身喰いする餓え
act1












「あっ…んっ…桃先輩…桃先輩…もっと…もっと深く…」
 桃城の股ぐらに抱き上げられる恰好で下肢を開かれ、固く熱い肉棒を衝き挿れられているリョーマは、自ら腰を揺すり、桃城の腕や背に形良い爪を立て、朱線を這わせている。
「今夜はえらく積極的だな」
 いい加減、互いの関係はリョーマの両親にモロばれとは言え、親の居る時、此処までリョーマが乱れる事は、珍しい事だった。大事な一人息子が、男に抱かれている事を知って尚。飄々としている南次郎の精神値は、桃城には計り知れない。だからこそ、恐ろしいとも思うのだ。
「んんっ…ゃん…もっと…」
 頑是なく、折れそうに 細い首を振り乱し、必死に嬌声を噛み砕く様は、嫌でも雄の嗜虐を煽情する被虐が滲んでいる。
 正月以降。リョーマの内側で吹っ切れたナニかが有った事は、その瞬間とも言うべき場所に立ち会った桃城にとっては、今更の事実だった。けれど以来。リョーマは情事の最中、今までにも増し、求め、挑発し、そうしてらしくない程、離れるのを拒む傾向に陥っていた。
  吹っ切れたと同時に、身の奥で静かに飼い慣らしていた生き物が、不意に檻を喰い破り、鮮やかに飛び出して来たかのような印象さえ与え、リョーマは今までとは角度の違う奔放さで、桃城を挑発するようになった。放埒で妖冶なその仕草が、そのままリョーマの内側であってくれたならと、そう思う桃城の内心など、きっとリョーマは知らないだろう。
「壊しちまいそうだ」 
 桃城は爛れた肉の熱さに締め付けられながら、殊更慎重に細い腰を揺すり立てている。
 折れそうに細い首筋。細く薄い肩や腰。少しでも力を入れ乱暴にすれば壊してしまいそうで、桃城はいつも恫喝される。けれどその恫喝を、いつも易々と崩壊させのるのは、リョーマの方だった。
「莫迦…俺は…壊れものじゃ…ない……」
 嬌声を噛み殺す所為か腹いせか、リョーマは目の前の褐色の肌に歯を立てる。立てれば、桃城は軽く呻き、目線の下に有る紅潮した繊細な貌を覗き込んだ。
 濡れた淫靡な双眸が淫蕩に耽り、桃城を躊躇いもなく見上げている。その妖冶さに見詰められ、背筋をゾッと焦がす生々しい感触が、肉の底の部分から湧き上がって来る。
「お前、娼婦みたいな眼ぇしてるぞ?」
 乱れた前髪の下から覗く一対の眼は、滴り落ちそうな情欲に色付き濡れながら、舐めるように桃城を見上げている。その様は、雄の欲情を煽情するには十分なものだった。
「嫌いじゃないでしょ?」
 娼婦と、リョーマはクフフと笑う。それは何処か危うげで、処女と娼婦を混融させたかのような曖昧な笑みだった。けれど其処にくっきり浮き上がる挑発的な笑みに、肉の奥から快美が湧くのを、桃城は止められない気がした。
「もっと」
 深くと、吐息で囁き、細い腕を、ねだるように桃城の背に回したまま、爪を立てる。
何処か呆れた笑みを滲ませながら、それでも桃城の肉の奥深くから湧く欲情が、リョーマには手にとるように判った。
 こんな時、いつも思うのだ。欲情は互いの肉の奥から生み出されているのだと。
肉の底、血の奥。けれど本当はもっと深い淵から、澱みながら生み出されて来るものなのかもしれない。澱んでいるからこそ、快美が湧く。泥沼に漬かり込んで行く快美、みたいなものが、確かに有る。それはこうして抱き合えば抱き合う程、その都度歯噛みする程思い知る。それは、互いの肉体と言う、境界線を一歩踏み越えた部分で繋がる事への、背徳と快楽なのかもしれない。
「好きだよ、あんたの、俺に欲情してる、雄の顔」
 吐息を朱に染め喘ぎながら、リョーマは淫蕩の淵で笑った。
桃城の欲情している表情が、好きだった。誰に向けられるのでもなく、今は自分だけに向けられている雄の顔。それは不思議と、試合をしている最中の、桃城の精悍な貌と酷似している気がした。獰猛な肉食獣を連想させるくせに、荒々しさの微塵もない慎重さは、いっそ呆れる程だ。
 情事の最中。リョーマが慎重に扱われる事が嫌いな事を承知してながら、桃城は莫迦みたいに慎重にその幼い躯を開こうとする。結果、リョーマはだから挑発せずにはいられなくなる。壊れもののように扱われるなど、真っ平御免だった。それでも、桃城に言わせれば、硝子ケースに入れていないだけマシだと言う事になるのだから、此処らあたり、二人に意思の疎通性はないのかもしれない。それは互いに対して譲れない感情の問題なのだから仕方ないと、ある意味、二人は割り切ってもいた。だから互いに挑発し、挑発されず、その駆け引きじみた部分さえ快楽に持ち越し、愉悦に漬かり込む快美を甘受している。
「掻き回してよ」
 クフフッと淫靡に笑いながら、繋がる部分を緩やかに締め付け、リョーマは細い腰を桃城の股ぐらの上で、淫らに揺らした。
「お前…何処でそんなやらしい言葉、覚えたんだよ」
 細い腰を揺すり立て、尚深く繋がろうと足掻く動きを繰り返すリョーマに、桃城は内心呆れと同時に舌打ちする。
「莫迦だね…あんたに決まってるじゃん」
 欲情を隠さないくせに、莫迦みいに慎重に扱おうとする。
その冷静さが、時折いたたまれない程癪に触る。欲情している最中の冷静さは、見知らぬ女と交わした行為の結果に思え、だから尚腹立たしくなる。この乱れた雄の顔を、一体何人の女に曝してきたのかと思えば、肩に歯を立てた程度では、嫉妬にも似た感情は収まらない。
 リョーマは更に褐色の肌に歯を立てると、桃城は流石に痛いのか、呻いてリョーマの顔を外させた。
「お前、ヤバすぎ」
 元々感じている事を、抱き合う行為の中でリョーマが隠す事はなかったが、今夜は何故か激しい気がした。そんなリョーマに溺れてしまう事を自戒しても無駄な事だと判っていながら、けれど桃城の内部には、幼い躯を開いている罪悪が付き纏うから、本能だけでリョーマを扱う事などできなかった。
「好きなくせに」
 褐色の肩に額を押しつける恰好で激しく嫌々と身悶えると、リョーマは細い腰を揺すり立てる。
「んっ…くふぅ…くぅぅん……」
 元々、桃城の股ぐらに抱き込まれる恰好で繋がっている体位だ。自ら腰を揺すり立てれば、それだけ狭い胎内に迎え入れた桃城の雄に、柔襞を容赦なく擦り上げられる結果になる。
 既に幾度となくイカされた絶頂で、リョーマの下腹から白い内股は、リョーマ自身の愛液で濡れそぼり、それは最奥の肉の入り口まで滴りながら、互いの律動にあわせ、グチュグチュと淫猥な音を響かせている。それが殊更リョーマの羞恥を煽情し、泥沼に漬かり込む程心地好い快美を与えている。
「ぁん…ぃいっ…ぃぃ…桃先輩…」
 桃城の首に細い両腕を回し、下肢を開かれ、揺さぶられるままに揺さぶられ、曝け出されて行くリョーマの狂態。柳眉は切なげに歪み、半眼閉ざされた眼差しは心地好さげに涙を流し、紅潮しきった貌は淫靡に歪み、喘ぎきっている。
「お前、どした?」
 行為の最中、桃城が呆れる程貪婪に求めて来るリョーマは、それでも今夜は激しすぎた。けれどその理由を、知らない桃城ではなかった。なかったら、淫蕩に耽溺し、撓む細い背を抱き留め、自らも幼い胎内に突上げを繰り返す。
「ぅんんっ…」
 嫌々と、頑是なく、細い首を振り乱す。
質量を増す桃城の雄に、リョーマは嬌声を必死に噛み殺し、脳乱を露に曝け出す。女にされた羞恥が、桃城の眼前に隠される事なく顕にされる。その悶絶さに、桃城も理性を奪われて行く。
「犯して……もっと、犯して」
 んんっ…と白い喉元が反り返る。眉根が官能を怺えよるうに切なげに歪められ、白皙の貌が紅潮している様が淫らだった。
「後悔、すんなよ」
 半眼閉ざされた淫らな貌で囁くように告げられては、理性など綺麗に霧散する。
多分もうきっと、抑える必要はないのだろう。正月以来、リョーマは吹っ切れた顔をして、テニスをしている。互いの関係は、取りあえず付き合っている関係ではなくなっている。
だったら、もう互いに抑える必要は、何処にもないのだ。そしてその分、抱き合った後に来る切なさは、今までよりひどいものになっている。だからより深く求め合い、番う事を止められないでいた。
「ヒィッ!」
 リョーマの声が、高く啼いた。もう既にリョーマの意識の中では、階下に親が居る事など、忘れ去られているだろう。
 桃城は、抱き上げた躯を威勢良くシーツの波に沈ませると、そのまま下肢を割く程左右に開かせ、強引とも言える力で胸へと折り返し、尚深く自身を捩じ込んだ。桃城自身、もう周囲を気にする余裕など、何処にも残ってはいなかった。
「ぁぁんっ…ダメェ」
 根元まで捩じ込まれている桃城の肉棒が、尚深く肉の奥の奥を抉って行く感触に、リョーマは細い背を限界まで撓わせ、狂態を曝け出す。
 女にされたのだと、こんな時。否応なく感じさせられる。
貫かれて啼く淫らさに、眩暈がする程の快美を感じる。その浅ましさに、羞恥より何より、桃城を胎内で受け止める事のできる生温い愉悦を、感じずにはいられない。抱かれながら、抱いている実感は、此処最近増すばかりだ。それが尚深い快楽を意識の目前に叩き付けて行くから、始末に悪い。
 吹っ切れたと思った途端。貪婪に求める事に対しての制御ができなくなった気分がする。人の感情は、何処までも自らの意思さえ綺麗に裏切り、思惑とは別の外側で位置し続けて行く。
「リョーマ」
「いやぁ……ッ」
 グッと伸し掛かられれば、益々桃城の切っ先は胎内に潜り込む結果になる。もうこれ以上無理だと思う程、リョーマの小さい肉の入り口は押し開かれ、こじあけられていると言うのに、貪欲に求める肉体は、未々桃城の分身を浅ましく咥え込もうと必死になって口を緩め喘いでいる。
「お前、本当、弱いのな」
 耳朶を甘噛み低音で囁けば、生温い胎内に潜り込んだ桃城自身を、柔らかい肉襞は更に締め付けて来る。
「俺を、欲しがってろよ」
 今くらいはと、桃城は深く苦笑する。
ピチャリと音を立て耳朶の奥に舌先を伸ばせば、嫌々と緩慢に首が打ち振られる。
「もっと…もっと深く…」
 譫言じみた辿々しい、何処か舌足らずな声が漏れる。
「犯して…もっと…深く…」
 目一杯押し開かれた下肢を更に押し開かれながら、リョーマは桃城の下で喘ぎ、形良い爪が白く変色する程、強く肉に爪を立てて行く。
 与えられるのなら、痛みを通り越した快楽でなくては意味などないと、いつから思う様になっただうか?ただ生温い感傷と激情に抱き合うものではなく、ガキの好奇心と興味で抱き合うものでもなく。苦痛を与えられた涯にある場所に辿り着きたいと、いつから願っただろうか?
 意思も意識も綺麗に混融し、溺れ漬かり込む法悦の場所。
たった一瞬刹那の中に隠れている永遠的な部分。いつから、抱き合う激情の中、そんな下らない感傷まで抱き込む事になったのか?リョーマにも判りはしなかった。
 切り刻む程深く。抉る程鋭く。いっそ壊す程蹂躙して欲しいなど、女の情念的なものなど、感じてしまっていたのだろうか?肉体ばかりか、抱き合う行為の中では、精神まで女に創り変えられた気分で、吐き気がする。いっそ大笑いできたら、気分は少しでもマシになるのかもしれない。
 神経を剥き出しに、壊されてしまいたいと、不意に莫迦莫迦しくて大笑いしてしまいそうな感傷が内部で膨れ上がって行く。
 結局、結局と思う。悟れはしないのだ所詮。
吹っ切れたと思った瞬間には、背後から別の迷いが生じてくる。多分こうして、続いて行くのだろう。死ぬまで。死ぬ瞬間まで。だから誰かを愛する事など、殺人的な事だと思っていたと言うのに。誰かに囚われ、捕え、そんな行為に、意味など見出だしたくはなかったと言うのに。ガキの好奇心と下らない興味に衝き動かされているだけだったら、楽だっただろうに。それでも、もう失えないと思ってしまったのだから、仕方ない。ゼロにできないなら、進むしかないのだ。
「欲しがってろよ、二日間」
 リョーマの乱れようの意味など、桃城には丸判りだ。
正月を境に、認めてしまった感情の在処故に、益々のめり込むように互いを貪る事になってしまった。これでは順序が逆だと、苦笑する。
「んっ…ぁんん…ぅん…くふぅぅ…」
 細い下肢を割く程開き抱き上げられ、リョーマは激しく身悶え、噛み殺した口唇の奥から、嫋々の喘ぎが淫らに漏れて行く。
「ケダモノ…サイテー」
 二日間、いつもなら短い何て事ない時間だろう。けれど、認めてしまった感情の中、走り出した想いの中、それは長すぎる。
 感情など、神経細胞を刺激する微電流から発せられるものでしかないと言うのに、こんな時、そんな理屈も羅列できない程溺れてしまっている事を、益々自覚させられて行く。
「そのケダモノが、好きなんだろ?」
 グッと根元まで深々埋め込んだ肉棒を、入り口付近ギリギリまで引きずり出すと、リョーマは掠れた悲鳴を上げ、桃城をねだった。
「キテ…キテよ…」
「もっと、言ってみろよ」  
 もっと淫らな言葉を言わせてみたいと、フト思う。溜め込む内側の淫らな言葉を。隔絶される、境界線が溶けている今は。
「サイテー」
「ホラ」
 入り口で掻き回せば、リョーマは淫蕩に溶けた眼差しを向け、不意に笑った。
「おいでよ」
 細い腕を桃城の突き出し、欲情に歪む精悍な貌を包み込んだ。
「抱いて、あげるから」
 笑う濡れた双眸は、生温い妖冶さと、相反する研ぎ澄まされた切っ先を、桃城に突き付けている。その科白に、桃城は瞠然とし、次に深く苦笑いを漏らし、
「やっぱお前、娼婦だな」
 堕ちた娼婦こそ高貴さを増す。そう言っていたリョーマの科白が不意に甦り、桃城は細い下肢を抱き直すと、内側からリョーマを突き崩すように、狭い胎内に怒張する肉棒を埋め込んだ。











「お前、本当、やらしい科白、覚えたな」
 生温い汗と、情後の濃密な気配に心地好く浸りながら、桃城は胸板に小作りな頭を乗せ、陶然としているリョーマの髪を掻き乱す。
「ケダモノに、女にされたからでしょ」
「女、ねぇ。やっぱお前、十分やらしいぞ」
「あんたこそ、俺の事、娼婦みたいって言うけど、娼婦とまで寝た事あるって?」
 娼婦みたいだと言う桃城の、その娼婦の意味合いなど、一体何処から引き出されているのか、考えれば、それこそ腹が煮えそうになる。以前なら聞き流せてきた言葉も、今は聞き流せない気がした。
「あのな…」
 余りの言い様に、桃城は脱力する。
「青学一の遊び人って評判のあんたの事だから、玄人にまで手ぇ出してても、不思議じゃない」
「誰が遊び人だよ」
「あんたでしょ」
「お前なぁ」
 所詮情後の言葉遊びだ。桃城は苦笑すると、簡単に態勢を入れ替え、細い躯を再び組み敷いた。
「お前の論法で行けば、処女も娼婦も、同じだろ」
「昼は淑女で夜は娼婦。男の理想でしょ」
「お前が淑女って玉かよ。とんだ淑女も居たもんだな」
 ココをこんなに濡らしてる淑女が居るか。そう笑うと、桃城の節の有る長い指は、互いの精液で濡れきって綻んだままになっている小さい肉の入り口の奥へと、這って行く。
「んぅ…」
 白い下肢が、乱れきったシーツを、更に掻き乱し、細い背が桃城の下でのけ反った。
「夜は娼婦が好きでしょ?だから、抱いてあげる」
「抱いて、じゃないんだな」
 何ともリョーマらしい科白に、笑う事しか出来ない。
確かに、抱きながら、抱れているのかもしれない。こんな科白が言えてしまう程度には、
リョーマの身の裡で、幾重かのものは吹っ切れたのだろう。だろうと、桃城は組み敷いた薄く細い躯に伸し掛かり、小作りな顔を覗き込んだ。瞬間。ゾッと背筋を焦がされる感触に、呻きが漏れる。
「俺がね、いつだって、抱いてるんだよ」
 薄い光量の中。濡れた眼差しが逸らされる事なく、桃城を見上げている。
「忘れないでよね」
 一瞬の痛感を、眼球の奥の奥に叩き付けられる感触で見詰められ、桃城はその科白の意味を考えては、甘やかされているのは自分も同じだと、思い知る気がした。
 これから先も重ねる時間を持つ為にと、足掻き始めた自分の内心の中。迷いが無くなる事など有り得ない。その為の努力は安いもので、努力しても手にする事など最終的に叶うかも判らない。いつだって、リョーマが大切で、だから慎重になっていた。けれど、それは何も自分だけではなかったのだと、こんな時に、こんな科白で気付かされて行く。
「お前、俺より相当タチ悪いぞ」
 正確に眼球の中核を射抜いて行く一対の眼は、あの日の眼差しと同じだと、凝視されながら、桃城の脳裏に浮かんだのは、正月の夕暮れの中に立つ、凛冽としたリョーマの姿だった。



『桃先輩』


 空気が動く気配一つなく、細い指先が一本。空に向かってスゥッと伸びた。
 冷ややかな空気と、暮れ始めた、冬の短い太陽の断末魔の中。鮮やかな凛然さで、そう告げたリョーマの迷いのない双眸を、桃城はきっと生涯、忘れる事はできないだろうと思った。


『俺は、上に行くよ』


 まるで密やかな誓いのようだった。
内側で出した答えを決意とするかのように、迷いのない眼をして笑ったリョーマの微笑み。
 状況は何一つ違うと言うのに、今見詰められる眼差しは、まったくあの日と同じ事に、桃城は気付いた。 


『歩いて、行くから』


 凛冽に微笑んだ笑みが、一瞬だけ泣き出しそうに笑った。
テニスを選び取る事に、立ち向かう強さを持ってくれた事に、何者にもなく感謝した。感じていた幾重かの後ろめたさと、罪悪を吹っ切ってくれた事に。それでいて、脆い場所を抱えたまま、歩いて行こうとするリョーマの脆弱な強さ。強くなりきる事はなく、脆い場所を抱き込むように、歩いて行こうとする姿が、一瞬痛々しい程、綺麗だと感じた。
 けれど、だからこそ更に湧いてしまう迷いというものも、桃城は理解していた。それはそのまま、鏡像のように、桃城の迷いでもあったからだ。




「そりゃね、詐欺師のヒトデナシに、随分鍛えられたからね」
 抱かれながら抱く快感など、つい最近気付いた事だ。
抱いているのだと、抱かれながら、桃城の身の奥に隠されているナニかを抱いているのだと、つい最近気付いた。
 重ねる時間が有るようにと願う桃城の足掻きと迷いと。慎重にされるものを抱き締めながら、抱かれているのだと、判れば、尚更大切にされている実感まで増してしまい、どうにもならなくなる。身を揉む程、柔らかい想いに包まれているのだと、泣き出したくなる。
それでも、歩いて行こうと、決めたのだ。半歩後ろから、見守ってくれる大切な人に、誇れるように。
 まるで身喰いするかのように、これから益々餓えて行くだろうと、リョーマは思う。桃城と言う男に餓え、肉体も精神も渇いて行くだろう。歩き始めると決めた瞬間から、湧き出てしまった餓え。この生温く痛い想いは、当分収まってはくれないのだろう。そう思えば、更に胸が軋む生々しさに、寒気さえ感じる。
「ねぇ」
 強くなどない自分の中身。綺麗なものばかりに包まれて。それでも、脆い場所を抱えたまま、歩いて行きたいと願う願いの在処を、桃城は知っているだろうか?そう思えば、気付かれている事など簡単に判る。桃城はいつだって、見誤って欲しい時こそ、見通す眼をもっているからだ。
「抱かれて、やるよ」
 抱きながら抱かれる心地好さなど、今まで関係してきた女とは、微塵も感じた事はない。
 ねだるように伸ばされてきた細い腕を眺め、桃城は笑うと、リョーマの下肢を抱き上げた。