夏祭り
act2








 夫婦の寝室の隣室が、コナンの部屋になっている。大した我が儘も言わず、聞き分けの良すぎるくらいに良いコナンは、夜は一人で寝る事に慣れていて、それで手をやかされた記憶はない。普通子供はもうちよっと甘えるものではないのかと思ってコナンの友人の親に聴けば、やはり4歳児で、おとなしく1人寝する子供は少ないと知った。やはり環境が良くはないのかと考えた時も有ったが、母子分離が早い事が悪い事ではないので、コナンが甘えてくるシグナルを見落とす事なく、新一は極力、過保護に手を出す事はしなかった。
 子供部屋は、十分すぎる広さを持っている。4歳児に十畳の部屋と言うのは与え過ぎる嫌いはあるが、元々工藤邸の室内は、皆似たり寄ったりの広さとスペースを誇っているので、そのまま子供部屋として使用している。どうせ成長すれば程度の広さが必要なのだと、やはり何処か世間の住宅事情とはズレた思考をしている新一は、育った環境が環境なので、罪はないだろう。
 子供部屋に、大したものは置いてはいない。広すぎるスペースに置かれているものと言えば、小さいベッドにデスクに、嵌め込み式のクローゼット、その程度だ。部屋の隅に置かれたカラーボックスの中には、今は殆ど使用されない玩具が入っている。それは概ねで孫可愛さに、双方の親がコナンにと買い与えた玩具が大半だった。
「ん〜〜確か此処にしまったよな」
 記憶力は良い筈の新一は、けれどこれが日常レベルになると、とんと低下傾向になる。どれもが万事、聡明な頭脳に納められていると言う訳ではないらしいと、服部や快斗が知った時、安堵の溜め息を漏らした事を、新一は知らないだろう。
 関与した事件は当然、マスメディアで事件として報じられた情報は、常に把握している新一だったから、これが日常生活すべてに於て記憶していたら、ある意味憐れになってしまう。
 生きて行く為には、記憶の劣化も必要な事だからだ。すべてを把握し生きて行ける程、ヒトは強くはない。忘却の為の喪失ではなく、不必要な事は綺麗に劣化していく。そういうものだ。でなければ、辛すぎる。だから新一にも不必要な部分は綺麗に排除する術はあるのだと知った時。服部と快斗は安堵したのだ。
 クローゼットの中をガサガサ漁れば、目的以外のものまで結局ひっぱり出してしまう羽目になった。夏も終わりに近い季節では、そろそろクローゼットの中も入れ替えが必要だろう。そう思ってしまったから、新一は見つけてしまった秋物のシャツだのズボンだのを、ひっぱり出していた。
「ん〜〜〜そろそろ小さいかもな」
 子供服は高い。まして成長が目覚ましい年齢にあっては、翌年まで持ち越せて着られるものは少ない。去年は大きすぎたシャツも、今年はもう小さいくらいだろう。そう思えば、成長しているのだと、らしくもない感傷が湧く。
 子供らしくなく大した駄々もこねない。随分手のかからない子供だ。困らせられた記憶は、考えれば、ないようにも思えた。先刻冗談交じりに言った快斗の科白の意味を、判らない新一ではなかった。
 淋しい思いを、させているのだろう。滅多に我が儘を口に出す事のない愛息に甘えているのは、親の自分達の方だろう。
 服部はキャリア刑事で、新一は探偵だ。どちらも警察組織から様々な角度で見られている。決して称賛は感嘆ばかりではない。特に新一は、体制組織にとっては民間人だ。
公僕として、市民に公共のサービスを提供する警察からは、保護される立場にあるから、組織の中には新一が陰惨な事件に関与する事を由としない人間が多い事を、新一は知っている。
 当然だろう。情報公開が叫ばれている中でも、犯罪を扱う体制組織の情報など、簡単に開示できる類いのものではなかった。その情報を、一般人が手にして捜査に関与する。それは新一を危険に近付ける事にもなるし、何かあったら組織が市民を巻き添えにしたと、不祥事の立て続く組織は、更に叩かれる事になる。市民はおとなしく求めた時に、捜査に協力すればいい。それが警察の本音だろう。
 けれど繁栄から衰退に向かう社会は、日々発生する凶悪犯罪が増え、社会病理を露呈し続けて行くから、警察の手にだけは余る事案も多くなり始めているのは事実だった。
その中では、東の名探偵と呼ばれる新一の手を借りなければならない事案も多いのは事実で、新一が解決した事件は確実に起訴され、公判有罪率を勝ちとてっている。それは探偵業には無関係の事に思えるが、実際真実の確かさを形にするなら、送検した被疑者が起訴され、有罪判決が下りなければ意味はない。裁判はあくまで推定無罪が原則だからだ。でなければ、被疑者は誤認逮捕、ひいては冤罪の被害者に転じる事になる。
事案に関わる以上。起訴確定率、公判有罪率と言う言葉を、新一とて無視はできないのだ。それが犯罪捜査に関わる人間の責任の所在でもある事を、新一は心得ていた。被疑者に掛ける手錠の重さを持たないからこそ、尚更胸に刻まなければならない事なのかもしれない。
 甘えて、いるのだろう、愛息に。事件が起き依頼が有れば、新一は必ず現場に向かう。そんな新一を知っているから、コナンは我が儘を言えないのかもしれない。子供らしい我が儘を、飲み込ませてしまっていないか?フト新一はらしくなく考え込んでしまった。
「何してるん?」
 背後から、気配なく近付いた服部が声を掛けた。
二階に上がってきた気配はあるのに、一向に隣室の子供部屋から出て来ない新一の気配に訝しんだ服部は、コナンの部屋を覗いて見れば、クローゼットに向き合い沈吟している様が見て取れたから、覗き込むように薄い背の背後から近付いて声を掛けた。
 覗き込んだ新一の手元には、見覚えのあるシャツが有る。
不意に新一が何故クローゼットの前で沈吟してしまっていたのか、その理由が判った気がして、服部は穏やかに笑った。
「もう今年は小さいな、ソレ。新しいの買わんと」
 久し振りの非番で疲れているだろう服部を気遣い、ファミリーサービスの一言も言い出さなかった新一に、逆に服部が提案したのは、駅前のショッピングモールでの親子水いらずでの買い物だった。今新一が手にしているシャツは、去年のその時に買った代物だ。
新一に似て色の白いコナンに良く映えたワインレッドの薄手の秋用のシャツは、買った当初は少しだけ大きく思えたのに、今は絶対に小さいだろう。
「甘えてるよな、俺達」
 掛けられた声が穏やかで、新一は振り返らずに、苦笑する。
「知っとるよ」
 振り返らずに告げられた声は少しだけ細く、服部は膝を付くと背後から柔らかく新一を抱き締めた。
 相変わらず、細い躯だと思う。青年と言われる年頃の男にしては、新一の姿態は十分に細いものだ。けれど、決してそれに脆弱と言われる部分は存在しない。細身で靭やかな強さが有る事を、服部は知っている。けれど、1ヶ月前、抱き締めた時は、もう少し肉が付いていたと思えるのは、気の所為ではいのかもしれない。
 心配を、させているのだろう。コナンだった新一を心配してきた過去の自分と同じように。犯罪捜査の現場を駆け回る自分を、心配させているのだろう。
 けれどそれは自分も同じだ。新一は今でも探偵をやめない。限定されていた探偵活動が終了したアノ過去から、新一の探偵活動の意味は幾分と変ったように服部には思えた。
 以前は、鞘を持たない抜き身の切っ先のように鋭利な部分ばかりが強調されていた新一の推理は、けれどそこから受ける印象はあくまでも社会正義を守ろうとするものではなく、手段の一環のような印象が拭えなかった。けれどコナンという偽りの姿になり、其処から戻ってきた時。新一の推理は意味を変えていたように服部には思えた。
 真摯な祈りを持っているかのようだった。眼に見えない、カタチにできないナニか大切なものを、真摯に祈っているように思える。手段ではなく、意識なく動かす手足のように、なった。それが愛しく、そして幾許か哀しい程だと思えた。
「何だよ」
 柔らかく触れ、抱き締めてくる腕より、余程柔らかく触れてくる言葉だった。
「コナンは、ちゃんと判っとるよ」
 薄く細い背を抱き締め、新一の手元のシャツに視線を落とし、服部は更に柔らかく笑った。
「工藤が、ちゃんと愛してる事」
「……バカ」
 柔らかい言葉は、コナンだった当時と何一つの変わりなく、簡単に内側に触れ、守ろうとする。だから笑った新一の声は、ひどく優しいものに溶けていた。
「自分が、愛されてる子供やってな」
 自分や新一が両親から惜しみない愛情を注がれ育ったように、そして注がれた愛情が有るから、強く立っていられた事を。受けた愛情が有るから、誰かに傾ける事ができる愛情の在処を。
「お前は?」
 柔らかく包み込む優しい言葉と声に、新一はゆっくり躯ごと振り返る。
「アホやな」
 柔らかい声に、服部は苦笑する。揺らぎのない綺麗な眼差しが見詰めて来るのに、繊細に縁取られた造作を節の有る長い指が撫でて行く。
「人間そないに多くの事を知らんでも、案外生きていけるもんなんやで。自分がダレかに愛されてる、判ってたら。案外簡単に人なんて立っていられるもんやし、強くなれるもんやで」
 誰かを愛し、守りたいと願い大切にできたら、犯罪も随分少なくなるだろう。愛されて育った人間は強いのだから。
 幼い頃愛され育った人間は、傷付く事に強いのだ。傷付いても、愛されてきた自信が有るから、再び立上がり、歩き出す強さを持っている。
「そうだな」
 真摯な眼差しを秘め告げられた科白に、新一は笑った。
実感できる感情の在処を、新一はもう知っている。服部に出会い、愛し、掛け値ない真摯な愛情を向けられた時、そうと知ったのだ、実感として。推理に必要な他人の感情ではなく、自分のものとして、初めて理解したのかもしれない。
「俺らの自信作が、知らない筈ないやろ。自分が愛されてる子供やて」
「……なんだよ、自信作って」
「自信作やろ?」
「何か腹立つな、ソレ」
「真実やで」
「………違うだろ」
 服部の自信たっぷりな科白に、呆れて笑う新一は、次にはコトンと眼前の幅広い肩に顔を埋めた。いつの間にか、手にしていた小さくなった愛息のシャツは、床の上になっている。
「お前とこうするの、1ヶ月ぶり」
 触れる感触や、伝わってくる熱さや。鼻孔を擽って行く、慣れた外国産煙草の匂いや。肌身に直接伝わってくる感触は、久し振りすぎて、簡単に熱を煽られる。
「そやな。なぁ、工藤は?」
「愛してなきゃ、コナンは生まれなかったな」
「そら、工藤が俺の為にくれた、世界一のプレゼントやし」
「だったら、大事にしろよな」
「してるやろ?」
「事件が恋人になんなよな」
「工藤、コナンより我が儘やで」
 それが何処までも甘いばかりのピロトークでしかないと知っている。
事件が起きれば、新一は否応なく服部を送り出す。幾ら服部が子供さながら駄々を捏ねてみせた所で、新一が事件を無視する筈がない。どれ程危険な犯罪現場にも、躊躇いもみせずに送り出す。そうしては、コナンだった当時の自分は、どれ程服部や快斗や哀を心配させてきたか、その身に置き換え理解したのだ。見守るという忍耐と強さを。
「お前、辛くねぇ?」
「辛い時も仰山有るし、多いけどな」
「お前、今回の事件、辛かったんじゃねぇ?」
「せやな」
 苦笑を深め、服部は新一を抱き締めるだけだで、語る言葉を告げる事はなかった。
組織の中で歩く以上、仕事の中身を語れる事も少ない事を、新一はちゃんと理解しているから、聞き出す事などしなかった。
 判っている事と言えば、どんな犯罪も、関わる捜査員を無自覚に傷付けて行くと言う事だけだ。だから、自分は甘やかすだけでいいとも、新一は判っていた。疲れた様子はしていても、疲れた表情を覗かせない服部だから、甘やかすだけで事足りる。
 より深く真摯な社会正義を求めたからこそ、服部は探偵という路から、警察官になる事を望んだ事を、知らない新一ではなかった。行政官である筈のキャリアではなく、愛され父親の背を見て育った服部だからこそ、カタチにする事の困難な社会正義を求め、組織に入った事を、新一は知っている。
 被疑者に掛ける手錠の重さも、被害者の疵も無視せず、行政官の手腕を求められる組織の中、警察官で在る事を望み、歩いている事を、新一はちゃんと知っているから、こうして時折傷付いた顔をみせる服部を、甘やかせばいい事など、判っている。
 戻ってくる居場所でいい、そう思う。それは何処までも真摯な優しさに満ちている。
愛し、愛される柔らかさや、泣き出したい程の衝動に訪れる先の穏やかさは、ひどく優しい感情に転換している。いると、こんな些細な感情のやり取りで、再確認させられる。
「そういやお前」
 触れてくる左手薬指に嵌められた銀の細身の指をを見詰める新一に、服部は途端何ともいえない貌で、蟀谷を掻いた。ついでに、乾いた笑いが漏れるのに、新一は呆れた顔を見せた。
「相変わらず、勘違いな優しさ発揮させてんだな」
「そりゃないやろ〜〜〜被害者は俺やで」
 呆れたような物言いの新一に、服部は情けない声を上げた。
「何処がいいんだか」
「工藤が言うか?」
 何処かいいんだか判らない男をダンナにしてる新一は、だったら余計にタチが悪いと言う事になる。
「邪魔になんねぇ?」
 日本の既婚者男性は、結婚指輪を嵌めている事は少ない。
特に服部のような職務では尚更だ。何が災いして、邪魔になるか判ったものではない筈だ。そうと判って指輪をしている以上。しなければ余計に職務に支障が出る事態が生じた事になる。
 相変わらず、勘違いさせる悪党な優しさだと、新一は盛大に溜め息を吐き出した。
そういえば、幼馴染みの母親も、別居生活十年以上になっても、未だ小五郎との結婚指輪をはずしてはいない。本人に言わせれば『虫除け』と言う事になるようだが、真意は別のものだろう。
「平気や」
「俺は嫌だね。スゲー邪魔」
「工藤〜〜〜」
「水仕事する時なんか特にそうだし」
 料理する時など、特にそうだ。洗剤を使用する機会の多大な家事仕事に、指輪をしたまま水仕事などしたら、すぐにかぶれてしまうし、不衛生だ。
「お前も仕事に支障でるなら、外してろよ」
「それで勘違いされたら、工藤怒るやん」
「お前が、勘違いさせるような態度とってなきゃいいだけだ」
「勘違いするのは、相手の勝手や」
 別に勘違いされたくてされている訳ではないのだ、服部とて。ただ少しだけ優しい服部に、傷付いている女性被害者は、勘違いしてしまうのだ。そんな事、新一とてよく知っている。知ってはいるが、面白い筈もないと言うのが本音だ。
 服部は優しい。時には同情すべき被疑者にも優しい面も有る。そんな服部だから、勘違いされてしまう事くらい、よく判っている。ただし、感情は別という事だろう。
「お前、寝ねぇの?」
 そういえば、祭りに出かけるまで寝ていると言って、寝室にきた筈だった。そう言えば、肝心のコナンの浴衣は見つけたものの、短時間でも風にあてたいと思う。
「一人寝は、淋しいねん」
「子供かお前は」
 呆れた声は、けれど態度は何処までも裏切っている。
紺地に淡い空色の金魚の絵柄の小さい浴衣を、多少なりとも風に当てたいと思いながら、両腕はしっかりと服部の首に触れている。
「子供思うて、甘やかしてくれへん?」
「この確信犯の知能犯め」
 どうせコナンが快斗を連れて、燐家に出向いた事も知っていれば、そうなる事も予測していたのだろうと思えば、やはり確信犯の知能犯だ。
「これ以上、甘やかしてやれるか」
 帰宅してきてから、今まで。散々甘やかして、普段ならやらない膝枕までしてやったのだから。
「工藤かて、思い切り俺甘やかしたいやろ?」
 やはり確信犯だと、新一は舌打ちする。
「眠くて祭行けねぇなんて言い出したら、承知しねぇぞ」
「そら俺は大丈夫やで、どっちかて言うと、それ工藤やろ?」
「お前次第だな」
 シレッと笑うと、新一は酷薄な口唇を服部のソレに重ねた。漏れる甘い吐息。
フローリングの床の上。放り出された浴衣は、結局時間まで放り出されたままなのかもしれない。







「しかたないよね」
 笑い顔が、不意に泣き顔に見え、快斗は小さい躯を抱き上げる。
「お母さん、ずっとお父さん、しんぱいしてたし」
 母親が消えたリビングの扉を見詰め、コナンは子供らしくない笑顔を快斗に向けた。
「我が儘、言っていいんだよ?」
 膝の上に抱き上げた小さい躯は、快斗が知っている新一のコナン当時より小さくて細い。当然だろう。当時の新一は小学一年生で、今抱き上げたコナンは、4歳児だ。
「いってるよー」
 聞き分けの良すぎるきらいのあるコナンを、快斗は些か心配していた。
万年新婚バカップルの二人が、愛息に傾ける愛情は、新一の性格を知っていれば、過保護の部類に入ると快斗は思っている。けれど、向けられる愛情を、当人が知らなければ意味はない。愛され育つ人間は、結局精神が強いのだ。
 自分が父親の名を受け継ぎ、偽りの名を引き継ぎ、それでも、真実の在処を探そうと彷徨い、幾重傷付き倒れても、父親に愛され育った意味を知っているから立ち上がれた。意味は違えど、服部や新一に信頼や信用と言う感情を向けられているから、誇ってもいられた。愛情の在処やカタチは向けられるものによって様々でも、その想いを知っているのといないのとでは、雲泥な差が有る。
 幼少時、愛される人間に愛され育つ子供の強さは、過去の新一を見ていれば明らかだ。どんな逆境や絶望にも、端然と立っていた。痛々しい程静謐な様で。幼少時の愛情が、後の人格形成にも多大に影響する。だから快斗は心配した。新一が、心配している事も、知っている。
「さみしく、ないよ」
 偽りのない笑顔が、不意に痛々しく快斗には映る。
「快ちゃんいるし」
 端整な造作は、一体万年バカップルと言われる両親と、どういった関係が有るのか、そう言えば知らないと不意にコナンは思う。生まれた時から見知っているから、不思議にも思わない。
 手品が巧くて、何でも生み出す魔法の手を持っている。欲しい言葉や何かを、間違える事なく与えてくれる。居場所も知らないのに、フラリと現れては、可愛がってくれる。
 母親とサヨナラしちゃったと言う意味など、言って見た所で、当然深い意味などコナンに判る筈もない。
「どーせお母さんもお父さんも、戻ってこないし」
 クルリと、小さいネコのような仕草で、コナンは快斗の腕の中で簡単に向きを変えた。
「哀ちゃん、むかえにいこうよ」
「そうだね」
 色素の薄い淡い蒼さを弾く眼差しが、無防備に見上げてくるのに、快斗は笑った。
 絶望を知っても崩れない愛情に包まれている事を、知っていてほしい。そう願った。


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