WINTER Bell














 上機嫌で、鼻歌まで歌ってキッチンに立つ息子の背を見詰め、工藤有希子は引退して20年経った今でさえ、世界の恋人とまで謡われる女優とは思えぬニンマリとした笑みを浮かべ、ネコ科の小動物のように、上機嫌の息子の背後へと忍び寄った。
「新ちゃ〜〜ん」
 忍び寄ると、20歳を超えても華奢さを感じさせる細い肢体を抱き締める。
「ご機嫌ねぇ〜〜」
 息子の肩口に細い頤を乗せた。
「母さんっ!なんだよ」
 他人の気配を読むのは、幼少より武道を嗜んできた服部程ではないにしろ、得意としてきた筈だった。が、長年慣れ親しんでしまった母親の気配は、読むには値しないものなのか、あるいは母親が気配を殺す事が得意なのかは判らないが、突然気配なく抱き締められては、たまったものではなかった。
「危ないじゃないか、今包丁使ってんだぞ」            
「だぁってぇ。新ちゃんってば、珍しい程ご機嫌じゃない。なぁんで?」
 ねぇねぇと、背後を振り返った息子に、瀟洒な面差しを突き出し覗き込む。
20歳を超えても、繊細と言われる面差しは、自分と何処か似ていると有希子は思う。 
「んな事ねぇよ」
 母親の指摘に、途端憮然となる。
とっくに40も回っている年齢が、驚く程少女めいて見える母親の貌。とても自分のような息子が在るとは思えない年齢不詳差さは、相変わらずだと新一は脱力する。
「そんな顔しないの。美人さんが台無しよ」
 チョンと、白い繊指が、白い額を軽く小突く。
「……服部と同じ台詞言うなよ母さん。息子相手に何が美人だよ」
 眼ぇ大丈夫かよと、新一は呆れた顔をする。この場合眼じゃなく頭だなと、新一は軽口を叩く。
「服部君が、半月ぶりに帰ってくるんだもん。そりゃご機嫌にもなるわよね」 
 フフンと、母親が笑うのに、新一は憮然としたまま、
「そんなんじゃねぇよ」
 ぶっきらぼうに口を開いた。
「キャリアの現場研修なんて、所轄じゃお荷物なのに、馴染んで捜査現場駆け回ってるっていうじゃない?それも警部で、刑事課の課長補佐のキャリアがね」
 服部は、父親と同じ途を歩き出していた。
T大法学部在籍時、国家T種試験に合格、同時に、司法試験にも合格し、警察庁に途を定め、府中に移転した警察大学校に入寮。現在は警部として現場研修中だった。が、課長補佐として、おとなしく刑事課のデスクに座っている服部ではなかったから、課長補佐の立場をフル回転し、今ではちゃっかり捜査現場に顔を出している。
「服部君ってば、キャリアでまして所轄の捜査員なんて、捜査本部にだってそうそう投入されないのに、捜査本部に入り込んで、ちゃっかりデスクに居座っちゃったって言うじゃない」
 捜査本部のデスクは、一課長や管理官の席、そうして所轄の署長や刑事課長の席が設けられる。そのデスクに、服部はちゃっかりと自らの席を用意してしまったキャリアだった。そしてきっと近い将来、何代目かの一課管理官になるのだろう。
「おかげで半月も帰宅できなくなっちゃったのよね」
「服部らしいっちゃ服部らしいよ。あいつがおとなしく捜査の外で我慢なんてしてるわけ、ねぇんだから」 
 服部も、自分と変わらぬ高校生探偵と言われてきた人間だ。警察官僚の途を選び、旧態依然な縦割り構造の弊害を理解しているとはいえ、捜査の外で我慢できる性格をしてはいない。
「さっすが新ちゃん。旦那の事は、よく判ってるわねぇ」
「母さん、父さんが執筆修羅場でホテルに缶詰だからって、息子揶揄って遊んでないでくれよ」
 些か母親の相手をするのもゲンナリした新一は、クルリと背を向けた。
「新ちゃん、コナンちゃんは?」
「昼寝。午前中母さんが振り回した所為で、今はグッスリ昼寝中」
「エ〜〜」
「何がエ〜〜だよ。暇潰しに人んちの一人息子で遊ばないでくれよ」
 付き合ってられないと、新一は再び綺麗に包丁を操り出した。
「人んちって酷い〜〜コナンちゃん、ママには孫になるのにぃ」
 ひどいと、有希子は大袈裟に新一の背で騒ぎ立てる。
「孫が可愛かったら、少しはおとなしくしててくれ。起きちゃうだろ」
 珍しくも折角昼寝をしているのだからと、新一はリビングにある一人息子に視線を向ける。
 当然キッチンから、リビングに寝かせている愛息の姿を視る事はできないが、その気配を探る事は可能だった。眼を醒ました気配はなく、新一はホッと胸を撫で下ろす。
 一旦起きてしまえば、寝かしつける事は困難だった。好奇心旺盛で、物怖じしない性格は、きっと自分達双方の血を引いたのだろう一人息子は、勝手に出かけてしまい、眼が離せない。もう少し、物怖じする性格でもいいだろうと恨みたくなる程、二人の1人息子のコナンは、新一や服部に輪を掛け物怖じせず、事件を引き当てる体質をしていた。
「母親しちゃって」
 こんな筈じゃぁなかったのにねと、新一を覗き込めば、
「母親だから」
 シレッと新一は口を開いた。
 自分でも、こんな事になる可能性など、考えてもいなかった。
服部と結ばれて、子供ができる可能性など、通常なら考えない。
「コピーみたいに、そっくりだものね」
 新ちゃんの小さい時そっくりと、4歳になる初孫を、午前中から近所を引っ張り回して遊んできたのだ、有希子は。
「アノ観察力の鋭さっていうのは、新ちゃんだけでなく、服部君の血も交じってる証拠よね。ねぇねぇ新ちゃん、コナンちゃん、剣道やってるんでしょ?パパに似てるの?」
 服部の事を、敢えてパパと呼ぶ有希子に半瞬攅眉したものの、新一は否定する事もない。否定しても、それが事実である以上、すれば有希子に遊ばれる事を、彼の息子を20年以上していれば、学習している新一だった。
「服部が素振りしてるの見て、極自然に竹刀遊び道具にしてたから、まぁ血は争えないんじゃねぇ?」 
 確か服部も竹刀で遊ぶより先に竹刀を玩具にした子供だと聞いた。それを考えれば、コナンはまさしくそうだった。
 服部が早朝素振りしている時は、何処からともなく竹刀を持ち出しては真似をした。それを見て服部は『流石俺の息子や』と、相変わらず少年のような笑顔で笑った。以来、愛息であるコナンは、それが日課となっている。
「新ちゃん惚気〜〜。それってば、服部君の腕が凄いって、褒めてるだけじゃない」
「実際あいつの腕が凄いのは、母さんだって知ってるだろ」
 シレッと言ってしまえる程度には、新一も服部を愛しているのだろう。
快斗や哀に言わせれば、万年新婚夫婦だと言う事になるし、呆れられているのも事実だった。近頃では、言葉の数も覚え、通園している幼稚園児よりはるかに言語発達している愛息が、快斗や哀の真似をして話しているのを聴いて、卒倒しかけた新一だった。
「まぁ元気な子よね」
 好奇心旺盛で、4歳とは思えぬ機敏さで走り回る子供に付き合って、有希子は少しだけ疲れていた。
「でもアレね、流石に事件現場には、連れてってないんでしょ?」
 新一は幼い頃、良く父親の優作に連れられ事件現場に出入りしていた。その過程で、事件現場というものを、肌身で感じて経験してきていた。そうして推理と言うものも、肌身で感じ取ってきたのだ。だから新一は、理論だけではなく、現場から肌身で感じるナニを端緒にする事も必要な事だと理解していた。
「連れてってる」
「連れてってるの?」
「なんだよ、っんなに驚く事かよ」
 父さんだって、俺が物心付く時にはも連れ回してたじゃねぇかよと、新一は反駁する。
「だって、新ちゃん、言ってたじゃない」
 子供は子供らしく育てる。確かそう言っていた筈だ。
新一自身、物心付く以前より父親である優作が事件現場に連れて行き、その才を発見して以来。得たモノ同様、失ってきたものも多いし、何よりも、言葉にできない疵を負って来た息子を、母親である有希子は見守り続けてきた。だからこそ、心底愛息の倖せを願い祈ってきた。それは言葉に出すより遥かに強く、願ってきたのだ。
だからこそ、新一は、子供は子供らしくと言っているのだと、そう思ってきたのだ。  
「仕方ないだろ。事件は待っちゃくれねぇし、コナン一人でおいとけないし、隣に預けるのも頻繁にはできねぇし。何よりやっぱカエルの子はカエルなんだよ」
 竹刀を振る事も極自然に覚えたなら、事件現場にも、極自然に慣れ親しんでしまった子供だった。物怖じせず死体を覗き込むのは、流石に親としてはどうかと考えてしまう一面は在るけれど・・・。今では鑑識の人間に、連れて行かないと、逆に訊かれてしまう事もある。
『コナンちゃんは?』と。
「そりゃねぇ、東西の名探偵の血筋、バッチリ引いてるんだし」
 ついでに言えば、そのIQの高さも、並大抵ではなかった。幼稚園入園テストで、業者が再試験を言い出す程、服部と新一の愛息のIQは高かった。以来、とんでもない場所から、コナンに対してのIQ試験だなんだと言い募る人間もいて、新一にしてみれば、安心できない部分も多かった。
「別にアメリカじゃ、珍しくねえじゃん。頭脳教育。でも日本は未々物珍しい領域だからさ」
 物珍しげに、騒がれるのは御免だった。
「まぁ日本は未々そのへんは、珍しい領域なのよね」
 アメリカじゃ、10歳になるかならないかの子供が、大学生というのだって存在する。
「って母さんさ、夕飯食ってくのか?」
 キッチンで、主婦の井戸端会議的立ち話に転じてしまった親子の会話に、新一は夕飯の支度を思い出す。
「当然」
 新一の台詞に、有希子は胸を張って即答する。
「今夜服部帰って来るって、俺言ったよな」
 人の悪い笑みで新一が笑えば、有希子はサイテーと成長してしまった息子を凝視した。
「何よ何よぉ、官舎住まいなんてゴメンだって新ちゃん言うから、この家だって提供したのにぃ。お夕飯くらい、ご馳走してよ」
 新婚夫婦に思い切りよく工藤邸を提供して以来。日本に滞在中は、工藤邸に滞在する事は稀で、都内のホテルに泊まっている工藤夫妻だった。
「旦那帰って来るから嫌だ」
 ウチ万年新婚家庭だから。
シレッと言う新一に、今度こそ有希子は本気で呆れた。
「新ちゃん、サイテー」
「なんだよ、母さん達に、言われたくねぇよ」
 万年新婚夫婦なのはそっちじゃないかと、新一は言外に滲ませる。
「だって優作ってば、修羅場なんだもの」
「そんなの俺の所為じゃねし、だからパス」
「もっとコナンちゃんと遊びたい〜〜久し振りなんだもの」
「ダメなものはダメ。親子水入らず」
「嘘つき〜〜夫婦さしつさされつじゃない」
「……」
「来年あたり、一人増えてるかしら。次は女の子ね。今産み分けできるって言うし。ああ、でもそうしたら服部くん大変ねぇ。新ちゃんそっくりの美人さんが娘じゃ」
「母さんっ!」
 怒るぞと、新一が真っ赤になった顔で怒鳴ば、有希子はシレッと怖いわねぇと笑ってリビングへと戻っていく。
 そうしてホッと胸を撫で下ろした新一は、次の瞬間にはリビングに走っていた。







        
「起こさないでくれよ」
 子供は天使なんかじゃない。絶対悪魔に違いない。新一は内心で断言している。
確かに寝顔は無邪気で無防備で、天使と言うものがこの世に在るなら、確かにこの無防備さはそうなのかもしれないと思えはするが、起きていたら、絶対にそんな事は思えない。それだけ育児は大変だと言う事だ。
「いいじゃない」
 ツンツンと、寝顔だけは愛らしいコナンの柔らかい頬を、有希子はつついている。
「新ちゃんの子供の時に、本当そっくり」
 可愛いと、有希子は柔らかい頬にキスを贈る。
「ん〜〜」
 その瞬間に、コロンと、小さい躯が寝返りを打つ。
「母さんっ!」
 小声で咎めると、有希子は年齢不詳の表情で、華奢な肩を竦めた。
母親のこんな仕草を視ていると、ついつい自分が子供の時の事を、考えてしまう新一だった。少女のような母親に、確かにあちこち振り回された記憶は数多い。
「ねぇ新ちゃん」
 耳元で、新一に囁き掛けると、新一は嫌そうに顔を潜めた。
「服部くん帰ってくるなら、預かってあげる。夫婦水入らず、したいんでしょ?」
「ウチの息子は、母さんのオモチャじゃねぇぞ」
 冗談じゃないと、新一は母親を睥睨する。
寝返りを打ち、それでも起きない気配に新一はホッとする。
「とにかくさ、もう帰ってくれよ。俺これから、夕飯の支度すんだからな」
「していいわよ。母さん邪魔しないから」
「……十分してるよ」
 ゲンナリと母親の台詞に脱力し、新一は立ち上がる。
「頼むから、今夜はパス」
 半月ぶりで返ってくる我が家に姑が在たら、服部は疲れがとれないだろう。
「奥さんしちゃって」
「してねぇよっ!」
 ダレが奥さんだと、新一は途端憮然となる。母親ではあるが、女房ではないと、常々諦め悪く、言い続けている新一だった。が、効力は何一つなかった。
「アアねぇ新ちゃん、クリスマス、するんでしょ?」
 不意に思い出したように、有希子は新一に尋ねると、新一は嫌そうに眉を顰めた。顰め、
「有るから、巨大モミの木買ってきて、コナン引っ張って飾り付け、んな事考えないでくれよ」
 自分が子供の頃、確か母親の有希子は本物のモミの木を買って来ては、暖炉の前で飾り付けをした事を新一は思い出す。
「しないわよぉ〜〜だ」
「どうだか、前科有りすぎだろ、母さんの場合」
「ツリーだしてないから、訊いたの」
「明日出すよ。服部が、楽しみにしてんだよ。コナンとツリー飾りつけするって」
 だから邪魔はしないでくれよと、新一は念を押す。
犯罪発生率が跳ね上がる年末に、それでも子供とクリスマスツリーの飾り付けを心底愉しみにしている服部を心得ているので、流石に実の母親とは言え、邪魔をしてほしくはなかった。ましてクリスマス当日、非番の確率など、果てしなくゼロに近いのだから。
「勿論、お母様の事は、パーティーに招待してくれるわよねぇ〜〜」
 ニンマリと、人の悪い笑みを浮かべると、
「半月先の話だろ。父さん次の修羅場で、ロスなんじゃねぇの?」
「優作は優作、孫とクリスマスしたかったら、死ぬ気で原稿仕上げるでしょ」
「……確かコナン生まれてから毎年、父さん死にそうになって原稿仕上げてたよな」 
 クリスマスの都度ロスから戻ってくる両親は、父親はゲッソリと窶れ、顔色は死人なみだったと、新一は思い出す。それでも、毎年懲りずに初孫とのパーティーを楽しみにしている両親を、新一はありがたく思っているのも事実だった。
「だからね、今年もパーティーネ」
「わぁったよ」
 少しだけ怠るそうに返事をし、新一はキッチンへと戻っていく。
「新ちゃんケーキは、ノエルよ」
「定番だから、今じゃコナンだって、クリスマスはブッシュ・ド・ノエルって覚えてるよ」
 物心ついた時からの記憶を想起しても、我が家でのクリスマスパーティーのケーキは、ブッシュ・ド・ノエルが定番だった。
「ねぇ新ちゃん、コナンちゃん、何か欲しがってるのないの?」
 キッチンに戻った息子の後を追い、有希子はコッソリと話しかける。
「ウチのチビは可愛くねぇから、サンタなんて居ねぇっ、そう言ってるよ」
 そう言っては、『そんなんじゃ、あかん』と、父親の服部を嘆かしているのだ、二人の愛息のコナンは。
「なぁにぃソレ〜〜新ちゃん母親失格よ」
「何でんな事で母親失格なんだよ」
 有希子の台詞に、新一は包丁片手に、クルリと振り向いた。今時サンタを信じる子供の方が、天然記念物だと思っているのだ新一は。その点、服部と新一に意見の相違があった。
「子供に夢を与えるのは、母親の仕事。現実は確かにサンタは居ないかもしれないけど、でも絶対居るのよ」
「なんだよソレ」
 確か服部も似たような事を言っていたなと、思い出す。
「居るの。夢って必要なの。人間夢を食べて生きてるのよ」
「俺、生憎リアリストだから」
「バカね新ちゃん。夢のない人間なんて、居ないのよ。心の欠片に、絶対持ってるの。子供はね、夢を食べて大きくなるの。それは想像力や感性になって、ちゃんと吸収されてくんだから。だから私達は今、こうして便利な社会に生きてるんじゃない。みんな昔の人の知恵と想像力が構成されて息づいて、これからも受け継がれてくものなのよ?子供には絶対夢は必要なの。御伽話が受け継がれるのは、信じる心、それなのよ。科学でどれだけ証明されても、昔のものって、ちゃんと形変えて今も受け継がれるでしょ?そう言う事なのよ?それを育てていくのは、親の仕事。寂しい人間に育ててしまうのも親の責任」
 判った?
 ひどく真面目な表情をして、有希子は新一を凝視する。
「母さんってさ」
 未だ少女じみた顔立ちをして、それでもちゃんと想いを言葉にできる人間だ。伊達に母親なのではないのだと、新一はマジマジと少女のような母親を見詰めた。
 母親には適わない、そう思うのは、きっとこんな時なのかもしれない。
子供はきっと何処までいっても、どれ程歳を重ねても、親の前では子供なのだろう。きっとコナンが大人になった時、自分もそんな感慨を抱くのかもしれない。
「仕方ないわねぇ。んじゃクリスマスは、母さんがプレゼントしてあげる」
「なぁんか、母さん、服部と似てるな」
「アラ、服部くん、そう言ってる?」
「言ってる」
「いいパパじゃない。感心感心。仕事に逃げない旦那が一番よ」
「んな事ねぇよ、現に帰宅してくんの半月ぶりで、ウチはいつだって母子家庭だ」
「男は仕事が一番なの当然でしょ?だから服部くん、新ちゃんの探偵業、止めたりしないでしょ?できた旦那じゃない」
「……俺はあいつの女房じゃねぇ」
「姦る事姦って、コナンちゃん居て、言う?」  
「……下世話だぞ…母さん」
「真実よ」
 新ちゃんの好きなねと、有希子はクフフと、笑う。
「仕方ないから、今夜は退散してあげる。クリスマス、楽しみにしてるわよ」
 チュッと、綺麗な仕草で投げキスをする。
「母さん、相変わらず若いな」
 するか普通、息子に投げキスを、新一は半瞬脱力しつつ、
「失礼ね、女は歳をとるごとに若くなるの。老けたと思った時点でアウトよ」
 嫌な子ね、有希子は笑うと、軽やかな動きを残したまま、工藤邸を後にした。
「勝てねぇな……」
 きっと一生勝てないだろう、母親には。有希子の鮮やかな後ろ姿を見送って、新一はつくづくと痛感した。




 そして数時間後、捜査本部が解散した服部が帰宅して、二人がどんな夜を過ごしたかは、誰もが想像に容易い一夜だった。



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