聖母の笑顔

作:古守久万

            




「有間。あたしに似合わない職業って何だと思う?」

 ある日突然、本当に唐突に一子さんは俺に質問を投げかけてきた。
 無人の乾家、そのリビングでのんびりしていたら、帰ってきたらしい一子さ
んがドアを開けるなりいきなりの質問。
 確かに今まで有彦と『一子さんの職業って何だろう』ってあれこれ論じた事
があるけど、それを知って気を悪くしたのだろうか。

「?」

 だが、そう言われてみると意外と難しい質問だった。案外、一子さんだった
らどんな職業でもこなせてしまいそうだからだ。刑事だったり小説家だったり
と可能性は考えたが、その逆は考えた事がない。
 というより、思いつかないのだ。

「えーとですね……」

 そう言いながら頭をフル回転させて、日頃の一子さんの言動やその他をフラ
ッシュバックさせていく。
 俺は目の前にいる一子さんを少なからず知っている。
 それは趣味とか好物とかなんて些細な事から、さっきもそうだったけど、部
屋の戸は必ず左手で開け閉めする、なんて一緒にいないと分からないような癖
も。
 そして……どんな所が悦く感じてくれるかとか、どんな声で啼いてくれるか
とかも。
 有彦には悪いけど、まぁ、そう言う関係な訳で。
 だから余計、一子さんの欠点を探すような事は難しかった。それでも、一生
懸命に俺は質問に答えようと努力して、

「……聖職者、とか」

 考えに考え抜いて、出た結論はこれだった。
 どちらかといえば放蕩、というイメージがある一子さんに、戒律の厳しいあ
あいう世界は似合わないと思ったから。

「……そっか」

 頭をぽりぽり掻きながら、一子さんはつぶやいた。

「わかった。有間、サンキュ」

 そう言って、そっけなく一子さんは俺の前を後にした。その時も、やっぱり
戸は左手で閉めていた。
 しかし、別にその日は何もなく、普段からちょっと不思議な行動をする一子
さんだから、俺は特に疑問を感じないでいた。



「有間。三十分したらあたしの部屋に来てくれる?」

 またある日。
 今度も唐突に、一子さんは俺を呼んだ。
 別に部屋に呼ばれるのは珍しい事では無い。
 部屋を片づけさせられたり、お酌をさせられたり。
 そして……抱き合ったり。

 きっかり三十分、俺はリビングでくつろいでから一子さんの部屋を訪れた。

「入りますよ」

 一応マナーとしてそう呼びかけると、中からは『ああ』という素っ気ない返
事。でもそれが一子さんな訳だから、俺は普通にドアを開けた。

「……」

 驚いた。
 あまり動じない自信があった自分でも、思わずドアの前で立ち止まってしま
うくらい。

「どうした? 入ってきな」

 一子さんの顔は笑っている。
 ただしそれはいつもの一子さんの少し醒めたような笑顔と言うよりも、して
やったりの笑顔。

「……反則ですよ。そんな格好」

 俺はようやく足を踏み入れてドアを閉めると、改めて一子さんの全身を上か
ら下へ見渡した。
 思いっきり、聖職者の服だ。
 これで思い出したけど、確かあれから一月位か。
 すっかり忘れていた俺には、不意打ちもいいところだった。

「用意するの意外と苦労したぞ。ちょっとひねって巫女服って手もあったけど
な、素直にいかせてもらったよ」

 一子さんは黒と白で統一された修道服に身を包んでいた。それだけでなく、
しっかりと同じデザインのヴェールも被り、更に部屋の中だけどブーツまで履
いて、完璧な修道女だ。
 そこから僅かに見える束ねられた髪から、流石に髪型はポニーテールのまま
のようだけど、それはそれで一子さんらしくて斬新でいいな、とも思えてくる。

「似合ってるか?」
「そりゃあもう」

 その質問には、即座に頷いてしまう。
 完敗だ。きっと、一子さんには似合わない服装なんて無いんだろう。

「うん、満足。ちょっと有間に一泡吹かせたかったからな」
「全く手の込んだ悪戯ですね。買ったんですか?」
「ああ。中々見つからなくってな、ここまでかかったよ。本当は次の日にでも
見せてやりたかったんだがな」
「忘れた頃だったから、余計効きましたね」

 俺はテーブルの前に座って、その向こうのベッドに一子さんは腰掛け、そん
な話をする。

「そうか。じゃあ、こんなのはどうだ?」

 と、一子さんはロザリオを包み込んだ手を胸の前で合わせると、聖母のよう
な笑顔を浮かべる。
 俺にしか見せてくれない、一子さんの本当の笑顔。
 その見目麗しき姿に、俺も自然と笑みがこぼれる。
 一子さんとそんな関係にいられる事が、素直に嬉しかった。

「神よ、我が祈りを捧げます……なんて言うのかな?」
「どうなんでしょうね、それできっと合ってますよ」

 そう言いながら、今度は少しおどけたような、子供っぽくて優しい笑顔。

「ふふ……」
「あはは……」

 笑った。
 二人ともおかしそうに、本当に笑顔で。
 こんな時間が、本当に幸せだと思う。

「でも本当に似合いますね。そのままシスターになってもいい位ですよ」

 俺は本当にそう思ったから、何気なく言ってみた。

「そりゃ、無理だな」

 意外にもあっさりと、一子さんは否定する。

「どうしてです? そんなにお似合いの格好なのに」
「……見た目の格好、はな」
「?」

 一子さんの言葉は、少しだけおどけたものを含んでいる。
 意味が分からずたたずんでいると、すっと一子さんが立ち上がった。
 そして、やおらその修道服の裾を片手でつかむと、ゆっくりと引き上げてい
く。
 露わになる一子さんの素足。
 ふくらはぎから膝。
 そして、すっと膝を外に向けるようにしてスカートから足をはみ出させると、
真っ白な美しい太股を見せる。
 俺は思わずその美しさに、ごくりとつばを飲み込んだ。

「ふふっ……」

 俺の表情が変わったのを見てか、一子さんがいつものような悪戯っぽい笑顔
を見せる。

「有間、これでもあたしが清楚なシスターに見えるか?」

 そう言って一子さんはもう片方の裾も掴むと、胸の前までその手を引き上げ
た。

「……」

 言葉を失った。
 清楚な修道服。
 そこから露わになる一子さんの綺麗な両脚。
 更に、その付け根には下着などなく、そこには一子さんの淫靡な繁みがあっ
た。

「ほら、何もつけていない」

 そう言って俺を見下ろしながら、一子さんが淫らに微笑む。

「こんなに淫乱な格好をして、何が聖職者だと思う?」

 そのギャップは、あまりにも刺激的な光景だった。
 ごくりと、さっき以上に明確な音を立てて喉が鳴る。

「な……有間。私が聖職者だったら、お前はあたしをどうする? このまま何
もしないでいられる?」

 それは、明らかに挑発を含む一子さんの誘惑。
 なんで……そうなったんだろう。
 わからない。

「……」
「おいで、有間。聖職者を汚してみたいと思わない?」

 一子さんがそう言って、もう一度聖母の微笑みを見せてくれたのが合図だっ
た。
 俺はふらりと立ち上がると、一子さんの足下に跪いた。
 それはまるで、聖母に祈りを捧げるように。
 しかし、瞳は一子さんの繁みだけを見つめて、本当は全ての邪念を捨てなく
てはいけない筈なのに、今は心全てを邪念に支配されようとしていた。
 薄く華開いた一子さんのそこから、淫らな匂いがする。
 神に背く行為を覚えたシスターから、濡れた蜜が零れ落ちる。

「舐めなさい、有間」

 その声はマリア。
 だから俺は素直に従うと、舌だけを伸ばして一子さんの花弁に触れた。

「そう……ゆっくり、時間をかけて……」

 少しだけ声がうわずった一子さんのそこに手を添えて、にちゃりと開きなが
ら雫をすする。
 口の中に広がる淫らな味により一層の興奮を深めて、貪るように蜜を飲み込
んだ。

「はぁ……っ、いいわよ、可愛い……」

 母の愛液を啜る子。
 その図式は神経を狂わせて、奥深くまで舌を伸ばし、遂には指を差し込む。
 ぷちゅりと音を立てて飲み込み、その洞穴から愛液を掻き出しては舐める。

「ああ……っん」

 耐えられなくなったのか、一子さんがベッドに座り込んでしまった。
 俺はその体を追うと、力の抜けた両脚を広げて、その淫靡な花弁をよりいっ
そう華開かせた。
 ヒクヒクと蠢くそれは淫らに濡れて、男を求めている。
 本来はこの教えにはあってはいけない行為。それなのに、

「一子さん……」

 今はそれを強く求める雄が、

「有間……あたしも、もう……」

 そして雌がここに。
 何も言わずズボンを脱ぎ捨てると、俺は一子さんの上にのしかかった。
 既に痛い程に大きくなった獣を花弁に擦り付けると、俺は一気に奥まで突い
た。

「はあうん……っ!」

 大きくおとがいを反らし、子宮口まで穿たれた聖母は一撃で達する。
 激しく締め付ける花弁に、俺は続けざまに自らの欲望を送り込んだ。

「んあっ、はあっ、ああ……っ」

 歪む美しい顔。
 決して乱れる事のないその顔には汗が滲み、穏やかなはずの視線は胡乱に宙
を彷徨い、神の声を紡ぐための唇は半開きで、その口からは嬌声と唾液が零れ
ている。
 あまりにもおかしい。おかしすぎる。
 そんな聖母を貫く自分に、背徳の快感が駆けめぐった。

「……くうっ!」

 俺はただひたすらに聖母を犯し続けると……その胎内へ、おぞましい白濁を
叩き付けた。

「はあっ! ああああああっ!!」

 聖母は、最後の突き上げに淫らな声を上げると、全身を震わせて屈する。
 どくりどくりと吹き出す精液に、自らの胎内を汚されて達していた。
 腰を打ち付けて最後の一滴まで注ぎ込むと、俺はゆっくりと体を弛緩させて
その体の上に落ちる。
 はあはあと、互いの呼吸だけが支配する空間。
 やがて、その呼吸が聞こえなくなる頃、

「?」

 すうっと俺の後頭部を優しく撫でる手が。そして、

「ふふっ……有間、激しすぎだぞ」

 声が。
 頭を上げてその主を見ると、にっこりと笑う一子さんの姿。
 一子さんは、やっぱり聖母だった。
 ただし、それは堕ちた聖母。
 禁断の味を知ったイヴの姿。
 だが、俺はそんな一子さんだからこそ、愛しかった。
 堕ちたからこそ、こうして知り得た快感。
 神に感謝して、口づけを交わし。
 ただ母に抱かれた子供のように胸に顔を埋めるだけだった。



「はあ……っ、有間」
「どうしました?」

 あれから続けざまに花弁を貫かれながら、合間に一子さんが俺に尋ねた。

「どうして……んっ、靴とかヴェールは脱がさないんだ?」

 一子さんは『体には』何もつけていない。
 修道服はとうにはぎ取られ、やはりブラを介さずに現れた豊満な乳房は何度
も揉みくちゃにされ、爪を立てられ、また先端の真っ赤な乳首は吸われ、噛ま
れていた。
 しかし、首からはロザリオを下げ、頭にはヴェールを被り、そして脚には編
み上げブーツを履いたままだ。
 全裸にはあまりにも不釣り合いな格好。
 しかし、俺はそれを望んでいた。

「だって……」

 俺は照れ隠しにズンッ! と一子さんの膣内を突き、

「んっ!」
「この方が……背徳的でいいじゃないですか」

 強い快感に瞳を閉じた一子さんに向けて、楽しそうに答えた。

「はあ、っ……マニアックだな、有間は」

 目をうっすらと開けて俺の事を見ると、一子さんは少し呆れたように笑った。
 その笑顔が可愛くて、もっともっと可愛く歪ませたくなる。

「ひどいなぁ、そんな言い方。誘ってきたのは一子さんなのに。じゃあ、そん
な事も考えさせない位に、もっと気持ちよくしてあげますよ、シスター……っ!」
「んんっ、バカ……ああっ!」

 最奥に先端をぶつけられ、快感に理性を奪われていく一子さんの可憐で淫靡
な姿。
 その姿に満足してにっこりと微笑む俺は、無邪気な子供になって聖母の躯を
責め続けるのだった。

(了)



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