ろくもじたす

作:しにを

            




 充分に眼で楽しんで後、唇に挟んでみる。
 恥ずかしげにして俺の眼に晒されている翡翠の一部。
 可愛らしい小指の先。
 まだ日の落ちぬ午後のひと時。
 部屋の中には俺と、メイド服姿の翡翠のみ。
 仕事の終わった夜ではなく、仕事中。まだ翡翠は働いている最中だった。
 その翡翠がベッドの上にいる。そして、俺に好きにさせるような格好に。
 もちろん平然としてではなく。それは震えるそこを見ればよくわかる。
 尖りを唇だけで挟み、感触を味わう。
 男の唇といってもそれなりに柔らかい訳で、そうしていると翡翠が自己主張
しているのがはっきりとわかる。
 指で触れたりすれば、あれほど可憐で柔らかいのに、今は硬さを感じる。

 舌先で突付いてみる。
 途端に、びくんと過剰なまでの反応が翡翠から返される。
 間隔を置いて繰り返しても、その度に可愛く身じろぎする。
 それでも、翡翠は俺から離れたりはしない。
 無理に手で押さえ込んだりはしていないが、翡翠はそのままでいる。
 逃げられないと云うのが正しいのかもしれないが。
 肉体的にでなく、言葉による拘束、翡翠からすればそんな感じだろうか。
 それがたとえ強制力の無いお願いの言葉であっても。
 翡翠は俺の言葉に従って、ここでこうしている。
 もちろん翡翠の邪魔する訳ではないし、翡翠の高い仕事意識を踏みにじるつ
もりもない。ただ、少しだけこうして時間を貰っている。
 翡翠が困らない程度、断われない程度の懇願。ある意味、力づくや命令とし
て従わせるよりも卑怯なのかもしれない。

 ともあれ、翡翠はベッドの上にいる。
 綺麗な白い肌どころか、下着すら見せていないけれど。
 着衣が乱れたり、変な皺になってはいけないから、服の上からでも触れたり
はしない。
 小さめだけれど柔らかく魅惑的な膨らみも。
 揉みほぐすとうっとりとするお尻も。
 背中に指を滑らす事も、おへそに舌を差し入れる事もしていない。
 しているのは、触れても影響が出ない部分だけ。
 そのささやかな部分を口で愛撫している。
 舐め、しゃぶり、何度もキスをして、可愛がろうとしている。
 普段翡翠がしてくれる事へのささやかなるお返し。

 そうだ、翡翠のあれ……。
 小さな口に含み、濡れた舌を絡みつかせる。
 口をすぼめ強く吸う。
 ぷるぷるとした唇を動かして指を擦り上げる。
 いずれも、強い快感を与えてくれる。
 その真似ごとみたいな行為をしてみるのだ。
 翡翠からして貰っている時の、あの背筋に電気が走るような刺激。
 こうしている今、幾らかでもお返しできているだろうか。
 またちゅっと吸う。
 今は唾液にまみれ、硬くもあり柔らかくもある先端は、幾分ふやけたように
なっているだろう。唇を離せば、艶やかに光っているのがわかるに違いない。
 濡れたからだけでなく、もとから艶めいた色が増していて。
 そんな状態になっていて、もう翡翠は普通にはしていられない。
 仕事中の無表情に近い様子は消え失せている。

 顔を上げれば翡翠の顔が見える。
 赤くなった頬の色。幾分か潤んだ眼。
 何か物言いだけになっても、俺の邪魔をするつもりはないのだろう。
 黙ってされるがまま。
 時折、口に手を当てるのは、声を出してしまうのを防ぐ為だ。
 柔らかな喘ぎ。
 甘い吐息。
 悲鳴にも似た堪える声。
 何度もこぼれる俺の名前は、時に掠れ、時に絶え絶えとなる。
 いつもなら、夜の翡翠ならそんな感じだ。
 耳に入る翡翠からの甘美な刺激の心地よさと言ったら……。
 普段であれば、堪えずに聞かせてとせがむところだけど、今は出来ない。
 外に洩れるのは困る。
 それにかろうじてそうした声を出さない事が、メイドとしての翡翠の矜持で
あろうから。

 でも……。
 そうわかっていても悪戯心が忍び込む。
 これくらいの愛撫でなくて、一瞬でも強く。
 そうしたら翡翠は決壊するだろうか。
 強く吸うだけでなくて、舌を擦りつけるだけでなくて。
 噛んでみたら。
 痛みを感じる少し前まで。
 普段ならば単なる強い刺激かもしれないが、今ならば。
 高波にさらわれそうな時にの、柔らかい双丘の先端を強く摘んでみるように。
 何度も口づけを交わして、ぐんにゃりとした体を支え、強く舌を吸うように。
 あるいは、抽送の果てに、駄目押しとばかりに、強く腰を打ちつけるように。
 そう考えると、我慢し切れなかった。
 歯を立てる。
 先端を上下の歯が挟み、ほんの僅かの時間、ほんの少しの力が込められた。
 鋭い刺激、一瞬の痛み。

「ふっうッッ」

 翡翠の押し殺した声。
 単なる苦痛への悲鳴とは違う。
 耳より入って、脳をくすぐるような何かを忍ばせた声。
 翡翠を見る。
 少し涙目。
 そして明らかに怒りの成分を秘めている。
 ちょとやり過ぎたか。

「志貴さま」
「ごめん、痛かったろう、翡翠。力が入りすぎた」
「痛くはありませんでしたが……」
「そう、なら良かった。でも、ごめん、翡翠」
「……」

 感情を沈めた声に、慌てて言葉を被せた。
 ずるいですと翡翠の表情が語っている。
 あえて痛みという部分にすりかえての弁明に対して。
 ちょっと睨まれてしまう。まあ、うん、本気ではないようだけど。
 そして翡翠は立ち上がると、ベッドから離れてしまった。
 淡々とスカートの裾などおかしくないかと確かめている。
 そしてくるりと背を向け、出て行ってしまおうとしていた。

「ねえ、翡翠」
「まだ御用でしょうか、志貴さま」

 それでもきちんとこちらに向き直る辺りが何とも翡翠だった。
 うん、と頷き言葉を口にする。

「夜になったら」
「はい?」
「続きをしよう」
「……はい」

 少し、翡翠の鉄壁の職業意識が崩れた様子。
 一礼をして出て行く姿。
 パタンと扉が閉まる音。
 何だか、高まるだけ高まって中断された感じ。
 最初から、事に及ぶつもりは微塵も無かったというのに。 
 でも、あえて今の悶々とした気持ちのまま過ごそうう。
 夜の翡翠も素晴らしいけど、昼日中の今の行為だって良かったから。
 
 唇を舌で舐める。
 翡翠がまだ残っていた。


  了
 










ろくもじたす・たしたあと

作:しにを


 ※上にあるやつの別バージョンです。
  とは言っても、六文字追加しているだけで、後はまったく同じです。
  独り善がりな実験作ですが、読んで感じは変わりますでしょうか?





 充分に眼で楽しんで後、唇に挟んでみる。
 恥ずかしげにして俺の眼に晒されている翡翠の一部。
 可愛らしい小指の先 のようなそれ。 
 まだ日の落ちぬ午後のひと時。
 部屋の中には俺と、メイド服姿の翡翠のみ。
 仕事の終わった夜ではなく、仕事中。まだ翡翠は働いている最中だった。
 その翡翠がベッドの上にいる。そして、俺に好きにさせるような格好に。
 もちろん平然としてではなく。それは震えるそこを見ればよくわかる。
 尖りを唇だけで挟み、感触を味わう。
 男の唇といってもそれなりに柔らかい訳で、そうしていると翡翠が自己主張
しているのがはっきりとわかる。
 指で触れたりすれば、あれほど可憐で柔らかいのに、今は硬さを感じる。

 舌先で突付いてみる。
 途端に、びくんと過剰なまでの反応が翡翠から返される。
 間隔を置いて繰り返しても、その度に可愛く身じろぎする。
 それでも、翡翠は俺から離れたりはしない。
 無理に手で押さえ込んだりはしていないが、翡翠はそのままでいる。
 逃げられないと云うのが正しいのかもしれないが。
 肉体的にでなく、言葉による拘束、翡翠からすればそんな感じだろうか。
 それがたとえ強制力の無いお願いの言葉であっても。
 翡翠は俺の言葉に従って、ここでこうしている。
 もちろん翡翠の邪魔する訳ではないし、翡翠の高い仕事意識を踏みにじるつ
もりもない。ただ、少しだけこうして時間を貰っている。
 翡翠が困らない程度、断われない程度の懇願。ある意味、力づくや命令とし
て従わせるよりも卑怯なのかもしれない。

 ともあれ、翡翠はベッドの上にいる。
 綺麗な白い肌どころか、下着すら見せていないけれど。
 着衣が乱れたり、変な皺になってはいけないから、服の上からでも触れたり
はしない。
 小さめだけれど柔らかく魅惑的な膨らみも。
 揉みほぐすとうっとりとするお尻も。
 背中に指を滑らす事も、おへそに舌を差し入れる事もしていない。
 しているのは、触れても影響が出ない部分だけ。
 そのささやかな部分を口で愛撫している。
 舐め、しゃぶり、何度もキスをして、可愛がろうとしている。
 普段翡翠がしてくれる事へのささやかなるお返し。

 そうだ、翡翠のあれ……。
 小さな口に含み、濡れた舌を絡みつかせる。
 口をすぼめ強く吸う。
 ぷるぷるとした唇を動かして指を擦り上げる。
 いずれも、強い快感を与えてくれる。
 その真似ごとみたいな行為をしてみるのだ。
 翡翠からして貰っている時の、あの背筋に電気が走るような刺激。
 こうしている今、幾らかでもお返しできているだろうか。
 またちゅっと吸う。
 今は唾液にまみれ、硬くもあり柔らかくもある先端は、幾分ふやけたように
なっているだろう。唇を離せば、艶やかに光っているのがわかるに違いない。
 濡れたからだけでなく、もとから艶めいた色が増していて。
 そんな状態になっていて、もう翡翠は普通にはしていられない。
 仕事中の無表情に近い様子は消え失せている。

 顔を上げれば翡翠の顔が見える。
 赤くなった頬の色。幾分か潤んだ眼。
 何か物言いだけになっても、俺の邪魔をするつもりはないのだろう。
 黙ってされるがまま。
 時折、口に手を当てるのは、声を出してしまうのを防ぐ為だ。
 柔らかな喘ぎ。
 甘い吐息。
 悲鳴にも似た堪える声。
 何度もこぼれる俺の名前は、時に掠れ、時に絶え絶えとなる。
 いつもなら、夜の翡翠ならそんな感じだ。
 耳に入る翡翠からの甘美な刺激の心地よさと言ったら……。
 普段であれば、堪えずに聞かせてとせがむところだけど、今は出来ない。
 外に洩れるのは困る。
 それにかろうじてそうした声を出さない事が、メイドとしての翡翠の矜持で
あろうから。

 でも……。
 そうわかっていても悪戯心が忍び込む。
 これくらいの愛撫でなくて、一瞬でも強く。
 そうしたら翡翠は決壊するだろうか。
 強く吸うだけでなくて、舌を擦りつけるだけでなくて。
 噛んでみたら。
 痛みを感じる少し前まで。
 普段ならば単なる強い刺激かもしれないが、今ならば。
 高波にさらわれそうな時にの、柔らかい双丘の先端を強く摘んでみるように。
 何度も口づけを交わして、ぐんにゃりとした体を支え、強く舌を吸うように。
 あるいは、抽送の果てに、駄目押しとばかりに、強く腰を打ちつけるように。
 そう考えると、我慢し切れなかった。
 歯を立てる。
 先端を上下の歯が挟み、ほんの僅かの時間、ほんの少しの力が込められた。
 鋭い刺激、一瞬の痛み。

「ふっうッッ」

 翡翠の押し殺した声。
 単なる苦痛への悲鳴とは違う。
 耳より入って、脳をくすぐるような何かを忍ばせた声。
 翡翠を見る。
 少し涙目。
 そして明らかに怒りの成分を秘めている。
 ちょとやり過ぎたか。

「志貴さま」
「ごめん、痛かったろう、翡翠。力が入りすぎた」
「痛くはありませんでしたが……」
「そう、なら良かった。でも、ごめん、翡翠」
「……」

 感情を沈めた声に、慌てて言葉を被せた。
 ずるいですと翡翠の表情が語っている。
 あえて痛みという部分にすりかえての弁明に対して。
 ちょっと睨まれてしまう。まあ、うん、本気ではないようだけど。
 そして翡翠は立ち上がると、ベッドから離れてしまった。
 淡々とスカートの裾などおかしくないかと確かめている。
 そしてくるりと背を向け、出て行ってしまおうとしていた。

「ねえ、翡翠」
「まだ御用でしょうか、志貴さま」

 それでもきちんとこちらに向き直る辺りが何とも翡翠だった。
 うん、と頷き言葉を口にする。

「夜になったら」
「はい?」
「続きをしよう」
「……はい」

 少し、翡翠の鉄壁の職業意識が崩れた様子。
 一礼をして出て行く姿。
 パタンと扉が閉まる音。
 何だか、高まるだけ高まって中断された感じ。
 最初から、事に及ぶつもりは微塵も無かったというのに。 
 でも、あえて今の悶々とした気持ちのまま過ごそうう。
 夜の翡翠も素晴らしいけど、昼日中の今の行為だって良かったから。
 
 唇を舌で舐める。
 翡翠がまだ残っていた。

  了










―――あとがき

 という事で、また変なのを書いてしまいました。
 実験作って程ではありませんし、意図を理解して頂いても、面白いかどうか
はまた別問題ですしねえ。
 
 まあ、ちょっとでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

 by しにを(2005/2/7)




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