プロローグ

 旅行前日、会社から帰宅するや否や玄関先で妻が「明日、台風が沖縄に上陸するらしいよ。飛行機大丈夫かな〜?」と一言。ここの所、仕事が忙しく天気予報なんて気にも止めてなかった私は「えっ!」と一瞬絶句してしまった。TVのニュース番組やインターネットで情報を集めてみると、台風5号の沖縄本島への直撃は避けられそうも無い様子。この夜の羽田空港発・沖縄行きの便にも欠航が相次いでいる模様。
一体、明日はどうなることやら・・・。前途多難。




2002年 7月 4日(木)


 朝、6:30起床。さっそくTVをつけて台風情報を確認するが、昨日より希望の持てる情報は入ってこない。かといって、全便欠航などの絶望的な情報もないので、とにかく羽田空港まで行ってみようという結論になった。「最悪、沖縄へ行けなくなった場合は、北海道にでも行ってやろうか」と私が言うと、妻は「本気?」とあまり相手にしていない様子。でも、この時、私は本気でそんなことを考えていた。

 最近、旅行出発日の朝の定番となっている妻手作りのホットドッグをお腹に詰め込み、7時過ぎに自宅を出発、羽田空港へ向かう。この日の関東の天気は、薄日が差し、おおむね良好。そのためか、台風が旅先へ接近しているなんてことにあまり現実感がわかない。妻とは「さーて、明日の今頃は、一体どこにいるんだろうね。」と本気とも冗談ともいえない会話を交わしてはいたが、内心では”なんとかなるだろう”なんて気楽に考えていた。

 午前9時前には羽田空港に到着。当然、空港内はいつもと変わらない賑わいを見せている。出発便の案内板を見てみると沖縄便もいつも通りチェックインがおこなわれているようで、欠航にはなっていないらしい。集合時間は9:50となっているので、それまで空港内をブラブラして時間を潰す。集合時間5分前に団体受付カウンターへ行き、旅行予約券を差し出すと、一瞬、係員の顔色が曇る。「そうですか。那覇ですか。飛行機は今のところ条件付き出発とはなっていませんが、条件が付く可能性は十分あり得ます。出発ロビーで航空会社から話しがあるかもしれませんので注意していてください。」という言葉とともに航空券と旅行チケットが渡された。”条件付きって何?”心の中で不安が一気に押し寄せる。ご存知の方も多いとは思われますが、条件付きとは、現地の天候などの条件により飛行機が着陸できない場合は、近くの他の空港へ着陸するか、羽田へ引き返す事もあり得るということで、簡単に言えば”飛行機が飛んだからといって安心はできないよ”ということなのです。この瞬間、今までの旅行気分は吹っ飛び、気持ちはブルーに・・・。

 とにかく、出発ロビー内へ入って飛行機の出発時間を待つ。私たちが搭乗するのは10:50発のJAL903便。定刻10分前になっても搭乗案内のアナウンスが流れず、さらに不安は募る。機材の点検に手間取り出発が遅れているとのこと。ようやく定刻を10分過ぎて搭乗がはじまった。ここまで、条件付出発などの説明は航空会社からなかったので、”ほら、やっぱり大丈夫じゃん。余計な心配して損した”と心の中は再び旅行気分へと上昇気流に転じる。


 搭乗も無事済ませ、飛行機は滑走路へと空港内を進む。さあ、そろそろかなと思っていると、突然、機内にアナウンスが流れる。現地(沖縄)の天候不良により、先に飛び立ったJAL933、901便が着陸できずに羽田へ引き返しており、本機は羽田空港内でしばらく待機し、天候の回復を待って出発するということだった。この時は、機内のあちこちで”無理に出発して羽田に引き返すよりいいよね”といった前向きな会話が聞こえていたが、その状況が1時間以上も続くと”これで欠航になったら洒落にならないよね”と不安に満ちた会話へと変わってくる。結局、1時間30分ほど待たされて、案の定、機長から”天候と先発便の状況を総合的に判断し、残念ながら903便を欠航とします。”との説明。おいおい、冗談じゃないよ。乗客を1時間以上も飛行機内に缶詰にして、どうせダメならもっと早く判断しろっての!!
 しかし、飛行機を降りる直前に今度は、”出発時間を遅らせて903便をもう一度出発させる準備をしているので、到着ロビーで係員からの指示をお待ちください”とのアナウンスが機内に流れ、絶望感一杯だった乗客から歓迎の拍手の嵐。世の中も捨てたものじゃないとこの時は本当にそう思ったのです。

 それなのに、それなのにですよ。到着ロビーで弁当を食べていると、いきなり”JAL903便は欠航になりましたので、航空券を替わりの券に引き換えてください”とのアナウンス。さっきの再出発の話に対する説明は全くなし。JALに対する信頼は一気に吹っ飛びましたよ。客に対して、こんな不誠実な対応していると天下の日本航空の名が泣くよ。本当に。(怒)
 旅行会社に問い合わせると、今日中にキャンセルすれば全額返却とのこと。妻と話し合った結果、とにかくギリギリまで空席待ちしてみようということになった。この時点で旅行をキャンセルして北海道行きも考えたが、通常料金で北海道へ行くと飛行機代が高くてもったいないという妻の冷静な意見を受けてあえなく却下。最後まで飛行機に乗れなかったら、旅行をキャンセル、東京に1泊して草津にでも行こうと決めて、空席待ちを申し込みに行く。すると、なんと空席待ち番号は281番。そりゃ絶望的じゃない。

 残りのJAL沖縄便は、15:50発の907便と19:50発の909便の2便のみ。とりあえず、再び出発ロビーへ入ると、搭乗口付近は空席待ちの人で一杯。しかし、907便にはエコノミーの空席は全くなく、状況は悪化の一途。最後の909便まで時間はたっぷりあるが、何もする気が起きず搭乗口付近に腰を据えて最後の勝負に望みをかけることにする。一度だけ、出発ロビーから到着口を抜け、(出発ロビーから到着口へ抜けられるってことをこの時はじめて知りました。皆さん知ってました?)空港内の本屋で草津のガイドブックを購入する。妻は99%あきらめムードで、神田のビジネスホテルの電話番号や草津の宿を調べて明日への準備に怠りなし。だが、私は心のどこかで奇跡を期待していた。旅行会社からは、1時間おきに状況確認の電話が入る。夕食は出発ロビー内のレストランで私はチャーシューメン、妻はカレーライスを食べた。俺たちは一体、ここで何をしているのだろうか?

 出発ロビーでの長い時間が過ぎ、そして奇跡は起こった。搭乗10分前になってもさっきのように空席待ちの人が集まって来ない。あれ?っと思っていると、航空券を持った人たちの搭乗が終わった後、空席待ちカウンタから”空席待ち番号400番までの方は集まってください”とのアナウンス。一瞬、何かの間違いじゃないの?と思った。急いで空席待ちカウンタに行き、手続きをすると係員の人が「搭乗できますよ。よかったですね。」っと航空券を手渡してくれた。それには、確かに909便と書かれていた。


 今日2度目の搭乗で飛行機内へ、今度は無事に離陸。しかし、安心はできない。だって909便も条件付出発なのだから。那覇空港へ着陸できなかったら関西空港へ降りるか羽田空港へ引き返すことになる。関西空港なんかで降ろされたら一体どうすりゃぁいいんだ。機長からは、”十分、沖縄へ着陸の可能性はある”との頼もしいんだか、頼もしくないんだかよくわからないアナウンス。約1時間30分の飛行で九州沖へ。ここから飛行機は徐々に高度を下げる。奄美大島を通り過ぎ、いよいよ沖縄本島上空へ。機内のモニターに映されている高度計の数字から目が離せない。この数字が上昇に転じたら、それはイコール羽田へ引き返すということだから。那覇の街の明かりが見えるところまで決して安心できなかった。飛行機は滑走路へ。風の影響か飛行機は着陸寸前まで結構揺れる。飛行機が無事着陸した時、私は思わず拍手している自分に気付いた。

 那覇空港から旅行会社へ電話すると、到着口でレンタカー会社が待っているとのこと。レンタカー会社までバスに乗って移動。台風はようやく通り過ぎたようだが、その痕跡はあちこちにはっきりと残っている。借りたレンタカーは、なんと懐かしい”サターン”だった。普段、ミニバンに乗っている私にとって、スポーツタイプのこの車は、最初かなり運転しにくかった。しかし、妻の的確なナビゲーションで無事、宿泊先のホテル・サン・沖縄へ。こうして、長い長い1日がようやく終わったのでした。


 よ〜し、明日から、今日の分も取り戻すぞ!
 

 ※ 気持ちに余裕がなく、初日は写真が撮れませんでした。

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