性感帯
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 初冬の足音が近付いて来たある日のことだった。
一体いつ仕事をしているのか甚だ謎な南次郎は、居間の畳の上に仰向けに寝転がり、
読むともなく雑誌を眺めていた。それは珍しくも南次郎が愛妻に隠れ、リョーマには呆れら
れ、姪の菜々子には叔父様のスケベ!と問答無用で取り上げられてしまう、女性の水着
ばかりを掲載している男性雑誌ではなく、菜々子が買って来て、一通り眼を通したのだろ
う。居間に放置してあった女性雑誌だった。
 尤も、菜々子は他人の醜聞を売りにしている三流週刊誌を読んで楽しむ趣味はない人
間だったから、きっと何かの暇潰しに購入し、さして面白い記事もなく放置していた、きっ
とそんな所なのだろう。
 南次郎はさして面白みのない記事に眼を通し、とあるページで手を止めた。
「フーン?」
 女性週刊誌を読んでみれば、男性雑誌とさして違いのない記事内容が点在しているの
に、南次郎は面食らった。
 こんなものを平然と読んでいるのだから、水着姿の女の出てくる写真を見て、今更純情
ぶって見せることはないだろうと、南次郎は姪の、そんな時は完全に面白がり驚愕のポ
ーズを作る、何処かリョーマと似た容貌を持つ綺麗な貌を思い出す。
 言葉にこそ出さないが、南次郎には姪である菜々子の男性関係などお見通しだ。伊達
に未だに青学テニス部顧問であり、恩師の竜崎スミレから『曲者』と言われている南次郎
ではない。姪の交遊関係など、今更だ。
 元々自分の姪とは思えぬ程、どちらかと言えば、妻である倫子に似ている節のある菜
々子の聡明さなど、南次郎には今更だから、莫迦な男性関係は築いていないのは判る。
大学生とはいえ、家事全般完璧にこなせてしまうしっかりものの姪だ。それも近い将来、
妻である倫子と同じ職に付くだろうことが半ば確定している頭の良さだ。
 そんな彼女が、莫迦な異性関係を築いていないのは判る。『私の好みは、叔父様なん
ですよ』と、嘘か本気か判らぬ莞爾とした笑みを滲ませる菜々子だ。その菜々子が、大し
て面白みのない記事の掲載されている三流週刊誌を読んで、楽しめる筈はないだろう。
 日本はその司法制度からいっても、刑事事件を扱う弁護士より、金になる民事事件を
扱う弁護士がその大半を占めている。司法試験合格の後、2年の司法修習を終え、大抵
の者は弁護士になる。検察官任官希望者の少なさから、司法改革審議案に、司法試験
合格者人数を引き上げてみた所で、相変わらず検察官は人気がない。日本の弁護士は、だから弁護士になっても扱う事件は大抵が民事だ。だから渉外弁護だと言えなくもない。けれどアメリカ型の渉外法務は未だ未確立の分野だ。国際金融や取引約款、アメリカ
型のM&Aなどは、裁判国のアメリカに追いつく筈もない。けれど南次郎の愛妻である越
前倫子は、父親がアメリカに留学してまで随分早い段階で渉外弁護の有り様を学んだ弁
護士だから、倫子も父親と同じ道を極自然と選んだ。
 それは倫子が、忙しい父親の背中を見て、育ったからだったのかもしれない。頑迷固陋
といわれる倫子の父親は、けれど娘には甘く、孫のリョーマにも甘い。そして南次郎のプ
ロ当時のファンだったから、二人の結婚が娘に甘い倫子の父親に、反対されることはなく、今に至っている。
 そして南次郎の姪である菜々子は、倫子のような国際派弁護士になりたいというのが
夢であり、それは着々と基礎が築かれ、現実のものになろうとしていた。
 そんな菜々子が、無造作に居間に雑誌を放り出しているあたり、暇潰しにもならなかっ
たという意味だろう。
 けれど南次郎に言わせれば、それは即物的表現の多い男性雑誌より、余程女性達の
赤裸々な体験が書かれていて、やはりこんなのを平然と読むのだから、今更水着姿の女
の写真で、驚いて取り上げないでくれと、深々溜め息を吐いた所だった。そこに丁度、南
次郎の気を引く内容が掲載されていたとしても、それは雑誌を放り出した菜々子の所為
ではないだろ。
「何々?」
 掲載記事の、女性達の赤裸々な体験談を、真面目な表情をして読む南次郎ほど、リョー
マにとって嫌なものもないだろう。どうせろくでもない記事が載っているに違いないと、リョ
ーマは南次郎とは対極線の位置で薄い背を見せ、珍しく部活のない土曜の午後を、愛猫
と一緒に満喫していた。
「ホ〜〜〜」
 何を関心しているのか、ブツブツ呟いては、時折声を上げる南次郎に、リョーマは無関
心な顔をして、カルピンと戯れている。
「ママァ〜〜」
「……やっぱ鳴き声変だよ、カル」
 南次郎が莫迦なことを言い続けてきた所為か、近頃どうにも愛猫が、自分を見上げて鳴
く愛嬌のある声が、『ママ』と呼んでいる気がしてならないリョーマだった。
「変でもなんでもないんじゃないか?実際ママって聞こえるぞ」
 ブツブツ呟き、時には奇妙に関心した声を上げている南次郎は、やはり曲者なのだろう。リョーマの呟きも聞き逃すことなく、リョーマの科白に相槌を打っている。
「親父が莫迦なことばっか教えるからだろ」
「オウムやインコじゃあるまいし、ネコが教えたって、そんな鳴き声するか」
 南次郎の科白に憮然としつつリョーマは反駁するが、口喧嘩で、リョーマが南次郎に勝
てたことは、今までで一度もない。
「だったら、言うなよ」
 憮然となりつつ、目の前でご機嫌で尻尾を揺らしているカルピンに、お気に入りのネコじ
ゃらしを揺らしてやっているあたり、南次郎からみれば、立派に親子の図だと言うことにな
るが、当然リョーマにそんな自覚などある筈もない。
「でも聞こえるもんは聞こえるんだから、仕方ないな」
 理に適わないことを言いつつ、南次郎は雑誌から、自分に背を向け、それでも憮然とし
ている気配が読み取れてしまう愛息に視線を移した。
「お前も彼氏来るから、機嫌がいいな」
 憮然としつつも、部活つのない土曜の午後。閑舒にしているリョーマは、カルピンと変わ
りない機嫌の良さをしている。
 大体リョーマが南次郎の居る居間で、愛猫と戯れ付いている時は、機嫌のいい時と決
まっているようなものだから、その理由を考えれば、南次郎には簡単に判ってしまうリョー
マの機嫌の在処だった。
「新婚夫婦の邪魔しないで、寄り合いに行って帰ってこなくていいから」
「ったく、13歳で色事覚えるんじゃない」
「覚えたの12」
 苦笑する南次郎に、リョーマはシレッと言いのける。
「桃先輩に、手とり足とり腰とり、エスコートされたから」
 愛猫にネコじゃらしを揺らして相手をしながら、そんな科白をシレッと言えてしまう越前家
の家庭環境にも、些かの問題はあるのだろう。
 桃城が聴けば、幾らリョーマとの仲は既に南次郎には半同棲状態だなと鷹揚に笑われ
ているとはいえ、二人の会話に口を挟みたい代物ではないだろう。まして南次郎に破天
荒といわれるリョーマの母親である倫子の科白など、桃城を卒倒させるに十分な威力を
持っている。
 大抵目の前で、リョーマと南次郎のこんな会話が始まれば、乾いた笑みをしてしまう桃
城だ。こんなやり取りを自分の知らない間にされているとなれば、知ったら乾いた笑みを
する程度では、すまないのかもしれない。
「言うか普通父親に」
 普通なら、隠されるべき関係の筈だろうにと、南次郎は自分のことは棚に上げ、大仰に
溜め息を吐いた。
 それでも、アメリカに居た時。まるで少しずつ少しずつ居場所を奪われ、笑顔の失せてし
まった表情の落ちた貌を視るより、幾らもマシだと思う南次郎の内心など、リョーマは知ら
ないのだろう。きっと南次郎の内心は、リョーマより遥かに桃城が察しているのかもしれな
い。
「惚気だから」
「惚気、ねぇ」
 自分よりテニスの強い奴とじゃなければ付き合わないと、アメリカに居た当時、リョーマ
が鉄槌を下してきた人間は、両手を使っても足りない数だ。そのリョーマが、帰国して1ヶ
月も経たない内に、相手を見つけてしまったその性根の逞しさには驚かされた南次郎も、
リョーマの人を視る眼は確かなものだったのかもしれないとも思えた。
 桃城はきっと誰より、リョーマにとってのテニスと言う意味を理解しているだろう。それこ
そリョーマ自身より遥かに、正確に理解している。
 リョーマに自分のテニスという意味を教えたのは桃城でないにしても、リョーマの内側を
守っているものは間違えもなくたった一人の男なのだと、南次郎が見誤る筈もなかった。
それは正月に真剣な眼をして語った時から、そしてその時交わした約束を、確かなカタチ
として結果を出した桃城だからこそ、リョーマに寄せる想いというものが、ガキの熱病に浮
かされた激情に任せたものではないのだと、南次郎に語っていた。
 中学生にとって、未来など架空に等しい代物だろうに、桃城は随分先を見ている。それ
は大人の南次郎達から見れば、時には絵空ごとに等しい有り様でも、不確かな未来を確
かなものにする為に、真剣に足掻く意味すら、南次郎は桃城に教えられた気分だった。
それはそのまま、自分の息子が、そんな強靭な精神を持つ男に、想われているのだとい
うことでもあった。
 迷いも足掻きもしない場所に、成長は有り得ない。先を見通し言い訳をして、足掻くこと
を諦めたら、何一つの進化は有り得ない。安定と定着はまったく別のものだ。限界を設定
した場所に、真の成長も進化も望めない。だから以前桃城がリョーマに語ったという『今
自分達が知る必要のない言葉は限界』という科白を聴いた時、南次郎は桃城がどれ程リ
ョーマを大切にしているのかも判ってしまったのだ。判ってしまえば、反対は無駄だとも思
えた。
 きっと二人は離れられないだろう。それは南次郎にとっては、確信に近い予感だった。
 南次郎は自分に背を向け、愛猫と戯れているリョーマに気配もなく近付くと、
「ヒッ!?」
 奇声と同時に、リョーマの華奢な躯がビクンと揺れた。
「ホホ〜〜〜」
「親父!何すんだよ」
 突然スゥッと背を撫で上げられ、リョーマは柳眉を吊り上げ、背後を振り返る。
南次郎は顎を擦りながらニヤニヤ笑うと、端整な貌を険しく歪め睥睨して来る、色素の薄
い一対の眸を眺め、面白そうに口を開いた。
「12歳から開発されたんなら、さぞ敏感だと思ったら、思った以上だな」
「エロ親父!息子相手に何セクハラしてんだ」
 南次郎の突発事項は、彼の息子を13年もしていれば、いい加減慣れたと思っていたが、先月上旬、大阪で開催されたワールドスーパージュニアの会場で、当然の顔をしてJTAの関係者席に座っていた父親を見た瞬間、慣れた筈のものなど、慣れたと思っていただ
けのものだと、リョーマは痛感したのだ。
「ホレ、此処見ろ此処。面白い記事載ってるぞ」
 愉快気に笑う南次郎が、手にしていた雑誌を、リョーマの眼前に広げた。リョーマはその
場所に掲載されていた赤裸々な投稿記事に、素早く眼を通し、5秒後に益々険しい表情
で父親を睥睨すると、
「変態エロ親父!」
 正面に見開きで広げられてる雑誌を、南次郎の顔面に押しつけた。けれど当然そんな
ことで、リョーマを揶かうのをやめる南次郎ではなかった。
「特集!私の性感帯、だとよ」
 女の雑誌も野郎と変わりない代物だよなと、南次郎が笑う嘘か本気か判らない赤裸々
な投稿記事の特集が、そのタイトルだった。
「だからお前のは、どれくらい彼氏に開発されたか、父親としてはちょっと確認しときたい
のが、人情ってもんだろ?」
「何考えてんだ!」
 雑誌を正面に押しつけた程度じゃ無駄だったかと、リョーマは南次郎の暇潰しになるの
は御免だとばかりに、事態がまったく飲み込めず、キョトンと二人を見上げ、小首を傾げて
いる愛猫を抱き上げると退散しようとした。が、リョーマの行動を予測できない南次郎では
なかったから、リョーマが立ち上がろうとした時には遅かった。南次郎は華奢な躯を半ば
羽交しめにし、リョーマの耳朶に生温い息を吹き掛けていた。
 息子可愛い愛情が、少々ずれた表現になる南次郎のそれは、中学2年になる息子を数
年振りに腕にした時、思ってた以上の細さに、内心少し驚いた。
 リョーマは1年前の中学入学当時、身長も低く、華奢な躯の作りをしていた。それは成
長過程にある未成熟さだったが、1年経過した今もそれは変わらない。
 今は高等部に進学した乾のメニューを律義に守り、毎日牛乳2本を飲んではいるが、そ
れはむしろ習慣化してしまったものなのかもしれない。そして当然、一挙に身長が伸びる
ことはなく、元々の骨格の作りが細いのが災いしてか、中学2年になっても、昨年2年だっ
た桃城のように、体格は変化してはこない。
 確実に青年の躯に変化している桃城と並べば、リョーマは相変わらず桃城の腕にスッ
ポリ包まれてしまう華奢さだ。ましてリョーマとは正反対に、桃城は此処にきて身長も伸び、益々精悍さを増しているから、桃城と並べば、去年以上にリョーマは小柄に映るかもし
れない。
 それは少なからずリョーマに身体的コンプレックスを覚えさせはするものの、そればかり
は足掻いても無駄なことだと知っているから、リョーマは時間に任せるにしていた。
 どんな局面でも確実に遺伝は存在する。リョーマの天の才が南次郎の血を受け継いで
いるものならば、リョーマの小柄さは、両親双方のものだろう。南次郎も決して体躯という
わけではないし、母親である倫子も小柄で華奢だ。けれどそれでパワーとスタミナ不足を
言い訳にはしない、精神的な強さを持っている。それはリョーマが両親から受け継いだ血
のカタチだ。
「ちょっ…!変態!」
 突然耳朶に感じた生温いものに、リョーマは嫌悪と同時に、違うものも半瞬だけ感じてし
まっていた。其処は確実に桃城に開発されてしまった、リョーマの性感帯だった。
「お前、本当敏感だな」
 咄嗟に力の抜け落ちたリョーマの躯の反応がダイレクトに伝わり、南次郎は内心呆れ
た。
「やっ……!」
 背後で半ば呆れた様子で哄笑する南次郎の口唇は、カタチのよい薄い耳朶を甘噛んで
いた。瞬間、今度は確実に嫌悪が勝り、リョーマの躯が無自覚に慄えた。
「ったく、彼氏以外は嫌だってか?知ってるかリョーマ」
「離せ!変態親父」
「耳のカタチは、女のあそこのカタチと似てるって言うぞ。彼氏に可愛がられてるお前のあ
そこは、どんなだ?」
 クツクツ笑う南次郎の科白に、リョーマは完全に堪忍袋の緒が切れていた。ブチンとい
う派手な音が聞こえた気がして、南次郎は『悪ふざけが過ぎたか』と、腕を離した。
「息子相手に、何考えてんだ!変態!欲求不満!」
 リョーマは南次郎の腕が離された瞬間、威勢良く右足を振り上げる。サッカー部エース
の同級生から、CFも十分いけるぞと御墨付きのリョーマの脚力は、南次郎の腹部にヒット
した。












 桃城がリョーマの家に訪れたのは、夕暮れに近い時間帯だった。ゆっくり陰っていく太
陽の断末魔が、西の空を染めている時刻だ。
「よぉ」
「南次郎さん、どうしたんですか?」
 桃城が玄関チャイムを鳴らした瞬間に現れた南次郎は、珍しく作務衣ではなく、カジュア
ルな恰好をしている。そんな南次郎を見るのは、桃城には初めてのことだった。ワールド
スーパージュニアの関係者席で見た南次郎は、下手のよいスーツを洒落て着こなしてい
たから、どちらも桃城には初めての姿だった。
「ちょっと今夜出てくるからな」
「そうですか」
「それと、あいつの機嫌、今きっと最悪だからな」
「………何やったんですか?」
 南次郎がこういう時は、決まって南次郎自身が原因で、リョーマの機嫌が地を突き抜け
る程に悪いのだと、知らない桃城ではなかった。そしてその場合、確実に被害が自分に
及ぶことも判っていたから、着た早々脱力する事態に見回れ、一挙に疲れてしまった桃
城に、完全に罪はないだろう。
「ちょっとなぁ〜〜〜雑誌で眼に付いた面白い記事を、試してみたんだよ」
 シレッという南次郎は、とても普段作務衣を着て、エロ親父的発言をしている飄々さはな
かった。けれど普段の南次郎を見慣れている桃城からすれば、こんな切替えの早さが曲
者だと思わずにはいられない部分だった。
 周囲の機微に敏感に反応し、臨機応変な姿やカタチ、雰囲気や気配を持ててしまうから
こそ曲者なのだろう。けれどそれが大して自分も違わぬ言われようをしてるのを、桃城は
知らない。
 足許にもお洒落を気にするのは、お洒落の基本だろうが、南次郎の足下を飾るのは、
一足6万はするだろうモレスキーだ。寒くなった季節の先取りで、軽い印象で引っ掛ける
ように着ているハーフコートは、そんじょそこらで入手できる代物ではない一流品だ。
 確か一着40万はしてたよなと、桃城は南次郎を見て思った。そんな一流品を、当然の
ように身に付けてしまえる南次郎は、やはり当人が一流なのだろう。一流の流の物を身
に付けるには、自分が一流でなければ服に着られてしまうからだ。けれどそんな南次郎
の左手首を飾るのは、ハミルトンのカーキーなのだから、さり気ない遊び心を演出できる
人間ということだろう。
「お前も、中学生で判るのは、遊んできてる証拠だぞ」
 自分を眺めている桃城が、何を思ったのか見抜いたのだろう。南次郎は苦笑する。
ヤング向けのブランド雑誌に眼は通しても、男性が着る一流品のブランドなど、中学生が
一目みて判る代物では無い筈だ。だからそれが判ってしまう桃城は、南次郎から見ても
食えない中学生と言うことだろう。所詮曲者なのは、お互い様の二人だ。
「南次郎さん、あいつの機嫌損ねると、俺に全面被害が及ぶんですよ」
「彼氏なんだから、責任取って構ってやれ。そしたら簡単に機嫌なんて直るだろ」
「俺に責任あるんすか?」
「大ありだ」
「………一体何試したんです」
「菜々のやつが置いてった雑誌の特集で、面白いのがあってな」
「………聴きたくない気がしますけど…」
 どうせろくなことじゃないのは、判りきっている。南次郎のリョーマへの愛情表現は、世
間様からはズレている。
「私の性感帯ってのがあって、ちょっと遊んでやったら、あの莫迦息子、俺に蹴り入れや
がった」
「………南次郎さん〜〜〜」
 ついつい情けない声を漏らしてしまう桃城は、確かに情けないだろう。それこそ玄関にし
ゃがみ込みそうな威勢で、桃城は脱力していた。
「ちょっ〜〜っと軽く、お前に開発された性感帯いじってやったら、えらい剣幕で怒ってな」
「……………」
 普通、シレッと言っていい科白ではないだろう南次郎の科白に、桃城は既に脱力を通り
越している。
「そりゃ、怒りますよ…」
 それでなくても、リョーマは敏感だ。南次郎にそんな遊ばれ方をして、おとなしくしている
リョーマではないだろう。
「俺、知りませんよ」
「お前の所為だろうが、責任取って、明日までには機嫌直しとけよ」
「………それ理不尽って言いませんか?」
「お前があいつの性感帯なんて開発しなきゃ、すんだことだな」
「……あいつは元々敏感症ですよ」
 その桃城の科白に、嘘はない。リョーマは初めての時から、桃城の腕の中で敏感に顫
えたのだ。痛みを通り越した快感の中、重ねる情交で変容していくリョーマの鮮やかなそ
の変化は、桃城には驚く程のものでもあったのだから。
「その敏感な体質、更に開発しやがって」
「……どうしても、俺の所為ってことにしたいんですね」
「事実だから仕方ないな」
「機嫌は直しても、報復まで責任持てませんよ」
 頭を抱えたくなる会話に、桃城はめっきり疲れていた。
「南次郎さんぁいつの負けず嫌い知ってて、挑発して、報復されても、そこは責任持てま
せんからね」
 世間一般の親子関係からは、完全に逸脱している関係形成に、桃城はやれやれと溜め
息を吐き出した。
「あいつの機嫌はお前に任せるからな」
 いっそどんな報復に出るのかも、南次郎にとっては楽しみな部分なのかもしれない。
桃城の科白に何処か子供じみた笑みを見せる南次郎は、確かにリョーマに酷似している
と思う桃城だった。リョーマも桃城に悪戯を仕掛けた時の表情は、子供じみたものだから
だ。
 それじゃ行ってくるからなと、南次郎は桃城に言い置くと、今度こそ玄関を出て行った。
カジュアルな着こなしをして、一瞬普段の飄々さを隠してみても、所詮南次郎は南次郎だ
と言うことなのだろう。その飄々さの奥底に潜ませている刃や牙を、一体どんな局面で見
せるのだろうかと思えば、未々南次郎の奥深さなど到底推し量れはしないと、桃城はそ
の背を見送り、次には階段上に視線を移し、溜め息を吐き出した。