オマケ其の弐






「ホレ、呑め、どーせ見たくれ通り、イケる口だろ?」
 成り行き、と言う理由は存在しないが、いつも通りリョーマを送って帰ろうとした時、南次郎に夕食に呼ばれてしまった桃城に、南次郎は夕食の肴にお猪口を差し出し笑った。残る片手には、銚子が持たれている。
「親父、中学生に酒勧めるなよ」
 父親が、桃城を気に入っている事をリョーマは知っている。
実際南次郎がこうして酒に誘うのは別段初めてではないから今更だが、公然と中学生に酒を勧められては困ると言うものだ。それはアメリカでのリョーマの生活が偲ばれると言う桃城に、実情をバラしているようなものだったからだ。
「莫迦言え。っんな程度、水だろうが。大体こいつ、慣れた手つきじゃねぇか。お前はちっとも付き合わねぇし」
 リョーマの悪態に、けれど南次郎は気にした様子は微塵もない。どうせ親子のコミュニケーション、程度にしか思ってないのは今更だった。
「親父のレベルで付き合ってたら、中学生でアルコール依存症の出来上がりだ」
 酔っても、実際どれ程酔っているのか、リョーマでも南次郎の酔いを演技を抜きにした、本気の酔い加減と言うものは、未だ眼にした事はない。そんな調子の南次郎に付き合っていたら、中学生の身の上で、立派にアルコール依存症だろう。そのくせに、生ぐさ坊主を気取って、境内でアイドルの水着の写真集など見ている南次郎は、けれど未だ躯を鍛えている事を、知らないリョーマではない。でなくては、リョーマの練習を赤子の相手をするように、付き合える筈もないのだ。
「なぁ〜〜〜こいつ可愛くないだろう?お前も苦労するなぁ」
「……ハハハハ」
 もう見慣れてしまった南次郎とリョーマの会話は、それでも桃城には些か心臓に悪い代物を孕んでいる。
 迂闊に南次郎の科白に相槌でも打とうものなら、リョーマに何を言われるか判ったものではない。
 これで口を聞かないとか、今夜のセックスはお預けと言う程、リョーマの性格はおとなしくできてはいないから、中学生には過ぎる奔放さで、翻弄されてしまう己を、桃城は嫌と言う程理解している。
「ったくな、幼稚園入園するあたりまでは、女の子に間違われるくらい可愛かったってのに。幼稚園入って、小学校入るあたりはもう小生意気で、ふてぶてしいったらありゃしねぇ」
 南次郎は、意味深に桃城を眺めていた。その視線に気付いたのか、桃城もやはり意味深に笑い、乾いた笑いを張り付けている。そんな二人の様子に気付いたリョーマは、訝しげな表情を覗かせたが、南次郎の科白に、煩いと悪態を吐いた。
「何せこいつ、幼稚園の時は本当に女の子みたいだったからな。入園式のこいつ見て、その場でプロボーズした奴いたしな」
 やはり南次郎は意味深に、そして盛大に笑っている。
「気になるだろ?こいつにプロポーズなんて仕掛けた奴」
「親父ッッ!」
 桃城にお猪口を差し向け、酒を勧めまくっている父親の科白に、リョーマは盛大に声を張り上げる。
「でもこいつ、薄情だからな。そいつの事なんざ、コレッぽっちも、覚えてないんだぜ」
「親父ッッ!」
 リョーマの声に、けれど背後から聞き慣れた鳴き声が鳴いて、リョーマは振り向いて、愛猫を抱き上げた。
「よぉ、タヌキ。元気してたか」
 リョーマの腕に抱き上げられたカルピンに、桃城は喉を撫でてやると、カルピンは応えるように、ニャアと気持ち良さげに一声鳴いた。
「そうしてると、お前等、新婚夫婦みたいだな。あん時も思ったけどな」
 リョーマの腕の中、桃城に喉を撫でられ心地好げに鳴いているカルピンは、行方不明事件を引き起こし、桃城に持ち帰られた事を南次郎に思い出させた。
 玄関先。カルピンを届にきた桃城と、その横で、赤ん坊を抱くように愛猫を抱いて立っていたリョーマは、南次郎が苦笑する程、親子のようだった。以来、南次郎は事在るごとに、リョーマにそう言っては、揶揄っている。
「そいや、お前、確か長男だったよな?」
「そうっス。下に妹と弟が居ます」
 結局、どう言い繕っても、南次郎と桃城は、曲者同志で、気が合うのだろう事を、リョーマは知っている。
「そうか、だったら、家は兄弟に任せて安心だな」
「……ハッ?」
「親父?」
 突然の科白に、桃城もリョーマも即座には会話に付いていけず、疑問符が口を付く。
「リョーマは一人っ子だからな。嫁にはやれんぞ」
「………」
「親父ッッッ!」
 父親の突拍子のない科白には適わない。どれ程の叫びも反駁も悪態も、南次郎の前では、全てがコミュニケーションの一環で終わってしまうのだ。
 桃城に至っては、既に乾いた笑いを張り付け、固まっているばかりだ。そしてリョーマの怒声にも無関係に、カルピンだけがキョトンとした瞳をして、三人を眺めていた。



「そういやぁ、面白い事一つ教えてやろうか?」

 いい加減、南次郎の話しに付き合う莫迦莫迦しさと頭痛と、怒声が一切聞かない飄々さに、リョーマは内心悪口雑言を吐き出して、桃城の腕を引き立てると、自室へと歩き出していた。その後ろ姿に、南次郎がやはり愉快気に声を掛けた。
「いい。親父の言う面白い事なんて、ろくな事じゃない」
「そうか?青学の曲者の父親は、俺の事を『越前先輩』って呼んでた奴なんだがな」


「ヘッ……?」
 二人揃って振り返ったその奇妙な表情に、意味深に、それでいて心底愉快気に笑う南次郎だった。



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