十月十日のその前に

作:秋月 修二

            




 開け放したカーテンからは、大きな月明かりが差し込んでいた。青みがかっ
た光の中、秋葉の裸身はシーツに溶け込むような白さを見せている。布へと消
えそうな姿を引き止めているのは、長く艶やかな黒髪だ。
 抱くと告げて、はにかんだ承諾を得て、今こうしている。なのに、目の前の
光景があんまり綺麗だから、俺は少し呆けてしまっていた。
 仰向けに寝そべっている秋葉は、訝しげな目で俺を見詰めている。それでも、
俺から動き出すことを望んでいるらしく、ただ待ってくれていた。
 こちらがおずおずと手を差し伸べると、秋葉はぎゅっと握ってくれる。それ
でようやく我に返る。覆い被さるようにして、真っ直ぐに見詰め合った。
「……秋葉」
「はい」
 秋葉の薄い瞼が下りる。それを見届けてから、ゆっくりと顔を近づけていく。
軽く震えた睫毛は、目を開きたがっている表れだろうか。それとも、どうして
もこうなってしまうものなのだろうか。
 まだ、解らないことは色々ある。相手の解らない所は沢山あるんだから、そ
れを減らすために、こうしているのかもしれない。
 考え事をしている間に、顔と顔との距離は埋まっていく。
「んっ……」
 唇同士が触れ合う。柔らかい唇から、僅かに吐息が漏れる。鼻先にそよぎを
感じた時点で、俺も倣って目を閉じた。真っ暗で何も見えないけれど、それで
も相手を感じられる。酷く安心してしまって、もっと先を望みたくなる。
 突っ張らせていた片腕を緩めて、秋葉に体重を預けた。華奢な体つきなので、
潰してしまうんじゃないか、なんてことを思う。でも、秋葉は俺をしっかりと
受け止めてくれた。肌と肌とが触れ合って、感度が増す。
 まだ冷たい体温、けれど、内側には確かな熱がある。触れた場所から、次第
に温もりが伝わってくる。
 何だか――静かだ。
 風が吹いているでもない。たまにする身じろぎのために、衣擦れが聞こえる
だけ。だから、ちょっとだけ乱したくなる。
 さらさらとした髪の毛を根本まで梳きながら、舌を控え目に差し入れる。唇
を柔らかくめくり、前歯を撫でさすっていく。そうしていると、半開きの歯の
間から、そっと秋葉も応じてくれた。
 触れるだけの唇。触れるだけの舌先。どちらからともなくノックを繰り返し、
体温を確かめていく。口の中が渇いて、水気が足りない。名残惜しいが、一度
唇を離し、口中で唾を馴染ませた。
 そうして、もう一度秋葉の中に飛び込む。
「は……ぁ」
「ふぅ、んん――」
 潤いを帯びた舌が、今度は深く絡まり合う。根本の辺りをつついてやると、
口中で湿り気が増す。ざらつきを消すみたいに、二人とも懸命に舌を遊ばせる。
くちゅ、くちゃ、と水音が静けさをかき乱し始めた。
 酸素の入り口を塞いだまま、舌を伸ばして擦り合わせる。息することを忘れ
て、ただ秋葉を味わっている。それは相手も同じなのか、呼吸音は耳に届いて
こない。
 十秒くらいで、肺の空気を使いきった。唇を離して、ふと視線を重ねる。瞳
の中には真摯な色が浮かんでいて、吸い込まれそうになる。……いや、事実、
吸い込まれているんだろう。
 目の中の真っ黒な点に焦点を合わせて、一瞬動きを止める。瞳の中の瞳、秋
葉の中に俺がいる――まるで合わせ鏡のように、際限無く続く光。
 それを意識しただけで、愛おしさが込み上げた。口元に笑みが浮かんで、秋
葉もそれに応じる。
「……少し、寒いですね」
「そうだな」
 布団の中に潜っている訳ではない。まして、暖房がついている訳でもない。
ただ裸のまま、こうして向き合っている。季節柄、寒さを感じるのは当たり前
の話だ。
 だから、もっとくっつかないといけない。
 秋葉に被さっていた状態から、横にずれる。シーツに身を預けて、隣に寝転
ぶ格好。そのまま腕を回して、抱きしめる。太股の間に脚を差し入れてやると、
すべすべした感触が俺の表面を撫でた。割れ目近くに脚があるので、陰毛が掠
めて少しくすぐったい。
 寒いと言いながら、秋葉の肌は僅かに汗で湿っている。その所為か、お互い
の肌は密着感を増して、よく馴染んだ。
 背に腕を宛がったまま、さてどうしたものかと思う。こうしてくっついてい
る分には寒くないのだが、かといってこのままでは何も始まらない。したいの
は確かなのだが、どうしてか今日の俺は先を選びかねている感じだった。
 秋葉もそれに気付いたのか、迷うような表情を見せる。
「あの、兄さん?」
「ん?」
「その……しないのですか?」
「いや、するよ。するけども――どうしようかなって」
 一拍の間を置いて、二人とも首を傾げてしまう。お互い初めてでもないのに、
こういうことも起こるものらしい。巡りというヤツだろうか。
 大抵のことなら何をしたって許されるし、俺だって許すだろう。だけど、選
択肢が多すぎると、どれも魅力的で一つに絞れない。
 手持ち無沙汰なので、秋葉の髪の毛を引っ張ってみたりする。俺みたいな、
手入れをしていない髪とは全然違う。掌の上で自由に滑り、こぼれていく。綺
麗な砂に似ている気がした。心地良い感触にぼんやりする。
 秋葉は俺の鎖骨を指先でなぞりつつ、眉を寄せていた。考え込んでいるらし
い。まあ、夜はまだ長いんだし、そう焦ることもない。
「何かしたいこととか、してほしいことってある?」
 こっちがまとまらないなら、相手に伺うことも悪くはないだろう。問いかけ
ると、秋葉は思案げに目を彷徨わせて、頬を薄く染めた。それから、二人きり
だというのに、内緒話をするみたいに唇を寄せる。
「あ、あの――その、お互い、口で――」
 恥じらいつつ告げられた内容は、ちゃんと理解出来た。なるほど、それは悪
くない。頭の中に浮かんだ光景は酷く扇情的で、体に血が巡るのが解った。ど
くん、と大きく胸が鳴る。
 反応しだした股間に気付いたのか、秋葉が僅かに表情を変える。頷く前にそ
の唇を啄ばんで、
「そうしようか」
 と言った。
 嬉しそうに微笑んだ顔を確かめてから、体を移し変える。今度は秋葉が上に
なって、俺は頭の位置を逆にする。
 顔の真上ですらりとした脚が大きく開いて、耳元に膝が着地する。何となく
瞼を下ろすと同時、腰の辺りを撫でられるような感覚が走った。髪の毛が触れ
たのだろう。
 目を開く。赤というには薄い、潤んだ色彩が飛び込んできて、思わず唾を飲
み込んだ。すぐさま手を出すことが憚られて、じっと眺めてしまう。
 綺麗で、厭らしい。
「に、兄さん。じっと……見ないでください」
 見られていることを意識したのか、微妙にいりぐちがうねる。誘いかけるよ
うな震えに、おずおずと指を伸ばした。柔らかい太股を、円を描くように撫で
擦る。次第に円を大きくしていって、上に行くよと教えてやる。
 秋葉も秋葉なりにしてくれるつもりなのだろう、臍の辺りに爪を走らせて、
軽く引っ掻いてきた。痛いというより、それはむず痒いくらいで、もどかしさ
ばかりが募る。一気に下に行ってほしいような、まだそうしていてほしいよう
な、変な気分。
 同じ気分を共有しているのだろうか。
 指先は徐々に亀裂に近づいていく。けれど、水気を帯びた部分に行く前に、
僅かに窪んだ脚の付け根を通る。そこを押してやると、秋葉は反射的に脚を閉
じようとした。耳元で膝がずれて、頭を挟まれそうになる。
「ここ、ダメなんだ?」
「そう……みたいです」
 軽い驚きを帯びた声。俺も知らなかったが、秋葉も知らなかったらしい。や
ってみなければ解らないことはある。それが面白いと感じた。
 だったら、いりぐちに触れる前に、まずはここで悦ばせたい。細い腰を掴ん
で、顔の方に引き下ろす。距離がぐっと縮んで、秋葉の匂いがよく解った。そ
れくらい興奮しているのだろう。
 舌を伸ばすと、ぎりぎり届くくらいの位置。舌先に唾液の泡を乗せて、付け
根の窪みにそっと置く。垂れ落ちる前に指で塗り広げてやると、秋葉は背をし
ならせた。股間に甘ったるい吐息がかかる。
 なされるがままではいられないと、秋葉も動き出す。繁った陰毛を指に絡め
て、皮膚が痛みを覚える手前まで引っ張る。ちょっとした力加減の危うさが、
背筋に痺れをくれた。抜けたところで大して痛くもないのに、何故かやたらと
昂ぶる。
 間近で見ているのか、秋葉の吐息が腰にかかる。そこだけぞくりと粟立って、
肉棒がゆっくりと持ち上がっていく。何をしているのか見えないから、どうな
っているのかが気にかかってしまう。首を曲げたって、秋葉の影に隠れて解ら
ない。
 ――見えないなら、気にしても仕方が無い。いや、正確に言うなら、そっち
を気にするよりも、もっと集中すべきことがある。
 だから、愛撫に夢中になる。
 自分の唾液でぬるついた場所を、親指で丹念に撫でていく。窓から差し込ん
だ月明かりで、鈍く光っている。自分でしたことながら、そこに淫らさを感じ
て唾を飲み込んだ。自然と、しつこく親指を動かしてしまう。
「ん、あッ」
 軽い喘ぎと共に、脚が暴れる。しかし、既に手は秋葉を捕まえているので、
暴れるだけ唾液が擦り込まれていくことになる。多少指が滑るものの、それは
それで秋葉は気持ち良いらしかった。
 力加減が変わるため、仄赤い割れ目が開いたり閉じたりする。だいぶ感じて
いたのか、とろみのある液体が一滴、つっと垂れ落ちた。喉の下に落ちた液体
に、どきりとする。
 一度手を離し、垂れた汁気を掬う。指先で捏ね回すと、ちょっとだけ糸を引
く。そこに名残惜しそうな気配を覚えて、秋葉から出たものだからな、と思っ
た。
 にやけたのが伝わったのか、秋葉はふと振り返る。反応が遅れたので、恐ら
く顔は見られてしまっただろう。だが、何かを言われるより先に、俺はぬかる
みへ指を当てた。
 窺うような表情が、あっという間に崩れる。秋葉の眦が下がり、腰も震える。
可愛い反応で嬉しくなった。
「あ――く、ぅん」
 まずは慣らしとばかりに、スリットを刺激していく。指先を使って、何度も
行ったり来たりを繰り返す。爪に絡みついたとろみを、綺麗なお尻で拭いたり
もする。てらてらした跡は、一本二本と増えていく。
 キャンバスに筆を走らせるみたいな気分。でも、芸術なんてものとは程遠い。
とにかく俺は、秋葉が感じている姿が見たいだけで、そして――こんな厭らし
い眺めだから、頭に血が巡って仕方がないだけだ。
 でも、これじゃまだまだ足りない。俺も秋葉もまだ動き出していない。やろ
うと言ったことは別にある。
 口で、という話だったんだから、やっぱり本番はそこから。
「秋葉、そろそろ……」
「はい」
 促すと、秋葉は今まで触れていなかったペニスに、そっと手を添えた。熱く
なっている股間と違い、その手はあんまり冷たくて驚いてしまう。
 血管の張り巡らされた幹が、冷たい輪に捕まえられている。温度差があるか
らか、股間は酷く敏感になる。体温は下がるどころか、ますます上がっていく。
 ゆっくりと扱かれる。乾いているので、輪はスムーズに動かない。
「ん……ぇ」
 妙な声がしたので、何だろうかと訝る。一瞬遅れて、亀頭に刺激が落ちてき
た。ぽた、ぽた、と軽いリズム。
「……秋葉?」
 返事は無い。代わりに、次の行動が答えを教えた。
「く、ぅあッ」
 引っかかりの無い快楽が、腰の辺りに直撃した。いきなり滑らかに動き出し
た手に、先程の刺激の正体を知る。唾液をまぶして潤滑油にしたらしい。汁気
を帯びたため、愛撫は勢いを増していく。
 鼓動が早くなる。まだ達することはないにせよ、気持ち良さは予想以上で、
焦りを覚えだす。出したくなったら出してしまおうか、なんて。
 そんな弱気を、奥歯で噛み殺した。
 腹に力を入れる。秋葉の腰を抱えて、少し下げた。
「よく、見える」
「ああ……兄、さん……」
 視線は、解るものなのだろうか。切なげな声に、自分を抑えられなくなって
いく。いや、そもそも抑える必要なんてないはずで。
 夜はまだ長い。でも、無駄にしたくはない。
 望むままに、望まれるままにこれからを。
 予想されるものがあったのか、秋葉は自分から腰をもう少し下げてくれた。
誘われる、吸い込まれる。頭を上げて、距離を縮めて。
「あ、あああ」
 喘ぎが僅か途切れ、絞るような吐息が秋葉からこぼれる。
 舌先が亀裂を捉えて、ちょっとだけ内側に滑り込む。愛液が溢れて、口に入
ってくる。でも、何故か味はよく解らなかった。ひたすら、秋葉の匂いが口か
ら侵入してきて、それに酔っ払いそうになる。
「んむ、ぅ」
 肺が秋葉に奪われる。何だか朦朧としてきて、呼吸が覚束ない。それでも懸
命に舌を伸ばし続ける。それでも、下半身が滾り続ける。
 姿勢がちょっと辛いため、なかなか思うように動けない。だからだろう、も
っととねだるように、秋葉は腰をくっつけてくる。両手でそれをしっかり抱え
て、潤んだ粘膜に舌を遊ばせていく。
 とろけそうな感触の肉襞に包まれて、愛液と唾液とを混ぜ合わせていく。舌
を動かす度ににちゃにちゃと卑猥な音がして、鼓膜がおかしくなったみたいな
気になる。どうせおかしいのなら、もっとおかしくなってしまえ。
 もっと、おかしくしてしまえ。
「にいさ、つ、よ――」
 頭の中の声に従い、割れ目を貪る。頭が密着して、酸素を吸う隙間すら無い。
夢中で秋葉を啜り、飲み下していく。秋葉からの愛撫は止まっているが、咥え
られたままだったら、歯で逆に危なかったかもしれない。
 舌を突き出して、更に奥へ。顔を押し付けすぎて、眼鏡が肉とぶつかる音が
響いた。
「……ん、ふぅ、はぁ」
「やあ、眼鏡、冷た……ッ!」
 その反応に、少し視線を逸らす。レンズに柔肉がくっついて、妙な具合にな
っていた。丸く潰れた脚の付け根が、酷くそそる。だから勢いづいてしまう。
レンズを押し付けて、曇らせていく。
「秋葉、も」
 息が続かないため、要求がストレートになる。これはこれで昂ぶるが、俺の
方も何かしてもらわないと寂しい。煮詰まったものをどうにかしてほしくて、
ただ舐めているだけでは足りなくなる。
 少し遅れて、秋葉の長い髪の毛が、背中から滑り落ちていくのが見えた。
「ん……は、んむ」
 くぐもった韻とともに、肉棒が温かい膜で覆われる。前歯が軽く幹を掠めて、
走った痛みに腹が熱くなる。それさえも心地良い。
 先程口付けた、秋葉の綺麗な唇。それが、俺のを咥えている。
 ここからでは見えないけれど、光景は想像出来て。一気に快感の波が押し寄
せてくる。秋葉が欲しい、もっと欲しい、脳の中はそんな欲求でいっぱい。
 雁首が秋葉の舌に着地する。ぬめった感覚に感動する暇も無く、頭は動き出
した。頬の裏の、つるつるした薄い肉で鈴口が扱かれる。さっきまで何もして
いなかったからか、唐突に情熱的に、口淫は始められる。
「ッ、ああ」
 少しも気を抜けない。呆気無くやられるのが厭で、こっちも必死になる。
 わざと音を立てて、媚肉をほぐしていく。いりぐちから僅かも行かない所を
つつくと、秋葉の腰は女らしく躍る。その動きに酷く惹き付けられる。でも、
そのまま弄り続けたりはせず、軽く舐めるだけで別の場所に向かってやった。
 物足りなさと安堵と――中途半端に、お尻が円を描く。振り落とされないよ
うに、俺は秋葉について回る。動きが緩んだ隙を見て顔を離し、控え目な肉芽
に歯を立てると、
「く、あああッ!」
 鋭い喘ぎが漏れた。まだ包皮を剥いていなくても、快楽は充分すぎるほどに
強いらしい。いつもは、敏感な場所だからあんまりやらないでほしい、なんて
言うけれど、今日はそういうこともないようだ。
 余裕が無いのか、そういう気分なのか。
 解らないが、秋葉の声は胸を弾ませる。
 ここまで来ると、どっちが先に折れるかで、勝負をしているような感じにな
る。意地になってお互いを舐めあう。
 舌先を器用に這わせて、包皮をめくる。僅かに露わになった慎ましい部分に、
優しくキスをする。腰は上に跳ねようとしたが、俺はそれを許してやらない。
逃げようとする秋葉に追いすがり、何度も口付けの雨を降らせる。
「ん、ん、ん!」
 また秋葉が止まる。が、それも一瞬で、すぐさま反撃が来る。
 ずるりと頬肉をなぞりながら、陰茎は飲み込まれていく。間もなく窮屈な所
に辿り着いて、先端が締め付けられた。秋葉からやって来る低い唸りに重なる、
なんだか覚えのある収縮のリズム……これは、喉?
 何かを飲み込む時の、あの感じを自分で想像させられる。そこまでしてくれ
ている、と意識したら、ゲージが振り切れそうになってピンチに追い込まれる。
 これは、かなり、拙い。
 寒いと言っていたのもどこへやら、俺たちはいつしか汗にまみれていた。暑
いを通り越して熱い。水分が足りなくなりそうで、相手から吸い上げようと頑
張っている。快楽の波が、どんどん高くなる。
 飲まれる前に、もっと踏み込みたい。半端に顔を覗かせている肉芽に、そっ
と手をかける。慎ましさを守っている皮をすっかり剥いてしまうと、秋葉の背
が大きくしなった。それだけで、充分過ぎるくらいに強かったのだろう。
 これから何をされるのか、想像しているのだろうか。小さく震えながら、で
も、逃げようとしないで、秋葉は俺の次手を待っている。
 少しだけ停滞している。だから、それを壊したくなる。
 普段はあまりさせてくれないから、どれくらいの力加減にすればいいのか、
いまいち解らない。なので、ともかく思ったようにやってみることにする。
 快楽が止まった隙を突いて、最初はなるべく優しく吸う。
「ッ、――あ!」
 ペニスが開放され、秋葉から鋭い声が上がった。硬直した拍子に根元をぐっ
と握られて、息が詰まる。けれど、そんなに感じてくれているならと、痛みは
無視してしまう。
 これくらいの強さなら、大丈夫みたいだ。何となく加減が掴めたので、それ
を続ける。唇の先に肉芽を挟み込んで、ちゅっと音を立てる。女らしい匂いが
広がって、陶然とした。
 甘えたような仕種、縋るように指が下腹部を這い回る。息も絶え絶えで、秋
葉は懸命に続きをしようとする。どうにか亀頭が収められたので、俺もまた秋
葉を吸い始める。
 舌先で軽く転がしながら、時折不意をついて囀ってやる。すると、口腔の中
の肉棒が、秋葉の反応に合わせて振られた。口を犯されることを望むように、
秋葉は更に奥へと誘いかける。唇の触れる部分が、段々根元へと近づいていく。
そうして、頭はゆっくりと上下していく。
 目の前の光景に、行為に夢中になって。下半身に集中して。
 お互いあまり熱心になりすぎているのか、いつもより快楽が強い気がした。
それはそれで楽しいし、気持ち良い。でも頭の片隅には、このまま出すのは惜
しい、というのもあったりする。
 頭が煮えて、巧く先を考えられない。
 熱が溜まっている。もう、充分なくらいに昂ぶっている。
「ん、は――あ。なあ、秋葉……」
「ん、む……」
 ちゅる、と唾液の音がして、秋葉が窺うような気配を見せる。陰茎から口を
離してくれるかと思ったら、咥えたまま、舌先で鈴口の辺りを舐め回された。
集中的ににじられてしまい、呻きで言葉が詰まる。
「っう、くッ」
 その反応に気を良くしたのか、俺に何かを喋らせまいと、大胆に舌が躍る。
傘の下を丁寧にこそげられて、不覚にも腰を浮かせる。
 血管が脈打って、射精しそうになる。
 そろそろ本番に移りたいのに、考えをかき消すみたいに、一気に秋葉の舌で
引き落とされてしまう。挿入たい、そう言えば済むはずなのに、その一言が遠
い。
「は、ぁ……兄さんの、びくびくしてます……」
 うっとりした感嘆に、自制を忘れかけた。視界の端に、楽しそうな秋葉の瞳
が見え隠れしている。
 どうにか喋らないといけない。このままここで出してしまうなんて、そんな
ことはしたくない。俺だけ先に満足するなんて、出来ないに決まってる。
「ふ……っ」
 だいぶ追い詰められてはいたが、歯を食いしばって、何とか動き出す。唾液
と愛液とで濡れそぼった割れ目に、指を滑らせる。抵抗は無く、むしろ受け入
れるように、指先は飲み込まれていった。
「くぅ、んあああ……」
 指の関節が、次第に見えなくなっていく。入り口はおおらかなのに、中は狭
い。少しでも余裕を、せめてまともに声を出せるくらいには取り戻すべく、肉
襞を弄りまわす。指の腹を使って、同じ個所ばかり刺激する。
「あ、にいさ、気持ち、い――」
 大きく息を吸う。気を抜くと弾みで射精してしまいそうな危うさを、少しず
つ遠ざけていく。ゆっくりと肺に酸素を沁みさせて、自由を増やしていく。
 真っ直ぐに立てた指で、より奥へ。入った先から、うねりながらの締め付け
を受けて、ますます挿入たいという欲求が募っていく。
 ここに自分を入れたら、どうなるだろう。もう知っているはずのことなのに、
初めてのように期待する。
「秋葉……」
 欲求に後押しされて、喉元まで言葉を上らせる。与える快楽と与えられる快
楽とが、ぶつかり合っている。このままでも充分達することは出来るだろう。
が、それじゃやっぱり足りない。
 今度は秋葉も、言わせまいとするようなことは無い。身を震わせながら、俺
が何を言うのかと待ち構えている。
「……俺、もう挿入たい」
 率直に切り出した。飾るだけの余分なんて無い、ただ秋葉が欲しい。
 秋葉の顔がこちらを向く。今までの行為ですっかり赤くなった顔は、喜色で
いっぱいになっている。そうして一瞬の間を置いて、眦を下げた蕩けた色で、
「はい。私も……したい、です」
 と応えてくれた。これからを想像して、胸が躍る。
 お互いの気持ちが通じて、やりたいことが重なった。熱が冷める暇も無く、
俺たちはすぐさま姿勢を変える。離れる時間は出来るだけ短い方がいい。
 顔を間近で突き合わせて、抱きしめあう格好を取る。一度瞼を閉じて、交わ
る前に深い口付けを交わす。舌先を絡めて、唾液の味を一緒にした。
「は、ん……」
「ぅ――」
 ぐっと上向いた陰茎が、秋葉のお腹を押している。少し下がれば、焦がれて
いたものに手が届く。それは秋葉も意識しているらしく、微妙に身を折り曲げ
たりしていた。臍の辺りに敏感な部分が擦れて、息が漏れてしまう。
 口付けながら、早くとねだるように秋葉の手が陰嚢を揉み解す。その愛撫に
ぞくりとして、俺も胸を撫でて返した。硬く尖った乳首をくにくにと転がすと、
濡れた呼吸が秋葉からも溢れてきた。
 目を開ける。少し遅れて秋葉も瞼を上げる。唇を離した。
「じゃあ……」
 はい、と応えた声は掠れて聞こえなかったけれど、それでも確かに俺に届い
てくれた。慣れた行為であるはずなのに、いつだって心が弾む。
 いりぐちにペニスを宛がうと、くち、と粘り気を混ぜる音がした。先端が触
れただけで、じわりと快感が沁みてくる。
 気持ちが逸る。あと一押し。
 大きく息を吸い込んで、一気に秋葉の奥へと自分を押し込んだ。
「つ、う」
「うんんっ、入って、いっぱい――!」
 濡れた媚肉が俺にしがみついてきて、肉棒がきつく締め上げられる。中が温
かくて、快感と安堵で吐き出しそうになるのを、どうにかやり過ごした。
 臍の辺りに力を入れて、ゆっくりと抽送を始める。触れ合った場所から溶け
ていきそう。腰を引かせる俺に対して、秋葉は離さないとばかりに脚を絡めて
くる。不恰好な出し入れなのに、体中でお互いを感じている。
 ぐっと突き入れて、子宮を叩く。鈴口が内壁を擦るたびに、秋葉の肢体が電
気を浴びたみたいに反り返る。肉襞が秋葉のキモチイイを訴えかけて、止まら
ない。
「はぁ、っ」
「んああっ! おっきいのが、兄さ、ああっ!」
 嬌声をかき消すみたいに、何度も突き入れる。秋葉の声を聞いているだけで、
どろどろになる。そのまま一緒になってしまいたくて、熱に浮かされたみたい
に繰り返す。
 呼吸が荒い。秋葉の脇腹の辺りに、玉になった汗が見えた。挿入しながらそ
の汗を指で掬い、舐め取る。くすぐったそうに一瞬身を捩られて、陰茎が膣内
で暴れた。
「秋葉の味が、する」
 そう言うと、秋葉は俺の首へと舌を伸ばし、そこを軽く撫でた。唾液で濡れ
た所が粟立って、思わず腰の動きがおかしくなる。
「兄さんの、味も、ああ……んんッ」
 お互いの肌に滲んだ汗を、舐め取っていく。少ししょっぱい味を覚えながら
も、懸命に腰を振る。秋葉の黒髪が白い肌にかかって、絹糸のようにばらばら
に絡みついている。白と黒のコントラストに惹き付けられていく。
 黒の網目の隙間から、濃いピンクが顔を覗かせている。掻き分けるように、
或いは擦り付けるように、髪の毛を乳首の上で転がしてやる。すると、秋葉は
甘えた声を漏らしながら、俺にお腹を押し付けてきた。
 大きく秋葉の中に自分を埋めてから、くっついたお腹の感触を確かめる。余
分な肉が無いのに、女の子らしい綺麗なライン。でも、魅せられてお臍を指先
で弄ったら、首筋に噛み付かれてしまった。危なっかしい吐息が零れる。噛ま
れたのに、気持ち良いくらいになっている。
「ふ……くぅ」
 自分の呼吸音と、秋葉の呼吸音とが混ざって、何が何だかよく解らない。最
初から、どうにかなりそうなくらい締め付けはきつかったのだけれど、もうい
い加減限界だ。肉棒が肉襞とぶつかりあって、腹の下から焼けそうな気分。
 溜まった熱が内側で暴れだしている。くっついてる部分に熱を移して、それ
以上に熱を返してもらっている。どんどん高まっていく。
「んっ、あっ、あ、あ!」
 もう一押しで決壊する。その瞬間が欲しくて、突き入れては引き戻す。二人
が入り混じった体液が、とろとろと溢れ出している。それを目にした時、もっ
と白くて濁った体液を、自然と連想した。
 大きく息を吸い込む。
 すぐそこにある絶頂を目指して、一際深く自分を突き入れる。重ったるい痺
れが一気に爆ぜて、体が震える。足の指先から力が抜けていく感じ。腹に集中
していたものが、流れ出していく。
「うく、ああっ」
「はああ、兄さん、にいさ、あ――!」
 狭い膣に自分を収めたまま、白濁した塊を吐き出す。脳の奥がじりじりした。
 計ったみたいに、二人同時に身震いをする。脈打った茎が秋葉の中で暴れて、
段々と静まっていく。
 名残惜しむように襞がきゅっとなって、痙攣じみた身震いようやくが止まる。
 白んでいって、ようやくほどけた。
「は……あ……」
「はあ、ん……」
 深呼吸を一つして、靄がかった頭を引き戻す。酸欠になりそうだ。
 体の緊張を解いて、ベッドにだらしなく横たわる。シーツの質感が心地良い。
秋葉を見ると、瞼の辺りに汗が伝ったのか、落ち着かなく目をしばたかせてい
た。俺はその薄い瞼を軽く吸って、そのまま唇を求める。
「ん――」
 被さった吐息が、混じる。深く絡めあうものではなく、温度を交換するだけ
のキス。柔らかい空気が、じんわりと染み入るような口付け。
 数秒ほどそのまま触れ合い、唇を離す。絡まった視線は静かなのに、どこか
悪戯めいていた。少しだけ嬉しさを混ぜた、おかしな感情が込み上げる。
 何も口にしなくても、何となく解っている。また少しお互いを知った。秘密
の共有をしているみたいな、そんな不思議な以心伝心。
「――少し、休みましょうか?」
「ああ、そうだな」
 頷いて返すと、秋葉はまるで子供みたいに、俺の胸元に滑り込んできた。傷
の辺りに額を当てて、心音を聞いている。指先は傷の輪郭をなぞっている。そ
の道筋が酷く優しくて、愛しいなと思った。
 気持ちのままに頭を撫でると、秋葉はうっとりと瞳を閉じる。その表情は、
眠気と安心を誘う。反面、ちりちりとした火種を落としもする。
 このままゆっくりしようか。それとも、もう少し夜を味わおうか。
 まあ、どっちでも良いか、と思う。秋葉と一緒の時間を過ごせるなら、それ
で充分満足出来る。これからどうなったって、それはそれできっと楽しめるは
ずだ。
「なあ、秋葉」
「はい?」
 時計を見れば午前ニ時、夜が明けるにはまだ早い。
「もう眠い?」
「さあ、どうでしょうか? 兄さんはどうなんです?」
 毛布の中で、秋葉がこちらの足を軽く蹴った。唇には薄い笑み。
 ――ふむ。選択肢はこちらにあるらしい。
 任せっぱなしもみっともないし、今度はこっちで進めないと。
「そうだなあ……」
 頭の中で思案する。言いつつ、手は秋葉の滑らかな頬を撫でている。選択肢
は多いから困るものだ。
 うん。けどまあ、返答は決まった。朝まではまだまだ長い。
 だったら今夜のこれからを、二人でどうして過ごそうか?


                             <了>




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