カチリ。
 軽い音と共に何かが始まった。
 その音がどこから響いてきたのかはわからない。
 自分という身体の内側からなのか外側からなのか。
 それを突き止める手段はなく、始まってしまったその何かに身をゆだねた。
 空白の意識の中に浮かんでくる何か。
 そう、この春の日の静かな夜に、枕元に立つその人影は―― 


  1.■■■■■■■
  2.■■■■■■■■
  3.■■■■
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 →5.……イリヤ?
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  7.■■■■■■■■











全男子渇望のイベント2

 作:荒田 影










 その日の終わり、夜の始まり、闇の時。
 俺――衛宮士郎は、自分の部屋で床に就く。
 特に寝苦しい夜というわけでもなく、疲れた身体は睡眠を欲し、瞼はすぐに
重くなっていった。

 ……今日も、充実した一日だった。
 学校では一成を手伝い、遠坂には魔術を習い、自己の鍛錬も欠かさずにやる。
 桜と一緒に料理をし、イリヤの話に遅くまで付き合い、だらける藤ねえに喝
をいれる。
 それは何度も繰り返す、何の変哲もない日常。
 日々の歩みは遅々としていて、流れるようには過ぎていかない。
 けれど、それを不安だとは思わなかった。
 目標は遥か遠くに見えていて、辿り着くのは至難の業。
 それでも、こうして少しづつ研鑽を重ねていけば、いつかは辿り着くのだと
信じている。
 その場所は遠くとも、見失ってはいないのだから……。

 布団の中でうとうととしていると、ふいに、頬に風を感じた。
 何か爽やかさとは対極にある、けれど決して不快でない風。
 
 ――この風は、どこから流れてきたのだろう。
 
 疑問に思って枕元を見上げる。
 部屋の灯りは落ちていて、あたりは暗く沈んでいた。
 けれどその中で、まるで浮かび上がるように、小さな影が一つ。
 そこには闇の中に溶け込む様な、白い少女の姿があった。

「――イリヤ?」

 彼女の名を呼ぶ。

「こんばんわ、シロウ」

 イリヤはちょこんと枕元に座り込み、こっちの顔を覗き込みながら、なんで
もない様に挨拶をした。

「ああ、こんばんわ――」

 釣られて挨拶を返してから気付く。
 彼女がこの部屋にいる不思議に。
 浮かんだ疑問はすぐに口をついて出た。

「……なんで、イリヤがここに居るんだ?」

「あ、ひどい。シロウは私なんかいらないって言うの?」

「なんでそうなる。俺が言ってるのは――っ!?」

 言いながら、起き上がろうとして、更なる異変を悟る。
 ……身体が動かない。
 手や足はおろか、指先まで。
 首から上は自由に動くのに、まるで身体が石になったみたいだった。

「クス……相変わらず暗示に弱いんだね、シロウ」

 イリヤが笑う。
 それはいつもの無邪気さとは違う、時折見せる“あの”イリヤの笑みだ。
 ――だから、確信する。
 というか、疑うまでもない。
 この状況で、この異常事態の犯人が、目の前の少女でないはずがなかった。

「な、なにを――」

 するんだ、という言葉は最後までいえない。
 イリヤの顔が近づいてきて、赤い瞳が眼前に迫ったからだ。

「何って、決まってるじゃない」

 言って、瞳が閉じられる。
 頬を両手ではさまれた。
 枕元から見下ろすイリヤ。
 とっさに、やめろという言葉が浮かぶも、それは口からは出てこない。

 ――あるいは、期待しているのだろうか。
 何に、何を、期待しているのだろうか。

 戸惑っていたのは一瞬の出来事。
 事態はとどまることなく動いている。
 覗きこんでいる上下逆さの顔が、ゆっくりこちらに近づいてきて――。

「………ちゅ」

 そして――イリヤは、“額に”口づけた。
 軽い、朝の挨拶のようなキス。
 呆気にとられる俺を見て、楽しそうに微笑む。

「遊びに来たの」

「へ?」 

 間抜けな返事をイリヤに返す。
 離れていくイリヤの顔を見ていると、ふわり、とその身体が宙に舞った。
 それは幻想的な瞬間。
 頭を飛び越えていくイリヤの姿に、まさに妖精の様だと、らしくもない感想
を抱く。
 刹那の後、ポス、と腹の上に少女は跨っていた。

「ぐ――」

「――いいでしょ、シロウ?」

 にっこりと、穢れを知らぬ童女の笑顔で彼女は問う。

 やられた。

 その笑顔を前に、どうして断れるだろうか。
 年端もいかない少女に“何か”を期待した自分が、ひどく情けなかった。

「……わかった。
 とりあえず、動けるようにしてくれないか。
 このままじゃ、遊んでやれないだろ?」

 落ち込みそうになる気分を振り払いながら言う。
 変なことを考えていた自分がひどく汚れているように思えて。
 だからその口調は、多少憮然としていたのかもしれない。
 その様子がおかしかったのか、イリヤは腹の上でまた笑う。

 いや……違う。

 身体の上に乗る少女は、悪戯めいた笑みを浮かべて、顔を近づけきた。

「なんで? このままでいいじゃない」

「いいわけあるか。俺と遊ぶんなら、それが――」
「違うよシロウ。
 シロウ“と”遊びに来たんじゃないの」

 言葉を途中で遮ぎって、イリヤの声が近くで響く。

「――え?」

「……シロウ“で”遊びに来たのよ」

「――んぅっ!」

 完全な不意打ち。
 唇に、イリヤの唇が重ねられる。
 今度は重く、押し付けるように。
 小さな舌が唇を分け入ったかと思うと、途端、流れる感触。
 どろどろとした液体が、口内に送り込まれてきた。

「ンッ――」

「んんっ……!?」

 そして、錠剤のような何か。
 イリヤの唾と共に流し込まれたそれは、どういうわけかすぐに形を失う。
 何を飲まされているのか。
 自分のものと、少女のものとが交じり合った液体に、溶け込んだ“それ”。
 ごくり、と喉の奥に流れ込んだ瞬間、それはマグマのような熱をもった。

「っ――!! っ! っ!」

 体中を駆け巡る衝動。
 脳まで焼け付くかというその効果に、意識を一瞬手放しかける。

「んふ……ちゅ……ハァ……」

 イリヤの唇が離れた。
 つ、と舌から液体の残りを垂らしながら。
 離れる間際にちろりと唇を舐めていく。

「は――はぁっ、は…は、あ……」

 激しく情動を揺さぶるその行為は、しかし今の自分には関係なかった。
 走り出した車を、人が後ろから押すようなものだ。
 心臓が無理矢理血を送り出しているかのような鼓動。
 灼熱して真っ白になりかけている頭脳。
 動かない体は肌の全てが敏感に外界の情報を求め、逐一それを伝えてくる。
 だから今更、これ以上どう昂れというのか――!

「イ、リヤ……なに……飲ませ……」

「飲ませたのはありきたりなものよ。
 ありきたりで、常道で、けれど滅多に目にしないもの」

 心なし、上気しているようなイリヤの顔。
 熱い息が囁く。

「私の作った――媚薬」

 


 ちゅ…ちゅ…ちゅ……。
 キスは三度。
 唇と鼻の頭と左の頬。
 三度のキスの後に舌を這わせる。
 つ、と頬をなぞった後は、首筋にその唇で触れ、下へ下へと移動した。

 咽喉仏がゴクリ、と鳴る。
 敏感すぎる体は少女のなすがまま、昂りを保ち続けていた。
 布団はいつの間にか剥がれている。
 服はめくり上げられ、上半身はさらけ出された。
 首から移動した唇は、更に下へと移動し、胸板に触れる。
 幾度もキスを繰り返しながら、下へ、下へ。
 少女の手は愛しさを込めて肌を撫ぜる。
 鍛え上げられた身体を愛でながら、妖しく動く白い指先。
 ――ふと、それがズボンに触れた。
 少女は一度、ちらりと表情を窺う。
 
「だ…やめ――」

 拒絶の言葉は、押しつぶしされたようにしぼんでいった。
 その言葉に、少女が嬉しそうに目を細めたからだ。 

「イヤ……止めない」

 臍の辺りに、ちゅ、と吸い付くと、顔をその部分に持っていく。
 服は丁度それに引っ掛かるような感じで、わずかな抵抗を見せる。
 陶酔した様な目でそこを眺めながら、少女はついに、ソレを暴き出した。

「…………」

「――――っ」

 ソレを目の前にして、かすかな驚きに目を見張る。
 視線に含まれているのは興味と驚愕と好奇心。
 知識はあれど、目にするのは初めてといったところなのだろうか。
 じっと見つめている内に、イリヤの頬は上気していく。
 興味と好奇心はそのままに、驚きは性の昂りへ。
「シロウ……」

 愛しさを込めてソレの持ち主の名を呟くと、両手で根元を優しく握る。
 まるでその部分が甘い菓子であるかのように、茎から先端にかけてを小さな
舌で舐めあげた。
 ねちゃ……ちゅる……

「ん……ふ……」

「う…ぁ…………」

 暖かな感触に、たまらず声をあげる。
 それが面白かったのか、イリヤはそのまま舐め続けた。

「ん……は……んむ……」

 ちゅ……ちゅちゃ……じゅ…   

 舐めあげながら、指で最も敏感な部分に刺激を与える。
 どこで覚えたのか、“男”の弱い所を知っているような動き。
 徐々に徐々に、少女の舌が這っていく。
 触れぬ所のないように、懸命に、懸命に。

「グ――」

 ただでさえ薬で暴発寸前だったのソレ。
 だから限界が来るのは、早かった。

「く――ぁぁっ」

「………んっ」

 その反応を見ての事だろう。
 イリヤは先端に唇をつけると……

 じゅる…ちゅ…ちゅぅ――

 吸い上げた。 
 まるで、ストローを吸うように。
「うああっ!!」

 ――出る。
 体内から送り出される。
 頭の中は完全に白く。
 ただただ、欲望の奔流を感じて。

 ああ、もうこのまま汚してしまえば良い。
 少女の顔も、舌も、指も。
 熱いものを吐き出して。
 欲望の猛りを吐き出して。
 少女の純白を、溶かすほどに――

「――ダメ」

「うっぐっ!?」

 吸引が止まった。
 指が管を押さえつけている。 ビクビクとひくつく自分自身。
 得られるはずだった放出の快感を先送りされ、ソレはもだえ苦しんでいるよ
うにも見えた。

「あ……あ、う……」

 目の端に涙さえ浮かべ、イリヤを見る。
 責める視線を受け止めながら、彼女は意地悪な笑みを浮かべた。

「まだダメ。
 私が良いというまで、シロウはイッちゃいけないの。
 まだまだ――夜は長いんだから」 

「そん、な……」

 ――それは、拷問だ。

 夜も遅いとはいえ、朝までは長い。
 動かない身体で刺激を与え続けられ、放つ事は許されない。
 それは、狂えと言っているのと同じ事だった。

「フフ……」

 イリヤが笑う。
 妖精の顔で、妖艶に。

「は……ぅ……」

「かわいい、シロウ……」

 うっとりとした表情で、イリヤはもう一度、ソレを責め始めた。

 ……ちゅ……じゅる……じゅ……

 今度はより大胆に。
 舌でだけではなく、口全体で。

 ……じゅ……じゅる……じゅ……

 いきり立つ“男”が、少女の口に咥えこまれる。

 ……んく……じゅぶ……じゅる……

 直視することなど出来ない。
 見てしまえば、もう抑えることなど出来ないだろう。
 ……欲望ではなく、快楽を。

 ……ちゅ、ちゅぅ、ちゅ……

 深ければ深いほど、その後の苦痛はひどくなる。
 銃口のつまった銃を撃つようなものだ。
 威力が大きければ、暴発した時の被害も大きい。
 だから――必死に耐える。
 必死に目を逸らして、耐えて、耐えて。

 ……ちゅる、ちゅう……じゅ――

 たえて、いるのに――

「――う、ああ……!」

 声が漏れた。
 抵抗は空しい。
 目を背けても、閉ざしても。
 その舌の動きが脳を揺さぶる。

「ン……フ…」

 ネトリ、と。
 ねばついた感触。
 ゆっくりと這う舌が離れた。

「ぁ――」

 途絶えた感触。
 物足りない――体がそう言っている。
 身体の言葉がそのまま口の端に上ったのだろうか。
 思わず発した小さな声。
 ……気がつけば、イリヤを切なげに眺める自分がいた。

「はぁ、ぁ………はぁ……」

「シロウ、どうかしたの?」

「く……イリヤ……」

 ああ、彼女はわかっている。
 全てを理解して、その上で問うている。
 細められた眼差しが、全ての事を語っていた。

「フフ……出したい?」

「う……」

 今更なことを聞いてくる。
 ここまでされて、肯定以外の答えはない。
 けれど頷くことは出来なかった。
 例え認めても、それは許されないのだから。

「そんなわけ……あるか……」

 どうせ叶えられないのなら、せめて意地は張り通したい。
 そう思って出た言葉。
 イリヤは全てを見透かした目で、こちらを流し見ている。

「いいよ、出しても」

「ッ」

 息を飲んだ。
 突然の裏切り。
 あまりにも簡単な、約束の破棄。 
 
「な――」

 何を言ってるんだ。
 出させない、と。
 それをさせないと言ったのは、イリヤじゃないか――。

「クス……だってシロウ、辛そうなんだもの」

 微笑みながら、彼女が告げる。

「うん――そうね。
 シロウが“お願い”するんなら、出させてあげる」

「――――っ」

 それは、つまり。

「どうするの、シロウ?」

 完全にいじめっ子の笑顔。
 そう、イリヤはこう言っているのだ。
 その口で、“イかせてくれ”と懇願して見せろ、と。
 
「…………」

 頭の中で色んなものが渦巻く。
 表面だけの言葉では、イリヤは納得しない。
 心の底から、目の前の幼い少女に、お願いだから続きをしてくれと頼まなけ
ればならない。

 ――抵抗があった。
 男のしての矜持とか、プライドだとか。
 見た目に幼いイリヤに感じる禁忌だとか。

 それは、ここまでされておいて今更なこと。
 けれどそれを自分から望んだら、何かが壊れるような気がする。
 しかし、言わなければ今夜はこのままだろう。
 ただただ拷問のような時間を過ごす事と、自ら何かを破棄することと、
 果たしてどちらが地獄行きの選択肢なのか――。

「……………………」

「……シロウ?」

 妖精が笑う。
 妖精が笑う。
 妖精が笑う。
 瞳の奥に艶めいたものをちらつかせて。
 
「…………れ」
「ん? なぁに、シロウ」

 その瞳に捕らわれるように。
 その瞳に魅せられるように。
 その瞳に……屈するように。

 俺は、選んだ。

「……いかせて、くれ……イリヤ――」

 その言葉を聞くと、イリヤは目元を弛ませた。
 可笑しそうに、嬉しそうに。
 彼女の瞳に耐え切れず、俺は目を閉じて羞恥に耐える。

「いいよ、シロウ……」

 濡れた声が下腹部で響いた。
 瞼の奥の暗闇の中、それは甘い音を含んでいて。

「ん……っ」

 再び、唇の感触。
 先ほどまでのソレが、それでもまだからかいを含んでいたのだと知る。
 彼女の吐息が、唇の向こうの世界が熱い。
 舌はねっとりと絡みつき、塗りたくられる唾で溶かされそうだった。

 じゅ、じゅ、じゅぷ、じゅる、じゅ――

「く、はっ――!」 

 激しさは比にならない。
 快感も、また。
 上下に動く雪のような白。
 いつしか何かを求めるように、俺はそれを見つめた。

 イリヤの顔は上気している。
 こっちの快感が乗り移ったかのように。
 まるで何かに取り憑かれたかのように。
 ただただ、その行為に没頭している。
 基本は激しく、けれど緩急をつけて。
 舌は舐めあげるように、纏わりつくように。
 手で別の場所を刺激する事も忘れない。
 指先は全く別の動きで、欲望の詰まった袋を揉み上げていた。

「んっ、んっ、んぅ――」

「あ、く……うあああっ!!」
「ん――――――っっ!!」

 警告する、余裕などない。
 自分の奥底で、何かが弾けた。
 送り出されるドロリとしたもの。
 小さな口に出つづける。
 苦しそうに歪む少女の顔。
 びくびくと脈打つ肉の棒。
 噴出は、収まらない。

「うむぅっ!」

 たまらず、わずかにイリヤが退いた。
 唇から解放されたソレは、なおも白濁を撒き散らす。
 少女の顔に、髪に、指先に。
 汚し、穢し、白を対極の白へと変えていく。

「う……くっ」

 呻きと同時にもう一度、びくん、と。
 少女の手の中でソレが跳ねる。
 最後のひと搾りを出し終えて、それで終わり。

 ようやく噴火が治まった後には、白濁に塗れた少女の姿があった――。
 
「は―――はぁ……」
 息をつく。
 なんだか、いろんな意味で終った気がする。
 下腹部に目をやれば、そこには欲望に汚された少女。
 イリヤはしばらく苦しそうに口元を押さえていたが、やがて。

「……んく」

 コクコク、と咽喉が動いて、口の中のものを嚥下しているのがわかった。

「…………」

 無言で、その様子を見つめる。
 ほんの少しだけ口の中に唾液がたまった。
 それを飲むと、咽喉を鳴らしてしまいそうで、そのままにする。

 ――なんてことだろう。

 さっきまであんなに妖艶だった彼女が、この瞬間だけ、ただの少女に映って
見える。
 その背徳が、たまらなく何かを刺激していて、自分が信じられなかった。

「――っはぁ、ふ……」

 粘着質の液を飲み終えたイリヤが息をつく。
 何気なく舌先を指で触れ、離し、そこにとろりとした橋を架けて見せた。

「……飲んじゃった」

「――――」

 恍惚とした表情。
 もう、何も言えない。

「シロウ、凄く出したね。
 ……そんなに良かった?」

 言いながら、流し見てくる彼女。
 ごくり、と、ついに咽喉がなった。

「フフ――」

 少女が微笑む。

「まだ……できるよね?」

 ゆっくりと、動き出す。
 こちらの答えも待たずに。
 いや――答えはすでに出していたのだろう。
 何故ならイリヤの手の中には、少しも萎えない、自分自身が居たのだから……。




 ――終わりのない夜。
 果てのない悦楽。
 跨り、腰を落そうとする少女と、それを眺める自分。
 色々な事を諦めながら、思った。

 ああ、これは、夢なんだろうな、と――。


  了


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