酒の上の不埒?

作:天戯恭介



「遠野、今夜は暇か?」 「なんだ有彦、やぶからぼうに」  それは金曜日の放課後のことであった。  夕日が教室を茜色に染める頃――  授業を終え、もはや帰ることしか頭になかった俺に有彦が話し掛けてきたのは。  他の生徒はまばらで教室に残っているのは俺と有彦、そして数人の男子グループ のみだった。 「ああ、実はな…」  親友(悪友と言った方が表現は正しい)は紅い髪の毛にピアスという、  いかにも社会に不適合な容姿をしている。  こいつといると三回に一回は不良に絡まれる。俺曰く「不良優良児」な彼なわけ だが…。  結構シャイでお茶目さんな奴だと言う事は口が裂けても本人には言ってやらない。 「姉貴が今夜同窓会でいないんだ」  有彦が言う姉貴とはもちろん、有彦の姉「一子さん」のことだ。  赤いポニーテールに赤いシャツ…赤尽くしな人だ。  乾家の女性だけの遺伝なのか本人の生活能力は皆無で  有彦もそのおかげで家事一般を押し付けられている。  今は確か小説家を目指して予備校などに通っているそうだがその…彼女が……。 「……イチゴさんがいない?真逆…!!」  ……俺の瞳に一筋の閃光が走る。  有彦も俺の瞳の光を確認するとニヤリと笑みを浮かべて… 「そう…姉貴がいない今夜…アレの封印を解く時だと思わないか…?」  アレ!?アレとな!?  その言葉に俺の体と心は歓喜に震え、つい踊り出してしまいそうになる。  だが、ここはグッとこらえる。平静を装いニヒルな笑みを浮かべてみせる。  ――名付けて「女殺しの微笑」…我ながらなんてネーミングセンスのなさだ。 「……待ちに待った時が来たのだな。」 「ああ…」  その言葉だけで二人は今夜の宴を約束した…  何故か俺の喋り方がネロよりになっていたのは瑣末なことだ。  時は流れて夕方八時過ぎ…。  ちなみに屋敷の門限は当に過ぎている。本当は門限前には帰るつもりだったが、  有彦の馬鹿が押入れのどこに隠したか忘れてくれたからさあ大変。  結局、押入れの中身を引きずり出し「例のブツ」を見つけるまで二時間ほど消費 してしまった。  そして場所は変わってリビング……俺と有彦が長方形の木箱を前に正座していた。  赤い紐で丁寧に結ばれた色褪せた木箱は封印された時より変わらず高級感を醸し 出している。  木箱の真中には「呉羽」と達筆な字でその銘が書かれている。 「すごいオーラだ…解かれてもいないのに重いプレッシャーを放っている…」  有彦が唾をごくりと飲む。それだけ彼もこの木箱を前に緊張しているのだ。  この場の雰囲気をこの木箱が作り出しているといっても過言ではない。 「……遠野」  珍しく緊張感を帯びた声で有彦が言う 「いよいよ開封の時が来たな…」 「うむ…」  俺は震える指で赤い紐に手をかける。  する……。  赤い紐は遂にその封印の役目を終え… 「……では」  有彦が木箱の蓋を開ける…  箱の中には色褪せた赤い布にその身を委ねる鬼の名を冠する黒色の酒瓶があった。 「「オオ……!!」」  俺達はまるで初めて宝石を目の当たりにしたように感嘆の息を漏らす……。 「……長かった…長かったな…遠野」 「ああ…長かった…」  銘酒「呉羽」なんでも幻の酒で一度呑むと他の酒がただのオレンジジュースと思 えるほど甘く、そしてほろ苦い究極の美酒らしい。  医者から急激なアルコール摂取を禁じられ周りの人間…  秋葉でさえ俺が酒を飲めないために酒に興味がないと思われているが  俺は結構…飲んでる…といってもシキとの決着をつけて貧血も起きなくなってか らの話だが…  話しがそれた…この呉羽は晶ちゃんに無理に頼み込み、貰ったものだ。  だが条件があり自称“酒仙”の秋葉にばれると 「トンでもない事」 になるので御内密にというものだった。 “とんでもないこと?”と聞き返すと晶ちゃんは顔を蒼白にして 「私の口からはとても…」と泣き出しそうな顔をしたので深くは追求できなかった。  もっとも俺としてはそんなこと瑣末なことなので快く受け入れた。  だが問題はここからだ。  部屋に隠した所で掃除に来た翡翠に見つかり秋葉の手元に行く可能性がある――。  そこで…俺は親友を頼ったわけだが…。彼の姉、一子さんも大の酒好きらしく… なんでも  有彦曰く「姉貴は十秒で一升瓶を空ける」 とのこと。  だが、有彦の部屋の隠し場所に不自由しなかったため、押入れの奥深くに封印さ れることとなった。 (有彦が保管場所を忘れるポカをやらかしてくれたが。)  そして今宵――その一子さんが同窓会でいないのであれば今日をおいて他にない。 「では遠野……」 「ああ、」  さあ呑もうと俺達二人が呉羽に触れようとした瞬間――  がちゃ 「ただいま〜♪」 「「へ?」」  玄関の方から普段の彼女からは聞き慣れない声が聞こえた。  ズンズンズン…… 「おら〜ありゅひゅこ〜おにゃあちゃあんがかえちゃっぞ〜」 (おら〜有彦〜お姉ちゃんが帰ったぞ〜) 「い、一子…さん」 「あ、姉貴……」  開いた口が塞がらなかった……。  リビングの入り口にいる一子さんはいつもの赤い系統の服ではなく、  珍しく黒を基調としたスーツ姿でしかも  黒い上着が肩からずれており、下の白いYシャツ(ボタンが二個外れていて)は 色っぽい。  しかも顔が真っ赤…酔ってる…はっちゃけてる…。  マズイ、マズスギル……  俺と有彦の顔が真っ赤な顔した彼女と正反対に蒼白になる。 『『い、いかん』』 『『計算外だ〜!!』』 「あ、姉貴……」  呉羽を一子さんに見せないように有彦はさり気無く彼女の前に立つ。 「同窓会はどうした?」  とろんとした視線を有彦に投げかけると一子さんは突然怒り出した。 「うるさいわね!!どうせ私は酒好きでヘビースモーカーよ!!行かず後家よ!!」 「誰もそんなこと言ってないぞ。」  呆れながらもツッコミはいれる有彦 「何よ、何よ…昔は私と悪いことしてた連中が…いまでは全員既婚者になっちゃっ て…」  よよよ…と一子さんは泣き崩れる。 「有彦…愚痴を零し始めたぞ、お前の姉さん」  どうやら行ったのはいいが奥様になった人達の会話について行けなくて帰ってき てしまったようだ。  う〜ん…イレギュラー乾一子…。  しかし…はっちゃけて入ってきてリビングの入り口で怒ったと思ったら今度は泣 き上戸…  酔っ払いはわけわからんな… 「あ、姉貴……そんな所に座ってないで部屋で横に…」 「ん?……ありゅま〜♪」(ん?……有間〜♪)  有彦の提案を無視し一子さんの視線が俺を捉え…。  刹那――、一子さんが駆けた。 「!!」  そのスピードはシエル先輩並だった――。  気を抜いていたので簡単に俺は彼女の両腕に捕まってしまった。 「う、うわあ!!」  だき…むにゅぅ 「えへへへ〜ちゅかまえたぁ♪」(えへへへ〜捕まえたぁ♪)」  なんて酔った顔で可愛いことを言う親友のお姉さん。  有彦がいなけりゃ抱きしめるぞ不○子ちゃん!! 「と、遠野、マズイぞ!!」  ―その時俺は有彦が自分を心配したのではなく呉羽を心配したのかと思った。― 「!!…わかって……ああっ!?」  何とか一子さんの注意を呉羽に向かわせないよう考えた矢先  きゅっ……ぽん  グビグビ……  何時の間にか俺から離れ、腰に手を当て呉羽をラッパのみする一子さん。 (よい子は真似しないでね♪)  まるで風呂上りのコーヒー牛乳(フルーツでも可)を飲む速度で幻の美酒は彼女 の喉へ消えていく――。  あんたは江戸っ子ですか!? 「「あ、ああああ…!!」」 「ぷは〜〜…」  がらごろん……  え〜…床に転がったのは鬼の名を冠した空っぽの酒瓶  俺は呆然とし、空っぽになった酒瓶を見つめる。  ――ああ、十秒ではなく…僅か七秒で…。(記録更新) 「ありゃま(有間)…」  うわあい…泣きたい。 「何でしょうか…」  血の涙を流すのをこらえ、俺は答える。 「……しょこにょ「キャアーニェルシャンタ」はにゃんだ?」 (そこの「カーネルサンタ」はなんだ?) と、彼女は入り口を指差す。 「へ?」  日本語だかなんだか判別しづらい呂律の回らない質問には答えられなかった。が、 彼女が指を指した先には…有彦がいた場所だったが、そこには  ―何故、カーネルサンタ?―  何時の間にか有彦がいた位置にはケン○ッキーの店頭にたっている。あの、置物 があった。  そして胸にはハリガミが貼ってあり。  ―あとはまかせた―by有彦  に、に…… 「逃げやがった〜〜〜!!」  俺は張り紙を握りつぶし大量の血涙を零す。  だが貧血が起きなくなったからってやりすぎはよくないかもしれないな。  頭がくらくらしてきたぜ…。  しかし本当に頭痛い……  俺一人にこの酔っ払いの相手をしろと!?そりゃないぜ有彦!! 「あらま…」(有間…) 「は、はい」  現実逃避タイム終了。  先に逃げた親友を呪いながら俺は彼女にぎこちなく振り向く。  あの幻の酒“呉羽”を一気に呑んだ一子さんはさっきより顔が真っ赤に染まり、 つい発情してるのでは?と不謹慎なことを思ってしまう。  ―もし…ここで押し倒されたら?―  ……有り得ない展開ではないかも。と警戒するのだが、  そんな予想も彼女の一言によりもろくも崩れる。 「……にゃむい」(ねむい) 「へ?」 「あるま〜ビャットへちゅれちぇっちぇ〜」(有間〜ベットへ連れてって〜) と、一子さんはふにゃりと電池が切れたロボットのようにその場に崩れた。 「ちょ、ちょっと……!!」 「おやすみ〜♪」 「ちょ、…まっ……!!」  どた!!  俺は前のめりに倒れようとする一子さんを支える。  いや、展開的にはこんな感じでいいんだけど…さあ。 「スースースー……」  一子さんは俺に身を預け眠っている。  無防備だなオイ、俺…男なんですけど…  なんの打算もなく眠られるとなんか自信なくすんですけど…。  でも…このまま…寝てる彼女に悪戯を…って展開も……ハ!!  ボカッ!!  俺は自分の頬に右フックを放つ。 「な、何考えてんだ!!落ちつけ!!落ちつくんだ!!」  そうだ!!冷静に…冷静に…。 「ん、……んん……。」  ふにゅ…… 「ひゃう!!」  突然押しつけられる胸の感触につい、生娘のような声をあげてしまう俺。  理性が…理性がぁ……!!  悪「よ、相棒!!やっちまおうぜ?「酒の上の不埒」って奴よ?」  そ、そうだね悪志貴。  善「だ、駄目だよ志貴君!!ここで彼女とやったら後で「色欲魔」の烙印が押さ   れちゃうよ!!」  そ、それはそれでやだな…。…  悪「なに、ふぬけたこと言ってんだよ!!志貴のテクなら   一子さんもイチコロだぜ?金髪やでか尻…ナイチチに飽きてんだろ?」  うん一理あるね  善「駄目だよ志貴君!!そんな無責任なコトしちゃあ……!!」  ドン!!  刹那,俺の頭上に黒い雷が落ちた。 「………一子さん。ベットをお連れします……。」  今日の俺の脳内会議は…悪志貴の「一子さんとやっちゃえ」の意見が承認されました。  パチパチパチ……。  そうと決まればぁ!!  俺は一子さんをお姫様抱っこすると猛スピードで彼女の部屋…  二階の一番奥の部屋へ向かい駆けあがった。  今の俺は誰にも止められん、ましてや神でもだ!!  七夜の力を行使し彼女の部屋の前にものの0.5秒で到着すると大きく深呼吸する。  がちゃり…  ドアを開ける音…  部屋は暗く、何も見えない。  手探りでスイッチを探す。  カチリ  視線一杯に広がる一子さんの部屋。  タバコの匂いが立ち込めているが問題ない。  ただ注目するのは俺の目の前にある薄い赤色のベット…  ああ、桃源郷が見える……。  このベットで寝ている一子さんと……妄想が俺のムスコを刺激する。 「ん…うん…」  眠り姫の一子さんをベットに寝かせると、俺は両手をわきわきさせた。  着崩れたスーツ姿が更に俺の本能をヒートさせる。  ああ、もう…俺の理性は闇の中に〜♪  反転衝動ばんざ〜い♪  そして彼女のYシャツへ手を伸ばそうとする…が  ふいに一子さんの寝顔が目に入った。 「………スウ…スウ………」  穏やかな寝息を立て眠る彼女はなんだか可愛い。  本人にいったら間違いなくぶん殴られるけど……  彼女も普段、秋葉と同じで黙っていれば可愛いのに…。  その寝顔が、突如、俺の本能にブレーキをかけてくれた。  温めていたエンジンが信じられない速度で急激にクールダウンしていく…。  わきわきさせていた腕を下ろし、ふうと溜め息をこぼす。 「なに考えてんのかね…俺は」  冷静になって自分がやろうとしたことに恥ずかしさで苦笑してしまう。  やはりこういうのは男女が同意の上でやらなくちゃいけないわけで…。  などとかっこつけている場合ではない。 「……そんなカッコで寝たら風邪引きますよ」  こんな姿で寝て風邪でも引かれては大変だ。紳士な言葉を吐きながら俺は彼女に かけるもうふを探そうと一瞬、一子さんから目を離す。  が、それが命取りというものだった。  ぐいっ  俺の右腕が引っ張られ。 「へ?」  どさっ  ベットに引きずり込まれ上下入れ替わり。 「おろっ?」  むんず  両肩に彼女の体重がかかる。 「あ、ありい!?」  自分でも何をされたか分からないうちに俺をベットに引きずりこまれマウントポ ジションを取られた。  この遠野志貴…一度ならずニ度も不意打ちを喰らうとは…!!  いつぞやのアルクェイドが朝、俺の部屋へ襲撃してきたことを今更ながらに思い 出す。  で、目の前には一子さん。はたから見るとシラフっぽいが目が、目が…  ――逝っている――  今の一子さんの瞳ははっきりいって悪クェイドの状態のアルクェイドより恐い。  その彼女が口を開いた。 「……どうしたの有間…このまま私を押し倒すのではなかったの?」  と…  後半へ続く!?  あとがき/ごめんなさいしにをさん!!スペシャルゥゥゥ!!  どうも天戯恭介です♪  このSSは最初、一括の予定だったんですよ…(涙)がね?  どうしても後半のHシーンが気に入らないんですよ!!  マジで!!  だからちゃんとしたの書くからもう少し待って!! (一括で書いたら7月下旬になる…多分) と、作品解説…実はコレ阿羅本氏の企画お嬢祭り出典作品 「Dry?」 と同時期に作られたSSです。  なので志貴が異常なほどはっちゃけたりするのはその名残です(謎)  最初は「ギャグだ!!ギャグでここを突破する!!」とか考えたんですが 煩悩が「こう、なんつーかこう…もっとドロドロした根暗なの書け」と叫びました。  で、コイツはDry?に負け(?)お蔵入りすることになるところでした  しにをさん…もう貴方には感謝の極みです。  まさかこいつが日の目を見るとは思いませんでした。  どうも、有り難うございました!!  それでは後編(!?)で会いましょう  戦闘BGM「誘惑」                        
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