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 自室の布団の中でただ一人静かに寝ている。
 時折土蔵で寝てしまう事もあるが、今居るのはほとんど何もない自室。
 全ていつも通りで何も変わらない。
 はず、だったのだけれど。

 浅い眠りの中で、ふと何かに気づいた。
 それが引っかかってか意識が急速に浮かび上がる。
 暖かいたゆたいの中から、暗い水面へと顔を出した。
 意識は覚め始めている。けれど身体はまだ眠りを欲している状態でそのまま
いると、スッという僅かな音。
 恐らくはふすまが開き、そして閉じられた気配がした。
 そして、俺の気づいた何かが部屋へと入ってくる微かな足音。
 物音を殺しているけれど、害意なんてまるっきり感じられない。 
 ひっそりと現れた人の気配に目を開けると、枕元で俺を覗き込む人影がある。
 いや、人影なんてあいまいなモノじゃない。見当はすでについていた。
 何より、俺がそうである事を望んでいた。
 それはこの十年間ずっと俺の側にいてくれた人。
 俺を見守り、そして俺がずっと見続けて来た人。
 確かめる為に名前を呼ぶ。
 それは――

「……藤ねぇ?」
「うん。こんばんは士郎」

 パジャマ姿の藤ねぇだった。
 藤ねぇが俺を覗き込んでいる。
 男物なのか淡い色合いに薄い縦線の入ったさっぱりとした寝巻きだけれど、
その輪郭は決して男の物ではありえない。その風情はどこか俺の心に細波を立
てるものだった。
 藤ねぇがいつの間に家に来たのかは分からない。
 でもいつものようにただ自然に微笑む藤ねぇを、何故か不思議とは思わなか
った。
 藤ねぇがここにいるのが、当然のような気さえした。
 だって、俺が望んだんだから。

 ―― 俺が、望んだ?

 自分の思考に首を傾げるけれどよく分からない。
 頭に霞がかかった様で、あまり深く考えられない。
 現状への疑問がまるで湧かない。
 この世界がこうある事が、何故か当然と思えるだけだった。
 俺と、藤ねぇで出来た世界。
 だからだろうか。俺が身体を横たえた布団のすぐ横に座った藤ねぇの手がそ
っと俺の頬に触れてきても、驚かなかったのは。
 伸ばされたひんやりとした指先が、俺の頬を撫でてその形を確かめていくの
をくすぐったく思いつつ、されるがままに撫でてもらう。
 されるがままになりながら、ぼんやりと藤ねぇを見上げる。明かりのない暗
い部屋の中で、差し込む月の白光の中、まるで藤ねぇだけが浮かび上がるよう。
 そして、目が離せなくなる。
 白い月光に照らされて微笑む藤ねぇは、とっても綺麗に思えたから。
 俺が、見とれてしまうほどに。
 その憧憬にも似た視線を柔らかく受け止めて、藤ねぇの唇がほんの少しだけ
開く。
 開いた唇が俺の名を呼ぶ。
 掠れるほど小さな声で、可笑しそうに悪戯に響く囁き。

「士郎……」

 その響きが部屋の闇へと消えて。
 そしてゆっくりと藤ねぇが近づいてきても、不思議なほど動揺はなかった。
 予期していたかの如くに受け止める。
 藤ねぇの吐息を目の前にして、それが自然な事であるように、何百回も繰り
返して来た事であるかのように。

「……ん」
「――」

 二人の唇が、触れ合った。
 ゆっくりと目を閉じると、その感触だけが全てになる。
 初めて触れるはずの、藤ねぇの唇。
 軽い口づけ。
 まるでワインでも味わう様にその濡れて暖かな、甘い唇の感触に酔いしれる。
 けれどそれも束の間。
 触れていた唇が吐息と共に離れていった。

 ―― それは、惜しいな。

 目を開ける。
 まだ間近にいる藤ねぇ。
 それが、離れて行くのが惜しくって。
 もっと藤ねぇに触れていたくて。

「藤ねぇ」
「なに?」

 小首をかしげるようにして問い返すのを見やりながら、俺は左手で上布団を
まくって上半身を起こす。
 そして右手は藤ねぇの背中に回して抱きしめ、ゆっくりと一緒に布団へと倒
れ込んだ。

「きゃっ」

 小さな悲鳴と共に、俺の胸に倒れ込んでくる藤ねぇ。
 その暖かな体温を抱きとめる。重なりあった胸に感じる柔らかく潰れるふく
らみと、藤ねぇの心音。感じる藤ねぇの重み。
 そして首筋にくすぐったく感じる吐息。藤ねぇの息遣い。

「……士郎?」

 俺の上で藤ねぇが少しだけ上半身を起こす。
 戸惑った様な声に返答はせず、そっと左手をその頬に伸ばした。
 さっきのお返しのように、藤ねぇの頬を俺の手がゆっくりと撫でていく。
 触れる藤ねぇの感触を確かめる。

「あ……」

 掌の感触に気持ちよさそうに眼を閉じる藤ねぇ。
 その揺れる睫毛が指先に触れる。
 俺はその藤ねぇをもう一度抱き寄せた。
 頬に当てた手をそのままに、藤ねぇをそっと引き寄せる。
 そして。

「藤ねぇ……」
「士郎、ん……」

 もう一度、唇を重ね合わせた。
 触れ合った藤ねぇの唇の感触を再び味わう。甘く震える、その口づけ。
 けれどそれにも飽き足らず、俺は閉じていた唇の間から濡れた舌を這い出さ
せた。
 一瞬ビクリとした藤ねぇの身体を回した手で柔らかく抱きしめて、唇を舌で
なぞって行く。俺の唾液で藤ねぇの唇が濡れていく。
 やがて躊躇いがちに唇が開かれ、俺の舌が藤ねぇの舌と絡み合った。
 少しザラリとしたその赤くて柔らかい肉が、俺のそれと交じり合う。絡まり
あう。

「ん。ん、フゥ……」

 聞こえるのは互いの息遣い。それから重なった舌が奏でるピチャピチャとい
う水音。
 俺の舌が藤ねぇの舌を、唇を舐め、藤ねぇの唾液を自らの口腔へと運んでい
く。
 口の中に溜まった藤ねぇの唾液をごくりと飲み干すと、自分とは違うものが
喉の奥へと流れていった。

 ―― これが、藤ねぇの味……

 それが甘い様な気がするのはただの錯覚。
 だというのにその味はどうしようもなく甘美で、まるでアルコールのように
俺の喉を焼いていた。
 身体が藤ねぇを求める。
 痺れる様に、渇望する。

「ん……士郎、もっと?」

 優しく、柔らかく。そして悪戯に。
 そう言った藤ねぇはたっぷりと唾液を絡ませた舌を俺へと伸ばしてきた。
 けれど決して自分から俺に触れては来ない。悪戯な目をして、俺の顔の上で
ユラユラと舌を揺らす。その舌からは今にも透明な液体が零れ落ちそうで。
 我慢出来ずに枕から頭を上げ、その魅力的な餌に釣られた。
 魚の様に口を開いて、藤ねぇの舌を唇で啄ばむ。

「あ……かひゃっふぁ」

 嬉しそうに「かかった」と言う藤ねぇの舌の半分は俺の口腔内にある。
 その舌の中ほどを唇で挟み込み、自分の舌と、上顎の内側と、口腔内の全て
を使って唾液を啜り取った。
 甘く、かすかに藤ねぇの香りのする液体。それに甘露であるかのように喉を
鳴らした。
 藤ねぇの舌を、自らのそれで絞る様に、柔らかく撫で回す。

「ん……ふふ……」

 妖しげに微笑んだ藤ねぇは、更に唾液をトロトロと舌に流し落とす。
 それを受け止める為に舌を挟んでいた唇を開くと、藤ねぇがスッと顔を寄せ
てきた。
 三度目になる口づけ。
 触れ合ったまま、枕に頭を埋めて受け止める。
 けれど今度は、藤ねぇの舌が俺の口腔内に差し込まれていた。

「ん、うう?」
「うふ」

 藤ねぇの舌が俺の口腔内で蠢く。
 暖かく滑る肉片が俺の歯並びを舐めまわし、顎の内側を撫でていく。舌と舌
がより複雑に絡み合う。
 藤ねぇの唾液と、俺の唾液が舌の上で混ざり合っていく。

 ―― 今、俺の口の中にあるのが藤ねぇの舌……

 ずっと一緒に居て、でも、決して触れる事はないだろうと思っていた、俺に
とって大事なヒトのその舌なのか。
 藤ねぇの舌先が俺の口腔内を悪戯っぽく蠢いている。
 それだけで、俺の背筋をゾクゾクと駆け下りていく物があった。ズンと、ま
るで腹の奥でやるせない熱が産みだされて行くような、そんな感覚。そんな刺
激。
 どのくらいの時間、そうして舌を絡めていたのか。
 やがて藤ねぇが離れると、俺の舌と藤ねぇの舌との間にツゥと銀色の橋が生
まれ、そして消えた。
 渇望は更に強くなっている。もっともっと。

「士郎、気持ちよかった?」

 自分も潤んだ眼で、俺に微笑みかける藤ねぇ。俺はコクリと頷いて返す。
 とても、気持ち良かったのだ。もう、離したくなくなるくらいに。
 それを見た藤ねぇの笑みが少し妖しく崩れ、そしてその手が俺に伸ばされた。

「そうよね、こんなになってるんだから」
「う……わ」

 藤ねぇの手が、パジャマの上から俺の股間に触れている。
 思わず後ろに下がろうと身体が動いて、そして布団の上の何処にも動けなか
った。
 その部分はトランクスとパジャマの上からでも、大きくなっているのが丸分
かりだった。
 でも仕方ないと思う。
 藤ねぇとのキスが、すごく気持ちよかったんだから。

「あ、う、そりゃ……藤ねぇがそうしたんじゃないか」

 どう言っていいか分からず、でもどうにも現実感を欠く状況の中で、俺は結
局そう言った。そう言うのが正解だと確信犯的に、ある種の予定調和のように
思ったから。
 途端に藤ねぇの手がゆっくりとパジャマの上で数度往復する。俺のものの真
上で。

「うあっ、っ」

 その擦る動きに、思わず息を呑む。
 そうしないと、みっともない声を上げてしまいそうだった。

「ふふ、そうよね。これは私の所為でこうなっているのよね」

 藤ねぇが囁く。
 身体をまた俺の胸にあずけて、俺の耳元で囁く。
 柔らかい身体を俺に押し付けて。
 吐息がかかるくらいに近く、否、唇が触れるほどに近くで。

「――っ」

 噛み殺したのはどんな声だったか。
 至近の距離から囁くその唇が、気まぐれに俺の耳を啄ばんでいる。蕩けさせ
る様な藤ねぇの啄ばみ。
 それはすぐに離れて、そして代わりに熱を帯びた甘い吐息を吹きかけた。
 呼応するように腹の奥で何かが鎌首をもたげる様な幻視。

「あ、士郎がまだ大きく……」

 それが何のイメージだったかは、それ自体が淫らな気がするその声で耳元に
囁かれて、赤面しながら理解した。
 おかしいとは思う。それはもっとうろたえてもいい事だったはずなのだけれ
ど、今はそれよりも藤ねぇに与えられる快楽の方に意識が向いていた。
 藤ねぇの手が、俺の……
 けれど思わず期待してしまったのとは裏腹に、藤ねぇの手は俺自身から離さ
れ、そして俺の胸へと添えられた。
 ふと、焦らされているのか? と思う。それもいい。少しでも多く藤ねぇを
感じたい。
 その手で俺のパジャマのボタン一つ一つ外していきながら、藤ねぇが耳元で
囁く。
 甘く、妖しく、そして熱を帯びて。

「ねぇ、士郎?」

 ぺロリと、頬に舌の感触。
 思わずそちらを見たけれど、藤ねぇはすでにそこにはいない。
 俺の肩と胸にその指をまさぐる様に這わせ、そしてボタンを外されて露出し
ていた俺の胸板に、口づけた。

「ん……ふ」
「あ」

 そして、チュウと吸い付かれる感触。

「う、あ……あ」

 藤ねぇが俺の裸の胸に口づけている、その光景に息を呑む。
 それはおかしい。そんなはずがない。そんな事はありえない。
 さっき口づけを交わしたのに、何故かそんな認識が頭をよぎる。だって、藤
ねぇなのに。
 でも、頭の何処かでそう思うのだけれど、それがどうでも良い事だと思える
くらいに、その藤ねぇの光景が頭を焼いた。
 息の続く限り吸い続けた藤ねぇがその唇を離すと、そこには赤い鬱血痕が残
る。

「うふふ、キスマークね。士郎にキスマークつけちゃった」
「あ、う……」

 藤ねぇが楽しげに、残ったその赤い痣を愛しげにペロリと舐めた。
 気持ちよくて、でもその痣が、藤ねぇが自分の所有物へとつけた、マーキン
グの様に思えて。自分が藤ねぇの物になってしまったような気がして。
 そして、無性に俺も藤ねぇの肌に痕をつけたくなって。
 藤ねぇへと伸ばした手を、抑えられた。

「うふふっ」

 艶めいた笑いを残して俺の身体の上に上半身を乗せていた藤ねぇが身体を起
こし、部屋に入って来た一番最初の様に俺の横へと脚を崩して座りなおした。
 思わず身体を起こして向き直る。楽しそうな藤ねぇと目が合う。
 お互いに布団の上に座った形。

「……藤ねぇ?」
「士郎。士郎は、私にキスマークつけたい?」

 そう訊ねて、藤ねぇは自分のパジャマのボタンを外した。一つ、また一つ。
 藤ねぇの胸元が少しづつ露になっていくのから眼が離せない。
 四つ目の一番下のボタンが外されて、そして藤ねぇの左手がパジャマの布地
を摘んで、更に白い肌と胸のふくらみを俺の眼に見せ付ける。
 綺麗なその光景に目が釘づけになる。
 俺は手を突いてふらふらと藤ねぇに近寄って……
 ……そして、伸ばした手をまた藤ねぇに制止された。

「答えて。ねぇ士郎、士郎は私にマークをつけたい?」

 露になった胸の谷間や鎖骨から眼が離せず、固唾を呑んで見つめる俺の目の
前で、藤ねぇは自らの左の鎖骨の下辺りを指差す。その白い肌を。

「私が士郎にしたように、士郎が私のものだって印をつけたように。士郎は私
に士郎のマーク、つけたいかな?」

 尋ねる藤ねぇはそれはそれは楽しそうで、けれどその目の奥の光はどうしよ
うもなく真剣だった。
 だから、俺は心情を吐露する。
 あるがままに、誤魔化しなく。
 どうしようもないほどの、想いを込めて。

「つけたい。藤ねぇに、藤ねぇが俺のものだって跡を、つけたい」
「うん。よくできました」

 そう言ってにっこりと微笑んだ藤ねぇは、俺の頭をギュッとその胸に抱き寄
せた。
 むき出しのその胸に、俺の顔が埋められる。
 その柔らかなふくらみが俺の顔でふかっと潰れた。
 すべすべの柔らかい感触が、俺の肌を撫でていく。
 背筋を鋭く、悪寒にも似た劣情が走り抜けていく。
 一瞬で顔が真っ赤になる。心臓が、ドキドキする。

「わかるかな? 私の心臓がドキドキいってるの」
「あ、ああ……」

 そして、藤ねぇのドキドキも直に感じ取っていた。
 藤ねぇの胸の奥で、早鐘のように鳴っている鼓動。
 その速さが藤ねぇの心を表しているようだった。
 白い肌が薄くほんのりと染まり、艶めかしい。
 藤ねぇの肌。
 自然と湧いてきた唾をゴクリと飲み込んだ。
 
 ―― 俺が、今からここに跡をつけるのか。

 いざとなると、躊躇う気持ちも確かにあった。
 藤ねぇ。藤ねぇは俺にとって手のかかる姉であり、かけがえの無い姉であり、
俺を人間として生かしてくれた大事な人で。
 どこか、心の聖域に置いていた面があった。
 意識しないように、気づかないように。
 けれど、もう抑えきれない。
 想いをごまかせない。
 藤ねぇを俺のものにしたくて堪らない。
 第一、さっきすでにサイは投げてしまっている。何を躊躇う事があるものか。

「ね、早く……」
「ああ」

 さっき藤ねぇが指し示していた左の鎖骨の下あたり。柔らかいふくらみの上
の方。
 そこに、その白い肌に震える唇で、そっと口づけた。
 触れた肌が燃えるように熱い。

「うふ、ちょっとくすぐったいな……んっ……」

 力の限り吸いつく。痕を、いつまでも残る痕を藤ねぇの身体に残したくて。
 藤ねぇが俺のものだっていう、証を残したくて。
 思いきり吸い続けた。
 そして唇を離すと、そこに残る赤い鬱血痕。
 俺がつけられたのと同じ、キスマーク。
 所有物へと記されたマーキング。
 俺の眼と藤ねぇの眼が、その赤い痣を確認した。

 ―― 俺の、つけた、痣。

「えへ。私、士郎にマーキングされちゃった」

 嬉しそうに言う藤ねぇ。
 俺と藤ねぇの、お互いの胸にある痕。
 それは何の拘束力もない、ただの痣。他愛ない戯れ。
 でも、今だけはそれは証しだった。
 誓いのキスとも違う、もっと本能的な独占欲。俺は藤ねぇのもので藤ねぇが
俺のものだという、証明。
 お互いが望んだ、その関係。
 それが、俺には堪らない。
 二つの赤い痣を見比べて、そして藤ねぇは俺の頭をまたギュッと胸に抱きし
めた。

「いっぱい痕をつけていいよ。……ううん、士郎のものだっていう証を、つけ
て」

 そのか細い声は潤んでいて、それがとても愛しくて。
 俺はそのまま藤ねぇを布団に押し倒した。
 ドサリと倒れ込んで、そして身体を起こす。
 さっきとは逆に、下から俺を見上げる藤ねぇの瞳を真剣に見据える。
 心のままに、告げた。

「数え切れない程キスマークをつけてやる。もう消えなくなるくらいに」
「うん、そうして……」

 切なそうなその声に押されて、組み敷いたその肢体に眼を向ける。
 触れた所から体温の伝わってくる藤ねぇのその身体。
 自らの欲望のままに、愛しさのままに。
 藤ねぇの右の首筋にそっと口づけた。

「ん……」

 藤ねぇの吐息を聞きながら、その肌に痕を残す。
 肌を吸うほどに顔を近づけると、藤ねぇの香りが鼻をくすぐって陶然とした。
 唇を離して、そこに赤い痕が残っている事を確認する。
 藤ねぇがつけてくれと言った、俺の印。
 それが堪らなく嬉しくて、そのまま藤ねぇの肌に舌を這わせていく。

「あ、舌が……」

 その呟きを聞きながら、藤ねぇを味わっていく。
 ツゥと舌を動かすと藤ねぇの肌が俺の唾液で濡れて、軌跡がかすかに光って
いる。
 そのまま輪郭を伝って鎖骨を舌でなぞり、その終わりの辺りに再びキスをし
た。

「あは。そう、そうやって……でも、こっちも……」

 片手で俺の頭を嬉しそうに撫でながら、藤ねぇの左手が俺の手を取って誘導
したのはその柔らかなふくらみ。大きくはないけれど、形のいいそのふくらみ
が俺の手の中に納まった。
 藤ねぇの、乳房。この手の中にある、それ。
 こうして手で触れてみると藤ねぇの胸は考えていたよりもはるかに柔らかく、
そして想像していたよりもほんの少しだけ大きい。
 そのふくらみを傷つける事が怖くて、俺の手が恐る恐るという風に撫で始め
る。

「ん、そう。……力を入れすぎないでね」

 その声が甘くて、頭が蕩けそうだった。
 手の平に、その指に藤ねぇの胸の柔らかさを感じながら、俺の舌がもう一方
の藤ねぇの乳房に到達した。そこで一旦舌で綴ってきた道を途切れさせ、その
ふくらみの中ほどにまたキスの痕をつける。一つ。少しだけずらしてもう一つ。
更にその柔らかな肉に吸い付いてもう一つ。

「ん……ふ、うんん……っはぁ」

 痣が増える度に、俺の手が蠢く度に、藤ねぇが熱く妖しげな吐息をつく。
 俺の頭と背中に回された手に、時折ギュッと力が入っては抜ける。その繰り
返し。
 その中で、藤ねぇの身体が熱を帯びていくのを感じていた。ぎこちなく胸を
触っていた俺の手も次第に滑らかに動くようになっている。だから、俺が感じ
ているだけの昂ぶりを藤ねぇへ。そう思って、少しづつ、より大胆に。

「はぁ……士郎、ん、上手……に、あ……」

 うわ言の様に囁く藤ねぇ。
 その声が、すごく扇情的で艶かしかった。

 ―― これが藤ねぇの声……

 事実が俺を駆り立てる。
 藤ねぇが目の前でこの声を上げていると言う事実が。
 俺が、そうさせているのだという現状が。
 俺のこの手が、口づけが藤ねぇを乱れさせているという、この歓喜。
 もっともっと。より藤ねぇを――
 衝動に駆られる様に、藤ねぇの白い胸にキスの跡をつけていた、衛宮士郎の
刻印を増やし続けていたその口で、ふくらみの先端に薄く艶づいていた先端を
甘く噛む。

「ひゃっ! 士郎、もっと優しく……」
「あ、ごめん藤ねぇ」

 途端、驚いたように上がる声。
 慌てて離し、それから今度は優しく舌先でくすぐっていく。
 薄く色づいたその先端の周囲を、なぞるように。

「あ、ふぁ、ん、士郎……そう」

 声が甘く蕩けだしている。
 舌先と唇とで柔らかい肉を啄ばんでいく。手と口とを使って、藤ねぇの胸を
味わっていく。溺れるように、溶けていくように。
 俺の舌先に藤ねぇの乳房の先端がある。固くなったそれを、藤ねぇの昂ぶり
を示すそれを舌先で転がし、優しく唇ではむ。

「は、ぁ……ふふ、士郎、赤ちゃんみたい」

 衝動のままにチュウチュウと吸い付くと、藤ねぇは声を震わせながら俺を抱
きしめ、頭をそっと撫でてくれた。そうして藤ねぇの胸に抱きしめられている
と、なんだかすごく陶然とする。そしてそれ以上に駆り立てられて、夢中でし
ゃぶりついていた。
 乳が出るわけでもないのに、ひたすら、無心に。
 遠い過去にそうしていたであろう様に。
 けれど、その意味する所は過去のものとは決定的に違う。
 行為の意味は栄養を取る為ではなく、藤ねぇを求めるという事。
 俺が藤ねぇへと向ける欲望そのもの。
 そうして藤ねぇの身体を貪れば貪るほど藤ねぇも、そして俺だって昂ぶって
いく。心臓が早鐘のように血液を送り出し、俺の身体を凄い速さで駆巡る。そ
して――

「あら? でもこっちは赤ちゃんというよりは悪戯っ子かな?」
「っぷあっ!」

 思わず口にしていた乳首を離してしまった。
 からかう様に面白そうに、そう言った藤ねぇが俺の身体の下でゴソゴソと脚
を動かす。その膝が、俺の股間をグリグリと押していた。
 そこは先ほどに比しても、まだ大きく固くなっているのが自分でも分かって
しまう。
 ギョッとして思わず身体を浮かしたその隙間に、ニンマリと笑った藤ねぇの
手が滑り込んでいた。そこは柔いパジャマのズボンの上から触れられるだけで、
刺激と捉えられるほど敏感になってしまっている。
 その手が俺自身を確かめる様に撫で回され、そして引っ込んだ。
 上げた顔を、藤ねぇにぐいっと引き寄せられる。
 浮かせた身体を引き寄せられたので、布団に寝そべった藤ねぇの上に四つん
ばいの様な格好。
 
「わっ、ふ、藤ねぇっ!」
「うふふ。おっきくした責任、とってあげる。ご期待通りに、士郎の悪戯っ子
は私が面倒みてあげるんだから」

 さらに藤ねぇに引き寄せられた。
 俺の耳元で囁かれる声が、甘くて熱い。
 耳にかかる吐息は、それ自体が俺をゾクゾクとさせる愛撫。

「そのかわり」

 妖しげな音色はオトコを駆り立てるオンナの声。
 今まで意識して来なかった、とても綺麗でしなやかで、そして淫靡な藤ねぇ
の声だった。

「こんなにたくさん印つけちゃったんだから。私を士郎のモノにしちゃったん
だから――」

 その声と共に俺の両の頬に藤ねぇの手が添えられ、そして何度目になるのか
藤ねぇと俺の唇が重ねられる。戸惑う頭の中とは裏腹に、身体は反応して藤ね
ぇの唇の感触を味わい陶酔する。
 たっぷりと時間をかけてその張りのある柔らかさと濡れて扇情的な快楽を堪
能してから、その唇が離される。
 と、離された唇から藤ねぇは楽しそうに悪戯っぽく舌を出して、ついでのよ
うにペロリと俺の口の端を舐めていった。
 それからその両腕がそっと俺の背中に回る。柔らかく、でもしっかりと藤ね
ぇが俺を抱きしめる。
 また俺の肩に頭を乗せて、熱い頬を擦り合わせるようにして俺の耳に口を近
づけて。
 そうして。


「――士郎、私を優しく可愛がってね?」


 照れた、はにかむ様なその言葉に俺は殺された。
 完膚なきまでに、壊された。
 どこかが決定的にいかれてしまった。
 流されながら、熱に浮かされながら、どこか冷静に見ていた最後の部分まで
も。
 全て藤ねぇで埋められてしまった。

「藤ねぇ」
「あっ……」

 衝動のままに、藤ねぇを両手でギュッと抱きしめる。
 狂おしいまでに湧き上がる、その衝動。
 ぴったりと身体を密着させて、少しでも藤ねぇが感じられるように。
 藤ねぇが苦しくないように、でも精一杯抱きしめ続ける。

「士郎?」
「藤ねぇ、好きだ。大好きだ」

 弟としてではなく、男として。
 頬を摺り合わせるようにして、そう囁く。
 顔はたぶん、一面真っ赤だ。とても顔を合わせて言えたものじゃなかった。
 我ながら、今更言うのはメチャクチャに滑稽だと思う。
 でも、それだけは伝えないといけない気がした。
 俺が藤ねぇを好きなんだって。
 ギュッとこの手に大切な人抱きしめて。
 そして、どのくらいそのままの時間が続いたのか。

「……うん、そっか。士郎、私も大好き」

 しばらく後にそう言って。
 涙に潤んだ声でそう言って、藤ねぇは俺の頭に手を回して優しく撫でてくれ
た。
 触れ合った頬が濡れるのは悪い感触ではなかったけれど、気づかない振りを
する。

「いっぱい可愛がる。イヤって言うまで可愛がるから」
「うん……うん……」

 何も言えないでいる藤ねぇに、俺は優しく囁きかける。
 ただ、頷くだけの藤ねぇが愛しくて。
 もう、藤ねぇは俺のなんだから。もう離さないから。
 そう告げて、俺達はもう一度ギュッと抱きしめあった。





「う、なんかやっぱり恥ずかしいな」

 照れたように笑う藤ねぇ。
 布団の上に座る藤ねぇはパジャマを脱ぎ捨てた生まれたままの姿で、所在無
げにしている。締め付けられるのが嫌いなのかいつもゆったりとした服を着て
いるのだけれど、こうして脱いでしまうとそのプロポーションは見とれる程だ。
 スラリとしなやかで、けれど出るところはっしっかりと出ているスレンダー
で女らしいその輪郭。その肢体には野生動物のような生命に満ちた輝きが詰ま
っているかのよう。
 その胸には俺が着けた幾つもの痕が浮かんでいて艶かしい。
 俺がつけた、俺の印。それが藤ねぇについているのが嬉しかった。

「そんなの、俺だって同じだよ」

 俺の方はといえば、自分がどんな表情をしているかも分かっちゃいない。
 もちろん、俺だって全部脱いでいるのだ。
 うっかりというかなんというか、仕切りなおし気味に気分が改まってしまっ
たので妙に気恥ずかしかった。
 裸を晒すこととか、さっきまでの所業とか。
 ぐああ、顔から火が出そうだ。内心でゴロゴロ転げまわりたい衝動に駆られ
る。
 それでも。

「じゃ、じゃあ」
「うん」

 それでも気を取り直して藤ねぇに近寄った。
 近寄ってその頬にそっと、藤ねぇの存在を確かめるように手を触れる。
 手に伝わる藤ねぇの体温。触れる距離に藤ねぇがいる。
 その暖かさに魂を奪われたように、性急に肩を抱き寄せてキスをした。
 差し込む月光に照らされて、二つの影が重なる。
 二人の輪郭が溶け合う。
 融けて一つの形になる。
 それは儀式めいた行為。
 お互いの存在を確認する為の、その望む者を問う、もっとも根源的な手法。

「ハァ……」
「ふぅ……」

 長く長く、息の続く限りお互いの唇を触れ合わせて、そしてその末に息を吐
いた。
 それだけで頭がグラグラするほどに、心が震える。
 体温が上昇する。鼓動が激しくなって、胸のドキドキが止まらなくなる。
 間近にある藤ねぇの唇が濡れている。俺の口を吸って濡れている。
 その艶やかな紅色が、濡れていた。

「藤ねぇ」
「ん」

 コクリと藤ねぇが頷いたのを見てから、もう一度唇を重ね合わせた。
 そしてそのまま藤ねぇの身体と頭に腕を回してゆっくりと布団に倒れ込む。
 ぽすんと眼を瞑ったままの藤ねぇの肢体が布団に横たわり、俺の胸板が藤ね
ぇの上に覆いかぶさり、お腹が触れ合い、二人の脚が絡み合う。
 身体を起こそうとするとそのまま藤ねぇの両腕が俺の背中に回される。俺も
離すのが惜しくなって、更に俺達は口づけ続けた。また息の続く限り、長く、
長く。

「ぷはっ……えへへ」

 そうして、また甘くて熱い吐息をつき合った後で、藤ねぇは微笑んだ。
 嬉しそうに俺の肩に額をつけて顔を隠す。それからやっぱり嬉しそうに、け
れど小声でこっそりと。悪戯っぽく。

「士郎、お腹に当たってるよ?」

 と、事実を告げた。
 俺のモノはすでにずっと前からいきり立って、藤ねぇの可愛いお臍の辺りを
突いていたから。

「ああ。藤ねぇとキスすると、気持ちいいからそうなったんだ」
「そっか」

 真っ赤になった顔で正直に言って、それから一瞬だけギュッと藤ねぇを抱き
しめてから、背中に回した手を解く。
 そうして開いた隙間に、藤ねぇがスッと手を差し入れた。
 向かう先は俺自身。先ほどとは違って、パジャマの上からではない。
 ひんやりとして細い女の指先が、俺のモノに絡みつく。

「あ。固くて、熱い……」
「っ、そりゃ……」

 その腰の奥に電流が走る様な唐突な刺激に、息を止めて耐えた。
 自らとはまるきり質の違う手。その持ち主が藤ねぇであるという事実が俺を
突き動かしそうになる。
 その一瞬動きの止まった俺を、どういうコツなのかコロリと布団の上で見事
にひっくり返す藤ねぇ。簡単に上下を逆転された。
 そうして俺の上に覆いかぶさった藤ねぇが耳元で囁く。

「うふふ。この悪戯っ子は私が面倒見てあげるって言ったでしょ?」

 声自体が俺を殺すに値するその言葉。
 その言葉を囁いた上で、俺が何かを言う前に藤ねぇの指が俺自身を擦りはじ
めた。
 普段竹刀を握っている藤ねぇの指は、白魚のような、という形容には当ては
まらない。どちらかというと男の手に近いような気がしていた。
 けれど、それは間違いだ。藤ねぇの手とその指は、その動きはどうしようも
ない程にオンナであって、まるでソレに触れるためにあるのかと思うほどに気
持ちよさを俺に伝えてくる。
 そのひんやりとした指が俺のモノに触れ、撫で擦りながら絡みつく。蜘蛛の
ように絡み付いて離さない。
 いや、違う。こんな淫らな動きをする蜘蛛なんてあるものか。これは、冷や
やかでしなやかで、どうしようもなくふしだらに蠢く藤ねぇの指先。
 触れただけで俺を身悶えさせる、淫靡さに満ちたその指先。
 爪の先が気まぐれに、俺のソレをカリリと軽く引っかいた。

「っ、あ」

 思わず息が漏れる。
 敏感になったそれからもたらされた僅かな痛み。それが退いた後の痺れるよ
うな感覚。
 俺自身の真ん中辺りを這うその感覚は、はっきりとした快楽だった。

「あは、士郎、可愛い……」

 悪戯で、熱に浮かされるようなその言葉。
 こみ上げてくるゾクゾクを必死で耐える俺の顔を可愛いと評して、藤ねぇは
また俺にキスをした。
 その口づけを受けながら、俺はその背に片手を回して縋りつく。
 本当は、このまま弄ばれ続けてもいいかとも思っていた。
 でも。

 ―― 可愛い、と言われたてしまったから。

 心中で呟いて、回した手と逆の右手を藤ねぇと俺の間に差し入れた。
 手が最初に触れたのは可愛くて形のいい、藤ねぇのお臍。
 何が可愛いと言って、未だに雷が鳴る度にお臍を押さえているのを見るのが
特に可愛らしいのだが。そして、確かに取られたら勿体無いなと思うほどに可
愛いと思うのだ。このお臍は。

「ふぁ!っう!?」
「ふっふ」

 不意打ち気味のその接触。
 藤ねぇのお臍を指先でくすぐるとビクリと身体が跳ねた。
 重ねていた唇が離れたのに、短い息継ぎだけでもう一度追いついて再度唇を
重ねる。そうして舌まで藤ねぇの唇にねじ込んだ。

「うぷ……!……!」

 思わず噛み付こうとして躊躇った藤ねぇの歯列の間をスルリと俺の舌が潜り
抜ける。
 暴れようとする藤ねぇを背中から後頭部に手を回して押さえ、舌で口腔内を
かき回す。丁寧に、優しく、ゆっくりと舐めねぶって行く。
 差し入れた手の方は、お臍を中心に軽くあやす様に撫で回し続ける。

「……ん、あ、ふぅ……」

 藤ねぇの口へと進入した俺の舌が、逃げる藤ねぇのそれを追って深く入り込
んで絡まりあう。唾液を塗し、吸い取り混じり合わせる。気持ちいいのか、そ
の度に藤ねぇが甘く鼻を鳴らすのが、堪らない心地だった。
 やがて藤ねぇが大人しくなったのを見計らって、名残惜しく感じながらも唇
を離す。
 最後まで絡まりあっていた舌が最後に藤ねぇのソレの先を舐めると、間に蜘
蛛の糸が張って、そして消えた。
 続けざまのキスに荒い息を吐く藤ねぇの眼が潤んでトロンとしているのを見
てから、お腹に置いた指先でまたお臍を擽る。 

「可愛い、なんて言わないでくれ藤ねぇ。なにしろ――」

 そうして俺も耳元で囁いてやった。
 さっきの藤ねぇみたいに、楽しそうに。可笑しそうに。
 そして悪戯っぽく、堪らない愛しさを込めて。

「――俺の方が藤ねぇを、優しく可愛がるんだからさ」

 そうはっきりと耳元で囁いた。
 それがさっき交わした約束。
 藤ねぇを自分の物とした時の、言葉。
 だから俺は可愛い藤ねぇをいっぱい可愛がらねばならないのだ。
 それが、誓い。
 囁かれた藤ねぇはといえば。
 見なくてもサッと顔が真っ赤になるのが分かった。
 そうしてしばし、えーとかうーとか小さく唸ったりしたあげく俺の肩に顔を
埋めて。
 小さな声で、本当に小さな声で。

「……うん。可愛がってね」

 と呟いた。
 その声、その言葉。俺にとっては堪らない。
 もう、どうしようもないほどに堪らない。
 狂おしいほどに愛おしい。
 嵐のように奪いつくしてしまいたい。
 でも出来る限り優しく抱きしめたい。
 色々と頭の中を火花の様にぐるぐる駆け巡る思考を一旦置いて、俺はまた藤
ねぇにキスをした。

「ん……」
「あ……」

 口づけを交わすのが何度目になるのか、それも良く分からなくなってきたけ
れどどうでもいい。藤ねぇに触れるのが、キスをするのが気持ちいいからそれ
でいい。
 息つく暇も無いとはこの事だと思う。
 何しろ、本当に息継ぎをする時間さえ惜しいのだ。
 そうしてキスを繰り返しながら、俺はお腹の方に置いた手をそろそろと移動
させ始めた。下腹部の方へと。
 ゆっくりと動かしていって、そうして藤ねぇの淡い翳りへと到達する。
 本来なら俺の手に触れるはずも無い、藤ねぇの恥じらい多き下腹部の茂み。

「はぅ……ううう……」

 その感触と、恥らって顔を真っ赤にしつつも制止できないでいる藤ねぇを堪
能する。
 その時、ふと思いつくことがあってニンマリした。
 重ねたキスの内側で藤ねぇの舌を啜りながら、優しい手つきで翳りを梳いて
いく。
 けれど、それ以上は進まない。
 藤ねぇの下腹部を撫でるだけ。

「ん、士郎……?」

 それには答えずに、またキス。
 進まないでそのやや柔い痴毛の感覚を楽しんで待つ。
 指にくるくると巻きつけたりしながら、あくまでもやわやわと。
 何度でも繰り返し繰り返し梳る。
 やがて藤ねぇがモジモジし始めても、そのままに。

「……ん、士郎……私、私ぃ……」

 藤ねぇの声が熱い吐息と共に、切なさを伝えてくる。
 その風情にゾクゾクと快感が駆巡る。俺自身がますます固くいきり立つ。
 でも、行動で表してもらいたいな、と更にそのまま。
 口をふさぐ様にキスをして、それから離してまた待った。

「んん、士郎、私、もう……お願い……触って……よぅ」

 哀願の声が淫らで切ない響きを帯びている。
 それを心地よく聞きながら、愛しむようにただ藤ねぇの秘毛を撫で回し続け
た。

「士郎、お願い。私を……可愛がって、お願い」

 そうして待っていると真っ赤な顔でそう言って。
 やがて藤ねぇの両脚が僅かながら開かれ、そしてお尻が躊躇いがちに振られ
る。
 そうせざるを得ないほどに、焦らされた藤ねぇ。
 断続的に重ね合わせた唇が離れて、俺を見るその目が涙を湛えて切なかった。
 その控えめな催促の仕種が可愛くて、恥らう様が愛しくて。

「よくできましたっ」
「あ……」

 藤ねぇの頭をワシャワシャと撫で回して、湛えられていた涙に接吻して。
 そして、這わしていた指先をそっと先へと進めさせた。

「ふ、あああぁぁ……ぁん……」

 藤ねぇから、吐息のようなか細い声があがる。
 自ら秘めたる場所に誘ってしまった羞恥と、待ち望んだ歓喜の入り混じった、
でも控え目な声。
 俺を狂わせる、魅惑の声。
 それが、愛しい。ギュウっと抱きしめたいくらいに。
 そうして、俺の指先が触れた藤ねぇの其処。
 一番秘すべきオンナの部分。
 姉と弟の関係であれば決して触れてはいけない其処は、既に濡れそぼってい
た。
 俺がそうさせたのだと思うと、ジンとしたものが込み上げる。

「凄く濡れてるぞ藤ねぇ?」
「誰のせいよぅ、バカ……優しくって言ったのにぃ」

 耳まで真っ赤になった顔を俺の胸に埋めて恥らうのが、また。
 何処までも初々しい人だな、本当に。思わずまた藤ねぇの頭を撫でていた。
 そうして俺は藤ねぇの頭を撫でながら、藤ねぇの熱く濡れた其処を探索し始
める。
 耳を澄ませばピチャリと、水音がするのが聞こえた。

「あ、ん……ふぅ、あ」

 俺の指がゆっくりと形をなぞりだすと、藤ねぇの口から熱を帯びた喘ぎ声が
漏れ出す。
 そして、藤ねぇの秘唇から溢れた熱い滴りが俺の指を濡らしていく。どこま
でも熱く、熱く、ねっとりと。俺の指先に絡みつくように、溶かして行くよう
に。
 耳元で、ずっと思っていた事を囁いた。

「その声、すごく興奮するよ藤ねぇ。もっと、聞かせて……」

 良い音色の楽器を爪弾くように、指先を蠢かして藤ねぇを奏でていく。
 高く、低く、長く、短く、澄んだ音色が掻き立てる。

「あ、ああ、あう、ふあ、うう、……ひゃん」

 指先の一つ一つの動きに敏感に反応して、声を上げる藤ねぇ。
 秘唇をキュッと摘むと、また違った音色が洩れた。
 その声が部屋の中にわずかずつ染みていくような錯覚。
 少しずつ少しずつ、部屋の空気が変わっていく。
 喘ぎ声と、ピチャピチャという水音と共に変わっていく。
 淫らで、淫靡で、脳が溶けていくような空気。
 藤ねぇの滲ませた汗とオンナの体臭と、溢れ出た愛液が交じり合った空気が
部屋に充満していく。
 俺の脳を焼いて溶かしていく。

「う、ふぅ……私も……」

 藤ねぇの、蕩けたような声。
 その声と同時に藤ねぇの手が妖しく蠢いて。
 屹立していた俺自身にもう一度オンナの指が伸びる。
 そうしてさっきと同じように、いや、さっきよりも妖しげな指使いが俺のモ
ノを這い回る。
 けれど、その感触はさっきとはまるで違っていて――
 ――そして、クチュリという粘ついた音がした。俺のモノと藤ねぇの指と、
藤ねぇの指が溢れるほど掬い取って行った自らの愛液の間で。
 藤ねぇはそれを、自らの昂ぶりと痴態の証をまるで俺のものに塗りたくるよ
うにして動かしていく。
 そのオンナの匂いのする液体の所為なのか、俺のものは藤ねぇの手元でます
ます固く、太く、大きくなったような気がする。それは送り込まれる電流のよ
うな快楽を、ますます敏感にして行く行為だった。
 答えるように、俺は指の動きを複雑にし、そしてその一本を藤ねぇの中へと
沈めていった。

「くぅ、あ……はああぅん」

 上がる、震えるような痺れるような、声。
 藤ねぇの溢れさせていた蜜でトロトロになっていた俺の指は、抵抗らしい抵
抗もなしに藤ねぇの中へと吸い込まれていった。
 であるにも関わらず、その指は中へ中へと引き込まれていくような、そんな
蠢きを感じさせてゾクリと、腰の奥がズクンとなる。もし、此処に入れたなら、
それはどんなに―― 
 と、あらぬ方へと飛びそうになった意識が引き戻された。

「っつ、うわっ」
「あ、ふあん、……ふふ、お返し……ん……」

 喘ぎつつ、トロンと微笑んだ藤ねぇの手つきが少し変わった。
 俺のモノの中ほど辺りを妖しげに蠢いていたその指先が、今度はその先端を
這いまわる。時にその爪の先が俺のモノの先端の鈴口を掠めていくのはわざと
なのだろうか。
 身体の奥から引きずり出されるようなそれを感じながら、また藤ねぇへとお
返しする。
 藤ねぇの指先が俺のモノを擦りたて、俺の指先は藤ねぇの一番敏感な部分を
可愛がる。お互いに片手で相手に縋りつきながら、もう片方で相手を高みへと
押しやろうと妖しく蠢いている。そんな、二人の行為。

「んふ、士郎、気持ちいい?」

 自らも喘ぎながら、身をくねらせて。
 自分のオトコを、俺を渇望する淫靡な目で。
 情欲に溢れた声で、蕩けきった声で藤ねぇが尋ねる。 

「あ、ああ、気持ちいい。良すぎる。藤ねぇ、は?」

 俺はそれに答えて。
 自分もまた快楽への欲望と、相手への渇望に満ちている事を自覚した。
 たぶん俺の目だってオンナを、目の前の、自分のオンナである藤ねぇを求め
る目をしている。
 また、藤ねぇへと問いを返す。お互いの情欲に塗れた声を聞くこともまた耳
からの愛撫に等しい。
 触れる肌、くすぐる靡香、喘ぐ声、そして艶めかしいその肢体。触覚も嗅覚
も聴覚も視覚も、感じられる感覚は全て藤ねぇを捉えている。
 藤ねぇの潤んだ途切れ途切れの声が、俺をくすぐる。

「あ、は……だって、士郎が私を、私の、こんなに、恥ずかしい姿を、見せち
ゃって、私の、一番敏感な、トコ、士郎の指が掻き雑ぜてる、んだよ?」

 漏らされる吐息が俺の胸を、肩を伝いその熱さを知らしめる。
 それが今の俺と藤ねぇの関係。改めて思えば、何故こうなったのか。
 でも、もう今更止められない。情欲が加速していく。
 ツイと俺のものから離された藤ねぇの指先が、藤ねぇ自身を弄ぶ俺の指先と
触れ、それからその指先が俺へと差し出された。

「あふ……ほら、士郎、こんなになっちゃって、る」

 真っ赤になりながら俺の目の前へと差し出された藤ねぇの指は、藤ねぇの溢
れさせた液体でしとどに濡れている。
 その指先から粘性のある雫がポタリと一滴、俺の頬に滴り落ちて。
 俺はその指先にむしゃぶりついた。
 触覚も嗅覚も聴覚も視覚も、そして味覚でも淫蕩に乱れる藤ねぇを感じてい
く。
 ぺちゃぺちゃと子犬のように水音を立てて、舌を絡めてこそぎとって。
 甘露のように藤ねぇの感じた証しを嚥下した。
 唾液とは違う、けれど藤ねぇの匂いのするその味を。
 その一部始終を見ていた藤ねぇが俺の胸に縋りつくようにして、涙に潤んだ
瞳で訴えかける。
 その瞳で真っ直ぐに俺を見て。

「そうなっちゃうんだもん。士郎が、気持ちいいんだから。士郎が可愛がって
くれると、気持ちいいんだもん」

 それだけを伝えてくる。
 純真に、ただひたすらに。
 俺を感じているのだと訴える。

「ああ、俺だって、そうだ」

 それは嘘じゃない。
 藤ねぇであること。目の前で涙を湛えて俺を求めているのが藤ねぇだから。
 悩ましげに、淫らに肢体をくねらせて、俺を求めているのが藤ねぇだから。
 それが、今俺が溺れている原因だから。
 俺が藤ねぇを愛しく思っているから。
 だから、俺はまた藤ねぇにキスをした。

「……藤ねぇ」
「士郎……ん」

 そっと眼を瞑った藤ねぇに唇を重ねる。
 舌を差し入れて貪るように唾液を交換し、分け合い、啜りあう。交じり合う
ように、溶け合うように。
 そうして離れて、今度はその目の端に浮かんだ涙に口づける。唾液でもなく
愛蜜でもない藤ねぇの味。流れる全てを吸い取ってしまいたい、その液体。
 その全てが甘美で悦楽で、そして快楽だった。
 夢中で舌を吸い合って、水音を立てあって、その間にもお互いを刺激しあっ
て。
 やがて俺たちは昇り詰める寸前まで来てしまっていた。

「ねぇ……」
「なぁ……」

 そうしてどちらからともなく頷いて、それだけでお互いの意思を確認しあう。
 二人とも、指遊びなんかで終わりたくない。この艶事を終わらせたくない。
 果てるのなら、一つに繋がって、共に昇り詰めたいのだ、と。
 意思を確認しあった俺たちは、お互いに微笑み合う。
 身体の方はすでに十分すぎるほど潤っている。もう、我慢できないギリギリ
まで。
 だから、躊躇いはなかった。
 戸惑いも無かった。
 ただ、繋がりたいという欲求のみがあった。

「ん……動かないでね士郎」

 俺の上で、藤ねぇがモゾモゾと身体を動かす。
 身体を横たえた俺の上に膝立ちの藤ねぇ。俺からはその全てがよく見て取れ
た。
 綺麗な藤ねぇのその身体。肌が羞恥と歓喜で薄く紅色に染まって、艶めかし
くも蠱惑的なその肢体。その胸の赤い痣の群れも、藤ねぇの秘唇が濡れそぼっ
て張りのある太腿に一筋の滴りが落ちていることも。全てが酷く見て取れる。
 視覚が俺をたまらなくする。嗅覚が充満した藤ねぇのオンナを嗅ぎ取る。聴
覚の記憶が、味覚の記憶が、俺を駆り立てていく。
 そんな中で藤ねぇが俺のモノを手に取って、そっと藤ねぇの秘唇へと導いた。
 位置を修正して、そして藤ねぇの熱に浮かされた様な淫靡な眼が俺の視線と
絡まりあって。

「士郎、私の中で気持ちよくしてあげる」
「ああ。たっぷりと可愛がる」

 返答にニッコリと微笑んで。
 そうして藤ねぇが腰を落とした。
 その瞬間俺のモノが藤ねぇに包まれる。
 ズヌリと、熱くて柔らかく濡れた藤ねぇのオンナの中へと吸い込まれる。
 亀頭から根元まで、一気に藤ねぇを貫いていた。

「う、ふぅぅ……」

 俺のモノを自身の中に収めた藤ねぇが止めていた息を吐く。
 それから俺のお腹に手を突いてちょっとだけこっちに乗り出して。
 まるで中にある物に触れるように愛しげに自分のお腹をさすり、そうして上
気した顔のままで言う。

「あ、は、士郎と一つになっちゃった……」
「ああ」

 嬉しそうに言う藤ねぇの目の端に、少しだけ涙が滲んでいるのに気づかない
ふりをして、俺は短く答えた。
 もちろん俺にだって感慨がある。
 藤ねぇと一つにだなんて、とても不思議でとても予想外でとても照れくさく
て。
 そして、とても藤ねぇが愛おしかった。
 それ以上の事は頭の中を駆巡る奔流と化していて、とても言葉では表せない。
 感情の渦に言葉で上手く表せない。

「士郎の、すっごく大きくて固い」
「藤ねぇが、気持ちいいから、な」

 実際、その感触は手で握られた時の比ではなかった。
 藤ねぇ自身が締め付けてくるそれは、ただその中にあるだけで、俺のモノに
絡みつき、吸い付き、まるで意思を持って搾り取ろうとしているかのよう。
 それに耐えて俺は藤ねぇの手に手を重ね、そうして藤ねぇの目を見据えた。
 安心させる為に、促すために、伝えるために、望みをかなえるために。
 藤ねぇと共に、疾走する為に。
 俺の視線に藤ねぇが頷く。

「じゃ、動くね士郎?」

 俺の腰の上に座った藤ねぇが、そう囁く。
 体勢的に主導権を握っている所為か、楽しそうなからかう様な因子がほんの
ちょっぴり混じっている。
 けれど、そんな余計な観察はすぐに吹っ飛んだ。
 藤ねぇの腰が持ち上がる。それにつれて藤ねぇの中は俺のモノに絡みつき、
留めようとするかのように柔らかく締め付けてくる。それでもヌルヌルとした
たっぷりの藤ねぇの熱い蜜液が蠢く肉襞を滑らせて、俺のモノが動くことを可
能にしていた。凄まじく背筋を伝う快感と引き換えに。
 その桁違いの快楽に息を止めて耐える間に俺のモノは頭を残して藤ねぇの中
から抜け出ている。その現れたモノが藤ねぇの愛蜜に濡れ、テラテラと鈍く光
る様は我ながら少々グロテスクな気もする。自分の目で見てもそれは本当に藤
ねぇの中に入っていたのか? と思うほどに凶悪だ。

「あ……ふぅ」

 頂点まで来て藤ねぇが一息ついた。
 息をするだけで藤ねぇの膣口が俺のモノの雁首を締め上げて、俺は息つく事
も出来ていない。
 そうして今度は藤ねぇのお尻がまた一気に降ろされる。
 またゾブリと、肉を割って俺のモノが藤ねぇの中へと入っていく。
 俺の位置からは、藤ねぇの秘唇がズブズブと俺の固くて太いモノを飲み込ん
でいくのがよく見えた。それは正に咥え込むと言った感じで、何故か妙にうろ
たえる。
 出て行くときにはあれだけ引き止めるようだった藤ねぇの中の肉襞は、絡み
つきながらも奥へ奥へと誘うよう。
 濡れた肉棒が濡れた藤ねぇの中へと導かれて、僅かにニチャリと水音を立て
た。

「あ、ああ、ああはぁ、ん……はぁ」
「――ッ」

 そのどうしようもないほどの藤ねぇの中の感触が俺を追い詰めていく。
 でも藤ねぇは熱い切れ切れの吐息を吐きつつも、そんな俺の切羽詰った表情
を伺って、ニッと笑って腰の動きを続けていった。慣れてないのかややぎこち
なく、でも止まる事無く。

「ン、んあっ、はぁう……ひ、ああ」

 喘ぎ声が部屋に響く。
 藤ねぇと俺の間で休む事無くニチャ、ニチャ、といやらしい音がする。
 歯を食いしばって防戦一方の俺に余裕はないけれど、からかうように藤ねぇ
の声がかかった。

「んふ、士郎、気持ちいい?」

 気持ちよすぎた。
 藤ねぇの中は気持ちよすぎた。目の前で喘ぎ続ける藤ねぇが艶めかしすぎた。
 目の前で揺れるその乳房が扇情的すぎた。
 俺はもうギリギリだった。
 それでもニッと笑った藤ねぇに反撃してみたくて、俺もニッと笑って藤ねぇ
のお尻を両手でギュッと掴む。張りのあるお尻の肉がグニッと潰れる。
 だって、俺が藤ねぇを可愛がってやらなきゃならないんだから。
 こんな一方的なままではいられない。

「え、士郎……?」
「もの凄く、気持ちいいよ藤ねぇ。だからさ……」

 藤ねぇの脚を抱え込むようにして固定する。
 そうしておいて。

「だから、藤ねぇにも気持ちよくなってもらいたい、な!」
「ひゃっ!?」

 思いっきり腰を突き上げた。
 遠慮なく、それこそ恥骨に恥骨をぶつける様に。

「ふひゃうっ!? ちょ、士郎っ、きゃっっ!? あうっ!」

 ほとんど藤ねぇを跳ね上げるようにして腰を打ち付ける。
 連続して何度も何度も荒々しく。グチャ、グチャ、と音を立てて藤ねぇの中
へと突きこんだ。
 思惑などすぐに吹っ飛んだ。残るのは純粋な快楽中枢。
 欲望のままに、藤ねぇを求めるままに。
 オスの本能に従って、自らの物となったメスを貪る。
 それに伴って俺の身体にまるで千切れるほどの電流が駆巡り、その腹の奥で
燃えるゾクゾクが俺を制御不能なまでに駆り立てた。

「俺を、感じてる、か? 藤ねぇ?」

 荒い息を吐きながら、途切れ途切れに尋ねる。
 藤ねぇの方は俺の身体の上で、俺の腰が突き上げる度にその身体が跳ね、ま
るで踊るかのよう。その胸のふくらみが上下に大きく揺れていた。
 まるで息もつけないよう。

「感じ、すぎるわよっ、馬鹿ぁぁぁ……」

 情けなさそうな声で喘ぐ藤ねぇ。
 それもまた、俺の芯の所でゾクゾクと来るものがあるのではあるが。
 ものすごく魅力的なのだが。
 このまま最後まで行ってしまうか? とも思ったのだけれど。
 結局本能をねじ伏せて、その動きは一旦止めた。だって、優しく可愛がるっ
て約束だものな。
 この状態はどう考えても優しくはなかったし。
 藤ねぇは俺と繋がったまま、俺の胸に突っ伏した。
 顔を伏せたままで荒い息を整える事に集中している。
 俺はその頭をなんとなく撫でていた。
 そうして数分が経って。
 藤ねぇはウルウルとした涙目で顔を上げた。

「うー、士郎、優しく可愛がってくれるって言ったのにぃ……」

 恨みがましくこっちを睨む藤ねぇ。
 それが可笑しくて、とても可愛くて。
 またその頭を撫でてあげた。

「ゴメン、もっと優しくするから」

 そう言って、涙目の藤ねぇの顔に手を添えてまたキスをする。
 愛しさのままに。涙を指でぬぐって。
 眼を閉じた藤ねぇに愛しく口づけた。
 額に、チュッと。

「藤ねぇ」
「士郎、ん……」

 落ち着かせる為の、軽いキス。くすぐったそうに笑う藤ねぇ。
 あやす様にチュッと押し当てて、そして離れる。
 けれどやっぱりそれだけでは惜しくなって、離れた藤ねぇを捕らえてもう一
度口づけた。今度は普通に。
 舌先で藤ねぇの唇をノックし、応じて少しだけ開けられた扉に自らの舌先を
滑り込ませる。
 そうしてまた藤ねぇを貪った。
 甘い唾液を啜りるのが快感で。
 柔らかい舌を絡めあわせるのが淫蕩で。
 並びのいい歯を丹念になぞって行くのが愉悦で。
 藤ねぇへの愛撫にして、俺の快楽でもあるその行為。

「ん、ふぅ……んん」

 舌をピチャピチャと触れ合わせながら、藤ねぇの熱い息が俺の顔を擽って行
く。
 お互いの口から溢れた涎をやはり舌で拭って。
 それを快く思いながら、もう一度唇を重ねて息の続く限り吸い続ける。
 そうして、重ねあわされた唇が離された時には、お互い満ち足りた吐息を吐
いていた。

「それじゃ、もっと優しく」
「うん、優しくね……」

 確認の言葉を囁きあって。
 俺の身体にギュッと抱きつくようにして、藤ねぇはゆっくりと腰を動かし始
める。
 繋がった俺と藤ねぇの間で、ニチャヌチュ、ニュチュと水音が響き始める。
 それに合わせて、俺も腰を動かして行く。
 藤ねぇが気持ちいいように。俺が快楽を得られるように。
 二人にとって一番のリズムを奏でるために。

「あ、はぁ、ああ、あ……ふああっ士郎ぅ」
「うわ、これ……」

 そして気づく。
 元々あまり余裕は無かったのだけど、これはまた違う。これは桁違いだ。
 さっきしてしまったような強引な突き上げも明らかに快楽だった。
 でも、これは違う。大本のところで質が違う。
 藤ねぇが気持ちよくなりやすい様に考えた俺の動きと、俺を気持ちよくしよ
うとする藤ねぇ。その相乗効果と、お互いの快感を自分のことのように思うの
が、さっきとはまるで次元が違った。
 でも分かる。これが正しいんだって。
 藤ねぇの中に出入りする俺自身から溢れた蜜が俺の身体を濡らしていく。
 それほどまでに濡れても、藤ねぇの中は柔らかくそしてギュッと絡んできて
俺自身を離さない。俺と藤ねぇの入り組んだ複雑な動きが俺自身と藤ねぇの中
の色々な所を擦り、また新たな快楽となっていく。

「藤ねぇ」
「ん……」

 藤ねぇが床についていた手に、俺自身の手を重ね合わせ、握り合う。
 右の手も左の手も握りあう。
 そうして、二つの手を握り合って、その二人の動きを繰り返す。
 優しく優しく、愛しく愛しく。
 藤ねぇを可愛がるように、俺が可愛がられるように。
 握り合った手が溶け合って、吐く息が溶け合って、繋がって一つになったそ
こから溶け合って。
 窓から差し込む月明かりの下で、俺たちはどこまでも溶け合うように昂ぶっ
て行く。
 二人で、二人だけで、二人だけの世界で。どこまでも高く。
 飽きる事無く、ただただひたすらに。
 藤ねぇから溢れた愛蜜が俺の身体を熱く濡らし、俺の眼に映る所で俺がたく
さんのマークをつけたその胸が躍る。俺の胸にも藤ねぇの付けたキスの痕があ
るのがやけに嬉しかった。
 俺は藤ねぇのもので、藤ねぇは俺のもの。それは純然たる喜びだから。
 身体は切羽詰っているのに、不思議と精神は満ち足りた状態。
 いつまでも続いて欲しいような充足感。
 けれど、終わりは来る。
 
「士郎、私、もう、もう……」
「ああ、俺、も」

 心の方はともかく、身体の方がとっくに限界を超えていた。
 その藤ねぇの泣くような声に答え、握った両手に力を篭める。
 今にも飛んでいってしまいそうな藤ねぇに、俺がここに居ると伝えるために。
 それなのに、二人のリズムは加速する。終わりが見えて、其処を目指して加
速していく。
 ブレーキはとっくに逝かれてしまった。
 藤ねぇに触れた時、すでに無くしてしまっていた。
 俺は、とっくに藤ねぇにいかれていたんだから。
 このまま昇り詰める以外の想いはなかった。
 このまま。
 このまま――
 二人で――

「藤ねぇっ、俺、中に、藤ねぇの中、にっ」
「うん、出して! 士郎を、私に、いっぱい!」

 荒い息の中で、何もかもが塗りつぶされて行くなかでそれだけを伝え合って。
 そして身体はアクセルの最後に残された余裕をベタ踏みした。

「あう、あ、士郎、士郎ぅぅ……」
「藤ねぇ、藤ねぇ、に……」

 もう何がなんだかなんて分かっていない。
 視界も半分消えて、意識もほとんど真っ白だ。
 それでもそれで構わなかった。
 胸にかかるのは確かに藤ねぇの吐息。両の手が握っているのは確かに藤ねぇ
の手。そして俺が身体を重ねて、一つになっている相手は間違いなく藤ねぇな
んだから。
 だから他はどうでもいい。
 世界が見えなくなったんだって、世界そのものがなくなったんだってどうで
もいいから。
 今だけは。今、この瞬間だけは。
 俺には藤ねぇが全てなんだから。
 ただお互いだけが居れば、他に何もいらない。
 そうしていつしか限界を超えて。

「う、うあ、藤ねぇっ!」
「きゃふっ、士郎、あ、熱い、士郎が、熱いよっ!」

 真っ白な意識の中で、二度、三度と藤ねぇの中へと注ぎ込んでいた。
 四度、五度、身体の中身を全て出してしまうかのように。





 ほどなくして世界が戻る。
 いや、俺の意識がこの世界に戻って来たのか。
 俺の身体の上に覆いかぶさる、ぐったりとした藤ねぇ。
 その姿にふと掻き立てられて。

「藤ねぇ」
「……あ、士郎……?」

 俺はその気だるい身体を少しだけ起こし、湧き上がる愛しさの全てを込めて。
 そっと、藤ねぇに口づけた。




















「全男子渇望のイベント1 」

 作:権兵衛党




 /1

 唐突ではあるが、就寝の時間だ。
 という訳で俺は寝る。


 その日、いつもながら真に騒々しい夕食を終え、日課としている鍛錬やその
他を全て滞りなく終えてやることも無くなった俺はのんびりと布団に潜り込ん
だ。
 鍛錬で疲れている所為なのか、ぬくぬくとした布団の所為なのか、普段俺は
寝つきの良い方だ。
 それが、この日に限ってどうも寝付けずに居た。
 暑くも寒くも無いと言うのにどうにも寝苦しく、何度もゴロゴロと寝返りを
打つ。どうも不快感が纏わり着いて離れなかった。その感覚をどう表現すれば
良いのかいまひとつあやふやなのだが……感覚的には「何だこのプレッシャー
は!?」と言った感じだろうか。
 いやまあ、もちろん俺はニュータイプではないので他のニュータイプを察知
しているのでもなく、単なる不快感なのだが。ただ、どこからか精神攻撃を受
けているような気配というのは何となく言いえて妙な気がした。……こんな馬
鹿な事を考えるのも、寝苦しさの所為だろう。たぶん。
 そうやってゴロンゴロンと布団の中で寝返りを打ちつつ何時間がたったのか。
 ようやくウトウトとしてきて「ああ眠れそうだな」と思った時、ふと何かの
気配を感じた様な気がした。
 誰だろう?
 ボウッとした頭で思った。それは――

 ――って、ちょっと待て。

 ウトウトとしたまんまの脳みそがいきなり脳内で叫んだ。
 トートツに状況を理解する。
 今俺は半分寝た状態で、今忍び寄っているのは実在する人間の影でなく。
 ひょっとしてこれは、もしかして噂に聞く全男子渇望の――


「 淫夢イベントというヤツですかっ!?」


 ……とと、いかん。興奮すると眼が覚めてしまうではないか。勿体無い。落
ちつけ落ちつけ。
 お互いの心を確かめ合ったセイバーもすでに自らの時代へと帰還し、それな
りに楽しいながら寂しい独り身の日々なのだ。
 俺だって健全な男子高校生である。こんな状況でエッチぃ事に興味のなから
ん筈も無い。
 むっつりと言わば言え! 正義に全てを捧げた俺だって、夢の中でくらい興
味津々の少年でいたいんだぁぁぁぁぁぁっ!!
 ……ああ、落ちつけ俺。逆切れしている場合ではない。
 目前には全男子渇望のヘヴンが控えているのだ。
 というか、主人公としてコレだけは言っておきたかった。

「淫夢イベントに選択肢が無くなったのは間違いであったと!!」

 さて布団の中で喚くのもこのくらいにして、と。
 俺はワクワクとしながら布団に潜り込んだ。
 ……やはり俺にとってのフェイバリットなセイバーか。
 いやいや、せっかくの夢だ。憧れていた遠坂がいいか、それとも桜のムチム
チぼでぃがいいか。現実ではやばすぎるイリヤとか、せくしぃなライダーとか、
気の強い美綴だって……。
 いやいやいや、夢であるからこそセイバーともう一度、束の間の逢瀬を……
 あれこれと想像しながら意識を眠りの深みへと落としていく。
 おおアレに見えるのが待望の選択肢!
 ここでセーブしておかねばっ、などと謎の呟きを残しつつ……

 そう、ここに現れるのは――





  1.■■■■■■■
  2.■■■■■■■■
  3.■■■■
  4.■■■■■■■■■
  5.■■■■■■
  6.■■■■■■■■■
 →7.藤ねぇに違いない





 ――藤ねぇに違いなかった。

 ……って、何故に!? 何で藤ねぇなのさっ!
 とりあえず選んでから突っ込むのがノリ突っ込みの極意。
 ……でなくてだなっ。
 それよりもっ、何で他の選択肢が全部塗りつぶされてるんだよっ!!
 あまりの理不尽さに、わなわなと震える身体。
 ああっ、どこからか電波がっ?
 選択を妨害する妖しげな電波が送られている!?
 うおおおっ、俺は今、精神攻撃を受けているのかっ!?
 
 うああああっ、こんなのサギだっ! やり直しを要求するぅぅぅぅっ!!

 せっかくの選択肢なのにぃぃっ。
 ジタバタと精神的に暴れ回ったりとかなんとか。
 けれど、ついさっきまで寝付けなかったのが嘘のように、俺は夢の世界へ
と落ちていく。

 落ちていく、落ちていく……










 /3

 俺が目が覚めて最初にやった事は、まず辺りを見回す事だった。
 布団の中から部屋の中まで見回して確認する。
 ――OK、藤ねぇは元より誰もいない。
 そして次にやった事はというと、自分のパンツの中を確認する事だった。
 何を心配しているかなど野郎には説明するまでも無く、オナゴには説明でき
ない。
 ――OK、痕跡はない。
 そうしてようやくアレが夢だった事を認識した。

「……そりゃ、そうだよなぁ」

 荒唐無稽といえばあまりにも荒唐無稽。
 だって俺が藤ねぇと、なんてあまりにも――
 ――あまりにも生々しかった所為だ、クソ。こんなに戸惑うのは。
 いや、本当に夢だったのか? この手の感触が、あれが本当に、夢?
 否、夢だ。夢に違いないんだ。
 大体なんなんだ、あの意味の無い選択肢はっ。なんて無駄なっ!
 期待させといて詐欺だ! ボッタクリだ! チクショー、金返せ! 払って
ないけど!
 ウガーッ、腹立ってきた!
 ……いかん、落ち着こう、俺。所詮、夢だ。
 頭を振って時計を見ると、いつもの時間をとっくに廻っていた。
 台所ではたぶん桜が腕を振るっていて、居間にはもうイリヤと藤ねぇが……
 ああ早く起きていって、せめて手伝わないと。
 俺はガバッと起きだして――

「――え?」

 ――起き上がれなかった。
 やけに身体が重い。
 まるで身体の中身がごっそり抜け出たかのように、身体に力が入らない。

「……風邪でも引いたか?」

 首をかしげながら、力を振り絞って立ち上がる。
 足腰に力が入らないのを無視して、そのまま歩き出そうと……

「……と、と?」

 何だか世界が揺れていた。
 いや、たぶん揺れているのは俺の方だ。
 恐らく三半規管が正常に働いていない。
 確か子供の頃に風邪で高熱出してこうなった覚えが有る。

「あー、これは風邪確定か……」

 そのわりには熱を感じないのだが。
 でも、何か考えるのが億劫な感じだなぁ。
 不可解に思いながらも、そのうち戻るだろうと壁に手を突いて居間へと移動
する。
 その間に体調をチェックしてみる。
 熱は無い、咳も無い、腹痛も無い。筋肉痛でもないようだ。
 ただ、圧倒的なまでに疲労していた。
 こんな風邪は初めてだな、等と思いながら居間にたどり着く。

「おはようございます先輩……どうしたんですか?」

 気がつけば桜に心配げに覗き込まれていた。

「あ、いや……」

 それだけを言って、後が続けられない。
 これは困ったな……こんなのどうって事無いのに。

「どうしたのシロウ?」
「衛宮くん大丈夫?」
「士郎、風邪引いたの?」

 次々に心配の声が掛かった。
 心配させたくなかったのだが、身体機能が鈍っているせいかそれとも純粋に
エネルギー不足なのか、上手く頭が回らない。どころかまだ夢から醒めたのか
どうかも分からないようなフワフワした感じだ。
 ……ん? 今のはイリヤの次は遠坂か、何で遠坂がいるんだ? 
 心の片隅でそう思ったものの、それ以上に心を乱す要因があったのでそっち
が優先された。
 顔を上げる。
 俺の視界に入る目の前の桜。それからちゃぶ台からこっちにやってくるイリ
ヤと遠坂。
 そして、卓袱台前に座る、藤ねぇ。
 その姿に意識がクラリとよろける。
 脳裏をよぎる、その肢体。
 現実を夢が浸食しているかのようなこの感覚。
 否、夢と現実の境があいまいになっているのか。
 やけに希薄な現実感。リアルの感じられない現実感。
 本当はアレがリアルで、今俺は夢の中にいるのではないのか?
 ……ああ、クソ。まだ寝ぼけてるのか俺は。これは現実で、夢とは違うとい
うのに。
 それに納得しろ。
 そう、自分を納得させろ。
 自分に証明してみせろ。
 証明せなばならない。
 他の全てはその後だ。

「シロウ?」
「先輩?」

「……ああ、大丈夫だ」

 そう告げて、と居間の中へと歩を進めた。
 心配げな桜と覗き込むイリヤの横を通りすぎる。

「衛宮くん、足元がふらついてるわよ?」

 冷静な遠坂の指摘を受け流して奥へと進む。
 そこには空の茶碗を抱えてご飯を待つ藤ねぇがいる。

「ん? 士郎、顔色悪いわよ? 今日はお休みにしとくからさ」

 藤ねぇが何か言いかけるのを抑えて。
 そうして俺は無造作にリアルを確認した。


 具体的には。
 藤ねぇの襟元にひょいと指引っ掛けて中を覗き込んだ。


「なっ」
「…………」
「…………」
「…………」

 むぅ、あまりよく見えないが……
 ジッと見てみたが、昨夜つけたキスの痕は無いように思える。
 やっぱりあれは夢なのか?
 そのまましばし考えていると、なんだか空気が凍っているような気がした。
 ちょっと首を捻って、考えてみる。
 ……………………
 ……………………
 ……………………
 ……………………
 うむ、気のせいだろう。
 それよりも今は事の真偽を確かめねば。
 昨夜一番たくさん痕をつけたのは……あの辺りか。
 指で広げた藤ねぇの襟元から、片手を突っ込む。

「なっなっ……」
「せ、先輩っ」
「シロウ!」
「……衛宮くん?」

 そうして疑惑の箇所を覆い隠しているブラをムンズと掴んで引っぺがそうと
して――


「な、何してるかぁぁぁぁぁっ、このばかチーーーーンッッ!!!」


 俺はド迫力タイガーアッパーに、心底からリアルな現実感を植えつけられる
事となったのだった。




 
 ……で、空中を飛びながらも、その胸に突っ込んだ手にはしっかりとリアル
に柔らかさと暖かさの感触が残っていたわけなのですよ。
 その辺が藤ねぇを意識し始めた原因だったとすれば。
 どう考えても、考える得る最悪の意識の仕方だったのは間違いない所だと思
う。
 心の底から。

                        < 了 >











  後書き

 えー、見ての通り全男子渇望の淫夢イベントもの。ストーリーなど気にする
な式のお話を画策していたのですが。
 ……これ書いてる最中に「ある著名なSS書き氏」達(複数)が「こんな藤
ねぇエロどうですか?」と大層なエロエロを次々と目前で披露してくれまして
……
 で、「うわーん、こんなエロ書けないよぅ」と言う訳で18禁ほのぼの恋愛
SS風に路線変更となりました、はい。
 それでも愛だけは溢れているかと思います。
 ……………………………………………………たぶん。


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