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Merry X’mas |
「アホ言い、サンタがおらんなんて、ダレに聴いたんや」 年末年始にかけ、犯罪発生率が鰻上りに上昇する年の暮れに、服部がクリスマス休暇を取れたのは、奇跡的な確立だったに違いない。 「今時サンタ信じてる子供なんて、いないよぉ〜だ」 工藤邸のリビングで、服部と、一人息子のコナンが、子供向けのテレビを観ていた時の会話だった。 「アホぬかせ、子供のくせに、夢ない事言うんやない。子供がクリスマスって言うたら、サンタクロースからのプレゼントって定番や」 我が子のあまりに夢のない発言に、服部は大仰に嘆きつつ、小さい頭をガシガシと撫で回しても力説する。 「フ〜〜ン。お父さんの子供の時ってそうだったんだ」 グシャグシャと、髪を掻き混ぜる父親の大きい掌中を払い除ける事もせず、コナンはシレッと言っては父親である服部に更に深い溜め息を吐かせていた。 「ほんま、新一に付いて事件現場に出入りしとるから、冷めた子供になってまったで」 テレビ番組を観て、それも子供向けのテレビ番組で、クリスマスと言えば定番のサンタの話しを、鼻で嗤うような言葉に、いつの間にこんな冷めた子供に育ってしまったかのと思えば、妙に哀しくなってしまう服部だった。 「俺の所為って言いたいのか、テメェは」 親子の会話に『またか』と溜め息を吐きつつ、旦那の台詞に聞き捨てならねぇと、服部の背後に仁王立ちさながら両手を腰に当て、新一は服部の頭の上で不機嫌そのものの声を出し、睥睨する。 「全部とは言わんけど、半分はそうや」 そないな怖い顔しとったら、せっかくの綺麗な顔が台無しやで、服部は真上から睨み付けてくる眼差しに頓着せず、細い腕を引き寄せると、新一はバランスを失い、服部の肩口に胸をくっつける格好で姿勢を崩した。 「子供の前で、何考えてやがる」 慌てて姿勢を直そうとしても、服部の腕は見掛けより力が入っていて、振り払えない。 「せやかてなぁ、コナンがこんな可愛いない事言うん、犯罪見慣れてしまった所為や思わん?」 ソファーに腰掛ける自分の足下で、クッションの上でリモコンをいじっては画面を代え、子供向けのクリスマス番組から、色気もないニュース番組にチャンネルを固定したのを見咎めて、服部は再び大仰な溜め息を吐いた。 「俺もお前も、コナンと同じ時くらいから、事件現場に出入りしてただろうが。同じじゃねぇか」 服部も自分も、父親に連れられ、陰惨な事件現場に出入りしていたのは、コナンと同じ4歳くらいからの時だから、何も事件現場に出向く事イコール、夢を失うと言う事ではない筈だった。 とはいえ、確かに、コナンの友達などと比較してみても、我が子は大人びていて、夢の欠片も持ち合わせてはいないようだった。それを視れば、自分がAPTXにより子供に還り、江戸川コナンとして小学校に通っていた時は、きっと周囲の大人には、こんな風に映っていたのかと思えた。 『まぁこれじゃぁ、蘭に心配されっのも無理ねぇか……』 と、新一は内心、一人ごちる。 コナンだった当時、幼馴染みの蘭の家に転がり込んで、その大人びた言動と、子供とは思えぬ行動で、見た目の印象とのアンバランスさに、いたく蘭を心配させていた自覚はあったから、新一は今更我が子のこの夢のなさに、確かにそうなのかもしれないと、フト思う。 「でもまぁ、カエルの子はカエルっていうからなぁ」 服部の肩口に多い被さり、旦那の足下に在る我が子を見れば、ニュース番組を淡々とみている子供に、新一も溜め息を吐いた。 決して夢がない訳ではない筈で、自分と二人の時は子供らしい行動と言動と、その好奇心旺盛さで、母親の自分を疲れさせている子供だったのだから。 「サンタの由来なんてさ、聖人伝説の一つだって、本で読んだよ」 メガネを掛けていないだけで、コナンは新一が江戸川コナンと名乗っていた時と、その面差しは瓜二つで、それをして母親の有希子は、コピーのようと笑っている。 「……夢ない本、読まんでええ」 ニュースから、自分達に視線を向け、喜々として話す愛息に、新一も服部も顔を見合わせ、溜め息を吐いた。 「サンタクロースって、サンタの由来になった聖ニコラウスの、オランダ語読みでしょ?ねぇ?お母さん」 「間違ってないけどな、確かに」 笑顔だけを見るなら、確かに子供らしい笑顔なのだけれどと、新一は、否定もできない程、自分そっくりの我が子を凝視する。 「聖ニコラウスって、適齢期の処女の守護聖人で、航海中の危険から身を守って切れる救難の守護聖人でもあるんだよね」 「……処女……」 流石に4歳児の口から出たその台詞に、服部と新一はまじまじとコナンを見詰め、 「お前……処女って意味…判っとるんか……」 ついつい尋ねてしまった服部の後頭部を、新一は無言でひっぱたいた。 「マリアは処女でキリストを生んだんでしょ?」 「いやだからな…その処女って……」 「子供にんな事、訊くんじゃねぇっ!」 言い募る服部に、新一は真っ赤になって、肩口から身を乗り出す格好になっていたのを幸いに、服部の首を腕で締め上げる。 「ん〜〜お母さんは?」 邪気のない子供の質問に、新一は白皙の貌を紅潮させる。よもやまさか、4歳児相手に雄しべと雌しべの話しをしても、さすがに理解はできないだろう。それ以前に、 『絶対ぇ、んな説明、したくねぇぞッッ!』 内心拳を握り締めてしまう新一だった。 「新一がんな事あるわけないやろ、せやったら、お前は生まれとらんなぁ〜〜」 「服部〜〜何喋ってやがるっ!」 呑気な口調で、それでもニヤニヤニしている服部に、新一は思い切り首を締め上げる。 「ちょぉ〜〜探偵が殺人冒したらあかん〜〜〜」 「だったら、下んねぇ御託、ねらべてるんじゃねぇぞ」 じゃなかったら、密室殺人作り上げてやる。新一は据わった眼で、服部を睥睨すれば、 「探偵には二種類有るいうからなぁ〜〜謎説いて、尚且つ、謎が作り出せる人間や」 「処女ってさ〜〜」 「コナン、もぉいいから、その話しは終わり」 流石に4歳児口から頻繁にそんな言葉が出てしまっては、母親としては咎めない訳にはいかなかった。何より恥ずかしさが先に立つ。 「なんで?教えてよ。お母さんいつも言ってるじゃん」 その意味など判っていない子供は、白い頬を真っ赤にしている母親に、キョトンとした幼い表情で、問い掛ける。こんな時ばかり子供の表情をする息子に、新一は内心言葉にできない悪口雑言を並びたてている。 「新一がいつも何言うとるって?」 「名探偵の推理は、経験と知識に助けられてるって」 別に僕間違った事訊いてないもんとは、コナンの言い分だった。 それは確かに間違ってはいないだろう。だろかうが、歳相応な知識でよいのだ。持っている知識など。 「でもその知識は未だお前には必要ない」 我が子相手に、ついついムキになってしまう新一だった。 「まぁそりゃ間違ってないやろうけどな」 愛息相手にムキになっている新一に、けれど言っている事は間違ってはいなかったから、服部はヨシヨシと新一の頭を撫でてやると、『お前ぇのせいだっ!』とぞんざいに手を振り払われた。 確かに名探偵の推理と言うのは経験と知識と、それらがひらめく推理によって助けられていくもので、それは探偵ばかりではなく、自分のように、犯罪現場に関わる刑事も同じものだった。勘が端緒になる事は少なくはないのだ。それは知識と経験がなくては、確かに当て推量になってしまう。 「経験だけじゃ何もならんさかい、知識を確かなものにするっちゅうのは必須条件やけどな、お前には未だ早いかもしれへんなぁ」 流石にこれ以上話していては、新一が可哀相かもしれないと、服部は足下の我が子の小さい頭を撫でてやる。何よりも、ここで機嫌を損ねさせてしまった場合、クリスマスイブの夜、寝室のダブルベッドで一人寝という、哀しい状況になってしまう。コナンと一緒に子供部屋にでも籠られたら、部屋の前で踊りを踊っても、天照のように出てきてはくれないだろう。 「フ〜〜ンだ、ケチ。いいよ、有希ちゃんに訊くから」 「コナン〜〜」 それは勘弁してくれと、新一は半ば悲鳴のような声をあげた。 「えらい言い躱しや……」 新一の母親の有希子は、当然コナンには祖母に当たるが、けれど有希子はコナンに『おばぁちゃん』と呼ばれるのは嫌と、『有希ちゃん』と呼ばせている。そんなあたり、新一や優作をして、少女のような性格で破天荒という事になるらしい。確かに世界の恋人と謡われ、未だ年齢不詳の美貌の有希子では『おばあちゃん』と呼ばれるのは早いだろう。 「お前ぇの責任だ」 白い頬を綺麗に桜に染め、新一は服部の後頭部を殴り倒した。 「せやから、籍入れよ言うとるやん」 「……お前ぇ〜〜その責任じゃねぇっ!」 何ほざいでやがる、新一は足蹴にしたい心境で、服部の後頭部を殴ると、 「もぉ知らねぇっ!」 キッチンへと歩いて行ってしまった。 作りかけの料理が未々残っている。ちょっと旦那と子供の様子を覗きにきてみれば、下らない会話で疲れてしまったと、新一は作り掛けの料理に取り掛かってた。 「コナン、あかんやろ、新一怒らせたら」 「なんでお母さん怒っちゃったの?」 コナンには、母親が怒る理由が判らないのは当然で、だから父親にキョトンとした眼で問い掛けてしまっていても、無理はないだろう。 「なんでってなぁ〜〜」 流石にこう面と向かって問われると、言葉に窮する服部だった。 「じゃやっぱ有希ちゃんに訊くからいいよ」 「お前なぁ〜〜新一泣くでぇ」 そんな事を、真顔で有希子に訊いたりしたら。 「お母さん泣くの嫌やろ?」 「泣くの?」 「泣くな」 「フ〜〜ン」 「……お前、もちっとこぉ子供らしい反応ないんか?」 ほんまお前、工藤がコナンやった時ソックリや、服部は内心で脱力する。 育て方が悪かったのか?環境か悪いのか?服部はらしくもなく父親の嘆きを味わっていた。 「コナン、お前お母さんみたいな名探偵になりたいんやろ?」 それはコナンの口癖だった。元々が東西の名探偵の血筋を引いているから、当然のようにコナンはそんな言葉を口にする。 「ウン」 そう頷く時だけは、まろい瞳に子供らしい光が滲み、喜々として頷くコナンだった。 「せやったら、人が泣く事はしたらあかんで。探偵は、困ってる人助けるんが仕事や。せやからな、サンタがおらん、んな事言ってたら、探偵にはなれへんで」 足下にチョコンと座る小さい躯を膝の上に抱き上げる。 「なんで、だってサンタなんていないよ?プレゼントは、お父さんやお母さんが、夜枕元に置いてくんだから」 「お前が可哀相なんは、歳不相応ないらん知識、持っとる事やな」 「可哀相じゃないよ」 父親の台詞に、コナンは反駁する。 「ほんま、新一ソックリな奴ゃな…」 我が子の反駁に、服部は深い苦笑を漏らした。 知識がなければ探偵は勤まらない。まして名探偵と言われる程に優秀で、稀代と言われてしまう程の名探偵は、知識を確かに持つ経験と、それによってひらめく記憶力がなければ成り立たない。推理は総合的なものだ。 その過程で、新一がどれ程傷ついてきたのか?新一とて、知識を記憶するだけの頭脳がなければ、名探偵と言われる事はなかっただろう。その称賛が、どれ程新一を傷つけてきたのか服部は知っている。いるからこそ、轍は踏ませたくはないし、それでも選ぶというのなら、傷つく精神の高さも必要だった。幼い子供に判る筈もないけれど。 「知識は持ってるだけやったら、何の役にもたてへんって事だけは、よく覚えとくんやで」 それは幼い頃、父親から託された言葉だった。こうして自分が託す立場になると、その時の父親の気持ちの欠片でも、判る気がした。 「新一綺麗やろ?」 「ウン、綺麗だね、お母さん」 躊躇いもない言葉に、服部は少しだけ苦笑する。そう笑った子供の顔は、これ以上ない程子供だったからで、やはり歳不相応の知識は持っていても、母親に甘えたい盛りなのだと判って、安心する。 「新一が綺麗なんは、色々な人助けて、助けた分だけ傷ついて、それでも立ってられるからなんやで」 高潔な魂が愛しいと重い、綺麗だと思う。 「判るか?」 向かい合わせに膝に座らせた子供を覗きこめば、『難しいよ』と首を振る。 「サンタが世界中で愛されてるんは、プレゼントくれるからやないんやで。お前サンタがプレゼントくれる意味、知ってるか?」 「ん〜〜と、確か」 本で読んだサンタの記憶を漁って、コナンは考え込むと、次に明るい顔で応えた。 「嵐で潰れそうになった船助けたりとか、お嫁に行く女の人に、お嫁入り道具の買うお金あげたりとか、だった」 「そや。人を助けて、倖せにしとるからなんやで。サンタがしたプレゼントっちゅうのは、人を倖せにする為の心やったんやで?せやからな、サンタはおるんや。人の中に。人を倖せにしたいっちゅう心がサンタっちゅう人なんや。探偵も一緒や。人を倖せにしたい思うん心、なくしとる奴は、名探偵にはなれへんで」 真実を追求する事は人の深淵を凝視する事で、決して倖せばかりとはいかないのが現実だけれど。 傷つく誰かの痛みが新一に事件を説かせて行く。真実に近付けさせていくというのなら、それは救いたいからなのだと、服部は思う。救う事が、イコールで倖せに結び付くとばかりは限らないけれど、それでも。新一は、痛みに悲鳴をあげる誰かの声を、間違う事なく聞き分ける耳を持ち、真実を見つける眼を持っている。そして傷つき痛みを孕んでも、決して真実から眼を逸らさない精神の強さを持っているから、それが愛しく綺麗で、怖いと思う。その潔い高潔な魂が。 「難しいか?」 幼いまろい瞳を覗き込めば、小さい眼差しは、服部の言葉を理解しようとしているのだろう。何か考え込んでいる。 「まぁ今すぐ判れっては言わへんけどな」 ちょっと難しかったかな、服部は笑う。 「ん〜〜それって、僕がお母さんには笑っててほしいっていうのと同じ?」 「笑っててほしいか、そういん所は、お前俺の血筋やなぁ」 笑っていてほしいと、切実に願い、祈ってきた。数奇な運命に翻弄された新一に、けれど笑顔を失ってはほしくなかった。そうと願って、祈ってきた。 こんな所は自分と似ていると服部は思う。 「コナン〜〜ケーキ飾り付け始めるぞ」 キッチンから、泡立て気片手に新一がヒョイッとリビングに顔を出す。 「ハ〜〜イ」 元気に返事をすると、ピョンッと服部の膝の上から飛び下りると、キッチンへと走って行く。 「俺も手伝うわ」 「服部」 腰をあげた服部に近付くと、 「お前、やっぱいい父親だよ」 「工藤?」 「俺、あんな事考えて、子供に言って聞かせてやれねぇもん」 今更ながら、母の言って言葉の意味が、判る気がした。 「サンタクロースの意味なんて、俺考えた事なかったし」 「俺も別段考えた事なんてあらへんけどな。なんやそう思っただけやし」 スッと、長い腕が細い腰を引き寄せると、 「だったら今夜、ご褒美くれへん?」 「褒美って事は、こういう時だけでいいって事だな?」 引き寄せる手の甲に軽く戯れるように爪をたてると、新一はクスクスと笑った。 「ねぉお母さん」 キッチンからコナンが顔を出した。手には生クリームがホイップされているボールを持っている。 「サンタがプレゼントくれるなら、可愛い弟か妹がいいな」 「ヘッ?」 愛息の台詞に服部は眼を点にさせ。新一は手にしていた泡立て気を床に押して、頬を紅潮させている。 「マリア様はキリストしか生まなかったけど、お母さんは生めるでしょ?」 邪気のない笑みの前に、新一は首筋まで朱を散らし、 「服部〜〜〜〜」 地の底を這うかのような声に、 「俺は無実や〜〜何も言うとらん〜〜」 服部は盛大に首を横に振る。 「だってお母さん警察の救世主だから、イエスキリストと同じでしょ?」 「そりゃ一体全体、どういう理屈や〜〜」 スッカリ眼の据わった新一の前に、コナンの笑顔の全快の声は、けれど服部にはそら恐ろしい呪文のようだった。 「やっばお前ぇは今夜一人寝決定だッッ!」 新一の怒声が響く。 工藤邸のイブの夜はこれからが本番。パーティーはもうすぐ。 |
| コメント なんかもぉ今、脳髄爛れ腐ってるっちゅうか、本当溺れてんなっていうか・・・。服部に溺れている管理人同様、とどのつまりウチの工藤さんって、服部に溺れてんのね。否服部はもぉ溺れきって、工藤さん愛してるけどさ・・・。 |