『お前、工藤やろ?』 疑問符を付けながら問われた声。相反し、見下ろしてきた貌には疑問など欠片もなく、鋭い眼差しは、逡巡のない断定を突き付けてきた。 見下ろしてきた鋭い貌。それはすぐに目線の高さまで降りてきて、飄々とした笑い顔に変った。笑っているけれど、眼は笑っていないような、薄布一枚向こうに垣間見る笑顔のように。 『言葉使いは妙やったけど、あの口調と論理の組み立ては工藤新一!間違いあらへん』 大凡、初めて聴く関西弁独特のイントネーションで、断定された言葉だった。 気付かれる予想など、してはいなかった。例え可能性に行き着いたとしても、ガキのナリは、幾重もの誤魔化す手段には事かかない筈だった。 「お兄ちゃん、何言ってるの?」、小首を傾げ、キョトンとした声と仕草で無防備に見上げれば、誤魔化す事など、簡単な事だと思っていた。 当然だろう。誰だって、子供が大人になるなど、マンガや小説の世界の事だけだと思う筈だ。自分も、黒の組織に係わり経験しなければ、そんな依頼が舞い込んだとしても、本気になどしなかっただろう。だから、誤魔化す事など、簡単な事だと思っていた。それは例えどんな相手でも、可能な事だと思っていた。 自分を知る身近な人間にさえ、幼い姿をした子供を、工藤新一だと認識させるのに手間が掛かった程なのだから、逆に幼い子供の姿が工藤新一だと、他人にバレる可能性など、余り考えてはいなかったと言うのが本音に近い。迂闊だったと焦ったのは、服部相手の時くらいだ。 そして他には一人。行き掛かり上、江戸川コナンが、工藤新一でと知れてしまった稀代の怪盗くらいだ。 今思えば不思議だ。工藤新一の口調と論理、服部は疑問も躊躇いもなくそう言い切ったが、互いの面識は一度きりで、論理がどうの、口調がどうのと言い切ってしまえる程、互いの何一つも知りはしなかった。 事実、自分は関西では名のしれた服部の存在は、以前名前を聴いた程度の認識しかしてはいなかった。その服部が、最初は良い印象は持っていなかったという工藤新一の推理の組み立てや何かなど、知り得る筈もない。けれど事実、服部は自分の真実の姿を、唯一自力で気付いてくれた人間だった。 『どっかのアホがゆうてたんや。推理で犯人追い詰めて、死なしたらアカン、てな』 腹部に被弾して尚。過去の自分が持つ疵を告げた時のその言葉を覚えていて、容易な事だとでも言うように、再現して見せた。 自分を削りながら、服部は今でもフォローしてくれる。江戸川コナンから工藤新一に戻った今でさえ、いつ途切れるか判らない生命にしがみついて、探偵と言う位置で自らの居場所を確保しようと足掻く自分に。 『工藤は、工藤やろ?』 バカでバカで、大バカのお人好しだ。呆れる程、傍に居てくれる。欲しい時に欲しい言葉と腕を差し出して、自らを削り出してフォローしてくれる甘さに甘えながら。哀しませてしまうと判って尚。手放せない傲慢な自分など、捨てていけば、簡単な筈だ。 「捨ててきゃ、いいのに………」 置いていけば、これ以上簡単な事はないだろうに……。 |