そして、次の日から新たな日々が幕を上げた。  と言っても何もかもが激変したという訳では無い。  基本的には朝は今までと同じ。  さすがに、朝からそんな事をするのは抵抗があったし。  一度だけ、こっそりと翡翠に目覚めてすぐの『朝のご奉仕』をお願いした事 があったが、秋葉にあっさりバレて怒られてしまった。  そんな真似をして恥ずかしくないのですか、と凄い剣幕。  弁明したり謝ったりの話の流れで何故か、秋葉にも精液をねだられてもう一 度パンツを下ろす羽目になり、秋葉の口に放ち、満足そうに喉に収めるまで勘 弁して貰えなかった。  秋葉も俺も遅刻になり、嬉々として出掛けた秋葉に対して、朝からすでに疲 れた俺という図式になり、朝は禁止というルールを個人的に採用した。  キスだけでも充分に皆満足していたし、幸せなのだから。  起き抜けのキス、食堂や玄関でのキスで朝は終わる。  夕方も秋葉が戻るまでは絶対に射精禁止という事になったので、なるべく従 った。そう、なるべくは。  たしかに、シエル先輩と二人でキスをしていてあまりの舌技に、ペニスにし て貰ったら凄いだろうなとお願いしたり、翡翠と琥珀さんに同時にちろちろと 舐めてあげましょうと言われて頷いたり、琥珀さんとシエル先輩の実演付指導 で翡翠が俺の股間に顔を埋めたり、といった行為があったのも確かだけど、琥 珀さん達を相手にキスしている時のあまりの快感に、打つ手無く放出する事も あったから。  秋葉もそれは知っているので、帰って来て服越しに鼻をペニスに擦りつけて 精臭の名残を感じ取ると、ちょっと文句ありそうな顔をするが、あまりうるさ くは言わないで黙認してくれた。  夜は、今まで通り趣向を凝らしながら皆でキスをする。  ただし、大きな違いが加わった。  順番にキスをして、やがて興奮し体が高まってくると、自分で、あるいは気 づいて手を伸ばす誰かによって、俺の下半身は剥き出しにされる。  いろいろ試した結果、無理やり射精に導くのは禁止となった。  トータルのキスの時間が短くなってしまうから。  さすがに何回も出すと、それも連夜となると、こちらの体が持たず、お開き になってしまう。    あくまで、俺がキスを繰り返し我慢できなくなった時、あるいは俺からお願 いした時に、手助けとして手や唇や舌を駆使するようになっていた。  翡翠の手に包まれて、シエル先輩の指使いで、果てる時の気持ちよさ。  秋葉が舌の先でちろちろと舐め、琥珀さんが亀頭裏を唇で擦り上げて、堪ら ず射精する時の満足感。  同時に柔らかい唇に触れられ、舌を吸い、あるいは吸われ、送られた唾液を 飲み下しながらだ。    手に溜まった精液を、唇に舌に弾けた迸りを、顔を汚した白濁液を、キスか らもお手伝いからも外れていた二人、または一人が寄って来て舐める。  精液まみれになった秋葉の髪を皆でちゅーちゅーと吸う事もあれば、翡翠が 口に精液を溜めて、恥ずかしそうに三人にキスして回って少しずつ精液を分け 与える事もある。    ともあれそんなやり方になったおかげで、今までは同時に二人を相手にする のがやっとだったけど、ペニスに対する奉仕が加わって、かなり待ち時間は減 少されるようになった。  気持ち良いのは確かだけど、どうにも大味な感じで、肉体的な刺激だけは強 いからすぐに射精してしまう、唇に二人、ペニスに二人という組み合わせも時 には食指が伸びる。    そうやって、今までは虚しくティッシュに包まれて捨てられるだけだった精 液は、四人の指にぬちょりと付着し、舌に弾け、顔をドロドロにして滴り、服 を濡らし、髪にベタリ染み込み、最後は喉の奥に消えていく。  意外な事に、秋葉はたちまち精液の匂いと味と感触に慣れて、すっかりお気 に召してしまった。  キスや唾液を好み、俺にねだるように、はちきれそうになったペニスに眼を 輝かせて、精液を乞い願う。  顔を汚されてもうっとりとしているし、シエル先輩や翡翠の顔に飛び散った 精液にも何のためらいもなく舌を伸ばす。  床にぽたぽたと落ちたのまで舌で舐めようとしたのは、さすがに止めさせた けれど。  本当に秋葉は精液が好きだ。  そしてそんな秋葉に、妹に精液をねだられて、ペニスの先を舐められるとい うシチュエーションは俺の頭を甘く蕩かしてくれる。  俺ので初めて精液や男のものを見た翡翠は、拒否感は持っていないし嫌がり もしないけれど、凄く恥ずかしそうにしている。  秋葉も初めてだって言っていたけど、随分と対照的な……、翡翠の方が普通 な反応だろうな。  恥ずかしそうにして、それでも手で触れたり、精液に舌を伸ばす翡翠の姿に は、時に頭のネジが飛びそうなほど興奮させられる。  だいたい翡翠は、キスだって平然としている訳じゃないし、その翡翠がして くれるだけでも心踊るものがあるけど、行為に耽って興奮するのか、常ならず 大胆に積極的になる様子なんかは、かなりくるものがある。  琥珀さんとシエル先輩は、秋葉と翡翠に比べると慣れていますよという顔を するし、実際キスと同じく、幾つものペニスに対する技巧を有していたりする。  琥珀さんは後始末が終わって「慣れていると言っても、こんなのの味や匂い が美味しい訳ないでしょう」などと口にして俺を顔面蒼白にさせて、それから ニコリとして「好ましい方のものだと思うと、このうえなく美味しくなるのが 不思議ですね」などと言って、今度は赤面させてくれている。  シエル先輩もふと真顔で「自分からしたいと思っていると全然違うものです ね。地獄どころか幸福感まで感じるなんて」とか呟いて琥珀さんと頷きあった りしている。  ちょっぴり二人の過去を思って暗い顔をした俺に対して、逆に「遠野くんと キスしたり、ペニスを舐めて喜んでもらえるのは嬉しいんですよ」と慰めの言 葉を掛けてくれたり。  そんな時は、琥珀さんやシエル先輩に出来るだけの優しさをこめてキスをす る。それで少しでも喜んでくれるのならいいな、と思いながら。    休みの時などは、一日中キスに耽っているかというと、必ずしもそういう訳 でもない。  秋葉は休日とはいえいろいろと忙しいし、琥珀さん達も仕事や私的な時間を 持っている。シエル先輩だって俺の知らないような仕事や用事はあるし、俺自 身もやりたい事は他にもある。  もちろん、朝のキスは普段より優雅に時間を取ったりするし、気だるげな午 後を物憂いキスで過ごしたりもするのだが。  夜はいつもより時間を取れるし……、やっぱりキスしてる時間長いかな。  でも、時に間を空けた方が後のキスがよりいっそう味わい深いという、琥珀 さんの言葉にはみんな同意していて、休キス日になる事だってなくはない。  普段と違う事をやる時なのかな、休日は。  例えば、誰もいっさい剥き出しの俺のペニスに直接的な刺激は加えないで、 順番に持ち時間を使ってキスだけで、俺を射精に到らせるなんて遊びをしたり もする。  これはかなりエキサイトするゲームだ。  ソファーに座った状態や、床に仰向けで寝転んだ状態で、俺は何もしてはい けない。  そこへ秋葉や琥珀さんが順番に寄って来て唇を合わせる訳だ。  何も出来ないとは言っても、上を向いてとか口を開けてとかの指示には従っ て動くし、自主的に唾液を啜ったり、舌を伸ばしたりするのもOKで、むしろ 俺の動きや反応を引き出すのも四人の手腕になる。  勝負という事で、秋葉やシエル先輩はむろんの事、こういう時に引っ込み思 案になりそうな翡翠ですら熱意を込めて唇を動かし、舌をくねらせる。  ただ激しくすればいい訳ではなく、さんざん俺を楽しませ興奮させた挙句に 時間切れで今一歩及ばずで終わり、次の選手の舌戯であっさりと俺はぴゅるぴ ゅると精液を撒き散らしたりもする。  特に秋葉などが陥りやすい事態で、悔し涙を浮かべた事もあった。  ちなみに賞品はその自らの卓越した技で獲得した精液。  独り占めはしないで、途中で敗者達に下げ渡しはするのだが、当然の権利と して勝者が半分ほどを舐めて飲み込むのを、他の面々は指を咥えて見守ってい なければならない。  その後、敗れた三人が舐め残しをぺろぺろやるのを、俺とキスしながら眺め るのは何とも言えぬ快感がある……、のだそうだ。  不公平を無くすとかの理由で、誰だかわからないように目隠しをさせられた りもする。実際には唇を合わせた瞬間に誰のものかはわかるのだが、視覚を奪 われる事による触覚や嗅覚、味覚の鋭敏になる感覚もたまには興がのる。 「あっ、遠野くん、少し膨らんで、もう少しですね」 「翡翠ちゃん意外と……、いつの間にあんな新技を」 「あらあら、琥珀、兄さん物足りないみたいで少し萎えてきたわよ」 「どうです、志貴さん……、んんんっ、感じてますね、可愛い表情……」 「琥珀さん、その、耳元舐めるのは反則です」 「志貴さま、舌を、え、ああっ、んんん……」 「兄さん、なんで翡翠にはそんな。ああ、舌をあんなに使って、……ずるい」  そんな歓声やら悲鳴やら文句やらの応酬の中、だんだんと耐えがたくなって いくむずむず感と、全員の熱っぽい視線を浴びながらの我慢した挙句の虚空に 向っての激しい射精。    本当に夢ではないのかな。  こんな目に会うに相応しい事を、俺はしているのだろうか。  時にそう自問自答する。  答えなんてない。  とにかく、キスし、ペニスを弄られている時は、それが世界の全てになる。  だから、ただひたすらに。  舌を吸い、こぼれる吐息を味わい、唾液を飲み込む。  舌を吸われ、洩れる声を飲まれ、唾液を啜られる。  翡翠の唇をふやけるまでただ、しゃぶり舐りまくる。  琥珀さんに歯の一本一本を舐められ、歯茎をねぶられる感触に悶える。  秋葉に優しく唇を寄せて、舌も動かさず、互いの息を交換し合う。  シエル先輩と唇を離して舌を絡ませあい、ぽたぽたと唾液が落ちるに任せる。  ペニスを露わにして快楽の奉仕を受ける。  指で、手で、舌で、唇で、射精に導いて貰う。  秋葉の髪をティッシュがわりにして、精液でくしゃくしゃにする。  シエル先輩の鈴口を掃く舌先の動きの妙に悲鳴すら出せずに悶絶する。  口で奉仕した褒美に紅を引くように、剣先で翡翠の唇に精液を塗りつける。  琥珀さんの顔にたっぷりとかけた残りを、秋葉のまぶたにたらす。  他にもいろいろと思いつくままに試し、唇を重ね、ペニスを震わせる。  後でさすがに赤面して皆黙り込む事や、酷かったなと悔いる事も、笑ってし まう事も、何もかもこの空間の中では価値ある事として試され、一瞥もなくう ち捨てられる事はない。  本当に、倒れて後やむといった感じだった。  だから時に無茶をしすぎるとあっさり限界を超えてしまったりもしたのだ。                 ◇   ◇  う。  うう……。  目が覚めた。  が、なんだろうこの、かつての学校で何度も倒れていた時のような……。  空虚な、体がぽっかりと空っぽになったような力のなさ。  死ぬような気力を振り絞って、上半身を起こし……、駄目か。  え、背中を支えられた。  少しずつ、起こされる。  その力に助けを借りて、歯を食いしばって顔を前に倒した。    ふう。  これだけで溜息が洩れた。  えと、今のは?   「すみません、志貴さま」 「ん……、どうした翡翠?」  翡翠の顔がぼんやりとして見える。  やっぱり全体的に体もだるい。  なんだか体の芯が無いような不安定さ。 「皆で、志貴さまに無理をさせて、志貴さまは私たちを喜ばそうと無理をなさ って、それで……」  涙眼で翡翠がぽつりぽつりと呟く。  はて……。  ああ、そうか。どっと記憶が。  ええと……。  いつものように皆とキスしてて、秋葉が股間に顔を埋めたんだ、たしか。  キスというより、フェラチオと言った方がよさそうな熱心さ。  そして、最後には亀頭全体を口に含んでしまって。  それで、俺は陥落したんだよな。  秋葉の口の中で構わずに射精して。  唇で締め付けながら、秋葉は一滴残らず吸い取って顔を上げた。  精液を味わうように口をもごもご動かして、飲まないで溜めていて。  そして、飲み込んだんだよな、全部。  そしたらシエル先輩が、まあ本気じゃないだろうけど怒って秋葉の事をなじ り始めて、琥珀さんも「もう、今日は秋葉さまは退場ですよね、志貴さん。キ スも無しで」とか言い出して。  秋葉も悪いと思っていたのか、うなだれて弱々しい姿なのが可哀想で……。 「それで、シエル先輩達にも一回ずつ口に出してあげたんだよな」 「はい、四回立て続けに」 「無茶だったなあ」  遠慮しながらも皆しっかり咥えていたものな。  翡翠も、おずおずと口を近づけて吸ってくれて。 「ええと、それでへばっていたら確か琥珀さんが」 「姉さんが何処か僻地でのみ取れる天然の強壮剤とかいうのを、志貴さまに呑 ませて……」 「そうだった。凄い効果で……、そこからがどうも断片でしか思い出せないん だけど、相当凄いことしたような記憶が……」  たとえば翡翠なんかは、数人がかりでやったみたいに顔も髪もどろどろで無 惨な白濁液まみれにしてしまったり。  秋葉の髪をべたべたにした挙句、二、三回連続で口の中で発射して、そのま ま飲んだり吐き出したりしないで口の中に溜めていろって罰を与えて、唾液と 混じって頬が膨らんで……、どうしたっけあれは?  琥珀さんとシエル先輩に到っては、なんだかもの凄く気持ちよい事をされた 印象だけはあるんだけど……、思い出せない。と言うか、思い出したらマズイ、 立ち直れなくなるって、頭の何処かで警告する声がするのだけど……。 「まあ、その挙句に倒れちゃったんだよな。何十回出したんだろ。  いいから、翡翠、そんな泣きそうな顔しないで。いやいややってた訳じゃな いし、喜んでやってたのは確かなんだから。  翡翠と琥珀さん、それに秋葉に力を分けて貰ってるのを過信しすぎたな。自 業自得ってところだよ」 「でも……」 「あれ、ところで翡翠ひとりなのか。皆で、翡翠に厄介事押し付けたんじゃな いだろうな」 「違います。皆さん、志貴さまの看護をしたいと仰りましたが、静かに休ませ ないとダメと姉さんが言って。わたしが志貴さま付のメイドですから、代表で お世話を。  秋葉さまも、シエルさまも、姉さんもわたしも志貴さまの事を心配して、そ れに深く反省しております」  慌てて翡翠は首を激しく横に振る。  そして本当に申し訳なさそうな顔をする。 「そうか、秋葉達も心配してくれているのか……」 「はい、もちろんです。それにたいへん落ち込まれて」 「明日、フォローしてやるか。翡翠ももう下がっていいよ」 「よろしければ、もう少しお世話をさせて下さい」  泣きそうな顔でそう言われると……、黙って頷いた。  正直、こうやってあれこれ世話されるのは、くすぐったくも嬉しいし。  例えば、こうやって少し腫れて熱をもったペニスに、濡れタオルをあてて、 冷やして貰ったり……、おおっと、下半身剥き出しで、こんな。  なんだかこういう時にペニスを見られているのって恥かしいけど、まあ、仕 方ないか。翡翠は真剣な態度で看護してくれているのだし。  濡れた布が外された。  もう一度水に浸して搾り直すのかなと思ったら、別な何か柔らかいものが、 疲れきったペニスに触れた。 「翡翠……?」  翡翠は、そっと優しく労わるように、力なく横たわるペニスとだらんとした 睾丸を自分の手で撫でる。  痛み止めのおまじないのように。  そうやって翡翠の手が触れると、腫れ上がったペニスが癒される気がした。  なんだかおかしな光景だけど、嬉しくなって翡翠の好きにさせて、その姿を 見つめた。  ずいぶんとひんやりとして……。  ああ、氷嚢なんてのも用意してきたんだ。  翡翠は、手を氷で冷やしては、熱っぽい性器に当ててくれている。  ありがとう、翡翠……。 「そう言えば、着替えてきたんだね」 「え、はい、あのままでは志貴さまのお世話をするにも……」  そうだろうな。  片目が明かないような有り様だったし。  今は、そんな精液まみれだった姿が嘘だったように、こざっぱりとして清楚 な雰囲気を漂わせている。  うん、微かに石鹸かシャンプーの匂いがする。 「お風呂入ったの?」 「姉さんが看護している時に、先に体を綺麗にしなさいって言われて、その、 志貴さまにかけて頂いたものと、秋葉さまや姉さんに舐められた痕がベタベタ になっておりましたから洗ってしまいました……」    あの、今の言い方と眼で見せた申し訳なさそうなのって、俺に出して頂いた のを洗ってしまった、って点にかかっているのかな。 「ごめんな、汚しちゃって」 「え……、わたし嬉しかったですが」 「そう?」 「はい。それでですね、着替えてから、志貴さまもタオルでお拭きしてからシ エルさまに部屋まで運んで頂いて、今こうして……」  そうか。皆に世話もかけているんだな。  何より翡翠がこうも甲斐甲斐しく世話してくれているの見ると申し訳なくな ってくる。  感謝の意を示すにも、こんな事くらいしか今は出来ないけど……。 「翡翠」 「はい、志貴さま」 「キスして欲しいな」 「でも……」 「翡翠にキスして貰ったら元気出ると思うなあ。ダメ?」  翡翠は黙って唇を寄せた。  上からかぶさるようにして優しく俺の唇に触れる。  労わるような表情をされると、なんだか小さな子供になったような気がする。 「んっっ……」  吐息が洩れて、唇と歯を掠める。  舌を出した。  翡翠の舌に触れて動きを止めた。  こちらの希望を察して翡翠は舌吸いをしてくれた。  激しくではなく、軽く、唇で舌をしごくように顔を動かし、時にぎゅっと力 を入れてくれる。  舌も使って、分泌する唾液を拭いて綺麗にしてくれている。  翡翠の舌の感触がなんとも言えない。  少し、唇を突き出すと、舌を吸ったまま翡翠も唇を合わせて軽く震わせる。  翡翠もこんなにキスの技巧憶えたんだなあと嬉しくなる。  それに、秋葉たちも心を込めて熱心にしてくれるけど、翡翠の場合は普段の 仕事振りと重なってどこか背徳感すら感じさせてくれるから。  何と言うか、ご主人様へのいけないご奉仕と言うか。  ふう、と満足の吐息を洩らした時。  ばーーんと、窓が大きく開いた。  一瞬、翡翠と俺は体をびくんとさせ、驚愕の表情を浮かべた。  ああ、でもこれはお馴染みだな。  動揺は一瞬で、キスを続ける。  特に翡翠が妙に高ぶっている。  うんん、ちぅううう、ちゅっ、れろ、ちぅぅちううぅぅぅ……。 「やっほー、志貴、元気だった……って、あの……」  キスしたまま、視線を窓に向ける。  思った通り。    夜の女王様の降臨。  しかし、こちらを見て固まってしまう。  珍しくも思考停止状態のアルクェイド。 「あの、邪魔して、ええと、なんで、志貴、ねえ……」 「落ち着け」  うん、と頷いて口の中で数をぶつぶつと数え出すアルクェイド。  20まで数えて、ちょっとは冷静を取り戻す。  唇こそ合わせていないものの、上半身をくっつけるようにした俺と翡翠を形 容しがたい表情で見つめながら、口を開いた。 「出直した方がいいのかな」 「いいよ、ちょっと待ってて」  ちょっととは、五分以上経過する時間であったが、アルクェイドはじっと俺 と翡翠とのキスを眺めていた。  翡翠は、ちらとアルクェイドの眼を気にしていたが、それでもキスを止めよ うとはせず、浸っている。    ちぅぅぅ、ちゅぷっ、ちう、ちぅぅうう、ちゅっ、ちゅぷ……。  舌で互いにれろれろとしながら、たまた唾液をかき混ぜあう。  最後には、下にいる俺の口腔に全部注がれ、翡翠の舌をしゃぶりながら、そ の泡だった二人の混合物を飲み下した。   翡翠の感能力による回復効果も取り込めた筈。  陶然とした表情で、翡翠は顔を上げた。  それでもぴしりと姿勢を正しているのが、翡翠らしくて、微笑ましい。 「すごい、あんなに……」  その声にびっくりした顔で、翡翠は窓を見て、改めて観察者の存在を思い出 したようで顔を紅潮させる。 「そ、それでは、志貴さま」 「うん」 「アルクェイドさま、失礼いたします」 「おやすみなさい」  丁重に一礼し、翡翠は出て行った。  さて、アルクェイドと二人になった。  翡翠が十数歩は足を進めたと思しき時間、じっとしていたが、それで力を抜 いた。  ばたりと上半身がベッドに落ちる。   「あ、志貴、どうしたの、ねえ……」 「心配するな、何でもない。疲れただけだから」  びっくりした顔で駆け寄るアルクェイド。  大丈夫な処を見せてやりたいが、ちょっと無理。 「でも……」 「翡翠が心配するから、少し平気な振りして無理したんだ。ほら、そんな顔す るなって、ちょっと眠れば回復するからさ」 「うん……」  ちょっと泣きそうに見えたアルクェイドの髪に、手を伸ばす。  軽く頭に触れた。  さらさらの流れるような金の絹糸。   「話くらいなら少しはいいぞ。あまり長くは付き合えないけど、聞きたい事あ るんだろ?」 「うん。志貴、今の……、翡翠とその……」 「翡翠とは朝も昼も夜も、今みたいにキスしてるよ」 「それに、その……」  ちらりとまだ剥き出しだった下半身に眼を向ける。  さすがに恥ずかしくなって、寝間着のズボンを引っ張った。 「ときどきこれを手で触ってもらったり、舌で舐めたり、キスしてもらったり もする」 「そっか……、志貴、メイドさんを選んだんだ」  哀しそうな顔でアルクェイドが俺を見ている。  もっと余裕があったら、翡翠のことをベタ褒めしてアルクェイドをからかっ てもいいのだけど、慌てて誤解を解いた。  あとこんな顔されるとさすがに……。 「アルクェイド、言っておくけど、俺がキスするのは、翡翠だけじゃない」 「えっ」 「琥珀さんともするし、秋葉とも唇を合わせる。キスだけじゃなくて、ペニス にもいろいろとしてもらっている」 「な、なんで……」 「それに、シエル先輩も……」  こんな時でも反射的になのか、アルクェイドの顔がきつい表情を浮かべる。  根強いんだなあ、二人の確執。 「シエル先輩も毎日のように来ては、俺の唇にキスしたり、ペニスに口づけし たりしている」 「どうしてよ、どうしてシエルまで……」 「遠野家の中では、挨拶代わりにキスするって決まりが出来て、それからいろ いろあってな……」 「変よ、そんなの」 「俺もそう思うよ。まあ、アルクェイドが嫌なら仕方ないけど、残念だな」 「何が?」  きょとんとした顔のアルクェイド。  すまし顔で説明してやる。 「だからな、遠野の屋敷にいる時は、遠野家の人間だろうが、お客だろうが、 決まりには従ってもらってるんだよ。  アルクェイドとも、シエル先輩みたいにキスしたかったんだけど、まあ嫌だ と言うのを無理にしても悪いし、今は力ずくで抵抗されたら、マジで危ないか ら……」 「嫌がってないよ」  慌てて、ぶんぶんと頭を振る。  あー、可愛いな、こいつ。 「じゃあ、『こんばんは』は今は口で言ったけど、本当はキスでするんだね、志 貴の家では?」 「そう。嫌なら無理するなよ」 「志貴って意地悪」 「他にはご質問は?」 「もう、いいや。後は明日にでも聞くから。もう志貴は眠った方がいいみたい だし、帰るね」 「そうか、せっかく来たのに悪いな」 「いいよ、顔見れただけでも、凄く嬉しいもの」  我がまま言っているのも似合うし可愛い奴だけど、そうやって自然に低姿勢 な態度取られると、それはそれで何かしてやりたくなるな。  なんとか気力を振り絞って上半身を起こす。 「駄目だよ、無理しちゃ」  アルクェイドが慌てて背中を支えてくれた。  うん、だいぶ楽だ。 「こうやって、おまえとしたかったからさ」 「え……」 「キスしたいな、アルクェイドと。いいだろ?」 「うん……」  お互いに顔を近づける。  すぐそばにアルクェイドの顔がある。  本当にこれほど人間くさい表情でなかったら、寒気がするほどの整った美貌。  気後れしそうなこの美女が、俺の唇を待っている。  唇を近づけると、アルクェイドも緊張した顔で形の良い唇をちょんと前に出 してくれた。    ちゅっ。  唇が触れた。  さすがに初めてだから、かなりの感慨をもって唇を合わせた。  強くせずに、舌も使わないで、ただ唇だけで接触したアルクェイドを味わう。  柔らかいな。  肌触りが、どこでどうと語るのは難しいけど、さんざん接触ある四人ともま た異なっている。  少し唇を動かして擦れを楽しむ。  うん、いい。  アルクェイドが息を洩らすのが、唇にあたる時のぞくぞくする感触。  それに、この、顔をくっつけていて背に手を回されているが故に、胸も密着 していて……、アルクェイドの胸って凄いな。  シエル先輩と抱き合う時の、柔らかいお楽しみも相当なものだけど、それよ りさらに大きいようだ。  押し付けられて潰れて、なんて質量感、未知の感触だ。  唇と胸の感触を存分に楽しんだ。  そして、ゆっくりと唇を離した。 「はぁ……、どうだった、アルクェイド?」 「うん、触れた処が燃えてるみたいだった。でも……」 「なんだ、物足りないのか?」 「志貴は翡翠と、よくはわからないけど口をもごもごさせて、くちゅって何か やってたよ」 「アルクェイドにはまだ早いと思うけどなあ」 「ええっ、私もとたい。あ、でも志貴に無理させちゃいけないし……」 「いいよ、少し教育してやろう。本当のキスを。キスしてる時に少し唇を開い てくれ」  再度、唇を。  今度はアルクェイドも自分から顔を近づける。    ちゅうう……。  今度は、唇を合わせ、軽く吸う。  そして、舌で唇を突付いた。  まだ、扉は開いていない。    何度か、合わせ目を舌でなぞると、アルクェイドの口が小さく開いた。  舌を挿入した。   「ん、んぁああ……」  アルクェイドの悲鳴じみた吐息が舌を走りこちらの口腔を撫ぜる。  構わずに舌を動かす。  アルクェイドの舌を目指す。  うん、これだ。  縮こまった舌を、こちらの舌先で撫ぜる。  表面の柔らかいざらざらに触れ、裏にも潜り込もうとする。  アルクェイドは何かを堪えるようにして反応を返せない。  下から押し上げさせ、そしてアルクェイドの舌と絡み合った。  戸惑うように動かない舌をぬめぬめと味わう。    甘い息。  甘い舌。  甘い唾液。  アルクェイドの口腔に溜まった唾液を舐め取り、新たに浮かぶ甘露も舌でこ そげて味わい尽くす。  美味しい。  こうやってとろとろと分泌される唾液を啜っていると、何とも幸せな気分に なってくる。  存分に味わってから、こちらからも生温い唾液を送ってみた。  ああ。  飲んでいる。  真祖の姫君が、アルクェイドが、俺の唾液を拒む事無く受け入れている。  うっとりとした顔で、少しだけ戸惑い気味な表情を浮かべて。  それでも唾の塊を舌に落とすと、ためらいなく嚥下する。  なんどか繰り返すと、嬉しそうに喉を動かすようになった。  むずむずとした快感が起こる。  琥珀さんや先輩となら、これからくちゅくちゅじゅぷじゅぷと進展させるの だが、まだ慣れていなくて息苦しそうなアルクェイドの表情に、最後にちょこ ちょこと舌で悪戯してから、ゆっくりと唇を離した。  はぁはぁとアルクェイドは息を荒げている。ぐったりとしてるようにも見え た。フルマラソンを全力疾走で走破しても何とも無い奴なのに……。  ああ、気持ちよかった。  さらに疲れたのだけど、気力だけはむしろ補充されたようだ。 「ねえ……志貴、いつもこんな事してたの?」 「ああ、こんなものじゃないぞ。それに一人だけ相手にする訳じゃないしな」 「凄い。そうか、だから志貴倒れちゃったんだね」 「まあ……、それだけじゃないけど、そんな処かな」  むしろドーピングしてまで下半身を駆使したからだけど。  でも、今のキスだけでも、アルクェイドにはかなりの衝撃だったようだ。 「うー、わたしがあんなの相手にして苦労している間に、志貴ったら皆で楽し く過ごしてたんだ」 「そう言えば、随分留守にしてたな」 「すっかり忘れてたみたいだね、志貴って薄情」 「アルクェイドを心配する事態って、ちょっと思いつかないしなあ」 「それはそうだけど。いいもん、明日からわたしも志貴とキスするから」  ちょっと膨れながらもそんな事を宣言するアルクェイドが、可愛く見える。  苦笑しつつ頷く。 「ああ、拒まないよ。ただ、琥珀さん辺りと話をしといた方がいいな。秋葉が 臍曲げるといけないから良く対策を」 「妹か……、わかった。じゃ、帰るね」 「おやすみのキスはいいか?」 「うん、今日はさっきのでいいから。おやすみ志貴」 「おやすみ、アルクェイド」  ひらひらと手を振るとアルクェイドは闇に消えた。  明日からの事を考えると、ワクワクとしてきたが、いい加減に体力の限界だ った。  あれこれとアルクェイドとこれからする事を、アルクェイドを交えてする事 を頭に浮かべて、俺は眼を閉じた。  アルクェイドと秋葉とか。  アルクェイドと先輩とか。  そんな未来図が浮かぶ。  ちょっと怖いけど、楽しみかな。  そう思いながら、安らかな眠りについた。  体は泥のようだけど、心は浮き立つように軽く。  《FIN》         ―――あとがき  と言う事で、続編であります。  本来ここまでで一つのお話だったんだけど。  見ての通り、前作ではキスだけだったのが、他の体液もじゅるじゅるとする 展開になっています。 『KISS×200』リスペクトを名乗るのなら、精液は避けて通れませんか ら。……ヒク人多そうだなあ。  おまけに、終わり方が前回と似た感じでアルクェイド追加でいくらでも続け られそうですね。なおかつ妄想垂れ流し風なこのお話、書くのも他のと比べて 意外と楽なんですが……、とりあえず終わり。  一応書いておくと、頭の中の設定ではこのお話、『月姫』本編のどのエンド にも基づいておりません。いつもだとこういう場合には、汎用性の有るシエル ENDを使うのですけど、誰か一人とでも結ばれていると、このキス至上主義 な世界って成り立たないと思うので。  あの僻地の分校でも、それぞれの個別ルートに行くとキスによる世界は閉塞 していきますから。  逆に全員と関係を持つのも、また違ってしまうでしょうし。    いつも通り『月姫』とスタッフの方々に心からの敬意を。プラス今回は『K ISS×200』を創ったWINTERSスタッフ、特に平井氏に感謝の念を。  機会があったらぜひプレイしてみて下さい。  本当にえろだという一点で感動しますから。  最後に書くのもなんですが、いつも『月姫』好きの方の神経を逆撫でするよ うなSSを書き散らしていますが、今回は特にご不快になる方が出るだろうな と思います。これからも書きますけど、作品への愛情はありますので。 (愛、愛情...陵辱や変態行為を正当化する為の言葉、いやそうじゃなくて)  全部読んで頂いた方、ありがとうございました。       byしにを (2002/6/30)


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