/
 次の日の放課後――。

 下校する生徒達の中で一際目立つ女性がいる。
 その女性はかつて、校門の付近できょろきょろと外の様子をうかがっていた、
いうなれば、小動物のような可愛さがあった女性だ。

 だが、今はどうだろうか?

 眼鏡を外し、きりりと背筋を伸ばし、凛とした強い意思を持った瞳を持ち、
周りの視線を釘付けにする魅力を彼女は今持っていた。
 そう、例えるならただ走る、ということを重点に置いたスポーツカーのよう
な凛々しさが今の女性、遠野志姫には漂っている。

「………遠野さんて変わったよね?」
「うん、そう思う、なんか…Coolになったよね?」
「近寄りがたい…って雰囲気があるよね」
「そう?私は別にそんなこと思わないわ…」
「?…なんで?」
「あの人の微笑を受けたら分かるわ…あ、志姫お姉様♪」
「「は……?。(汗)」」

「あ、さようなら」(しゃらりらりーん♪)

 ズッキューーーーン!!

「「「ごきげんよう、志姫お姉さまぁ♪」」」

 お嬢様(女王さま?)街道を驀進する志姫…今、志姫の世界観は変わってし
まっていた。

 スキな男に抱かれると女は美しくなる…。まさにその通りなのである!!

「あ、志姫み〜っけ♪」

 と、志姫を陵辱する一人、真祖のプリンス、アルクが現れた。
 だが、志姫はアルクの登場に恐れることもなく接する
「あら、アルク、どうしたの?」
「うん、志姫、弟から聞いたんだけど昨日の夜いなかったんだって?」
「なにしてたの?」とアルクが志姫を除き込む。
 志姫は一瞬、邪笑を浮かべた。
 だが、それは本当に一瞬だったのでアルクには見えなかった。

「教えて欲しい?」
「うん」
「なら、アルクのマンションで話しましょうか?」
「え?」
 アルクにとってそれはまさに信じられない言葉だった。
「……嫌?」
 アルクは高速でクビを横に振る。
「そそそそそ、そんなことないよ!!じゃあ、いこうか?」
「ええ、では少しスーパーによってっていい?晩御飯をご馳走するわ」
「わーーーい!!」

 なんの疑いもなく志姫の言葉に踊るアルク…この後自分の身におこる悲劇も
知らずに……。




 /
「おーいしい!!」
 アルクは志姫が作ったスパゲッティーをチュルチュルと口に運んでいた。
 ソファに座り志姫はそんなアルクを子供の食事を微笑ましく見守る母親のよ
うに見つめている。

「お口にあって?」
「うん!!」
 やがてアルクは食べ終えると食器を流しに置き、ソファに座る志姫に向かい
飛びついた。

「じゃあ、聞かせてもらおうかな?昨日の夜のことを…」
「……ええ、いいわ…それよりもアルク…」
「何?」
「そろそろ、来ない?」
「来ないって…?」
 アルクがクビを傾げる…。そんな彼を志姫は微笑みを、否、嘲笑を浮かべア
ルクの肩に両腕を回した。

「志姫…?」
「んふふふ……」
 妖の笑みを浮かべ志姫はアルクを誘惑する。
「し、志姫ぃっ!!」
 アルクは我慢できず、志姫の唇を奪おうとする。だが、それを素早く志姫の
掌がそれを遮った。

「な、何?この手は…?」

「……ニンニク臭い口を近づけないでくださる?」

「に、ニンニク!?」

 ニンニク…吸血鬼がもっとも嫌いとするモノの一つ…嗅覚が敏感故に匂いが
キツイらしい。

「ぬおおおおおおおおおっ!?」

【馴染む…馴染むぞォ……!!】
 DI○様よろしく頭を掻き毟るアルク、言われて初めてニンニクの匂いに気
がついたらしい。

「ぐあああ!!志姫ィ…!どうやってこの私に気付かず…ニンニクをぉ…!!」
 志姫から離れ、床を転がりまわるアルク。

「これよ…」
 と、志姫は一冊の本を取り出す。

「何…それは!?」

 ――特集!!――
 お子様のきらいな食べ物を食べさせる方法百選

「ピーマンと同じノリかぁ!?」
 さらに激しく悶えるアルク。自分の口に住みついたニンニクの香ばしい香が
アルクの鼻を刺激しつづけるのだ!!

 志姫はしばらく悶える志姫を観賞してから、悠然と立ち上がる。
 そして…悶えるアルクに近寄ると

 げしっ…!!

「ぬおああああああああああああ!!」

 アルクのペニスを踏んづけ、グリグリさせた。

「やめろー!!」
 まさに、魂の叫び。愚息を踏みつけられるアルク
 一方、アルクの愚息を踏みつける志姫は…

 ――邪笑を浮かべていた。

 それはまさに病的なまでのサディストの笑み。
かなり、恐い。

「あら、勃ってるじゃない?アルク…貴方Mなの?」
 悶絶し、絶叫を上げるアルクに志姫はSな言葉を投げつける。

「貴方にMッ気があるとは思わなかったわ…フフフ」
 と、今度はストンピングを開始する志姫

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「MならMらしく、私の足でイってみなさいな!!」
「ぎゃああああ、やめちくりー!!」

 じゃあああああ…………(チョロロロ…)

 沈黙……

 志姫の病的なまでに進化したS度がアルクを失禁に追いやったのかそれとも、
尿意を我慢していたのが限界に達してしまったのか…

 いや、とりあえず、そんなことはどうでもいい…と、思う。
 志姫の口元の笑みがさらに邪になっただけなのだから…

「あらあら、アルクさん、オ漏らしですか?いい年して…って、800歳でお漏
らし?」

「ぐ、うわああああああああああん!!」

 アルクの絶望の咆哮と志姫の高らかな笑いが部屋全体に走った。




 /
「あ、シエル先輩」
「あ、志姫さん、こんにちわ」
 夕暮れ、アルクを散々口で痛めつけた志姫はすっきりとした顔で帰途につい
ていたが…
 その途中、メシアンの付近をうろつくシエルと出くわした。
 志姫の表情には怯えもなく、むしろシエルとここで出逢ったことを神に感謝
していると思わせる、そんな華やかさを持った笑顔を浮かべている。

「ちょうどよかった、シエルさん…晩ご飯はまだですか?」
「え?ああ、まだですけど」
「カレーばかりじゃ栄養偏るでしょう?」
「は…?ええ、まあ…」
「栄養のバランスを考えた食事をしないと体は壊すし太りますよ?」
「うっ!!」

 シエルの胸に黒鍵が刺さる(イメージ)

「どうでしょう、今晩お暇ならなにか作りますよ?」
「ええ!!いいんですか!?」
「時間もまだありますし…構いませんし、それに…」
 と、志姫は頬を赤らめさせソッポを向き、体をくねらせる。
 ここまで来ると、完璧に志姫の演技と分かるのだが、シエルはそれに気付か
なかった。

「このシエル…全身全霊を込めて、志姫さんと晩御飯を頂きます!!」
 あははははと、笑うシエル。
 志姫も、そんなシエルを微笑ましくみつめているが…
 内心…

(かかった…)

 と、どす黒い笑みとオーラを放っていた。

 その後、志姫は別のスーパーで材料を買い込み、シエルの住むアパートへ向
かった。

「じゃあ、台所お借りしますね?」
 と、可愛い白いエプロンを装着する志姫

「………」
「どうしたの?シエル先輩?」
「い、いえ…あ、そういえば…今日はあのアンポンタンの匂いがしませんね?」
 鼻を伸ばした表情を一変、シエルはキリリと話しを切り替えた。
「誘われましたけど断りました」
 と、志姫はさらりと言いのける(ホントは口責めをして虐めていたけど)
「!!…すごいじゃないですか!!いやあ、志姫さんも誰を選べば自分が幸せ
になるか分かってくれたんですね!!」
 と、シエルは滝の涙を流す。
「……そうですね、誰と結ばれべば幸せになれるのか…今の私にはわかってい
ますよ」
 と、志姫はいじらしい微笑を浮かべる。

「そ、それはもちろん私ですよね?」
「フフフ…さて、どうですかね?」
 と、志姫は台所へ消えていった。

 数分後……。
 シエルは硬直していた。
「はーい」
 オズオズと手を上げるシエル
「ハイ、シエル先輩」
「これは何て言うモノなんですか?」

「とろろです。」
 テーブルの前にドカン!!と置かれたサイズ大のボールにはあふれんばかり
のとろろがドロドロと渦を巻いていた。
「健康にいいんですよ?」
 と、罪のない志姫の菩薩様のような笑顔。
 これで断ればバチがもれなく当たる。
「はあ、じゃあ…いただき…」
「あ、ちょっと待って…私が食べさせてあ・げ・る♪」

 チュドーーーーーーーーーーン!!(シエルの煩悩が爆発する音)

「志姫さん、やはり計画変更です。」
「ん?」

「とろろの前に志姫さんを頂きます!!」

 と、ルパンよろしく全裸ダイヴ!!

「………。」
 志姫はそんなシエルを無邪気な笑みで見つめている。

 そして…まさに一瞬の出来事…

 志姫はダイヴするシエルの右腕を左手でとり、シエルの顎を右手で掴み
そのまま

【志姫の腕力+シエルの志姫への愛(偏愛)の力+遠心力】

 ビッターーーン!!!!!

 とーっても近所迷惑な鈍い音が小さな部屋に木霊する。

「………いったああああ!!」

 受け身をとらせる暇を殆ど与えず落としたため、シエルに走る激痛は伊達じ
ゃない。
 電流が全身に走るような痛みにシエルは意識を失いそうになる…が、

「まだ、気絶するな」

 と、普段の彼女からは到底想像できないような声と腹部への蹴りがシエルを
現実に引き戻す。

「!!…ごほごほ…!!し、志姫さん、なにしやがるですか!?」
「あら、ごめんなさい、ビックリしてつい…」
 と、手をヒラヒラさせる志姫
 いくらおめでたい思考をしていたシエルでも志姫が何か企んでいることに気
がつく
「ビックリしたから蹴りをぶち込みますか!?」
 非難の視線を志姫に投げかけるシエル。
 だが、当の志姫は未だ無邪気な笑みを浮かべ
「だって、気絶されたらとろろ食べさせられないじゃないですかぁ♪」
 と、志姫は買ってきたモノが入っているビニール袋からとーっても大きい…

「ジョ…ジョロ!?」

 出てきたのは青い色をした可愛いジョロ。園芸などでは必需品
「あ、これは邪魔だね?」
 と、志姫はジョロの先端にあるシャワー部分を取り外してしまった。

「ななななななななななにをする気ですか…?」

 シエルの顔が蒼ざめていく。
 アルク同様、志姫の豹変に恐怖を感じている。

「んーと、とろろ食べさせるんだけど?」
「とろろ食べるのにジョロは要りませんよ…?」
 叩きつけられた痛みで動くことのできないシエルは志姫のこれから取る行動
に動揺を隠せない。

「そういえば、シエルさぁ…」

 志姫が遂に羊の皮を脱いだ――。

「前に私のお尻から日本酒一升まるまる呑ませてくれたよね?」

(こ、こいつはやべぇ!!)
 獲物を狙う獣の瞳になった志姫
 シエルはこの後起こる悲劇を予想する。

「シエル、うつ伏せに倒れなさい」
「え?ちょいっ…!!」
 有無を言わさず志姫はシエルを軽々と仰向けからうつ伏せにする

 そうすると、ルパンダイヴして全裸のシエルにはおしりが志姫に見えてしまう。

「じゃあ、食べさせてあ・げ・る♪」

 ぶすっ

 と、尻の穴に志姫はジョロの先端をぶち込む

「ぎゃああああ!!い、いたい!!裂けるゥ!!」
「大丈夫♪私にもあの時そう言ったでしょう?」
 そしてジョロにとろろを流し込む志姫

「いやあああああ!!ヌルヌルするぅ!!」
「慣れると美味しいよォ♪」

 ――食べ物を粗末にしてはいけません――
 それと、食事中のかたすいません。

「深くいれるねー♪」
「いやあ、!!ぐりぐりしないでー!!」
「まだまだ入るぅ♪」

「ひ、酷い…志姫さんどうしてこんなこと…」
「その答えはたぅた一つ、シンプルな答えだよ♪」
 サディストな微笑をシエルに投げかけ、志姫は言う

「蒼崎家の女になるんですもの♪このぐらいできなきゃね?」

 と、全部とろろを流し込み終える志姫
 そしてジョロを引きぬく

「吐いちゃ駄目だよ先輩」

 と、先ほど抜いたシャワー部分をシエルのお尻の穴に押し込んだ。

「し、志姫さん…蒼崎家って…貴女まさか…」
 シエルの質問に志姫は悪女のような笑みを返すだけだった。




 /
 満月―――。
 
 それを背に背負い、二つの黒い影が遠野の屋敷の方角へ向かっていた。
 一人は金髪で真紅の瞳を宿し、モデルのような顔立ちをした美青年アルク…
 もう一人は漆黒の法衣を着込んだ青年――シエル

 だが、その二人の顔色はあまりよろしくない。

 アルクの目の回りは腫れぼったく、シエルはお尻に電流のように走る何かを
抑えるような、少し変な動きをしている。

「それ、本当なの…?」
「はい、本人の口から…蒼崎の人間になると…」
「…ミスター・ブルーか…厄介なのが出てきたな…」
「全くです…何故、今頃…」

 と、二人が無駄な憶測をしている間に二人の目に目的地である遠野家が見え
てきた。

「……?」
 遠野家の門を飛び越え、玄関の前に立つ二人
「……アルク」
 シエルの声色が緊張を帯びてきた。
「うん…」
 リビングに明かりがついていることを確認すると、アルクとシエルは扉をく
ぐり、志姫の弟である秋葉に合うためリビングに向かう…。

 ――そこで

「なっ…!!」
「秋葉さん!?」

 リビングには…
 双子の使用人、翡翠&琥珀が隅で身を寄りそい、ガタガタ震え
 遠野家当主である遠野秋葉は自分が座る位置のソファで
真っ白に燃え尽きていた。

「何が…何があったんですか!?秋葉さん!!」
 シエルは秋葉の方を掴んでガタガタ揺らす。
 が、秋葉の瞳には光が宿っておらず、虚空を見つめたままだ。

「……精神が壊されている…」

 と、呆然とシエルは呟く。
 今の秋葉には当主の誇りというかそういったものが皆無…
 ただ、ブツブツと小声で何かを繰り返している。

「シエル、どいて!!」
「……?何をする気ですか、アルク?」
「……ショック療法よ…ふん!!」
 どすっ!!
 ボディーめがけアルクの鉄拳が炸裂!!

「ふぐおっ!!」

 秋葉は軽く、2、3メートル吹き飛び……。

「な、何するんですか!?」

 と、復活。
「強引ですね…」
 シエルは誰にとでもなく呟いた。

「一体、何があったんだ?秋葉さん」
「そ、それは…その」
と 、下を俯き、ごにょごにょと秋葉は言いよどむ。

「弟も口では言い表せない虐待を志姫から受けたんだね?」
 と、アルクは同情の眼差しで秋葉を見つめる。

「も?…とすると貴方達も?」
 その問いにはアルクもシエルも目を背けるのであった。
「で、どうします?この二人は…秋葉さんと違って頑丈じゃないみたいですし…」
 と、シエルが指を指す先にはこちらも精神崩壊してしまった双子

「ほおっておきましょう、戻したところで使い道はありませんから」
「うわっ!弟毒舌…」
「それが長年つかえてきた使用人に対する態度ですか?」
「うるさいですね!!行きますよ、姉さんは多分自分の部屋にいるはずですから」
「?…なんでそんなことが分かるんですか?」
 シエルがクビを傾げる。
「……気付かないの?シエル」
「何がです?」

「姉さんの…女の匂いがします…。」

 その言葉に三人は半ばシットに近い表情を浮かべるのであった。




 /
「ん、ん…あ、くぅ…はっは……」

 志姫の部屋に男女の性の匂いが立ち込めていた。

 豪華なベットの上、裸の志姫は裸の青子のペニスに跨り、淫らに腰をふって
いた。
 紅潮した頬に、だらしなく開いた口がどうしようもなく、志姫が今、性の虜
になっていることを証明している。

「一晩でよくこんなにも変わるものだ…」
 自分だけに見せる淫らな志姫の顔を観賞しながら青子も刺激を志姫に与える。
 そのたびに…

「んあああ…!!」

 快楽に溺れた性奴のように志姫は淫らな声をあげる。

「可愛いぞ、志姫…ほら、もっと腰をふってみせてくれ…」
 志姫のか細い腕を掴み、青子は連続で刺激を与えつづける

「く、ああ…あん、あん…!!」

 理性というブレーキが外れた志姫は青子の要求に素直に応じ、もっと腰をふ
って見せる。
 羞恥とかそういう言葉はこの空間にはない。

「イ、イク…先生…わ、わたしぃ…」
「聞かせてくれ志姫…君の絶頂を!!」

 どかあああああああん!!
「…………!!」←志姫の絶頂に達した声

 そして爆発の中から現れる三人

「志姫ぃ!!」
「志姫さん!!」
「姉さん!!」

 皆、得意の必殺技でドアを蹴破ったものだから入り口は酷い有様だ。

「ノックぐらいしろよ」
 青子は不満を隠すことなく三人に侮蔑の表情を送る。
「なにがノックよ…固有結界なんて張って!!」
 アルクが怒りの眼差しで青子を睨む

 その渦中の志姫はといえばイッタばかりで荒い息をついている。
 青子はそんな志姫を愛しく思い、やさしく抱きしめる。

「あ……。」

 青子の温もりが志姫の心に安らぎを与える。
 その温もりが今までの陵辱の日々で決して見せることのなかった恍惚の表情
を浮かべさせる。

 人はそれを「幸せ」という…

「お前達は志姫にこんな表情をさせたことがあるのか?」
 青子の指摘が三人の胸に突き刺さる。
「そ、それは…」
 シエルが言いよどむ
「ないだろう?当然だ。お前達はただ志姫の体が欲しくて抱いてただけなんだ
からな」
「違うっ!!」
 秋葉が吼える
「何が違うんだ?お前達は独り善がりな欲望を志姫にぶつけただけなんだろう?」

「……っ!!さっきから…勝手なことばかり!!」
「秋葉…」
 志姫は静かに青子から身を離し、三人を見つめる。
 今の志姫は大人の女の色気が溢れていた。
 かつて陵辱を受けていたあの頃の小動物を思わせる可愛さが
 なりをひそめていた。

 それはまさに蛹から羽化するアゲハ蝶。

 羽化という言葉は時にどうしようもなく別離を暗示させる時がある。

 何故なら羽化をすれば世界が変わるからだ。
 幼虫から蛹の時はじっと地上で生活する。

 そして空に憧れる。

 羽化して空に羽ばたけば今まで知らなかった世界が開ける。
 それを知れば過去、自分が過ごした世界と訣別することになる。

 今、志姫は別離の時をむかえようとしていた。

「……さっきね、印刷所に行ってきたわ…」
「「……?」」
 突然出てきた不可解な単語にアルクとシエルはクビを傾げる。
 それとは別に秋葉の顔がデスラー総統並に蒼ざめていく。

「ねねね、姉さん、ま、まさか…」
「ええ、オフセット印刷で頼んできたわ、貴方と翡翠と琥珀の日記帳」

「うわああああああああああああああ!!」
 秋葉が絶叫する!!
 アルクとシエルのまわりには「?」が飛び交う。

「三人が書いた日記帳を取り上げてね、虐めていたのよ」
 と、心底愉快な表情を浮かべる志姫

((あの三人が精神崩壊するほど酷いことをやったんだな…その日記帳で…))

「今年の冬は晶さんと合同スペースかしら?」

「やめて!!やめてくれ姉さん!!」
「駄目よ…お金払っちゃったし…元とらなきゃ♪」
「ぐわあああああ!!」

((よっぽど恥ずかしいこと書いてあるんだろうなァ、その日記帳…))
 秋葉に同情の眼差しを向ける二人

「アルクにシエルも…」
「え?」
「晶さんが喜んでいたわ…18禁ネタに困っていたそうよ」

 Why?

「志姫…なんで晶が喜ぶの?」
「志姫さん、ネタって?」

「今年の新刊は「おもらしプリンス」と「となりのとろろ」かしら…?」

「「!!!!!」」

 二人に戦慄が走る…。

「「や、やめれぇ!!」」
「私に言っても意味ないわ…フフフ」
 そんなものが冬コミででたらたまったものではない

「ふ、ふははっは…」
 その最中さっきまで悶えていた秋葉が壊れた笑い声を上げた。

「弟?」
「秋葉さん?」

「……姉さん、覚悟はいいですか?」
秋葉の髪が紅く染まっていく。

「な、なに言ってるんですか?」
「血迷ったか!?弟!!」
「ようは、ここで姉さんの口を塞ぐことをすればいいんですよ」
 そうすれば彼らの痴態が冬コミで売られることもない。
「そうか…」
「その手がありましたか…!!」
 アルクもシエルも秋葉の言いたいことを理解したのか、表情を輝かしいもの
に変える。

「それなれば…」
「まず、邪魔な奴から排除しなければなりませんね…」

 三人の視線が青子に集中する。
 青子はやれやれといった風に肩を竦め、首を左右に振る。
「お前らが私に勝てる確率は…ゼロだ」
「やってみなければ分かりませんよ…ミスターブルー!!」
 シエルがどこからだしたか分からない黒鍵を数十本取り出す。

「……いいのか?そんなに投げたら志姫にも当たりかねんぞ?」
「志姫さんに当たってもあとで治癒させれば済むことです。」
 明らかに冷静さを欠いているシエルの発言。
「………。」

 シエルが振りかぶり…
「はぁっ!!」
 シエルの裂帛の声とともに黒鍵達が青子にむかって飛ぶ!!

「……来い。」
 青子がそう呟くと…

 ブオオオン………ぼおおおおおおおおおおん(エコー)!!
 エンジン音の後何かが爆発する音…そして

 ガシャーーーーーーーーン!!

「な、なにぃ!?」
 二階の志姫の部屋の窓をぶち破るのは青子の愛車、トランザムだ。
 トランザムは青子と志姫を守るように立ちはだかり

 カン、カン、カン…!!

「!!…そ、そんな!!黒鍵を…鉄甲作用を弾いた!?」
 シエルが愕然とする。
「っていうか、ここ二階だろ!?どうやって突っ込んで来るんだよ!!」
 アルクが興奮を抑えきれずに叫ぶ

「いくら82年式のトランザムだからってバカにしないほうがいいぞ」
 青子はニヤリと口元を歪めると
「さすがは分子結合殻だ…黒鍵ではびくともしない」
 と、シエルを嘲笑う

「くっ…!!」
 突然の乱入車に三人は唖然としている。

「さて、今度は…」
「先生…」
「ん?」
 志姫は1度脱いだYシャツを羽織りながら

「三人に二つ聞くことがあって一つ教えることがあるの…」
「…そうか」
 志姫の真意を悟ったのか、青子はそれ以上の追及をしなかった。

「まず、一つ目…どうして私だったの…他にも美女はいるでしょうに…?」
 志姫の問いに三人は

「……志姫の膣しめつけがいいし…他の抱いてもなァ…」
「……面白いところに性感帯があるから」
「姉さんと私の体の愛称がいいからです」

 その答えに志姫は一瞬、暗い表情を浮かべた。

 志姫はズボンを履きベットから降りてトランザムの前にでる。
 必然的に三人と向かい合う。
 一呼吸置いて志姫は核心に迫る。

「二つ目…私を愛してると言ってくれたことが今までにある?」

「「「!!!!!!!!!!」」」
 心臓を鷲掴みにされるという表現が適切だろう。
 二つ目の問いは間違いなく三人の心に突き刺さった。

「そ、それは…」
「………うっ」
「くっ………。」

「ないよね…ないでしょう…そんな言葉、貴方達から聞いたことなかった」

 冷たい瞳が三人から殺気を殺いでいく。
 形勢は志姫一人の気勢だけで簡単に逆転してしまった。

「先生は私は愛していると言ってくれた…だから私はそれを受け入れた」

 ――そして私は強くなった――

 志姫はトランザムの装甲に弾かれ床に散らばる黒鍵を拾い上げた。
 右手に三本、左手に三本…計6本

「そして最後に貴方達に教えることは一つ……」

 志姫の瞳が蒼く染まっていく。
 浄眼…「直死の魔眼」が発動した。

「私は…青子のモノ!!もう、貴方達の辱めは受けない!!」

 志姫の両腕から遠心力を利用してのニ連黒鍵が発射される!!

 ヒュンヒュン!!

「!!…その程度の攻撃で退かせるつもり!?」
「そんな攻撃…わけないこと!!」
「…嘗めるなっ!!」

 トストス…トス…!!
 三人にあたることはなく、床に黒鍵が刺さる

「……勝負あったか」
 青子が呟く。
 そう、志姫が狙ったのは…

「「「!!!」」」

 志姫が投げた黒鍵は三人を狙ったものではなかった。

 志姫が投げた黒鍵の真意がわかった時には、全てが遅かった。

 直死の魔眼が突いたのは…この遠野の屋敷の死の点

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!

「ま、まさか!!」
「正気ですか志姫さん!!」
「何を考えて…」

 ドゴーーーーーーン!!




 /
 盛大な爆音と共に遠野の屋敷は崩れ落ちた。

「ぷはっ!!みんな無事か!?」
 ガレキの中から顔を出すシエル。

 すると、壁の熱を奪って秋葉が瓦礫の下から現れた
「ええ、なんとか…壁を略奪して凌げたよ…でも琥珀と翡翠が…」
「………。」

「二人なら…ここだ」

「「アルク(さん)!!」」

 崩れた瓦礫の山の頂きに二人を抱え、満月を背にアルクが立っていた。

 皆、服が汚れ、ボロボロである。

「逃げられましたか…」
 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、トランザムが去っていった方向を見
つめる秋葉。
「今度ばかりは…やられましたね」
 シエルもずれたメガネの位置を直しながら呟く。

 そんな負けムードが漂う中…

「……く、くくく…」

「「アルク(さん)?」」

 一人下卑た笑いを零す吸血鬼が一人。

「くくく、あははははは!!」
 両脇に抱えた二人を秋葉とシエルに投げつけ、アルクは開いた左手で顔を覆
い笑う。

「「!?」」

 アルクの突然の高笑いに二人は動揺が隠せない。

「ふ、ふはは…最高だよ志姫…すばらしいよ…なんて屈辱なんだ…」
((……言ってることが矛盾してる…))

「いいよ、愛してるって言葉が…いや愛して欲しかったんだな志姫!!」

 アルクの狂気に満ちた笑いが闇夜に消えていく――。

 終りは新たな序曲に過ぎず、まだ、物語は終らないのか…?

「待ってろよ…志姫…地の果てまでも…追いかけてやるからな!!!」

 そんなアルクを尻目に、シエルはお尻を掻いていた。
「お尻が…痒い…」




 /エピローグ
 夕暮れが砂漠を茜色に染め上げる頃…
 その中を一台のトランザムが駆け抜けていく――。

 トランザムはFRなのになんで砂漠をこんな速く走れるのかは突っ込まない
でもらいたい。

「まったく…無茶してェ…」
 青子は呆れながら志姫を横目で睨む。
「だってぇ…」
 志姫は頬を膨らませる。
「トランザムが近くにあったからいいものの…あいつらの足元の床だけ殺そう
とか思わなかったのか?」
 志姫が屋敷を殺した瞬間、青子は志姫を抱えトランザムの中に逃げターボブ
ーストのボタンを押した。

 トランザムは大ジャンプし見事脱出を成功させたのである。

 まさに怪しい機能が盛りだくさんのトランザム
「うぅ…思わなかった…」
「はぁ…まあ、いいけど…これからどうしようかな」
「私はどこへでもついて行きます…」
 志姫はストレートに宣言した。

「そ、そうか…」
「あ、先生照れてます?」
「ば、バカなことをいうな!!」
「顔あかいですよ〜♪」
「フン……言うようになったなお前」
「当然ですよ」

 そして志姫は胸を張って答える。
「なんせ私は蒼崎の女ですから」
 幸せな笑みを浮かべる志姫、その笑顔に青子は「フ…」と笑みを零し

「そうだな…お前は私の女だもんな」

 夕日に向かい、砂漠を巻き上げ、疾走するトランザム…

 ……これから二人に待ちうけるものは果たして何か…?


FIN…








あとがき/
 どうも、ナイトライダーにどっぷり嵌ってる天戯です。
 はい、おもいっきり影響出ていますね(苦笑)
 しにをさんにはただひたすら頭下げることしかできないんですが…(冷汗)
 ごめんさい、ホントウに悪気はなかったんですぅ!!

 しにをさんのSSを読んでふと思ったのが、
「七夜Verになったらどうなんだろうか?」
でした。思いつけばSな志姫がアルク達に復讐する姿が浮かんだわけで…
 たしかに晶を出そうかとも考えたんですが、私としてはさつきのきれっぷり
が見たいな…と(汗)

 この祭りは

「ふむ、まだ始まったばかりというところらしい…」

なので、もう少し頑張ってみます。

 それでは!!


【ナイトライダーとは?】
 20年前にアメリカで始まった番組です。
 ドリームカーナイト2000を駆り、法の目を逃れる犯罪者を追うかっこいい番
組です。20年経ってもその魅力は損なわれることはない…




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