疑問と謎と不思議 4

 ギシリと、二人分の体重を乗せ、スプリングが軋んだ音を立てる。ベッドサイドの照明だけが頼りの室内で、雪花石膏の肌が妖冶を映して浮き上がっている。
「ん……ッ」
「ッ痛ぇ…ッ…」
 対面座位の格好で深々貫かれ、リョーマは桃城の肩口に白く薄い歯を立て、背に朱線を刻み付ける。
 綺麗に切り揃えられた瀟洒ともいえる爪が、肉に食い込んで行く感触に、桃城は短い痛感の声を上げた。
「こっちの方が、痛い…」
 涙眼になって抗議する声は、けれど瞬時に朱に色付く吐息にすり変って行くから、効力など何一つもない。
「痛いか…?」
 気遣う様子を見せながら、けれど腕は細すぎる華奢な腰を抱えこんで、益々肉の底へと届く威勢で、硬く猛る自身を埋没させて行く。
「ぁん…やだ…」
 対面で桃城の上に座り込む格好での交わりで、下から突き上げられれば、拒む術など何処にもない。ただ深々貫かれ、軽々と揺さぶられる。
 堅く熱い肉棒が、自身の奥深くに埋め込まれ、更に質量を高めて肉を開かれて行く。その生々しさはリョーマを困惑させる。その反面、抱かれれば抱かれる程慣れと同時に湧き出てくるナニかに、動揺と狼狽が湧いて出て来る感触が生々しい。
「痛くねぇだろ」
 スルッと、互いの腹の間で熱くなっている幼いリョーマに手を伸ばし、包み込む。
「やだって……ぁんんっ…」
 グッと白い背が撓う。同時に、内部で熱さを増す桃城自身を締め付けてしまう。戸惑う眼差しが一瞬の放心と相俟って、桃城を誘った。
 小生意気で負けん気が強くて、それでもこうして肌を重ねて知る事も色々有ったように思える桃城だった。
 同じ時間、部活でプレイしているのに、リョーマの肌は透ける程に白い。けれど女のように脂肪の乗らない肌は、テニスというスポーツをしている分だけ張りのある筋肉が、細い骨格に綺麗に付いて、内部の桃城を心地好く締め付けて行く。
「お前のココ、嫌だってないぜ?」
 ココと、クツクツ喉を鳴らし嗤うと、昂まり白濁とした愛液を滴らせ、包み込む自分の掌を濡らすリョーマ自身を、桃城は緩やかに刺激する。
「ゃっ…ん…桃先輩…」
 ギリッと褐色の肌に更にきつく爪を立て、肩口に歯を立てる。
「イイだろ?」
「っんの…スケベ」
 見下ろされ、ニヤリと笑う笑みに、忌ま忌ましさが湧く。
けれど反駁は途切れ色付き、精々が爪を立てる反抗しかできなかった。それさえ桃城を煽情する挑発だと、リョーマは気付かない。
「スケベじゃねぇ男なんて、在ねぇよ」
 背に爪立てる仕草は女のソレだと、きっとリョーマは気付かないのだろうと、桃城はクツクツ嗤った。嗤い、更に包んだリョーマ自身を緩やかに刺激する。
「やっ…やめ…」
 歔り欷に交じる喘ぎ。嫋々の嬌声が、桃城の雄を煽情する。けれど多少の罪悪も感じてしまう桃城だった。
 一年前までは小学生で、実際、薄い翳りの中央で昂まるリョーマ自身は未々幼い部分を残している未成熟さだ。そのリョーマが、快楽に耽って細腰を振り乱す。自ら快感をねだって浅ましい声や台詞を吐くのに、桃城は時折堪らない罪悪に駆られてしまう。
 どれ程勝ち気で小生意気でも、リョーマは未だ13になったばかりだ。性に対しての興味と好奇心しかない幼い子供に手を出した罪悪からは逃れられない。まして手を出した当時は12歳だったから尚更だ。
 『セックスなんて大した事ない』そんな言葉が出てしまう程、性に関してのリョーマの感覚は興味と好奇心と何より得がたい快感が優先しているのだろう。そう思えば、益々罪悪が湧くくせに、挑発的に誘われれば、拒めない自分も在るから始末に悪い。


『モラル有るフリしても仕方ないじゃん。する事してて、綺麗な事言っても、意味ないっスよ』
 リョーマの言葉が甦る。
         

「んっ…んんっ…」
 緩やかに追い詰められて行く自身。血と肉の奥が灼け付くように熱い。細腰の奥の奥に熱の塊が在って、開放を急かしてくる。そんな時、不意に鮮やかに甦った瀟洒な面差しと甘い言葉が有った。


『嫌ね、子供のくせに。そんな事ばっかり、覚えていくんだから』
 クスクスと笑った薄く色付くルージュ。瀟洒な爪に乗るマニキュアと淡い香り。軽くウェーブの掛かった薄茶の髪と、それが縁取る白皙の面は端整で、自慢の従兄弟だった。
『それが小学生なんだから』
 彼女に罪悪はなかったのだろうか?10も離れた従兄弟に手を出して。
『本当、先が楽しみね』
 マセた子供だったと言う自覚はあった。決して周囲にそうは見えなくても、マセていると言う自覚は有った。初体験が小学生となれば、それは当然だろうと桃城は思う。
 自慢の従兄弟で、誘われ教えられた女の肌と性。それから半年くらいはそんな戯れが続いて。彼女は彼女の愛する男に嫁いだ。関係は途切れたが、従兄弟と言う関係は続いているから、今でも時折彼女はクスクスと相変わらずの悪戯気な笑みを漏らしては笑う。 
『今はフリー?それともまた誰かをつまみ食い?あんまり女の子泣かしちゃダメよ』
 クスクスと笑う甘い笑い声。確かに彼女は大切な女性で、初恋だったのだろうと思う。
『貴方って、時折腹立つ程、相手に内心読ませないから』
 適格に自分の内心を見抜いた彼女は、確かに伊達に年上ではないのだろう。今までそう言い切られた事はなかった。
『そんな貴方が本気な相手に会ったら、それこそ大変で、その分楽しみね』
 コロコロと笑う銀鈴の声。そういう彼女と自分は、良く似ていた。顔形と言う外見ではなく、他人に執着しない性格が。だからこそ気があった。
『馬鹿みたいに本気な恋なんてね、正気じゃなきゃできないのよ』
 熱病ではない想いの深さ。その言葉の意味を、アノ時の自分は未だ理解できなかった。
『熟成されれば、愛になるわよ』
 そう笑って、自分に差し出された腕に、差し出した白く瀟洒な指先。最悪なのは、茶目っ気たっぷりな悪戯気な性格だ。
『タケシに上げるわ。貴方もいつかちゃんと、そういう相手に出会うわよ』
 ブーケを投げ付けられて、流石に困惑しない訳にはいかなかった。そんな自分を眺めては、彼女はやはりクスクスと笑った。     

 彼女に罪悪はなかったのだろうか?問い掛ければ、きっと笑うだろう。きっとこんな言葉で。

『タケシはバカね』

『そんな事、相手に失礼よ』
           
『恋愛は計算じゃないわ。本気になったらね。貴方数学得意で、何でも計算する事が癖になってるのよ』

 それでも女は上手に計算で恋愛をする。片目で熱病のような恋に浮かれても、片目でちゃんと現実を視ている。そういうものだ。けれど今更彼女の台詞の意味を痛感する当たり、やはり自分はバカなのだろうと、桃城は内心自嘲する。



「桃…先輩…」
 想起した過去が、不意に引き戻される。見下ろせば、何処か睨め付けるようなネコに似た眼差しが見上げている事に気付く。
「どした?」
 内心の罪悪を悟られたくなくて、軽口を聴くように口を開いた。
「越前?」
 熱に浮かされ蜜を映して色付く眼差しは、素直な官能に埋没しているくせに、睥睨を映して見上げて来る。それは何処か、試合最中のリョーマの研ぎ澄まされた、冷ややかな切っ先のような双眸を連想させた。
 骨格自体の作りが華奢な印象ばかりの線の細さ。けれどそれが脆弱に映らないのはテニスの技巧以前に、きつい双眸の所為だ。身の裡に切っ先を潜ませているような研ぎ澄まされた冷静さ。13歳と言う子供で、試合中がきっと一番そんな面を覗かせる勝ち気さ。けれど、冷静に試合を運ぶ理性が残されて、研ぎ澄まされた眼差しは冷ややかさと同時に、熱いものを滲ませて輝きを増す。それがリョーマを決して脆弱には見せない。けれど今は違う。
 歔り欷く嫋々の喘ぎの狭間に無言の抵抗、そんな印象を受ける。けれどそれはすぐに反転し、切っ先のような眼差しは淫蕩を湛え、桃城の眼球の中核を射ぬいて行く。その淫靡さに、桃城は喉を鳴らした。とても13歳の子供がする眼でも、表情でもなかった。
「モラリスト、気取るつもり?」
 紅脣が、酷薄な笑みを刻み付ける。
「まだまだだね」
 酷薄な笑みは半瞬で反転し、リョーマは桃城の背に爪を食い込ませ、肩口に歯を立てた。
「越前…」
「バッカじゃないの…桃先輩…」
 気遣いとは違う事を、リョーマは気付いていた。
子供を抱く幾許かの後ろめたさと罪悪感。抱かれて気付かない筈はない。そんな事にも気付かないバカだと、リョーマは思う。
「…気持ち良くない?」
 甘い吐息に白い胸元をのけ反らせ、リョーマは笑う。笑う笑みは、挑戦的なばかりのものを滲ませている。
「挑発するな…」
 恋する想いなんて、知らなかった。抱く意味も、きっと知らなかったに違いない。挑発的に笑う年下の後輩に、甘やかされていると思うのは、こんな時なのかもしれない。










「ぅんんっ……」
 絶え絶えに喘ぐと、埋めた肩口に額を擦り付け、嫌々と細すぎる首を振り乱す。
「越前……」
 締め付けられ、桃城自身も限界に近い。目線の下に在る細い首筋。その首が支える小作りな頭。こうして腕に抱けば、華奢で小柄な印象は、決して印象だけではないのだと思い知る。けれど決して脆弱な華奢さに映らない。
 未成熟な発展途上の姿態。同じ一年でもリョーマは小柄だ。けれどテニスをする時の彼は、そんな体格差など撥ね付ける技巧や精神力や体力を持っている事が、不思議にさえ思う。否、違う。抱けば抱く程、その華奢さと試合最中の彼の強さに、疑問や不思議さが湧くのだ。


『別にテニスって、身長でするもんじゃないし』
 そう言うリョーマの言葉は、彼自身によって証明されている。細く長い腕から繰り出される鋭い打球。細い下肢は力強く地をけって走っていく。


「桃先輩……ネコの所有の意味、判った……?」
 喘ぎ歔り欷く吐息の狭間で、リョーマが意味深に問い掛けてくる。白皙の面が熱に浮かされ紅潮し、陶然の眼差しが桃城を見上げている。歳相応に幼い無防備さだと思う反面。タチの悪さをも意識させる笑み。何処で見た笑みだろうかと思えば、和洋折衷に飾り立てられた自宅のリビングでの雛人形の笑みだと思った。酷薄で意味深な忍び笑い。まさにソレだ。
 快楽に貪婪で、羞じらいなどなく開かれて行く躯。きっと過去の自分もそうだったのだろうと思う。性への好奇心と興味本位で、従兄弟を抱いていたに違いなく、きっと今のリョーマも過去の自分と同じなのだろう。
 肉の奥を灼く快楽と、血の底を煮えさせる愉悦。セックスなんて大した意味はないと告げるリョーマだから、桃城は理解してはいなかった。その言葉の意味を。
「判んねぇ…な…」
「忘れてたくせに…」
「こんな時くらい、素直になれって…」
 挑発的に笑う笑みに、桃城は細腰をグッと揺さぶった。
「んんっ…ぁんっ…」
「気持ちよくって仕方ないって顔して」
 紅潮する白皙の面。長い睫毛が官能に顫え、涙を流す。隠す事もなく開けっ広げな快楽を映すリョーマの姿態に、羞じらいは感じられない。今はもう極める寸前の貌を惜し気もなく曝している。
 淫らだと感じてしまう一瞬は、こんな時だ。そして淫らだと感じてしまう事に、戸惑いを感じてしまうのも、こんな時だ。
「意味判んないから……」
 自分を抱くくせに、そんな顔をしているのだと、リョーマは思い切り桃城の背に爪を立て、肩口に歯を立てる。
「ッ痛ぇ……お前なぁ…」
「桃先輩が…悪いんスよ…」
 意味深な忍び笑いを漏らした。
「っんのぉ…」
 挑発的な笑みに、溺れてしまう自分を意識する。幼い姿態に溺れて行く衝動というのは、些かロリコンなのかと自分で心配する局面は多々有るけれど、それでも、壊れない相手に、だからこそ益々溺れてしまうのだ。
「ぁんっ…ちょ…桃先輩…んっ…や……ソコ…」
 きつく吸い上げられる胸の屹立に痛感が湧く。けれどその痛感は一瞬で、すぐにダイレクトな官能が下半身へと響いて行く。
「んっ…ゃめ…やだ…ソコ…」
 軽く歯を立て屹立する淡紅色の飾りを咥えられ、振動に揺さぶられ吸い上げられると、グッと細く薄い背が撓う。
「お前ココ弱いな」
 挑発的で淫らな姿態の中でも、取り分けて淫らな性感帯。
「挑発したお前が悪い」
 咥えたまま話すと振動が伝わって、リョーマは嫌々と激しくかぶりを振った。
「んっ…のぉ…意地悪い…」
 けれど抵抗も反駁も余地はなかった。乱されるままに乱され、肉は貪婪に快楽を欲している。         
 内部の桃城自身は狭い肉の内側で質量を昂めて行くから、リョーマに抗う術など何処にもない。内側から開かれて行く肉。喘ぎ充血してるいのるが嫌でも判るその生々しさに、リョーマは既に精神的には幾度となく達している状態に曝されている。それは桃城も変わりない。幼く狭い肉。喘ぎ充血し、淫らな伸縮を繰り返す柔肉に、桃城はリョーマの姿態を威勢良く横たえた。
「ヒッ…」
 短い悲鳴が上がった。背にシーツの感触を感じ、伸し掛かられ、細い下肢は割く程開かれ、桃城の肩に担ぎ上げられる。
 いつもは笑顔ばかりの印象の桃城が、今は自分に欲情し歪んでいる表情を曝している事が、リョーマには可笑しかった。
「もっと、抱き付けよ」
 限界に達している自身を、最後の足掻きとばかりに幼い肉の奥に穿つと、桃城は細い腰を抱き上げる。
「んっ…んんっ……!」
 言われるまでもなくリョーマの指は、褐色の肌に爪を立てていた。
「んっ…桃先輩……」
 肉の奥の奥を目一杯掻き回され、リョーマは陥落した。
「越前…」
「あっ…あぁッ……ッッ!」
 掠れた悲鳴が切迫して零れ落ち、リョーマは互いの腹の間で痛い程昂められた自身の熱を開放し、桃城は幼い肉の奥で自身の熱を開放した。






「桃先輩、夕飯何がいい?」
 シャワーを浴び、スッキリした表情で戻ってきた桃城に、リョーマは寝乱れたベッドに寝っ転がったまま口を開いた。乱れた髪を好き上げる仕草が奇妙に艶冶で、桃城の苦笑を誘う。
「何か作るか?」
「デリバリでいいっスよ」
 疲れてるでしょ?リョーマが笑った。
 結局桃城の家で昼食を摂り、午後リョーマの家に戻って三時間、二人で打ちっぱなしをして。そして結局二人はリョーマの部屋で、行為に及んでしまっていた。


『本堂と部屋、桃先輩に選ばせてあげますよ。お礼だから』
 結局桃城に決定権など、有りはしなかった。大した言い草だと思いながら、けれど桃城に拒める筈もない。
 流石に本堂は勘弁しろとリョーマを窘めた桃城だったが、欲しいと言う想いは隠せはしない。結局リョーマの部屋で、行為に及んだ。ベッドボードに置かれた時計は、9時近くを差している。
「お前なぁ、ガキのくせに、その笑い方はねぇだろ」
 タチが悪い娼婦のような笑みに、桃城はギシリとベッドサイドに腰を下ろすと、クシャリと髪を掻き混ぜる。 
 情後の気怠い風情を隠さないリョーマは、いつからこんな笑みをするようになっただろうかと思い返しては、けれど確かな記憶などなかった。
 自分がこんな笑い方を覚えさせてしまったのかと思えば、罪悪が増す。けれど後悔は欠片もない。それが桃城自身、不思議だった。
「なぁお前、今回の目的は判ったのかよ?」
「何スか?」
 髪を梳く指を払い除ける事はなく、好きに与えてやりながら、リョーマは気怠げに口を開く。陶然と半眼閉ざされた面差しは、何処かネコを連想させる。
 そう言えば、リョーマの家には血統書付きのネコがいた筈だったとフト思い出す。ネコは何処に在るのかと思ったが、訊く事はなかった。きっとリビングあたりに居るのだろう。
「っじゃねぇだろ。桃の節句」
「人形飾って散らし寿司食う事でしょ?」
「………ソレは果てしなく解釈に問題が有るぞ」
 帰国子女だからと言う事ではないのだろう、リョーマのこの反応は。
「問題ないんじゃないスか?桃先輩だって、判らないくせに」
「お前なぁ」
 口が減らない、桃城はクシャクシャと威勢良く汗ばんだ髪を掻き乱す。
 けれどリョーマの言う台詞も、概ねで間違いではないだろう。風習として今でも残っている物は、習慣や年間行事として扱われているから、その本質的な意味など、きっと今は必要とはされない。
「別に問題ないし」
「まぁそうだけどな…」
 それでも今日一日、朝から迎えに来た相手に、もう少し言い方が有るだろうとボヤいて見せても、リョーマ相手に一向に効力はない事も判っていた。だからこれはただの戯れ合いだった。
「そういや、お前」
 不意に思い出したように髪を掻き乱す指が止まり、小作りな面差しを覗き込む。
「何スか?」
「ネコがどうたか言ってたよな?アレどういう意味だよ」
 桃城がマジマジと訊いてくる事が可笑しくて、リョーマは桃城を凝視すると、次には意味深な忍び笑いを漏らした。
「まだまだだね」
「なんだよそりゃ」
「まんまの意味っスよ」
「判んねぇなお前は」
 自分を凝視して来る面差しに、躯を捻って顔を近付けると、吐息が触れ合う間近かで端整な貌を覗き込む。
「判ろうとしないだけじゃないッスか?」
 そしてやはり意味深に笑うリョーマだった。









「オイ桃」
 ソレを部室で見付けた時、流石の英二も無頓着な後輩に肩を竦め、小声で耳打ちをした。
 雛祭りの翌日は月曜日で、放課後は元レギュラーも練習に参加していた。その練習後の更衣室には、元レギュラーが揃って着替えをしていた。
「英二先輩?」
 好奇心が旺盛で、何事も楽しんでしまう性格の英二が、コソコソ耳打ちしてくる事に、桃城は怪訝な顔をして見せる。
「お前さ、少しは周り気にしたら?」
「?」
「オチビちゃん」
 ツンツンと、タンクトップ一枚になっている桃城の剥き出しの肩をつついた。
「アッ……」  
 言われて初めて、桃城は褐色の肌にクッキリ付いている幾重もの爪痕に気付いた。
「お前とオチビちゃんって、結局似た者同志なんだ」
 言われて初めて気付いた言う顔をしている桃城に、内心少しだけ呆れながら、英二は揶揄うように笑った。
「っにしても、まぁ派手に付けられて」
 一年のリョーマはレギュラーとはいえ、練習後の後片付けれしているから、此処には居ない。
「えっ…英二先輩」
「お前さ桃、鈍すぎ。俺達に気付かれないなんて、思ってた?」
「越前君は、ちゃんと判ってるのにねぇ」
 気配なく桃城の背後に立ち、不二が可笑しそうに口を挟んできた。
「不二先輩」
 3−6コンビに挟まれて、前門の虎、後門の狼状態の桃城は、引きつった笑みを漏らす事しか出来ない。
「そうだぞ桃、オチビはちゃんと気付いてるぞ。俺達に気付かれてる事」
 可哀相オチビ、こんな鈍い男が相手で、英二は大仰に溜め息を吐き出した。
 周囲の機微には、見掛けより遥かに鋭い洞察力で適格に見抜くと言うのに、自分の事にはまったくの無頓着さは、小生意気なリョーマとそっくりだと、英二は内心苦笑する。
「まさか」
「桃が相手じゃ、苦労するね彼も」
「だぁからこんな跡、残されちゃうんだよ。ハデハデに」
「桃は、意味判ってないみたいだよ英二」
「ハァ〜〜俺オチビに同情する」 
 自分の事に無頓着なのはお前も一緒、英二はピシッと指を突き出した。
「アッ、そうだ先輩。『ネコの所有意識』って判りますか?」
 情事の最中の、リョーマの意味深な笑みと言葉を思い出す。バレているなら隠す事は出来ない。特にこの3−6コンビの先輩二人には。だったら隠さず、疑問を口に出してしまった方が得策だった。
「って。越前君が言ったんだ」
 面白そうに不二が笑う。
「やっぱ桃ってさ、下僕なんじゃん」
「ハァ?」
「教えたら、何かくれる?」
「後輩にたかります?」
「お前なんていっつも後輩に貢いでるじゃん。たまには、俺に貢いでみなよ。帰りに駅前のモスで、チーズバーガーとナゲットとシェイク付きで」
「英二先輩〜〜〜」
「何々?後輩には貢いでも、優しい先輩には何も貢ぎたくないってぇ〜〜?」
「無理言わないで下さいよ」
「何が無理だよ。どうせオチビと寄るんだろ?」
「まぁでもアレだよね。桃にそれだけ派手な跡残してるのに、彼、今日も随分いいプレイしていたよ」
「アレだにゃ。細い腰してバネがいいんだ。桃〜〜楽しいだろ」
「……どうしてそう下世話なんですか」
 一瞬ロッカーに懐いてしまった桃城に、きっと罪はないだろう。
「お前達、何をしている?」
 いつだって、美味しい所を持って行くのは彼なのかもしれないと、英二は掛けられた声の主を振り返り、不二は英二の背後に立つ手塚に笑みを漏らした。漏らし、
「可愛い後輩の恋の悩み相談」
 シレッと言う。
「お前のは面白がっているだけだろう」
 不二の即答に、手塚は溜め息を吐く。
「桃城、いつまでそんな格好をしている。早く着替えろ」
「……」
 っと言う事は、元レギュラーには、自分達の関係は筒抜けなのかと、桃城はガクリと肩を落した。
「今更今更。桃って鈍すぎ」
 俺益々オチビに同情〜〜〜英二が嘯いた。
「コラ英二、お前はまたちょっかい出して」
「だってさ大石〜〜桃って鈍いよ」
 ケラリと英二は大石に、だってさぁ〜〜と桃城の肩を示して見せる。
「朝10時に越前を迎えに行って、目覚まし代わりにされて、途中花やで桃を手渡される。0時に桃の家で散らし寿司を食べて、越前の家に行って2時17分から打ち合い。5時半過ぎに越前の部屋で行為に及んだ」
「………乾……」
「乾お前……」
 流石の元レギュラーも、乾のデータに声を無くした。桃城は完全にロッカーに懐いてしまっている。
「そのデーターって」
「確率計算だよ」
「出るかよ、んなもん。人の家の冷蔵庫の中身まで知ってるって、言わないだろうな?」
「英二の家の冷蔵庫は」
「ワ〜〜〜言うな」
「お前今朝朝食当番だっただろう?」
「乾……お前の化け物ブリは判ったから」
 今は桃の問題、英二は話題を逸らしに掛かった。
そんな時だった。
「何やってるんスか?」
 部室のドアが開かれ、リョーマが入ってきた。背後には、堀尾達も一緒だった。
 リョーマは、元レギュラーと桃城しか居ない部室の雰囲気を鋭く察知すると、視線を走らせる。
 部室の片隅で、元レギュラーが何かコソコソと話している。見れば桃城はロッカーに懐いている。状況を見れば、リョーマにはその意味が朧に判った気がして、酷薄な口唇に薄い笑みを刻み付けた。
「オチビ」
 おいで、おいでと、英二がヒラヒラと手を振った。
「何スか?」
 笑う英二に、リョーマは怪訝に眉を寄せる。面白そうに笑う英二を見れば、言葉の見当は付いた。まして桃城は英二と不二に挾まれ、未だロッカーに懐いているのだから、見当は付いて当たり前なのかもしれない 
「苦労するねぇ、こんな鈍い男で」
 耳元でコソコソと言い、けれど桃城の隣で話しているから、必然的にその声はいくら小さくても、耳に入る。
「別に」
「ネコの所有ね」
「言っちゃダメっスよ」
「可愛いねぇ」
 クシャクシャと、英二が笑って柔らかい髪を掻き混ぜる。
「桃先輩、其処で話しの肴にされてるなら、俺先帰るっスよ」
 リョーマはさっさと着替えを始めた。
「フ〜〜ン」
「何見てるんスか?」
 桃城の隣のロッカーに、青学レギュラージャージを脱ぎ捨てて行く。桃城同様白いタンクトップ一枚の白い肌には、跡一つ残されてはいなかった。
「綺麗だにゃ〜〜オチビ」
 英二が背後から小柄な姿態に伸し掛かる威勢で、抱き締める。
「ちょっ…」
「英二」
「スゲー柔らかいしツルツルお肌〜〜オチビ肌のお手入れかかさないんだ」
「………んな事誰がするんスか?」
 スキンシップが大好きな菊丸には、何を言っても意味はない。こうなっては、好きなだけ与えてやる事が一番手っ取り早く開放される。
「しない?俺ちゃんと毎日してるよ、ねぇ大石?」
「……俺に話しを振るな」
「僕もしてるけどね」
「色々試してさぁ〜〜姉ちゃんのクリームに手ぇだした時は、すげーどやされたけど」
「……英二…だから話しの方向性が違うぞ」
「今度いいメーカー教えてあげるよ。その前に肌のサンプルくれればね」
「乾にはな〜〜何か変のモノ作られそうだにゃ〜〜」
「希望有れば、作ってあげるよ」
「菊丸先輩、いい加減重いっスよ」
「ン〜〜オチビ素直で可愛い〜〜」
「だから重いっス」
 伸し掛かられていては、シャツも着れない。話しの肴から開放された桃城は、これ幸いとばかりに今は制服に着替え終えていた。
「ホラ英二先輩。それじゃ越前着替えられないっスよ」
「元はと言えば桃、お前が原因じゃん」
「どっちかって言うと、越前が原因って言えなくもないな」
「ホレ、待っててやっから、早く着替えろよ」
 ロッカーから制服を引っ張りだし、シャツを手渡してやる。その反応は、つい先日の部室での時と何一つ代わらないから、とどのつまりこの二人のこういった行動は、無意識下での慣れの結果と言う事なのだろうと、誰もが深々溜め息を吐き出した。リョーマと部室に入ってきた堀尾達は、言葉も出せず、彼等とは反対側の片隅で着替えていた。
「桃先輩、今日モスで奢りね」
「お前なぁ〜〜英二先輩と同じ事言うなよ」
 ゲンナリとし、それでも否と言わないあたり、大概甘やかしている自覚はある桃城だった。






「んじゃお先〜〜っス」
 リョーマの着替え終わるのを待って、桃城はリョーマを促し、部室を出て行く。
「桃先輩、モスが嫌なら、一昨日のとこでもいいっスよ」
「しゃぁねぇなぁ」
 ちっとも仕方ないと言う顔をせず、桃城はクシャリと柔らかい髪を掻き乱す。
「じゃぁチーズバーがにナゲット付けて、コーラね」
「……英二先輩と一緒かよ…」
 相変わらず二人の会話は言葉遊びに近い。既に帰りの恒例会話になっているような感が拭えなかった。








「ああいう会話してて、鈍いにも程が有る」
「ネコの所有意識ねぇ。何とも彼らしい表現だねぇ」
「とどのつまりネコってのはさ、自分のモノに対しては、爪立てる癖が有るとか、そんな話しだろ?」
「コレは自分のものだって、宣言してるって事だよね、可愛いねぇ素直で」 
「愛されてるじゃん、桃の奴」
「本人自覚ないけどね」
「あれで判らないって、桃の奴も恋愛音痴」
「それでも姦る事は姦ってるんだから、何ともねぇ」
「お前達、いつまでそんな会話をしているつもりだ」
「でもね手塚、桃は部長だし、越前には君が言ったんだろ?『青学の柱になれ』って」
「それと今の会話と何の関係が有る?」
「まぁ手塚もさぁ、大概恋愛には不向きな性格してるからさ」
 コロコロと、意味深に不二が笑うのに、手塚が深い攅眉を刻み付けた。
「経験者の俺達が、手取り足取り腰とって教えてあげなきゃさぁ〜〜」
「英二。お前は口を挟むな。事態がややこしくなる」
「平気平気、アノ二人、判ってて判ってないだけだから」
「その心は?」
「だってつまらないだろ?」
「つまり、可愛い後輩を構い倒して遊びたいと」
「ビンゴ」
 無邪気な英二は、けれど本質的な部分では繊細で、人に内心まで踏み込まれる事を嫌う人間だと知らない者は、元レギュラーの中には在なかった。
「まぁ桃もさ、救われないって言えば、救われないね」
「何さ不二〜〜」
「別にね」 
「お前達、いい加減帰るぞ」
 果てしなく続きそうな会話に、終止符を打った手塚だった。
「オチビもさ、自分のモンだって宣言するんだから素直なもんだけどさ、一体誰にだと思う?」
「さぁ?」
「不二〜〜教えろよ」
 意味深に笑う不二に、英二は途端頬を膨らませた。
「コラ英二」
「教えろ〜〜」
「いいじゃん、桃は今は下僕なんだし、アレはアレで纏まってるんだし」
「不二〜〜」
 部室での追いかけっこに苦笑する彼等は、リョーマが誰に宣言をしたのかは気付いていた。英二以外には。





【コメント】
 桃の節句の話が何故こんなに長く得体の知れない話になったんだか謎…。
とっ…取り敢えず、今回はコレで終わり。じゃないと、延々これはシリーズ化しちまいそうなんで(まぁタイトル変えて、二人のこの話しは続いていくんですが……)
 今回ちょいファイル長くなっちゃったんですが、この話し書いて、なぁんとなく、テニスで書く方向性?みたいなもんができました(…多分…)アメリカテニス界からのゴタゴタって感じぃ〜〜?です。だって原作読むとさ、リョーマさんは全米Jr部門連続優勝者ってんならさ、そんな簡単にアメリカが手放すのはどうよ?とか思ったんで。そんな感じの話しを交えつつ、気が向いたら1回くらい事件を書き(まだ言う、この女…)桃とリョーマさんの辿る道筋を書けたらと思います。(本当かな〜〜?)
 今回桃の設定は著しくとんでもねぇ設定書いたんで、(初体験11で相手は従兄弟…流石青学一のクワセ者……自分で書いてて自分でツッコミいれたさ……私攻めが童○って…パスなの…笑)次回に持ち越しで、これから続く予定です、色々な意味で。


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