5.母なる川、最上川
 余目からは陸羽西線で最上川沿いに新庄を目指す。本来なら羽越線に乗り続けて酒田を通り過ぎて秋田以遠を
目指すのが定番である。しかし今回はある目的があって東へ進路を変えてみた。陸羽西線の車両も先ほどと同じ
キハ110であるが、外観などの仕様が多少変わっている。庄内平野から東の山々に向けて進むうち、左手に最上川
が見えてきた。地図を見ると、山形県内ほとんどの地域が最上川によって潤されているのがわかる。まさに山形県に
とって”母なる川”と言っても過言ではないだろう。

残念ながら写っていないが、この付近は「最上川舟下り」
を望むことができる。(高屋周辺と思われる)

 だんだん周りの山が高くなって、トンネルが多くなってきた。そのすき間から見える最上川もまた最高だ。ふと空を
見ると、曇ってきたことに気付く。日本海側は快晴だっただけに、ちょっと山に入っただけで天候が変わってしまった
ようだ。周りが開けてきたのと共に最上川も離れてしまった。そして左手から線路(奥羽線)が寄ってきて、終着駅
新庄が近づいたことを知らされた。

 新庄駅は山形新幹線とそれ以北の奥羽線がそこで分断されているため、同一平面上で2つの駅が並んでいる
ような感じの構造である。ここからは陸羽東線で更に山の中へ入っていく。車両はまたしてもキハ110で、これで延べ
300km近く同系の車両に乗ることになる。少しオリジナリティに欠けるのは、JRの中で一番国鉄を引きずっている
のを如実に表している。しかし車内には眺望を考慮した工夫がされている。(下写真)

最上川の眺望を見やすくするために、椅子が斜めに固定できるようになっている。
残念ながら完全に真横にすることはできない。(新庄駅停車中に撮影)

 新庄を出るとすぐに左右から山が迫ってくる。最上川の支流である小国川沿いに奥羽山脈に挑んでいく。ここから
先は瀬見温泉、赤倉温泉といった「温泉」が入った駅名が多くなる。それだからなのだろうが、この陸羽東線には
「奥の細道湯けむりライン」という愛称が付いている。そういえば乗った列車も「快速湯けむり」だ。奥羽山脈という
中央分水嶺(この場合、日本海側に流れる川と、太平洋側に流れる川を分ける山)にしてはあまりトンネルもない
まま、列車は宮城県へと突入した。そしてこけしで有名な鳴子温泉に到着した。時間があれば、ひとっ風呂浴びて
いくところだが、そんな時間は当然ない。今度は江合川(えあいがわ、北上川の支流)に沿って仙台平野へと下り、
東北線との接続駅小牛田(こごた)に到着した。


6.新幹線ワープ
 小牛田に着いた時点でもう12時を回っていた。ちょうどホームに立ち食いそば屋があったので、きつねうどんを
注文した。食べ終わった後、隣の売店で小腹が空いたときのための菓子パンを購入。30分の待ち合わせを経て、
一ノ関行き普通列車が入線した。同じ番線の仙台寄りには仙台方面からの列車も到着、同一平面上で乗換えが
できるように工夫されている。この方式はJR四国予讃線松山駅でも特急同士で行われている。しかしこの一関行き
が”くせ者”で、車内設備はロングシートつまり通勤電車と同じである。明らかに旅情を損ねるが、こればかりは、
いたしかたがない。座席を確保して、ホームに降りてしばらく写真撮影をした後、座席に戻ってCDを聞き始めた。

 いつの間にか列車は小牛田駅を離れ、やはり米どころである仙台平野を北に進んでいった。しかし残念なことに
窓を背にして座っているので、とても車窓を楽しむどころではない。そして前夜の寝不足と移動の疲れが重なって、
眠りの世界に引き込まれていった。目が覚めるともう岩手県に入っていて、終点一ノ関も間近だった。

 一ノ関からは新幹線に乗るので、18きっぷの旅を中断する。ここから先も沼宮内(盛岡より少し青森寄り)行きの
列車があるが、これだとこの先の旅程に狂いが生じる。具体的に言うと、盛岡15時17分発の八戸行き(一ノ関始発)
に乗らないと、18きっぷで先に進むことができなくなる。そこで新幹線で北上まで先回りし、北上から再び普通列車
の旅に戻って、その八戸行きに間に合わすのが目的である。(18キッパーは「ワープ」や「ショートカット」と呼ぶ)

 一度改札を出て切符(乗車券740円+特急券840円)を買って、新幹線のりばへと向けて跨線橋を急いだ。すると
私と同じような風貌の2人組が少し先を走っていた。おそらく同じことを考えているに違いない。ホームに上がると、
今までとは違った雰囲気の、いかにも”新幹線のホーム”という感じがした。少し経って「やまびこ39号」が入線した。
この列車は東京駅を11時08分に発車しており、ここまでわずか2時間40分しか掛かっていない。それに比べて、前夜
23時過ぎに新宿駅を発ってから13時間以上も掛かって、ようやくここまでたどり着いた。この対比が18きっぷの旅
をより楽しくさせてくれる。一関を出てわずか20分(普通列車なら約40分)で北上に到着した。



今回の目的の1つ、盛岡〜八戸間へ