哀・兄妹

 作:しにを



※ 本作品は「Moon Gather」の阿羅本さんの作品『すわっぷ えー ふぉー びー』 のラスト他を無断にて使わせて頂いています。  続編などでは毛頭ありませんが、未読の方はそちらを是非。凄い傑作ですから。  それと後書きを先に読んで頂けるといいかな。
 扉が開く。  現れたエプロンドレス姿の、いや、全体のコーディネイトから判断するとす ればメイド服姿の少女が、一礼しつつ居間に入ってきた。  すっと背筋を伸ばした姿勢のよさ。  歩く度に、後ろで束ねた長い髪が僅かに揺れる。 「終わりました、琥珀さま」 「そう、早かったわね、秋葉。ご苦労様」 「ありがとうございます」  秋葉の報告に琥珀は眼を向け、ねぎらいの声を掛けた。  幾分物憂げな表情。  決して気の無い形だけの言葉ではないが、すぐ横の光景に注意がいっている のがわかる。  ともかく、秋葉は主人からの言葉に深々と頭を下げる。   「あとは、何をすればよろしいでしょうか?」 「そうね、これと言ってはないわ。他に掃除とかは残っているのかしら?」 「終わっております」 「ふうん、やっぱり仕事は上手くこなすわね、秋葉は。 じゃあ、少し退屈しのぎの相手になってもらえるかしら?」 「かしこまりました」  やや、秋葉の顔が強張る。  僅かに哀切の色彩が目を染め、消えた。  それに気づいたのか、気づかないのか、琥珀は溜息を洩らしつつ目を傍らへ 向ける。 「翡翠ちゃんに取られちゃって、見てるだけなのよ、可哀想でしょう?」  女主人に倣って秋葉も視線を向ける。  その眼に映る絡み合うような男女の姿。    先程から視界の隅にあった。  声と音が耳に入っていた。  見たくない、聞きたくない、そう思えど……、秋葉の意識はそこへ向く。  はっきりと見えてしまった。  琥珀の双子の妹である翡翠の姿。  秋葉の実の兄である志貴の姿。  床に、全裸で志貴は横たわっていた。  仰向けになった姿で。  そして琥珀はその上に位置している。  秋葉には兄の顔は見えなかった。  翡翠は下だけ何も纏わぬ姿で、志貴の顔に直接腰を下ろしていた。  膝は床についているが、ほとんど体重は志貴によって支えられているだろう。  白いお尻の下から、黒髪と僅かに志貴の額が見える。  重くないのだろうか。  息がつまらないのだろうか。  しかし、翡翠に隠された兄の顔のあたりからは、くぐもったぴちゃぴちゃと いう音が洩れ聞こえていた。  その度に翡翠の体がわずかにピクピクと動く。  舐めているんだ、兄さん……。  僅かに針で突かれたような痛みを、秋葉は心に感じていた。  一方、上にのった翡翠も口を塞がれていた。  小さな口をいっぱいに開いて、太いシャフトを頬張っている。  くぐもった声と鼻から洩れる息。  唇が濡れている。  頭を上下させながら、志貴のペニスを味わっていた。  いざ見てしまうと、その光景に視線が強く吸い寄せられる。  翡翠の頬の膨らみの動きを、唇からこぼれる唾液を、秋葉は魂を奪われたよ うに見つめていた。  翡翠がふと顔を上げたのを見て、秋葉は顔を背けた。  視線が交わるのを怖れたように。 「気が済んだかなあ、秋葉ちゃん?」 「い、いいえ……」  幾分笑みを含んだ琥珀の声に頭を振る。  やり取りから言えば、秋葉の意図と外れた返事であったが、琥珀は意を解し ていた。 「じゃあ、舐めてくれるかな、わたしの?」 「はい、琥珀さま」  実質的な命令。  しかし、翡翠も琥珀も志貴に対する時とは異なり、秋葉に対しては必ず依頼 の意を含んだ問い方をする。  あくまで、秋葉の自由意志によって返事が出来るかのように。  いや、実際、秋葉が拒んだとて、琥珀は気を悪くした顔ひとつしないかもし れない。  仕事の時とは違う。  秋葉が琥珀と翡翠のものになる事を誓った時にも、無条件での拒否権が主人 側から与えられていた。  琥珀が秋葉ではなく、秋葉ちゃんという呼び方をするのもそれにつながって いるのだろう。  まるで主人と使用人という関係がつかのま消えたかのような物言いを、琥珀 は好んで使っていた。    志貴と秋葉の兄妹は身よりが無く、遠野家に引き取られ養育を受けていた。 共に令嬢である琥珀と翡翠の双子の姉妹に仕える為に。  しかし、その役割は微妙に違っていた。  秋葉は二人の世話をする小間使いとしての仕事をしていて、兄の志貴は表向 きは屋敷の男手としての仕事を担当している。しかし、長じてからの志貴の主 たる仕事は、琥珀と翡翠の姉妹を「満足させる」事であった。     いつも無邪気に笑みを浮かべ、快活に動き回る琥珀。  寡黙がちで、お嬢様然とした淑やかさを見せる翡翠。  二人共タイプは違えど育ちの良さを感じさせる気品と立ち居振舞いを見せる、 お嬢様であった。抜きん出た端整な容姿と合わせて、周りの者に溜息をつかせ るような存在だった。  また二人が寄り添えば、同じ顔をした双子でありながら、相反する雰囲気を 持つ事で、どこか幻想的な感じすら与えた。  その可憐で汚れの無い姿を見れば、二人が共通して内に秘めている歪みの存 在など、思いもよらぬ事であった。  この温室で純粋培養された少女たちは、端的に言えば先天的な淫女だった。  遠野の血の濁り故か、琥珀と翡翠は病的なまでに性的な事柄や快楽に対して の衝動に、抑制なく惑溺する性質を秘めていた。  しかもある意味より歪んだ事に、彼女らの性の対象は主としては姉であり妹 であった。双子というものは、互いを近親憎悪するか最も近しい他者として愛 し合うという通説があるが、それに従えば琥珀と翡翠の姉妹は、間違いなく後 者と言えた。  幼い頃から互いの体に興味を示し手で触れあい戯れあっていたが、長じてそ れが快感につながる行為だと意識して以来、己の体に触れるのと同様の容易さ で、互いの体を禁忌なく愛撫しあうようになっていた。  互いを悦ばせることに、互いに悦ばされることに、単に肉体上の悦楽以上の 幸福感を琥珀と翡翠は感じていた。  しかし、姉妹で互いを貪りあうだけで、いつも事足りる訳ではなかった。  二人だけの環でも満たされてはいたが、時には目先の変わった刺激を外に求 める事もあった。  外に洩れれば醜聞となる事件、遠野の力を使っての揉み消し工作。  それが幾たびも繰り返された。  外聞を考えた親族は二人を、街中から離れた屋敷へ数人の使用人ともども隔 離して、二人をその中でのみ好きにさせる環境を整えた。    その、小世界の絶対者たる二人の姉妹に弄ばれ、奉仕し、淫惑な行為に耽る 主体あるいは客体となるのが、志貴の仕事であった。    その事実を秋葉はこの屋敷に移ってからもしばらくは知る事がなかった。  お嬢様方と何をなさっているのだろう、と不思議には思っていたが、志貴は 決してその事についてまったく秋葉に気取らせなかった。  しかし、まったくの「偶然」に、裸で絡み合う三人の姿を目にして凍りつく という形で、秋葉はその秘密の行為を知る事となった。  それを見てしばらく、秋葉は部屋に閉じこもった。  幽鬼のようにやつれた姿になった処を部屋から連れ出されたが、それからも 志貴とは決して口を利かなかった。  嫌悪、いや憎悪すらこもった目を秋葉は兄に向けていた。  裏切られた、その思いで秋葉の心は満ちていた。  物心ついてから自分の一番近い存在であった兄に。  誰よりも信頼していた志貴に。  そして秋葉にとって唯一の……。  自分に秘密にしていて、あんな淫猥な行為に加担していた事を決して許さな いと秋葉は魂に誓っていた。  その兄妹の様子を黙視していた琥珀が、部屋に秋葉を呼んだのはしばらく経 ってからだった。  仕事はこれまで通りきちんとこなしたものの、琥珀と翡翠に対しても秋葉は 寡黙に接し、非礼とならない程度に接触を避けていた。  今も、俯き加減に秋葉は主人の顔を見なかった。  何を言おうと知るものか、と秋葉は心中で呟いていた。  しかし、琥珀が淡々と語ったのは秋葉が予想していた話とまったく違ってい た。琥珀はまず自分たち姉妹の事について率直な表現を用いて話し始めた。  幼い頃から、快楽に対して歯止めが利かない事。  ただし何らかの快楽や興奮を与えられれば普通に暮らせる事。  この屋敷に隔離され、仕事として姉妹に奉仕していたのが志貴である事。  本来は、その性奴めいた役割を担うのは、志貴と秋葉二人であった事。  顔色を変えた秋葉に構わず、琥珀は淡々と語った。  それを志貴が、秋葉だけは許してくれと乞うた事。  妹の分までどんな事でもすると誓い、現実にどれだけ要求が大きくとも双子 を満足させ続けてきた事。  ここまで話して、僅かに冷たい目で秋葉を真っ直ぐに見つめた。  初めて琥珀が見せた表情だった。 「可哀想なお兄さん。  妹の為に、我が身を犠牲にしてきたのに、それを知った妹からは汚物ででも あるかのような目で見られて……。  それでも妹に対して同じように優しく振る舞って。  妹が部屋に閉じこもった時なんか見ていて痛々しくなるほど心配して、夜も 眠ってはすぐに目を覚まして、部屋の前で立ち尽くしていて。  全ては妹にだけは嫌なものを見せたくない、心配はさせたくないと思ったか ら主人にも黙っていてくれと懇願して、それを妹は自分に隠していたと言って 傷ついている。  それもわからなくはないけど、きっと自分だけが傷ついたみたいな顔して、 お兄さんがどんなに今まで傷ついていたかなんて思いもよらないのでしょうね。  今でも、そんな妹の分まで毎日のように体を捧げているのに」 「兄さん……」  秋葉の顔が蒼褪める。  涙が浮かび、ぽろぽろと頬を伝って落ちた。  それを秋葉は拭おうともしない。いや気づいてすらいなかった。  いったん言葉を止め、まあ、それをさせているのはわたし達だけど、と自嘲 するように呟いた琥珀の声も、もはや聞こえなかった。  立ち尽くしたまま、秋葉の心は、全意識は二つの事だけでいっぱいになって いた。  今すぐ兄の足元に身を投げ出して許しを乞いたいという慚悔の思い、そして 一時でも兄を侮蔑し嫌悪した自分を呪う慟哭するような思い。  胸から溢れた思念が、断片的な言葉と化してぽろぽろとこぼれ落ちた。  ごめんなさいと何度も何度も口にしてすすり泣く秋葉の様子を見て、琥珀の 顔が僅かに温かみを帯びたものに変わった。  しばらく待ってから、優しいと言って良い口調で改めて秋葉に語りかけた。 「ねえ、秋葉ちゃん、一つ良い事を教えてあげる。  わたしと翡翠ちゃんはね、どうにもならないほど気持ちよい事が大好きで、 その思いを止められないけど、それを満足させるにはいろいろ方法があるの。  食べ物と同じで、とにかくお腹が一杯になりさえすればいいから。何を食べ るかまではそんなにうるさく言わないし、好き嫌いもほとんどないわ。  だから、本当は志貴に可愛がってもらわなくても、夜にでも全裸で目隠しと かして、公園とかに放置して貰えれば十分なの。それだけでもぞくぞくするし、 寄って来た人に楽しませても貰えるかもしれないし。  まあ、そんな事を二度としないように、遠野のお家を出されたのだけど……」  自然な動きで琥珀は立ち上がると、固まってまだ涙ぐんでいる秋葉の体を優 しく抱き締めた。  琥珀の指がその真珠のような雫を拭い、舌で舐めた。  しばらく慰めるように軽く秋葉の背を撫で、琥珀は身を離した。  その抱擁で僅かに癒されたのか、放心した表情で秋葉は琥珀の方を見た。 「でもね、今みたいなこんな軽い事でも満たされるのよ。  今日は、もう何もいらないくらい。秋葉ちゃんのおかげで志貴は楽になった 訳よね」 「私の……?」 「今度から秋葉ちゃんもお手伝いする?  別に何もしなくても、単にいるだけでもお兄様の負担は減るわよ。  あなたのお兄さんとの約束があるから、わたしも翡翠ちゃんも無理やり秋葉 ちゃんに手を出すような真似はしないから」 「いるだけでって?」 「してる処を見られているだけで、凄く興奮を誘うのよ。 それと気が向いた時でいいから髪や頬にキスさせてくれたら、もっと効果的 できっと楽になるでしょうね、お兄さん」  琥珀の目が誘うように秋葉を見つめていた。                ◇   ◇  それから、自分から望んで翡翠と琥珀に兄と共に仕えるようになった。  あくまで、秋葉自身の自由意志で。  志貴は双子にどう言い含められたのか、物言いたげにはしていても、秋葉が 佇む事に異議は唱えなかった。   双子と志貴との戯れには加わらなかったが、琥珀が言うように秋葉が傍で見 ているだけで、双子は悦んでいた。  秋葉が目の前の行為に頬を染め、あるいは眼を背けようとする姿を。  兄の裸を、性行為を見せつけられ哀しげにする処を。  自分たちの行為を幾ばくかの嫌悪を込めた目で見られる事を。  それだけで、双子のどうにもならぬ飢えの幾ばくかは埋められ、志貴に掛か っていた負担は確かに減じる結果となった。    性的な逸脱はあるものの、二人は決して支配下にある者に対し過度に陰湿で 酷い事をする暴君という訳ではなかった。  むしろ、きちんとした判断力を有しており、使用人たる兄妹に対して、きち んとした仕事を望む代わりにそれに対する評価は正当に行い、それ以外にも彼 女らなりに気遣いすら見せていた。    だが、それでも一度堰を切った激流が止まる事はないように、秋葉が一度加 わった以上、ただの傍観者でいられる筈はなかった。  志貴がどれほど秋葉を守ろうとし、双子も志貴との約束を反故にしようとは 考えていなかったにも関わらず。    倒れそうになりながら琥珀の股間に顔を埋める志貴の姿に、苦悶の表情を浮 かべながらも翡翠と舌を絡ませあう兄の姿に、秋葉が許しを乞い、自分が代わ りを務めると思わず口にした、それが分岐点であったかもしれなかった。  その時、双子の眼の色がゆっくりと変わっていった。  志貴が頑としてそれを拒絶した為、その時はそれで終わったが、双子の目が より深く秋葉という存在に注がれたのは間違いなかった。  意識せぬ願望であったものが、琥珀と翡翠の中で夢想という形をとり始めた。  秋葉と交わる事を、そのほっそりとした肢体を弄ぶ事を、秋葉によって快感 を与えられる事を、二人は望んだ。  そして、志貴と秋葉が、血の繋がりのある実の兄と妹が、交わり愛し合う姿 を、陶酔しながら双子は頭に思い描いた。  二人の目から見れば、少なくとも秋葉が過度に志貴に対してある想いを抱い ているのは容易に見て取れた。そして志貴が秋葉を見る、時に狂おしいものを 閃かせる瞳を。  ならば、二人が交わる姿が見たい。  自分たちが女であるが故に、真の意味で結ばれない事を常々残念に思ってい た二人には、それはぞくぞくするほど魅惑的な事であった。  血の繋がりという禁忌を超えた愛の行為。それでいてケダモノの如きあさま しい外道な行為。  心を通わせない兄妹に無理やりの交合を強制するの事は、さすがに琥珀も翡 翠も躊躇いを持ったが、共に想いを持つのであれば……、そうは考えていた。    「いつになるか、そして実現するか知れないけれど」 「秋葉の処女は志貴に捧げさせましょう」 「素敵ね、姉さん」 「うん。きっと実現させて、この目でその瞬間を見ましょう」  うっとりとした目をして悩ましく吐息を洩らして、琥珀と翡翠は誓い合った。  しかし、決して急がずに二人は事を進めていった。  必ずしも、実現せずともよかった。  その姿を想像し、そう仕向けていく事を夢想するだけでも、胸躍る一時を過 ごせたから。  いや、想像だけでなく実際に双子は動き始めた。  志貴や秋葉への罰、または報奨を道具として、少しずつ天秤の片方に砂粒を 加えていく行為。  効果もろくに知れないような行為。  しかし、それでも次第に志貴と秋葉の心の中の抵抗感は麻痺していった。    見ているだけだった筈の秋葉が、双子に頬や髪に触れられたのはいつからだ っただろうか。  耳やうなじに触れられるようになったのは。  指が唇に変わったのはいつだったろうか。  そして、いつの間にか、双子と秋葉が唇を合わせる事は、不自然な行為では なくなっていた。  初めは触れる感触があるかなしかの軽いキス。  その時間が延びていった。  やがて舌が触れ合うようになった。  その舌が絡まり合うようになった。  ねっとりと舌を動かし、互いの口を探る事すら、秋葉は乞われれば拒まぬよ うになっていた。  肩を抱き、背に手を回す。  琥珀や翡翠の柔らかい体が、秋葉のそれに密着する。  添えられていただけの腕が、ぎゅっと体を抱く。  髪を愛撫するように梳き、背から腰にかけてゆっくりと手を滑らせる。  そんな行為も、秋葉は受け入れた。  唇を重ね、体を接触させる、そんな事への嫌悪感や抵抗感は磨り減り消え去 っていた。  次に琥珀と翡翠が進めたのが、間接的に志貴を感じさせる事だった。  志貴の匂いを。  志貴の唾液を。  志貴の精液を。  志貴との舌を絡ませあってのキスの後、秋葉の唇を求める。  志貴が果てて離れた後の体を拭わせる。  精液の残滓をまだ粘つかせた指で、秋葉の艶やかな髪を梳く。  まだ唇や舌に志貴の吐き出した精液が残っている状態でキスをせがむ。  琥珀も翡翠も決して強制はせず、秋葉が少しでも嫌がれば、白く濁った唾液 に塗れた舌を引っ込めた。  初めは嫌がったそれを、秋葉はやがてためらいはあれど、拒絶はしなくなっ ていった。  明らかに兄の迸りに濡れている翡翠の指を、気づかない振りをしながらおず おずと口に含みしゃぶって見せたり、志貴のペニスをずっと咥えていた琥珀の 唇を躊躇無く受け入れたりと。  また、事を終えた翡翠と琥珀の後始末を手伝い、気絶したように動かない兄 の世話をして、愛液と白濁液を拭き清める事も、最初は僅かばかりの戸惑いを もっていたが、秋葉は自然に行うようになっていた。  その次には……、何もしなかった。  ただ、いつものように志貴とのいつもの行為に浸るだけ。  琥珀と翡翠との接触や志貴の精液に慣れた、前とは違う秋葉が、目の前の姉 妹と兄が織り成す痴態の様にどう反応をするのかを見ていただけだった。  秋葉は、三人の織り成す行為に必ずしも嫌悪の念を抱かず、時に息を詰めて その行為を見つめるようにもなっていた。  性行為への抵抗感を双子によって知らぬうちに薄れさせられた為に。  秋葉の前で繰り広げられる行為……、それは必ずしも漫然となされるもので はなく、志貴と双子の交わりは秋葉の想像を越えるほど多彩だった。  双子が主導を握る形で幾多の形を取っていた。  志貴に寄り添うようにして、左右から乳房を押し付け、足を絡ませあい、飽 く事無くキスを繰り返し、志貴の乳首を舐め、手で体中をまさぐったり。  翡翠が志貴に馬乗りになって繋がり、琥珀もまた志貴の顔を跨いで濡れた性 器を押し付けて、こぼれ落ちる愛液を舌で舐めとらせたり。  後ろから琥珀を貫いて甘い悲鳴をあげさせる志貴に、さらに後ろから翡翠が 体を押し付け、背中から志貴の後ろの窄まりに到るまでぬめぬめと舌を這わせ てみたり。  志貴と交わっては短い間隔で交替をして、二人で競い合うかのように様々な 体位を取ってみたり。    志貴に主導権が与えられたように見える事もあった。  椅子に腰掛けて足を広げた志貴の前に、琥珀と翡翠を跪かせ、二人で争うよ うにして志貴の股間に顔を埋めさせり。  翡翠と琥珀を向かい合わせに重ねて抱き合わせて、二人の膣内に交互に挿入 して歓喜の声を上げさせたり。  二人の膣内の感触の違いを堪能すると、今度は抽送で崩れぐっしょりと濡れ た性器を擦り合わさせて、その隙間にペニスを突き入れてみたり。  一方の背にもう一人を覆い被さるように重ねて、縦に並んだ四つの穴に、順 番に挿入を繰り返したり。あるいは、琥珀の肛門ばかりを何度も攻めたと思う と、翡翠の膣内を満たし、すぐさま取って返してまた開いたままの琥珀の肛門 に強い一撃を加えたり、不規則に抜き差しを繰り返して翻弄したり。  犬のように四つん這いにさせて、二人を並べ、高くお尻を上げさせて濡れた 性器も肛門も曝け出させて、おねだりをさせてみたり。  他にもいろいろなパターンがあった。  琥珀が志貴と組んで、あるいは翡翠が志貴を味方にして、二人がかりで姉や 妹を攻めて悲鳴を上げさせ、絶頂の果てに悶絶させたり。  一方とだけ何度も交わり、残されたほうは泣きながら自分で慰め、それでい て陶酔の表情を浮かべたり。  さすがに順応してきた秋葉にしても、嫌悪を誘うような行為もあった。  どう考えても痛みしか無さそうな行為をされ泣き叫んでいるのに、股間をし とどに濡らして気絶した時には愉悦を浮かべていた翡翠の姿。  翡翠と志貴に侮蔑の言葉で嬲られながら、羞恥の表情を浮かべて自ら谷間へ と指をやって、立ったまま尿を迸らせ、本気で泣いてしまった琥珀の姿。  なのに、別の時には息を呑んで見つめる志貴に嬉々として放物線が弾ける様 を見せつけ、尿と愛液でどろどろに濡れた性器を舐め取らせる琥珀。  志貴が半勃ちのペニスから尿を迸らせるのを頭と顔で受け止め、嬉しそうに 笑う翡翠。  そんなアブノーマルな姿は今なお理解不能であり、生理的な嫌悪感も感じる のに、それでも秋葉は目を背ける事は出来なかった。  そう、秋葉にとってはもはや、兄と翡翠と琥珀が性交を繰り返すのを見る事 は、抵抗はあったが、決して拒絶する事ではなくなってしまっていた。  優しく二人に接したり、別人のように冷たく、あるいは荒々しく振舞う自分 の知らない兄の姿を秋葉はじっと見つめていた。   次第に嫌悪を見せていた目が、志貴を、二人の主人を追うようになった。  二人で部屋にいる時に、熱い眼で志貴を見つめるようになった。  絡み合う肢体を見て、ひそかに吐息を洩らすようになった。  その秋葉の様子を琥珀と翡翠は測るような目で見つめていた。  頃は良し、とその目は語っていた。  秋葉の意識変化に満足し、あとは何かきっかけさえあれば、そう考えていた。  そしてある日、好機が訪れた。  ささやかなる事故の発生。  掃除の時に秋葉が飾ってある古ぼけた壷を割ってしまったという、琥珀にと っても翡翠にとっても次の日には忘れてしまいそうなつまらない出来事。  ただ、その壷が由緒ある一品であり、秋葉と志貴が飲まず食わずで数年間働 いたとて弁償不可能なものだったというだけであって。    真青になって許しを乞う秋葉と志貴に、琥珀はあっさりと構わないと言った。  ただし、交換条件があると。  二人は頷かざるをえなかった。  少し前であれば、それでも拒絶して許しを乞うたかもしれないが、今は仕方 ないと考え、許容できるほど心理的転換が起こっていた。  志貴はそれでも別の方法を望んだが、秋葉は首を横に振った。    秋葉もできるだけでいいから、積極的に志貴と自分たちの間に加わって欲し い、……それが双子の要求だった。    秋葉は初めて兄のものを口に咥えさせられた時の事をよく憶えていた。  忘れる事など出来なかった。   「とりあえず、秋葉ちゃんがお兄さんの口で気持ち良くさせてあげるところ見 たいなあ」  そんな琥珀の言葉。  琥珀と翡翠が命じるとおりに、舌を伸ばし兄のものに触れた。  唇を開き、兄のものを口に含んだ。  口の中で大きくなるそれに驚きながら、舌を動かした。  全てを克明に憶えていた。  どれだけそうやっていたのだろうか。  今にして思えば稚拙な行為であったと秋葉は思い出す。  志貴にとってもたいした快感は与えられなかったと秋葉には思えた。  しかし、さんざん翡翠と琥珀に責められた果ての、刺激。  異常なシチュエーション。  妹に己のペニスを咥えられ、吸われ、愛撫されている事実。  それが志貴の限界を超えさせたのだろう。  あの瞬間の兄の顔を憶えている。  どんなに辛くても秋葉にだけは心配をかけまいと、笑顔を見せていた兄の、 絶望という言葉を具現化したような顔。    そして、突然、口の中にどろどろとした熱いものが満ちた。  むっとするような青臭い異臭。  舌を跳ね退かせるような、ペニスの脈動。  これが、兄さんのなんだ。  ぼんやりとそんな事を秋葉は考えていた。  初めて舌や唇に触れた訳ではない。  しかし、志貴の射精を受け止めた事は、これが初めてだった。  志貴と目があった。  さっきまでのが絶望だったら、今度は何だろう。  この限りない虚無の表情は。  魅せられたように秋葉は兄の顔を見つめていた。  機械仕掛けの人形のように、志貴は体を離した。  秋葉の口から、先程までの猛々しさを喪失したペニスが姿を現した  そしてじっと光の無い目が秋葉を、秋葉の口元を見つめたのだった。  まだ、兄の精液はどうする事も出来ずに口中に残されていた。  気持ち悪い感触と匂い。  唾液も分泌され、黙っていても吐き出しそうになっていた。  でも、と秋葉はその時に理性によらず気づいていた。  これを兄の為に全部、呑まなければならないと。  一滴残らず、妹の口を汚したという事実を志貴に認識させないように、始末 しなければなないと。  だから、秋葉はゆっくりとその粘液を嚥下した。  呑みにくくて、咳き込み吐き出しそうになった。  しかし、秋葉は笑みすら浮かべて、兄の精液を呑みこんだ。  自分が何でもないという処を見せられた。  これで兄さんを安心させられた。  そう秋葉が思った時、志貴はぼろぼろと泣き出した。  声を出すのはこらえながら、嗚咽を必死に殺しながら。  それでも、とめどなく泣き続けた。    琥珀は満足したのか、興醒めしたのか、秋葉たちに下がってよいと言った。  秋葉は兄の体を支えるようにして、自分たちの部屋へ戻った。  涙こそ止まったが、志貴はほとんど秋葉に寄りかかるようにして力を無くし て足を動かしていた。    苦労してベッドに横たえた。  目は開いていたが、天井を見つめ志貴は反応しない。  おやすみなさい、兄さん。  そう声を掛けて秋葉が背を向きかけた時、志貴の声が聞こえた。 「ごめん、秋葉。ごめんよ……」 「兄さん?」  志貴は声を震わせて、搾り出すように言葉を口にした。  秋葉の方を見る。  涙は出ていないのに、慟哭の色が瞳に宿っていた。 「秋葉だけは、秋葉のことだけは絶対に守ると誓っていたのに。  その為なら、何でも出来たのに。  秋葉が笑っていてくれるなら、それだけで。それなのに、俺が自分の手で秋 葉を。  兄さんなのに、妹を汚して……、もう死にたいよ、秋葉……」 「兄さん、わたしは兄さんに汚されたなどと少しも思っていません。  その……、呑むのも平気でしたし、あれで琥珀さまに許していただけるのな ら、いくらでも喜んで……」  本心だった。   自分を見た時の志貴の感情を失った眼。  そして今またこぼれた綺麗な涙。  兄の顔を胸に抱きながら、自分こそ、兄の為ならば何でも出来ると思った。  そして今まで半ば自覚していたのに認めなかった心の事実を認めた。  実の兄である志貴だけが、自分の愛する相手だと、深く心に刻んだ。    志貴が自分を盾として妹を守ろうとした行為は、皮肉にも秋葉に兄に対して の肉親として以上の想いを抱かせていた。  そして、この行為が通過儀式であったかのように、秋葉は志貴と双子姉妹の 環の中に組み入れられたのだった。
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