| 罅割れた悲鳴
RISKY
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瀟洒な外観を誇るマンションを眺め、桃城は深い苦笑を漏らした。 セキュリティがマンションの売りの一つにもなっているこのご時世に、大したセキュリティを持たない管理人付のマンションは、確かに自分にも周囲にも無頓着なリョーマらしい住まいなのかもしれない。 瀟洒な外観同様、瀟洒な強度ガラスの扉を開けると、其処は小さいロビーがあって、エレベッターが2台設置されている。 中学卒業以来、数年振りに会うリョーマに、桃城は教えられたマンションを尋ね、そして今リョーマに会う為、エレベーターに乗り込んだ。 簡素な住宅街にある所為か、昼間のこの時間帯は、マンションの住人にも会う事はなく、桃城は5階建てのマンションの最上階に簡単に行き着いた。 最近新築されたマンションらしく、エレベーターは大した振動もなくスムーズに最上階に辿り着いた。 チンッと鈍い音を立て開かれた扉から先は、リノリウムの廊下が続いていた。 手塚により教えられたリョーマのマンションと部屋番号。 手塚に教えられたというのが、甚だ不本意で、腹の底に煮える感情が有りはするが、到底手塚に適う筈もない自覚のある桃城は、リョーマのマンションの住所が書かれているメモを手渡された時、突っ撥ねる事はできなかった。 結局、過去を振り返ってみても、リョーマが自分達の関係を、どう思っていたのか判らない。 何も知らなかったリョーマを力で奪い、其処から始まった関係だから、桃城には常に後ろめたさと、幼い無垢な躯を力で奪ったという罪悪が混在していた。それは幼いリョーマを雄の欲望で穢がす事はできないと、桃城なりに自戒していた最後の限界点が切れてしまった結果だったが、力づくの行動に、言い訳が通用する筈もない事は、冷静になった桃城には嫌と言う程痛感していた事だった。けれどリョーマは桃城を受け入れた。 引き裂かれた下肢に伝う血をこびり付かせたまま、散々上げた悲鳴で声は掠れ、けれどリョーマはその時ハッキリと言ったのだ。その時のリョーマの声は、今も桃城の身の裡に静かな声となって残っている。 甲高い悲鳴を上げ、遮二無二に暴れていた手足を強引に押さえ付け、一切の抵抗を封じ、力で下肢を開き、嫌がるリョーマを奪った。 誰の手にも触れさせた事のなかったリョーマの幼い肉茎に触れ、強引な程の舌戯と指淫で絶頂にイカせ、吐精で脱力し、放心している力ない下肢を裂く程開き、未開の肉の入り口に力で自身をねじ込んだ。 耳を劈く程の絶叫、繰り返される哀願。それさえ無視して捩じ込み犯し、狭くきついリョーマの幼い胎内で、快楽を貪った。 情後、理性が冷静に立ち戻った時。自分も結局雄でしかなかったのだと、桃城は腹の煮える感情の中で痛感した。 力なく横たわる姿態は、雄の精液で汚れきって、下肢は無残な行為を示すように、血で汚れていた。汚辱の限りを尽くされたリョーマは、もう抵抗も何もかも無駄なものだと悟ったのか、行為の後も力なくベッドの上に横たわったままだった。 声も無く立ち尽くすばかりの桃城に、けれどリョーマは力の無い表情で、けれど声だけは掠れていても、ハッキリと桃城の耳に届く力を持っていた。 『言う事、あるんじゃないの?』 表情の落ちた貌から発せられるとは思えない、力のある声だった。 『謝る言葉なら、いらない』 散々に無残で理不尽な桃城の行動で疵付けられたリョーマにしてみれば、謝罪など何一つの意味はなかったのだろう。 『違うよ、あんた自分で思ってるより、莫迦だね』 謝罪の言葉しか口にできなかった桃城に、リョーマは力のない腕を桃城に伸ばした。 『俺は、謝ってほしい訳じゃない。あんた、何で俺を抱いたのか?ただ傷付けたかった?』 それでも、謝る事しかできなかった桃城に、リョーマは力ない躯で溜め息を吐き出し、 『言葉が違うよ、桃先輩』 伸ばした腕が、桃城に触れた。 『あんた本当に、莫迦………』 『こういう時言う言葉は、別の筈じゃん』 想起は、其処で中断された。 足音を吸収するリノリウムの廊下を歩き、桃城は一室の扉の前で足を止めた。止め、精悍な造作が怪訝に攅眉する。 黒い重厚な扉。小さい表札には、ローマ字で越前とだけ書かれていた。てっきりもう一人の名前が有る物だと、思い込んでいた。 リョーマは中学卒業と同時に、手塚の後を追うように、アメリカに留学した。その時リョーマより一つ年上の桃城は、やはりアメリカに留学していてが、桃城より更に1年年上の手塚が留学した先とは違う場所を選んでいた。そこはかつて南次郎が指導員として勤務していたスクールだった。 手塚もリョーマも、桃城も、三人ともアメリカではもう名の知れたプロテニス選手になっていた。特にリョーマはかつての侍の後継者として、デビュー当時から脚光を浴びていた存在だった。 元々、リョーマにはアメリカでの下地はあった。中学入学当時までリョーマはアメリカで育ち、父親の周囲に集う大人達により、言葉より何よりも、肌でプロというものを感じ育ってきた。そしてリョーマ自身、アメリカのジュニア大会で4年連続優勝をしている逸材だったから、当時リョーマが日本に渡る際には、アメリカテニス協会からの妨害活動も行われていた程だと、桃城が知ったのは、実際当時のリョーマも席を置いていた、南次郎の居たジュニアスクールに留学して、知った事だった。 実際冷静になって考えてみれば、それは当然の事だろう。 稀代の選手の可能性の有るリョーマを、みすみすアメリカのテニス協会が、手放したがる筈はない。何よりリョーマは、アメリカでは未だ熱狂的ファンが居る南次郎の息子であり、彼の西えなかった夢を成し遂げる存在として、リョーマの意思は綺麗に無視され、その存在は当時から注目されていたのだ。 桃城のテニスが今のテニス界の主流である力のテニスなら、リョーマのテニスはスピードだった。様々な技巧を尽くした玄人好みの技術を、リョーマは既に自分のものにしていた。 日本ではメジャーではないテニスも、三人もプロテニス選手を排出した青春学園は入学希望者も増え、テニス部はそれこそ此処2、3年は、入部希望者数が100人を切る事はないという事態になっているとは、大学に進学した菊丸から聴いた話しだった。 アメリカでプロデビューした三人は、けれど面白い程拠点は日本に置いているから、こうしてリョーマも実家ではなく、都内のマンションを借り、時間の有る時はこっそり帰国して、日本で過ごしている。 元々日本でテニスはメジャーではない分、極度の干渉も、アメリカに比べれば随分とおとなしい部類のものだったのだろう。さしたセキュリティーシステムのないマンションを借りてしまえる程度には、リョーマは相変わらず、自分の事も、周囲の事にも無頓着だった。 彼の姿は、試合会場やテレビで知ってい桃城だった。けれど実際会うのは中学卒業以来だ。リョーマも伸長はそこそこ伸びたが、桃城も伸びている為、その身長差は相変わらず埋まらない。けれど確実に変わってしまった互いの距離に、今更会って何をしようというのか、桃城にも判らなかった。 たっぷり数秒躊躇って、小さいインターホンを鳴らせば、内から返事もなく、扉が開いた。警戒心がないのまで相変わらずで、桃城は苦笑する。それとも、他に来客の予定でもあったのか?そう考えれば、自分にメモを手渡した手塚を思い出し、苦い思いが胃の腑を重くさせた。 「……桃先輩……?」 いる筈のない人間を眼にした驚きで、リョーマの大きい眼は、瞠然となっている。相変わらず目線の下に有る小作りな顔に、桃城は笑い掛けた。けれど巧く笑えた自信はなかった。 「住所聴いてな」 どう言えばいいのか、言葉が巧く出てこない気がした。何より瞠然となっているリョーマに、遠のいた距離を実感する。 「……部長に……?」 テニス関係と身内以外では、手塚にしかこの住所は教えていなかったから、桃城が居ると言う事は、手塚が教えたと言う事なのだろうと、リョーマは桃城を見上げた。 「相変わらず、『部長』なんだな」 可笑かった。二人の間でなら、もっと違う呼び方があると思えたから、相変わらず手塚を『部長』と呼ぶリョーマに、桃城は笑った。 確かに自分も手塚の事は、今でも『部長』と言う呼び方以外できないから、お互い様なのだろう。けれどリョーマが桃城を『桃先輩』と呼ぶ事には何の抵抗もないのだから、桃城は何一つ判ってはいないのだろう。 「入る?」 憶する事なく言うリョーマに、桃城は半瞬戸惑った。 リョーマの中では、もう何の蟠りも消化されてしまったものなのか?そう思えば、一抹の身勝手な寂しさが湧いた。同時に、手塚に言い様のない嫉妬を覚える。 青学中等部時代、自らのテニスを模索していたリョーマのテニスに力を与えたのは手塚で、手塚が、特別リョーマに眼をかけた事は知っていた。リョーマも、高校級と言われる手塚のテニスに対し、特別なものを持っていた事を知っていた。けれどそれはあくまでテニスという一面だけだと思っていた。 テニスに対しての憧れ。そう思ってきた。けれど、実際当時のリョーマは、自分と手塚の間で、揺れていたのだろうと、今なら桃城にも判る事だった。 強引に奪う事しかできなかった自分と、リョーマのテニスに力を与えた手塚と。競っても最初から答えなど出ている。 「警戒もないんだな」 歪んだ笑みをしていると言う自覚は、桃城にもあったが、覚えた嫉妬を消す事はできなかった。そう思えば、成長など全然していない、そう思えた。 「繰り返す程、莫迦じゃないでしょ?」 桃城の科白に、一瞬怯んだリョーマも、次には表情を消すように、酷薄な笑みを漏らした。漏らし、桃城を促した。 「莫迦だったら、どうすんだよ?」 玄関に入り背後で鍵を締め呟いた桃城の科白に、リョーマは振り向いた。 視界に入ったのは、自分に腕を伸ばしてくる、懐かしい桃城の腕だった。 懐かしいと思った瞬間には、室内に引きずり込まれ、リビングに押し倒されていた。 |