アナタノトコロ

作:先坂 透

            




 ステンドグラスを通して、色鮮やかな光が降り注いでいる。
 赤。青。緑。黄。
 それは祝福の色だ。
 不道徳ですら喜びに変える、この秘め事を祝福する光。
 そうして私は、この礼拝堂で先輩の口付けを浴びる。
 目を閉じることもなく、ただ待ち受ける。
 唇が近づく。眉を小さく啄ばんで、視界を遮るみたいに、今度は瞼。
「ん……見えなく、なっちゃいます」
「大丈夫、ちゃんといるから……」
 左右に代わる代わるキスを受ける。
 眉間、鼻筋。まるで意地悪するみたいに、先輩はいつまでも下に来てくれない。
 小さく笑いが聞こえた。
「……何ですか」
 声が拗ねていると、自分でも解る。先輩は前髪を優しくかき上げてくれる。
「藤乃ちゃん」
「?」
 名前を呼んで。
 それから、不意打ちで先輩は唇を吸い始める。
 僅かに目を細めた。口腔の中がどうなっているかは解らないけれど――必死で私は舌を
届かせる。
 眉根を寄せている先輩。夢中になってくれている。
 だから嬉しい。
 私の中に、先輩の唾液が注ぎ込まれている。くちゅりくちゅりと厭らしい音が、静かな
礼拝堂にそっと韻を溶け込ませている。
 顎に手がかかる。心持ち顔を傾けるようにして、先輩は私に埋没していく。それに私も
応える。解らないけれど、解らないなりに舌を動かす。より繋がれるようにと、出来る限
り深く舌を差し込む。
 後はもう思うがままに。
 先輩の両頬にそっと触れる。顔を包み込む形。懸命に軟体を左に伸ばせば左の手が、右
に曲げれば右の手が少しだけ動くのが見える。今私は先輩の中にいると、解りやすい方法
で確かめる。
 出来るだけ多くを見せてください。
 視界の端に影がかかる。前に下りてきた髪の毛を、先輩が耳にかけてくれているのだろ
う。
 髪の毛が擦れ合う。
 頭皮の上を指先が走る。
 そんな小さな小さな音。
 出来るだけ多くを聞かせてください。
 薄く瞼を開いた先輩が、目だけで何か言っている。内容は解らない。でもその瞳の中に
あるものは優しい。だから微笑んだ。
 親指と人差し指で髪を一房摘んで、先輩は弄ぶ。指を回すたびに毛先が踊る。楽しそう
に舞っている。
 そのままに私の心中を表して、伝える。伝えられる。
 目を閉じる。情報を一つ閉ざして、私は先輩にしなだれかかる。
 ここにいると言ってくれた。だから受け止めてくれるはず。
 口で呼吸がしにくくなる。半開きにしていた唇を、塞がれていると知る。きっと今、乾
いた唇は唾液で潤っている。先輩がくれた唾液で、はしたなく濡れてしまっている。
 けれどそれでいい。
 それがいい。
 感覚もよく解らず、ただ自覚だけははっきりと残したまま、私はしばらく口内を貪られ
るがままになる。
 湿っている。濡れている。
 音が。体が。
 こんなにも……感じている。
 先輩が唇を離す。体液が架け橋となり、二人を繋げている。切れて付着した分は、お互
いに塗り広げあう。透明な紅を引いて、きっちり二人分の艶を。
 人差し指が、薄皮の上をスケートのように滑る。爪先で軽く凹ませて、戻る様を楽しん
だりする。
 押す。戻る。先程まで私に吸い付いていた場所で、ちょっとだけ遊んでみる。先輩は喋
ろうとしてそう出来ずに、ちょっと困っている。
 その顔が失礼だけど、可愛くて。
 今度は自分から唇を押し付ける。貴方を塞ぐ口付け。苦しくて切ないくらいに。
 二度、三度。
「大胆だね」
「こんな所で言う言葉じゃ、ないと思いますよ?」
 仰ぎ見れば鮮やかな光の帯。高みから私たちを見下ろす、マリア像の微笑。冷たいであ
ろう彫像が、温かみを帯びたものに見える。
 視線の先に気付いたのか、先輩が苦笑する。
「確かに、そうかもしれないね」
「疚しいことをしているつもりは無いですけれど」
 私は一度言を切る。貴方は告白を待つ。
 祝福を浴びて、私はただ晴れやかに晴れやかに。
「好きな人と好きなことをしているんです。だから、疚しいことなんてありません」
 自然と、満面の笑みが零れた。先輩は一瞬喉を詰まらせて――それから、破顔する。
「そうだね、僕も好きだよ。……だからこうしてる」
 呟いてから、先輩は私を強く抱き締めてくれる。息が弾んだから、その強さが解った。
酷く安堵する。
 もっと触れていたい。だから私は先輩の背に腕を回す。骨が軋んでしまうくらいに、も
っと強くと囁いて。
 きつく、強く、愛して。
「感じさせて、ください」
 私はそう願う。そして想いは深く素直に。
「解ってる。うん……僕ももっと感じさせてあげたい」
 お互いにねと締め括り、音高くおでこにキスの雨を。何度繰り返しても飽きない、飽き
させてくれない。
 確かな幸せがここにある。
 確かに先輩がここにいる。
 雨は音を止ませずに、より一層激しさを増して下へ下へと落ちていく。生え際を伝って
耳朶を優しく啄ばみ、顎へと至る。そこまで来て、悪戯っぽい光を湛えた先輩とはっきり
目が合う。
 見ていて、ということなのだろうか。
 だとしたら大丈夫です、ちゃんと見ていますから。
 瞬き一つで意思疎通。繋がる通じる。
 首筋の輪郭をなぞって、鎖骨の合わさる窪みに。それと同時に体が後ろに引っ張られる。
何だろうと振り向けば、先輩が後ろから無理矢理服をずらそうとしている。
 流石にそのまま引っ張っても、無理がある。
 私は先輩が降らせる雨の邪魔をしないように、その行為を促せるように動く。けれども
やはり、このままではもどかしい。
 両腕を抜く。これで裾を持ち上げれば、それで終わり。
 大事なことは大切な貴方に任せて、私はそれを見届ける。ちょっとした通過儀礼。貴方
の手で女にされて、そして貴方は男になる。
 全てを曝け出して大人になるための、密やかな儀式。
 息を詰めて待つ。先輩の腕がどのように動くのか、一挙動すら見逃すまいと目を凝らす。
 すっと手が持ち上がる。唾液の嚥下で喉が蠢いた。先輩の緊張を感じる。端を掴んだ手
に浮き上がる血管すら、解る。
「上げるよ……」
「はい、上げてください……」
 一拍遅れで、こちらにも緊張が走る。勿体ぶるように、徐々に衣服が持ち上がる。踝か
ら緩くカーブを描いて、その先。酷く見慣れた体の一部である、膝が顔を出す。
 見られているという事実が、これ以上も無いほどに心を浮つかせる。
 いつもなら、大したことでもないのに。
 先輩が自分の頭に裾を被せる。
「え?」
 疑問を口に出来たか出来ないかの間。もぞもぞと上に向かって先輩が這いずり回る。ぴ
ちゃぴちゃと舐め上げる。動き回る貴方が太股まで駆け上がる。
 韻が止まない。
 淫が止まない。
 ふしだらな欲求が加速していく。貴方にもっと……貪ってもらいたい。まだ足りない。
何もかも忘れるくらい、丁寧に犯してください……。
 無意識に先輩の頭を抱き抱えた。水音に引き摺られて、布越しの貴方を幻視する。数十
センチ遅れで、裾は先輩に続く。舌がぬめりを太股に貼り付けているのに、まだそれは膝
の上辺りにいる。
 まるでついていけてないようで……その齟齬が狂おしい。こんなにも愛おしいのに。
 先輩の頭を撫でる。厚さ一枚分の距離。近くて、けれど決して触れてもいないこの距離。
 それを、貴方に早く消して欲しいんです。
「藤乃ちゃんの味がする」
「何、言ってるんですか……」
 酷すぎる羞恥。背を抜ける甘美。血が巡って、頬が染まるのが自覚出来た。
 きっとそれを解り切っていて、先輩はそんなことを言ったのだ。
 ……ずるい人。
 悔しさついでに、頭のてっぺんを思い切り指で弾いてやった。
「いたっ!」
「お仕置き、です。先輩が悪いんですから」
 何だか頬が緩む。
「こんなに大きな悪戯っ子、悪い子に決まってます」
「酷い言い方だなあ」
 舌が止まる。
「でもまあ、藤乃ちゃんじゃなきゃこんなことはしないけどね」
「え―――あ」
 意識の隙間を突かれる。気の緩んだ一瞬を縫って、先輩がショーツを引き下げる。こう
いう時に限って気が利くとでも言うのか……きっちりと私の視界に映るところで止めてく
れる。
 先輩がショーツに指を引っ掛けて、くるくると捻じったりする。
「何してるんですか」
 流石にこのような真似を見せつられれば、うろたえもする。
「いや、こういうのつけてるんだなあ、って」
「何回も、見てるクセに……」
 わざとらしい反応に、拗ねてみたくなる。唇が尖った。
「怒らない怒らない。……可愛いな、って思うよ」
 ああもう、どうしてこの人は、こういうことばかり。
 私は制服の中に先輩がいることに一切頓着せず、しゃがみ込んだ。急に状況が変わって、
先輩は酷く戸惑っていることだろう。
 落ち着かせるだとか、何だとか――そんな些事を一つに纏め上げて、
「好きです」
 と、変な格好の先輩を抱く。
「ちゃんと見てください……」
「解ってる……」
 そうして解りやすい形を生み出そうと、先輩が動く。私は床に寝転んで、膝を曲げる。
そうした拍子に、ショーツが足まで落ちた。じわじわと服が持ち上がっていく。太股が姿
を見せる。
 情報の断片を確実に脳が捉える。私に夢中な貴方の瞳。堪らない。貴方に夢中な私の瞳。
絡みつく。その視線の交点に、外気に晒された私の、性器が、ある。
 どうしてだろう。
 解らない。
 けれど、恥ずかしくて。
 何だか、何も言えない。
「顔、真っ赤だよ」
「そういうことを、言わないで、ください」
 不公平。不平等。
 何て酷い人。
 私は先輩の喉に人差し指を乗せる。起伏を指先の動きで確かめながら、一番上のボタン
まで走らせる。片手だけでは随分とやりにくいが、それでも外す。
 僅かにはだけた胸元が映る。まだ対等じゃない。両手をかけて、一つ一つのボタンを外
していく。貴方との距離が近づく。貴方が曝け出されていく。
 汗で微かに光る肌。掌全体で撫でて、皮膚に馴染ませる。
 広くて、大きい。包まれているみたいに。
 ……全てを外し終えた。あまり運動をしていないのに、やっぱり私よりは頑丈そうな体
がそこにある。これが平均的なのかは解らないけれど、何度見てもどこか不思議。
 どうしてこんなにも、強く見えるのだろう。
「ちょっとくすぐったいね」
「そうなんですか?」
 表情の穏やかさがあまり変わらないので、判断に困る。だからこそ、口にしてくれたん
だろうけれど。
 先輩は私の表情から何を受け取ったのか、苦笑してから頭を撫でてくれた。再び私の脱
衣に戻る。
 腰で止まっていた制服を、更に上へ。ステンドグラスを通した降り注ぐ繚乱も、先輩に
遮られて届かない。
 覆い被さる影に好ましいイメージは無かったのに――先輩なら守られている、という気
になるのはどうしてだろう。
 心が温かい。震える。
 控えめに顔を覗かせる臍、それから……乳房の付け根。もう少しで、何一つとして遮る
ものも無くなる。
 先輩が呼吸を整える。
 緊張?
 怪訝、停滞。
 静から動への転換は劇的に。
「いっせえの……で!」
「きゃっ!」
 企みを言葉に乗せて、先輩は一気に制服を引き抜いた。一瞬視界が暗転して、次いで映
るのは翻る黒布と細い黒髪。
 貴方の色。黒。
 ばさり、さらり。黒が舞う。私の肌が暴かれる。
「こんな、いきなり……」
「驚いた?」
「それは……、驚きますよ……」
 首を傾ければ、上向きの乳房が真っ先に飛び込んできて、心臓が跳ねる。こんなことは、
先輩とじゃなければ絶対に無いこと。
 先輩は口元に笑みを象ったまま、視線を巡らせる。足の小指から足首、膝、太股……色
々。性的な符丁を持たない所だって、どこだって、全部恥ずかしい。
「あまり、見ないでください……」
「どうして? こんなに……綺麗なのに」
 綺麗という単語が耳に届いて、頭に染み入る。ただそれだけで、私の体に朱が差す。
 刺激無しに喜んでしまう。
 痴態。姿態。
 したい。
 大好きな先輩と――貴方と。
「先輩も……」
 熱に浮かされたみたいに、私も動き出す。先輩のベルトを鳴らして外して。
「っと、藤乃ちゃん?」
「私にも、させて、ください」
 驚く先輩に頓着せず、ジーンズを引き下げていく。らしくもない、我ながら大胆な行動。
構わない。私だって……やられたら、たまにはやり返したくもなる。
 黒いトランクスが映った。何も下着まで黒にしなくても、と僅かに苦笑する。こういう
所に限って、変な拘りを持っている。
 さておき、ジーンズを引き抜いて、きちんと畳む。次いで大きく息を吸い込み――緊張
を押し殺して――トランクスに手をかける。トランクス一枚だけだと、その、隆起がどう
しても解ってしまう。
「あの……」
「僕も男だしね、藤乃ちゃんみたいに可愛い娘が相手だと、やっぱりこうなっちゃうよ」
 照れくさそうにそんなことを呟かれても、私は困ってしまう。どうしても先輩の方が一
枚上手だから。加えて何より悔しいのは、リードされて私がどうしようもなく嬉しく思っ
てしまうこと。
 だから無言の催促に後押しされて、私はゆるゆるとトランクスを下ろしていく。何度も
見ているのに、いつだってこの瞬間は意識が揺れる。
 持ち上がった陰茎。先端から膨らんで、そしてくびれて……血管の浮き上がった幹が覗
く。とても厭らしい形。
 まるで先輩みたい。
「何か、変なこと考えてない?」
「多分、間違ったことは考えてません」
 違うなら、きっとこんなことにはなっていないはずですから。
 ただ引っ掛けていただけの上着を先に脱がせて、間を空けずに今度は下着。これで二人
とも、文字通り一糸も纏わぬ姿で向き合うことになる。
「触るよ……」
「はい……」
 抱き寄せられる。私は力を抜いてなされるがままにする。
 先輩が私の肩を抑えて、倒れないように支えてくれた。指先で乳房の輪郭を執拗になぞ
る。根元から円を描いて、徐々に触れていない場所を減らしていく。そのクセ乳首だけは
綺麗に避けて、こちらを窺ったりする。
 私は応じてあげない。つんつん、と陰嚢を突付いてみる。僅かに腰が引けたのは見逃さ
なかった。
 先輩は右にも左にも同じ行為を続ける。私はお返しとばかりに肛門の辺りから指を走ら
せて、裏筋を伝う。そうして止まったら、今度は脇に向かう。
 お互いの行為を模倣する。陰毛を指先で掻き分けて、それでもただなぞるだけに留める。
先輩が少しだけ顔を顰めた。悪い反応じゃ、ないですよね。
 先輩の手が乳房にかかる。下から上に捏ね上げて、形を歪める。乳首がそれに合わせて
揺れる。躍る。それが面白いのか、左右から押したり、軽く掴んでみたりと先輩は私で遊
び始める。
 そう来るのなら。
 私は袋をそっと持ち上げて、五指を蠢かせた。ただそれだけで睾丸が手の上で転がる。
「っく……」
 気持ち良さそうな声。そんな声を聞いてしまうと、もっとして上げたくなるじゃないで
すか。
 蠢かせている指の位置を変える。それだけで、指は快楽を掻き立てるタップに変わる。
鍵盤を叩くように、其処彼処に指紋をつけては離す。
 アルペジオで、上り詰めさせて。
「気持ち、いいよ……」
 私は答えられずにいる。お互いの遊びに没頭して、抜け出せなくなってくる。
 貴方でいっぱいになる。
 先輩が、今までわざとらしく手をつけていなかった、ピンク色の突起を摘む。何となく
私も手を止めて、どうするのかしら、と首を傾げてみたりする。
 何回もされているのに、何回だって知らないフリ。
 貴方に抱かれて私は初めてを繰り返す。
 先輩の手がきゅっと乳首を捻り上げた。それに合わせて、私も何となく体を捻ってしま
う。動きで落ちた髪の毛が、先輩の手にかかった。
 まるで、より多く触れていたいと願うかのように。
 ……ふと、先輩はそれで何か思いついたらしい。私を見て少し頬を緩める。
 静脈の浮いた乳房にかかった真っ黒な一房、それを指で弄ぶようにして、先輩は乳頭に
巻きつける。そうして時折引っ張って、締め付けてきたりする。
 白と黒の交わる中に、濃い朱色がぽつんと浮かんでいる。その光景は、とても恥ずかし
い。
 人差し指が突き出たものを捏ね回す。丸めるように、潰すように先輩が私を責める。体
の奥がじわりと熱くなる。蕩けてしまう。
 私も負けてられないから――先輩の陰毛を固い幹に巻きつけて、引く。けれど痛みとい
うものがどうなるか解らない。だから思い切りに欠ける。
 気付けば勝負は不公平に。
「先輩、ずるいです……」
「何が?」
 意地悪でも何でもなく、本当に意図していることが解らなかったらしい。私はもじもじ
と指先を躊躇わせて――思えば部位が部位だけど――先輩を見詰める。
 貴方には感覚があるから、なんて言えない。そんなことを言ったら気にしてしまう人だ
から。
 私の答えを待っているらしく、先輩は行為を止めている。何だかもどかしい雰囲気。耐
え切れなくて、物足りなくて、私はその怪訝そうな顔をすっと胸に落とす。
「え、ちょ」
「気にしないで下さい。一人言です」
 驚きつつも、先輩は乳房から手を外していない。そのまま人差し指と中指で髪の毛ごと
小さな突起を弄び、残りの指はやわやわと乳房の方を揉みしだいている。
 本当に、厭らしい人ですね……。
 苦笑二割に愛しさ八割で微笑を。
 先輩の髪の毛を掻き分けて、頭皮に唇を走らせる。根元を押さえつけてから、見えた場
所を舌先でぺろりと舐める。くすぐったさからか、先輩の頭が震えてなかなか巧くいかな
い。
「動かないで、ください……」
「そんなこと言われても、ね。ちょっと驚いたよ」
「ふふ、そうですか?」
 言い終えるや否や、一際強く吸い付く。唇を尖らせて、懸命に貴方を取り入れる。
「藤乃、ちゃん」
 呟き。なんですか、と問う前にぴちゅ、と音がした。もしかして、と乳首に指を持って
いき、それからまた眼前に戻す。唾液に濡れている。その体液を舐め取りながら、今度は
先輩が私の行為をなぞるつもりらしいと知る。
 先輩の指の隙間から柔肉がはみ出している。手の動きと先輩の口が体に張り付く音が一
致しないので、不思議な気分になった。
 私も応えなければいけない、だから唇での愛撫を頭皮へと続ける。
 髪の毛に遮られて日の光が当たらないので、肌は蒼白に映る。血色を戻してあげれば、
少し不健康そうに見える貴方も健康に見えるだろうか。
 場所は違えどお互いに同じことをする。つまりは唇で挟み、なぞる。肺を震わせて吸い
上げる。舌を這い擦らせる。
 貴方は私のものですよ。
 私は貴方のものですよ。
 お互いにその証を刻み合う。一つの動作が一つの愛情になる。
 それは目に見える幸せ。
 自然と想いを届けることで、より深く私たちは繋がる。
「先輩……」
 この呼吸が乱れているのはいつからだろう。暴れそうな心臓の鼓動を聞かれること、そ
れに喜びを感じるようになったのはいつからだろう。
 貴方じゃなければ、こんなことにはならないのに。
「……緊張してる?」
 先輩はすぐ近くで鼓動を感じている。だからこそ顔も見ずにそんな発言をくれる。
「……先輩は? 私は、どきどきしてます」
「うん、良く聞こえる……。僕も、手に汗かいてる」
 目の前で開かれた先輩の手には、湿り気による微かな照り返しが生まれていた。
「暑いからじゃ、ないんですか?」
 わざと意地悪な質問をしてみる。
 だって、私の体が火照っていることは、疑いようもない。だから、私に触れている先輩
が汗ばんでいても、不思議は無い。
 ただ、こんなことを言うのには、ちょっとした打算があるからでもあった。
「熱いよ。だって、藤乃ちゃんが欲しいからね」
 ああ――この声。普段は見せようともしない、こんな厭らしい時間だけの、貴方の低い
囁き。それが私の奥にいるオンナをくすぐって、目覚めさせてしまう。
 喉が鳴る。生唾を飲み込んだのがどちらだったのかは、いまいち解らない。ただごくり
と音がして、それから先輩は手を下に運んだ。
 露出した太股のライン上を、人差し指が走る。定間隔で皮膚を窪ませて、指が茂みの端
に触れる。
 もう少し。
 理を忘れさせる実感というモノが、腰骨の辺りに渦巻いているような気がする。感じら
れないはずの体が、期待で震えている。
 欲しがっている。
 熱っぽく爛れた吐息が、場を掻き回している。余裕などまるで見せず、率直に欲望に向
かっていく。
 人差し指と中指が、まるで涎を垂らしているみたいな割れ目を開いた。
「濡れてるよ……」
「解って、ます」
 わざわざ、口にしないでください。そんなの解りきっているし――何より、恥ずかしく
て仕方が無いんですから。
「顔、真っ赤だよ」
「誰の所為だと―――んむっ」
 不意打ちで唇を塞がれた。喋るべき言葉を飲み込んで、代わりに私は先輩から酸素を奪
い取った。ぴちゅ、と唾液を啜り上げて、顔を離す。
 もう、準備は終わっている。
「じゃあ、挿入るよ」
「はい、……来てください」
 ぬかるみを中指一度叩いてから、先輩は陰茎を宛がった。埋まる先端に、僅かばかりの
艶めきが乗る。
 呼吸を止めた。来ることが明確に解っているから、自然と体が身構えてしまう。
「ふ―――」
「ん、っく……!」
 一度瞳を閉じて、息を抜く。それと一緒に体の力も抜けてしまえば、先輩も楽ではない
かと思ったからだ。
 でも、力が抜けてない方が、本当は良いの……でしょうか?
 解らない。けれども迷っているうちに挿入は果たされ、再び開いた目には私の中に収ま
った貴方がいる。
 心なしか眉を詰めた先輩と見詰め合う。苦しそうにも見えるその表情が、気持ち良さか
ら、愛情から来るのだと教えてくれたのは、他ならぬ貴方。
 乳房の上に衣服の裾を引っ掛ける。先輩が手を両脇に差し込んで、私の体を支えてくれ
た。
 床に足を投げ出し、椅子に寄りかかっている先輩の上に跨るような形。私は体重を腕に
預けているので、先輩は多少動きにくそうではあった。
「このままで、いい、ですか?」
 体の揺れが言葉を途切れ途切れにさせる。もう少しだけ安定が欲しくて、私は先輩の首
に腕を巻いた。
 俯けば繋がった私と貴方。
「気持ち、良いですか……?」
 どうしても不安で、そう口にする。一瞬後に、今のは失言だったと過ぎる。でも先輩は、
そんな言葉を吹き飛ばすように笑ってくれた。
「……凄く、良いよ。だから、もっと動いていいかな……?」
 耳朶をくすぐるその声に、私は一も二も無く頷く。髪の毛が跳ねた。
「もっと……感じてください。でなきゃ、私も、感じられませんから」
 その発言に何を思ったのか、先輩はきょとんした顔で、直後に顔を紅潮させた。何かお
かしいことを、言っただろうか?
 先輩は笑みを深めて、本当に嬉しそうな顔をする。
「そうだね。二人で、楽しまないと――ねっ」
「あっ」
 一度区切って、先輩がより深く腰を沈めた。根元まで飲み込まれた幹、その付け根を隠
せるかと、私も腰を押し付けてみる。それが不意打ちだったらしく、先輩が眉間に皺を入
れる。そこを舌を伸ばしてノックすると、皺が緩んだり深まったりを繰り返して、面白さ
を覚えた。
 先輩が荒い息を吐く。呼吸のリズムに合わせるように、下から突き上げてくる。視界が
縦に伸びて、その強さを知る。
 言った通り、愛していると丁寧に教えてくれる。嘘偽りの無い、純粋な感情。
 ああ、もっと。
 この激しさが貴方の感情の表れならば、もっと……。
 尻を浮かせて、そのまま腰を下ろす。太股と打ち合わされた時の乾いた音は、不慣れな
アルコールにも似た酩酊をくれる。
 意識が乱れる。体全体が貴方を感じる受信機になっている。
 溢れてしまう。
 ああ、何度でも飽かない。これが、私の最高の快楽。
 心地良いということ。
 先輩は片腕を腰に回したまま――こんな時に限って男らしい――空いた腕で私の胸を揉
みしだいた。
「ん……」
 やりやすいように、少し体を反らして突き出すようにする。今までの体勢よりは背筋が
伸びているので、それに合わせて乳房も僅かに縦に伸びる。この姿勢だと背を丸めている
よりも胸が小さく見える気がするのだけれど、先輩は気にするだろうか。
 先輩は夢中で私を突き上げている。皮膚を叩く音は湿っているのに、接合部は厭らしく
濡れた響きばかりさせている。矛盾しているような、不思議な気持ち。
 乾いていた体と心を徐々に湿らせて、潤いに変えていく。一度腰を落とす度に、一度腰
が上がる度に、綺麗な女に、大人になれそうで。
 貴方が私を変えていく―――。
 気付けば手は乳房を離れ、首筋を撫で回している。
「血管が、びくびくしてる、ね」
 息も絶え絶え、といった調子で、先輩はそう告げる。
「興奮、してるんですよ」
 効果があるかは解らないが、憶測で下腹部に力を込めた。多分こうかな、とやってみた
だけなのだが、効果は覿面だったらしく先輩はたまらずに呻いてくれた。
「っ……は、あ」
「こっちの方が、良い、ですか?」
 解ってはいるけれど、敢えて問う。言いつつも私は力を込めることを止めていない。ま
ともな反応が出来ていない先輩を視界に収め、私はそっと笑う。
 耳元に息を吹きつける。粟立った皮膚を見咎めて、笑みを深める。感じてくれているか
ら。
 だから私は、どんなことだって出来る。
 私の為に。
 貴方の為に。
「ふふ」
 もっともっと気持ち良くなって欲しい、ただその一念だけで、私は挿入されたままの体
をくねらせる。よく解らないけれど、こうして動いた方が快楽が強いというような話を昔
聞いたからだ。
「ふじ、の、ちゃ―――」
 切れ切れで、明確さを欠いた声。
 誰もいない礼拝堂、眩いまでの光の中で交わる。整った顔を歪める先輩に想いが膨れ上
がる。
 先輩の鋭い呼気。私までもが興奮の余り息を乱している、乱れている。
 お互いが重なっているような錯覚、いや、それは事実。
 だって、こんなにも繋がっている。
 心も体もシンクロさせて。
 熱と感覚。嘘?
 意識が明滅。本当?
 連続する上下―――快楽。
 これが、貴方。
 乱立する奔流。冷静さを砕かれていく。
 加速に引き摺られて、貴方の気持ちにまで一直線に飛んでしまう。
 抱き締めて、キスをして、
 思う存分、注ぎ込んで。
「ふじ――の、出―――!」
 切迫した声が理外で走った。
 私は欲しかったから必死でしがみついていたのだけれど、先輩は気を回したのか、身を
離してしまう。引き抜かれた陰茎がびくんと跳ね、それとほぼ同時に粘ついた白を胸から
下に浴びせかけた。
「あ……」
 唇から漏れたものは、明らかに落胆だったと自覚出来た。
 だって、私は欲しくてたまらなかったのに、先輩はくれなかったから。
 ちょっと不満が募った。唇を突き出して、そのままを口にする。
「中に、欲しかったです」
 先輩は目を丸くすると、顔をすぐさま紅潮させた。
「え、えーと、あの……」
 聞いてなんて、あげません。
 だけど、恥ずかしいけれど、それとはまた別に勿体無さがあったので、私は零れた白濁
を指先に乗せて、舌で舐め取った。
 人差し指と中指で摘むようにすると、僅かに伸びる。おかしなものだと思いつつ、淡々
と指と口を動かす。
 ちゅぷ、ぴちゅ、と音だけが続いている。先輩の方なんて見ていない。
 ……拗ねているから。
 鈍感な先輩も、ここまですると気付くらしい。まずったなあ、なんて呟きが聞こえたけ
れど、あっちから何か反応を起こしてくれないことには、私は動くつもりがない。
 期待には応えてくれないと、嘘じゃないですか。
「藤乃ちゃん?」
 ぷい、とそっぽを向く。ちょっと焦った反応の先輩を可愛いと思ってしまった。
「ごめん」
「……じゃあ、はい」
 心持ち唇を突き出して、私は口付けを待つ。謝るのならそこから。
 瞳は薄く開けている。先輩が目を閉じて、顔を近づける一部始終が見えた。自分の精液
の味がするのは、男の人からすればあまり心地良いものではないんだろうなあ、なんて遅
い認識をする。
 だけど先輩は気にしているのかいないのか、熱心に口腔を犯していた。形を変える頬で、
それは自ずと知れた。
 先輩の首筋に指を這わせる。顎のラインに沿って、後ろへと伝わらせていく。愛撫とい
うにはあまりに緩い。どちらかといえば、縋る、甘えるという方が適切な行動。
 体を委ねることを許されている。そして、自分にそれを許している。改めて、貴方じゃ
なければダメだと認識した。
 こうしてお互いを交わらせている内に、先輩にまた火が点いてしまったらしい。私達の
間に、滾った欲がつっかえ棒のように挟まっている。予想より前に進めなかったために、
それに気付いた。
 血管の張り出した陰茎を握る。どうなっているのかを判断出来るように、口付けたり離
れたりを繰り返す。
 痛くしないようにとそっと撫で擦ると、幹はびくびくと反応を返してくれた。目の前で
それでも優しく笑おうとする先輩の本音が垣間見えるみたいで、少し苦笑してしまう。
 それは私の持つ願いと等しく重なるもの。だから嬉しい反面、素直に口にして欲しくも
ある。
 その言葉が聞きたい。なら、私はそれを引き出さなければならない。先輩をその気にさ
せるようなアイデアはあるけれど、実行に移すのを想像すると、羞恥心ばかりが込み上げ
た。
 どうしようかと、正直迷う。言ってしまえばスッキリするのは確かではあるのだけれど。
 数秒の間を置いて……意を決した。構わない。
「もう一回、したいですか? 私は……してくれるの、待ってるんですけど……」
 言ってから、やっぱり恥ずかしいと痛感する。きっと私は今真っ赤になっているはずだ。
逃げ出したい衝動に駆られた。
 先輩が呆気に取られたように、何も話してくれないのが気まずくて仕方無い。ああ、早
く何か言ってください。
「―――藤乃ちゃん」
 呼び声が耳に届く前、だったかもしれない。知覚する前に、先輩が私を抱き締めていた。
胸板の前に顔がある。先輩の心臓が早鐘を打っていた。
「いいん、だね?」
「はい――好きに、してください……」
 先輩が私に吸い付く音がした。どこに口が触れたのかは解らないけれど、それが愛情に
溢れていることだけは、よく理解出来た。加えて肘の振れが、髪の毛を梳いていることを
教えてくれた。
 瞳を閉じても大丈夫な気がする。心底安心出来る相手じゃなければ、私は情報を遮断す
るような真似はしない。
 とくとく。とくとく。
 加速する心臓。壊れそうに暴れている。私を想ってくれている。
 耳に心地良い。
 私は先輩が何を望むのか、口にしてくれるまで待つ。それまではずっとこの鼓動を独り
占めにしていたい。
 たっぷり十数秒かけて、先輩がようやく長い沈黙を破った。
「口で……してくれないかな」
 そして私は眠りから醒めるように、瞼を開いた。頬を緩ませて、私はそれに従う。
「解りました」
 先輩が椅子に腰掛ける。私は膝立ちになって、先輩の前に控えた。
 深く息を吸い、唾液を飲み込み、吐き出す。すぐさま心の準備を済ませた。
「じゃあ……」
 前置きをして、私は顔を下げた。出したばかりで、陰茎は全体的にてらてらと光ってい
る。二人分の体液に塗れている所為か、間近で見ると余計それは厭らしく見えた。
 舌先を尖らせる。まずは精液を零したばかりの鈴口を、丁寧に突付く。奥に残っていた
らしい、白と透明が混ざり合った汁がせり上がって来た。
「ん……ぅむ……」
 伸ばさず、なるべく舌の上に乗せられないかと躍起になる。舌を半ばから折り曲げて、
どうすれば良いのかと試行錯誤する。その度にちろちろと鈴口を集中的に刺激することに
なったからか、先輩は空気の塊を吐き出す。
「ちょ、強……、い……っ!」
 見上げると、先輩は辛そうに眉を顰めていた。ちょっと夢中になりすぎていたかもしれ
ない。私は体の力を緩め、舌全体を貼り付けるように押し付けた。亀頭から上を包むよう
にする。触れ合った部分から唾液が伝い落ち、その歪な形に沿って垂れていく。少しその
まま止まって、唾を見送った。
 舌を回す。位置を変えては止まり、細い体液の筋を並べていく。あまり派手に舐め回す
と唾は塗り広げられるばかりで、根元まで届いてはくれない。なので事はゆっくりと。
 緩いかとも思ったが、先輩の呼吸のリズムが焦らず、それでいて昂ぶりを感じさせるも
のだったので、大丈夫そうだと判断した。嬉しさが安堵をくれる。
「ふ――はむ、ん」
「は……あ。気持ち、良いよ……」
 先輩が頭を撫でて、私を褒めてくれた。もっと張り切りたくなる。すっかりその気にな
ってしまう。
 私は唇を窄めて、顔を付け根へと向かわせた。二人分が溶け合った液体を、こそぎ取る。
それは綺麗にするという意味もあるし、先程の行為の証を手に入れたいということでもあ
る。
 頬を凹ませて、僅かも残さないように吸い上げる。色々なものが混じった液体を飲み下
した。こうするとどうだろうと、先輩の顔を見て反応を窺う。
 先輩は悦びに咽んでいた。膨らみ、張り詰めたアナタが震え出したので、ちゅぷりとわ
ざと音を立てて唇を離した。
「ん、は……。ふぅ……」
 濡れた陰茎に息を吐きかける。先輩の肌が粟立ったのが見て取れた。
 陰嚢に右手を、幹の付け根に左手を添える。優しく揉み解す。
「―――ッ、うあ……は」
 先輩が促すように顎をしゃくった。それに従って、手を閉じたり開いたりする。片方は
固くて思い通りにいかず、片方は簡単に転がる。
 裏腹。本当に、先輩みたいです。
 私は股関節にキスするくらいに顔を近づけて、陰茎の薄皮を唇だけで食んだ。
「このまま、もう一度出しちゃいますか……?」
 溶かすように、甘えるように、私は先輩を促す。いずれにせよ私は先輩をもらえればそ
れで良いので、先輩がどちらを選ぼうと損は無い。
 先輩としても、どうしたものかと迷い所らしい。すぐさま答えを出すようなことは出来
ずに、逡巡を浮かべていた。
 男の人が射精するとどんな感じなのかは、私に解るはずもない。ただ、こういうことを
していると、私も終わった後は体が鈍く感じる。だから男の人もそうなのではないだろう
か。
 先輩の答えが出るまで、私は所在無く唇をパクパクさせていた。固く張った先輩自身を、
引っ張ったり緩めたり。
「ちょ、藤乃ちゃん、ストップ……!」
 息を詰まらせて、先輩が制止する。軽めの刺激を続けていた私は、それに従い動きを止
めた。
「どうします? ちょっとだけなら、待ってあげます」
 目を細める。震えた睫が自分でも見えた。
 エッチの時の、こういうフリはまだ苦手だなあと、内心で苦笑した。
 先輩は紅潮して、唇を戦慄かせている。怯えないで、素直になってと私はそれを人差し
指で止める。前歯を軽く叩いた。
 そして、わざとらしく首を傾げた。
「お願い……出来るかな」
 どうしてか、観念したみたいな言葉を言う。不満だとかそんなつもりはないので、
「嬉しいです」
 と素直に返す。顔を綻ばせた先輩を見届けて、奉仕へと舞い戻る。
 横合いから幹に優しく噛み付く。薄く浮かんだ血管を歯で押す。あまり力を込めすぎる
と、痛い思いをさせてしまう。
 ゆっくりと、じっくりと。
 横笛を吹くように、首を左右にスライドさせる。上下から挟み込む形で動いているので、
口腔に溜まった唾液を塗りつけていくことになる。
 頭をずらせばずらすだけ、陰茎が露になっていく。唾液で濡れているからか、普段より
も、何だか逞しく見える……。
 胸の奥が熱くて溶けそうだった。
「ん……く、ぅ」
 尖った乳首を先輩に見付けられてしまう。快楽に振り回されているのに、こういうこと
はどうして目敏いのだろう。
 先輩は私の胸の間に、膝頭を突き入れた。そうしておいて、右へ左へと足を揺らす。谷
間を抜けた膝は乳房を横に押し退けて、先っぽを弾いてまた戻ってくる。
「んん、先輩、行儀が悪いです」
 先輩は意地悪そうにこちらを見るだけで、何も言わない。何も言えないだけなのかもし
れない。
 でも、言っても止めない辺り、やっぱりずるいのだと思う。
「怪我……させちゃい、ますってば……」
 慌てて歯を離そうとする。だが、先輩はそれを手で押さえて止めた。
「……ダーメ。ちゃんと、最後までしてほしい……から、さ」
 前に、あまり力を込めると痛いという話をされたことがある。私はその辺りの機微がよ
く解らない。だから、ずっとこういうことに関しては、本当に気をつけてきた。
 どこまでやっていいものか、急に迷いが生じた。心細さが込み上げる。先輩を傷つけた
くはないから、止めてほしかった。
 でも。
 咥えたままでは話せない。
 押さえられては離せない。
 先輩は片腕で私の頭を固定して、もう片方で髪を梳いている。片方はいつぞやの暴力を
感じさせ、片方はいつもの優しさを訴える。
 どちらが本物なのか。境界線が有耶無耶になって、霞んでいく。それはもしかしたら、
酸素不足によるものかもしれなかった。
 ああ、今、私は苦しいんだ。
「藤乃ちゃん」
「へん、まい」
 口が塞がれているので、当然言葉は意味をなさない。だから応えられない。
 ただ、その響きがいつもより穏やかで、私は一層解らなくなる。
 拙い発音はそれでも効果があったのか、かろうじて見える先輩が眉を詰める。湛えた光
はやはり、常よりも私を包み込む。
 先輩は言う。
「僕はさ」
「……んむ?」
「僕は藤乃ちゃんが好きだから、何をされても……平気だよ。だから……っ、心配、しな
くてもいいんだ」
 はっとする。頭が先輩を理解した時、呼吸することを忘れた。
 それは魔法の言葉。
 身を縛る鎖を断ち切る、
 強張った心を蕩けさす、
 そんな不思議。
 私の現状を把握したのか、先輩は力を緩めて、長い髪を両手で弄び始める。
 解らない、感じない体。でも心は解るし感じられる。
 私に注がれる想いに、先輩の望みに、全力で応えたい。そう強く願った。
 下がらない。私は私を、先輩に届けなければならない。
 頭を離すような真似をせず、ひたすらに愛情を乗せて先輩にむしゃぶりつく。舌をのた
くらせて、余す所など無くしてしまう。
「う……くぁ」
 意地悪には意地悪で返します、そう告げるみたいに私は唇を張り付かせ、小さな鬱血の
点を繋げていく。血管に沿うように長くしていく。
 やがて根元に辿り着いた。頬に股間の毛先が当たっているような気がする。頓着せず、
ペニス全体を真っ赤にするつもりで、皮膚上を動き回る。
 先っぽの切れ目から滲んだ透明な液体を、指先でくるくると円を描いて塗り広げる。も
うすぐ舐めてあげますから、まだ焦らないでください。
「ふぅ。んっむ、ぁ……」
 自分の唾液が、艶を加える為に踊っている。顎へと垂れる。
 付け根に赤みをタッチさせて、私を待つ先端へと急ぐことなく上り行く。くびれより上
が漏れた汁で薄く膜を張っていた。
 螺旋状にタップを刻む指先、リズムに合わせて呻く声。ささやかな、けれど淫らな音楽
会。
 この雅やかな礼拝堂で、私たちはそっと官能を囀る。
 愛しています。
 愛しています。
 何度も繰り返す。
 一つ一つの褥に、想いを重ねていく。
 今しがた付けたばかりの赤い筋に平行させて、また別の赤い線を伸ばしていく。恐らく、
先輩にとっては長すぎるくらいの時間をかけて、今度は先に至った。
「ふ―――は、ぁ」
 大きく酸素を抜いて、先輩が私の瞳を見据えた。手がくしゃくしゃと髪の毛を丸め、乱
していく。貴方がしたいなら、それくらいお好きなようにしてください。
 幹に添えていた手を使って、舐めやすいように角度を変えた。心持ち斜めにしたのだが、
少し苦痛めいた声が漏れたので、そこで止める。これくらいの角度なら大丈夫。
 唇の端に鈴口を引っ掛けるようにして、そこから頬肉の内側へと滑らせる。そのまま、
きのこみたいに膨らんだ場所を、舌全体でなるべく覆う。精一杯唾液をなすり付ける。
 傍目不恰好だろうけれど、二人だけだから良いかと納得した。今必要なのは見た目じゃ
なくて、どれだけを与えられるかと、どれだけを受け取られるのかだ。
 じゅ、と音を立てて吸う。ちょっとだけ隙間があるので、口の中で唾液は泡立っている
だろう。そして細かな気泡交じりの液体が、幾度も割れているはずだ。
「ぅん、む……んぷぁ」
 酸素を求めて、大きく口を開く。あまり続けていると、呼吸を忘れそうになってしまう。
「う――あ、口の中、糸っ、引いてるね……」
 言わなくてもいいのに、先輩はわざわざそう口にする。それも当然で、こんなにしたら
粘つかないはずがない。男の人だって、濡れる訳で……咥える前でもちょっとは溢れてい
たんだから、これだって先輩の所為なのに。
「らって、へんぱいがぁ……」
「……っく、ぁ、ぼくが、なに……っ?」
 顔の半分だけでとぼけたって、誤魔化されない。だって、もう半分には気持ち良いって
はっきり書いてあるから。
 先輩にそんな余裕を持たせないように、再び懸命に吸い付く。冗談なんか吐けないくら
い、私だけを感じさせてやるのだ。
 先輩が足を伸ばす。乳房の間に膝を宛がったまま、私の陰部へと爪先を向けた。自分の
体が邪魔でよく見えないけれど、どうも足の親指で弄っているらしい。
 足の甲が微かにぬらぬらしている。かろうじて解るくらいの照り返しは、私の体が先輩
を心待ちにしていると、本人にばらしてしまう。
「いっぱい、濡れてるよ……」
 そういう確認はずるい。
 太股を擦り合わせて、足の邪魔をしようとする。でも、挟み込んで止めたのに、先輩は
足の指だけで執拗にぬかるみを掻き回す。いちいち音が出てしまうのが恥ずかしくて、私
は顔を伏せてしまった。
 声を出す余裕が無くなってきたのか、先輩はただ顎を指で持ち上げた。顔を見せて、と
いうことのようだ。どうしてこの人はこうやって、人が恥ずかしがる所ばかり見たがるん
だろう。
 こっちは目を合わせたくても、合わせられないのに。
 だから照れ隠しにしてはおかしくても、目の前のモノに集中してしまう。ほとんどは、
口の中に隠れているのだけれど。
 ともあれ、より一層の熱を込めて先輩を弾けさせようと、私はでたらめに舌を暴れさせ
る。唯一見えるペニスの根元に指先を添えて、マッサージするように強く揉む。血管が膨
らんで、痛々しげに感じられる。
 でも違う。これを過ぎると、先輩から白くてどろどろしたものが出ることを、私はよく
知っている。だから痛く見えるくらいでも大丈夫。
 そして私が好きなようにしても、全部先輩は受け止めてくれるから、躊躇わなくてもい
い。
 だって、貴方はそう言ってくれたのだから。
 想ってくれる人の後押しを受けて、私は行為をより強く、より激しいものへと変えてい
く。振り乱した髪の毛が視界の端で騒いでいる。
 真正面から、飲み込むみたいに喉の奥深くへ、乱暴なオトコノコを押し込めた。少し勢
いをつけすぎた所為か、あっという間に息が苦しくなる。
 唾液を飲み下そうとした。嚥下はかなり強い快美だったらしく、先輩の腰が後ろに引こ
うとする。
 逃がしてなんか、あげません。
 腕は最初から自由なので、腰に絡めて止めるのに支障は無かった。そのまま下がれると
思っていたのか、先輩はあからさまに狼狽した。口腔からペニスは抜け切らず、唇の上端
を持ち上げる格好で、引っ掛かっている。
 そんな私を見て呆けたらしく、先輩は動きを止めた。私はやり直しを要求するみたいに、
改めて真っ直ぐに先輩自身に飛びつく。
 昔、先輩が私を猫みたいだと評したことを思い出す。確かに玩具にじゃれつく猫は、こ
んな感じかもしれない。勿論、先輩のコレを玩具だなんて捉えられるはずもなくて、もっ
とずっと大切なモノだと思っている。
 じゃなきゃ、こんなこと出来ないんですよ、先輩。
 口一杯に含んで、じゅ、と唾液ごと啜った。腰を押さえていると、今度はこっちを固定
出来ない。だから落ち着きなく暴れるのを止められない。
 ほんのちょっとだけ恨みがましく、先輩を見上げた。けれど先輩もそれどころではない
のか、焦ったように喘いでいる。
 そんなに感じてくれるのならと、私は先輩の膝の上に攀じ登った。勿論ペニスは離した
りしていない。
 ちょっとだけ窮屈だけれど、陰嚢の付け根に差し込む感じで、乳房を股間へと押し付け
た。潰れて歪んだ肉に持ち上げられて、先輩自身が悦んだように跳ね上がった。胸が支え
になったので、手でちょっと悪戯してみようと思い立つ。
 なるべく厭らしく見えるといいな、なんて考えつつ、唾液をたっぷりと塗した先輩を一
旦解放する。
「はぁっ、な……にを……」
 弱々しさと荒々しさの矛盾を同居させて、先輩は問いを吐き出した。私は舌を巻き付か
せながら陰茎を放したばかりなので、当然話せるはずもない。
 それに、答えようだなんて思っていない。
 こうすれば解るでしょう? 先輩。
 今まで散々意地悪された借りを返すように、私は先っぽにある切れ目の脇に指を添えた。
そして指に力を込め、そこを押し広げた。
「……っ、く―――」
「ん……ふふ……」
 少しだけ顔を覗かせた中身は、他の部分とは色が違う。生々しいのに綺麗な赤色が、涙
ぐんでいるように見えた。
 先輩が泣いているとするのなら、涙は拭ってあげないといけませんよね。
 つっと舌を伸ばして、剥き出しの貴方を舐める。
「ぁ……くぅ、あ……!」
「ふぅ、あむ……ん」
 やってみたのは初めてだけれど、心なしか感じが違うする気がする。触って解るのでは
なく、目で見た舌の動きの印象が違う。ぬめりがあるのだろう、たまに滑って行き過ぎて
しまう。
 舌を刷毛のように使って、何度もそこだけを掃く。ぬめりが後から後から溢れ出して、
どれだけ掻き出しても足りないくらい。
 じゃあ、もっとということなんでしょうか。
 意識が埋没していく。狭くなった視野が、そこしか見せてくれない。見える場所にしか
私は対処出来ない。
 舌を潤んだ貴方に押し当てたまま、もう一度唇でくびれに噛み付く。感極まったのか、
先輩が私の頭を離さないように左右から挟んだ。
 位置を固定されたまま、頬を凹ませた。吸い上げる。指が邪魔で巧くいかない。ただ、
栓をしている形だけど、多分そんなのお構いなしで腺液は口腔に漏れているはず。
 涎が幹を伝ってゆるりと垂れていく。それに混じっているであろう貴方が、何とも勿体
無く感じられる。
 我慢していたものが、耳の奥の方で崩れていく。早く早くと、私の中の何かがせっつい
てくる。衝動に突き動かされて、行為が激しくなっていく。髪の毛が縦に躍っていた。
 先輩の下半身が戦慄いている。筋張った腕が、堪えていることを告げている。
 そろそろ近いのかな、と小首を傾げて問うてみる。先輩は大きく息を吐き出して、何度
も首を縦に振った。
 だったら早くイかせて上げたい、そんな衝動に突き動かされて、私は頭を前後にスライ
ドさせた。窄めたままの入り口が、めくれたり戻ったりする。それだって視界ギリギリの
出来事。
 ここまで来れば見なくても、もうすぐ達すると想像出来る。だから自分に注目せず、長
いキャンディを舐めるように、無心で目の前のモノを貪る。
 実際、溶けたキャンディみたいに、コレの表面も粘ついているのかもしれない。だった
らそれをこそぎ取れるように、何度も上下させないと。
 もう少し。
 段々と切迫していく貴方は、どんなに素敵なものをくれるんだろう。
 心が躍る。胸が焦がれて、ただそれだけを切望する。
 先輩の呼吸のリズムが途切れがちになっていく。背を丸めた拍子に、私に影がかかった。
「う――っくぁ、出る、よ……!」
「ん……ん、ぅ!」
 喉の奥に差し込んだ時、鋭く先輩が告げた。私はそのまま静止する。
 けれど、髪の毛に悪戯をしていた手は、いきなり私の頭を引き剥がしてしまった。もし
かしたら、口の中に出すのは拙いだとか、まだそういうことを考えていたのかもしれない。
或いは、今度は目的が違ったのかもしれない。
 それは判然としないけれど、爆発は私の鼻先で起こった。一瞬、目に入ったのかと慌て
てしまうくらい近い。
 鼻梁にかけられた白濁は、そのまま口元へと滑り落ちる。驚きがあったので、どれくら
い出たのかなんて覚えていなかった。だから取り敢えず、舌を受け皿みたいにして、零さ
ないように私は頑張る。
 そうしていると、途中体のリズムが少し乱れた。鼻腔が塞がったのかもしれない。それ
はみっともないから嫌だなあ、と考えていると、先輩が指で拭ってくれた。
 差し出された人差し指を、綺麗に舐め取る。そうこうしている間にも、先輩がくれたも
のは落ちていってしまうので、仕方なく手で塞き止めることとした。
 名残惜しいけれど、一旦指から離れる。手を見れば、精子に塗れて指と指の間が糸を引
いていた。
 私を絡め取る、悪戯好きな蜘蛛の糸。縛り付けて離してくれない。
 捕まってしまったんだから、私だって絶対離れてあげません。
 愛でるように糸を丁寧に啄ばむ。
 誓いを立てるように、糸を自分の中に取り込んでいく。
 繋がりをより深めるように、少しも残さないように、掌に沢山の口付けを見舞う。いつ
までも無くならず、体内に留まるような感覚。温もりさえ覚えてしまう。
 やっぱり、私は先輩が大好きなんだ。
 改めて自覚すると、涙が出そうだった。人を好きになることは嬉しいことだと、教えて
くれたのは他ならぬ貴方だった。
 喉を詰まらせた私を、先輩は精液が引っ掛かったのだとでも思ったのか、背中をとんと
んと叩いてくれる。その行為が的外れなのに、どうしようもなく気持ち良い。
 ああ、この人は全く、どうしてこんなに鈍感で……。
 こんな顔見せられなくて、先輩に縋り付いた。ぎゅっと抱き締めると、やっぱり強く抱
き締め返してくれる。
 それは何て優しさ。
 汚れてしまうと心配したけれど、結局堪えきれず、私は先輩の首筋に顔を埋めた。多分
先輩は何が起こったのか解らなくて、戸惑っているに違いない。
 でもきっと、それくらいで先輩には丁度良いのだ。だって、女心に敏感な先輩なんて、
そんなの反則に決まってるもの。
 先輩の肩が上下に揺れている。背中を撫で擦ってくれていると知る。私は手を頭に添え
て、鎖骨の辺りに引き寄せた。
 もっともっと近くにいてください。じゃないと、気を抜くと、
「……っ、ぁ」
 泣いて、しまいそうですから。
 こうなると、先輩もどうなっているか気付いてしまう。躊躇いがちに、そして恐る恐る、
先輩は私に話しかける。
「え、ええと……ごめん。悪いことしちゃった、かな……」
 自分でも自信が無いのだろう。ただそれでも、言葉に込められた罪悪感だけはどこまで
も本物で、逆に少し笑ってしまった。
「何でも、ないんです。ただ、とても嬉しくて。……どうしてだと思います?」
「解ら、ない。でも……、泣かせちゃったのは、悪いと思う」
 我ながら驚くほど、柔らかい問いかけだった。耳を押し当てているから、先輩のリズム
が早まったのはすぐに解った。
 今度は私が安心させる為に、先輩の背を撫でる。痩せているので、体は骨ばっているよ
うに思える。先輩は硬いのに柔らかいから不思議。
 瞳を閉じて、接吻を貴方へと高らかに。
「貴方が好きだからです」
 そうして満面の笑みを浮かべる。虚を突かれた顔から一転、先輩も嬉しそうに微笑んで
くれる。
「僕も大好きだよ。愛してる」
「はい、私も……!」
 ステンドグラスから注ぐ祝福は、僅かに朱を混じらせつつある。元より紅潮していた体
は、光のお陰でより艶やかさを含んだ。
 全てが祝福に色付いている。揺らめくように舞う安穏は、二人に等しく降り注ぐ。
 一糸纏わず私たちはお互いに触れ合う。
 もっときつく抱き締めてください。
 もっと強く口付けてください。
 貴方が、好きなんです。
 奥底に火が点いている。小さく燻っていた熱が燃え広がって、焼け落ちてしまいそう。
 だからまだ足りない。私は焼け落ちてしまいたい。かつての『わたし』が知らなかった、
蕩けるような全てが欲しい。
 未だ活力を残していた先輩のペニスが、触れ合うことでまた滾り始める。鎌首を擡げた
その姿は、ちょっと前のしおらしさとはまるで無縁。
 体をぴたりと寄せ合ったまま、私はそっと指の腹でくびれを撫ぜた。鼓膜を打つ息が荒
ぶった。
「まだ、大丈夫ですよね」
 呟いて逆手で握る。アップテンポの呼気が肯定していた。
「うん……もっと、藤乃ちゃんが欲しい。まだ足りないよ……」
「私も……」
 先輩の上唇を浅く噛んでから、私は促すように幹に指を這わせる。手首を捻るようにし
て、絡ませるように同じ場所をくすぐる。
 二人にエンジンがかかる。危ないから止めてくださいと、昔先輩の運転を止めた記憶が
蘇った。
 でも今は止められない、止まらない。
「私も、先輩がもっと欲しいです……」
 素直な心情がお互いを近づける。腰に回った先輩の腕が、瀟洒なダンスを思わせる。
 少しだけはしたなく踊る。けれど、それ以上に純粋に貴方への想いを伝わらせて。
「じゃあ……」
 椅子を寝台に変える。私は背を仰け反らせて、椅子の上に四肢を投げ出した。身を離す
のが不安で、先輩を掴んだままの行動になる。
 だから縺れ合うようにして、私たちは一緒に倒れた。上に覆い被さる格好で、先輩が体
重を預けてくれる。
「あっ、ごめん、大丈夫だった……?」
 不安げな声に、思わず笑みを漏らしてしまった。髪を撫でて瞳を正面から見詰める。
「大丈夫です。女の子だって、頑丈なんですよ?」
 先輩の手を取り、小指を結び合わせる。一瞬不意を突かれた先輩を、私に夢中にさせた
い。
「だから……ちょっとくらい激しくたって、平気なんですから」
 この小指は約束。今この時に、貴方と私しか見ないという契り。
 余計なことなんか考えなくてもいい、ただ、満たし満たされれば良い。だから二人で幸
せになりましょう―――。
 はっきりとそう言うと、先輩は少しだけ喉を詰まらせた。が、すぐに強張りも解け、私
の後頭部に手を滑り込ませた。景色が伸びて、気付けば、私は先輩と歯をぶつけ合わせて
いる。
「ぅむ、ん―――ッ!」
「ぅ……つ、っ!」
 唐突な口姦。歯が打ち合わさった固い音と、唇が唾液を貪る湿った音とが、協奏してい
る。
 背に腕を回した。勢いあまって、爪で引っ掻いてしまったような気がする。けれど、そ
んなこと気にしていられない。
 先輩に丸ごともとめられている。その意識が、私の箍を外す。
 いつもよりずっと強い欲望を、私は受け止めようとする。先輩の舌が積極的に私の中へ
と侵入してきた。暴れている。
 挿入されたモノを口内でなぞっていると、まるで舌でセックスしているような気持ちに
なっていく。
 男である貴方に、女である私が責められる。犯される。ともすれば受動的なのに、どう
にもそれが心地良くて、溺れてしまう。
 本当に体で繋がる一歩手前、そこでちょっとだけ立ち止まっていた。だって、この唇が
離れたら、唾液の糸が切れたなら、きっとそれが合図になってしまうから。
 だからもう少しこの口戯を楽しんでいたい。そんな気持ちが、口内での争いをより激し
くしていく。解らないけれど、解らないなりに私は必死になっていた。
 溜め込まれた唾液が、たっぷりと注がれる。喘ぐように口を開いていたので、零れるこ
ともなくそれは流し込まれた。自分のものと混ざり合った体液に、私は喉を鳴らす。
 突き出された状態の舌先、それを前歯で軽く噛まれる。それから先輩は歯を前後させて、
表面を削るみたいにする。
 本当に先輩に食べられている。そんなとても厭らしいキス。頭の奥が呆として、何も考
えられない。
 次いで先輩は私から酸素を奪うように、深く深く唇を合わせた。意識にきっちり止めを
刺してから、先輩は離れる。
「ん……ふぅ、は……ぁ」
 荒ぐ息を整えられない。全身が昂ぶって、抑えられるはずがない。
 もっと、もっと奪ってください。全てを。
 内心に呼応するように、貴方は言う。
「藤乃ちゃんが可愛いから……もう、止まれないよ」
 そんな切羽詰った口説き文句で、先輩が私の両足首を持ち上げる。あまりに嬉しくて、
「止まらないでください……全部、私をもらってください」
 と、気付けば告げていた。もしかしてこれはプロポーズなのかな、なんて考えが浮かん
で、真っ赤になってしまった。でも、先輩も真っ赤になっていたので、それで幸せだった。
 本当のプロポーズなら、きっと貴方からしてくれるはず。だから今は、私の願いに応え
てください……。
「うん、藤乃ちゃんが全部欲しいよ……」
 果たして先輩は一も二もなく頷き、私の両足を自分の肩にかけた。この角度だと、自分
がどうなっているかが大体見える。
 緊張と幸せを、一緒に胃の中へと飲み込んだ。私の準備が終わったことを見届けてから、
先輩がぐっと腰を進める。
 手に取るように解る。全てが視界の中にある。
 先輩が私へと挿入って、くる―――。
 にちゃり、と粘ついた音を奏でて、先輩の逞しいペニスが根元まで差し込まれた。感じ
てしまっているので、愛液が陰毛を皮膚に貼り付けてしまっている。
 はしたない。恥ずかしい。
 だから私をこんなにした貴方が、ちゃんと責任を取ってください……。
「入った、よ……」
「はい、見えて、ます」
 途切れがちにお互いが漏らしたのは、まず確認だった。きちんと私のことを知っていて
くれるから、敢えて口にしてくれたのかもしれない。
 それは問わない。言わずとも解ることだし、今そんな無粋を犯すこともない。だからそ
っと感謝を閉じ込めて、先輩のお気に召すままに。
 先輩は肩に私の両足を引っ掛けて固定すると、腰に手を回してきた。皮膚が赤くなるく
らいの荒々しさが込められている。
 そのまま叩きつけるように、先輩が前後し始める。小気味良い、乾いた響きが、静かな
礼拝堂に木霊している。
 なされるがままではなく、私も先輩に合わせようと腰を動かす。けれども、寝転がった
まま腰をスライドさせるのは難儀で、なかなか巧くいってくれない。あまりに焦れてしま
って、髪を振り乱した。
「落ち着いて……」
「でも……ん……」
 自分だってちっとも落ち着けていないのに、先輩はそんなことを言う。勿論私もそう出
来るはずがない。何故って、こうしている間も先輩は私を揺さぶっているし、私だって懸
命に身をくねらせているのだから。
 結局二人とも、気持ち良くなりたい、気持ち良くしたいということしか考えられずにい
る。その歯車が一部の隙も無く噛み合って、私達は回っているのだ。
 ぐっと先輩がペニスを突き入れて、止まる。奥まで届かせてから、勿体ぶるように引き
下がる。幹は愛液を存分に絡めて、姿を現す。妖しく光るその様に驚かされる。
 あんなに、濡れてしまっている。
 心が感じているから、体も反応している。
 込み上げる歓喜に突き動かされて、私は先輩に腕を伸ばす。先輩は首を下げて、腕で作
った首飾りを通した。
「離さないで、ください……!」
「うん……、しっかり、捕まってて……っ」
 支えが出来た分、もっと激しくなれるのだろう。先輩は見たこともないくらい、男の人
になっていた。そして多分私も、未だ無かったくらい女になっていると解った。
 先輩にぶら下がったまま、斜め下から突き上げられる。皮膚が波打って、乳房が揺れる。
拍子を刻む乳首が気になったのか、先輩がそこばかり凝視する。実感はさておき、視線だ
けでむず痒くなりそうだった。
「……あまり、見ない、で―――」
 けれども、もっと見てほしい―――。
 科白と内心が矛盾する。先輩は当然のように内心を透かす。わざとらしく知らん顔をし
て、じっと同じ場所ばかり見詰める。されてばかりは悔しいので、私は首筋をつねること
で返した。大袈裟に痛がる先輩に、
「私の所為じゃ、ありません」
 そして腕の力を緩める。体が自然と落ちて、先輩の腰にぶつかって止まることになる。
太股を擦り付けながらの移動は、先輩を呻かせるのに充分だった。
「う―――くっ、あ」
 見ることくらいは出来るけれど、実際に突起を弄ったりは出来る状況にない。そうされ
るのも悪くはないけれど、ただ、たまには先輩より優位に立っても良いはずだ。
 飽かずに先輩の首に縋り、攀じ登り、落ちる。先輩も私を責め立てているので、一つ一
つは安定しない。しかし懸命にこなす。それはいつもいじめられている借りを返す為でも
あり、貴方をもっと喜ばせてあげたいという表れでもある。
 そうでもないのに必死になったりなんて、出来ない。
 上るたび、下りるたび、先輩はペニスを違った形で襲われることになる。普段と違い、
先輩は思うように動けずにいる。それでも悦楽はいつもに劣ることはないのか、堪えるた
めに奥歯を噛み締めているのは、手に取るように解った。
 支えてくれる、落としたりしない。
 そう知っているから、私は片腕を解いて先輩の耳元を撫でた。歯に力を込めているから、
少し盛り上がって見える。そのラインに沿って指先を這わせると、表情が少しだけ緩んだ。
「そういう、ことをされると……力抜けちゃうな……」
「でも、先輩は離したりなんか、しませんよね?」
「勿論……それに、ね」
 約束を一つ交わして、それから先輩は何か悪戯する時の顔になった。
 ……? 何を、どうするつもりです?
「やられて、ばかりでも……いられない、よ」
 呟き、私のお尻を掴んでいる手を、先輩は何やらもぞもぞさせた。動いていることは解
るのに、何をしているのか解らない。
 手首を曲げて、掌全体を押し付けるようにしている。……或いは?
「先輩、何、して……」
「内緒、だよ」
 それで想像がついた。体中に一瞬で血が巡った。物凄い羞恥を感じる。
 目を合わせられない。
「ちょ、先輩、汚いです……っ」
「どうして? ……それに、何が?」
 先輩は何も言おうとしない。ただ僅かに笑って、もどかしそうに手を蠢かせる。その指
先が何かを捉えているのか、ただ私を撫で擦っているだけなのか、それさえも教えてくれ
ない。
「やぁ、止めて、ください……」
「どうして? 僕は気持ち良いし――こういう藤乃ちゃんは、新鮮だな」
「だからってぇ―――」
 反駁はしかし、語尾を打ち消すような律動によって阻まれた。揺さぶられて、私はだら
しなく先輩にもたれかかった。
 少し不安で、気持ち良くて、恥ずかしくて。
 頭の中がしっちゃかめっちゃかで、何も考えられない。
 首筋におでこを当てていると、どうしたって視線は下を向いてしまう。先輩の企みが断
片的に見えて、おかしくなってしまいそう。
 先輩の腕に血管が浮き立っている。不規則にそれは動いていて、力の流れを思わせる。
絶対にアレは、私を震わせ、貫いているからというだけではない。
 ……どうしても考えてしまう。先輩の爪が、私の後ろの方を、引っ掻いているんじゃな
いか、なんて―――。
 勿論、私が先輩をこれで拒絶するなんてことは出来ない。でも今まで、こんなことをさ
れたことはない。
 だから乱れる。
 募った感情で息が詰まる。顔を上げ、大きく口を開いて酸素を求めた。行動に移してか
ら、まるでキスをねだっているみたいだと気付く。
 果たして、先輩はそのように動いた。唾の溜まった口腔を、舌先で掻き混ぜ始める。口
の端から伝いかけた唾液も、丁寧に舐め取ってくれる。
「ん、ふぁ……」
 溶けて、しまう。先輩の罠に嵌まって、私は芯まで溶け落ちてしまうのだ。
「ん、む……はぁ。藤乃、ちゃん―――」
 名を呼ぶだけで、それがもう睦言に変わる。その優しい響きが、体をふわふわさせてい
く。
 耐えられない。だから私も、先輩を呼んで、それを情交に変えていく。
「先輩、せん、ぱ……ぃ」
「さっき……、言ったよね。全部、欲しいんだ、だから……っ」
 あまりに拙い、悪戯の言い訳。多分それは、先輩なりの懇願だったのだろう。
 お互い解りきってはいる。けれども、どうにも律儀な性格がこんな面映い状態を生んで
もいる。
 悪くない、と思う。だから私は二の句を告げさせない為に――心からのOKサインを送
る為に――唇に噛み付いてやった。
「んっ!? ふ、む―――」
 一瞬は驚愕を示したものの、すぐに気を取り直される。よりしっかりと私を抱き寄せて、
先輩は繋がりを深めてくる。
 足の付け根同士を打ち合わせるように、恥毛を擦りつけるように、強く愛し合う。
 先輩が私を貫いて、私が先輩を飲み込んでいる。そこには洒落た誤魔化しなんて無く、
そして、だからこそどこまでも混じり気が無い。
 心も、体も、裸で向かい合っている。
 先輩の指が色々な場所で悪ふざけしている。上ではぴんと尖った色濃い乳首を何度も弾
いたり、はたまた乳房を小さく摘んでみたりと、大忙し。下も下で、何か謀をしでかして
いるらしいし。
 割り切ってしまえば――それでも恥ずかしいことに、何の変化も無いけれど――アナル
を責め苛んでいるこの指も、何とか受け入れられるような気がした。セックスが恥ずかし
くて、切なくて、嬉しいものだという認識。そんなことを、改めて教えてくれるから。
 先輩からすれば、そういう意図は無かったのかもしれない。だけど、結局私はこう考え
ている。ならばこの時に間違いなんて起こり得ない。
 体が持ち上がって、そしてギリギリまで落ちる。
「―――ッ、はぁっ」
 息を切らせて、お腹に力を込めて、先輩は味わうように私を上下させる。額に浮かんだ
汗を舐め上げると、ちょっとだけ笑顔が覗いた。
 ぬめりつつ逞しさを見せる貴方、
 ずぶずぶと私に沈んでいく貴方、
 そして、目の前ではにかむ貴方。
 それは何て甘い気持ち。
 今二人が繋がっていること、一緒にいることの意味。
 確かにここにいる。確かにここにある。
 これが、幸せ。
 じっとりとした律動は続いている。接合部からは猥雑な水音が響いてくる。それが鼓膜
の中で何度も跳ね返って、性の実感を強めていく。
 鍵が嵌まるように、私と貴方が噛み合う。閉じていたドアを開くため、先輩は繰り返し
私の奥をノックする。徐々に回る錠のように、次第に解き放たれていく感情。
 先輩のオトコが私のオンナを突っついて、覚醒を促している。
 完全には抜き切らず、雁首が引っかかるくらいまで体を戻し、また中に潜り込んでくる。
明らかに見せつけているその行為に、含み笑いが漏れてしまう。
 たっぷり、根こそぎ感じてください。そうじゃなきゃ、私に届かないんですから。
 歓喜に体が震えている。呆とした頭の中、それでもはっきりとした輪郭を保つ先輩。そ
れを知ってか知らずか、懸命に先輩は私を味わってくれる。だからより明確になる。
「中……熱くて、気持ち、良い……よ」
 途切れがちな告白が嬉しい。だから私も、ありったけをぶつける。
「はい、先輩を……感じます」
 ただ素直に。
 私の認める一つ一つを、貴方の中に積み上げていく。
 歯切れの良い、昂ぶった呼吸が二人の間で重なっている。間近に見える顔に、湿ったお
互いの空気が絡みつく。
 もっと身を寄せる。上下に拍子を取る乳房が先輩の胸板に押し付けられて、形を変える。
繋がりは見えなくなるけれど、繋がっていることは音が教えてくれる。
 ず、ぐちゅ、と厭らしい音色が広がっている。ぬかるみを掻き回されている。
 降り注ぐ光に彩られたそれは、この静かな礼拝堂に鳴り響く、艶やかなで美しい聖歌。
誰かに与えられるものではない、二人で作り出す祝福。
 じわりと調子が上がっていく。先輩の首筋に耳を当てると、加速する鼓動が聞こえた。
約束通り、いえ、それ以上の激しさ。
 先輩は眉根を詰めて喘いでいる。
「いつでも、いいんですよ―――?」
 優しく首を絞めるように、先輩を一歩前に引き出した。そろそろ決壊しそうな我慢に、
小さな罅を入れてあげる。一度射精しているとはいえ、先輩が限界に近づいていることは、
それこそ手に取るように解ったから。
「ふじ、の、ちゃん……っ」
 強く私を求める貴方に、きつく絡みつく。挿入されたままの状態で行われた抱擁は、一
際深い侵入を先輩に許す。
 先程までとは角度も何もかも違っていたのだろう、不意に訪れた変化が、先輩のペニス
を締め付ける。半ばまで当たっていた感覚の予想は、まるで考えてもいなかった方向へと
曲がっていた。
 崩れる。
「っく、ぁ―――!」
「ん……はぁっ」
 戦慄く体。きっかけとなったのは、一体どちらだったのか。
 肺の中の酸素を搾り出して、私たちは一刹那だけ筋肉を硬直させる。どくん、と大きな
脈動が私を叩く。
 ちら、と下を眺めれば、先輩が達したことは容易に知れた。痙攣のように、小刻みな揺
れがなかなか止まらない。
 隙間の無い二人の距離。きつく、肌に跡が残るくらいに抱き締められたまま、頂上に行
き着いた。この胸にある充足は、多分、欲しかったピースが埋まったからなのだろう。
 私と貴方の、快楽の結果をしっかり受け入れる。それは白む意識にも似た、貴方自身で
もある。
 時の流れを忘れる、長い長い一瞬が流れる。そして再び動き出した時間が、心地良さを
薄れさせることも無かった。
 ゆるゆるとした忘我が溶ける。足を戻し――けれども繋がったまま――私たちは向かい
合った。
「……気持ち、良かったです」
「ああ……僕もだよ」
 目は反らさない。見詰め合ったまま、互いを報告し合う。未だ紅潮する肌が、先程の残
滓としてありありと浮かんでいる。
 ドキドキしているのに、不思議と心穏やかでもある。そんな矛盾も平気で受け入れられ
る、そんな気がした。
 ふと先輩が、私の髪の毛を優しく撫でる。くすぐたさが込み上げて、私は自然と安堵し
てしまう。
 包み込まれている。
 この身が感じる確かなモノ。
 貴方がくれた大切なモノ。
 今私たちは抱き合ったまま、お互いを想い合っている。
 だから私は、全てを委ねて瞼を下ろせる。静かな囀りは、口付けの証。
「……このまま、寝ちゃおうか?」
 少しだけ間を置いて、先輩らしからぬ大胆な発言が飛んだ。場所を考えれば当然そんな
ことは出来ない。もしかして、またいつものように私を困らせるつもりなのかしら、とも
考える。けれど、そういうアイデアを後押し出来るなら、きっとそれは私だけの特権に違
いない。
 ふと、本当に何となく、先輩がいつも私に意地悪をする理由が解った気がした。
 ―――だいぶ、感化されているみたいですね。
「私は構いませんよ。一緒に寝ちゃいましょうか。……幹也さん?」
 それは飛びっきりの悪巧みだ。
 先輩は目を白黒させて、それから見たこともないくらい真っ赤になる。その様があまり
におかしくて、私は不覚にも声を上げて笑ってしまった。
 少し不満顔の貴方。でも、照れた感じが全然消えていない。だから、どうしても笑いが
静まってくれない。
 ああ、今私はどうしようもなく幸せです。
 幾度目かの確信をする。私の幸せはここにしかない。
 私がいて、貴方がいて、ようやく手に入れた。

 絶対に離さない、
 絶対に離せない、
 私の居場所、
 アナタノトコロ。


                                       (了)





あとがき
 初めました。先坂 透と申します。でもすぐ終わります。
 色々ありまして、しにを様の所にて拙作を公開していただく機会を得ました。唐突に不
躾なお願いを聞き届けていただき、まことにありがとうございます。
 空の境界でこーゆーことすると、何かしら思われる方もいるんでしょうかね。原作準拠
じゃないーとか。まあいいんですが。
 言いたいことは一つ、彼女に脚光を、ってことだけです。
 ……さて、元よりお礼以外は、あとがきで書くほどでもないことを語ってる訳なので、
早くも詰まってきました。因みに先坂 透最初で最後の出番なんで、作者を記憶しておく
必要とかあんま無いです。
 一度限りのコンニチワ、一度限りのサヨウナラ。すっぱりさっぱり行きましょう。
 それでは皆さんお元気で。


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