年の始めの初めての

作:しにを

            




「さて、では始めましょうか」

 一拍の間。

「よろしいですね?」

 はっきりとした落ち着いた声。よく通る澄んだ声。
 それによって開幕が宣言された。
 発言者は長い黒髪の少女。
 目の前の存在が自分の意志に従う事を当たり前と思っている者の表情。
 それでも一応の疑問形にはしており、返る答えを待つ。
 従順に頷くならば良し。否と唱えるなら然るべき処置を。

「何をさ?」

 返ったのは、とりあえず否応の意思表示ではなかった。
 問いに問いを。
 やや戸惑いはあるが、特に動揺は感じられない声。
 怯え、あるいは己の未来に暗雲を感じた表情はしていない。まだ。

「何をと申しましても……。今日は年初ですよね、兄さん」
「ああ。言われるまでも無く。まったくもって疑い様も無く、元旦だな」

 秋葉の言葉に、今度は志貴は強く頷く。
 朝の目覚めから始まり、年初めの挨拶やら、雑煮におせち、初詣に、その他
諸々の初、初、初……
 普段はさほど意識しないものまで、今年初めてと言う事で珍重されていた。
 しかし初夕食を終え、初風呂にも入り、もう今年の初日も過去になろうとし
ている。
 なろうとしている?
 ふと、志貴は違和感を覚えた。
 何で今こんな会話をしているのだろう。
 秋葉と話をしている事自体は別段おかしくないが、その前に何をしていただ
ろう。
 ベッドにいると言う事は自分の部屋か。
 でもまだ寝ようとは思っては……、なんだか頭がぼんやりとしている。
 他の皆はどうしている?
 どこかで何かが切れている。

「何かお忘れでは無いですか?」

 記憶の底を探る作業は、声により中断させられた。
 とりあえず秋葉の質問に答えようと志貴は気持ちを切り替える。
 はてと考え込む。
 忘れているもの、何かあっただろうか。
 秋葉は答えを待つ顔。促すのではなく待つ顔をしている。
 一方の指揮はしばし思い悩む顔をするが、結局は何も思い浮かばない。
 
「後は初、初……、そうだ初夢があるな」
「それもありますね。でも、その前に大事なものが残っています」

 かろうじて明るくなった表情が、一瞬で霧散。
 大事なものか。
 あらためてうむと考えるが、どうしても志貴には答えが浮かばない。
 今の状況が曖昧な為もあるのかもしれなかった。
 何をしたかなあという辺りでどうにも記憶が定かでなくなる。
 夕飯を食べて居間でお茶を入れて、そうしたら皆が……。
 駄目だ。
 
「どうも埒が明きませんね。まだ頭が働かないのかしら?」

 四苦八苦している兄の姿に、秋葉小声で呟く。
 後半は独り言めいていたが、志貴には剣呑でない響きに感じられる。
 まだって何?

「いいですか、兄さん。まずは今どこにいるのかを認識なさって下さい」
「どこにって、ええと」

 辺りを見回す。
 おや、よくゆく見ると自分の部屋ではない。
 勘違いをしていたか。
 ここは居間だ。

「居間だな。
 という事は移動はしてなくて、そのまま俺はここにいたんだ」

 ひとつ謎が解けた。
 部屋に戻った訳ではない。ならば移動の記憶が無くとも当然と言えば当然。
 しかし、それは新たな謎の出現を意味していた。
 今の居間にあるベッドはいったい何だ?
 その疑問の顔を見て取ったのか、秋葉は言葉を続けた。

「ベッドは運んで来ました。兄さんがお眠りになっている間に」

 なるほど、眠っていたのか。
 だから途中の記憶が断絶しているのか。
 これも納得だ。
 
「眠ってしまったのか。
 だったら部屋まで運んで……、いや起こしてくれれば良かったのに。
 ベッドなんか運ぶのは大変だったろう」
「いいえ、兄さんには眠って頂いたんです。
 準備が整うまで、少しの間だけ」
「どういう事だそれ…ッて、秋葉ッッ」

 問い掛けようとした声が、途中で叫び声に変わった。
 無理も無かっただろう。
 いきなり妹が服を脱ぎ始めたのだから。
 声を大きくした兄を気にせず、当たり前のように妹は行為を続けている。
 そうなると志貴としても、ただそれを注視するしかない。
 すんなりとした腕、ほっそりとした脚。
 大事な部分を隠しつつ、薄っすらと透かせている下着。
 あたふたとしている志貴に対して、下着姿のまま平然としている秋葉という
構図はどこかシュールな光景たった。
 脱ぐだけ脱いでしまい、何事もなかったように秋葉は先の問いに答えた。

「だから、兄さんに休んでいて頂いたんです。
 皆の準備が整うまで」

 そんな事より、何で突然服を脱ぎだしたんだ。
 口がそんな事よりと動きかけ、声を発する前に止まった。
 志貴の脳裏に何かが点滅した。

 皆?

 唐突と言えばあまりに唐突ではあった。
 が、突如、志貴は気がついた。
 いつの間にかこの部屋にいるのが二人だけではなくなっている。
 志貴と秋葉だけではなくなっている。
 否。そうではないのだろう。
 この短い間では何も変わっていない。
 ただ、秋葉の言葉によって破られたのだろう。秋葉以外を認識しない状態が。
 もとより、ここにいるのは秋葉と志貴だけではなかったのだ。
 会話している二人を囲むように佇んでいた面々。
 琥珀、翡翠といった遠野家の本来の住人はもちろん、真祖の姫君、ツインテ
ールの少女。対立している筈の教会の代行者に錬金術師等など。
 揃いも揃って趨勢を見守るが如く無言のまま立っていた。
 
 気付いたと同時に、今まで視野に入らなかった事がおかしいほどの圧倒的な
存在感が現れていた。志貴は異様なプレッシャーを感じずにはおられない。
 だが、しかし。
 何なのだろう、これは。
 皆がいるのはまあいいとして、何だこのシチュエーションは。
 目覚めてからこの方、実はまだ夢の中にいるのだろうかと志貴はぼんやりと
疑い始めた。
 何故ならばあまりにおかしい。
 皆半裸とは何事だろう。
 眼鏡をかけた先輩も。
 髪にリボンの少女も。
 誰もかれも、皆が皆。むしろ全裸よりも生々しく映る下着姿。
 見えそうで見えない魅力が減じた少女が一人いたが、これはこれで。

「で、お分かりですか、兄さん。
 これから私たちが何をしようとしているのかを?」

 志貴は黙っていた。
 返事をせずに秋葉を見つめている。
 しかし、それはさっきまでの状態とは違う。
 意識はある程度はっきりとしてきている。
 ベッドと半裸の少女の組合せという材料から判断されるもの、それはうっす
らと頭に浮かんできてはいる。
 状況を掴み予測は立てられる。
 だが、問いにはあえて答えていない。
 あるいは理性が明快なる答えを口にする避けようとしている。
 言葉によって事実となり、具現化されるのを禁忌とするように。

 おそらくは志貴の想像は合っている。
 一見絢爛にして酒池肉林な光景にも見えるが、どちらかと言うと寄って集っ
て貪られる前の雰囲気。
 食虫花に囲まれる胡蝶の心境。
 普段なれば、思うままに蜜を吸うだけだが、今は……。

 志貴が答えないと見て、秋葉が口を開く
 僅かに口元が愉悦を浮かべている。
 始まりを、真の始まりを宣言するのが嬉しくてならぬ様子。
 唇が動く。
 声を発する。
 重々しく正解を述べる。

「姫初めです」

 沈黙。
 長い長い、間。

「なるほど」

 ようやく志貴から声が出た。
 もちろん、納得や感嘆の声ではない。
 窮した挙句、それだけを口にするのがやっとだったという声。
 自分がどんな顔をしているのか志貴には分からない。
 呆れているのか、表情を強張らせてているのか、怯えを見せているのか。
 あるいは知らず笑みをこぼしているのか。
 そもそもこんな時にはどんな顔をして良いのか、志貴にはわからなかった。
 実際のところは、いろんな色を混ぜた挙句形容しがたい色になったとしか思
えない言うべき、表情の読めない表情を浮かべていた。

 ただ、とりあえずは表立った拒否の表意とはなっていないと、秋葉らは見て
取ったようだった。
 あるいはそう解釈する事に決まっていたのか。
 ようやく話が前に進んだと、秋葉は満足げに顔を綻ばせた。

「本来は、その役目に相応しいのは、妹である私だと思います」

 とたんに集中する非難やら何やらの視線。
 しかし秋葉はまったく動じていない。
 心の底よりそう考えているのだろう。
 揺るがない。
 また、一般的な道理云々、は彼女にとってためらうべき問題とならない。

「それを断固として主張したいのはやまやまですが、無駄に騒動を起こして結
果として貴重な時間を失うのは不本意です。
 そんな事をしていて、いつ泥棒猫か鳶が現れるともわかりませんし」

 その意見に賛同する表情を浮かべる者と、やんわりと我が事にあらずと受け
流す者に二分。

「お正月ですし、常日頃以上に寛大な心持ちになるのも、上に立つ者としての
度量と思われますう。
 それでですね、公平に分割をしようと皆で相談して決めました」
「分割?」

 何となくおぞましい響き。
 浮かぶのは、体をバラバラにさせられた自分の姿。
 誰に責任を問えばいいのやら。

「何か猟奇的な事をお考えのようですが、そんな血生臭いお話ではありません。
 つまりですね、兄さんと……」

 そこまで淀みなく続けていた秋葉が口篭もる。
 ほんのりと羞恥の色。
 言葉を受けるように琥珀が続ける。

「志貴さんがあれこれなさったりさせたりするのも、よくよく考えるとひとつ
の動作ではありませんよね。幾つかの組合せで
 あれをこうしたり、こんなことなさったり」

 言葉にはしないパントマイムが説明の残りを受けた。
 露骨かつ卑猥な動作ではないが、何とは無く伝わる動作。
 捻って、擦って、曲げて、撫ぜて。
 
「ああ、なるほど」
「ええ。一番最初に志貴さんにアレをして貰う方、コレをして貰う方と、厳選
なる抽選と協議と交渉で決定しました」

 いったいどんな状況が繰り広げられたのだろうと、少し志貴は想像してみた。
 そしてすぐに頭を振る。
 あまり目にして麗しき様子とは思えない。
 なるほど、その間に眠らされていた訳だ。どれだけ掛かったのやら。
 誰の仕業かはわからないけれど、そんな事の出来る人間には事欠かない。

「決定しましたか」
「決定したんです」

 笑顔には変わりないが、少し笑顔に何かの成分が混じったようだった。
 しかし、事実だけを決まってから告げられる。
 当事者だというのに。
 それはどうなのか。

「ご不満ですか。それならば別に強制はしませんよ。
 兄さんの意志に反して行うのは私達としても不本意ですし」
「え、そうなのか」

 秋葉だけでなく、皆が同様に頷いてみせた。
 意外だった。
 しかし、それは良い。
 未来はひとつではなく、幾つかに分かれている。
 選択し、自らの行き先を定めるのだ。
 別段拘束されていた訳でもないのに、突如志貴は自分が自由である事を強く
感じた。
 
「その場合、兄さんに選んで貰います。今、この場で、誰か一人を。
 もしも、この中に意中の方がいないのなら、別に求める方の名前をお好きな
ように挙げて頂いても構いません」
「え?」
「慕うた女性を袖になさるのですから、それくらいして頂けますよね」

 ずいと志貴の周りにいた女性陣が一歩前に出る。
 各々の普通の表情、笑みだったり表情に乏しい顔だったり。なのに、それぞ
れが妙な威圧感を有して志貴に迫る。
 一見多彩な選択肢。しかして、そのどれを選んでも何か芳しからざる未来が
待っている。
 そう雄弁に告げている。伝わってくる。
 自由と感じた心は反転し、なまじ選べるだけに変な閉塞感を覚えさせられる。

「え、ええと……、皆の思うように」

 敗者が圧制者に向けるような笑み。
 へつらいと言わば言え。
 身の安全、そして強者よりの恩寵を受ける立場を、一時の感情で拒否する必
要はない。
 それに、よくよく、よくよくと考えてみれば、特に忌避する事もない。
 同時に一緒にという事こそないが、ここにいる女性陣は全てお手つき……。

 秋葉と琥珀がすっと後ろへ。他の面々もとりあえず囲みを解く。
 ただ一人を除いて遠ざかる。
 残ったのは……。

「最初は、わたしなの」
「弓塚さん」
「うん」

 どうすれば良いのだろうと考えているうちに、ツインテールの少女が一糸纏
わぬ姿となりベッドに上がった。
 志貴も慌てて服を脱ごうとしたが、四方八方から伸びた手にたちまち裸にさ
れてしまった。それが済むと音も無く皆また後ろへと戻る。
 逃げようとしても同じなんだろうなと思わせる動作。

「どうすればいいのかな」
「わたしはね、初挿入の担当なの。
 ああ、嬉しいなあ。これでもう一年分の幸運使い切っちゃった」

 本心かららしい言葉、混じり気のない歓喜。
 だからこそ、何とも言えない哀愁が漂っていた。

「さつき、まだ一年は始まった……、いえ、楽しんで下さい」

 友の声に、うんと頷く。
 どこまでも嬉しそうな純然たる笑顔。
 恋する乙女の瞳がまっすぐに志貴を見つめる。
 むしろ向けられる方が気恥ずかしくなるような熱っぽい視線。
 普段のためらいがちな抑圧は今は消えている。
 こんなに正面から笑みを向けられると、やはり可愛いなと志貴は再認識した。

「いくね、遠野くん」
「あ、ああ」

 愛しそうに指を志貴のペニスに這わせる。
 何だかんだと雰囲気に呑まれていても、近づく女性を感じ、裸に剥かれた時
点で志貴のものは反応していた。ここで縮こまってままでないのはさすがであ
ったと言える。
 硬さを示する太い肉棒がさつきの手に触れられ、さらに反りの角度を増す。
 白い指が、幹を行き来する。
 筋張った部分を、柔らかい皮を、皺のある皮膚を。
 舌で舐めるように指で味わっている。
 その指の感触が、外気に触れたばかりの幹や亀頭には何とも心地よい。

「凄いよ遠野くん、こんなに……」

 こんなに、何だろうか。
 飲み込んだ言葉はさつき自身に対してであり、言語化されるかどうかはどう
でも良いのだろう。
 根本を握り、ペニスを真上へと向ける。
 志貴は何をするのか察して、素直に仰向けに横たわった。
 受身としてさつきのしたいがままにさせている。
 さつきは志貴に跨る体勢を取った。
 何もしていないのに、そこは潤っている。
 あるいは、自分の指で準備を整えたのだろうか。
 秋葉の話が終わる前、並んでいる時から、太ももに粘液を滴らせていたのか
もしれない。すぐに訪れる自分の番を待って。

「挿入れるね」
「うん。あ、垂れてるよ」
「やだ、恥ずかしい」

 きらきらと光る粘膜に、赤く張りつめた亀頭が触れる。
 志貴の指摘通り、太股にまで濡れは広がっていた。
 亀裂がゆっくりと志貴を飲み込んでいく。
 薄いピンク色が掻き分けられ、真っ赤な肉の棒に貫かれていく。
 
「入ってくる、遠野くんの入ってくるよう……」

 さつきの腰がさらに沈む。
 それにより、自ら深く貫かれていく。

「あ、きつくて締め付けられる……。気持ちいいよ、弓塚さん」
「うん、わたしの中、いっぱい。凄いよ」

 さつきの声が震えていた。それが伝わったように太股も震えを帯びる。
 何よりも、その中心部がかすかな振動を放っていた。
 全て呑まれている。
 恥毛同士が触れ合うほどの近さ。
 それだけで力尽きたように、さつきは大きく息をつく。
 沈み込む動きだけで停止してしまう。
 
「ごめんね、動くから」
「無理しないでいいよ。これだけでも弓塚さんの中、気持ちいいし」
「いいの、もっと気持ち良くなって欲しいから」

 小さく息を吐き、さつきの腰が上がる。
 濡れたペニスが半ばまで見える。
 潤滑油を溢れさせつつ、また沈み消えていく。
 繰り返される。単純な動きの反復。
 しかし、確かめるような抽送がだんだんとリズムを持った動きとなる。

 ゆさゆさと体を揺すり、上下に腰が動く。
 小ぶりな胸がぷるぷると揺れ動く。
 大きくたわむような躍動感は無いが、間近に見る志貴の心を奪う柔らかさ。
 触れる事がためらわれる様な、それでいて手を伸ばして摘み取らずにはおら
れぬまだ青き果実。
 成すがままにされていた志貴が、欲望に従って動く。
 動きを止めるように、あるいは動きを味わうように、てのひらが膨らみを包
見込む。
 手が触れた時にぴくんと反応するのが愛らしい。

「あ、胸…うん……、もっと」

 両の手に収まる大きさ。それがむにむにと形を変える。
 握られる度に、動かされる度に、歓喜の声が上がる。
 腰の動きが激しくなり、それは志貴の表情をも切迫したものに変えていく。
 さらにさつきの体が沈み、高く上がり、その摩擦がどれだけの快楽を与えた
のか、志貴の腰も跳ねるように動く。
 受けるだけの快楽でなく自らも動いて射出の限界を越えようとして―――。

「そこまでです」

 シエルの声に、さつきの体が止まる。
 志貴もまた、腰を突き出しかけた姿勢で動きを止める。
 何事かと、志貴はさつきの顔を見上げる。
 息が乱れ、眼には陶酔の色。
 軽く達したのだろうか。でも、本当に絶頂するには到っていない。

「うん。ここまでなんだ、わたしは」

 多少の未練をもって弓塚さつきの腰が志貴から離れ、立ち上がる。
 愛液にぬめる肉棒が現れる。
 多少の濁り、白みを持った粘液。
 しかし、そこに志貴から吐出された液体は混じっていない。先触れの腺液は
こぼれて混じっていても。
 志貴もまた快楽の最後を迎えてはいなかった。
 寸前までいっていながら。
 絶妙なところで止められたのだろうか。
 完全に抜け落ちても、さつきの小さい膣口はなお開いていた。まだ、何かを
呑み込み続けているかのように。
 うっとりとした顔で呟く。

「まだ志貴くんが中にいるみたい」

 手が自然にそこに伸びている。
 さつきの指がそこを弄り、志貴に触れられた乳首を摘む。
 淫靡さは少ない。が、可憐な少女が衝動のままに自らを慰める仕草は、なま
じな淫蕩さよりも惹きつけるものがあった。
 その姿を食い入り見つめる志貴を引き離すように、声があがる。
 声だけでなく、シエルがさつきをぐいとベッドからどかし、自分が這い上が
る。下着は脱ぎ捨てられ、全裸に眼鏡のみの姿。
 志貴は寝たままで、シエルにも跨ぐ形で立たれて見下ろされる。

「さあ、遠野くん。次はわたしです。
 今度は、最後まで遠慮なくどうぞ。存分に出してくださいね」
「え、いいの?」
「はい、思いっきりどくどくとして貰ってOKです。
 遠野くんの初射精を受けるのがわたしなんです。
 では、行きますね。弓塚さんがこちら向きだったから、わたしは……」

 そう言いつつシエルはくるりと背を向ける。
 膝立てで体を跨ぐ形は同じでも、さつきとは反対向き。
 志貴からすれば、繋がる様が見え難い。
 しかし、それだけに鋭敏な先端が受けた刺激を強く意識させられる。新たな
粘膜に柔らかく包まれていく。
 受身で挿入されるというのは、能動的に刺し貫き攻め立てるのとは違う独特
の喜びがある。
 さらに今し方まで他の少女の膣中にあったペニスをそのまま奪われていると
思うと、何か背徳的な行為をしているような興奮まであった。
 射精寸前だったペニスがびくんと動く。 
 それを感じ取り、余り激しくすればそれだけで終わってしまうとシエルは判
断したのだろう。動きはそろそろとして遅いほどだった。
 ゆっくりと志貴のペニスは呑まれていく。濡れた膣壁に包まれていく。
 そじわじわと体重が掛けられるが、柔襞が志貴を擦る様は決して強くない。
 さすがに入れた瞬間に出してしまう訳にはと考えている志貴には丁度良かっ
た。普段ならばじれったさを感じるほどの摩擦だが、実に心地よい。
 
「最後まで入っちゃいました」
「うん、先輩の中温かくて気持ちいい」

 初々しさ、あるいは未熟さの残るさつきの体とは違う。
 シエルの中もぎゅっと締め付けてくるが、そこには違いがある。
 好きに突かせた上で、余裕を持って迎え入れるような落ち着き。
 抜き差しならぬほどの硬さも心地よいが、このやんわりと包みこんだ上での
強い締め付けも堪らない魅力に溢れている。
 やや大きめの尻朶の柔らかさも触れる下腹辺りに心地よさを与えてくれる。

「いきなり終わっちゃ嫌ですよ」

 振り返り悪戯っぽくシエルは言った。

「できるだけ頑張ってみるよ」
「はい。でもそんなに我慢しなくていいですよ。
 とりあえず軽く動きます…うんん、遠野くんのがぴくっとしましたッ」

 シエルの腰が上へと動き始める。
 どこが軽くなのだろうかと思うほど、その動きは気持ちよい。
 確かに握るほど強く締め付ける訳ではないが、強弱の変化をつけて膣道が収
縮をする様は堪らない。不用意に気を緩めていれば、すぐに射精してしまいそ
うだった。
 触れ、包んでいる部分が、体全体の上下の動きによって、摩擦の感触を生み
出していく。快楽に直結した摩擦の感触が強く弱く続いている。
 反対向きだけに、亀頭の上側、裏側に当たる感触がさつきとシエルとで違っ
ている。
 しかし、いつもとも少し違う感触。頭の片隅で冷静な部分がそんな感想を抱
いた。もしかして外野の他の面々が気になるのかな。
 どういう不可侵条約が結ばれているのか、じっと見つめたり小声で話す以外
にはさつきの時も今も外野からの影響は感じられ無い。とはいえ、他人がいる
という事だけで何らかのプレッシャーや興奮を生み出しているのは確かだろう。
 
 志貴は上半身を少し起こした。シエルの姿を間近に眺める。
 白い背中の艶かしいライン。
 くびれた腰から膨らんだヒップ。
 それが静止した彫像ではなく、動いて美しさを示している。
 上下に激しく揺れているだろう胸は、残念ながら見えない。
 しかし、それに優るとも劣らない眺め。
 たぷんと柔尻がたわむ様に、志貴は魅了されていた。
 そしてその中心……。
 白い肌にあるアクセント。

「やっぱり、先輩のここ、可愛いなあ」
「ひゃん」

 背中が仰け反る。
 リズミカルに動いていた腰が止まる。
 形良く割れた白い尻肉の狭間、窄まりの中心に志貴の指が触れていた。
 やや、指先が潜るほど。
 軽く突付き、掻くように撫でる。
 それだけでシエルがあえなく悲鳴を洩らしていた。

「やっぱり触って欲しくて、こっちを向いていたのかな」

 微妙な振動を指先より送り込みつつ、志貴が問うように呟く。
 返事はない。
 促すように志貴の指がさらに蠢く。

「ああ、遠野くん、悪戯しちゃ駄目です。ああん、遠野く…んッッ」
「うあっ、先輩ッ」

 腰全体が跳ね、その動きが作用したのか、ぎゅっと中が収縮する。
 根本から力が入り、絞るように柔肉が動いた。
 志貴にしても限界近くまで高まっていたのだから、これには抗えなかった。
 あっけなく堰が開いて、驚くほどに放出する。
 不意打ちのような快感と共に、白濁液がシエルの深奥に弾けとんだ。
 びくびくと体を振るわせつつシエルは受け止めていた。

「わたしも遠野くんに最後までイカされてしまいました」

 軽く怒った様な、それでいて甘い瞳でシエルは呟くと、腰を動かした。
 抜け落ちた肉棒から糸が引いていた。志貴の放ったどろどろの粘液とシエル
自身の分泌蜜。
 
 軽く息を吐き、シエルがもぞもぞとベッドから這い降りるのを志貴は見守っ
ていた。
 何となく二回したような気分、少しシエルの体を抱いてじっとしていたい気
もするが、今夜はそうもいくまい。
 次は誰だろうか。
 
 すっと、目の前に小さな姿が現れる。
 レンだった。
 彼女だけはいつもの服装。
 少しだけ可愛くも艶かしい姿態が隠されているのが残念に思える。
 そもそも下着つけてたっけと志貴は考える。
 表情が読めない顔で、しかし間違いなくレンは志貴を見つめている。
 
「レンは何をしてくれるのかな?」

 返事はない。
 それはいつもの事だが、ちょこんと座したまま動こうともしていないなので、
志貴としてもどうして良いかわからない。
 
「レンちゃんはですね、後始末をするんです。志貴さんへの初お掃除とでも言
いますか」

 戸惑う様子をくすくすと笑いながら、琥珀が説明をした。

「そうか。でも、それだけだと不満なのかな、レンは」
「そんな事はないですよ。今年初めて、志貴さんが気持ちよくなった後を綺麗
にするなんて、なかなかの当たりといってもいいですから」
「そうなの?」
「そうですとも」

 背後で翡翠やアルクェイドが頷いている。
 そんなものなのかと志貴は不思議に思うが、とりあえず納得しておく。
 それならそれで。
 しかし、レンは動かないでそのまま。

「レン?」
「…………」

 レンがちらりと横を見る。
 周りにいる少女達がいない一角。
 何かを訴えるような眼。

「何だい、どうしたの、レン?」

 志貴がさらに問う。
 それに答えず、レンは視線を向けたまま。
 さらに数秒の間。
 そこへ幻の如く小柄な少女が現れた。
 レンと鏡で合わせたようにそっくりな少女。
 しかし黒を纏ったレンに対し、現れた少女は白。

 志貴の視線を受けて、もう一人の白いレンはそっぽを向く。
 今この部屋にいる多彩な少女達の中にあって、ただひとつの拒絶のポーズ。
 それを、寡黙な少女の目がじっと見つめていた。
 責めるでもなく。
 ただ何かを言いだけな表情のままで。
 それが言葉よりも雄弁に何かを伝えたのだろうか。
 白いレンは顔を黒いレンに向ける。
 
「わかったわよ。でも、わたしはそんなの……」

 黒いレンの手が白いレンの袖口を掴む。
 小さな指が、軽く引く。

「わかったわよ、もう」

 二人、並んで志貴へと向かう。
 志貴は足を伸ばして座ったまま、手を後ろにして背を支えた。
 二人を見つめる。
 可愛らしい顔が、その瞳が、剥き出しの股間を注視しているのを。
 性交の跡を濃厚に留めたままのペニスに顔が近づくのを
 小さく口が開くのを。
 ピンク色の舌が覗き、同時に触れるのを。

 ちろちろと舌が這う。
 左右から同じように。
 一人が根本を、もう一人が先端を。
 そんな効果的な役割分担ではない。
 黒いレンが幹を下へと舌でなぞれば、白いレンも舌先で唾液の線を描く。
 白いレンが亀頭の先に舌を差し入れると、黒いレンもちろちろと動かす。
 どちらが先に動いてもう一人が倣っているのか。
 まったくわからない。
 時間差はなく、同時にしているとしか思えない。
 二人の違いは明白であるが、動き自体は鏡に映したように同じ。

 愛液が唾液に塗り替えられる。
 精液が舐め取られる。
 幹を余すところ無く舌を這いまわらせると、ふたりの口元が寄っていく。
 ペニスの先へと。
 少女の舌で、再び硬さを取り戻しているが、そこは肉の柔らかさも併せ持っ
ている。
 左右から押される。
 雁首から、順々と。
 ほとんど二人のレンの唇が合わさるほど近づいた時。
 精の管の最後の残りだろうか。
 これまでの奉仕のご褒美のように、ミルクのような白い粘液がこぼれ出した。
 ペロペロと、二人の舌がそれを追う。
 舌が触れ合う。
 唇が軽く触れる。
 同時に、二人の柔らかく小さなそれらが、志貴の敏感な部分をくすぐった。
 粘液を介在として、志貴と二人のレンは繋がっていた。粘膜同士の触れあい。
 可憐なる少女が舌を伸ばして、自分の鈴口を舐めている。
 淫靡さはあるが、どこか罪の意識が混じらざるを得ない。
 しかしそれが二つの舌であると、並んで舌を触れ合わせているのを見ると、
どこか幻想めいた雰囲気を生む。 

 こぼしたものは舐め取られいったん二人の舌が離れた。
 終わりかなと志貴が思った時に再開された。
 しかし確かに終わりではあった。シンメトリックな共同作業としては。
 今度は必ずしも左右同時でなく、ばらばらに舌が動き始めた。交互に亀頭の
先端を舐めたり、別々のところに向かったり。
 けれど、それすらもどこか整然としたつながりを感じさせる。
 別々な行為ではなく、連動しての行為のように。
 しかもアクセントのように時折、それが僅かに崩れる。微妙なところで触れ
合わぬ二人のレンが接触した時に。志貴の敏感な部分を探すような舌先同士が
触れたり、いつの間にか頬寄せ合うような近さになったり。その揺らぎが、一
瞬にも満たない二人の反応が、志貴には面白い。
 微笑ましい戯れであるのだが、同時に妖しいまでに淫靡な刺激。
 くびれをなぞる舌先に、袋を温かく這う表面のざらざらに、志貴は呻き声を
上げさせられた。
 それを合図としたように、舌が唇に変わる。
 啄ばむようにではなく、触れながら擦り合わせる愛撫としてのキス。
 小雨のように優しく濡らしていき、やがて滴るほどに唾液をまぶしていった。
 淫液の名残は消えて塗り替えられていった。
 先端からゆっくりと二人のレンの唇は降りていき、根元まで辿ると、名残惜
しげに離れていった。
 二人の担当分はそれで終わりのようだった。

 しかし少女の小さな舌使いが離れてなお、舐められていた部分には甘美の残
滓が残っている。
 まだむずむずとしたくすぐったさでびくんと脈打つ。
 舌がはねた感触、行き来するくすぐったくも甘い感触。
 結果として、二人の唇と舌は志貴のペニスを再び臨戦体勢へと導いていた。
 あるいは陥落寸前の状態に。

「すっかり回復したようですね、志貴」

 声が掛かった。

「シオン……、って事は、次はきみか?」
「はい」

 入れ替われ現れる全裸の錬金術師。
 頷く顔が心なしか色めいているだろうか。
 普段の冷静沈着な様子と異にしている。

「シオンとは何をするのかな?」
「交わりです」

 平易にして率直な言葉。
 それ故に、ああそうと頷きかけ、意味を解して動作が止まる。
 志貴が補足を求める前に、シオンは言葉を足した。

「先ほどはあくまで志貴は受身でした。
 今度は、志貴が好きなように、わたしを……」

 今度ははっきりと顔が赤らんでいた。
 同時に、駄目でしょうかと表情が問うている。
 志貴は躊躇いなく同意の頷きを返す。

「了解。あ、でもいきなりだと駄目か。普段はただでさえ…」
「心配は無用です。準備は整っています」

 ゆっくりと可愛がってあげるか、甘く苛めてあげないと挿入行為自体がが苦
しそうなのに。
 そんな台詞が口に出される前にせき止められる。

 準備、その言葉に訝しげな志貴を前に、シオンは手で隠すようにしていた陰
部を晒した。
 薄い恥毛の翳り。ぴらぴらとしたものを僅かに覗かせた谷間。
 部屋にいる面々の中ではシオンには硬いイメージがある。
 その雰囲気は減じてはいるけれども消えずに残っている。そのシオンが下半
身を裸で晒しているというのが、どこかしらアンマッチだった。。
 肉体自体は軟らかく美しい曲線を描いている。硬いなどという表現が笑いを
誘うほどに。美しく、そして色香を感じさせている。
 慎ましげな佇まい、そこをシオンは自ら開いた。
 周りの肌の色からは一変したような鮮やかな赤色。
 中に篭った熱気が溢れるよう。
 手に粘性のある腺液がこぼれる。
 いったいどうしていたのだろうか。さつき達の痴態を見て興奮状態に至った
のか、それとも自らの指で弄っていたのか。
 想像すると、ただでさえ膨張していた志貴の股間のものはさらにいきり立ち
そうだった。

「どのようにしますか、志貴」
「じゃあ四つん這いになってよ。シオンの大好きなバックからしよう」
「え、志貴、わたしは…」
「シオン、好きだよね。あんなにいつも喜ぶもの。さあ?」

 急かされるようにシオンはベッドに乗った。
 智を極めんとする存在が、野生獣のように四つん這いになる。
 さらに志貴に向けて、腰を高く上げた。

 顔が見えないのが良いのか悪いのか。
 代わりにシオンは強く視線を感じた。
 腰に、姿勢上どうしようもなく曝け出される性器に、排泄器官に。
 志貴の眼を感じる。
 それはエーテライトを使わずとも手に取るようにわかる感覚。
 慄くように軽く震えた時、志貴の指が尻肉を掴んだ。
 柔肉が志貴の指に圧迫され、二つの球体が左右に曲線を歪んだ。
 それによって自分の見えぬ部分がどうなっているのかをシオンは克明に脳裏
に描く事が出来た。窄まりも谷間もどんな形に変わっているのかを。
 恥ずかしく。同時にそれが悦楽に変じる。

 志貴はあてがい、一気に貫いた。
 ほとんど何の支障も無く挿入される。肉と肉との摩擦を無くす潤滑油の存在
が助けとなっている。
 実のところシオンは何もしていなかった。服を脱ぎ恥ずかしい部分を異性に
晒しているだけで、それほどに潤ったのだった。弁解の余地も無い。
 肉棒を埋め込まれ、中からしとどに溢れ出す感覚。
 それは明らかに快美であり、シオンを陶酔させた。
 抑えようとしても、吐息と共に甘い響きを濃厚にまぶして悲鳴が洩れる。
 声が小さく洩れる。膣道を擦られ、子宮口に圧力が掛かるたびに。
 志貴も獣の姿勢で、この上なく知的な少女を蹂躙する体位で、急激に高ぶり
を感じていた。レンたちの奉仕でそもそも発射寸前まで引き上げられてもいた。 
 いつもであれば少し体位を変えて気を紛らわせたりするところであるが、今
夜に限ってはそれは許されないだろう。
 構わずこのまま突き抜ける事にした。

「出すよ、シオン?」
「はい、志貴。わたしの中に……、いっぱい下さい」

 返事と同時に、ずんと強い一突き。
 そのまま志貴は柔らかい体を後ろから強く抱きしめ、シオンの背に密着する。
 中からも強く結びつくように硬く大きく膨らみ、押し広げられた膣道の奥へ
と精液を迸らせた。
 腰を、胸を、強い手が掴む。
 飛ぶような感覚で崩れそうな体をシオンは必死で支えた。

「志貴のものがいっぱい…ああ……」

 一度の迸りでは流れが途切れないとばかりに、志貴の抽送の動きはそのまま
続いている。
 シオンを抱きしめて、押し当てた腰を小さく引いては強く押しやる様に何度
も叩きつける。
 白い尻肉が歪み、振動が腰だけでなくシオンの全身に響く。
 芯奥が、強烈な摩擦と圧力で快美を何倍にも増幅させていた。
 何よりも理知を己の根幹とする錬金術師の顔でなく、シオンは今、快楽の虜
となり惚けた顔で絶頂に浸っていた。それはそれで息を呑むほど美しかったが。

 じゅるじゅるとペニスが抜き取られる。
 さすがに射精してなお硬く張りつめたままとはいかない。
 小さく縮こまってはいないものの、直立しつつもどこか柔らかい。

 ぺたんと腰を落とし、志貴は小休止の格好。
 僅かに疲れた様子を見せつつも、満足げな様子。
 そのささやかな休息を咎める者はいない。
 言わずとも、志貴自身がわかっているとの期待。
 事実、難度か深呼吸をすると志貴が顔を上げる。

「次は誰とどうすればいいのかな?」

 残るは秋葉、アルクェイド。そして琥珀・翡翠の姉妹。
 視線を横に動かす。

 答えるように、前へ動く少女。
 琥珀だった。そして翡翠も同時に。
 あれ、という戸惑った顔に、琥珀がくすりと笑う。
 
「さっきはレンちゃん二人で志貴さんにご奉仕しましたから、今度は…」
「姉さんとわたしと姉妹揃ってお情けを。
 どうか、志貴さま、可愛がって下さい」
 
 恥ずかしそうに、たどたどしく翡翠が琥珀の言葉を受ける。
 そうおねだりするように事前に言い含められていたのだろう。
 特に促されるでもなく、口にしている。
 翡翠らしからぬと言えばそうだが、頬を染めつつそんな懇願をする従者の姿
は何とも愛らしかった。
 
「と言っても、どうするの?」
「指でも口でもお好きなように、翡翠ちゃんとわたしを弄んでくださいな。
 但しですね……」
「挿入は無しか、なるほど」

 いろいろ考えるものだなと志貴は感心する。
 全員を同じように愛して下さい。
 そう言われても無理なのは確かだから、あえて差異を作ったのだろう。

「どういたしましょうか。うつ伏せがよろしければ、そうして……シオンさま
のように、その…」

 四つん這いでお尻を上げましょうか、と言いたいのだなと志貴は察する。
 双子の姉妹揃ってそうして突き出すようにして、秘裂も裏門もさらけ出すの
は壮観だろう。似て非なる部分を見比べるのもぞくぞくする興奮を誘う。
 そうあからさまにされていれば、何をするにもしやすい。
 舌で舐めあげるのも、指でぬかるんだ粘膜を探るのも。

「いや、反対がいいな。二人の顔が見たいし。
 寝て、そうだ、それで足を上げて、そう、丸まるようにして」

 まず、二人を並べるように寝かせる。
 足を上げさせ、膝を曲げさせる。
 そして手で自分の足を押えるように。
 必然的に腰は持ち上がり、隠すべき部分がむしろ見てくれとせがむような形
になる。
 ピンク色の狭間も、くすんだ色の窄まりも。
 己の隠された部分を志貴が覗き込む姿も正面から目に入る。

 翡翠、琥珀、どちらがそんな姿で自分の花園をさらけ出したとしても魅了さ
れただろう。それが二人並んでいるのだ、それは二倍どころか何倍にも魅力的
になっていた。
 むしろ、どちらを見たらいいのか迷い困惑する程に。
 そして見るだけならまだしも、どちらから触れれば良いのか。
 迷うようにして、志貴は琥珀の谷間に手を伸ばした。
 選んでではなく、たまたま利き手側にいたというだけ。
 無造作に閉ざされた唇を開く。
 指先に濡れた感触と閉じ込められていた熱気が伝わる。
 そこら一帯を志貴は弄った。
 一本の指でほじる様に探り、ついで全ての指で広げてあからさまにする。
 襞の連なりや尿道口の窪みを見つめ、陰核の包皮をくりくりと撫でる。
 ゆっくりと指を挿入して、ぴくんと締め付ける様を楽しむ。
 息が乱れ、小さく声を上げるが、琥珀はほぼ平静を保っている。
 僅かに頬を染めているだけ。

 次は翡翠へと指を伸ばす。
 同じようにして、薄い花弁を開き、中の複雑にして魅惑的な襞を探る。
 そこは不躾な侵入者を拒む事無く迎え入れる。
 温かく、そして柔らかい。
 ただでさえぬるぬるとしているのに、指の動きにつれ潤みを増していく。
 ついにはこぼれる蜜。
 それだけで翡翠がどうなっているのかをはっきりと示している。
 いや、姉とは違い、声を上げ、喉を見せて悶える様。それでいて必死にはし
たなくなるのを耐えようとする様子。
 指に伝わる粘膜の心地よさと共に、そんな様子が志貴を高ぶらせる。
 中の粒々とした処を優しく撫でて翡翠にまた声を上げさせる。 

 ひとしきり楽しむと今度は琥珀へ。
 そしてまた翡翠へ。
 陰部だけではなく胸を愛撫し、濡れた指で唇をなぞったりもする。
 少しずつを繰り返し、ついには一人ずつではなく、同時に愛撫を始めた。
 どちらからも手が離せない。優しく、優しく志貴の指が蠢く。
 そうなると、翡翠と琥珀の様子が変わっていく。
 翡翠は同じように、可愛く喘ぎ、体を震わせている。
 余裕のあった琥珀は、志貴が技巧によってでなく、心を込めて撫で、指を動
かすと共に、だんだんと抵抗力を弱くしていく。

「ほら、見てご覧」
 
 胸の曲線をなぞっていた指で翡翠の頬を突付く。
 撫でるような仕草を交え、視線を横に向けさせる。

 翡翠の目に映るのは、姉の顔。
 自分と同じ顔。
 しかし、その表情は見た事のない……。

「さすがにそっくりだね。
 翡翠もいつもああいう顔になる」

 喘ぎ、快楽に目を潤ませた顔。
 志貴が指を微妙な部分に這わせ、軽く掻き、突付き、弾く度に。
 その表情は変わる。
 普段の冷静さも、にこやかな笑みもない、生々しく体の反応を示した姿。

 琥珀から滴った蜜液で口の周りを濡らしたまま、志貴は両手を動かす。
 左右の手の別はあれど、同じ調子で指が動く。
 人差し指が潜り、薬指が曲り、中指が奥へと進む。
 親指と小指が摘み、残りの指が撫ぜ、摩り、弾く。
 濡れた谷間は不規則に露を飛び散らせつつ、その蹂躙に耐えている。
 陰唇を乱れさせられ、膣口を欲しいままにされ、陰核をいいように弄ばれ。
 ことに薄皮に守られたクリトリスを摘まれ撫でられると、感電したように体
が緊張と弛緩を繰り返す。
 その急所を辛うじて守っていた包皮が、ぺろりと捲くられる。
 弄られ固くなり、つんと突き出した可憐な肉芽。
 それを志貴は摘み、しごいた。
 悲鳴の高まりに動じる事無く、急所を攻め続けた。
 それが限界。
 姉妹同じくして、共に果てた。 
 琥珀は翡翠の陶酔を見つめ、翡翠は琥珀の絶頂を見つめながら。

 ふたつの花の咲き乱れた様を、志貴もまた悦楽の目で眺めている。
 濡れた指先、匂う情欲の雌の香り。
 酔わせ法悦に誘う牝花の芳香。
 あくまで肉欲の様であるのに、双子の痴態はどこか夢幻めいて見えた。
 その二人の感極まった媚態を自分が成したのだという事に志貴は深い満足感
を憶えた。
 ふぅと溜息が洩れる。

「うぁっ」

 しかし、その陶酔は、局部への強い刺激に破られた。
 思いも寄らぬ奇襲。
 翡翠と琥珀とを愛撫するうちに忍び寄った白い影。

「わあ、志貴の凄くかちかち。
 こんなになってからするの初めてかなあ」

 アルクェイドであった。
 同意も何もなく、ひょいと志貴の体を持ち上げると好きなように動かす。
 志貴にもどうなっているかわからぬうちに仰向けに倒され、とてつもなく柔
らかいものにペニスが包み込まれた感触でいっぱいになった。
 何事だと目を向ける前に、その快感の正体はわかった。
 アルクェイドの両の乳房での愛撫。
 たっぷりとした胸肉に挟み込まれ、志貴は呻き声を上げさせられていた。
 志貴の慌てぶりに頓着する事無く、アルクェイドは寄せた胸をむにむにと動
かし続けた。
 溜息の出そうなほど形良く豊かな乳房。
 それが自らの手によって姿を変える様は異性ならずとも惹き付けられる魅力
があった。
 間に筋を浮かべた男のものを挟み、先端を見え隠れさせている様の何という
卑猥さ。

「これはね」

 言いながらアルクェイドは胸の存在感をを誇示するように自らの手で形を変
えてみせた。たっぷりとした量感と柔和さを同時に視覚で伝える。
 ぎゅっと左右から潰すと、その中に埋もれていた志貴が、声を出す。

「皆じゃなくて、おっぱいが大きい娘だけでね、誰が志貴にしてあげるか決め
たんだよ」
「そ、そうか」
「うん。でも、わたしに当たって良かったよね、志貴」

 にこりと微笑む。
 アルクェイドとしては別段他意は無いのだろう。
 心からそう思っているからこその自然な発言。
 しかし、それは他者の反発を誘いはする。
 単に数値の僅かな差は決定的な性能の違いにはなりえぬとする者の二対の目。
 そして勝負の舞台に足を踏み入れる事すらできず歯噛みした者達の目。
 もっとも持てる者の無邪気さでアルクェイドはまったく気に留めていない。
 嬉しそうにアルクェイドは乳房奉仕を再開した。
 手で包む、太股に挟む、濡れ襞に導く、それらとはまるで違う柔らかい圧迫。
 それ自体は直接動くわけではなく、外からの両手の動きに従っているだけな
のに、まるで双球自体が雪崩を打って肉棒を翻弄しているように思える。
 生殖器への絶え間ない甘い感触ももちろんだが、その質感となだらかな動き
は、まず視線を捉えてやまない。
 
 さらに白い肉の中ではっきりとしたアクセントとなっているピンクの突起。
 これの定まらぬ動きもまた、志貴の目を惹きつけていた。
 誘っているようで、それでいて触れられる事から逃げているようにも見える。
 乳房大きく形を変え、同時に体全体で動いている為、ともすれば見失いそう
にもなる。 
 だから、少し体勢を整えようと動きが止まった時に、意識せずに志貴の指は
アルクェイドの乳首を摘んだ。
 胸での肉柱愛撫でそこは硬く突き出ていた。
 ちょっと触れただけでは引っ込まない。
 いつもであれば、ねちっこく指で弄られ、乳房の肉ごと口に咥えられ吸われ
るのだが、この体勢では口の愛撫は不可能。
 ならばと志貴は、摘むように乳首を引っ張ってみた。
 簡単に潰れる事はない。
 そして引っ張れば、柔らかく乳肉を伴って伸びる。
 他に例えようのない感触。
 アルクェイドの擽ったそうな、それでいて切なげな表情を伴うのが、何とも
堪らない。
 痛みも生じるのかもしれないが、陶酔の色の方が濃い。
 ひとしきりその行為を楽しむとまた胸での奉仕を促した。
 大きく頷くとアルクェイドは胸での摩擦を再開し、さらに舌を伸ばしてちろ
ちろと亀頭の先への刺激を加えた。
 今度は志貴が腰を跳ね上げるようにして呻き声を上げた。
 さらにとろとろと唾液が胸間に垂れていく。
 いつしか志貴の限界が近づき、引返す事が出来なくなっていた。
 ひくつきを胸から感じ、アルクェイドは叫んだ。

「出して、志貴」
「アルクェイド…、うぁうッッ」

 どこまでも柔らかく包む乳房の肉。
 左右から圧迫し幹をしごくようにしていても、それは手や口、あるいは本来
の性交の器官と比べれば、きつい締め付けとはならぬし、動きもぎこちなさを
伴う。
 肉体的な快感も大きいが、行為そのものの興奮度が後押ししているきらいは
ある。
 が、今のアルクェイド。いや、その乳房はあまりに気持ち良すぎた。

 赤く張りつめ、黒くすら見える亀頭の先、その切れ目。
 そこから三度目であるのが信じられぬほど迸った。
 濃く、激しい。
 アルクェイドの白い胸を、別種の白で染め、顔にまで飛び散らせる。
 小さく歓声をあげつつ、アルクェイドは胸の動きを止めない。
 射精が柔肉で受け止められ、なおも締め付けと弛緩の緩やかな快感を与え続
ける。
 絞られるように白濁液の残りがこぼれ、胸の間でゆっくりと屹立は鉄の硬さ
を減じていった。
 アルクェイドの胸が離れ、志貴も体を起こした。

「気持ち良かった?」
「ああ。あんなに硬くなってたのに、お前の胸の中でぐにゃぐにゃにされたか
と思った」
「ふうん?」

 誉められたものかどうなのかわからない表現。
 しかし志貴が喜んだのだとはアルクェイドは悟り、にこりと笑う。
 二人の醸し出す雰囲気が柔らかく……と、破られた。

 ぐいと腕がつかまれ背の方向へと引っ張られる。
 バランスを失い、ステンと志貴は転がる。
 またかと志貴は思いつつ、もがく。

「あー、妹、乱暴」
「兄さんは平気です。さ、こんどは私の番ですよ、兄さん」
「秋葉か」

 残るは一人であった。
 頭を振り振り上半身を起こす。
 下半身は、既に秋葉に押さえられていた。

「お前の番って、もう無理だよ」
「兄さんなら、まだ大丈夫です。
 大丈夫でなかったとしても……、吸い尽くして差し上げます」

 後半が小声で聞こえなかったのは志貴にとって幸いだったか。
 これまでの過程で各種とろとろと淫液をまぶされ続けたペニスを、秋葉はま
ったく嫌悪無く口に含んだ。
 むしろそれらの淫臭を味わうように目を細める。
 あるいは、全ての香りの中から志貴の精臭のみを嗅ぎ取ろうとしているのか
もしれない。

 自分のものに対して陶酔を浮かべてしゃぶりつく様は、お嬢様然とした少女
が愛しそうに男性のものを口にしている様は、男として志貴にただならぬ喜び
と激しい興奮を呼び起こした。
 既に三度も精を放っているというのに、志貴のものがまたむくりと立ち上が
っていく。
 口に含みつつ、秋葉がくぐもった声をあげていた。
 表情から察するに、喜び。歓喜の声。

 徐々に容量を増していくペニスを苦も無く口腔で受け止めていたが、秋葉は
ゆっくりと唇の輪を根元から先端へと戻していった。
 口唇での掃除を受けて綺麗にされた肉は、てらてらと光っている。
 吸引の中から抜け出す動きは、絶妙な唇の圧迫を受けて、志貴に呻き声を上
げさせる。
 それにしても、先端まで外に出た威容を見ると、それが秋葉の口の中に納ま
っていたのが、まるで何かの手品のようにすら思えた。
 
 うっとりと秋葉は、自分が回復させて、こちこちに硬くなった兄の肉棒を眺
めていた。どこか誇らしげな表情。
 あやすように、手で撫でさすりながら。

 そしてまたゆっくりと口腔に含み、飲み込んでいく。
 頬が軽くすぼみ、舌が纏いつくように動く。 
 さつきから始まりアルクェイドに至るまで、もちろんそれぞれが苦行とは縁
遠い快美と陶酔の出来事ではあった。が、体力の消耗は如何ともしがたいのも
確かだった
 強い興奮状態の中で、文字通り何度も精力を放出していたのだから。
 吸い尽くすと秋葉が呟いたのは、決して誇張ではなかった。
 口戯の粋を尽くした奉仕の中、一点集中の快楽で志貴の血はそこに集まり、
腰全体が痺れたようなふわふわ感を生み出している。
 座していても、どこか波間にでも揺られている心持ち。
 立ったまま、跪いた秋葉に性器を口に含まれ、強く吸われていたとしたら、
すとんと力が抜けて倒れていたかもしれない。

 そんな様子を原因たる秋葉は気に留めているのか。それとも本体の脱力感と
は裏腹に凝縮され血管を浮きたて、自らの意思の如き動きでびくんと弾む肉棒
のクライマックスの予兆に全神経を集中しているのか。
 万が一にも逸らさぬようにと、右手で根元を支え、左手は放出の根源たる玉
袋を励ますがごとくやんわりと揉み解している。
 唇は大きく動く事をやめ、半ばまで口に含んだまま、口腔全体での収縮と舌
の動きとで、膨らみきった亀頭の先端も雁首も何もに粘膜刺激を与えていた。

 時折ちらりと視線が上がり、自分を見つめる志貴の顔を見上げて視線を交差
させる。妖しい色香。
 志貴の唇から切迫した声が洩れた。
 秋葉の顔が前後に動く。
 締め付けたまま、深く顔を埋め、一転して引く。
 喉元まで突き入れられたペニスが、抜かれる動きの中で舌に包まれる。
 両手が、脈動を促すように肉茎をしごいた。

 腰が痺れ、吐出の前兆たるむずむず感が襲う。
 志貴が告げるまでもなく、何度となくの学習で機微は掴んでいるのだろう。
 秋葉の対応が心なしか変わった。
 このまま出せと言っていると志貴も言葉ならず感じ取り、そのまま集中した。
 そして強い波。
 思わず腰を突き出したのを、秋葉は苦しそうな様子も見せずにそのまま。
 そして吹き上がる白濁液。
 断続的な放出を余すところなく秋葉の口腔はは受け止めた。
 陶酔の色に瞳は潤み、喉が何度と無く動く。
 一滴たりともこぼす事無く嚥下する。
 迸りだけでなく、肉筒を根元から締め付けて、零れる粘液を吸い出す口の動
き。それは次なる快感へ導く愛撫でもあるのだが、さすがに口の中で勢いを取
り戻す事はなかった。
 硬質を失ってようやく志貴の体は、甘美な拘禁より逃れたのだった。

「ごちそうさま、兄さん。
 美味しかった」

 満足そうな笑み。
 空腹を満たした子猫のような感じがあった。

 部屋にいたもの全てを相手に。
 それぞれ形は違えど、志貴は要求に応えた。 
 決して嫌々ではなく。
 しかし、これで終わりではなかった。

「はあい」

 と、新たな来訪者。
 長い髪、不敵な笑顔。
 ありふれたラフな格好で、見惚れるほど綺麗ではあっても、その姿から彼女
が世界を探しても片手で数えれば足りてしまう稀有な存在であるとはとてもわ
からない。
 世界に幾人と現存しない魔法使い。
 蒼崎青子であった。

「先生。それに…」

 青子は今はいつものトランクは手にしていない。
 代わりに両手で抱えるようにしているのは……。

「都古ちゃん?」
「そう、わたし達を忘れて貰っては困るわね」

 胸を張るように青子は志貴に向かって言った。

「って、幾らなんでも都古ちゃんにおかしな真似はできないでしょう。
 子供ですよ」

 当惑の表情。
 実際の年齢はともかく、外観年齢であれば同カテゴリーに入りそうな二人の
少女がいろいろと複雑そうな表情を浮かべた。
 他の全裸だったり半裸だったりの、その他大勢となっている面々もまた、意
外な言葉に驚いたとでも言うような顔をしていた。
 そういう倫理観の壁はあるんだ。ふーん。

「当然よ。それからわたしも遠慮しておく。残念かもしれないけど。
 その代わり、まだ残っているのを貰おうかな。
 その前に……、起きて。半分だけね」

 後半の声は囁くように手の中の少女へ。
 何らかの魔術の動きがあっただろうか。

「うん……、うん? お兄ちゃん?」

 寝惚け眼できょろきょろしていた都古が、ベッドにいる志貴を見つけた。
 嬉しそうな声。

「はい」
 
 青子はつかつかと歩くと、ぽいと放る。
 あのりに無造作な行為に一瞬反応が遅れ、ついで志貴は慌てて都古の体を受
け止める。
 勢いを止めるため、必然的に強く抱きしめる形となる。

「えへへ、お兄ちゃんだ」

 都古の方も志貴の体にしがみつく。
 抱擁というより抱っこの形となり、さてどうしたら良いのかと志貴は青子を
見たり、都古を見たりと視線を動かす。
 そうしている間に喜びに顔を輝かせていた都古が、砂を掛けられたように眼
を閉じていく。

「うん、おやすみ、都古ちゃん」
「おやすみなさい」

 意識しての返事だろうか。反射の言葉だったろうか。
 すぐに志貴の腕の中で都古は笑みを浮かべたまま、夢の中に落ちていった。

「あれ?」

 都古はふっと消えた。
 小さく軽い体を抱きかかえる格好のままで志貴は辺りを見回す。
 青子と目が合う。

「ご両親が心配するといけないから。
 初抱きしめられは都古ちゃん、と。
 じゃあ、今度はわたしの番ね。はい、立ってこっちへ来て」
「は、はい」

 素直に志貴は従う。
 間近に青子。
 唐突に自分だけ全裸で性交の跡を濃厚に留めている事に気付く。
 もっとも青子のほうは別段気にした様子は見せていない。

「残っているものって何かしら」
「さあ、何でしょう」

 アルクェイドが呟き、シエルが返す。
 それが聞こえたのだろうか。

「唇」

 魔法使いが軽やかに答える。
 誰にとも無く。
 どことなく悪戯っぽい響きが混じっている。

「まだ、今年は誰も志貴とキスしてないわよね」
「え」
「あ、そう言えば」
「そうですねえ。不思議ですけど」

 幾つかの意外そうな声が重なる。
 それを受けて、青子はにやりという笑みに変わる。

「いただきます」

 青子の唇が志貴に近づく。
 意図を察して志貴も応える。
 固く抱き合うのではない、でも唇を触れ合わすだけでもない。
 微妙な距離。
 動いているのは青子、志貴は受け入れる為に止まっている。
 男女の普通の動作の逆ではあるが、違和感は無い。

 そっと腕の中に入れるように体を抱き、唇を重ねた。
 長くは無く、短くも無く。
 そして未練なく体は離れた。

 いや、離れたがそれでは終わらなかった。
 肉食獣と草食動物。捕食行為。
 何となくそんな言葉が浮かぶようなキス、接吻、口づけ、口吸い。
 猛然と青子が志貴の両頬を手で挟み、唇を合わせ、舌を捻じ入れた。
 侵略するかのように唇を貪り、舌を吸う。
 
 くちゅ…ちぅ……ぴちゃ、んん……、れろ…んんッッ……ちゅ……。

 絶えず唾液の動く音、舌と唇の奏でる音が響く。
 青子の喉が動き、志貴もまた送られた唾液を飲み込む。
 一分、二分、五分……、唇は離れない。

「いったい、いつまで」
「あ、志貴のが」
「え、嘘」
「キスだけなのに、あんなに」
「復活しただけでなくて、これは」
「ひくひくしてる。あれって、まさか」

 驚愕の眼が集まる。
 青子以外の少女達の視線が一点に集まった。

「射精…した」

 誰の呆然とした呟きだったろうか。
 その言葉の通り、手でも乳房でも太股でも足裏でも腋でも口腔でも、もちろ
ん膣道でも直腸でもなく、直接の刺激は何もなく。
 志貴は興奮の極みに達した。
 絶頂を迎えた。
   
 それを待っていたように、屋敷のどこかで時計が鳴った。
 十二回の時を告げる音が響く。

「時間切れね。じゃあ、おやすみなさい。
 今年も良い年になると良いわね。
 ん……、いえ、絶対に、良い年になさい」

 にこりと笑うと青子は立ち去った。
 振り返りもせず、未練もなさそうに。
 
 志貴はその姿に対して無言。
 先生も良い年を、そんな言葉は口にする事はなかった。
 
 さすがにもはや限界だった。
 崩れるように倒れこんだ。気絶をしていた。
 でもどこか幸せそうな顔で。

「五回目って、キスだけでって……、信じられない」

 畏怖と感嘆の呟き。
 同意する頷き。



  了









―――あとがき

 久々過ぎて嫌になるほどの間が空いての新作です。
 とはいえ心機一転でえいやと書き上げたものではなく、かれこれ三年がかり
で書いているものだったりします。足掛け四年になるのか。
 正月に完成品をアップしてというつもりでいて、間に合わず来年回しという
のを繰返していました。それならそれで仕上げておけば良いのですが、あまり
夏頃に続き書く気にもならずしばし間が空き気がつくと年の瀬。
 その間に公式の白レンの位置づけが少々変わったり。一応月姫陣の中でメル
ブラ登場者対象としてたので外すのも何なのでそのままにしていますが。

 とりあえず仕上がりましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。

 by しにを(2008/1/7)



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