キス。  キスは気持ちよい。  唇の感触。  舌の動き。  甘い唾液。  吐息と声。  吸う行為と吸われる行為。  相手を自分だけのものにする感覚と、自分を相手のものにされる感覚。  気持ちよくて、どうにかなってしまいそうになる。  誰か一人とキスするだけでもそんな有り様なのに、それが四人に増えるとな ると。  数の上では四倍。  実際の破壊力は、さらに倍、いや三倍以上だろうか。  致死量を超えれば後は何をしても同じとは言うけど、十二回おかしくなって  さらに余るという状態。  慣れるという事はない。  日に日にキスの質が変わっていくのだから。  しだいに濃厚になっていくキス。  しだいに上手くなっていくキス。  甘く蕩けるようで、あっさりと俺の頭を狂わせていく。  とにかく、みるみるうちに皆キスが上手くなっていった。  もともと各人で、単純な技巧としてのレベル差があった。  唇と舌が織り成す技巧、自分の舌と唇が相手にどれほどの悦びを生み出せる のかを、琥珀さんやシエル先輩は熟知していた。  少し男性だと勝手が違いますねと呟きながらも秋葉はどこで憶えたのか、け っこうな熟達を見せていた。  そしてまったく経験が無かった翡翠だけはぎこちない。  そんな風にキスの技巧はばらばらだった。  といっても誰とのキスが一番良いかは、判断を下すのは難しかった。  俺にしてくれる時は小悪魔めいた笑みで舌を巧みに動かすのに、こちらから してあげると驚くほど受身になって翻弄されてしまう琥珀さん。  ほとんど舌を自分から絡めたりはしないものの、こちらから舌を差し入れた り唾液を流すと恥ずかしそうにして、それでも懸命に俺を受け入れてくれる健 気な翡翠。  この二人の甲乙をつけるのは、どれほど頭を捻っても不可能だ。  激情のままに舌を吸う様と、すがるような目でおずおずと俺の舌戯を求める 様子の落差が激しく、飽く事無く舌を絡ませあう秋葉のキス。  攻守共に優れた冴えを見せ、俺を狂わせながら自分でも快楽に浸る余裕があ るのに、時にそんな技巧の全てを忘れて夢中になってしまい、俺の舌でおかし くなってしまうシエル先輩のキス。  どちらのキスも素晴らしくて、優劣なんて決められない。  おまけに、何度も唇を合わせているうちに、どうすれば俺が喜ぶのか、どう すれば自分が悦べるのか、他にどんなやり方があるのか、そんな事をどんどん 学んで体得していくのだ。  自分がキスをした時の経験値を蓄積していくだけではなく、他の娘と俺がキ スし、じゅるじゅると唇を合わせているのをじいーっと見つめて、詳細を観察 しているのだから、それは必然であったかもしれない。  特に、シエル先輩の出現で、緩やかな対抗意識が芽生えてからは、飛躍的に 皆がスキルアップを繰り返していた。  熱心に心込めて唇を合わせ、楽しませてくれる四人。  そのいずれ劣らぬ花の蜜を、思うがままに吸いまくる行為。    そうなってくると、与えられる肉体的、精神的快楽は桁外れに増加していく。  まるで唇が性器になったように、圧倒的な快感を受け入れる。  幸せで幸せで、堪らない。  でも。  でも、そんな至福の極みにいるとどうなるだろうか。  それまでは誇張表現だと思っていた。  キスだけで最後まで達するなんて、あり得ないと思っていた。  幾らなんでも、最後までイッてしまう事なんて不可能だと思っていた。  そんな事は信じられなかった。  でも、それは俺が物知らずだっただけ。  体験して初めて真実だと知った。  何度目かのキスの最中に、ズボンの中で我慢しきれず暴発させてしまって。  キスだけで人は絶頂を迎えてしまうんだって。  それまでも、秋葉の濡れた唇の甘美さや、翡翠の舌の柔らかさ、琥珀さんの 頭を蕩けさせる唾液、シエル先輩の口と舌をくすぐる息で、ひそかに体は反応 し、窮屈な中で大きく隆起していた。  それでも、先走りでパンツを多少濡らしながらも、何とか最後の一線は越え ずに我慢し、耐え切っていた。  まさか皆の前で漏らす訳にはいかない。  そんな事をしたらおしまいだ。  キスを終えて部屋を出て、刺激を与えない様にしつつも慌ててトイレに駆け 込んだり、自分の部屋で鍵をかけて、もどかしく下半身を露出させ、解放感を 味わう事が何度もあった。  天国の中の甘美な苦痛、それを我慢した挙句の圧倒的な快美感に浸っていた。  今しがたのキスを思い出すと、ほとんど何もしないでも、激しく迸らせるの が常だった。  自慰というよりも、時間差で引き起こされるキスによる射精。  そうして耐えられていたうちはよかった。  でも、ある日とうとう皆の見ている中で堰を切ってしまった。  幸いにも気づかれはしなかったけれども。  でも、一度「超えてしまった」という事実は俺を弱くしてしまった。  四人のキスが巧くなって、与えられる快感の量が増えてからは、最後まで耐 え切れなくなることもしばしば起こるようになってしまった。  あまりの快感に翻弄される、そんな時にはダメだダメだと絶望的に思いつつ、 キスをされながら下着を汚す結果となった。  後で気持ち悪さと惨めさを感じつつも、キスの最中での絶頂は、どうにかな りそうなほどの超絶した快感だった。  もしかしたら、皆の前で達してしまい白濁液を吐き出す事自体にも倒錯した 悦びを感じていたかもしれない。  だから時には、秋葉達とキスしながら思う存分射精できたらどんなに気持ち よいだろうと、夢想する事があった。  誰にも気づかれなかったのに死ぬほど安堵しつつ、こっそりと汚れた下着を 自分で洗いながら。  耐え切って安全地帯に退避して、ティッシュに溢れる程の白濁液を受け止め させながら。  出来れば唇を合わせて舌を動かしながら、最後まで心置きなく思い切り達し たいなあと、それが不可能な事を残念に思っていた。  本気でゴムでも嵌めてその中に存分に吐き出そうかと考えた事もあるが、あ まりにあまりにもだったし、さすがに最初から勃起している訳でもないから。  なんて贅沢な悩みであろうか。  あまりに幸せで快感に浸るが故に悩むなんて。  でもその悲喜劇は、切実な悩みでもあった。  ところが、ある日。  それは右に翡翠、左に秋葉という組み合わせで、三人で寝転んで顔を寄せる ようにしてキスをしていた時の事だった。  この二人の場合、秋葉が主人であり、翡翠が仕える者であるという意識が強 く、ややぎこちなさを感じる。これが琥珀さんであれば、少しスタンスを変え て秋葉と接するのであるが。  普通にキスを交互にしていると、翡翠が遠慮がちになり秋葉への比重がだん だんと大きくなっていく。秋葉か俺がそれに気づいて、ときどき翡翠へ注意を 向けるという形になる。これを最初は完全に公平にしようとしていたが、どう も上手くいかず、結局、気づいたら埋め合わせするように、翡翠に長く激しい キスをして帳尻を合わせる形になった。  秋葉も翡翠に関しては、俺が気を遣って、秋葉に対するよりも優しく接した り、蕩けるようなキスを繰り返しても、怒ることなくもむしろ暖かく奨励する 目で眺めてくれている。  そんな二人をたっぷりと堪能し、キスだけでなく、それぞれの頭を抱くよう な形で髪を弄ったり、時に髪にも唇を押し当てながら匂いを嗅いだり、押し付 けられた秋葉と翡翠の柔らかい胸付近の感触を味わったりしていると、必然的 に股間が反応してきた。  いや、その前の琥珀さんとシエル先輩の技巧派コンビにも、さんざん翻弄さ れていたから。  まずいな。  いつに無く興奮が大きい。  何度か波をやり過ごしてはいるが、そろそろ高波にさらわれそうだった。  でも、やめられない。  二人とのキスはあまりに甘美だ。 「翡翠……」 「志貴さま……、んフンン……、はぁ、んん……」  じゅる、ちううーー、れろ。ちゅるる、れろ、れろれろろ……。 「兄さん、私も……」 「ん、秋葉……」  ちううう、ちゅっ、じゅるる、うふふんん、ちぃううう、ちうっ……。  ああ、気持ちいい。  蕩ける。  頭も口も唇も舌も。  何もかも蕩けそうだ。 「んんん、ぐうう」  秋葉の口を貪っていて、俺の口から悲鳴が潰れた。  なんだ。  なんだ、今の……。  急に体に電気が走ったみたいな衝撃。  はぅぅぅーーーんん……  声が洩れる。  どうしようもなく体が自然に捩れる。  キスをしたままで顔を上げた。  その刺激の源泉に視線を向ける。  にこりと艶然たる笑みで、琥珀さんがズボンの上から俺の股間を撫で摩っ ていた。   「こ、琥珀さん、何を……」 「志貴さんが可哀想なんですもの」  シエル先輩も驚いた顔で琥珀さんを見つめている。  しかし凍りついたように、動かない。  止める者も無く、俺も嫌だともなんとも言えないでいるうちに、琥珀さん は手の動きを変えた。  柔らかく撫でる動きから、布越しにぎゅっと握る様に力を……。  どくん、どく、どく、どく!  あっけなく限界を越えた。  秋葉と唾液の糸を引きながら、離れ、ばたりと倒れた。  そのまま、肉体の希求にまかせ、放出の感覚に身をゆだねた。  後の事なんか頭に無く、  とにかく、  どくどくと精液を垂れ流した。  気持ちよい。  死ぬほど気持ちが良かった。  何ものにも代え難い体が溶けそうな快美感。   ……。  放心して、余韻に浸った。   周りを意識せず、目を瞑って外を拒否して。  我に返ったのは、かちゃかちゃと下半身の辺りを弄られる感触を覚えた為。  はっと目を見開き、慌てて視線を向けた。  それを意に介さず琥珀さんが手早く俺の濡れた下半身を……。 「凄いことになってますよ、志貴さん」  パンツまで下ろされ、まだ勃っているペニスを剥き出しにされる。  びちゃびちゃに濡れたパンツは濁った糸を引いている。  ペニスや睾丸、脚のあたりも密封状態での暴発事故の為に、飛び散り潰され、 精液のドロドロにまみれている。  惨めな泣きたくなるような状態だった。 「きれいに、しませんと」  琥珀さんは明るく言う。  その嬉しそうにも聞こえる声に、誰のせいだと小さく呟く。  完全に自分のした事を忘却しているか、少なくとも責任は感じていない。  ためらいなく手を近づけ、指で、陰毛の辺りを撫ぜる。  琥珀さんの指にビクリと体が動く。  ねちょっという粘り気のある音がした。 「わあ、こんなに濃くて、凄い……」  指でにぱーっと弄ぶ。  琥珀さんが、俺がペニスから出した白濁液を指に絡めている。  ほら、と見せるように手を上にあげる。  頭を殴られたような衝撃があった。  俺だけでなく、琥珀さんを除く皆が何も出来ずに固まっていた。 「シエルさんも手伝ってくれますか」 「は、はい」  じいーっと俺たちを凝視していたシエル先輩が、琥珀さんの声に弾けたよう に動き出す。  膝立てて近寄り、ポケットから折り畳んだハンカチを取り出す。  そして拭いてくれようとして、ふと動きを止めた。  なにやら琥珀さんと目と目での会話をしている。  ええっ、という驚きの顔。  しかし、琥珀さんの言葉に頷く。  ハンカチはポケットにしまわれた。  ?   「では、綺麗にしましょうか」  宣言するように、俺にともシエル先輩にともつかぬ言葉を呟く。  琥珀さんは、顔を近づけ、ペニス幹の根本辺りを……、舐めた。  舌でべとべとの精液に触れ、躊躇う事無くぬめぬめと舌を動かし、舌先で掬 い取った白濁液を飲み込む。  !!!  一度ではない、二度、三度、太股の付け根辺りを、陰毛の脇を、幹の少し上 を、琥珀さんの舌が這う。  何を、  何で、  これは。  何なんだ?  と、シエル先輩も動いた。  反対側から、臍の下をぺろと舐める。  そのまま、舌を這わせて、斜め下へ。  むくむくと怒張と化すペニスに頬を掠めさせながら、後始末をしている。  夢か。  夢を見ているのか。  こんな、琥珀さんとシエル先輩が、跪いて、舌と唇で俺の下半身を余すとこ ろ無く舐め尽くし、精液の汚れを清めているなんて。  信じられない。   目で見ているものが信じられない。  耳にしているものが信じられない。  でも、このなんとも言えない快感は。  場所は違えど、何度も味わって知っている二人の唇の感触、舌の柔らかさは。  琥珀さんの小さく驚くほど複雑な動きをする舌。  シエル先輩の別な生き物のように機敏に動く舌。  間違いなく俺を何度も酔わせてくれた甘い舌だった。  混乱した頭で、何か言葉を口にする事も出来なかった。  いや、下手に言葉を発する事で、この甘美な幻が消え去るのを恐れていたの かもしれない。  秋葉と翡翠は?  ふたりは、完全に固まっていた。  でも。見開いた目は一方向に、その視線はシエル先輩に、琥珀さんに、俺の 下半身に張り付いている。 「な、何を……」  搾り出すような声で、秋葉がそれだけ口にした。  干からびたような感情も声の艶もないからからの声。 「ああ、すみません、秋葉さま、こちらにいらして下さい。翡翠ちゃんもね」  平然とした琥珀さんの声に、二人は従う。  俺も身を起こす。  胡座をかくような形で座る。  思い出したように手を動かす。  隠そうとしたが琥珀さんにダメですよという顔をされた。    下半身を晒したまま、そこに四人が集まり、俺の意思とはうらはらに意気盛 んなペニスに視線を向けている。  何が起こっているのかわからない。  どうにも現実感が薄れている。  俺の思惑の外で勝手に物事が進んでいた。  とりあえず場を支配しているのは、割烹着姿の悪戯っぽい笑みのひと。  琥珀さんが、戸惑っている秋葉に話し掛けている。    「さあ、秋葉さまも」 「え、私が、何を……」 「秋葉さまと翡翠ちゃんの唇で志貴さんはこんなに高まって、気持ち良くなっ ちゃったんですよ」 「私の唇で……」 「そうですよね、志貴さん」 「……うん。秋葉と翡翠とキスしてて、我慢できなくなって。まあ、止めさし たのは琥珀さんだけどね」  もうこうなると正直に口にするしかない。  琥珀さんと秋葉の目に素直に答えた。 「ほら。志貴さんも言っています、あんなに恥ずかしそうにして……。  いいですか、秋葉さま、私達は志貴さんに恥をかかせたんですから、謝らな くてはいけないですよね。ちゃんとくちづけで」 「そうなの……? そうよね……」 「それに、志貴さんの……、舐めてみたくはないですか、ほら、まださっきの が残っていて」  琥珀さんが、ペニスを軽く握った。  その手の感触だけでびくびくと動く。  琥珀さんは、独立した生き物みたいなペニスの動きにまったく動じず、しご くように、絞るように、手を動かした。  尿道が、根本から先端へと軽く圧迫された。 「……」  呻き声が出そうになった。  なんだろう、琥珀さんの手って。  自分でやる数十回の同じ動作より、遥かに早く沸点を越えそうになる。  ともかく、まだ幹の尿道管の中に残っていた精液が、こぼれ出た。  鈴口に、表面張力と粘性でぷくりと白い珠のようになって現れ、垂れそうで 垂れずに亀頭の先で均衡を保つ。 「どうです。お嫌なら無理にとは……」  そして自分の舌を唇から覗かせて悪戯っぽく笑う。  わたしが舐めてしまいますよ、とその顔は秋葉に告げている。  何も言わず、秋葉はぺたんと座った状態から、にじり寄った。  琥珀さんが支えるペニスに顔を寄せ……、ちゅっとくちづけした。  秋葉が、俺のペニスの先に。  精液のついたペニスの先に唇をつけて、そして白濁液を吸った。  ちろっと舌でも舐め取る。  ゆっくりと顔を上げ、口を閉じたまま、何か考えている。  あの口の中に、少しとは言え、含んでいるんだよな、俺の。  直接唇で触れて舐め取った精液が。  吐き出したいんじゃないだろうか。  いくらんなんだって、あんなの気持ち悪いだろう……。 「どうです、秋葉さま。志貴さんの味は?」  あ、秋葉の喉が動いた。  呑み込んだ……。 「……変な匂い、それに何だかおかしな味。  美味しくはないけれど、でも……、兄さんのだと思うと……、凄く嬉しい」  酔ったような口調で言う。  熱っぽい色を湛えてでこちらを見る瞳がドキドキするほど色っぽい。  ちろっと、舌が唇を舐める。  僅かに付着していた薄濁りの粘液が秋葉の口に……。 「じきに、慣れるともっともっと好きになれますよ、秋葉さま。  はい、今度は翡翠ちゃんの番。残念だけど、志貴さんから直接は頂けないわ ね。でも、翡翠ちゃんの分もちゃんと取ってあるからね」 「え、でも、姉さん」  琥珀さんは、閉じた手を開いて翡翠の前に出す。  精液で濡れた指。  ああ、最初に弄った時の、そのままでいたんだ。  人差し指と中指でにちゃっと粘性のある様を示す。 「翡翠ちゃん、指をしゃぶって」 「……」  翡翠は戸惑ったように琥珀さんを見つめて、すっかり固まっている。  近づこうとしないので、琥珀さんはさらに指を前に出す。 「うーん? せっかくの志貴さんの、いらないのかな。翡翠ちゃんだけ嫌がっ ていたら志貴さんもがっかりしちゃうと思うけどなあ。  そんな翡翠ちゃんの事なんて嫌いになって、志貴さんがもうキスしてくれな くなったらどうするのかな。それは嫌でしょ? はい、あーん」 「琥珀さん、何言ってるんだよ。いいよ、翡翠、そんなの舐めなくて」  戸惑った表情で、目の前の精液に濡れた指先、琥珀さんの顔、そして俺と、 視線だけを動かす翡翠。  どうしていいのかわからない迷子のような表情。  それに見ていられなくなって声を出したが、琥珀さんは薄く笑うのみ。 「うふふ、苛めてるんじゃないですよ、ご心配なく。ちょっと素直になれない 翡翠ちゃんの背中を後押ししてるだけなんですから。  ね、翡翠ちゃん、恥ずかしいだけで、本当は舐めたいんだよねえ。  いいんだよ、本当に嫌なら……、あらら、そうなんだ。珍しく素直じゃない んだ。じゃあ、わたしが志貴さんの全部、舐めちゃおうかなあ」 「ダメ、姉さん」  飛びつくように翡翠が琥珀さんの手を掴む。  これ見よがしに琥珀さんが自分の口に入れようとしていた指を、寸前で止め てしまった。 「はい」  琥珀さんはあっさりと指の向きを変え、ねっとりと粘液に濡れた指を翡翠の 前に出す。  翡翠は恥ずかしそうに頬を染めつつ……、琥珀さんの指を口に含んだ。  姉の指を翡翠の小さな唇が飲み込んでいく。  爪の先、第一関節、第二関節……。  口の端にねばっこい液が少し付着する。  根本まで含むと、翡翠は言われもしないのに、口を動かし始めた。  ちゅぷ、じゅぷ……、んふんん……ちゅるる、ちゅぱ。ちゅうう……。  熱心に翡翠は琥珀さんの指をしゃぶった。  陶然とした表情で。  嬉しそうに。  美味しそうに。  本当に幸せそうに。  ねぶっている、琥珀さんの指を、俺の精液を、ねぶっている……。 「美味しい、翡翠ちゃん?」 「……」  指を口に含んだまま、翡翠は少しのためらいもなく頷く。  そうしながらもごもごと口腔を動かしている。 「あ、ちょっと口についちゃってる」  言いながら琥珀さんは妹の口元にちゅっとキスした。  一瞬で離れたけど、その時に赤い舌がちろりと動いたのが見て取れた。  ……。  たまらない。  こんなの見せられて、どうにかなりそうだった。 「秋葉さま。ひとつ提案なのですが」 「……え、な、何?」  秋葉の熱っぽい目がペニスの方を見ている。  さすがに直視ではないが、ちらちらと視線を向けている。 「ああなっている志貴さんは、いつも苦しまれていたんです。  そうですよね、志貴さん。我慢なさって、お辛い想いをしていましたよね?」 「ま、まあ。ちょっと苦しかった時もあるかな。琥珀さん達のキスがあまりに 気持ち良くて恥ずかしいけど体が反応して、我慢するの辛くなる事もあった」 「お聞きになりましたか、秋葉さま。秋葉さまやわたし達が志貴さんにキスし て頂いて幸せだった裏で、志貴さんは人知れず地獄の苦しみを」 「地獄って……」  幾らなんだって大げさな。  しかし、琥珀さんの言葉に衝撃を受けたらしい誰かの妹ははっとして叫んだ。 「兄さん、私、そんなの全然気がつかなくて……」  わなわなと震えている秋葉。  なんだかなあ。  気づいて欲しくなかったんだけど。  と言うか、琥珀さんいつも気づいていたのか。じゃあ、慌ててトイレに駆け 込んだりするのも……、うわあ。  琥珀さんは、今度は俺の方に向き直る。 「志貴さん、キスされて高ぶられて、そのまま達したくはありませんか? 最後まで遠慮する事無く、そのまま快楽に浸れたら嬉しくないですか?」 「そりゃ、もちろん。でも……」 「秋葉さま。志貴さんが射精したくなった時、自由に射精なさる事をお許し頂 けませんか。いえ、ただ黙っているだけではなくて、志貴さんのお手伝いをし て差し上げたいと思いますが、いかがでしょうか?」 「ちょっと、琥珀さん」  口を挟もうとしたら今度は、シエル先輩がずいと前に出る。  軽く手で制せられる。 「琥珀さんの言う通りですよ、秋葉さん。遠野家に関わり無い部外者が差し出 がましいと思われるでしょうが、発言を許して下さい」  シエル先輩がいたって真面目な口調で口を挟む。  思わぬ発言に秋葉は機械的に頷き、許可を与える。 「は、はい。どうぞ」 「秋葉さんの定めた規則に口を差し挟むつもりはありません。でも、せっかく 皆さんの為に決めた事が、遠野くんを犠牲にして成り立つのであれば、それは 酷い事だと思います。  だからほんの少し手を加えて、遠野くんだけが辛い思いをして我慢しなくて もすむのであれば……。  遠野くんのなら、わたしは少しも恥ずかしくないですし、出したくなったら、 手や口でお手伝いしたいと思います。いえ、わたしだけでなく琥珀さんもそう お思いなんでしょう?」 「もちろんです。さすがシエルさん、よくおわかりですね」  琥珀さんは手で拍手のポーズ。  二人で理解の喜びを顔に浮かべて、そして秋葉の方を向く。 「何を言っているんだ、二人とも」 「琥珀、シエルさん、良く言って下さいました。  その通りです。ええ、誤りは正していくべきです。  私も兄さんが望まれるなら喜んで。翡翠も兄さん付きのメイドとして頑張っ て奉仕するわよね」 「はい、秋葉さま。もちろんです。今までの事を思うと……、せめてこれから は志貴さんにお喜びいただけるよう誠意を尽くします」 「それでこそ遠野家に仕える者です」  これは当主としての顔なのかな。  下の者の健気な言葉を、喜色をもって肯定、誉める。  そして一転してしおらしく俺に言葉を。 「兄さん、今まですみませんでした。  これからはお好きなだけ、その……、」  さすがに口ごもる。  琥珀さんがさりげなく言葉を継ぐ。 「射精なさって下さい。遠慮せずに言ってくださいね、お口でも手でもお望み の方法でお手伝いしますから」 「そういう事です。わかりましたね、兄さん」 「ああ。……いいの?」  いい加減頭が麻痺してきたかな。  まあ、皆がいいならいいかなという気持ちになっていた。  四人の妙な結束感と熱気にやられただけかもしれないけど。  考えてみたら、反対する理由は何も無い。 「もちろんです」 「喜んでやりますよ、遠野くん」 「はい。良かったですね、志貴さん」 「お命じ下さい、志貴さま」  うん、良かったんだ、これで。 「どうも、すぐにも……って感じですけど、どうなさいます?」 「じゃあ、……お願いする」 「はい、それでは、今度は秋葉さまと翡翠ちゃんが志貴さんを。  わたしとシエルさんでお口を。ちゃんと口をゆすいでありますから、平気で すよ」  琥珀さんの指示で、改めてぺたんと座らされる。  シエル先輩と琥珀さんが左右から寄り添ってくる。  腕とか胸に、柔らかい感触があたる。   「うん……」 「んふ……、ッんん……」  琥珀さんの唇。  何を使って口をゆすいだのだろう、いつもより甘い香り。  さっきまで精液を舐めていた琥珀さんの舌を吸う。  ちぅぅうう……、ちゅっ、れろ、れろ、ちぅ、ちううぅぅ……。 「わたしにも」  シエル先輩にも。  さっき嬉しそうに俺のペニスを、精液に塗れた脚を、睾丸までも、口づけし てくれた唇を奪い、吸う。  舌もにちゃと絡ませあう。  ちゅっ、ちゅうーー、くちゅ、ちゅうう、じゅぷ……ちぅぅ、ちゅぅぅ……。    二人ともさっきよりずっと興奮し高ぶっている。  それは俺にも伝染する。  次第に息が荒くなる。  ああ、耐えがたい。  二人のキスがダイレクトに肉体に快感として襲い掛かる。  どうにかなってしまいそうだ。  剥き出しのペニスが勝手にびくびくと頭を振る。  ……。  え、剥き出しのペニスって?  一瞬、夢から醒めたようにぎょっとした。  そして、夢のような現実を認知し直す。  ああ、そうか。  我慢しなくていいんだよな。  躊躇いは無くはないのだが。  すっかり理性は麻痺してしまっている。    シエル先輩の唇と琥珀さんの舌で絶頂を迎えるんだ。  なんて幸せ。  手を股間に伸ばした。  もっと直接的な刺激を……。  え?  手が止められた。  目を向けると、秋葉と翡翠が二人揃って手首を押さえている。 「もう、なんで自分でなさるんですか」 「志貴さま、わたし達が……」  ああ、そうか。  口が塞がれているので、伝わるかどうかはわからないが、目で「お願いする よ」と二人に告げて、手は引っ込めた。  そして、数瞬の間が空いて、柔らかい手がペニスに触れた。  翡翠が恐る恐るといったためらいがちな動きで、ほっそりとした指を幹に絡 ませる。  秋葉がそれよりはきっぱりと、でも迷うようにしながら亀頭に向かって綺麗 な指先を伸ばす。  ぎこちない二人の動き。  それでも、他人の手により、しかも翡翠と秋葉の二人に、ペニスを恥ずかし そうに触れられているというのは物凄い興奮を誘った。   「翡翠ちゃん、もっとちゃんと握ってあげないとダメ。志貴さん満足してくれ ないわよ」 「秋葉さん、もう少し指で擦るように、でもそこ敏感ですから力をいれ過ぎな いように優しくして」  指導が入る。  翡翠は指で挟むといった程度であった手を、やんわりと包むようにしてくれ た。幹に軽い圧迫と暖かさ。  そして、琥珀さんの指示に従ってゆっくりとではあるが根元から亀頭へ、そ してその逆と動かし始めた。  秋葉は人差し指と親指で恐々と摘むようにしていた指を、ゆっくりと動かし 始めた。  さっきの名残でにちゃと糸引くような感触を気にする事無く、人差し指で亀 頭の裏筋を探りながら親指の腹で亀頭の表面を擦り上げたり。  カリの部分をなぞりながら、鈴口を指先で突付いたり。  じわじわと生まれる快感。  呻き声が抑えきれずに洩れた。  意識せずに腰が動く。    俺が陥落近しと見たのか、一緒に翡翠と秋葉のぎこちなくも懸命なペニスへ の行為を見守っていた琥珀さんとシエル先輩が、争うように唇を寄せてきた。  こちらも、それは望むところ。  秋葉と翡翠の指や手もたまらない快感だけど、それに琥珀さんと先輩の唇や 舌を加えたら……、考えただけでも達してしまいそうだった。 「志貴さん……」 「琥珀さん、舌伸ばして……」  ぢゅるる、ちゅうう、ぢゅるる……。  荒々しいまでに舌を吸う。  琥珀さんは嬉しそうに舌吸いされるにまかせ、とろとろと甘い唾液を飲ませ てくれる。 「わたしも、遠野くん、お願い」 「いいよ、先輩の唇が融けるまで」  くちゅ、ちゅる、くちゅうぅぅ、ちうう……。  唇を強く合わせ、お互いに舌を動かしあう。  必ずしも絡めるだけではなくて、相手の唇や歯茎を舐めあったり、舌で舌の 感触を味わったり。  交互に激しいキスを繰り返し、秋葉と翡翠の最後の奉仕にも目を向ける。  本能的に男の生態がわかるものなのか、あるいは体の中で滾っているマグマ の脈動を感じ取ったのか、二人ともそろそろ終局が来ると理解し、その瞬間を 待っている。  翡翠の手が、秋葉の指が最後へと誘うように与える刺激の量を増していた。  そして、もう限界の瞬間を迎え……。  え?  翡翠の手はそのままだが、鈴口の周りで円を描いていた秋葉の親指、くびれ に巻きついて動いていた秋葉の人差し指がそっと姿を消した。  僅かに快感の量が減じる。  どうして、と思った時に、秋葉と翡翠の最後のプレゼントが現れた。  秋葉が、翡翠が顔をくっつけるほど近づける。  そして亀頭に口づけし、舌でぺろぺろと舐めた。    あ。  あああ。  あああああッッッ。  頭が真っ白になり、そのままありったけの精液を撒き散らした。  空っぽになるまで射精をした。    琥珀さんの舌を吸い、先輩までもが横から唇を重ねてくれ、その陶酔のキス の中で、翡翠と秋葉のペニスへのキスで達した。  どくん! どくん! どくん!!  翡翠が手で支えていてくれたけど、腰ごとペニスは左右に、上下に暴れまく った。  止める気は毛頭無く、その暴走にまかせて、翡翠と秋葉の髪といわず、顔、 首、服を白濁した精液で染め上げた。  圧倒的な快感と、体が空っぽになったような空虚さ。  後ろ手に体を支えて、どうにか倒れずに体勢を保つ。  秋葉と翡翠もびっくりとしたように、しかしうっとりと上気した顔で呆然と している。  湯気が立つような熱い吐精を受けて、無惨なその姿。  しかし二人の表情を合わせると、何とも淫蕩に見えた。  はぁはぁと荒げた息を抑えつつ、その性長けた淫婦のような姿に目を奪われ ていた。  翡翠は、垂れた精液を手に溜めてしげしげと眺めている。  一方秋葉は束の間静止していたが、動き出した。  秋葉が端整な顔を汚した白濁液を指でこそげている。  ねっとりとした粘液が芸術品のような爪を、形の良い指を、汚していく。  秋葉は構わず指を動かし、目の前にかざす。  さっき琥珀さんがしたように、指を擦り合わせたり、広げてみたりして、精 液の感触を確かめている。  鼻に近づけ、匂いを嗅いだ。  ワインの香りを楽しむように、目を閉じて微かに鼻腔を動かして。  そしておもむろに……、しゃぶった。  嬉しそうな顔で、さっきは戸惑っていた精液を舐め飲み込んでいる。  何度も繰り返し、精液を味わって、信じ難いことに嬉しそうにしている。  指で拭っているとは言え、少量は顔に擦りつけているのだが、ほとんど気に も止めていないようだ。  うん?  両脇にいた琥珀さんとシエル先輩が、前へとにじり寄る。  二人で精液にまみれた翡翠に向って。 「翡翠ちゃん、こんなになっちゃって」 「綺麗にしてあげますね」  二人して、翡翠の頬にキスをする。  そして舌で濃厚に化粧された翡翠の顔をぺろぺろと舐める。  蠢く紅い舌が白濁液に染められ口中に引っ込む。  そしてまたちろりと紅く戻った姿で翡翠の肌に触れる。 「きゃっ、姉さん。シエルさまも……、そんな」  しばし反応できなかった翡翠が、ようやく身を捩る。  かまわず二人は耳に、まぶたに、髪に、首筋に、唇を寄せる。  じゅるっという啜り込む音がする。  唾液で少してらてらとしているものの、無惨ですらあった翡翠の顔がたちま ち清められる。  なんだか興奮を誘う眺め。  あらかた片付けると、先輩と琥珀さんは離れた。  後に残るのは、両手をお椀の形にした中にどろどろの精液溜りを入れた翡翠。 「あら、どうしたの翡翠ちゃん。せっかく秋葉さまとご奉仕して、ご褒美に頂 いたのに……」 「え……」  皆の目が翡翠に集まる。  自分で自分の始末をし終えた秋葉までが、もの欲しそうな顔で翡翠の手を見 つめている。  翡翠は少し迷って、それから意を決して顔を近づけた。  可愛い翡翠の舌が近づく。  どろどろと淀む手の中の精液溜りに。  触れた。  そして舌先が潜る。  一瞬でスプーンのように窪ませて姿を現す。  そのままくるっと丸まるように精液をすくった舌が翡翠の口腔に戻る。  どうなったのかは見えない。  ただ、少しもごもごと動く頬と唇の動き、その後の何かを飲み下したような 喉の動きだけが見て取れる。  それを皮切りに、翡翠の舌は休み無く動いた。  ぴちゃ、ぴちゃという猫がミルクを舐める音と、じゅるると控えめに啜る音 を立てて、翡翠は精液を全て飲み込むまで。  最後に、ごくんと嚥下して、翡翠はふうと溜息をついた。  俺と目が合い、恥ずかしそうに、しかし視線は下げずに微かに微笑む。 「ありがとうございます、志貴さま」  丁重に礼を言われた。  それを聞いて頭が真っ白になった。  立ち上がって、翡翠を抱きしめようとした。  顔が琥珀さんとシエル先輩の唾液で濡れ、精液も僅かに残っていた。 少しも気にならない。  顔を近づける。  まだ、唇が舌が白濁液に彩られている。  そんなのかまわない。  翡翠を抱き締めて、唇を押し付け、舌で口腔中を隈なく舐め回したくて気が 狂いそうだった。 「だめ、だめです。志貴さま……」  急に少々殺気だって近寄って来た俺に、翡翠は反応できずにいた。  しかし、体を引き寄せ唇を合わせようとした時、呆然としていた翡翠が我に 返り叫び抵抗する。 「やだ、姉さん、助けて……」  泣き出しそうな悲鳴。  顔をぶんぶんと振る。  その様に幾分冷水を浴びせられる。  ちょっとキスを拒まれてカチンとも来ていた。  いつもならしないような乱暴な気持ちで手を掴み……。 「駄目ですよ、遠野くん。女の子に乱暴な真似しようとしちゃ」  シエル先輩にあっさり、取り押さえられた。  秋葉も、牽制に入っている。  右手が妙な動きを。  はっと我に返り、怯えた様子の翡翠に頭を下げた。 「ああ、ごめん翡翠。嫌がられたのがショックで……」 「嫌ではありません。でもこんな……」 「志貴さんが嫌がらないのは嬉しいですけど、こんなべたべたになったままで 志貴さんにキスされるのは抵抗あるんですよ。ね、翡翠ちゃん」  ちょっと言葉につまった翡翠に琥珀さんがフォローを入れる。  言いたかった事を代弁して貰えたのか、ほっとした顔で翡翠は頷く。 「はい。顔を洗って来ますので、そうしたら……」 「わかった、待っているから行っておいで」  珍しく早足で翡翠が出て行く。  ちょっと逃げるようにも見えた。  そんなものなのかなあ。  でも、キス欲求がまだ大きくて、それではと横を見る。  こっちには、俺の為に性器を熱心に奉仕して、最後はキスしてくれた可愛い 妹がいるじゃないか。  秋葉にだってもちろん感謝の念を抱いている。 「じゃあ、秋葉だな」  驚いた顔で秋葉が俺を見る。  唾液はついていないけど、やっぱり精液の残滓と引き伸ばして塗られたよう になった痕が色濃く秋葉の顔を染めている。  普段から見るとやっぱり無残な姿だな。  でも、そうした原因は俺で、そう思うとむしろ愛おしさを感じた。  キスしようと顔を寄せた。 「え、その、やっぱりダメです」  ちょっとだけ迷いを見せて、でもとんと俺の胸を両手で押しのけると、秋葉 も走り去っていった。  あーあ、残念。  がっかりして溜息が洩れた。 「帰って来るまで、二人でお世話しますから」 「それとも私達ではご不満ですか、志貴さん?」 「そんな事ないよ」  慌ててシエル先輩と琥珀さんに答える。  罰が当たるよ、そんな事言ったら。  それに、琥珀さんとシエル先輩から受けたキスの感触はまだ濃厚に唇が憶え ている。もっと……、そう要求している。 「志貴さんのも綺麗にしませんと、シエルさんはどっちがいいですか?   さっきはわたしが志貴さんのペニスのシャフトを舐めましたから、よろしけ れば、そちらをいかがです?」 「あ、それは嬉しいです。では琥珀さんは志貴さんの唇を、存分に蹂躙しちゃ って下さい」 「はい。では志貴さん?」 「わかった。え、立ったまま?」  答えずに琥珀さんは、俺の首に手を回す。  柔らかい琥珀さんの体が密着する。  それならば、と少し頭を下げる。  唇が合わさる。  そう言えば琥珀さんもさっきまで翡翠の顔を舐めてたのに、とちらりと思っ たが、いつの間に清めたのか精液舐めの痕跡は微塵も残っていない。  清涼な唇の感触。  早速舌が急襲。  頬の内肉を舐められ、擦られ、歯茎をぬめぬめとまさぐられる。  うわっ、とその圧倒的な刺激に声を出すと、その呼気を凄い勢いで吸われた。  息も、声も、唾液も。  呼吸困難になったように頭がぼうっとする。  ほんの数秒の早業。  ちゅる、れろ、れろれろ、ちぅぅ、ぢゅうう、ちゅっ、ちぅぅうう…・・。  されるがままになって、本当に無抵抗で蹂躙されている。  琥珀さんて、凄い。  それでいて、何と言うか想いも伝わるから、心まで震えてくる。    うん……?  浸っていた俺を、琥珀さんが首に巻いた手にちょっと力を入れて呼び覚まし、 キスしたまま視線を移させた。  下へと。  シエル先輩が跪いていた。  俺が眼を向けたのを合図にしたように、顔をゆっくりと近づける。  さっきまでキスしていた先輩の唇が、俺の股間に、勃起したままのペニスへ 近づく。  手が根本に添えられ、軽く角度を変える。  鈴口が正面に来るように向きが調整された。  そこへ近づいていくシエル先輩の形の良いベルベットのような艶のある唇。    うんん……、ごく…ん。  カラカラになった口にトロリとした甘い唾液が流し込まれ、反射的にそれで 喉の渇きを癒した。  感謝の気持ちで、舌で琥珀さんの舌を擽ってあげたけど、眼はぴたりとシエ ル先輩に張り付いている。  明らかに俺と琥珀さんの眼を意識している。  じれったくなるほどのスローモーな動き。  ようやく先輩の唇が、鈴口に触れる……。  止まった。  え、何で?  ふっ。  その触れんばかりの位置で止まり、先輩は唇をすぼめて息を吐いた。  てらてらと濡れた亀頭に向って。  その先端の傷口にも似た穴に向って。  ふーーっ。  冷たい。  そして微弱な無数の針で突付かれたような感触。  びくんとペニスが脈動した。  触れられもしないのに、強烈な刺激を受けて。  とろりと白濁した粘液が姿を現した。  どういう働きだろう。  さっきの秋葉がしたように吸い出した訳でもないのに、まだペニスの幹に溜 まっていた先ほどの迸りの残滓が、とろとろと自らこぼれだしてきた。  さっきのような塊状の強度は無く、はるかに液状に近い。  たらりと、糸引くように、それは鈴口から垂れて……。  どう動いたのか、先輩の頭がすっと下に落ちて、伸ばした舌がそれを受け止 めていた。  少し内側に丸めた舌に、ぽとんと精液が落ちた。    眼が合った。  シエル先輩の妖しい瞳がこちらを見て、舌を見せつけてから、口腔に引っ込 めた。  喉を反らして、嚥下の動きを見せてくれた。  どうですか、遠野くん?  口に出さずしてそう語ると、先輩は舌を使って今ので濡れている鈴口を、ぬ らぬらとした亀頭と幹をゆっくりと舐め、過度の刺激を押さえながら丹念に清 めてくれた。  射精した後を女性の舌で綺麗にして貰う。  その何とも男の征服欲を刺激する快感を味わいながら、くちゅくちゅと別な 女性と濃厚な口づけを交わす。  罰が当たりそうなほどのな精神と肉体の満足感。  それなのに、俺はもっともっとと、次を望んだ。  琥珀さんの唇を離し、先輩の頭をぽんぽんと軽く叩いてやめて貰う。  ソファーに場所を移した。  座って、二人に言葉をかける。 「交替して貰いたいな。今度はシエル先輩とキスして、琥珀さんには下を」  はい、と従順に琥珀さんは返事をして、俺の股の間に蹲る。  ためらいなく、シエル先輩の唾液に塗れたペニスに唇を合わせる。  舌主体だった先輩の動きと差をつけるつもりなのか、唇を擦りつけたり、ち ゅっちゅっと吸ったりといった行為を多めに取っていた。  ひとしきり琥珀さんの口戯の冴えを目でも味わい、今度はシエル先輩の唇を 楽しませて貰おうと視線を移した。  しかし先輩は近寄ったものの、ためらうように顔を近づけてくれない。 「先輩、どうしたの?」 「今、遠野くんの舐めてた訳で……、そのキスは……」  なんだ、そんな事か。  あえて困惑した顔で答えた。   「あんなの舐めさせるような酷い男には、シエル先輩はキスなんかしてやらな いって、そう言いたいのかな?」 「違います。いいんですか。遠野くん、嫌じゃないんですか、自分の……」 「そりゃ、口移しで飲ませますよとか言われたら逃げるかもしれないけど、平 気だよちょっとくらい。  それに、自分のを熱心に舐めてくれた先輩の事を、汚いって拒否するのって、 そんなのあまりに酷いじゃないか」  はい、とシエル先輩は嬉しそうにして、でもおずおずと体を傾ける。  頬を手で撫ぜてあげながら、股間に顔を埋めている琥珀さんに目は向けた。   「琥珀さんも、この後でキスしてくれるよね?」  上目遣いの琥珀さんがちょっと驚いた顔。  そんなびっくりする話なのかなあ。  そんな事を思いながら、シエル先輩の唇を奪った。  貪るように舌を、先輩の口のいたる処に忍び込ませた。  ちょっと苦しそうに先輩は顔を歪めたりもしたが、拒否することなく俺の舌 を受け入れてくれていた。  そんなに青臭い匂いなんてない。  先輩の唾液の匂いでほとんど払拭されている。  じゅるじゅると先輩の口に溜まっていた唾液を啜った時に、これ吐き出した ら多分混ざってるんだろうなって、ちょっと頭で想像して少しだけ嫌な気持ち になったけど、でも顔には出さずに飲み込んだ。  あとは、普段通りのシエル先輩の口。  ちょっと心配そうにしていた先輩の顔が、俺が不快感や拒否感を示さないの で安心した表情になるのを見るのは、嬉しかった。  あえて舌を濃厚に絡ませあい、唾液をやり取りして唇を離した。  つうーっと糸を引く。    改めてもう一度キス。  今度は先輩も積極的に動いてくれた。  先輩からも舌を伸ばしてくれた。    そうしている間にも、啄ばむような琥珀さんのキスで、亀頭もカリも、裏筋 も何も、拭われてしまった。  そんなに激しくない刺激だが、断続的に繰り返されると、じんわりとした気 持ち良さが続いていて、なんとも言えない快感だった。  精液の汚れは取り除かれた代わりに、琥珀さんの透明な唾液でコーティング されているペニス。    うん?  ああ、秋葉の声だな。  二人が帰ってきたか。  じゃあ、今度は秋葉と翡翠にキスだな。  それまでは、この先輩と……、舌をちゅううと強く吸う、琥珀さんを……、 また先端に戻った琥珀さんに鈴口でディープキス……、楽しもう。 「兄さん、戻りましたよ、あ、もう……」 「志貴さま、遅くなりました。姉さん……」  三人で重なった姿が視界に入り、眼を見開いている翡翠と秋葉。  こっちへお出でと手招きする。  そして……。  ……。  これが、遠野家の歴史に新しい頁が記された時の事だった。  大げさに言えば。


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