冷たい瞳と――

 

大崎瑞香

 
 
 
「――なんだ。有間、いたのか?」
 
 水を飲もうとキッチンにいくと、そこに有間がいた。
 いつものぼぉっとした感じの曖昧な笑み。黒縁眼鏡がさらに人当たりの良さを醸し出している。しかしその奥の瞳はいやに冷たい。
 優しい輝きを湛えた冷酷な瞳。矛盾していたが、有間の瞳はそう表現するしかなかった。
 
「こんばんは、イチゴさん」
「――――ん」
 
 いつものとおりの挨拶する。
 エプロンをかけ、有間は食器を洗っていた。この家にあるエプロンは大抵有間が使っている。有彦も時々食事を作るときに使うようだが、大抵は出前がコンビニ弁当らしいから、このエプロンはどちらかというと有間専用といってもいいのかもしれないな、とも思った。
 
「――もしかして、食事はまだですか?」
「――――ん」
「じゃあ待っていて下さいね」
 
 手についた水をふくと冷蔵庫を開けて何か用意し始める。ご馳走になろうと、食卓についた。
 うちの食卓は四人がけで、わたしの前に有間が座るようになっていた。有間の横にはバカ。わたしの横には炊飯器。それがいつもの席だった。
 
 有間は鼻歌を歌いながら、ゆであがった麺を炒めている。香ばしい食欲をそそるおいしそうな匂いが漂い始めると、くーとお腹がなった。有間には聞かれてなかったかと、思わず伺ってしまう。どうやら杞憂のようで、鼻歌を歌いフライパンを揺すり続けていた。
 
 ――――ふむ、とキッチンに立つ有間の後ろ姿を眺める。
 忙しそうに、でも手際よく、小気味よいほどのリズムで有間はキッチンを仕切っていた。コショウをさっとふり、フライパンを揺する。焼けた脂の匂いにじゅじゅというベーコンの匂い。ニンニクがたまらない匂いを放っていた。
 
 胸のポケットから煙草を取り出し、火をつける。ちょっと喉が渇いていたがどうせ有間のことだ。食事ともに水を用意してくれるに違いないと少し我慢することにした。
 フライパンを小気味よく大胆にゆすり、焼ける音がリズミカルに響く。
 楽しそうに動きまわる有間。たぶんいつものとおり一生懸命に作っているのだろう。こんなもんですけど、と謙遜しながら出すに違いない。
 
 なぜそんなに謙遜するのか、わからなかった。こちらが、ん、うまいぞ、と言っても曖昧に笑うだけ。もう少しはっきりと笑えばいいのに、なんてさえ思ってしまう。
 
 ――――有間は強情だから、な。
 
 あんなに可愛い顔をしているというのに、中は男らしいというのか。意外と強情で、決めたことをひっくり返すことはないのは熟知していた。かといってただ強情なわけではなく、自分の非があればすぐに訂正することも知っている。
 言ってしまえば、有間は――可愛いヤツなんだ。
 
 自分の結論に、ふむ、と考えて込んでしまう。だぶん有間を『可愛い』と言ったら、曖昧に困ったように笑うんだろうなと思う。
 ふとその顔が見たくなって言ってしまいたくなるが、もしかしたら本当に困らせてしまうかもしれない。いやでも以外と気にしないのかもしれない。その優しい光を湛えた冷酷な瞳でいつものように曖昧に笑うだけなのかもしれない。
 判断がつかなかった。
 
「――――可愛いな」
 
 だから、試しに言ってみた。
 
「――――なんです、一子さん?」
 
 振り返って、優しい笑顔を見せながら尋ねてくる。どうやら聞きとれなかったらしい。
 
「いや――まだかなって」
「今できましたよ」
 
 わたしの誤魔化しはあっさりと通った。こう簡単にとおるとなんだか気が抜けてしまう。
 そんなわたしの様子に気づかずに、大きい皿に炒めた麺を盛った。山盛りのスパゲティだった。
 
「お腹が減っているだろうと思いましたから、すぐにできるペペロンチーノにしましたよ」
 
 ベーコンとニンニク、そしてオリーブオイルの香ばしくて食欲を刺激する匂い。うまそうだった。
 
「――――ん?」
「ええ、ご同伴いたします」
 
 有間はエプロンを外すといつもの席に座って、いただきます、と両手を合わせた。
 わたしはそういうのをやらずにスパゲティを小皿にとって、すばやく麺をフォークに絡め口に放り込む。
 
「――――ん。おいしいぞ」
 
 率直に言った。こういう簡単な、素材の味だけで食べさせる料理は手際がものをいう。段取りよくきちんと作っているので、素材の旨さが素直に引き出されている。いい主夫ななるな、とも思った。
 
「作り慣れていますから」
 
 曖昧でぼんやりとした笑み。もう少し笑ってくれてもいいのに、と思いながら、スパゲティを平らげていく。
 
「健啖ですね」
「――――ん?」
「いえ、いい食べっぷりだなって」
 
 嬉しそうにこちらを見つめている。曖昧ではなくはっきりとした笑顔。見たかったはずの笑顔なのに、なぜか不快だった。なんだか餌付けされているような気分になってしまう。
 なんとなく仕返ししたくなってしまう。有間を困らせたいと思った。手早くフォークで麺をまとめると、有間へと突きだした。
 
「――――ん」
「い……イチゴさん」
 
 有間は絶句していた。頬を赤く染めてしどろもどろ。可愛い顔で慌てていた。
 
 ああ――――可愛いな。
 
 有間を困らせながらも、その様子が気に入ってしまう。だからまだフォークは戻さない。逆に突きつけるかのように、湯気をたてておいしそうな匂いを放っているスパを左右に揺らした。
 
「――――ん」
 
 困った顔をしたまま、有間は突然フォークを持っていた手を両手でまるで抱きしめるかのように掴んだ。
 ドキっとしているうちに、そっとそれを口に入れた。まるで恭しい儀式かのように厳かな感じで入れられた。とたん、顔が熱くなった。まるで頬が燃えているかのよう。
 
「――ん?」
 
 尋ねてみると、にこりと笑って頷いた。冷酷な瞳が柔らかい光を湛えていて、こちらを見つめていた。
 思わず唸ってしまいそうになる。インチキなまでに可愛い。デタラメなほどに可愛くて仕方がない。あのバカと同じ歳だっていうのに。
 目を凝らしてじぃっと観察する。うっすらと顎に髭のあと。衣服の上からだとわかりづらいけどきちんと筋肉がついている男の体つき。腕だってよく見ればわたしよりも太い。
 
 男なんだな、とふと思った。あの小さかった腕白な子供じゃなくて、男。なんとなく哀しいような寂しいような気がした。
 そんな気持ちを振り払うように、目の前のもう子供ではない男に話しかけた。
 
「――ん?」
「……ああ、イチゴさんもお腹がへっていたんだよね」
「――ん」
 
 掴まれていた手が解放される。温かいものに包まれていたから離れると妙に寒々しく感じてしまう。
 
「じゃあお返しに」
 
とスパを絡めたフォークをこちらに差し出してきた。すぐに口をあけて、パクリと食べてしまう。あーんなんて言わせない。
 有間はなんとなく気落ちしたような、当てが外れたような、ちょっとだけ拗ねたような、なんともいえない可愛い顔をした。
 
「ちぇ」
 
 わざとらしく残念がる。そんな反応が可愛くて、さらに引き出そうとしてしまう。
 
「――――ん」
「なんです、イチゴさん」
「ニンニク臭くなった」
 
 こちらもわざとらしく嘆息する。すると目をぱちくりさせて、慌てて否定しはじめた。両手をパタパタ振ってさえいる。
 
「イチゴさん、大丈夫ですよ」
 
 じろり、ではなく、ちろりと見つめてやる。パタパタパタと手をまるで子犬の尻尾のように大きくふる。でも手をゆるめない。
 
「――――ん」
「大丈夫ですって」
 
 椅子から腰を浮かせてすり寄ってきた。そのハニーフェイスを綻ばせて、酷く冷たい瞳にあの優しい光を湛えたまま。そしてクンと嗅がれた。とたん躰が一瞬のうちに熱くなってしまう。帰ってきてまだシャワーも浴びていないと思うと、さらに羞恥心がこみ上げて躰を焦がしてしまう。
 
「ほら――ニンニク臭くないですよ」
 
 近寄ってくると感じられる有間の体臭。少しツンとするような若い男の匂いが鼻腔の奥をくすぐる。
 羞恥以外の何かがこみ上げてくる。こんなに間近に有間の顔。
 ぼんやりとしているくせに意外と鋭くて、冷たくて、でも柔らかくて、そして――――温かい有間の…………顔。
 
 ヤバい。
 ツボだ。あまりにもツボだった。
 
 こちらを覗き込むように上目遣いのまま、ほらと言わんばかりに見上げてくる。
 
 ヤバいほど――――可愛い。
 
 心臓の鼓動がさらに激しくなる。近寄っている有間の耳にも聞こえてしまいそうなぐらい、胸が高鳴っていた。
 
「どちらかというと煙草臭いですよ」
 
 わざとらしく揶揄するような口調。なのにそれが気に――さわった。その曖昧な笑みを消したいとそのとき本気で思った。
 
 唇を奪う。
 優しさもなにもない。
 渇望にも似た衝動に突き動かされて、ただ奪う。むしゃぶりつき、自分の吐息を目の前の可愛い男に渡してやる。そして離れる。
 
「――――ん?」
「…………ええっと……」
 
 仰天して目をぱちくりさせている。何も言わないから唇をまた奪う。今度は長く、ただ吐息を渡すだけのものでない、口づけ。
 舌でちょっと唇を舐める。すると唇に隙間がうまれ、そこへ忍び込む。
 絡みあう濡れた舌と舌。粘膜がザラついているところでこすられ、ぬるりとしたところでくすぐられて気持ちいい。ぬるぬるとした舌どうしがねじれあい、吐息どころか互いの唾液さえ飲み干す。
 
  …………ぢゅぢゅう……
 
 吸いあう。それだげなく、その若い男の唇を味わう。
 甘いのか、苦いのか、違うのか――それさえもわからずに貪る。唾液も息もなにもかも有間に渡し、唾液も吐息もなにもかも飲み干す。
 舌と舌、粘膜と粘膜がやらしい音をたてて、卑猥な動きをする。
 口の中がじぃんと痺れてしまう。そのじんじんとした肉の奥の痺れをどうにしたくて、さらに重ねてしまう。
 
  …………っぢゅ……っんっ…………くちゅうぅ……
 
 吸う。舐める。ついばむ。貪る。その唇のじんじんとした痺れが心地よくて、たまらない。ただ口唇を重ねているだけなのに、こんなにも気持ち――――い…………い。
 
 痺れに呼応して、熱いものがこみ上げてくる。熱くドロドロとしたまるで鉛のような存在感がある何か。それがじりじりと下腹部を灼き焦がしながら、昇ってくる。躰の裏側をひきつらせるほどくすぐり、疼かせながら、それが高まっていく。
 
  ちゅぷっ、ちじゅうぅ、ちぅ……くぷ、……ぴちゃ、ちゅうう……
 
 最初は心地よい湯にゆったりと入っているかのような、そんな痺れるような感覚だったのに、今は身を焦がすような焦燥感が全身を支配していた。
 ひりつくような感触。躰の奥が爛れていくような、痺れ。それが脊髄をとおって脳髄を直接かき乱す。
 有間の舌や口唇が頭の奥まで入り込み、舐め回している。こんなにもやらしく舐め回している。
 じんじんとした痺れはやがてひりつくような渇きにも似た疼きとなっていった。
 
 ようやく唇を離す。絡みあった舌と舌が名残惜しそうに互いを擦り、いやらしい糸が互いのそれを繋ぎとめようとする。そしてつっと切れ落ちた。
 まるで湯気の出そうなほど熱く蕩けた吐息を吐くと目の前の男を見た。
 
 有間は胡乱な目つきのまま見つめていた。何か言いたいのに何も云えないような、そんな曖昧な顔。そん有間にねっとりとしたやらしい声で囁きかけた。
 
「――まだ…………臭いか」
「……あ、えっと……」
 
 そうすると今度は有間が顔を寄せてきた。顔をちょっと突きだして受け止めてやる。
 
 躰を内側からくすぐり焦がす熱いものに従って、有間の唇を求める。舌がまた入り込み、粘膜を刮げおとすかのように動きまわる。どんどん有間の唾液が流れ込んでくる。それを喉を鳴らして飲む。
 
 舌の表面がこすれ、じぃんとした痺れをつくりだすかと思うと、次はこちょこちょと撫で回してくる。
 それに応じて、わたしも有間のをいじくりまわす。舐め回し、吸い付き、こすってやる。
 
 ああ。ようやくわかった。痺れきった胡乱な頭の片隅でようやく理解した。これは甘いのか、苦いのかではなく、ただ――――――気持ちいいんだ、と。ただひたすらに気持ちいい。
 そのめくりめく官能に身をまかせた。
 
 有間の息とわたしのとが混じりあい、どろどろに溶けていく。溶けてぐちゃぐちゃになって、熱く、ただ熱く。
 柔かいくせに硬い唇と硬いくせに柔らかい舌が入り乱れる。ぬるいような、熱いような、痺れるような、そんな不可思議な快楽に包まれながら、混じりあった。
 
「――――ん?」
「……煙草の匂いは、もう気にならないです」
 
 有間は少し照れたようなはにかみを浮かべた。しかしその目は雄で、熱く滾っていた。たぶんわたしの瞳も熱く潤んでいるだろう。目の前の雄を見て、誘うように、惑わすように、そして媚びるように。
 
「……だけど……」
 
 とたん互いの手が伸びた。せわしげに指が動き、互いの躰をまさぐる。指先の感触だけでボタンをみつけ、外していく。
 視線は互いの顔を見ながら、指はせわしげに相手の服をはぎ取る。有間は我慢できないのかボタンを引きちぎるほど。
 
 三度互いの顔を寄せあう。唇で互いの顔を刺激しあう。
 頬にキスし、唇を這わせ、吐息と匂いとその肌を味わう。
 ぬるぬるとした舌が頬を舐め回していく。濡れた口唇でひげのある顎に接吻する。汗ばんだ少し男臭い味が口の中で広がる。その味を口の中で転がしながら、丹念に舐めあう。
 
「――だけど……一子さんの匂いがする……」
「――――ん。有間の匂いがする……」
 
 息がかかってくすぐったくなるほど近い距離で貪りあう。その匂いを、その味を、その感触を。有間の躰を求めて、こんなにも貪りあってしまう。食卓がなければそのまま抱き合いそうな勢いで違いの躰を貪り始めていた。
 
 有間の手はそのままブラジャーの上からせわしく胸にさわっていた。先が尖り擦れている上にその荒々しい愛撫は、まるで蹂躙されているようで息が荒くなっていってしまう。
 
「……痛いぞ」
「――え、……あ、あぁ……」
 
 わかったのか、一転して優しい愛撫になる。掌で優しく揉むように、乳房だけではなく、その奥の筋肉までももみほぐすような優しい動きにうっとりとなってしまう。指先がやわやわと動き、じぃんと深いところが疼き、熱を帯び始める。またストラップが少し食い込んで痒いところを優しくこすってくれる。
 強く、弱く、激しく、でも弱く――――掌で包み込み、その五本の指で乳房の柔らかさを味わうように動かしていた。
 
 有間のやや逞しいその胸を撫でる。疵痕が敏感なのか、そのケロイド上のなったところをそっと指でさするだけで、躰に緊張が走る。そして有間の乳首に触れる。有間の乳首も勃っていた。それを掌で弄くり、指で鎖骨や疵痕を撫で回した。
 
 舌が伸びてくる。それを吸い込む。唇に挟むと、きゅっと挟みこみ、擦ってやる。顔を動かしてまるで口淫するかのように吸ってやる。
 口からこれみよがしにやらしい音がする。淫水がたてるようなねっとりとした音。
 
 …………っちゅぱ…………じゅぢゆぅ……んはぁ……
 
 唇が、唇が、舌が、乳房が、熱く疼くような快感に支配されていく。心地よくて、気持ちよくて、ただそれに脳髄までもが支配されていってしまう。有間の与える快楽が、牝躰からわきあがる肉の悦びが、わたしというものを乱していく。ただ情熱にまかせて、乱れてしまう。
 
 透けないようにと赤いワイシャツと色を合わせたブラジャーを外そうと悪戦苦闘していた。乳房全体にじんわりとした甘い痺れと乳房に鋭いほどはっきりとした疼きが発していた。全部が蕩けるようにじんじんと痺れていくくせに、その中心がいやに感覚が鋭くて、頭のどこかを直接その指で弄られているように感じてしまう。
 
 荒々しく息をしながら、何度も息を大きく吸い込む。肺いっぱいになるほどの有間の香り。欲情した男の体臭。雄の匂い。牡の臭い。吸い込むたびに内側からも犯されていく。
 
 カチャカチャと食卓の上の皿が鳴っていた。重なり合うように、互いの躰をまさぐり、唇を奪いながら、そのまま食卓の縁をつたわるかのようにして、近づいていく。
 
 有間の荒々しい息をしている。嗅いでいるのだ。胸いっぱいにわたしの、発情した女の体臭を、やらしい雌の匂いを、淫らな牝の臭いを、その胸で味わっているのだ。
 
 そう思うだけで恥ずかしくなってしまう。なのにその恥ずかしささえもこんなに心地よい。羞恥が甘い欲望となってオンナをそそらせていく。
 
 濡れていくのがわかる。やらしく有間を求めて、秘所が濡れていくのがわかった。体中が解放されていく、バラバラになっていくような快感。気持ちよくて楽しくて笑みが漏れてしまう。なのに、その笑みを浮かべるよもなによりも先に、有間を求めてしまう。
 食卓の横で抱き合うかのように、寄り添いあった。
 
 ブラのフックが外れる。腕に絡まったままなのに、有間は口をつけてくる。ぷっくらと膨らみやらしく尖った乳首の周囲に口づけし、指を這わせてくる。見ていると甘えん坊で母親の乳房を求めている赤ん坊のよう。なのにその指と唇の動きひとつひとつから、甘い快感が走る。くすぐったいような、でも躰の奥を火照らせるような快感が全身に広がっていく。
 
 深く溺れそうになる。躰の奥のさらに奥にあるやらしい牝のところがせり上がってくるのがわかる。どろり粘ついてとても熱いいやらしいものがこぼれ始める。こぼれて躰を満たそうとしていく。
 
「……ふぁ……あ……ん」
 
 官能の吐息が漏れた。昂ぶっていた。有間の指がさらに強くなる。指の間からやらしく柔肉がはみ出るのを見ると、なんてやらしいんだろう、と思った。白い肌が赤くそまり、汗と唾液で濡れてテララテと光っていた。そのいやらしい肉に有間は口をつけていく。口をつけられるたびに、やらしくなっていく。どろとろに、ドロドロに、どろりどろりとなっていく。体全体がやらしい水に満たさせていく。躰の奥から零れていたいやらしいものがさらに熱く、さらに昂ぶっていく。
 
「……ここかな」
「――――ん」
 
 有間が乳房をきゅっと絞るように握りしめた。強い刺激に、声が可ってに漏れてしまう。躰の熱さどろりとしたものがそのまま声になったかのような、粘ついた嬌声がキッチンに広がる。
 
「む……ふぅ、……はん……ひぁ……はふん」
 
 わたしの口からそんな声が聞きたいのか、さらに強く玩ばれる。指先で乳房を玩ばれているだけだというのに、全身を激しく弄られているかのような錯覚に陥ってしまう。それに呼応して、痺れていた躰が疼く。びりびりと白い電気が甘く、神経を灼いていく。
 
「……ん……ゃぁ……はぅ」
 
 舌がやらしく動いていた。絞られて尖りきった乳輪に吸い付き、そしてさらに膨らんだ乳首へとペロペロと淫らな舌使いで舐めていく。舌がぬるりと動き、敏感になったところをさらに敏感になるように、ぬるぬると唇とザラついた舌でしゃぶり、ねぶっていく。
 
 切なくなっていく。敏感になりきった乳房をこんなにもやらしく、いやらしく揉まれ、遊ばれて、躰の奥が切なくて疼いてしまう。もっとやらしく嬲って欲しかった。もっとやらしくいじくりまわしてほしかった。胸から発する甘美な疼きがこんなにも牝をかきたてていく。
 
 胸に抱え込んだ有間の頭に口づけをふらす。髪、日焼けしていない地肌、髪の生え際、いたるところに、この切なさを埋めたくて、唇を這わせてしまう。やらしいものがこみ上げてくる。切なさが押し寄せてくるる躰の芯から震えてしまうような、甘くてこらえきれない衝動に突き動かされてしまう。
 
「! ………………はあっ」
 
 それでも有間はやめない。絞った乳房の先に吸い付き、音が出るぐらい吸う。躰が跳ねてしまう。あまりにも強い電気にのけ反ってしまう。秘所から一気に愛液がこぼれるのがわかる。いじってもいなのに、肉襞の奥からとろとろとした淫蜜がこぼれているのがわかってしまう。
 やらしいという思いと有間というものと一子という牝だけになっていくのがわかる。
 
 反らせた胸はまるで有間にさらにいじって欲しいと突きだしているかのよう。有間によって絞られ突き出された乳房はとんがり、それがとてもやらしくて見てられない。
 
 そんなやらしいところを有間のその舌とその口唇とその指で、弄り回される。尖った先を指先でいじり、こりこりと硬くなったのを唇でやさしく挟まれ、そして舌で舐め回される。時折乳房に舌を這わせたかと思うと口づけする。わざと音をたてて吸い付き、跡を残していく。
 
 白くそして赤く染まっていた乳房に赤黒い跡が次々に残っていく。まるでこのふたつのおっぱいが有間のものだといわんばかりに吸い付き、これでもかと跡を残していく。
 
 そうされるたびに、じぃんと躰の深いところが甘く身悶える。そしてじゅんとあそこが淫らな汁で濡れていってしまう。
 体がヘンになっていく。頭もヘンになっていく。有間に弄られて、吸われて、ねぶられて、気持ちよくて――ピリピリとした甘美な電流とビリビリとした強くて耐えがたい電気が交互に発して、こんなにもヘンになってしまう。
 有間が口づけしたところが、さわったところが、ねぶったところが、吸ったところがすべてじんじんとして、波みたいに全身に広がっていく。
 
 有間がいじる乳房が、絞られて尖った乳房がいやらしすぎて、恥ずかしすぎて、見ることもできないのに……そこだけが、産毛一本一本さえもわかるぐらい敏感になっていく。
 
 頭がぼおっとしてくる。切なくて、狂おしくて、まるで頭の中に霞みがかかったかのよう。でもその霞みは桃色で、とても甘く、ただ甘くて――息をするのさえつらくなっていってしまう。
 
「……有間ぁ……」
 
 これは誰の声? わたしなのか? ――そう頭の片隅で考えてしまうほど、甘ったるく切なそうな媚びるような猫撫で声。違う。ただの猫撫で声ではない。男を、有間に媚びるやらしく蕩けたオンナの声。
 こんな声が出るとは思わなかった。自分が聞いてもやらしい声。有間からすればどんな声に聞こえるんだろうか――。
 
「……なに……一子さん……」
 
 有間の声が耳元で響く。低くて、優しい声なのに、まるで直接子宮を揺すられているかのように、体の奥まで響いてしまう。子宮がぎゅとなってしまう。有間の声に震えてしまう。
 
 それでも乳房をいじるのはやめない。別のところも触れて欲しいのに、胸に固執していた。
 乳房をそっと撫でる。産毛を撫でるような優しい愛撫なのに、敏感になりすぎたため、ゾクゾクと感じてしまう。それだけなのに肌が粟立ってしまう。
 
 でもたまらなくて、手をそろそろと下に這い降ろしていく。有間の体を確かめながら、下へ下へと、はしたなく有間のオトコを求めて下がっていく。
 胸を撫で、鳩尾をくすぐり、腹筋をさすり、そして冷たくて硬いベルトのバックルに触れた。それを外す。
 
「…………欲しいんですか……」
 
 余裕がある男の声に、ついイヤイヤしてしまう。その声から身も心も焦らすつもりなのだとわかってしまう。早く入れて欲しいのに、早く抱いて欲しいのに、そんなことはしないと目と声色が語る。
 それが切なくてズボンの上から有間のものをさすった。ズボンの厚い生地越しだというのに、それは熱く逞しいのがわかる。入れて欲しいとわかるように、強く握るようにして擦り上げる。先から股間の下の玉にさえ指を這わせる。
 
「…………有間ぁ……」
 
 震える声。オトコへの媚声。自分でもねっとりと粘つき湯気が立ちのぼりそうなほどの蕩けた声だとわかる。有間の耳元でそんな声を発して、知らせてやる。お前が欲しいのだと、欲しくてたまらないのだと、教えるように囁く。
 
 指先はズボンのジッパーを降ろし、中に入れた。トランクス越しに感じられる熱さに指先が焼けるかと思ってしまう。滾った肉棒を指先でこする。
 はっきりとわかる裏筋にカリのでっぱりとくぼみ、尿道口、そしてふたりの玉とその袋。有間のオトコをあますとこなく、さすってやる。
 
 気持ちいいのか、有間は呻いた。官能に震える低い男の声が胸を揺さぶる。吐息がかかっただけなのに、そこからじんじんと甘い疼きが発してしまう。かかる息でさえ愛撫のように感じられてしまい、甘く疼いてしまうのだ。
 
「…………有間ぁ……」
 
 求めていた。全身で、この欲情しきった体で、牝の心が、飢えた心が、有間を、男を求めて濡れていく。切羽詰まっていく。
 有間のそこをいじる指先が大胆になっていく。熱くて強張っているそれをさらに熱く強張らせるかのように、さらに強く擦りつける。はしたなく濡れたいやらしい肉穴をこれで埋めて欲しいのだと、哀願するかのようになでつけた。
 
有間はうずめ、口づけ、ねぶっていた胸元からようやくこちらを見た。発情した男の顔だった。なのにその目は酷く冷酷で、そのあまりにも冷たいその瞳に背筋がゾクゾクしてしまう。熱い躰と燃える頬が捩れていくような甘美感。
 
「……一子さん……」
「――ん……」
「なんて……やらしい……顔してるんだ……」
 
 かっと恥ずかしくなっていく。顔が燃えていた。羞恥にとらわれて目をぎゅっと閉じてしまう。有間と目を合わせてなんていられない。
 
 いやらしい顔。ああ――――と熱い吐息を震える嬌声とともに吐いた。
 自分でもわかる。とろとろにとろけた劣情にひたりきったいらしい牝の貌をしているんだ。有間が欲しくてこんなにも躰がドロドロでぐにゃぐにゃなのだから。
 
 その言葉に力が抜けたかのように躰が崩れていく。ちがう。あそこをもとめておりていくのだ。こんなにやらしいんだって、こんなに欲しいんだってみせつけるために。
 
 有間の体を服の上から撫で、口をつけ舌を這わせる。布地越しに感じられる若い牡の体に胸がドキドキしていく。硬くしなやかな牡のやや筋肉質な体を指先と唇と舌で味わっていく。そうしてバックルが外れ、チャックがおりたズボンの前に辿り着く。
 
 もっとも体温が高くたぎっているところを前にしてはしたなく生唾を呑み込んだ。そのままズボンとトランクスを降ろし、ペニスを露出させた。
 むんとした鼻をつくような発情した牡の臭い。男性ホルモン独特の絡むような臭いに鼻腔の奥がくすぐられた。
 起立したものをそっと握る。熱くで脈うっていた。それに太い。まるで躰の中に入りたくてうずうずしているような
 起立したオトコを握り軽く擦りながら、有間を見た。有間はいつもの顔でやや淫蕩な目つきのまま、そっと頷いた。
 
 とたん、ちゅっと吸い付く。まるで愛おしそうに熱く滾った肉棒にキスの雨を降らせる。強い臭い。体を洗ったわけではないので汗とかが篭もった有間の酸っぱいような臭いと味。鼻腔の奥から入り込み、躰の芯から疼かせていくような臭いを胸一杯に吸い込む。
 そのまま強くまた弱く吸い、舌でこすり、唾液を擦りつけるようにしてくる。先の切っ先から血管の浮かんだ幹、そして陰毛が茂る根本まで、唾液でベトベトにするように、丹念に塗り込んでくる
 
 …………っぷ…………っづっ……ちゅっぱっ……
 
 さらに激しくやらしく肉棒に舌を絡みつかせる。舌と唇で擦られるたびに背中にビリビリと電撃が走り、感じやすいところに対する執拗な口づけに有間は呻いていた。
 
 そんな声に答えるかのようにさらに激しくしてしまう。どんどん淫らになっていってしまう。口を開き、それをゆっくりと呑み込んだ。
 
 熱いものが入りこんでくる感触に、腰が蕩けていく錯覚さえ覚えてしまう。すると有間の腰が喉奥に入れるかのように動く。喉奥にまでねじ込まれていく。
 
 若い男の匂いが口の中でも味わえた。若い男ならではの熱さと固さに、口の中をみちみちていく充実感に、その確かな質感に、頭がクラクラするほどの眩暈を覚えた。
 
 熱く灼けたような肉棒を、さらに深く呑み込んでいく。頬の裏側に貼りつく熱い粘膜。舌の上で滾るオトコ。喉奥をえぐる灼けた肉棒。その逞しさと熱さに犯されていく。
 先からこぼれる牡のエキスが口の中いっぱいに広がり、滾った肉棒が口の中で暴れるかのように動きまわる。
 
 深く喉をえぐられているというのに、不快どころか気持ちよささえ覚えてしまう。喉奥を一回突かれるたびにしぃんとした痺れがこすれる唇と口内の粘膜と舌、そして喉奥の粘膜を感じる。その気持ちよさに喉奥から悦楽の嗚咽をはしたなく漏らしてしまう。
 口の中を有間のもので蹂躙されていくという官能に、目の前がバチバチと火花が散ったかのように白くなってしまう。
 
 口から出しても、手で肉茎の根本を擦り続ける。そればかりか左手で陰嚢を軽く揺すっている。
 まるでこの熱さをさらに熱くさせるかのように、激しく擦り上げる。そのたびに熱く滾ったものが呼応して、さらに熱く高ぶっていく。
 
「…………い……ちご……さん……ンっ!」
 
 先の下のところに唇を這わすと有間は呻いた。感じている声と態度が、オトコの嬌声がわたしを狂わせていく。ここがいいのか、と丹念にそこだけを舐め回す。チロチロと舌で舐め上げ、唇で吸い付き、そして口全体で涎を擦りつけてやる。
 
 そうしてまた口に含む。先の粘膜だけ含むと、ちゅっと吸い上げる。有間が気持ちいいのか腰を揺すった。ここがよいのかとさらに舌でそこをこすってやる。ちゅっと頬がへこむぐらい吸い付きながら舌先でチロチロとこすり続け、そして先の切れ目に舌を押し込む。入り込むことのないはずのそこを舌先のざらついた粘膜でこすり、押し込む。
 また呻いた。そんな悦びようを見て、さらに躰は熱く、まるでのぼせたかのようになってしまう。
 
 舌でさらに抉ってやる。入るはずのない切れ目をぐいぐいと舌を潜り込ませようとする。根本を擦ってやる。陰嚢をゆすって時には揉んでやる。さらに感じさせてやる。
 どうれすばいいのか、すべて反応が教えてくれる。こうすれば感じるのだと、こうすれば悦ぶのだと、こうすれば啼くのだと、その反応に従って男を玩ぶ。
 
 すべすべの粘膜をやらしく音が出るぐらい吸いたてる。有間は耐えきれず食卓に手をかける。ガタガタと食器が鳴っていた。しかしそれでもわたしはかまわず、口唇でねぶり続けた。
 
 遠野ーどうしたー、遠くから有彦の声が木霊するかのようにぐもって聞こえる。その声に反応して熱くなった心が一瞬のうちに冷える。
 
 どうする?
 
 慌てて有間を見る。
 絡みあう視線。
 バレてもいい、と淫蕩な瞳の輝きが告げていた。見られてもいい、とその貌は告げていた。その猥褻な視線に絡め取られていく。あのバカに、弟に見られてしまうかもしれないという恐怖が背筋を駆け上る。ゾクゾクとした悪寒にも似たものは胸をこんなにもざわつかせる。――なのに気持ちいい、と躰が震えてしまう。背徳めいた退廃感が躰の芯を甘美なまでに疼かせる。
 
 見られる、見られてしまうという感覚がずるずると底なし沼へと引きずり込むような、おぞましいほどの悦楽。わたしはその悦楽に浸るかのように目を閉じた。
 
 熱く滾った肉棒をただ肉欲の赴くまましゃぶった。
 口に入れているだけだというのに、全身が疼いた。口蓋と舌にその熱く張りのあるものが触れるたびにじぃんと深い愉悦が広がっていく。牡の味が胸や腹までいっぱいになっていく。こんなにもおいしい味が、頭をとろかせてなにもかもなくしてしまう、まるで麻薬のような味が、この弟としてつき合っていた男の味が、こんなにも胡乱にさせてしまう。蕩ける。蕩けていってしまう。
 
 躰の奥からいつか粘ついた熱いものがこみ上げてくる。ゆっくりとゆっくりとそれが滾ってくる、ふつふつと滾って躰をよじらせてしまう。いやらしい感覚に神経ひとつひとつがバラバラにほぐれていく感覚。なのにひとつひとつは過敏で、今触れられている髪でさえ撫でられるだひに甘くわなないてしまう。
 口の中に牡の味と匂いがみちみちていく。それがおいしい。いくらむしゃぶりついても足りない。
 こんなに舌で、口で、喉で、指で、目で、頬で、肌で、躰で味わっていても、まだ足りない。
 もっとと疼いてしまう。はしたなく疼いてしまい、突き動かされてしまう。こんなにも飢えてしまう。
 この体臭が、この味が、この肌が、この温かさが、この強張りが、このひくつき快楽に蠢く肉棒が、欲しくてこらえきれない。もっと、もっと、もっと。全身でもっと感じたい。
 そう感じれば感じるほど、さらに口淫らにねぶってしまう。
 
 有間の肉棒かふるふると震えているのがわかる。体の筋肉がぎゅっと引き締まり堪えているのがわかった。
 有間の見下ろす視線が、我慢できないことを告げていた。
 それを確認すると、さらに両手を使って有間のを擦った。
 この躰の奥にある熱い衝動のままに。この熱い陰茎に滾る肉欲をさらに熱くさせるかのように根本を激しくこする。もうひとつの手は陰嚢を揺する。時折強く掴み、その玉の感触を味わう。そのたびに有間は心地よさそうに喘いでいた。
 
「い、一子さ…………っっ……!」
 
 これまでで一番上擦った有間の声。肉欲に爛れた切羽詰まった顔と声。絡みあう視線。あのバカがくるかもしれないというのに、おちんちんをキッチンで咥えているはしたないオンナ。
 有間の視線が、弟に見られるかもしれないという背徳感が、躰の奥にある燻火がじりじりと肌下を焦らすかのように、焦がしていく。
 熱く苦しいドロドロとしたものがこみ上げてくる。それはどろりとしているのに、火のように燃えていて、喘いでしまう。声を漏らしてしまう。それを聞かせたくなくて、そんな貌を見せたくなくて、さらに咥えてしまう。
 もしかしたら見せたいのかもしれない。有間のを咥え込んでいるあさましい姿を。わからない。けれど、有彦に見られるかもと思うだけで、躰は捩れていってしまう。
 
 舌をさらにはわせる。亀頭だけでなく、血管の浮いた幹も、裏筋も、陰毛の茂る根本にも、舌を這わせて、唾を塗り込んでいく。この熱くいきりたったものがわたしのものだといわんばかりに、めいいっぱい口唇を使って舐め回した。
 
 生臭い味が口いっぱいに広がる。それが喉に絡み、そしてそのまま脳髄へと染みこんでいく。この躰に染みこんでいってしまう。有間の味に染まっていってしまう。
 
 …………っは…………っつ……ちゅぢゅう……
 
 生々しくつるつるとした感触の肉塊を唇でついばむ。唾液を啜り、さらにそのえぐい味を味わう。そのえぐみが頭をぼおっとさせていく。まるでアルコールを飲んだかのよう。頭に霞みがかかり、躰が火照り、とても気持ちいい。
 喉奥で悦楽の呻きを発するけど、咥えている肉棒によって発生することなくぐもって消えた。
 
「…………いち……こ……さん……」
 
 裏筋をチロチロと舌で這わせたら、びんと背を反らせて呻いた。チロチロと舐め上げていくと堪えきれないように、肉棒は暴れ、有間の体も震えていた。
 そして亀頭まで舐めるとまた呑み込む。今度は深く、喉を詰まらせてしまうぐらい呑み込んだ。喉奥で男根が官能に震えている。熱くつるりとした肉棒が喉の奥でいやらしく震えているのだ。唇と喉できゅっと締め上げてやる。ぐぅっと喉が締まり、その震える肉塊を締め付ける。ぴったりと貼りつき、肉塊の熱さが喉を灼く。
 
「……っあ……あ――――あっ!」
 
 有間はまるでわたしの口の中に入り込もうと腰を動かす。喉奥をつかれて苦しいはずなのに、それが気持ちいい。有間の男根がそのまま頭まで貫いているような感覚にしばしうっとりと酔いしれてしまう。
 口の中だけではなく頭の中までおちんちんでいっぱいになってしまう。クララクと眩暈するぼとの淫悦に、惚けてしまう。
 
 そして一気に引き抜く。でもそのままずっと吸い続ける。頬がへこみ、頬の裏側の粘膜と舌と歯で刺激しながら、全部見えるまで抜く。
 
「っう……っあ」
 
 有間は耐えきれずに呻き声をあげた。口の中にさらに生臭いオトコの味が広がる。どろりとした腺液が口いっぱいだった。それを喉を鳴らして飲み干す。先走りでさえも喉に絡むぐらいキツくて、躰が焼きついてしまうかのよう。
 
「…………ん……ふぁ……、ん、……ふぅん……」
 
 鼻から荒い息をしながら、それでも唇はオトコを離さなかった。手も動きをとめず、陰毛が生えたしわくちゃな陰嚢をそっと揺すった。少しこりこりとしたようなでも柔らかい不思議な感触の玉を掴むたびに、気持ちいいのか有間はうっとりとしている。
 
 口の中でびくんびくんと男根は脈打っていた。そのまま暴れ出しそうなほどなそれを咥えてしゃぶっていると、涎が泡立っていった。腺液と唾液が混じってぐちゅぐちゅと泡立ち、唇の端からこぼれしたたり落ちていく。
 
 意識さえもしたたり落ちていきそう。この滾った肉棒で口の中のようにかき乱されて、躰の中は泡立って、攪拌されて、意識がとろとろになっていく。熱くて苦しくて、朦朧としているのに、肉棒の脈ひとつでさえ捉えられるぐらい敏感だった
 
 唇をすぼめて、強くしごきながら呑み込んでいく。じりじりと呑み込んでいく。じりじりと呑み込んでいくたびに、有間は辛そうな、でも気持ちよさそうな吐息を漏らした。
 
 暴れる肉棒からたれ流される苦しょっぱい腺液を飲み干すたびに、びりびりとした疼きが強い快感となって肌の上を撫でていく。熱く滾った溶けた鉛のようなものが躰の隅々まで広がっていく。それが辛くて苦しいのに、なぜかもっと思ってしまう。
 もっと味わいたい。
 もっと啜りたい。
 もっとしゃぶりたい。
 もっと。
 もっと。
 もっと。
 
 口の中で響く、腺液と唾液が混じって泡立ついやらしい水音。粘膜と粘膜が擦れる濡れた音が自分の中から聞こえる。頭のすぐ下にある口の中から、やらしく伝わってくる。それが全身をとてつもなく甘くとろかしていく。
 
 顔をオトコの股間にうずめ、やらしく頬張り、玉さえいじっているはしたない自分に暗く淫靡な快感を覚えてしまう。牝躰が羞恥と被虐で熱く昂ぶる。昂ぶっていってしまう。髪の毛さえ感じられるぐらい敏感になっていってしまう。
 なのに、もっと欲しいという自分がいた。
 なんてやらしい。
 こんなにいやらしい。
 こんなにもあさましい。
 
 有間の声が降ってくる。歓喜と官能と苦痛の入り交じったオトコの声に、頭が沸騰するほどの快感を覚えてしまう。背筋を何かが一気に駆け上っていくほどの愉悦に、気がつくと涙をこぼしていた。
 ぞくぞくする。
 もっと――――聞きたい。
 もっと、感じさせたい。もっと感じたい。もっと浸りたい。
 この悦楽に、この有間の肉棒に、この淫らな肉体の悦びに。
 目に見える唾液に濡れた陰茎と陰毛。
 鼻腔どころか肺いっぱいまで感じる牡の匂い。
 喉奥で感じる、おちんちんの熱さと逞しさ。
 口の中いっぱいにむせかえるほどのえぐみのある味。
 なにもかも、有間だった。
 見えるもの、聞こえるもの、触れるもの、味わうもの、嗅ぐもの。
 なにもかもが、有間だった。
 
「…………くぅ……んっ……」
 
 喉奥で啼いてしまう。
 苦しくて切なくて――でも気持ちよくて。
 体中をバチバチと甘美な電流が疾走していく。
 爪先も、髪の毛の先も、なにもかも痺れていってしまう。
 
 気持ちいい。キモチいい。キモチ――――――いい。
 
 目の前の牡の逞しいこの固さに、滾るこの熱さに、篭もるこの匂いに、痺れるこの味に、理性が消えてしまっていた。ただ求めてしまう。
 淫欲が溢れてきてしまう。こんなにも溢れてしまう。わたしという器から溢れかえってしまう。とろとろにとけた熱いものが粘つきながら、牝躰の中を犯していく。悦楽が、淫欲が、官能が、こんなにも犯していく。
 それだけではない。毛穴からもこぼれていくのがわかる。いっぱいに満ちて、こぼれていく。こんなにもいっぱいになっていく。
 躰が捩れていく。捩れていってしまう。こんなにも捩れていく。はしたなく。ただやらしく。ただ感じるままに。艶めかしくやらしい感覚に芯から溺れて、蕩けていってしまう。
 
 肉襞がひくつくのがわかる。挿れて欲しいとひくつき、わなないてしまう。
 乳首がたってこすれるのがわかる。痛いぐらい尖っていた。腰をゆするたびにこすれて痛い。痛いのに気持ちいい。気持ちよくて、泣けてしまう。啼けてしまう。
 肉棒を頬張ったまま喉奥で喘いでしまう。喘いだまま、肉棒をさらにしごきたて、吸い付いてしまう。
 そのたびに視界が白く熱いものが駆けていく。
 
 荒い息がこのねっとりとした空間を満たしていく。
 亀頭を咥え込む。唇をすぼめて、吸い上げる。右手で根本をこする。左手で陰嚢をゆすってやる。
 
「……はぁッ……」
 
 熱く滾った肉棒を玩ぶ。そのたびにさらに先からトロミがしたたり落ちる。それを舌の上にたれるのを感じながら、舌で先をこすってやる。
 いやらしい液をどんどん飲み干してやる。そのたびに躰がどんどん熱くなっていく。
 強く擦り上げるたびに、玉をゆすってやるたびに、口で啜ってやるたびに、トロトロと腺液が切っ先からしたたり落ちた。
 
 舌で乱暴に擦ってやる。指で握って根本を擦る。掌で玉を握りしめる。
 いやらしいトロミを直接喉に注がれる様な錯覚さえ覚えてしまう。それが気持ちよくて、さらに強く啜ってしまう。
 
「……あ……だ、ダメだ……よ……一子さん……」
 
 熱くたぎったものをさらに熱く高ぶらせていく。その上擦った声が心をかき乱す。
 あの液が。白くて、ドロドロとして、粘ついて、糸をひいて、こってりと濃いアレが。
 くるんだと思うだけで期待に打ち震えてしまう。高鳴ってしまう。
 
 欲しい。早く欲しい。沢山注いで欲しい。口に、顔に、喉に。欲しくてたまらない。
 さらに舌も唇も指も掌も、淫らに動きまわる。この熱い欲望のままに動きまわってしまう。有間をいかせようと奉仕してしまう。
 有間のですでに口の中いっぱいだというのに、むせかえるほど欲しかった。
 
「…………あぁ……っ、く……んっ、……はぁ……!」
 
 有間の感じきって惚けた嬌声。それがただひたすらに甘く、ただひたすらにいやらしく、子宮を疼かせていく。
 涎で濡れきった肉棒がぬるぬるとなり、指と擦れ合う。涎がしたたって汚れた陰嚢をほぐす。塩辛いようなえぐい味の腺液が口の中をさらによごしていく。それをおいしそうに飲み干すやらしいわたし。口どころか胃までよごれていく淫虐にわなないてしまう。
 
 早く。早く。早く。
 
 強くねぶる。
 強く吸いたてる。
 強くしゃぶる。
 
 早く。早く。早く。
 
 有間の手が頭を鷲掴みにし、髪をくしゃくちゃにする。口の中のおちんちんが膨らむ。
 
 来る。
 
 心臓が高鳴る。さらに強くしごき、さらに強く揉み、さらに強くねぶった。
 亀頭の裏側を舌で舐め、頬の粘膜で擦りつけ、喉奥で締め上げる。
 とたん、肉棒は喉の奥の奥にまで突っ込まれる。そして熱いものが弾け、浴びせられた。
 口の中で暴れまくり、浴びせまくる。熱くて、ぬるぬるとした絡むものが口いっぱいに広がる。
 
「……んん……ン……っ」
 
 瞼の裏が真っ白になる。強い電流で全身が弾けた。
 白濁した有間の牡の汁によって口が穢れていく。口の中が熱く灼けていく。熱せられたバターのように熱く、ゼリーのようにどろりとしたもので溢れかえる。酷く強い有間の味と匂いに溺れてしまう。濃くて塊のような粘液を喉に詰まらせながらも飲み干していく。
 ごくん、と喉が鳴るたびに有間の体が震える。視線が注がれているのが熱く感じられる。
 こんなものまでもいやらしく飲んでいる痴態を見られている。頭を胡乱にさせながら、恍惚として表情で、蕩けきったオンナの貌のまま、有間の出した、白くて粘ついて喉に絡む凄い味の精液をはしたなく喉を鳴らしながら、飲み続けた。
 
「………………っふぅ……」
 
 それでも量が多くて溢れしまう。唇でしっかり閉じても、端から白濁したこってとした粘液がこぼれてしまう。苦しくて息をつくと、だらだらと泡立って、口から牡の白い汁がぬるりとこぼれていく。
 
 それを手で掬いながら、口の中であれほど暴れていた肉棒を舌と唇で優しくあやしてやる。こびりついた粘液を刮げおとすかのように舌を這わせ唾液で洗ってやる。唾液と精液が混じって泡立ったものを何度も嚥下した。
 いつまでもこの熱い肉棒をしゃぶっていたかったが、口を離した。涎と精液と腺液が混じった糸が名残惜しそうにつらなり、そして切れた。
 
 少し力を失った強張りの先からとろりと精液がこぼれた。もったいないと舌を出して掬い舐める。切れ先からしたたり落ちるのに吸い付き、尿道に残ったものまで啜る。口唇と尿道口とを重ねる卑猥な口づけ。唾液ではなく濃くて塩辛くて苦い粘液を吸い取り、喉を鳴らしながらゴクンと嚥下した。
 
 有間はそんなわたしを見つめていた。冷酷な瞳が淫蕩に輝いていた。冷たいはずの瞳がどこまでも甘く、女のわたしを犯すかのように見つめていた。
 
「…………おいしかったぞ……」
 
 わざとこんな淫らなことを口にする。有間からさらに引き出すため。ぼんやりとした笑みと冷たい瞳。その相反するものがないまぜになってわたしの牝躰の奥、心の襞の最奥にまで入り込んでくる。
 
 突然、パサっと白い布が頭からかけられた。一瞬何をされたのかかわらなかった。その布をどけようとすると、声がした。
 
「遠野ー、台所なんかにいないで、こっちこいよ」
 
 バカの声に体が強張る。白い布の中にぶらさがってみえる有間の男根。それ意外何もない世界の外側から有彦の声が響く。
 
「いや、俺は一子さんの分までやっておくから」
「いいって。姉貴だってお腹減ったらなにか勝手に食べるからさ」
「そうも……いかないさ」
 
 有間の声が少し途切れ、上擦ってすべった。それもそのはず、わたしが今有間の陰嚢に口づけしたのだから。しわくちゃでところどころ剛毛が生えた袋の中にある不可思議な感触の玉を唇で求める。
 
「……どうした、有間?」
「な……なんでもない」
 
 有間の声に合わせて、強く吸ってやる。唇で玉を挟むと、きゅきゅとしごき、舌で舐め回してやる。今さっき出したばかりのそこに早く溜まるように、唇と舌で快楽に導くように奉仕してやる。
 
 手は動かさない。口だけ。エプロンの下で有間の股間に顔をうずめ、口だけで愛撫する。この逞しいもので貫いて欲しいと、愛液であふれぐちゃぐちゃになっているであろうオンナを犯して欲しいと、哀願するかのように舐め回す。
 
「……まぁいいけどさ、台所にいたってつまらないだろ?」
「……い、いや……別に……」
 
 なんとか誤魔化そうとする有間の玉に吸い付く。口の中に含んで、下で皺袋の皺を伸ばすかのように舐め回してやる。少しこりっとしたようなでもやわらかい睾丸の感触が心地よい。
 
「……ふぅん、そんなんのがいいのか?」
「……まぁな」
「ま、変わり者だからな、お前は」
「よく言うよ」
 
 一方の睾丸を吸う。音が出ないように気をつけてやる。唇で挟み、ぐにゅぐにゅと玩んでやる。べっとりと唾液がついた袋を今度はペロペロと舐めてやる。舌を押しつけて先に力をこめてぐりぐりと舐め回してやる。太股もぢゅっと吸ってやる。太股の震えが伝わってくる。
 
「……じゃあ俺は上にいるからな」
「……あぁ……あ……あとで行くよ」
 
 そういってバカの気配が去り、扉が閉まる音が響いた。とたんエブロンが外される。
 見下ろす有間の視線と合う。わたしは顔をうずめながら、はしたなく玉を舐め回している最中だった。口のまわりは涎と腺液でベタベタ。それでも陰毛と陰嚢に顔をうずめながら、恍惚としたまま舐め回し続けた。
 
 目の前の肉棒はまるで槍のように尖っていた。今すぐにでもわたしを貫けるぐらい滾っていた。
 
「……そんなに……欲しいんですか……」
 
 確認するような有間の声。それに答えるかのように玉を舌先で嬲った。ちじゅうっ、と音がするぐらい強く吸ってやると、有間は切なそうな呻き声をあげた。
 そして口から離す。口の回りについた涎や腺液を拭いながら、じぃっと有間を見上げる。
 
 有間の手が伸びてきた。愛撫するように、求めるように牝躰を撫で回す。期待に牝躰が打ち震えてしまう。突き動かすかのように胸の鼓動が激しくなっていく。
 わたしを立たせると、ジーンズを脱いだ。視線が股間に注がれている。恥ずかしいぐらい凝視している。飢えたオトコの目に、熱い高鳴りを覚える。
 
 こんなことなら下着を合わせておくんだった。上は透けないように赤系にしたのにショーツは水色をしていた。なんとなく手にとったものをつけてしまったから色や形があってない。それをオトコに見られていると思うと余計に恥ずかしい。
 ジーンズを脱ぎ捨てようとするが、脚に絡まってもつれる。カチャカチャとバックルを外して、脱ぎ散らかす。ショーツに手をかけようとする前に有間の手が伸びてきた。
 
「…………っん、ン……!」
 
 求めていた快感に牝躰が反応してしまう。水色のショーツの上から有間の指が蠢く。ショーツがぴったりと貼りついているがわかる。愛液がショーツを濡らし、媚肉に貼りついている。その上から形を顕わにするかのように指が動き、さらに貼りつかせていく。
 
「…………んっ……ふぅ」
 
 鼻にかかった掠れた声が漏れてしまう。辛い苦が体の深いところまで入り込んできて、つい漏らしてしまう。
 
「……こんなに恥骨がせり上がってきているよ」
 
 有間はわかるように大きく動かす。最初はよかったのに、もう足りなくて、太股が震えてしまう。布越しではなく直接触れて欲しくて、切なくなってくる。
 
 くちゅり
 
と鳴った。布越しなのに、淫肉が湿った音がイヤにはっきり聞こえる。それを隠すかのようにかぶる荒い息もかすかに喘ぎがまじり、やらしい協奏曲となって空間に満ちていく。
 
 肉襞を掻き分けるような指の動きに、豆を軽く触れていくと流れる電流に、濡れた愛液がからみたてる音に、そして自分が発しているとは思えないやらしい喘ぎ声に、痺れていく。溺れて――――いく。
 
 有間の動く指先だけを見つめた。ショーツの浸みがどんどん広がっていく。こちらからもはっきりとわかるぐらい湿った浸みが広がっていく。その浸みを広げるかのように有間の指は丹念に這いまわる。
 
 期待に牝躰が疼き、与えられるかすかな快感にさえ反応して啼いてしまう。
 こんなに準備ができいるというのに。こんなに入れて欲しくて躰が啼いているというのに――ただ布越しにいじるだけ。
 
 期待に打ち震えた胸はいつしか切ない疼きとなっていく。与えられる快感をさもしく漁るかのように自ら腰をふってその指に擦りつけてしまおうとする。そんなはしたないことを、と思っても躰が熱く、頭はさらに熱く、ただその甘美なくせに微弱な電流を貪ろうと動かしてしまう。
 
「…………有間ぁ……」
 
 切なそうに喘ぐ淫靡な誘う声。ただひたすらにオトコが欲しくて啼いている鼻にかかった嬌声をあげてしまう。
 
 それでも有間はただ弄るだけ。恥骨を押しつけると、そこから逃げるように指を引いてしまう。逃げた指に触れようと股間を押しつけてしまう。
 はしたなく股を開いて、愛液で濡れた秘所をさらけ出すかのように前へと押し出す。気がつくとあそこを見せつけるようにしていた。
 羞恥で全身が一気に加熱される。しかしそれも一瞬のことで、淫蕩なわななきが羞恥と理性をとろかしていく。
 
「……一子さん……すごいや……」
 
 そういって有間の指が蠢く。軽いタッチに身だけでなく心までも焦がれていく。熱くぬかるんでいるところに指先が触れていくたびに、触れられた箇所がさらに熱く、痒く、そして疼いていってしまう。
 
「……恥骨がせり上がって……びちょびちょで……」
 
 いやいやと顔をふる。なのに腰はさらに突き出してしまう。早くいじって、存分に貫いてと哀願するように太股を開いてしまう。腰を揺すってねだってしまう。勝手に動いてしまう。声も、躰も、心さえも悲鳴をあげて求めてしまう。
 
「…………有間ぁ……ありまぁ……」
 
 こんなに腰や躰は動くというのに舌は回らない。舌足らずなって掠れてしまう。ただメチャクチャに動き、言葉にさえならない。
 
 目の前でびくんと震える強張り。有間のオトコ。それが欲しくて手を伸ばす。その手を掴まれてしまう。
 有間を見ると、あの冷――――――酷な――――瞳があった。
 その目に射抜かれる。射すくめられる。この火照った躰も、この滾った劣情も、心も、魂さえも。乾一子を構成するなにもかもすべてを貫かれた。
 とたん電気が流れる。頭のてっぺんから爪先までビリビリと。目の前がスパークする。白い閃光が幾度も駆け抜け、躰を震わせる。甘く疼かせる。狂おしく。ただひたすらに狂わされていく。狂っていく。狂っていって――――しま――――う。
 
 有間はわたしの股間に手をはわすと、濡れたショーツを指で引っかけて横にずらす。ひんやりとした空気があそこに触れた。
 
「――――――っあぁっ!」
 
 次の瞬間、わたしは立ったまま貫かれていた。有間のオトコでオンナが貫かれていく。髪の毛一本一本がそそり立つような快感が一気に尾てい骨から背筋を駆け抜けた。
 真っ赤に灼けた鋼鉄の棒で貫かれたかのよう。みっちりと入り込んでくる。肉襞を引き裂くかのように入り込んでくる。一瞬だけ痛むが、そのあとにじぃんと痺れるような快楽がざわざわと背筋をはいずりまわる。
 
「……いい……いいょ…………っふぅ……んん……」
 
 啼いていた。貫いた肉棒がそのまま声となって喉から出ていく。
 有彦に聞かれてしまう。いくら二階にあがったとしても聞かれてしまう。それでも声をあげてしまう。
 気持ちいい。気持ちよい。快楽が肌を撫で上げていき、産毛がそそり立っていく。肌がビリビリと電気が流れ、敏感になったところを、撫でられたかのような快感。
 耐えきれなくて有間にしがみついてしまう。快楽で膝がガクカグと震えてしまう。首に腕を回し、ただひたすらに嬌声をあげた。
 
「……あぁ……いい…………いい……いい……」
 
 入ったまま、有間は動かない。いやゆっくりと押しつけるように動いている。それがたまらない。
 
 一番奥までみっちりと入り込み、お腹を突き上げてくる。こつんこつんと躰の一番深いところを有間が押し上げてくる。
 
 そんな状態で有間は腰をゆっくりと回す。恥骨と恥骨を摺り合わせるかのように、やらしく動かす。そのたびにぷっくりとふくれたクリトリスが潰される。擦られる。いじられ、もみくちゃにされる。有間の肌に、有間の陰嚢にごりごりと擦られていく快感に、わたしは涙さえ流してしまう。
 
「……どう? 一子さん……」
 
 冷たい瞳にわたしはただ首を揺するだけ。声にならない。答えてられない。
突き上げられたまま腰が揺すられる。
 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
 
「……スゴい……締まってくる……」
 
 有間がわざわざ説明する。しかしそれにさえ反応できない。頭が痺れて働かない。だ甘美でこらえようもない快楽がピンク色の電流となって脊髄を流れていくだけ。
 
 有間はわたしの脚を持ち上げさらに押しつけてくる。
 ぐいぐいと入り込んでくる。まだ入る。入ってきてしまう。
 
 こんなに。スゴい。こんなにも。スゴすぎる。
 
 全身が勝手に痙攣する。いたるところで弾けてしまう。
 快楽がどろどろとなって泡立ち、躰をぐちゃぐちゃにしていく。力が入らず崩れ落ちそう。なのに腰だけは動いてしまう。
 
 さらに。もっと。
 
 貪ってしまう。愛液と粘膜が淫らな水音をたてる。荒い息と途切れ途切れの嬌声。そして絶え間なく流れる蕩けるような真っ白になる電流。
 
 少しでも伝えたくて有間に口づけする。
 舌を絡め、吸い付き、舌を貪る。
 苦しい。気持ちいい。わからない。たまらない。よすぎる。
 
 押し上げられていく。
 有間の体臭とわたしの体臭と汗と腺液が入り交じった匂い。
 汗でぬめった肌が絡みつき、こすれることさえ快感になっていく。
 なにもかもが優しく、そして激しく、敏感な躰を犯していく。
 有間の吐息が、有間の肌が、有間の声が、有間の動きが、有間のオトコが、有間の視線が、なにもかも、こんなに犯していく。
 
 ぐずくずに爛れていく愉悦。
 爛熟しきった実が弾けたような、甘ったるくてたまらない快感。
 どこまでも崩れ、どこまでも堕ちていく底がない恐怖に似も似た甘美感。
 有間の指先がさらりと撫でるだけで声をあげ、唇を合わせるだけでこんなにもわなないてしまい、腰を揺すられるだけではしたなくよがってしまう。
 
 あの冷たい瞳さえも耐えがたい快楽に揺らめいていた。冷たい瞳のその舌にある熱い情熱がこぼれていた。溺れてしまうほどの熱く情熱的なそれに沈んでいく悦楽。
 
 有間。有間。有間。
 わたしの弟。小さいころからの知り合い。そして――――。
 
 胸の奥にある想いさえも、とろとろにとろけていく。熱く立たれた肉欲の渦に巻き込まれて、蕩けていく。蕩けていってしまう。
 
 互いの指がはいずりまわる。有間の手が胸をまた玩ぶ。しがみついたわたしの手が首筋を撫で上げる。舌どうしが絡みあい、ただ肉欲を引き出す。腰は揺すられ、さらにつよく、さらに深く、淫らな感覚を引きずり出していく。
 
 ただの牡とだたの牝を、引きずり出してしまう。胸の奥にある想いも、苦しい情も、狂おしい恋慕も、なにもかも引きずり出してしまう。
 
「…………気持ちいい……いい……」
「……一子さん……」
 
 声さえも快楽を増幅していく。耳に響く低い声に、荒々しい獣じみた吐息に、鼻にかかった嬌声に、犯されていく。
 さらにいやらしく、もっと奔放に、ますます淫らに。
 軽い絶頂を迎えても、なおさらに昇らされてしまう。
 頭の中がからっぽになっているのに、さらに何かが出ていってしまうような本能的な恐怖と、それを上回る絶頂感。
 瞼の裏に白い閃光が疾走する。頭の先がチリチリと灼けるよう。苦しいのか気持ちいいのかわからない。
 
 躰の内側が、内臓さえもが捩れていく。このたまらない快感に押し上げられ、突き上げられて、狂ってしまう。背が勝手にのけ反ってしまう。脚がつるかのように勝手に伸びてしまう。
 
 さらに押し上げられる。
 有間がとうとう腰を動かし始める。
 さらに強く、さらに深く、みっちりと入り込んでいる肉襞をかけわけて、さらに入り込んでくる。
 腰を掴んで激しく貫かれる。
 脳髄が直接貫かれているような感覚によがってしまう。
 
 声にならない声だけが台所に響き渡る。寄りかかった壁に押しつけられ、隣の食器棚がカタカタと揺れる。
 
 ただ、快感を貪りあう。
 ただ、声をあげる。
 ただ、ひたすらに肉の悦びに浸ってしまう。
 
 淫欲が脳天まで貫き、躰に満ちあふれた甘美な感覚で満たしていく。いっぱいにしていく。あふれていくる毛穴という毛穴からこぼれているるぬるぬるとこぼれていく。なのに、中の圧力はさらに高まっていく。
 
「…………っあぁ……ン……ふぅ!」
 
 頭が白熱する。
 快楽が蹂躙していく。辛い苦の上をさらに快楽が塗りつぶしていく。躰中に溢れていたのに、さらに注がれていってしまう。なにもかも蕩けてしまう。神経が炙られるような淫悦が全身を熱く駆け抜けていく。
 
 有間の息がさらに短くなっていく。
 突き上げが激しくなっていく。
 そしてさらに奥をこじ開けるかのようにぐりぐりと入り込んでくる。一番奥の子宮がこすられて、ゾクゾクするような、泣きたくなるような身震いする感覚に、媚びる声色で喘いでしまう。欲望が滾り、喉がひりつくまで喘いでしまう。
 
 有間の亀頭がそこをこじ開けてねじ込まれる。そこへ灼熱の液体が、大量にぶち撒けられた。
 
「――――――っああぁぁぁぁぁっっ!」
 
 内側が灼かれていく。爛れていく。躰の奥で幾度もかけられる。イラクが幾度も駆けていく。
 ぶるぶると躰が震え、大きくのけ反る。大きく悲鳴にも似た嬌声をあげた。熱い液が子宮に満ちていくオンナの悦びに、声をあげてよがっていた。
 
「……ありまぁぁっっ!」
「…………一子さんっ!」
 
 有間は腰をしっかりと抱いて、わたしが逃げないように、その灼熱の精をたっぷりと注いでいた。
 
 どくんと注がれるたびに躰がバラバラになっていくような浮遊感。頭が痺れて何も考えられない。熱いエキスが隅々まで広がっていく。犯されていく。あのねっとりとした牡の汁で穢れていくというやらしい肉欲に、ただ感じてしまう。浸ってしまう。涙を流し、舌を突き出しながら、子宮に注がれるというオンナの悦びに溺れていた。
 
「……出てる……出てるぅ……」
 
 有間にしがみつきながら、躰を灼いていく精液を味わい続ける。むせかえるほどの牡と牝の熟れきった臭いの中、有間もわたしも躰を震わせて、快楽の余韻に浸っていた。
 
 

 
 
 手足を動かしたときにぶつかったのか、食卓の上ではスパゲティが散乱するという惨状の中、気怠げなでも甘い後戯にひたっていた。
 互いの躰を少し撫であいながら、わたしは煙草に火をつけた。
 ニコチンがまわってきて、気持ちいい。躰全体がまだ熱く、でも満ち足りて心地よかった。このまま眠りたかった。
 
「……一子さん」
「――――ん?」
 
 有間の笑った顔。冷たい瞳のその奥にあったいやらしい光は消え去り、今はいつもの柔らかい光に溢れていた。
 
「――今はやらしい味がしますよ」
「…………」
「…………冗談ですよ」
 
 にらみ付けると有間は慌てて否定した。しかし許すつもりなんて全くない。
 額を中指で軽く弾く。
 
「――――ん?」
「わかりましたよ」
 
 やれやれといった表情。大きく息を吸い込むと煙草独特にニコチンの香りとともに、有間の牡の臭いがくすぐった。
 
 煙草をふかし、冷たいくせに優しい光を浮かべている瞳を覗き込みながら、この臭いならいいか、とふと思った。有間にもわたしの臭いが染みついているしな、とも思った。
 
 なんとなくおかしくてくすりと笑った。有間がおかしそうな顔をして見つめているのがさらにおかしくて、わたしはさらに笑った。
 それに誘われてか、有間も笑った。
 
「――んじゃあ、有彦が待ってますから」
「――――ん」
 
 軽い笑みを浮かびあいなから、有間はいそいそと服を着始める。その様子を眺めながら、男ってやってしまえばこんなもんなのかな、とふと思った。もう少しかまって欲しいのか、それともこれでいいのかわからない。これでよいと思う反面、もう少し側にいても欲しい気もする。
 
 ――――ふむ。
 
 ニコチンを味わいながら、出ていく有間の後ろを見つめている。ゆったりとした充実感とともに寂しさが少しだけつのった。
 
「――あ、イチゴさん」
「――ん?」
 
 有間がこちらを振り返り、にこっと笑う。ハニーフェイスの可愛らしい笑み。
 
「今度、出かけませんか?」
「面倒」
「それじゃあ。また今度」
「――――ん」
 
 好きな男の誘いを面倒の一言で即断する。
 扉が閉まって見えなくなった間の背中がまだあるかのように、扉の方を見つめ続けた。
 寂しかったはずなのに、ただ有間に誘われただけで満たされてしまった。バカバカしいほど単純な心の動きに笑ってしまう。
 冷たい瞳と温かい笑みを浮かべた、有間の顔。心地よい疲労感と乱れたグチャグチャになった服の中で、実につれない有間らしいなと、くすくすと心から笑い続けた。
 
 

 

 

あとがき

 
 しにをさん、西奏亭100万ヒットおめでとうございます。
 
 えっちな話はどうしても長くなる傾向があるのか、かいてみればこの量にトホホなのです。ただのエロエロなSSで、こんなんでいいのか?! と激しく悩みながらも、お祝いさせていただきます。
 
 とめどなくなりそうなので、最後に。
 
 しにをさん、これからも天抜きやエロSSで頑張ってください。期待しています。
 
 

大崎瑞香 拝
19th December. 2003. #126

 

 
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