A HAPPY NEW YEAR

act2












「遅い……ッ!」
 リビングの時計を凝視し、新一は憮然と呟いた。
「遅いって、未だ7時だよ」
 つい先刻、『それじゃぁ今日はおとなしく退散しようかな』と、祖父母は滞在先のホテルへと戻っていった。それもこれも、今夜5時で明治神宮の警備を御役御免で帰宅してくる父に、気を遣った結果だった。
 ソファーに腰掛け、先刻からイライラと時計を眺めている母親に、コナンは呆れた様子で溜め息を吐く。
 そんな仕草はとても4歳児のものではなかった。それをして、新一のコナンだった当時にそっくりだと言われている子供なのだからコナンは。
「5時に仕事終わって、明治神宮からウチまで、2時間掛かるんだぁ?」
 冷静に告げる我が子に、ついつい八つ当たりしてしまう新一は、確かに周囲から言われる程、バカ夫婦のノリだろう。が、サイテーな事に、本人に自覚はなかった。その分苦労性なのは、4歳のコナンなのだという事は、周囲の共通認識だった。
「無事仕事終わって打ち上げとか」
 呆れて溜め息を吐き出して、コナンは肩を竦めてみせる当たり、確かに苦労性なのだろう。メガネを掛けていないだけで、その外見は新一がコナンだった当時ソックリだ。
『ムカつく〜〜〜』
 今日二度目、我が子に対しての八つ当たりだった。
「お前、歳、誤魔化してるだろ」
 ついついバカな事を呟いてしまう新一だった。
「……お母さん、錯乱してるし……」
「コナン君〜〜」
 そぉんな悪い言葉を吐くのは、どの口かなぁ〜〜?
 新一は足下に戯れ付くようにクッションに座っている愛息をヒョィッと抱き上げると膝に抱き上げ、正面を向かせて座らせる。
「大丈夫だよお母さん、お父さんお母さんに対しては不器用だから、浮気なんて心配ないし」
「コナン〜〜〜んな台詞、誰から教わった」
 言葉の意味を何処まで理解し話しているのか、ついつい我が子の行く末が心配になってしまう。
「天才マジシャン」
「黒羽の奴〜〜〜」
 パクッてやる、言い続けて数年経っている台詞に、けれど効力はまったくなかった。
快斗は相変わらず表の顔は天才マジシャンとして、裏の顔は平成のルパンと呼ばれる愛称の怪盗キッドとして世間を賑わせてはいるが、新一と服部、哀以外、彼の素顔を知る者は在なかった。
 相変わらず新一が服部とそういう関係に陥って、コナンと言う子供までいても、その付き合い方は何一つ変わってはいない。
「もうあいつに近寄るな」
 教育的指導してやると新一は呟いた。
「でもチケット貰っちゃったよ?」
「いつ」
 シレッと言う息子をマジマジと眺めてみれば、いらぬ想像をしてしまう。
確か『好き』だと毎回繰り替えされていた記憶はあるから、自分がダメならその子供に、そんな考えが脳裏をよぎってしまう新一だった。
「お年玉って、貰った。暗号付き」 
「あいつ〜〜まさか本気でコナンって考えてるんじゃねぇんだろうな」
 ついつい我が子の貞操を心配してしまう新一は、確かにこの時錯乱していたのかもしれない。
「お母さんにフラれて、お父さんに負けたって言ってる」
「……コナン、お前その台詞の意味、何処まで判ってる?」
「ン〜〜?」
 キョトンと首を傾げる様は、確かに子供らしいものだった。けれど次に飛び出した台詞は、とても4歳児のものではなかった。
「お母さんがお父さん好きで、快ちゃんとはサヨナラしちゃったんでしょ?」
「……大きく違うぞ、ソレ」      
「違うの?」
 キョトンと小首を傾げ、まろい双瞳を瞬かせる様は、確かに可愛い子供だろう。けれど周囲の環境が今一つよろしくはないコナンだった。
「俺は黒羽と『サヨナラ』しなきゃならないような関係じゃなかった」
 確かに繰り返され、冗談とも本気とも判らぬ求愛とも告白とも思える言葉は多々聴いてはきたが、それでも、快斗に別れを告げるような関係は、初めから築いてはいなかった。
とは言え、そんな台詞を4歳児に力説する当たり、確かに新一には服部だけなのだろう。
「それじゃぁ未だお母さん、快ちゃんとは付き合ってるんだ」
「なんでそうなる〜〜」
 無邪気な台詞に、一体何処まで本気で冗談の台詞か、疑ってしまう新一に、きっと罪はないのかもしれない。
「付き合ってない」
「だって快ちゃん、ウチに遊びに来てるよ」
「でも付き合ってない」
「お前達二人の会話、根本的に噛み合てないで……」
 聞き慣れた関西弁に、新一とコナンがリビングの入り口を見た。
そこには、少しだけ呆れた様子で親子の会話を聴いていた服部が立っていた。
「服部」
「お父さん」
「ただいま」             
 母親の膝の上から飛び下り、足下に纏わりつくコナンを抱き上げ、近寄ってきた新一に腕を伸ばし、服部は笑った。
「お前、チャイム鳴らしてないよな?」
「ん?ああ、今日確かお義父とお義母さんきてた筈やから」
 そう思って珍しくも自分が鍵を開けリビングに向ったら、そこには愛妻と愛息がまったく噛み合わない会話をしていて、その会話に聞き入ってしまっていた服部だった。
 ついつい服部は思ってしまったのだ。ボケとツッコミの漫才のような会話だと。言ったらきっと新一に殴られるだろうから言わないけれど。
「ええ子にしとったか?」
 腕にしたコナンを覗き込めば、
「ちっともいい子じゃねぇよ」
 下らない事ばっか話すしと、新一は憮然となる。
「ほんまお前達の会話、噛み合てなかったで」
 新一の細腰に腕を回し引き寄せると、軽く接吻る。それを黙って受け入れる当たり、新一も服部に餓えているのだろう。
「コナン、黒羽の言う事、信用したらあかんで」
 あいつは天性の嘘つきやからなぁ、服部は笑って呟いた。
「じゃぁ快ちゃんがお父さんに負け立っていうのも嘘なんだ」
「……可愛ないガキやなぁ。お前全部判って言うてるやろ」
 服部に、コナンは舌を出して笑う。
「俺が負けてたら、お前は生まれてない」
「断言するな」
 ペシッと、腰に回る腕をはたき落とす。
「せやかて、ほんまの事やろ?大事な事やし」
「時と場合だ。子供の前で」
「お父さんの所為だもん」
「なんで俺の所為なんや?」
「お父さん遅いから。お母さんの八つ当たり」
「そうだよ、思い出した。お前ぇ5時に終わるって、もう7時回ってるじゃねぇかよ」
 ネクタイを締め上げる威勢で引っ張る新一に、
「そら5時になったからハイさいならって帰ってこれんやろ」
「第一所轄のお前ぇが、それもキャリアでお客様のお前ぇが、警備なんて、越権行為だ」
「親父に言いつけられたしなぁ」
 服部はポリポリと蟀谷を掻いて苦笑する。
新一自身、ちゃんと理解して納得している筈が、年末年始とほっとかれたのが、気に入らないらしかった。                   
「お前の生殺与奪の権限は俺にあんだ。警備局長じゃねぇ」
「生殺与奪か……」
 こりゃ相当機嫌が悪いらしいとコナンを見れば、コナンは分け知り顔で笑っている。
「そらそうと、お義父さんらは?」
「帰ったよ。お父さんによろしくって」
「そっか、悪い事したな。折角来てくれたのに」
「いんだよ。どうせあっちは孫の顔見たくて来てんだから。それよりお前、風呂入ってきたら?コナンと一緒に」
「飯は」
「どうせ打ち上げで食ってきたんだろ。美人の婦警とでも一緒に」
 ツンッとそっぽを向く。
「アホいい」
 しゃぁないなぁ、呟くと、服部は新一を引き寄せ、腕の中からコナンを下ろした。
「コナン、部屋行ってパジャマ取ってき」
「ハ〜〜イ」
 明るい笑顔にパタパタと掛けていく。その後ろを姿を見送って、
「新一……」
「んっ…バ……呼ぶな」
 耳朶を甘噛み名を囁かれると、一挙に新一の姿態から力がぬける。新一は、情事の時以外、名前を呼ばれる事にひどく弱い。
「せやかて、拗ねとるやん」
「お前ぇが悪い」
「堪忍な」
「謝んな」
 理不尽を言っている自覚くらい、新一にも有るのだ。
「服部」
 ねだる仕草で服部の首に腕を回すと、細腰を引き寄せられ、吐息が染まった。
「ただいま」
 吐息が触れる距離で囁けば、怺える術などないように、新一は服部を素直に欲した。
「んっ…」
 一挙に熱くなる肉と血の奥から、情欲が引き摺り出されていく感触が生々しかった。
それでも此処で求めてしまったから、子供には何一つの言い訳はできない。そう理性が働いても、口唇は離せなかった。
「ゃぁ…ぅぅん…」
 離れた口唇から漏れる嬌声。けれど再び奪われて行く。
貪婪に絡めて濡れた音を立てる舌。新一の白い喉元が淫靡に上下する。
「んっ…ぅん…」
 グイッと腕に抱き寄せられ、閉じられた瞼にうっすらとした快楽の涙が伝った。
「ぁっ……バカ…」
 背から腰へと伝う指の感触に、新一は吐息を喘がせ服部から離れた。
「コナン…在るだろ…こんなとこで…」
 乱れた衣服を整えても、白皙の貌が色付く熱は、すぐには失せない。
「せやったら、今夜三が日分、たっぷりサービスするさかい」
 離れた華奢な姿態を再び腕にすると、服部は笑う。
「……サービス言うな」
 抱き寄せられたら怺える術などないと判っていて、抱き締めてくるタチの悪い男だと思う。タラシで悪党と、新一は内心で悪態を吐いた。それでも、欲しいという想いが先に立つから始末に悪い。
「工藤」
「っんだよ」
 これ以上抱き締められていたら、きっと自分は求めてしまうから、新一は無下に服部の腕から抜け出した。
「あけましておめでとう。今年もよろしゅうな」
 離れた躯に腕を伸ばし、細い手首を緩く握って引き寄せると、生真面目に綺麗な貌を凝視し口を開いた。
「……電話できいた」
 大晦日、除夜の鐘が鳴り、0時カッキリに電話がかかってきても穏やかな声でそう言われた。きっとその時どれだけ自分が切ない想いをしたのか、服部は知らないのだろうと新一は思う。
「でもちゃんと言いたいんや」
 白い瞼に、酷薄な口唇を寄せる。
「バーロー」
 どうしていいのか判らず、吐息を朱に染めた時だった。
「あのさ〜〜〜」
 二人の足下でコナンの声が響いた。
「……コ…コナン…」
 狼狽する新一とは対照的に、服部は鷹揚としている。
「支度してきたんか?」
「一人でお風呂入ってくるから、続きしてていいよ」
 何処まで理解しているのか判らぬ台詞をシレッと言って、コナンはさっさと浴室へと向う。
「服部〜〜〜」
 どうすんだよと、らしくない動揺を示す新一だった。
「別に今更やん」
「落ち着いてるんじゃねぇ」
「しゃぁない、久し振りに息子と風呂入って来るか」
 そう大仰に言うと、次に新一の耳元で何事かを囁いた。
「この……ッ!」
 瞬間、新一の顔が真っ赤に染まる。
腕を振り上げた時、服部は笑って新一からヒョイッと遠去る。
「風呂行くから、着るもん持って来てな」
 そう言うと、コートとスーツの上着を脱ぎ、ソファーら掛けると、コナンの後を追った。
「ったく、アノバカ…」
 何が親子三人、一緒に入ろうだ。
新一は、慣れた手つきでコートとスーツのジャケットを手に取り皺を伸ばすと、寝室へと足を向けた。
 きっと今夜は寝かせて貰えない。
「サービスさせてやる」
 正月三日間。世間はのんびり正月を過ごしたというのに、自分は何とも味気無い正月を迎えたのだ。その責任はとらせてやると、新一はクローゼットのハンガーにコートとスーツを掛けると、パジャマを片手に浴室へと戻って行った。




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コメント
なんちゅーか、服部ファンの管理人が書く話なんで、元々ウチの工藤さんは服部に溺れてるんですが、このシリーズの工藤さんは、特に服部に溺れてるようです。
特別年齢設定は設けてませんが、まぁ服部は大学卒業して、警察官僚候補のキャリアになってます。工藤さんも大学卒業して、ママさん(爆笑)探偵してるようです。(本当か?)
二人とも司法試験はクリアーしてます。服部は当然他に国家試験1種試験合格で警察庁に入庁し、現在キャリアの出世コースの所轄である本富士署刑事課々長補佐で現場研修中。
服部平蔵氏は、大阪府警本部長から、警察庁警備局長になってます。時期警視総監候補。
まぁ服部が明治神宮警備に借り出しってのは、某警察ドラマの設定で〜〜す。