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どこがセネガルとマリか解るかな?
青がセネガル 赤がマリ

















きっかけ

『それにしても、この恐怖感はいったい
何なんだろう・・・?』
こんなにも自分が死ぬかもしれないと
感じたことは今までなかったんじゃ
ないだろうか?
俺を乗せたアリタリア航空
AZ850便はイタリアの
ミラノ・マルペンサ空港を飛び立ち、
西アフリカの玄関口である
セネガル共和国の首都、
ダカールを目指している。
機内の航空マップによると、
現在地中海の上空を飛んでいるらしく、
窓から外の景色を見下ろすと
先ほどまで見えていた灯りも
すっかり無くなり
暗闇が続くばかりだ。
時計はまもなく
22:00になろうとしている。
このまま予定通り飛べば
深夜1:00過ぎに
ダカール空港に着くのだが、
そこから先、どうしよう? 
こんなに遅くては、
銀行も開いてないだろうから
現地の通貨に両替することさえ
できない。
となれば、タクシーに乗って
街に出ることもできない。
なんとか街に出られたとしても、
どこに安宿があるのか
さっぱりわからない。
やはり、朝まで空港に
留まるべきだろうか? 
でも、真夜中にフライトが無ければ
空港だって閉まる可能性もある。
本来なら、こんな深夜に
現地に着く飛行機には
乗りたくはなかったのだが、
日程や金銭の関係上
この飛行機に乗らざるを得なかった。
いったい、これから先俺は
どうすればいいんだろう? 










インド旅行から帰って、
ちょうど二年が経とうとしていた。
インドで学んだ様々なことが
自分にとって大きな
転機であったことは間違いない。
日々の生活のことや、
将来に対する不安というものは、
自分の心の持ち方で
どうにでもなると学んだし、
不安だからこそ
今がいきいきしてくるのだと感じた。
いつも周りの人に気ばかり使って
疲れ果ててしまっていたけど、
自分が自分の意見を述べることは
悪いことじゃない。
むしろハッキリと述べるべきなんだ
ということを学んだ。
そういった意味ではこの二年間は
充実していたといえるが、肝心な
『自分の音楽性はどこに向かうべきなのか』
ということは解らないままでいた。










これで解ったかな?
青がセネガル 赤がマリ









俺はドラムを演奏したり、
教えたりする仕事をしているのだが、
世間で流行っているような
いわゆる商業音楽には
全く興味が無かった。
どいつもこいつも
おんなじ様な音楽をやってて、
全く面白くない。
ドラムを叩かせれば

2
拍4拍にアクセントを入れた
エイト・ビート、
それに歪んだギターを合わせ、
がなりたてたような歌声。
歌詞の内容は思想家や批評家のように
変にメッセージ色が濃く、
お説教を聴かされているようだ。
若い奴らが純粋に
有り余ったエネルギーを
音楽にぶつけているのならまだいいが、
若い奴らでさえ
音楽は有名になるための手段であり、
多くの人に受け入れてもらおうと
必死になっている。
自分たちが売れたいがために作られる曲は、
いかに聞きやすく、
いかに解りやすく作るかが問題であり、
そこに音楽の芸術性というものは
ありえない。









だからといって、
「じゃあお前はどうなんだ?」
といわれても、何も答えられない。
自分の進むべき道は未だ
見つからないままだった。
そして、また一人旅がしたい
という気持ちもどこかに持っていた。
もう一度インドに行こうかとも思った。
今でもコルカタで修行を続けている
「シタールさん」が
インドにいる間に訪ねて行って、
インドのミュージシャンと
知り合いになることは
とても魅力的に思えたが、
一度行った場所にもう一度行くことに
少し引け目を感じていた。
ならば、コルカタで出会った
カナダ出身のおじいさんが、
良いと言っていたインド南部の
ケーララ州を訪ねてみるのも
いいかもしれない、
と漠然と考えていた。










そんなある日、
俺が教えに行っている音楽教室で
音楽雑誌を流し読みをしていると、
サンプリングCD
(そのCDからシンセサイザーに
音を取り込んで鍵盤を押すと、
ピアノやヴァイオリン、
トランペット等はもちろん、
人の声や太鼓の音、
風の音や水の流れる音などの
効果音も鳴らすことができる)
の記事に目がとまった。

“ハート オブ アフリカ”
アフリカ原住民の
楽器や歌声のループ集。
単音も豊富で充実している。

こりゃ面白そうだと思い
価格を見てみると4万円もする。
アフリカの奥地まで
録音機材を持ち込み、
生の音を録音してくることを考えれば
決して高くはないのかもしれないが、
俺にとって4万円は
かなり高額なものに感じたし、
アフリカ原住民のことを何も知らず
パッとCDだけ買って自分の音楽に
取り入れてしまうことにも
引け目を感じた。
『だったらアフリカに行くか・・・』
アフリカには、なんとなく
人間のルーツや
音楽のルーツがあるような気がするし、
儀式や祝い事があると
道端で太鼓を打ち鳴らして
お祝いをしたり、
太鼓を叩いて会話をする民族がいる
という話も聞いたことがあった。
音楽やドラムが商業的なものではなく、
生活のすぐそばにある、
いや生活の一部になっている、
そんな人たちと接してみたい、
そんなことがアフリカ行きの
もともとのきっかけだった。










早速本屋に出向いて
ガイド・ブックを探してみると、
アフリカ関係のものは、
「地球の歩き方」で出ている
“東アフリカ”と“南アフリカ”の
二冊だった。
“エジプト”や“モロッコ”
といったものもあるが、
古代遺跡やイスラム社会というよりも、
もっと野性的というか
原住民的というか、
いわゆるもっと
アフリカ的なところに
魅力を感じていた。
“東アフリカ”の方を
手に取って見てみると、
やっぱり・・・
と思わせることが書いてあった。










地球の歩き方、東アフリカ編
地球の歩き方 (ダイヤモンド・ビッグ社)


















「ケニアをはじめ、東アフリカの治安は
ここ数年急激に悪化している。
当然のことながら、
この地を訪れる我々旅行者にとっても
他人事ではない。
これまで旅行者が被害を受ける犯罪は、
詐欺事件がほとんどだったのが、
特にここ数年で一挙に凶悪化。
睡眠薬強盗に始まり、強盗の集団化、
果てはピストル強盗までと
多様化を見せている。
こういった犯罪は、
人気の少ない路地や夜に限らず
白昼堂々とおきており、
一人に対して10〜30人、
しかもナイフを持っていたりするので、
周りの人々も何の助けもできない状況だ。」











おいおい! 
これじゃあインドより
かなりやばそうじゃんか
!!! 
場所柄、すんなり旅行できると思っては
いなかったけれど、
これほどまでにひどいとは・・・
これではとてもじゃないが
行く気にはなれない。
インドに続き、また躊躇してしまった。


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