貴方の口から、そんな言葉が聴けるなんて、思ってもみなかったわ」 「お前達、そこらへんも、絶対ぇ勘違いしてるぞ。俺はなぁ、確かに現国は苦手だけどな、別に国語自体が苦手なんじゃねぇんだ」 「そう?」 そうかしら、哀はクスリと淡い笑みを漏らす。 「冬の早朝に、自分探しの旅に出たとも、聴いたわね」 「…だからって、今一人旅出るなんて、言ってねぇからな」 「コラ工藤、窓閉め」 「風邪引くよ、名探偵」 キッチンで片付けを終えた快斗と服部が、リビングに入ってくる。 「いい匂いだな、珈琲か」 流石に昼間ココアを二杯も飲んだら、夜までココアと言う事はないだろう。 「名探偵さ、寒いよ。何見てるの」 未だ窓を閉めない新一の両隣に、快斗と服部が立ち並んだ。 「ん〜〜雨も上がって、星綺麗だなって」 昼間音もなく連なる銀の糸のように降っていた雨は夕方には上がり、今は晴れた夜空が、綺麗に天を覆っている。蒼い闇の中、白い輝きがチラチラと映る。 遠い場所で輝く星く星。 「アノ星も、確かに生きている星だね」 地上の星のように、輝く生命の貴いさも、醜悪さも、感じられない綺麗な星。 けれど、確かにその輝きは、遥かな時間の向こうから、届けられてくる光だ。 「私は、アノ星の方が、好きよ」 好きと、哀は天の星を眺める。 「触れる事もできないから、眺めるだけなら、綺麗だわ」 まっすぐ伸びる視線。綺麗に天の星を映すソレ。 「遠くのものは、眺めていれば、綺麗なだけで済むネ」 名探偵の台詞だね、快斗は笑う。 「……嫌な人ね」 「哀ちゃんこそね。素直じゃない処が可愛い」 莞爾と笑う快斗を見れば、服部同様の詐欺師だと、半瞬思ってしまう哀だった。 「遠くで綺麗なものだけ眺めていれば、そりゃ傷付かんでいいかもしれへんけどな」 「貴方達、星視ながら、別の事考えて発言するの、やめた方がいいわよ。変な人達だわ」 『星』と、自分が例えられている事など、きっと新一には理解されていないだろう。 そうしてきっと理解されないからこそ、彼等は軽口を叩いているのかもしれない。 とことん優しい人間達だと、哀は思う。 「なぁ工藤、この前言ってたやろ?」 「ん?」 服部の指先が、ソッと新一の手に触れる。その突然の温もりに隣を見れば、近頃めっきりシャープな陰影を深めてしまった横顔は、天を見上げている。 「人は誰だって自分の途を歩いている。でも支えあう事は可能やって」 誰もが同じ途は歩けない人の生。けれど偶然の出会いで惹かれあい、支え補い、共に歩く事は可能な事だと。 「思い出してん」 幼い子供の頃。夏の記憶。途を迷い、彷徨う旅に出た。その中で出会った人々。 優しい記憶は、今でも心の何処かで息衝いている。 見上げた夕空も、夏の夜空も、清涼な朝も。 「人生は、自分の為のものやと思う?」 「服部?」 「まったく、服部だねぇ」 悪友の台詞の言外の意味を間違える事なく読み取ったのだろう快斗は、肩を竦めて笑う。まっすぐ向けられる眼差し。たった一人の星に、注がれる掛け値ない想いの深さ。 服部を怖いと想いのは、こんな時だ。 誤魔化す言葉を持たない。幾らでも誤魔化してきた事は、新一が服部をナンパの詐欺師で悪党と悪態を付く事からも容易に判る。 誤魔化す言葉の真偽。必要ならば、口から軽口で誤魔化す言葉は平気で吐く人間だと、快斗は知っている。明るい笑顔に誤魔化されがちな服部の印象は、けれど知ればやはり深淵を覗いている人間なのだと、理解したのは早かった。 彼が愛してくれて、よかったと思う。傲慢だとしても。稀代の名探偵を、誰より大切にしてくれて。可笑しいけれど、そう思う。 きっと自分と服部の大切は、色も形も違うけれど、惹かれたナニかは同じ気がした。 「人はね、出会った人達の一部、でもあるんだよ」 判る?快斗が、瀟洒な指先を掬いあげ、接吻る。 「だからね、名探偵が俺達を大切にしてくれるように、俺達は名探偵が大切」 それは忘れないでねと、快斗が切なげに微笑んだ。 「工藤の事、凄い思うわ。俺はこないに優しい感情、知らんかったんよ。工藤に会うまで」 「こうして在てくれるだけで、優しくなる感情を、名探偵はくれるから」 「工藤は、ちゃんとその意味、判ってる。それが怖いし、凄い思うわ」 「お前ら…判るように、話せよ…」 言葉の深い意味まで判らない。語る言葉の想いの深さは判らない。けれど、伝わってくる切なさは、胸が痛む程だ。 伝わってくる温もり。言葉ではなく身の裡に届く、切なく優しい、肌身を包むかのような想いの深さ。 新一は、無自覚に両隣から握られる指先に力を込める。込めると、緩やかに、ソレを引き寄せる。引き寄せ、吐息が触れる間近で、緩やかに握り締める。 「工藤みたいに、誰かを優しくできる存在になりたい思うんや」 きっと自分には出来ない。だからこそ、新一の優しさと、救う強さを切なく思う。 ダレにでも優しくしたいとは思うけれど、新一のように、ダレにでも優しくはできない。感じるダレかの痛みに、自分を投げ出す事は出来ない。だからこそ、新一は稀代なのだろうと服部は思う。 湛えられるソレは外見的な判断で、けれど服部や快斗が新一を稀代と言うのとは、世間のそうした情報の一部として埋没する名探偵としての姿ではなかった。 自分はもう、殺意と言う存在を知っている。人の身の裡に潜む闇を。深淵を見詰め続け、染まる事のない新一の方が、だから稀代なのだろう。それが強さと脆さの紙一重に感じられて、だから服部は慄然とした足下の竦む恫喝をも味わって、手放す事が出来ないのだ。きっと新一は知らないのかもしれないと思う。そうして相反し、知らずに済んでほしいとも願う。矛盾している事を、服部は正確に理解している。それは快斗も例外ではなく。 「こうして在てくれるだけで、その優しさを誰かに別けてあげたくなるようなね」 稀代の名探偵に出会うまで、きっと癒される事などなかったナニか。それは無自覚で、痛みも疵も感じなかった筈なのに、知ればこうして優しさを与えられる。 無遠慮な称賛や信頼に囚われ枷を付けられている新一を、癒したかった筈なのに、触れれば優しさばかりを与えられる。 緩やかに触れる温もり。外気に触れる口唇は冷たい筈なのに、触れれば違いに抜く練りを分け与える事が出来る。こんな簡単な事を、人は忘れてしまう。 「バカだ…お前ぇら…」 「口癖やな、此処最近の」 「まぁ名探偵のお気に入りの台詞、かな?」 「バーロー」 そう言うと、新一は握った両手をグイッと引き寄せる。 「お前ぇら在たからだ」 「何?」 「お前ぇら在たから、俺は今此処に在る。会えたから、お前ぇらだって、こうしてココに、在るんだろ?」 運命なんて言葉は幾らでも単純で、だから必然でもない偶然の出会いは奇跡なのだと新一は笑う。幾重も在る人の中の出会いは一瞬で、触れ合う心はだから奇跡なのだとは、新一の台詞だ。 「俺にとっては、お前ぇらは、大切な一部だ」 感謝しているその存在に。自分を此処に立たせている優しい彼等。竦む心も、痛む心も、癒してくれる優しい人達。 自分は狡いだけで、優しくなどないのだと新一は思う。 傷つけると判っていて、掴んだ両手を離せない。こうして引き寄せる事はあったとしても。 何に感謝をすればいいのだろう?出会えた奇跡に。在もしない、信じてもいない、その存在に、フト祈ってしまう。 倖せであるように。優しい彼等が。 後どれ程、こうして在られるのだろうか?考えれば、慄然と身が竦む。けれど、逃げ出す事はできはしないのだ。運命ではなく、自分を大切にしてくれる彼等の為に。自分の為に。 最期まで、誇れる存在で在りたいと……。優しい彼等らに対して。 それが自分に出来る唯一。それが新一の真摯な想いだった。 『サンキュー』 口に出す事は何故だか躊躇われて、新一は心の中で呟いた。その想いを語るように、握り締めた瀟洒な指先に力が返される。 伝わっているのだろうと、それぞれが想う。本当に大切なナニかは、きっと言葉ではなく、こうして優しく伝わっていくのかもしれない。胸を切なく痛め付ける程。 にぎり返したその手は 僕の心のやわらかい場所を 今でもしめつける 悲しみっていつかは 消えてしまうものなのかな? アノ頃の未来に ぼくらは立っているのかな? 雲のない星空が マドの向こうに続いている 覚えていたい。たとえどれだけ胸が痛んでも。その悲しみを。 与えてくれるその想いを。それは偽りではく、確かに彼の真実だから。 痛みも苦しみも悲しみも、優しさや喜び同様に覚えていたい。悟ったりせず、迷って足掻いて、彼等の与えてくれる全てのものを。 たとえその果てに、未来は見えないとしても。見据えていたい。父と母の与えてくれた名に恥じぬように。優しい空間を与えてくれる彼等に恥じぬよう。 そんな彼等を凝視し、哀は不思議なものだと思わずにはいられない。 工藤新一は確かに江戸川コナンで、そうしてコナンを知る人間にとっては、確かにアノ幼い子供は、一部なのだろう。そんな簡単な真実を、見失っていた気がする。 可哀相など、新一は欠片も思ってはいなかったのかもしれない。 確かに躯が還り、弊害が出て、何もかもが偽りの中での出来事だった。けれど、新一はきっと判っていたのかもしれない。誰かの背に真実を語り、自らは偽りの仮初を曝していたとしても。 彼はもうとっくに、乗り越えている。いるからこそ、関わった人々を、極当然のように、優しくできるのだろう。過去をゼロに戻す事もなく。 憐憫も哀れみも超えた場所に、きっと江戸川コナンとしての工藤新一は佇んでいたのだろう。前に進む事を躊躇と自分とは比べようもなく。 拘っているのは、寧ろ自分の方だと哀は思う。服部が新一に向ける感情などその典型なのかもしれない。 いつ彼は成長したのだろうか?当初は新一の仮初の姿を、それは嘆いていた筈なのに。西都の名探偵は、いつしか愛する人を取り巻く環境を大切にできる人間になっていた。その強さは何処からくるのだろうと思えば、それが新一に対する掛け値ない愛情なのだと判る。 工藤新一が江戸川コナンであった。それは服部の裡では極単純な事実でしかなく、狭くされる事のない視野で、彼はきっと新一に関わる全てを愛しているのだろう。 適わない。そう思える。 歪めさせてしまった新一の運命を、けれどこうして大切にしてくれる存在達。それは哀をも癒している事を、きっと快斗も服部も知らないのだろう。 「貴方達、いい加減にしなさい。工藤君、風邪を引かせるつもり?」 ソファーに腰かけ、夜空を見上げている彼等の背を見ていた哀は、いつまでも窓を閉める気配を見せない彼等に声を掛ける。 「珈琲が冷めてしまうわ」 そう言うと、自分専用のカップに口を付ける。服部愛用のモカの仄かな香りが心地好く心根の奥に纏い付く気分だった。 「夜道に星が落ちていたら、貴方達ならどうする?」 フト意味深に、哀が珈琲に口をつけながら、口を開いた。 「哀ちゃんってさぁ」 「人悪いわ」 快斗と服部が哀を凝視する中、新一だけがキョトンと不思議そうな顔をしている。 「隕石かよ」 「ちゃうよ」 新一の現実的な台詞に、服部は肩を竦めて苦笑する。服部の苦笑に、益々新一は判らねぇよと憮然となる。 「じゃぁなんだよ」 時々に、三人の会話は新一には掴み所のない言葉に思えると気がある。それが悔しい。 「その台詞のまま、空に輝く星よ」 まぁ国語に苦手な貴方には、判らないでしょうけど、哀は薄く笑う。 「空から落ちてきたなら空に帰すネ。在るべき場所に。じゃないと、輝く事は不可能でしょ?」 フローリングの床にクッションを引き座っている快斗は、哀の台詞に意味深に応えて見せた。 「在るべき場所ね」 「せや、在るべき場所に」 哀の相槌に、奇妙に真摯な眼差しと表情をした服部が軽く頷いた。 「だからまぁ俺は苦労しとるんやないか」 「好きで買って出てる苦労だからね、服部のは」 「言うやないか?お前かて同じや黒羽。今度俺の在ん時に、工藤深夜の散歩になんて誘ってみぃ、マジで闇鍋したるからな。魚タップリ入れて」 「だから言ってるでしょ?美味しいデザート作った時、お呼ばれするって」 「だったら今夜はなんねん」 「だって、名探偵のご招待だったから」 シレッと言う快斗に、やっぱ今度マジに闇鍋やと、服部は渋面する。 「これから益々星が冴えわたっても、貴方達、見続けていける?」 その輝きは、きっと隠しきれなくなる。ダレからも、ナニからも。そうしてその人は、傷付いていく。相変わらずの優しい笑みを湛えたまま。それでも絶望しても、工藤新一に対して、崩れないでいられるのか? それが哀の願いで祈りである事を、服部も快斗も正確に理解している。 「地上に在る星ならネ。触れる事も、時には助ける事もできるでしょ?喪失ったら、二度とは戻せないんだから。そんな後悔は、絶対したくないの」 軽口に紛らせるる快斗の真摯な言葉。眼差しは、怖い程の怜悧さを放ち、哀を凝視している。 「……お前ぇらさ…日本語不自由なんじゃねぇ?」 「工藤に言われたないわ」 此処まで言われて自覚がないのも問題だと隣を間視すれば、深い眼差しは、言葉を綺麗に裏切っていて、息を飲む。 「星なんて、きっと誰でも持ってるもんなんじゃねぇ」 「ダレでも?」 「ソレッて、夢や希望や、そう言う手が届きそうで届かない。でも、掴める可能性は自分次第って、事じゃねぇ?」 「貴方って、案外性善説なのね、以外だわ」 「俺はどっちかって言うと、性悪説だぜ」 「人の性は悪なり、善なるものは偽なり、荀子二十巻三十二篇」 「それこそ工藤らしいんやないか?」 星を秘めているからこそ生きていると感じられる。天の星より、輝いて見えた地上の星座。生きていると感じられるから、人工的な光彩に輝きが生まれる。 コナンだった当時から、新一は夜景が特に好きだった事を服部は知っているし、快斗が聴いた台詞も、以前服部が聴いた台詞と変わらぬままだ。 探偵をしていて人の深淵など嫌になる程見詰め続け、それでも、そう告げる事のできる新一は、だから稀代なのだろう。そうしてそんな簡単な事実に気付いている人間は、極少数で。 「星なんて、一つだけ知ってれば十分や」 「これ以上ない程の一等星」 星の在処を知っている自分達は、きっと幸運なのだ。他のダレよりも。 痛々しい程透明な凛冽さを秘めていても。見ている事しかできないもどかしさを感じても。 共に在る事ができる。それだけで、幸運に感謝する。 「貴方達、やっぱり夢みすぎだわ」 「お前ぇら、明日眼科入って来い」 「俺視力2.0以上」 「俺もやで」 「こんな時ばっか、お前ぇら息あわせるんじゃねぇ」 息を会わせてハモる二人に、新一は嫌そうに攅眉する。攅眉し、珈琲を流し込む。 「星を求めて、星の導くところに途がある」 「まぁ、やる事やれっつう事やな」 「違うぜ」 「なんや?」 「やる事じゃなくって、やれる事」 だから、自分にできる事をしているだけなのだと、新一は笑う。 自分は自分の為に、できる事、やれる事をしているだけ。 「星の光を見失わなかったら、大丈夫よ」 貴方達なら。星の在処も輝きも。その身の裡に秘める痛みも疵も知る貴方達なら。 『私も、きっと星を拾ったのね。哀しい程綺麗な星』 「お前ぇら全員、眼科行って来い」 その想いが切なく痛いから……。 新一にとっては、彼等の方が星だと思う。柔らかい光で包んでくれる地上の星。 星の在処は、それぞれの身の裡に。その輝きも共に。 強く輝く光の軌道 けれど 示された途を識る者は少なく 辿る者はさらに少ない |