甦る悪夢


















 ダレか……。
 ダレか…タスケテ…ッ!
 タスケテ………ッッ!



 付かず離れず、囃立てる複数の嗤い声。まるで小動物を狩る肉食獣の残忍さと、面白い見せ物を見つけた興奮さで、小さい子供を追い立てる嗤い声に、リョーマの恐怖心は頂点に達していた。
 恐怖で竦む足に比例して、呼吸もままならない程、心臓が早鐘を打つ。それはまるで、喉の奥から心臓だけが迫り上がってくると錯覚する程の生々しさと、息苦しさをリョーマに与えていた。
 足許一つ見ている余裕などなく、自分より背の高い叢の中を逃げ惑う。どうしてこんな事になったのかと言う状況認識能力など、10歳の子供にある筈もなく、ただ身の裡から湧き上がる恐慄さに衝き動かされ、リョーマは遮二無二手足を動かし、死に物狂いで逃げ惑っていた。
 澱んだ真夏の空気は呼吸する都度生温い感触をもたらして、死に物狂いになっている呼吸を更に息苦しくさせていくかのようだった。
 躓き転びそうになり、足を止め、それでも確執に近付いてくる足音に恐怖心が途切れる事なく湧き起こり、足が意識するより先に走り出す。
 囃立てる声。粗野な笑い。大凡紳士的スポーツと言われるテニスをしている人間とは思えない下品さで、数人の足音がリョーマの恐怖心を煽り立て、慄然とさせる。
 精神が引き攣れそうな恐怖心だけが、今リョーマを走らせている。失神しそうな凍り付く恐怖心。初めて向けられた雄の欲望の意味を、幼いリョーマが正確に理解している筈もない。けれど身に迫る危険だけは判っていた。警笛が頭蓋を振動させる程鳴り響く。
 囃子せき立てる数人の笑い声は、まるで小動物を嬲る肉食獣と変わりなく、逃げ惑う狩りの標的を、生かさず殺さず時間を掛け、嬲り殺して行く行為に酷似していた。
「誰か……ッ!」
 小さい手足を必死に動かし、叢を逃げる。走っている場所の認識など当然皆無で、ただ逃げる為に走る事だけが、身の裡から湧く恐ろしさに急き立てられ、足が動いていた。
 擦り傷だらけになっていく白く小さい幼い手足。西洋人の同年齢の子供達の中に在っても、小柄な姿態が無残に逃げ惑う様が、囃子立てる肉食獣を、喜ばせるだけだと、幼いリョーマに判る筈もない。
 尤も、こんな状況下では、理性的に理解する事など皆無で、判ったからといって、理性が恐怖心を凌駕する事はないだろう。理不尽にも傷つけられていく暴力に対抗できる術もなければ、その意味など未成熟な子供に、理解する方が無理と言うものだ。
 リョーマが判っている事と言えば、追いすがり囃子たてる雄に豹変した男達から、逃げなければという、恐怖心に助けられている自衛本能だけだった。
「だれか助けて…」
 逃げれば逃げる程、奥へと追い込まれて行く事が、幼いリョーマには判らなかった。
 人間の心理として、追われれば大抵不思議と人気のない場所に逃げ込んでしまう。リョーマはまさに狩りの標的て、肉食獣と化した雄を楽しませる小動物だった。
 怖いと表現できる、生半可な恐怖心ではなかった。恐怖で舌の根も強張り、助けを呼ぶ悲鳴も喉の奥で絡まり凍り付いたままだった。
「助けて…」
 恐慄に慄える声。走って走って、体力も限界にきていた。
テニスという持久力が必要なスポーツをしているから、リョーマは同年齢の子供よりスタミナはあった。けれど、恐怖に懍慄する精神状態では、長く走る事はできなかった。まして逃げ惑う場所は、リョーマの背丈より高い叢で、走っている位置が判らない場所だったっから尚更だ。
「もうそろそろ、おしまいかな?」
 聞き慣れた声か背後でするのに、リョーマはヒッと悲鳴を漏らし、振り返る。拍子に、前方から回り込んでいた男が、背後から腹に腕を回し、華奢な小さい躯を抱き込んだ。
「やだっ!」
 抵抗一つできずに抱き込まれた小さい躯が、男の腕の中で拘束され、叢に倒れ込む。
「離してよ……ッ!」
 男とはいえ、声変わり前の幼い高い声が、叢に響いた。けれどそれは却って男達を愉しませただけだった。
「おとなしくしてれば、気持ち良くしてあげるよ」
 叢は頑丈な壁だ。まして公道から奥まった部分に入り込んでいる為、リョーマの悲鳴も絶叫も、漏れる事はない。まして大人の背丈近くある叢の中では、幼い躯など押し倒してしまえば、外部から見える筈もない。
 リョーマを背後から引き倒した男は、ねっとりと表現するのに似つかわしい声で、小さい躯を背後から抱き抱え、下肢の間に腰掛ける恰好で拘束した。
「嫌……ッ!」
 男に背を預ける恰好で座り込む。背後からは男の腕が容赦なく腹に回り込み、片腕で簡単にリョーマを拘束しいた。
「嫌だっ……ッ!」
 向けられる雄の欲望の意味を、リョーマは拘束され初めて理解していた。
 キッズポルノが裏物で出回るアメリカでは、ストリートキッズの誘拐件数は日本とは比較にもならない。大人の容赦ない淫猥な欲望の標的にされるのは、いつだって力のない弱者だ。
 幼い少年少女を数人がかりで嬲るだけ嬲り、雄の欲望を満足させ、物と変わらぬ扱いで、最後は殺人現場まで撮影している裏ビデオも珍しくは無い。
 リョーマも、その恐ろしさと、巻き込まれない為の自衛というものを教えられていたから、此処に至り、漸くその身に起きた、これから起きるだろう事を予測しては、恐怖に身を慄わせた。
 けれど彼らはいつだってリョーマを相手にテニスをしていた人間で、まさかこんな事になるとは、幼いリョーマは自らに向けられていた欲望の在処など、判る筈もなかった。
「テニス以外にも、愉しい事は幾らだってあるし、もっと気持ちよくなる方法もあるんだよ」           
 背後から拘束され、遮二無二暴れるリョーマを見下ろし、男は不意にリョーマと目線を合わせるように、膝を付いた。
「気持ちよく、してあげるよ」
 まだ自分でする事も、知らないだろう?
男は泣き叫ぶリョーマの小さい頤掬い上げ、強制的に目線を合わせ、淫猥に笑った。
「何で………」
 惴慄する躯と声が、更に男達を愉しませて行く。
小さく白い造作に、清涼な空を映したかのような色素の薄い蒼い双瞳。
その綺麗な一対の眸に、怯えと恐怖を張り付かせ、男を見上げる様は、雄の欲望で穢がしたいと思う被虐が滲み出ている。
「俺達は、皆リョーマが大好きなんだよ」
 金髪碧眼の顔が笑う。見た目だけなら女に不自由しないだろう外見に刻むものは、欲情を隠さない肉食獣のものだ。
「ヒィッ!」
 背後からリョーマを拘束していた男の腕で、小さい下肢に伸びた。
「やだぁあっ!」
 バタバタ下肢を暴れさせてみた所で、大人の男の力に適う筈もなく、ショートパンツが下着ごと毟り取られて行く。
 子供の性被害が深刻化している米国では、家庭でも学校でも、性教育が進んでいる。だからリョーマも知識として、sexというものは知っていた。けれどそれはあくまで外部から聴いた情報としての知識だけで、具体的な事など、性に興味も関心もないリョーマには、未々未知のものだった。
 けれど実際深刻化する児童虐待に絡んでの性虐待は多発しており、リョーマの通学する学校でも、その被害にあった子供も少数ではあったが、ゼロではなかった。回り巡ったその無責任な噂を聴いた時、リョーマにとってそれはあくまで『他人事』であり、身の上に置き換えるという事は、ひどく困難な作業だった。
 元々周囲にも、自分の事にも無頓着だったリョーマが興味を示したものは、父親の名に呪縛され、居場所を奪われるだけのテニスだけだった。
 だから男の自分が、そういう標的にされるなど、リョーマには想像もできない事だった。けれど現実は熾烈だ。
「丸見えだ」
 淫猥な笑みが周囲からドっ湧く。
「やぁぁぁッッ!」
 もげそうな威勢で細い首を振り乱し、必死に下肢を閉ざそうとすれば、背後から回ったままの腕が揶揄う様に内股に触れ、下肢を掬い上げ、グッと左右に裂く程押し開いて行く。
「気持ち良く、してあげるよ」
 一人の男が、リョーマの前に屈む様に膝を付く。付いて、泣き叫ぶリョーマを凝視し、舌舐めずりする卑猥さで、笑った。
「オチビちゃんの、イク顔は、最高だろうな」
 卑猥科白と粗野な笑みは、今の今まで好青年を演じていた仮面が綺麗な剥がれ落ち、まるで薄布一枚引き捲った背後から、見知らぬ他人の顔が現れるかの様だ。
 男は嗤うと、翳り一つない幼いリョーマの股間に顔を伏せた。
「ヒィッ!」
 sexと言う言葉は知っていた、けれどそれが具体的にはどういう行為を示すのか、リョーマは知らなかった。性虐待というものの根本など、受ける暴力など、幼いリョーマが知る筈もなく、想像もできなかった。けれどそれが今、身をもって思い知らされようとしていた。
「ヤァァァァッッ………ッッ!」
 ビクンと華奢な躯が慄え上がり、白い喉が露になり、細く薄い背が、男の腕の中、限界まで撓った。
 リョーマの絶叫は、けれど誰にも助けられる事はなく、頑丈な叢に風の音に紛れて消えていった。









「やっ…やぁ…やぁぁ…ぁぁん…」
 ピチャリと淫猥な音を響かせ、雄の欲情を隠す事をしない男達が、リョーマの回りに群がっている。
「子供でも、ちゃんと感じるもんだな」
 リョーマの股間に顔を伏せたまま、徐々に高くなる哀願の声に、男は幼い肉茎の根元を指先で絞り、玩弄する。
「やっ…んっ…やぁぁんっ…」
 嫌々と頑是なくうち振られる細い首。小さい両腕が股間に伸び、賢明に男の頭を押し戻そうとしている。けれどそれには力など入っている筈もなく、ただ悪戯な男の髪を掻き乱す徒労に終わる。
「んっ…ぅん…」
 背後からリョーマを拘束し、背を凭れさせていた男の指が不意に下肢から離れ、細い顎を力任せに掬い上げると強引に反らせ、口唇を合わせてきた。
「んっ…んんっ…」
 自由になった下肢がバタつけば、股間に顔を埋める男に足首を握り込まれ、息苦しい程屈曲させられる。
「ぅぅん…ぅん…んっ…」
 容赦なく捩じり込まれた濡れた軟体は、傍若無人にリョーマの口内をまさぐり、奥で縮こまっている舌に強引に絡み付き、吸い上げて行く。
 股間と口唇を同時に犯され、リョーマは未知の感覚になす術もなく翻弄されて行く。
 愛する者同志が交歓する行為も、リョーマにとってはただの暴力であり、男達はただ欲望のままに幼いリョーマを凌辱する事に異様な興奮を覚えていた。
 名前の判らない未知の感覚に、リョーマは更に恐怖を煽られる。風呂などで裸を曝す訳ではない雄の欲望の前に股間を曝す事は、幼いリョーマにとってさえ、死ぬ程の羞恥だった。
 自慰も知らないリョーマにとって、無理矢理押しつけられ、感じさせられていく行為は、恐怖以外の何物でもないだろう。
「んっ…んっ…」
 滑る軟体は、口内を縦横無尽に這い回り、痛い程舌を絡め、吸い上げられる。口内に流れ込んできた唾液を拒む事もできず、その認識もないまま、リョーマはソレを飲みこまされて行く。
 数人の雄の前に曝された白い喉が、コクリと嚥下する様がひどく淫靡で、雄の嗜虐を煽情する。
 嬲るだけ嬲り、人格も何もかもを無視して、戯弄の限りを尽くしたくなる雄の嗜虐を煽情する被虐性が、リョーマにはあったのかもしれない。
「んっ…ぅんん…んん…ッ!」
 息苦しい程、口内を玩弄される。同時に、幼すぎる肉茎は、快楽の意味も知らないまま無理矢理未知の感覚を押しつけられ、リョーマは板挟みの感情の最中で、慄えているしかなかった。
「ヒィァ…やぁぁ…ッ!」
 口唇を開放され、息苦しさに空気を吸い込み、当時にビクンと背が撓う。
 根元を戒められたまま、手酷い戯弄に屹立した自身を威勢良く吸い上げられる。
 血が沸点に達したように体内で熱が凝縮し、それは腰の奥の奥で蟠り、尚高まっていく。出口のない熱は体内を逆流し、奔流する。
「気持ちいいだろう?」
 幼い肉茎を弄び、未知の感覚に恐怖で泣くリョーマを見上げ、男は淫猥な笑みを投げ掛ける。
「そろそろイカせてやれよ。イク顔みたいだろ」
 幼いリョーマに達する快楽など判るはずもない。ましてこの状況で、無理矢理押しつけられる感覚に、恐怖しか感じていないのだから、リョーマにとって感じている快感など程遠いものだ。
 けれど雄の本能で幼い子供を嬲る彼らに、そんな思考がある筈もなく、リョーマの股間に顔を埋めている男は、回りの男の声に淫猥に嗤うと、幼い性を手酷く嬲り始めた。
「やぁっ…ッ!ぁぁん…ぁ…やっ…あっ…」
 途切れる涙声。嫌々と頑是なく打ち振られる細すぎる首は、大人の男の手なら、片手で簡単に握り締められるだろう細さだ。 幼い性を嬲られ、未知の感覚に泣きながら、それでも肉体は素直に感じている。細く幼い腰が雄の戯れに揺れている様は、ひどく生々しい光景で、残虐な雄の本能を刺激するには十分すぎた。
「ぁんっ…やぁぁ…たすけて…やぁぁ…んっ…ッ…」
 生々しい濡れた喘ぎ。股間を愛撫される死ぬ程の羞恥に塗れながら、リョーマは無理矢理絶頂に追い上げられて行く。
 更にグッと下肢を開かれる。
幼い性の先端の窪みを執拗に嬲り、容易に達っせいない様、根元を絞り、痛い程屹立している肉茎を扱いて行く。
「ぁぁ……ぁぁん……」
 揺れる幼い細い腰。死に物狂いで抵抗していた小作りに頭は、今は緩慢に動き、股間に伸びた手は、無意識のだろう、男の頭その部分に押しつけていた。
「や…こわい…」
 辿々しい哀願の声が、男の耳を楽しませる。
「気持ちいいって言うんだぜ、コレ」
 リョーマの股間から顔を上げると、男は幼い肉茎を音がしそうな威勢で扱き上げて行く。
 絶頂に達する快感より、痛感を与えられるその行為に、リョーマは掠れた悲鳴を上げた。
「可愛い乳首も、勃ってるしな」
 背後からリョーマを拘束している男の腕が、Tシャツをスルリと捲り上げ胸を曝せば、小さい突起が硬くなっている。
「ヒィッ!」
 胸の両の突起を節のある指の腹で摘み上げられ、リョーマはビクリと白い喉を反らした。
 小作りな造作が、快感と痛感の両方を同時に与えられ、怯えと官能を混在させているその様は、雄の嗜虐を煽情するばかりだ。
「お前は、淫乱なんだよ」
 幼い性を暴力で蹂躙しながら、否応なく、抵抗の欠片もなく乱されて行くリョーマに対し、男達はリョーマを哄笑する。
到底、犯される被害者のリョーマに、淫乱の意味など判る筈もない。
「こんな小さいくせに、男を誘う」
 10歳と言うには小生意気な態度と口調。そしてそれを裏切らないテニスの技術。幼い子供が持つには卓越したその才は、努力だけではどうにもならない天性の才というものを、誰彼にも見せつけている。その強烈な印象と、幼さのアンバランスさ。
 雄の嗜虐と、自らの持つテニスの劣等感が、リョーマに暴力と言う形で発露された。その罪悪の全てを、リョーマの責任に転嫁させ、雄は幼い性を無残に凌辱していく。
「あっ…んっ…ぁぁん…やぁ…怖い…怖い…」
 緩慢な仕草で乱れながら、リョーマは譫言のような声を繰り返す。
 細腰の奥の奥で凝縮していた熱が、威勢良く下腹に集中する熱さに、未知の感覚にリョーマは顫えていた。
 ガクガクと顫える白い内股。抉る程薄い腹部。緩慢に首を振り乱し、濡れた生々しい嬌声が、怺える術もなく、濡れた口唇から漏れて行く。
「素質、あるぜ」
「イカせちまえよ」
 幼い肉体に衝き入れたいとばかりに、ズボンの中で自身は痛い程昂まっている。
 幼い肉体を穢がす興奮と、狭くきついだろう幼い内部を想像しては、男の雄は喚起される。
「覚えとけよ。コレは、気持ちいいってんだぜ」
 興奮する男の声が、リョーマを絶頂へと追い上げる。
「ヒィア…ぁぁん…ぁん…やぁぁぁ……ッッ!」
 ガクガクと顫える細腰。出口を求め、熱が奔流する感触に、リョーマは生々しい嬌声を放った。
「あぁぁッ!」
 快感には程遠い快楽の淵で、リョーマは男の掌中で達した。






「ヒィイッ!」
 激痛と呼ぶには凄烈すぎる痛みに、リョーマは声にならない甲高い絶叫を放って抵抗していた。けれど叢に押し倒され、下肢を限界まで開かれた恰好の抵抗など、通用する筈もなかった。
「スゲ…いいぜ…きつい…」
 激痛に蒼白になるリョーマを構う余裕もなく、男は狭い体内に、容赦なく切っ先のような肉棒を撞入する。
 発達途上の未成熟な体内は、きつくせまく、男の肉棒を締め付ける。必死になって拒む肉襞の動きが、却って雄を喜ばせる結果になるなど、リョーマに判る筈もない。幼いリョーマに与えられてるのは、言葉に表現する事もできない激痛だけだ。
「俺は、こっち使わせてもらうぜ」
 淫猥な笑みを酷薄に浮かべると、他の男が絶叫を放って抵抗するリョーマの口に、怒張する肉棒を衝き挿れた。
「グゥゥ……!」
 醜悪な雄の臭いを放つ性を、容赦なく喉の奥まで突っ込まれ、リョーマは瞬間嘔吐反射に見回れる。けれど塞がれた口では当然吐物は吐きだされる事はなく、苦い胃液が再び戻って行く。
 容赦なくリョーマを貪り、凌辱を極める雄は、幼い肉体を力からで開き、未発達な性に否応なく苦痛に等しい快楽を押しつけて行く。
「グゥゥッ!」
 雄の怒張で塞がれた悲鳴が、喉の奥に儚く消えて行く。
雄の肉棒が体内で律動を刻む度、柔らかい肉襞が抉れ、擦られて行く。狭い体内で質量を増し、息苦しい程圧迫をする雄は、柔らかい肉を内側から押し開いて行く。その痛みにどれ程抵抗しても、大人の力に適う筈もない。
 喰われて行く。リョーマは逃れようのない純粋な痛みに、そう思った。
 肉体と精神の両方を、同時に破壊されて行くような行為だった。まさにリョーマにとっては、喰われる事と大差ない行為だったのだろう。
 最後には抵抗もできないまま、幾度も雄を咥えこまされた幼い躯が、肉体の表面にも内側にも、雄の欲望に凌辱の液体をこびりつかせたまま、叢に打ち捨てられた人形のように横たわっていた。
 押し倒され、抵抗もできないまま、雄の欲望を上と下の口の両方に容赦なく咥えこまされたリョーマの頭上で、夏の赤い月が、切り取ったように蒼い夜空に浮かんでいた。









「………ッッッ!」
 迸る絶叫は、けれど言葉にはならず、リョーマは飛び起きた。
心臓は早鐘を打ったように鳴り、鼓膜と頭蓋の両方を破壊しそうに音を立てている。まるで心臓を直接手にして鼓動を訊くかのように、奇妙な程明瞭に、早鐘を刻む心臓の音が聞こえた。
「何で……」
 慄える指先は、爪の先の先まで白くなり、冷たくなっている。パジャマは寝汗でビッショリになっていた。
 ベッドサイドの時計を見れば、時刻は深夜で、初夏の生温い空気が、纏い付く。その澱んだ空気が、益々過去を思い出させた。
 漸く忘れる事のできた悪夢が、反芻されるように甦ってきた。あれは悪夢などではなく、現実に身の上に起きた事だと、忘れるなと言うかのように、ソレはリョーマの内側で甦ってきた。
「助けて……」
 逃れる事のできない悪夢。漸く忘れる事ができていた筈だった。
 一時期は、ラケットも持つ事のできない酷い状態に追い込まれ、それでもリョーマにはテニスしか悪夢を忘れる手段はなく、だから誰より熱中してテニスに没頭した。
 他人と接触する事を極端に怖がり、誰かと居るなど、リョーマにはできなくなっていた。元々個人主義のリョーマだったから、それは尚更ひどくなっていた。


『…リョーマ……』

 男の欲望に凌辱されたリョーマを、母親は抱き締め、泣いた。けれどリョーマは最後まで自分を犯した男達の名前を口にはしなかったし、できなかった。 
 そしてそんなリョーマの環境を変えようと、南次郎は帰国した。


『淫乱』

 不意に甦る男の声。


『覚えとけよ。コレは、気持ちいいってんだぜ』

 快楽を同等に与えてやるからという免罪符の言葉を口にして、男達は容赦なくリョーマを犯した。
 それでもリョーマが立ち直れたのは、テニスがあったからだ。父親の名に呪縛されつつ、それでも悪夢を忘れるには、テニスしかなかった。


『越前』


「桃先輩……」
 他人と居ると緊張しかできなかった。けれど日本で自分を取り巻く環境はひどく穏やかで優しく、悪夢を漸く過去のものにできたと思った。


『お前のテニス、好きだな』

 
そんな言葉で、触れてこられたのは初めてだった。
アメリカに居た当時、誰もが自分を通して背後に父親を見ていたから、そんな言葉を言われた事はなかった。
 誰かと居て安心できる感情など、一生自分には持てないものだと思った。けれど桃城は違った。誰と居るより、安心できた。


『お前、なにか危なっかしいな』

 何を見て、桃城がそう判断したのか、リョーマには判らない。
日本に来て漸く忘れる事のできた悪夢は、けれど実際リョーマの内側から消え去る事はなかったから、リョーマに一番近い距離を持っていた桃城には、何か漠然と感じるものはあったのかもしれない。


『好きだ』


 そう告げてきた桃城には、欠片も雄の欲望など映してはいなかった。
けれど、きっと頷くべきではなかったのだと、リョーマは思う。
 大丈夫だと思っていた感情に、根拠はない。誰かと接触する事に嫌悪しか湧かなった。桃城なら大丈夫など、何故思ったのだろう?
 どれ程優しく真摯な言葉と態度で守られても、自分はもう悪夢を思い出している。
 どれ程誠実な態度の裏側にも、雄の欲望が垣間見えてしまう。桃城があの男達と違うという根拠など、本当は何処にもない。最初あの男達も、優しい声で、近付いてきたのだから。桃城が、あの男達と違うなど、保障はない。けれど。
「桃先輩…」
 違うと、桃城はあの男達とは違うと、きっと誰より理解してるのは、リョーマだろう。
 好きだと告げられて、嫌悪より何よりも、嬉しいと思ったのだから。


『俺も、嫌いじゃないよ』

 随分曖昧な言葉で返答したリョーマに、けれど桃城は明確な応えなど求めず、ただ笑った。


『だったら、ここから始めねぇ?』

 嫌いじゃないけど好きでもない。この距離から始めようと、桃城は笑った。


『別に…』

 そんな曖昧な言葉で誤魔化して、二人の関係は始まった。


「助けて……」
 甦る悪夢に、思い出すのは、容赦のない激痛と、口内を散々に嬲っていった雄の欲望だった。
 強引に口内に咥えこまされた雄の怒張が生々しく甦る。
醜悪な臭いを放ち、抵抗の欠片もできず口内を蹂躙され、拒む事もできないまま、飲みこまされた。
 喉を灼く雄の精。抵抗など皆無で、嘲笑を滲ませたまま、男達はリョーマの体内に精を放っていった。
 思い出して、胃が灼けた。瞬間、逆流する苦い液体に、リョーマは反射的に口を覆った。
 吐き出せる物など何一つ無い。食道を逆流して来る苦い液体が、口を塞いだ指先から漏れて行く。
 指の隙間から漏れる黄色い液体の中に、まるで男達の精が混ざっているようだった。
「助けて……」
 もう何度繰り返したか判らない言葉だ。けれどその言葉が実際には救いにもならない言葉だと、リョーマは現実で思い知らされた。
 それでも、口を衝く言葉だった。
「桃先輩…」
 助けて……。
逃れられない悪夢が、パックリ口を開け、待ち構えているかのようで、恐ろしくなる。
 このまま桃城との関係が、ただ柔らかいものばかりではない事を、知らない程リョーマは子供ではなかった。その時、自分は桃城を受け入れる事は決してできないと、リョーマは知っていた。
 それでも、桃城に救われたいと思う想いも、嘘ではなかった。
「桃先輩……」
 まるでそれしか悪夢から逃れる術はないのだと言うかのように、繰り言のように繰り返される名前。
 桃城が空の瞳だと笑った綺麗な双眸から、涙が溢れて行く。
自分の躯が幾人もの男の手によって穢され尽くしたものだと知った時、桃城はどうするのだろうか?
 二度と誰かと想いを通わせる事などできないと思っていた。その先に待つものは、心だけで繋がる関係など何処にもないと、身を持ってリョーマが教えこまされた現実的なものだった。
 その行為に恐怖しか湧かない自分に、桃城はどう反応するのか?
 それがリョーマには怖かった。
逃れる術など何処にもない悪夢が、再びリョーマを絶望に突き落として行く。
「桃先輩…助けて……」
 きっとその時、桃城は自分から離れていくだろう。
その確かな予感が、リョーマの心を竦ませていった。
 夜の闇は尚深く、心の深遠は更に深い。リョーマは、自分の躯を抱き締めるように、桃城の名を繰り返していた。