| 閉ざされた 悲 鳴 |
SCENE1:解体される肉体と精神
急速なスピードで、光の渦が点になって視界から滲んでは消えていく。夏に向かいつつある季節の夕 暮れは遅い。とはいえ、それなりの時間では、もう周囲はオレンジの光彩に、夜を告げる紫の幕が薄く 引かれ、美しいグラデーションを描いていた。 かろうじて見え隠れする切れ切れの視界は、まるで都心のビル群に遮られ、切り取ったようにしか見 えない光景と同じだと、リョーマは人混みの中。切れ切れに見え隠れする車窓の光景を眺めては、息 苦しさに溜め息を吐き出した。無意識に、白いシャツの胸元をパタパタと開き、肌身に風を送る。それで も肌に触れるのは、湿気の多い日本の夏特有の生温い外気ばかりだった。リョーマは長い溜め息を吐 くと、再び人混みの隙間から見える光景に視線を移した。 切り取られた視界に見え隠れする夕刻の光景は、それでも不思議と、リョーマに帰ってきたのだという 安堵を伝えてくる。 綺麗なものなど、何一つないと言うかのような都会のビル群。時間に支配されているかのように、少し 俯き加減で無機質に行き交う人々。それでも擦れ違っていく人間達は、きっとちゃんと戻るべき場所を 心得ているのだろう。疲れた顔をして、一心に何処かに向かおうとしている、無機質な強さが感じられる。そんな光景が、帰ってきたのだという莫迦みたいな懐かしさをもたらすから、もう随分、この地は自分 の内側で帰る場所になってしまったのだろうと、思わずにはいられないリョーマだった。 『帰ってきた』のだと言う、安堵に込められた言葉を象るその最たるものが、莫迦みたいに自分を慎重 に扱おうとする桃城であることを、リョーマは認めない訳にはいかなかった。あと40程度で、桃城が待っ ているだろう駅に着く。とはいえ。 「最悪…」 平日の夕暮れという時間帯の所為か、リョーマの乗車した電車は鮨詰めの満員電車で、リョーマは最 後尾の車両の一番後ろの壁際に薄い背を凭れ、足許に小さいボストンバッグを放り出し、深々溜め息を 吐き出していた。 周囲は帰宅途中のサラリーマンやOLばかりで、小柄なリョーマの姿態を壁のように押し隠してしまい、息苦しい圧迫感が感じられた。夏に近付く季節と言うこともあって、車両は適度に冷房が入れられて いる。それでも混雑極まる車内の人込みでは、さした役にはたっていないらしく、リョーマは軽い酸欠状 態に陥って、深呼吸する。けれど肺に送り込まれてくるのは生温いものばかりで、一向に涼しくなること はない。 私立中学に通学しているとはいえ、幸いにも青学は徒歩圏内に在る為、ラッシュなど経験したことの ないリョーマは、身動きできない状態に息苦しさを感じつつ、それでも先刻受け取った桃城の、過保護 な性格をそのまま映したかのようなメールに苦笑し、溜め息を吐き出し、満員電車に揺られていた。 空港集合、解散という、青春学園中等部2年の修学旅行は、前年度、桃城達の代までは、恒例行事 のように台湾だったが、新型肺炎の感染を懸念した学園側のとった措置の為、リョーマ達の学年の修 学旅行は、急遽台湾から、国内旅行へと切り換えられていた。この時期、近隣の私立中や高校は、皆 似たりよったりの措置を慣行していた。 それは当然だろう。まかり間違って預かっている生徒に、台湾や香港など旅行に連れ出し感染でもさ せてしまったら、責任の取りようがないし、学園の名は地に落ちるのは必至だ。 リョーマ達二年の旅行先は、九州一週間旅行だった。最初は、修学旅行なら絶対訪れる、太宰府天 満宮に参拝し、九州の名所を巡り、一週間かけての修学旅行は終わった。現在リョーマはその帰宅途 中だった。 文武両道、全力で学び、全力で遊べという校風は、根底に、自分の行動には自分で責任を持ってこ そ自由は与えられると言う、理念を掲げている。そういう考えを校風にしている青春学園の修学旅行は、羽田空港集合、解散という状態になっていた。 けれど団体行動の苦手なリョーマにとって、一週間 の修学旅行は、遠慮したい日数だったから、最後には殆ど個人行動をして、堀尾等に呆れられていた。 そんなリョーマを判っているのだろう。桃城からは鬱陶しい程、旅行先にもメールが届いていた。 朝『起きたか?』に始まり、『はしゃいでないで、ちゃんと寝ろよ』まで、定時連絡のように入るメールに、けれどリョーマは、律義に返信をする性格をしてはいなかった。 思い出したように、その時の気分で『退屈』『飽きた』『テニスしたい』などと言う返信をしては、桃城に『 それも勉強だからな』などという、らしくもないメールが届けられたりして、携帯電話の向こうの、桃城の 苦笑が見えるようだった。 そして今日の朝届けられたメールは、『帰り、羽田までは迎えに行ってやれねぇけど、途中まで迎え に行ってやるから』という、過保護以上のなにものでもないメールが送られて、リョーマを呆れさせてい た。 『あんた部長って自覚、薄すぎ』 届けられた桃城のメールに苦笑し、リョーマが返信したのは、そんなメッセージだった。 テニス部は、連日猛練習の真っ最中だ。青学テニス部は、昨年度中学テニス部全国大会優勝校だ。 今年もその成果を当然周囲から期待されるから、手塚の後を受け継いだ桃城と、大石の後を受け継い だ海堂の責任は重い。その桃城に、自分を迎えに来る余裕などない筈だった。それでも桃城には、『自 分一人がいなくてどうにかなるようじゃ、全国なんて無理だ』という思いが在るのもリョーマには判ってい る。実際桃城はリョーマに向け、そういう科白を言って除けているのだ。 自分という存在が居なくて揺らぐようでは、到底全国は勝ち進めない。桃城はそう思っているのだ。 手塚の後を引き継いだ桃城の、それが強さだとリョーマは思う。奢りもなく、ただ当たり前のように思っ ているそれが、実際強さを要求されるものだとも判っている。大抵誰もが溺れる筈だ。周囲から求めら れることに。けれど桃城はちゃんと判っているのだろう。大会は団体戦だ。一人が抜きんでているからと 言って、勝ち進めることのできる甘いものではないのだと。そして本気で思っているのだ。たかが一日、 自分が居なくてどうにかなるようじゃ、テニス部に先はない。それはしっかり先を見通しているということ と同義語だろう。 そんな桃城だから、しっかり迎えに来るのだろうなと思えば、大概甘やかされている自覚の一つや二 つ、リョーマにも有った。だから羽田に到着した時、桃城にメールを打ったのだ。 どうせ都内まで出たのだから、テニス関連のものを見てから帰りたいと、リョーマは堀尾等と別れ、都 内のデパートのスポーツ店を見て回り、帰途に付いていた。こんなことなら早々に帰宅し、桃城相手に 自宅裏のコートでテニスでもした方がマシだったと辟易する程、車内は混雑を極めていた。元々、団体 行動の苦手なリョーマにしてみれば、修学旅行など行かず、テニス部で練習していたかったというのが 素直な本音だ。けれど修学旅行も課外授業の延長で、出席日数に数えられるとなっては、話は別だ。 そんなリョーマを知るから、桃城が適度な間隔でメールを送っていたことを、知らないリョーマではない。 そういう他者との距離を読むことに長けているのが、桃城の曲者の所以だろう。 桃城が迎えに来ると行っていた駅までは、路線図を反芻しても、40分近く掛かる。40分も、未だこの 状態でいるのかと思えば、二度とラッシュの電車には乗らないと、内心堅く誓ってしまうリョーマだった。 「えっ……?」 リョーマが、鮨詰め状態の電車に、内心罵声の悪口雑言を叩いている時だった。壁際に背を持たれて いるリョーマの隣から、慣れた匂いが漂って来るのに、リョーマの神経は、無自覚に反応していた。それ は桃城と同じ、少しだけ甘さを含むコロンだったからだ。 リョーマとの外出時、桃城は甘さを含むコロンをよく付けていた。それは大抵桃城の衣服に残り香とな って、仄かな香りを漂わせる。 リョーマが旅行中のホテル内で身に付けていたものは、桃城が愛用していた黒い長袖の綿シャツだっ た。それにも仄かな残り香が漂っていたが、それは今着用していない。旅行中着ていた所為か、少しば かり汗晩でしまった気がしたから、リョーマが今蒸すように暑い車内できているのは、学校指定の長袖 のYシャツと、デパートのトイレで制服から着替えてしまった黒いハーフパンツだった。だから今リョーマ に、桃城愛用のコロンの香りが漂って来るのが不思議だった。けれど鮨詰め状態の車内だ。誰かしら 同じコロンを愛用しているのかもしれないとリョーマが思った時だった。 褐色の腕が、細腰に回ってくるのに、リョーマは不思議なものでも見るかのように、隣に佇む男を見上 げた。 「……俺、男だけど?」 男の自分に、痴漢行為をして楽しい痴漢など居る筈もない。そんな莫迦が居るとしたら、部長という立 場にありながら、副部長の海堂に後を押しつけ、途中の最寄り駅まで迎えに来ると言ってしまう、過保 護な悪党程度のものだろう。 そう真剣に思っているリョーマは、自分の容姿には完全に無自覚だからタチが悪いし困ると、桃城が 時折思い出したように言う科白だったが、当然リョーマに効力のある筈もない。リョーマは自分の容姿を、まったく認識していない、無頓着さだったからだ。だから今も、女でもない自分が、痴漢などという標 的になる可能性など、欠片も疑ってはいなかった。 けれどリョーマの科白と男の思惑は別だったらしく、気付けばリョーマの周囲は、まるで囲いのように、大学生らしい男達数人により、外側に対して壁のようなものが作られていた。 それでも、リョーマは未だ気付けずにいた。女ではない自分が、男の欲望の対象に合うなど、瞬時に は判断できなかったのだろう。 此処はアメリカではなく、年々凶悪犯罪が多発するとはいえ、世界では未々治安が良いとされる日本 だ。その日本で、男の自分が欲望の対象にされ、何かされてしまう可能性など、リョーマは欠片も疑っ てはいなかった。 アメリカでは、逆に別段珍しくもない話しだっただろう。地下鉄に乗り合わせていた女性が、数人の男 達に車内で強姦されてしまう。駅の構内で、輪姦されてしまう。治安が最悪のアメリカでは、確かにリョ ーマも身の危険を感じたことがゼロとは言えなかった。けれど此処は日本で、だから大丈夫だという安 心感が、リョーマの防衛本能を半瞬遅らせていた。 「やっ……」 リョーマが気付いた時には、男は完全に抱え込む恰好で、細腰を抱き込んできた。流石のリョーマも、 此処までされれば、自分が欲望の対象にされていると理解したのか、慌てて腰に回った腕を振り解こう と抗ったが、その時には遅かった。 男はリョーマの背後にスルリと回ると、自分の胸板に小柄な姿態を抱き締めていく。 「なっ…!」 幾ら混雑している車内とはいえ、此処まで堂々と行為をしかけてくるとは、リョーマには考も付かなか ったから、男の行動に、綺麗な顔が半瞬歪び、強張って動きが停止する。 抱き込まれた男の腕の中。鼻孔を嬲ってくるのは、桃城と同じ甘いコロンの香りで、リョーマは嫌でも 桃城を思い出す結果に陥っていく。そのくせに、今自分を犯す男が桃城ではない事実に、精神は不均 衡になっていくばかりだ。 桃城と同じコロンを付け、車内で卑猥な行為に及ぼうとしている男の欲望の対象にされている現状に、リョーマは嫌悪で身が竦ませるしかできなくなる。 「やめ……ッッ!」 細腰に男の怒張がグイグイ押し付けられてくる。ズボンの上からでも判るその禍々しさに、リョーマは 無自覚に身を慄わせ、恐怖で色素の薄い蒼眸が瞠然となる。比例し、綺麗な貌が、引き攣っていく。 桃城ではない男の肉棒。欲望の対象にされる恐怖と嫌悪に、必死に抗い声を出そうとした時。背後か ら片手が回り、簡単に口許は塞がれ、悲鳴は喉の奥へと消えて行った。 「んんんっ……ッ!」 生温い掌中に塞がれ、押し止どめられた悲鳴。愕然と瞳が見開かれ、必死の形相が遮二無二男から 逃れようと、抵抗を繰り返す。 「おとなしくしろよ。可愛がってやるから」 耳朶を甘噛み、男は淫猥な息で喉の奥で嗤う。欲情を孕んだその声に、リョーマの躯が身震いする。 桃城以外の男の欲情に曝されるなど、考えたこともないリョーマだ。これから起こることを予感し、躯が 竦み上がる。 「んんっ……!」 抗うリョーマを無視して、男の腕が股間に伸びた。瞬間、リョーマは身を強張らせ、遮二無二抗い、男 の腕の中で、華奢な躯を捩り立てる。けれどそれは却って雄を愉しませるだけの抗いにしかならないの を、リョーマは知らない。 (嫌……ッ!いやぁ…桃先輩…ッッ!) ハーフパンツの上から玩弄される生々しさに、くぐもった悲鳴が漏れ落ちる。けれど周囲の誰もが、リョ ーマの状態に気付かない。それはこの男達の雄が満足いくまで貪られ、精神を壊されて尚、喰われる のを意味しているようで、リョーマの胸に、暗い絶望感が広がって行く。 (助けて…助けて…桃先輩…助けて…桃先輩…桃先輩……ッ!) 桃城以外の手に触れられる嫌悪。欲情に曝される恐怖。桃城になら簡単に溶ける肉体は、けれど今 は竦むばかりで、満足な抵抗もできないでいる。抵抗しようとすればするだけ、手足は強張り、引き攣る 恐怖で麻痺していくかのようだった。 恐慌状態に陥る意識を宥め、リョーマは必死に手足を動かし、逃れようとする。その動きが、ますます 雄の嗜虐を煽情する被虐なのだと、リョーマは気付かない。必死に抗う腕が、突然生温い手に遮られた。 「ヒ…!」 抗う二本の腕は、左右から伸びてきた別の男達に囚われ、細い腕は宙で縫い留められるように、拘 束される。 (助けて……) 「んん……!」 左右に開かれたまま、リョーマの腕は宙に縫いとめられる。その時漸くリョーマは理解したのだ。周囲 に立ち塞がる男達は、グループなのだと。そう理解した時。白皙の貌から一挙に血の気が引き、一過 性の脳貧血に陥った。けれど崩れる事すら、リョーマは許されなかった。 突然、クルリと姿態を反転させられる。 今まで壁に凭れていた躯は、壁に向かって開かれる。こうすることで、周囲には完全にリョーマの姿は 隠されてしまう。男が三人、壁に向かってラッシュの時間帯。鮨詰めの車内に立っているだけにしか見 えない。完全に死角になる。 (桃先輩……あんたなんで…今居ないの……?) 『迎えにいくからな』 修学旅行の前日も、そう言って笑っていた悪党。 桃城は、自分が他の男達に、複数の男達に犯されたと知ったら、どうするだろうか? (それでも俺でいいなんて、あんた言ってくれるの?) ハーフパンツの上から生々しく遊玩してくる、見知らぬ男の手。桃城ではない男の手に嬲られ、否応 なく感じさせられてしまうかもしれない恐怖がリョーマを襲う。 (助けて……) 頑なに瞑った眼の端から、涙が溢れた。 (あんた以外になんて、俺は、死んだ方がまし……) ハーフパンツのポケットに収まっている携帯。桃城から定期的に入ってくるメール。今は助け一つ呼ぶ こともできなかった。 (助けて……桃先輩……ッ!) 雄の欲望を押しつけられ、左右から腕を拘束される。禍々しい淫獣のような気を発して嗤う男達の行 為が、ただの痴漢ですむ筈がない。 情報という知識としては、リョーマも知っていた。車内の痴漢行為というものが、ただ躯に触るだけの 接触行為のものから、エスカレートし、強姦に及ぶ犯罪もあるのだと。とりわけ車内の痴漢が頻発し、警 察が駅構内に痴漢は犯罪だというポスターを貼り、痴漢が頻発する路線などでは、私服警察官や鉄道 警察官が、定期的に巡回しているのは、情報という知識でリョーマは知っていた。けれどそれが男の自 分の身に及ぶとは、考えてもいなかった。けれどそれは今現実のものとなって、リョーマを襲っている。 「んっ…んぅぅ…ん……!」 頑是なく細い首を振り乱し、拘束された腕を揺り動かしても、当然男三人の力に、中学生のリョーマが 適う筈はなかった。 口許は大きい掌中で塞がれ、悲鳴はくぐもった吐息しか吐き出すことはできないでいる。悲鳴も呼吸 も押し殺され、圧迫感が胸を軋ませていく。 「俺達で可愛がってやるから、お前も楽しめよ」 小動物を見つけた肉食獣のような、舌舐めずりする忙しい息が、耳朶を甘噛み吹きかけられる。その 嫌悪に、華奢な躯は益々硬直しいくばかりだ。 壁に向かって開いたリョーマの背後から、淫猥に喉を鳴らす男の手は、いよいよいたぶるかのように、 硬直したまま引き攣る、細身の躯を撫で回し始めた。 「んんっ…」 嫌々と、半狂乱で首を揺すり立てても、声が漏れることはなかった。 「俺達のこっちも、触ってくれよ」 非力な細い腕を、左右からそれぞれ掴んでいる男達が、リョーマの手を自らの股間に導いた。瞬間、 リョーマの肌が、鳥肌を立てる。 (やだ……!桃先輩…!) 桃城ではない男の性器。ズボンの上からでも判る程、確実に欲情し、強引に触れさせられた時には、 更に硬度を増して脈打った。その悍ましさに、リョーマの瞳が凍り付く。 「俺は、この子の可愛い口唇、頂こうかな」 不意の嘲笑に、リョーマは眼前に立つ男の存在に気付いた。最後尾車両の為、内部の照明が消され た運転席との壁。その隙間に、スルリと男が入り込んで、リョーマは前後を二人の男に挟まれる状態に なっていた。その恐ろしさに、繊細に縁取れた貌が表情を歪めたまま強張り、血の色を失って行く。 「口でしゃぶらせたいけど、今できねぇかな」 淫猥に嗤う男の声に、リョーマは意識まで遠のきそうだった。電車の揺れに乗じ、意識まで遠のきそう になる。けれどその時にはしっかり男の腕に囚われ、リョーマは噛付くように、口唇を貪られていた。 「んぐぅぅ……ッ!」 (やだぁっ!) 桃城以外の複数の男達に、車内で強姦される。情報という知識として知ってはいても、誰もがそれが 自分の身の上に起きるとは、考えないものだ。何の根拠もない安易さで、誰だって 『自分だけは大丈 夫』だと思っているのだ。それはリョーマも、別段例外ではなかった。ましてリョーマは男だ。尚更その 意識が強いのは当然だろう。まして男のリョーマにとって、痴漢に遭遇するという状況事態、意識にもな かったことだったから、今現実に身の上に起きている事態に、リョーマは抗う術を一切奪われていた。そ の無力さ、非力さが、けれど逆に雄の嗜虐や征服欲を満たしていく、被虐性なのだとは気付かない。 「んっ…ぐぅぅっ…」 細い顎を固定され、獰猛な獣のように噛み付くように口唇を貪られる。賢明に口唇を堅く引き結んでも、男は簡単にリョーマの口内に侵入を果たした。 (嫌ッッ!) 雄の舌で、口内を散々玩弄される。狭い口内を賢明に逃げる舌。逃げる余地を残して追いかける様は、宛ら小動物を狩る肉食獣だろう。 リョーマは半ばパニックに陥りながら、くぐもった歔り欷きを漏らし、最後には雄の舌に絡め取られ、唾 液を飲み込まされた。白い喉が上下する様が、男達の嗜虐に更に火を注ぐ。サンドイッチというに相応 しい恰好で、リョーマは四人の男達に嬲られていく。 (助けて…嫌だ…助けて…桃先輩…桃先輩…桃先輩…ッ!) 「スゲ…」 強引に、リョーマに股間を撫でさせている男が、興奮した様子でジッパーを下げると、じかにリョーマに 握り込ませた。瞬間、リョーマの姿態が恐怖で硬直し、次には半狂乱で逃げを打つ。歪に歪む、恐怖に 引き攣る表情が、淫獣を刺激する被虐なのだと、リョーマは気付かない。 「ヒ…んん…!」 半瞬上がった悲鳴はすぐに再び塞がれ、口内を思う様凌辱される。先端から濡れた精液を漏らす、桃 城ではない男の雄を、意思を無視して両手に握り込まされ、リョーマはますます恐怖と嫌悪で躯を堅く させる。もう抵抗など、皆無に近かった。 「可愛がってやるから」 背後からリョーマの股間をハーフパンツの上から嬲っていた男は、興奮した荒々しい吐息で嗤うと、一 挙に膝まで下着ごと、ハーフパンツを引き下げた。生温い外気に、白い下肢が曝される。 「ぅんんんっ……ッ!」 くぐもっ悲鳴が、半狂乱で叫ばれる。けれどそれは強引に貪られる口唇の奥に消えていくだけの、空 しいものだった。 (助けて……ッッ!桃先輩………ッッッ!) 桃城ではない男に犯される恐怖に、華奢な躯が恐怖で凍り付く。 男は、すぐにリョーマの内部に入ってくる事はしなかった。殊更ゆっくりジッパーを下げ、剥き出しにし た自身を、必死に抗い逃げようとする腰を固定し、双丘に挟み込ませ、怯える秘花にゆっくり擦り付け始 めた。 (嫌…!嫌だ…ッ!助けて…助けて……!桃先輩…!) 桃城ではない男の肉棒が、確実に擦りつけられ動く都度、先端から漏れる先走りに、秘花周囲を穢さ れていく。雄の怒張はますます脈打ち、硬度を増していくその生々しさに、リョーマは錯乱する。 「んぅぅぅ……ッ!」 凌辱の恐怖に歪む貌が、雄を興奮させていく。 生々しい欲情の前に、犯される恐怖にのたうつ小さい躯。征服し、凌辱する享楽に支配されている男達 に、リョーマの姿は、ただ雄の本能を満足させる小動物でしかなかった。 ゆっくりと、リョーマの双臀に挟み込まれた雄が動き出す。秘花を擦られる慣れた感触に、リョーマは 怯えた。 桃城に慣らされた雌が、身の裡から理性を無視して喰い破っていきそうで、恐ろしくなる。リョーマの 内側に眠る雌は、いつも奔放に振る舞っては、桃城を胎内から離さないのだ。 自分の雌の部分を自覚しているだけに、リョーマは犯される恐怖と同時に、快感を覚えてしまうかもし れない自分の浅ましい肉体の二重に、恐怖が募った。 「んっ…んんんっ…」 嫌々と、半狂乱に頭を振り乱しても、顎を固定され、未だ貪られていては、逃げる事一つできない。 まして腕は左右に囚われ、見知らぬ男の肉棒を握り込まされている状態だ。 (嫌…ダメ…助けて…助けてッッ…桃先輩………ッッッ!) 無理矢理握り込まされている、見知らぬ男達の雄。脈動し、怒張して、先端から精液を漏らしながら、 リョーマの手を濡らしていく。その嫌悪に、リョーマはなす術もなかった。 背後からリョーマの細腰を抱き抱える恰好で犯している男は、リョーマの剥き出しにした幼いペニスに も、容赦のない愛撫を加え始めた。更にはシャツも引き裂く威勢でボタンを外すと、白い肌を露出させる。 「お前、感じてるじゃん。何だよココ」 クツクツ喉の奥で嗤う男に、リョーマは胸の突起を簡単に探り出され、摘み上げられる。 「んっ……!」 ビクンと、躯が跳ねる。 「お前、男知ってるな」 男なら、本来感じる筈のない部分への愛撫に、瞬時に反応したリョーマに、背後から男が嗤う。 「ヘェ〜〜〜」 リョーマの右手を取り、肉棒を強引に握り込ませている男が、淫猥に嗤った。 「んじゃ、こっちも慣らされてるよな」 こっちと、男のペニスが、リョーマの秘花を掻い潜ろうと、先端が潜り込み始めた。 「んんっ!」 瞬間、ビクンと、リョーマの躯が恐怖に跳ね上がる。 「んんんっ………ッッッ!」 (やめて……ッ!やだ…ッ!やだぁ……ッッ!) 細腰を突き出す恰好で持ち上げられ、捏ねるように入り込んでくる肉棒に、リョーマは半狂乱に身を捩 り立てる。 「突っ込む前に、イカせてみろよ。イクの、見てぇじゃん」 ゲラゲラ嗤うようにリョーマの右手を捕らえ、自らのモノを握り込ませている男が嗤えば、先端を潜り込 ませていた背後の男が肉棒を抜き、右下肢を持ち上げた。同時に、背後から口許を抑え、上がるだろう 悲鳴を塞いだ。今までリョーマの口唇を貪っていた男が、リョーマの前に膝を折ると、幼い肉棒をしゃぶ り始めた。 「んんっ…!」 塞がれた口唇の奥で、悲鳴ではない嬌声が漏れるのを、リョーマは何処か遠い意識の外で聴いてい た。 「感じてるじゃねぇの」 リョーマの細腰を抱き抱えている男は、双臀に滾る自身を挟み込み擦り付け、荒々しい欲情に流行っ た息で嗤う。 「んんっ…ぅん…ん…んん…」 「腰振ってるぜ」 「これで、合意だ。お前、感じまくってるしな。男知ってるんだろ?楽しませてみろよ」 「んぅぅ…」 片足を上げさせられた不安定な恰好で、リョーマは抵抗の一切を奪われ、否応なく肉茎を玩弄されて いく。慣らされた躯は、リョーマの意思を無視し、徐々に男達に反応を返し始めていた。 (や…あ…だぁ…桃先輩…桃先輩…桃先輩…ッ!) 「んっ…ふぅぅ…」 桃城以外の男に与えられる、生々しい玩弄。ラッシュで鮨詰め状態の車内で、犯されていく。桃城以 外の男になど感じない筈の躯は、けれど身の裡から浅ましい雌が意思を喰い、腰を捩らせていく。桃城 という一人の男の為だけの売春婦としての雌の顔が、複数に犯される恐怖より、肉体は素直な快楽を 優先させ始めていた。 (助けて…桃先輩…早く…助けて……) 頑なに瞑った瞼から流れ落ちる涙。血の気の失せた面差しが、徐々に血の色を透かし、紅潮していく。けれどどれだけ肉体が意識的に反射しても、リョーマの精神が感じる筈はない。 「んっ…んっ…んんっ…」 途切れ漏れる、悲鳴ではない嬌声。無自覚に、細腰の奥に熱が凝縮し、吐き出したいと、腰が揺れる。 「すげ…淫乱だぞこいつ…」 「ちょっとどっか引っ張りだして、輪しまくりたいな」 リョーマの反応を眺め、男達は淫猥に嗤うばかりだった。 リョーマの幼い肉茎をしゃぶっている男の舌が、丹念に、容赦なく、リョーマを嬲っていく。先端の窪みを 執拗に嬲ると、裏の筋を舌先が玩弄し、竿の根元までを容赦なく口内にしゃぶった。 「んっ…んん…」 しゃぶられ、飲み込むように動かされ、細い背が撓った。 (やめ…んや…や…ぁ…助けて…助けて…早く…) 「んっ…!」 (嫌…イッちゃ…出ちゃう……桃先輩……ッ!こんな…こんなの……ッ!) 「んくぅ……ッ!」 白皙の面差しが一挙に紅潮し、片足を抱え上げられた不安定な状態で、リョーマは見知らぬ男の口 内に、吐精を余儀なくされていた。 (助けて……ッッッ!) 絶頂の悲鳴は声になることはなく、白い喉元を淫靡に曝し、薄く細い背を撓わせながら、リョーマは細 腰を顫わせ、絶頂に達した。周囲の男達が、声を潜めてゲラゲラ嗤う。 (桃先輩……桃先輩…桃先輩……) 吐精の余韻に浸れる筈もなく、リョーマは脱力した躯を、今度は背後に腰を突き出す恰好で引き上げ られ、瞬時に背後の男の雄が、捏ねるように幼い胎内に挿入を開始した。 「ヒィ…!」 両腕で細腰を抱え上げられ、怒張を穿たれ、吐精し脱力していた躯は強張り、凄絶さに蒼眸が凍り付 く。 (助けて……ッ!) 「スゲ……こいつマジいい」 一挙に根元まで幼い胎内に根元まで埋没させた男は、呻くように歓喜の声を漏らし、細腰を揺すり立 て、動き出した。 「きつ…たまんねぇ…」 強張る精神とは裏腹に、躯は官能より何より、慣らされた反射で、胎内の雄を締め付ける。強引に開 かれた秘花は傷つき、鉄の匂いが立ち上ぼっている気がした。 意思を無視して押し込まれる異物。強引に内側から開かれていく悍ましさに、リョーマには快楽など 微塵も遠いものだった。 「早く代われよ」 力の抜けきっているリョーマの指先を自身に絡ませ、思う様擦り付けながら、雄が嗤う。もうリョーマに は、抵抗の欠片も残されてはいない。ただ獣の欲望の前に、抵抗を一切奪われた華奢な躯が、律動の ままに揺すられていく。歪に歪んだ眼差しからは一挙に光が抜け落ち、吐精の為紅潮した頬は、今は 血の色が抜け、一切の表情が抜け落ちている。 (ぬ……いて……ぬいて…出して……出てって…) 胎内で絶対的質量を増していく異物。捏ねるように蠢き、自身の快楽だけを追っている男に、リョーマ はただの玩具に等しいものだろう。 (桃先輩……ゴメンね………) どれ程の軽口を叩き、小生意気な態度をとっても、リョーマにとって、躯を重ねる接触を持つのは、桃 城だけでしかなかった。たとえ其処にリョーマの意思が介在してはいなかったとしても、リョーマにとって、これは桃城への裏切りでしかなかった。 (あんた莫迦みたいに、俺のことばっか甘やかしてるのに…) 内側を守ってくれる者。優しい言葉で、柔らかい気遣いで。いつも守ってくれる者。でももう、守ってもら う資格すら、自分は失ってしまったと、表情の落ちた貌の中。涙だけが、頬を濡らして行く。 「ぅっ……」 忙しく胎内で動き回っていた男が、軽く呻いてリョーマの胎内に射精を果たす。その瞬間、リョーマは 怯えたように、身を引き攣らせた。 (嫌……ッッッ!) 男が胎内から出て行く時。鼻孔を嬲ったのは、桃城と同じコロンの匂いだった。 (桃先輩…桃先輩…桃先輩…あんたと同じ匂いなのに…あんたじゃない…) 日常的に、中学生の桃城が、コロンを愛用する事はなかったが、二人だけで出掛ける時。桃城はコロ ンを使っていた。その桃城と同じ匂いが、自分を犯す男から漂ってきて、リョーマの精神は更に壊されて いく。 (なんで…あんたじゃない……?あんたなら…良かったのに…) これが桃城のタチの悪い悪戯なら、怒ってそれですんでいた筈だ。犯されるプレイを愉しむ程度で、す んだ筈だった。 男が呻き、ズルリと擬音を響かせ、胎内から出て行った瞬間。トロリと白濁とした馴染みのある感触 が、下肢を犯していった。 (あんたじゃないのに……) 下肢を伝う馴染みのある感触に、リョーマは堪え切れなかった。桃城のものではない男が胎内を犯し、射精していった証し。そんな事実が、リョーマに堪えられる筈もない。 (桃先輩………ゴメンネ……) 莫迦みたいに優しい笑顔が、急速に遠のいていく。 「次は俺だぜ」 崩れそうになる細い躯を、待ってたとばかりに、背後から別の男が串刺しにする威勢で、再びリョーマ の胎内に潜り込んだ。 「ぐぅぅ……」 強引に押し込まれてくる異物を吐き出そうと、柔襞が竦む。意識の外で、躯が引き攣った。 「マジ具合いいぜこいつ」 リョーマの意思を無視して、男は勝手に幼い躯を貪り、欲望を吐き出していく。 (桃先輩……) 『迎えに行くから、ちゃんと待ってろよ』 (こないで……) こんな自分を、見せられない。聡い桃城に、気付かれない筈もない。元々他人の機微を読むことに長 けている桃城だ。ましてリョーマに関しては、誰よりその機微を見抜くことに長けている。それは時には、リョーマが意識するより早く、リョーマの内側を読むのに長けている程だ。そんな桃城が、リョーマの身 の上に起こった惨状に、気付かない訳はないだろう。 (こないで………) 痛烈に会いたくないと思う傍らで、けれどリョーマは、全く正反対の向こう側で、願ってもいた。 (早く…早く…助けて……) 解離する精神に、リョーマの身の裡の何処かで、悲鳴が上がった。 (桃先輩………ッッッ!!) また、誰とも分からぬ見知らぬ雄の精が、胎内で吐き出されたのが判る。男が呻いて、ズルリと擬音 を立て引き抜かれ、また打ち込まれる。 (助けて………桃先輩……ッッ!!!!) 人形のように落ちた表情が虚ろに桃城を求め、雄の凌辱前に、リョーマは躯を投げ出しているしかな かった。 聞き慣れた着信音に、リョーマは人形と変わらぬ、落ちた貌をノロノロ上げた。 気付けば、周囲はラッシュから開放されたかのように人込みが失せ、散々リョーマを犯していた男達も 消えていた。まるで白中夢のような、足許のおぼつかないタチの悪い夢のようではあったが、それが夢 ではないのは、悲鳴を上げ、軋みを訴えている躯で判る。 躯は、まるで自分のものではないかのように安定さを欠き、リョーマは打ち棄てられた人形のように、 両手はダラリと脇に放り出され、力なく車内の床に、崩れるように座り込んでいた。 呆然自失というよ り、一切の光が抜け落ちている眼差しは、ただ虚ろに宙を彷徨っている。 半端に脱がされているシャツ。リョーマを犯した男達が、一体何回胎内で欲望を吐き出したのかも判ら ない。ただハーフパンツは無造作に引き上げられていた。それでも、下肢を伝わる何回分かも判らない 精液が、内股にこびりついているのが生々しく判る。 周囲の人間達が、遠巻きにリョーマを見ていた。リョーマの身の上に起きたことを、薄々は感じ取って いるのだろう。 そんな時だ。壊れていても可笑しくない状況で、ハーフパンツに無造作につっこんでいた携帯の着信 が鳴った。その音に、無表情だった貌が半瞬強張り、リョーマは携帯をのろのろ手に取った。 乱暴に下ろされたパンツの中に突っ込んでいた携帯は、奇跡的に壊されることはなく、小さいディスプ レイに映し出されたメール着信の表示に、リョーマは受信ボタンを押した。 『悪い、5分くらい遅れる。ちゃんと待ってろよ』 たった数行の、桃城からのメールだった。 いつもいつも、毎朝毎朝、桃城の自転車の音で覚醒するに等しい程起床しないリョーマを、苦笑と呆れ で『お前も、本当学習しないな』と笑っても、桃城が心底怒ることはなかった。そのくせに、たった5分程 度の時間、リョーマを待たすのは嫌なのだろう桃城のその気遣いが、リョーマには哀しかった。 「………桃先輩……」 聞き取れるか聞き取れないか掠れた声が、桃城の名を呟いた。 |