まったく痛い所を付いてくる。
気安い笑顔が、実のところは自分と変わらぬ盾だと知ってはいたが、
躊躇いも逡巡もなく突きつけられれば、
それはそれで腹の立つ事実だ。











「And I tell you that you arePeter,and on this rock I will build my
 church,and the gates of Hades will not overcome it.」
 突然、話されたカタカナ発音ではない流暢な英語に、快斗は面食らい、次に服部の口から綴られた内容に、攅眉する。攅眉し、次には深い苦笑が漏れた。
「もしかしてさ、知ってた?」
 桟橋に背を垂凭れている悪友の横顔を、快斗は間視する。
相変わらず表情を崩さない面差しは、シニカルな笑みを浮かべ、紫煙を吐き出している。
その様に、快斗は表情を崩す事なく、苦々しさを飲み込んだ。
「探偵、舐めたらあかんで」
「って事はさ」
「知らない筈ないと思え」
「行き先程度は、隠せると思ってたんだけどね」
 足跡は残さなかった筈だ。先月の名月以来。音信不通を決め込んで、国外逃亡を図っていたのだから。
「その根拠は、何処から来るんや?」
 少しだけ呆れた顔をして快斗を眺めれば、服部の横で、快斗は苦笑し、再びクルリと態勢を入れ替えた。
 苦笑と同時に快斗の口許から吐き出された溜め息と共に、紫煙が白く流れて行く。
 半瞬の沈黙が有った。



「隠せると、思ったんだけどね。多少は」
 静かな声が、独語のように落ちて行く。
快斗の科白に、服部は何も言わない。口を挟まず、快斗とは対照的に橋に背を凭れ、天を仰いで紫煙を吐き出している。
 そんな二人の構図に、多大な好奇心で眺め、時には立ち止まり、通り過ぎて行く女性は多かった。きっと新一が見たら、苦り切った表情をして、『悪党のタラシ』と断言するに違いない。
 二人とも、年齢より外見年齢が近頃ましている。それは一重に新一と言う、何より守りたいと欲する存在の比率が占めている割合の大きさ故だろう。
 子供のままでは新一を守る事は不可能に近い。守りたいと言う言葉さえ子供の絵空事で終わってしうから、二人は子供のままでいられなかった。それだけに、年不相応な外見の雰囲気は、女性を惹き付ける気配や感触を持っていた。それが新一の内心の焦燥を煽り立て、幾許の疵を負わせるものだと自覚して尚。子供ではいられないと、服部は足掻いているし、快斗は当事者として、子供ではいられなかった。
「結構さ」
 深い苦笑が、らしくなく快斗の端整な貌に刻み付けられる。
出会った当初は新一と双子かと言われる程度に似ていた快斗の造作は、成長過程にある現在では、それは遠くなって行く。
 その意味を、新一自身誰より正確に理解している事が、二人には辛かった。けれど新一が何も言わない以上。口を挟む余地など、二人に残されている筈もない。立ち入らない境界線が存在する事を知らない程、二人は無知でも莫迦でも、子供でもない。
「面白い場所では、あったと思うよ」
 繰り返されてきた血の歴史。その上に成り立つ荘厳さ。
その下らなさに大笑いできてしまう程度には面白い場所だと、哄笑と辛辣さと愉快さを滲ませ、快斗は嗤う。
 綺麗なものと汚いものが混融している表裏一体性。
とても綺麗にごまかして、汚い部分を紛らせているのは、何処か自分に似ていると、快斗は再び微苦笑を刻み付ける。
 その場所に立ち、苦痛ばかりが伴ったとしても、苦痛が心地好いと感じてしまった一瞬が、確かに存在していた。
 怪盗と言う自身の身を差し引いても、元々美術品に興味の有る快斗にしてみれば、訪れた場所は好奇心と興味が惹かれる場所ではあったし、陰惨と静謐が混融している空間は、捩じくれた心地好さが、肌身を刺したのは確かだ。
 訪れる人の多さ。観光地化されつつ、それでも敬虔な人間が訪れる場所は、やはり陰惨な歴史を綺麗に隠し、荘厳としたたたずまいを崩す事はなく、一定の緊張感を張り巡らしている。張り詰めた緊張感を感じる時。それは嫌でも『現場』を思い出させてくれたから、あの場所自体は、快斗は嫌いではなかったのかもしれないし、与えられる苦痛は、適度な緊張と心地好さを教えてくれてもいた。尤も、その場所が存在する意味に、快斗は欠片の興味も覚えはしなかったのだけれど。 
 ピンと絞り込まれた一本の線を連想させる空間だった。弛む事なく引き締められている緊張感を失わない場所は、何処までも厳粛な気配に佇んでいた。それでいて、不思議と凛冽な静謐さを漂わせていた。
「綺麗は汚い」
 それは思い出せば、厳粛な荘厳さには程遠いものの、今見える視界の光景と似ているのかもしれない。
「シェークスピアか?」
 服部が隣を覗き見ても、快斗の横顔から推し量れるものは、何一つなかった。
 牙と鉄爪を綺麗に隠した眼差しは、少しだけらしくない切なさを浮かべ、遠くを見ている。けれどその双眸に何が映っているのか、服部には結局の所で何一つ判りはしない。
「汚いは綺麗」
 綺麗は汚い、汚いは綺麗。汚い部分も綺麗なものも、渾然一体としている社会に、何処か似ていたのかもしれない。かの空間は。
 昼間はゴミゴミしているのに、夜はとても綺麗に見える地上の宝石箱。新一が白い指先で指し示した『地上の星座』そして、黒羽盗一が生きていて、死んだ場所。
 快斗が覚えている父親は、とても巧みなマジックで、見る者を喜ばせるマジシャンだった。
 父親の手の中から生み出されて行くマジックの数々を見て、快斗は育ったのだ。
父親の手は、魔法の手だと思った。その父親から手解きされたマジックの数々。愛されてきた事を、疑う事はない。だからこそ、快斗は終わらせる為に、枷と承知で白い翼を身に纏い、飛び続ける路を選択したのだ。
「それでもお前は、工藤が大事やろ?」
 抑揚のない服部の声が、快斗の精神の襞を絞りあげていった。







「工藤に訊かれたは。お前が前に余計な事言ったからや」
「何?」
「お前言うたやろ?」
「色々言ったからね。どの言葉か」
 判らないねと、快斗は嘯いた。
忘れている筈はない。服部が言った科白は、快斗には間違えようなど、有る筈もなかった。
 地上の星だと、新一が指差した光景が、今確かに眼前に広がっている。 
 蒼く寒い夜の闇、静かに笑った新一の笑みが印象的だった。空気に氷が張るように冷ややかで、月が綺麗な夜。
 細く長い腕がスラリと伸び、白い瀟洒な指先が、地上を示していた。
天然の宝石箱と、柔らかく笑った新一の微笑みが、快斗の脳裏に甦る。
 静謐な淵を映す綺麗な笑みは、痛々しいと感じられたからこそ、綺麗だったのかもしれない。
 指し示す綺麗な指は、同時にいつも淵の在処を端然と指し示す、白く細い繊細な指先だった。
「人間として生きていれば、自分で勝手に決めた基準を信じて生きて行く。そういう事を、あの人はちゃんと理解してるから。あの人は、薄っぺらい嘘を、簡単に許してしまえるから」
 吐き続けて行く幾重もの嘘を、新一はいつも簡単に見透かして、それでも、何も訊かずに、快斗の嘘を許している。
「お前も大概アホやな」
 夜景を映す双眸に、何を見て、想っていのるのか?
服部には判らない。ただ判っている事は、稀代の怪盗が、とても、とても、新一を大切にしている事。臆病な程、新一を大切にして、触れる事すら臆病な躊躇いを滲ませている事。その程度だ。それが時折可笑しくなると同時に、何とも言えないものを服部に孕ませて行く。
「工藤の怖い所は、真実が一つなんかじゃない、判ってて、それでも一つだって言い続けてるとこやな。人が人に執着する意味を、知ってる、そういう所や。排除せん言うけどな、お前はお前で工藤大事やろ?お前はお前のラインで工藤を大切にしとる。せやから、それでええやろ」
 明瞭なようで不明瞭で、それでも、ラインは確かに引かれている。
互いのテリトリーを侵害せず、互いに新一がとても大切で、それさえ判っていれば、見誤らない事など、多分簡単な事に違いないし、他の何を怺える事も容易な筈だ。
「服部さ、あの人の傍に、絶対在るよね」
 引かれているライン。立ち尽くす位置。見誤らない眼。
明瞭の筈のラインが、此処最近不明瞭になっている気がして、時折勘違いさえしてしまいそうだと、快斗は内心自嘲とも苦笑とも判らない笑みを漏らす。
 快斗が服部に適わないと、時折衝動とも苛立ちともとれる感情的部分は、多分何気なく話されるこんな些細な科白一つなのかもしれない。
「あいつ喪ったら、呼吸の仕方も判らなくなるやろな」
 実際、そんな事が身の上に起きる筈はないと、百も承知している。
 彼も探偵だ。生死の境も死ぬ意味も、抽象的な部分ではなく、言語で構造化できてしまえる程、理解しているし、意識は訓練されている。それでも、新一を喪ったら、呼吸一つできないのかもしれないと、思っているのだ、服部は。
 けれど実際、意識して呼吸をしている人間は居ない。心臓を意識し動かしている人間など居ないのと同じで、生存機能が維持される為の、呼吸は単純なガス交換にすぎない。
誰彼を喪ったとしても、生存機能が停止される筈もない。
どれ程生きている事に絶望してしまったとしても、自殺でもしない限り、自らその活動は停止されない。
「置いてかれたら、探してね」
 自分は、あの愛しい魂の側にはいられない事を、快斗はもう随分前に、認識してしまっている。
 立場や何かを抜きにして、服部と新一の関係を抜きにしても、最初から居られる筈はなかった。
 曇りのない魂など痛いだけで、見ている強さなど、到底持ち得そうにもなかったからだ。それでもと思うのは、ひどく身勝手で利己的な感情の波だと、快斗は理解している。
 最期のトドメくらいはさしてやるからと言う新一の端然と紡がれた言葉の甘美さに、莫迦みたいに思うのは、手の一本、足の一本、肉片でも骨の欠片でもいい。自分が自分で在った組織の一つで構わない。父親のように、何一つの一切を残さない潔さなどではなく、みっともなくも、何かしらの存在の欠片を、新一に遺こそうと足掻く自分の姿を想像しては、ひどく醜悪的な甘美なものに囚われる思いだった。
 最期のその一瞬。たった一つの名前を紡いで逝く事ができたら、それはとても倖せな最期な気がする。きっと孤独など感じさせてはくれない、極上な最期だろう。
 孤独を孤独と理解できない新一とは似ていて違う。多分感じている莫迦莫迦しいまでの甘美さは、新一の持ち得る孤独とは対極に位置しているだろう。
 たった一人の大切な名前を抱き締めて逝けるのなら、それはとても極上だ。たとえ堕ちる先が、光一つない闇だとしても。
 そう考えれば、父親が最期に見た光景がますます知りたくなるのだ。父親が何を想い、月の光を凝縮したような白い翼を纏っていたのか?
 父親が最期に見た光景は、一体何だったのか?
快斗が何より知りたいのは、黒羽盗一がどう生きてきたかで、その延長線の死を、知りたいと願い続けているのだろう。
 魔法の手を持っていた父親が、何故怪盗の路を選んだのか?
それが判るまで、快斗は泣く事などはできないのだ。父親の死を悲しむ事も。
 白い翼は、もう随分血を吸ってボロボロになっている。いつまで飛び続けていられるのか、保証等何処にもない。せめて保証期間内にメドをつけたいと、快斗は内心肩を竦めて笑った。
「本当はさ、もう帰ってくるのやめよっかな〜〜とか思ったんだよね」
 陰惨な血に濡れた歴史の上に築かれている荘厳で厳粛な茶番があまり愉快で、新一を思い出す場所が余りに苦痛を伴う作業を繰り返していたから、フト帰国する事を躊躇ってしまう程、だった。
「結構面白いし、居心地よかったし。陽気で活気あってさ」
 切り裂かれる苦痛が心地好いと転じる捩じくれは、なるほど、確かに、痛感転じれば快楽になると言う、何処かの誰かが言った科白は真実だと、身をもって体験した快斗は、一時期は本気でそれもいいかと思っていた程だ。
「町並みは、そりゃ綺麗だったし」
 陰惨で厳粛で壮麗。町の片隅や人の奥隅に、血の匂いが感じられて、それはそれで連綿とした血濡れた歴史が情緒を感じられて、捩じれた思考には丁度良かった。
 所詮歴史何と言うものは、血に濡れているものだし、人の血が供物だろう異界の主が住まう場所には適当だろう。だからこそ、茶番のように静謐な場所は、快斗により強烈に新一を思い出させた。
 離れている苦痛ばかりが襲う感覚の中、離れていられないと言う認識が深まる中。
片方ではシビアな現実をちゃんと見失わない眼を持っている自分の理性に、ちゃんと感謝もしていたのだ、快斗は。
「誰も俺の事知らなくて、関心もなくて、本当、居心地よかったんだよね。だからさ」
 蟻地獄に嵌る蟻のように、父親の生き死を探り、砂漠の中心で立ち尽くす旅人のように、誰も自分を知らず、関心も持たれず、とても心地好かったのは確かだ。
「本気で帰って来るの、やめよっかな〜〜とか思ったりしたんだけどね」
「でも、工藤おらんかったやろ?」
 そんな綺麗な町並みの中ですら、何より欲する人の存在がなければ、綺麗な町並みにどれ程の意味があるだろうか?
 饒舌な口調程に、快斗の横顔は笑ってなどいない。らしくないら切なさかりが滲んでいる気がして、服部は、だから抑揚のない声を掛けるしかなかった。
 半端な慰めや同情など、この稀代の怪盗が望んではいないくらいの事は、服部にも理解できるものだったし、する立場ではないだろう。快斗には快斗の事情が有る。それが枷なのだとしたら、尚更だ。口を挟む類いのものではない。既に自分は、新一に対して幾重ものペナルティーを侵している。これ以上、侵す訳にはいかない。
「本当」
 静かな、抑揚を欠いた声は、確実に快斗の心臓の中心を射る事に成功していたらしく、服部の奇妙に冷静な声に、快斗は半瞬絶句し、次に深い苦笑を刻み付ける。
「痛いとこ、つくよね」
 それでも、服部は何も訊いてはこない。そんな部分は領域を心得ている大人だと、不意にらしくない感謝をしてみせる。
「それこそ、真実っちゅうもんやろ」
「まっ、でもさ、帰って来るって、約束しちゃったからね」
 円い月の晩。月を盗って来いと、探偵とは思えぬ甚だ理不尽な要求を突き付けてきた新一に、けれど快斗は笑ってそれを盗んで見せた。
 酒の好きな新一に差し出したお猪口の中。透明な液体に映った仲秋の名月。
 月見酒と笑ったアノ時の、新一の泣き出しそうな表情が、鮮明に浮き上がってくる気がした。
 思えば、新一は気付いていたのだろう。アノ時の会話を思い出せば、それはじき訪れる未来ではなく、もう次の瞬間には機上の人になっていた快斗に対しての言葉だと。そう思えば、新一の見通す眼は、怖い程だ。
「久し振りに、服部さんの手料理も食べたかったし」
「ホ〜〜〜せやったら、一月ぶりに帰国したアホには、豪華な特別メニューでも出さにゃあかんやろな」
「う〜〜ん。素朴なメニューで全然OKだよ俺」
「お前の謙虚何て似合わへんから、遠慮せんでええ。新鮮な魚介類たんと食わしたるから」
「ア〜〜俺今名探偵に会いに行ったら、本気で魚料理出させるかな」
 それだけは、本気で勘弁してほしいと思う快斗だったが、それでも、責められれば、それはそれで嬉しいのだから、大概捩じれた精神思考だろう。
「覚悟の一つや二つ、しとるやろ?」
「してない……」
 工藤邸のリビングのテーブルの上。綺麗に盛り付けられた魚料理を想像し、快斗はゲッソリ呟いた。
 子供のような一面が在る新一の事だ。それくらい、するのかもしれない。稀代の名探偵の思考回路は、西の探偵である服部でさえ予測はできない。
 帰ってきたと知ったら、盛大に魚料理で持て成されるのかもしれない。否、
「俺を呼び出した時点で、お前はアウトや」
 新一の事だ。ちょっと其処までと出てきたが、気付かない筈はない。もしかしたら、今頃盛大な嫌がらせを企んでいないとは保障できない。否、きっと無事に帰国した事で、安堵と八つ当たりが、快斗を襲うだろう。
「フォローしてよ」
「何で俺がお前、フォローせなあかん」
 快斗の科白に、服部は呆れた表情を見せ、歩き出した。
その後を、半歩遅れて快斗が歩いて行く。
 可笑しいと、思う。きっと服部も思っているだろうと、快斗は思って、笑った。
 二人の位置を悪友と位置付ける新一の科白は、けれど違うのだと、新一自身、案外自覚しているのかもしれない。
 自分達の関係を、何と表現すればいいのだろうか?
悪友ではないのだ。成り立つ関係には、新一という存在が必要不可欠で、新一が居なければ、多分必要もないのかもしれない。それでも、こうして気軽に呼び出せる相手ではあるのだ。それさえ新一の為ではあるのだけれど。
 きっと新一は、全て見透かして、それでも何も言わないのだろう。
 何が新一を立たせているのかと思う。まっすぐ逸らさず前を凝思する視線の強さと脆さを混融させ、尚月のように研ぎ澄まされた冷ややかさを滲ませ佇む眼差しの深さ。
 絶望を知っても、崩れない強さと勇気。



「黒羽、お前に教えたろか?」

 不意に立ち止まり、服部が振り返らずに口を開いた。
抑揚のない口調で、らしくないと不意に思う。けれどきっとこれが、服部の本質なのかもしれないとも思えたから、快斗は茶化す事もなく、半歩の距離を保ったまま、立ち止まった。


「工藤に言われた事あるんや」

 苦笑なのか自嘲なのか、快斗にも判別の付かない笑みが滲んでいると思えた時には、服部は再び雑踏を闊歩していた。


「裏切れる程隣に在る意味、忘れるな、言われたわ」

 誰かが誰かを裏切れる程、隣に在る事は案外難しい。
裏切れる程、隣に在る位置。判りあえれば、尚更難しい距離。


「怖いね…」

 強さも勇気も何もかも、内包して削り出されて行く新一の綺麗な魂。




「俺が工藤にしてやれた事なんて、所詮利己主義押しつけただけや」
「名探偵の怖い所はさ、やっぱり、そういう所だよ」
 自分で勝手に決めた基準信じ込んで、他者が少しでもその基準からはみ出せば異端と言われる。それは裏切りだったり背信だったり様々だけれど、
「工藤は頭がいいから、そんな嘘も簡単に見透かして、それでも笑って許してまう奴やから」
 闊歩したまま軽口を叩く距離で、抑揚を欠いた声で服部は淡々と話し続けている。
その表情を、背後を歩く快斗には見える事はないが、それでも、判る。今服部がどんな表情をしているのか?その視界の中に、何が映っているのか。
「人が勝手に決め込んだ基準を無心に信じて、それでも人はそれを色々に形で守ろうとする。それならその裏切りや背信は真実だって、ちゃんと知ってるから、怖いんだよ」
 それでも、新一は真実はいつも一つと言い続けていく強さを持っているから。
「俺は、俺で、あの人を見ていくよ」
 そんな言葉すら、傲慢で利己主義だと理解して尚。今快斗が言える言葉は、これしかなかったのかもしれない。