口交

作:しにを

            




「最初は、口でなんかしてくれなかったよなあ」

 ふと、思い出したと言うように、志貴が言葉を洩らす。
 視線を下に向けると、どう答えたものかと戸惑うような秋葉の顔。
 しばし絡まる視線と視線。
 兄の表情を瞬時に見て取り、ここは怒ったり、怒った振りをするのは得策で
ないと秋葉は判断する。
 特に他意のなさそうな表情で、志貴は秋葉を見ている。
 何か含むところがある失言であれば、こうも呑気な顔をしてはいまい。
 秋葉に対してだけでなく、時々志貴は唐突過ぎる物言いで聞く者を当惑させ
る事がある。
 主として、黒衣を身に纏った教会の代行者だの、忠実なる可憐なメイドさん
だの、あるいは目の前にいる妹だのを。

 今もそう。
 ある意味、ケンカを売るような言葉を口にしていながら、むしろ相手に同意
を求めるような態度。
 それゆえに秋葉も反発めいた反応よりも先に自分を省みる。
 口で、口で。
 と言うと、そういう事なのであろう。
 口戯、男のものを口でもって迎える行為。
 それならば確かに、と思う。
 
「それはそうですけど」

 認めてしまう。
 強がりの虚勢も張るし、嘘を承知で押し切る事もあるが、今は素直。
 いったん認めてしまうと、その事実が弁解者たる立場に自らを追いやる。

「兄さんが嫌だとかではなく、その……」

 言い訳っぽい。
 こうしていつの間にか、過去を弁明しかけてしまっている。
 拒絶した事もある。
 どろっとしたものが口の中に広がる感触への拒否感。
 慣れてきても、どうしても飲みこめずに、口からこぼした事もある。
 それ以前の行為。どうやって口の中で脈打つものを扱えばいのかわからなく
て、もごもごとしていて歯を立ててしまった事も。
 口ではともかく、ぶら下がるものを柔らかく握ってといわれ、加減がわから
ず悶絶させてしまった事も。
 本当に最初はあのむせ返るような匂いがダメだった。少しだけだけど、ほん
の少しだけ。
 だって、兄さんったら、あんなに勢い良く。たとえ無味無臭の水だってあん
なに注ぎ込まれたら受けきれない。
 もっとも今は違う。今は、むしろあれなしではもう……。
 ふと、思考が白濁液と共にぐるぐる回り泡立っているのに気付き、我に返る。

 口篭もった妹を志貴は見ていた。黙ってはいたけれど、志貴はようやく変な
事を言ったと悟った顔。
 すまないと軽く呟いているような表情。
 秋葉と再度目が合い、志貴は小さく言葉を口にした。
 声も宥めるような響きをにじませている。

「わかってるよ。正直グロテスクだし、こんなの口に咥えろと言われてもすぐ
には頷けないよな」

 はいと頷くのは容易。
 しかし、それも秋葉の心には抵抗が起きた。
 グロテスクなどと、とんでもない。
 大きいのには吃驚したけれど、そんな目で見た事は初めて結ばれた時より一
度も無い。
 すぐに咥えられなかったのは確かだけど、今は愛しく見える兄さんの大事な
部分。
 何度となく自分を喜ばせてくれる、いつ見ても不思議な兄さんのモノ。
 でも確かに最初の頃は……。
 ふと、秋葉の思考が過去へと向く。
 色濃い思い出の一つ。
 兄さんも同じ事を思い出しているみたい。
 目と目とで通じ合う。

 同時に志貴もまた、同じ過去へと思いを馳せる。
 した者と、された者。
 その違いはあれども、秋葉も同じ事を思い出しているのだなとわかる。

 そう、決して初めてではなかったけれど。
 あれは、確か……。
 




 



 志貴としては、秋葉の唇をことさらに汚したかった訳ではなかった。
 長い黒髪を梳き、首筋に軽いキスをする。
 すべすべの腕の感触を楽しみ、自分の胸に預けられた背の重みを感じる。
 その他諸々の軽い愛撫とも言えぬ触れ合い。
 それだけでも強い喜びが湧いて来る。
 秋葉の体温、芳しき息、小さな声、瞳の揺らぎ。
 付随してくる何もかもが、志貴には至福だった。 
 もちろん、それだけではない。
 存分に胸の先を弄り、濡れた谷間をさらに洪水に変えていく。
 不浄の部分ですらも、指で舌で可愛がり悲鳴を上げさせ、身悶えをさせる。
 ちらりと怒った顔をするのも何とも可愛らしく、キスでなだめ、太股の内側
を柔らかく撫でてやる。
 そんな行為にも言い知れぬ喜びを感じる。
 軽いキスでは物足りないと、唇をつんと前に出す秋葉の仕草。
 それに応えて強く唇を吸い、離れるとお返しとばかりに唇を重ねられる。
 交互の唇の触れ合いでのとろける柔らかさ、艶かしさ。

 きらきらと輝く瞳は高揚を露わにしている。
 髪の一本一本が生気に満ちているようだった。
 期待の表情、 求めている態度。
 自分に向けられたそれを見ていると、志貴も高ぶっていく。
 もっともっと秋葉の全てを知りたい。秋葉を感じたい。
 気持ちがあふれ出してくる。

 強く抱擁する。
 ほっそりとした秋葉の体。柔らかい宝石。
 抱きしめシーツをしわくちゃにしつつ戯れる。
 ほっそりとした四肢の到る所にキスの雨を降らせる。
 いちばん感じる処を探り出し、精一杯の手管で悲鳴を上げさせる。
 一つになり、強い充実感を味わう。
 いろんな選択肢。
 どれを選ぶか迷うほど。
 迷って迷って全部を順番に堪能するのも悪くは無い。

 しかし、志貴がこの時に注視したのは、今しがたの陶酔をもたらしてくれた
秋葉の紅の部分。
 柔らかく、形が良く、中は熱く濡れている。
 蕩けるような感触を誇る唇だった。

 キスは数え切れぬほど何度も何度もした。
 指を咥えられ、軽く噛まれた事もある。
 舌で目尻や耳を舐められた事もある。
 だが、まだして貰った事のない行為も幾つもあった。

 キスだけでさらに隆々としている股間のもの。
 これに対し、直接触れて貰ったらどんなだろうか。
 秋葉の唇が、こんな部分に触れたら、あの舌が這ったら、どんなに身震いす
るほどの快感だろうか。
 それだけでなく、下の口でするような事を、あの小さな口で……。
 考えただけでどうにかなりそうだった。

 単純な快感、肉体に受ける予測できる悦楽。
 だが、その期待だけではない。
 幾分かの征服感に似たものもあったろう。
 秋葉が従順に言葉に従い、自分のペニスに顔を寄せ、あの唇で触れてくる。
 啄ばみ、くちづけし、舐める。
 唇で挟み、吸い上げ、口に入れてしゃぶりだす。
 どれだけの精神的な悦びがあるだろう。
 肉体的な快美は言うまでも無く。
 同時に、秋葉にそこまでしてもらえたら、どんなに嬉しいだろう。
 そこまで許して貰えた。
 意思に寄らぬ奉仕ではなく、秋葉からして貰えたら、どんなに幸せだろう。

 今はまだ無理。
 秋葉の顔を見る。
 絶頂を迎えた後の、高揚の緩やかに冷めてていく様子。
 気だるさの見える様子。
 さきほどまでの甘い声、吐息の乱れ、妙なる喘ぎ声の残滓。
 胸を重点的に攻められ、尖った乳首を執拗に責められ。
 一転して、濡れ始めた女陰を手で弄られた。
 優しく、谷間を閉ざす唇を摘まれ、ほぐされ。
 こぼれる湿り気を掻き出され。
 ゆるゆるとした愛撫に、秋葉が太股をもじもじとさせ、自ら開く。
 すると、手がするりと潜り込む。
 待ちかね様に。
 待ちかねたのは志貴の方だったろうか。指が触れた瞬間に息を洩らした秋葉
の方だったろうか。
 熱い火傷しそうな粘膜、柔肉が志貴の指を包む。
 白い股肉に挟まれ、姿は見えない。
 それだから、いっそう秋葉の女の部分を感じる。
 複雑な形状、襞を、膣口の感触を、小さな突起を。
 
 胸も忘れない。
 唇を寄せ、小さな蕾にも似た突起を噛む。軽く、歯で挟むようにして。
 あえて痛みを与える。
 刺激となる程度の痛み。
 そして、和らげるように唇で挟む。
 吸い、舌で転がし、突付く。
 志貴にとっては、秋葉を身悶えさせ、喘ぎ声をこぼさせる行為であり、同時
に自らも陶酔し興奮していく行為であった。
 自らの享楽追求と、相手への心からの快楽奉仕。
 それは相反しそうで、必ずしも対立はしない。むしろどちらでもあり得える
事だった。
 志貴だけでなく秋葉も。
 乱暴なまでに自分を求め夢中になっている兄。それに受身のままでひたすら
貪られるのは喜び。逆に積極的に愛撫し、体全体をもって兄に甘美な悲鳴を洩
らさせるのも、ベクトルは違えど多大な喜びだった。
 今は、志貴は自分よりも秋葉を優先していた。
 薄くも肌の柔らかさと滑らかさ、触れているだけで甘美な胸を口で楽しみつ
つも手は休まない。
 既に蕩けてしまった秘肉の谷間。そこをまさぐる指は粘度のある液体でまみ
れ、花弁を摘むのも滑るほど。
 空いた手は、背を撫で、細腰を這い、くすぐったさを与えると共に肌に潜む
性感を刺激していく。
 そうした手と口との、指と唇と舌とでの、波のような愛撫の果て。
 秋葉は高まり、志貴の見つめる前で、果ててしまった。
 いちばん美しい瞬間。
 いちばん恥ずかしい瞬間。
 
 うっとりとした秋葉をすぐさま、別の形での悦楽に巻き込もうとはせずに、
志貴はじっとしていた。
 当然ながら、志貴の股間は、解放を求めるごとく猛りに猛っている。
 しかし、秋葉の状態に頓着せずに、膣口を貫く真似はしようとすら思ってい
なかった。
 さっきまで秋葉と戯れていた際にも、むしろ秋葉から挿入を乞うような目を
向けられもしたのに、志貴はその時点では行っていなかった。
 だから、今も秋葉の余韻の様を、心地よく眺めているだけ。
 それでけでも、満足感はあった。
 美しい肢体、白い肌が紅潮し、喜びに果てた姿態。
 その幸せそうな一瞬に誘ったのは自分自身、それはある意味自分の射精以上
の快感ではあった。

 だが、唇。
 キスし、妙なる声を洩らした唇。
 それがやけに目を引いた。
 知らず、そこを見つめていると疼いてくる。
 股間のペニスが不思議と、脈動を脳にまで伝えて来る。

 秋葉の唇で、口で、舌で。
 俺のものに触れてもらい、舐めてもらい、しゃぶってもらい、そして……。
 初めてではない。
 幾分かの背徳感、あるいは罪悪感すらも起きてくる夢想。
 それが、もやもやと頭に浮かんでくる。
 
 触れてはくれる。
 手で包むように触ったり、指で敏感な部分を弄ったり。
 はっきりとした愛撫の意図をもって、快楽を引き出してくれもする。
 挿入の前だけでなく、ぐっしょりと濡れて、精液と愛液にまみれた姿のそれ
であれ。
 嫌悪感はないようだった。幾分かの抵抗感はあっても。

 でも、手と口ではまるで違うだろう。
 温かさも、柔らかさも。
 でも、秋葉の綺麗な唇に、こんなものを……。

 正面きって頼んだ事は無い。
 断わられるのが恐いから、それもある。
 そもそも自分のこんなものを押し付ける事への畏れもある。
 無理矢理、あるいは自分に対する愛情を過度に利用して言う事をきかせる真
似は、出来なかった。
 それが羞恥であればともかく、嫌悪であればと思うと気後れする。
 でも、一度唇が触れた事があったよな。志貴は思い出す。
 わざわざ思い起こさなくても、あの感激は憶えている。
 恐々と手で触れてくれた秋葉。
 それでも珍しそうにあちこちをと指で探り、反応を見て指を動かす秋葉。
 そして、触れるだけのキスを、先端に。
 不意打ちに体が強張り、どうにかなりそうなほど興奮したのを憶えていた。
 
「秋葉」

 声に出た。足の踏み出し、スイッチを押す行為。
 秋葉の顔が動く。
 兄の名を呼ぶ声、それに嬉しそうな笑みを浮かべている。
 それに幾分かの気後れを味わう志貴。
 しかし、もはや止まれない。
 膝立てになり近づく。
 秋葉の顔に、天に向けていきり立った肉棒が近づく。

「兄さん?」

 意図を計りかねたのだろうか。
 秋葉の声に疑問の色が滲む。

 どう言ったものだろう。
 さすがに迷う。
 いきなりあの唇にてらてらと光沢のある亀頭を突きつける訳には行かない。

「あの……、その…兄さんのものを…その……」

 助けを出すように秋葉が小声でごにょごょと言葉を発する。
 顔は真っ赤になっていた。
 ああ、と志貴は自分を罵る。
 
「秋葉、秋葉の唇で……俺のを、ダメかな?
 嫌じゃなければだけど」

 秋葉は否定するように頭を振りかけ、しかし躊躇いの表情を浮かべる。
 視線は大きな志貴のものを懐疑的に向けられている。

「ごめんな、変な事言って」
「あ、兄さん……」
「うん?」

 ためらい
 探るような顔。
 考えるような表情。
 
「嫌ではないです。ちょっと恐いですけど、兄さんのものですし。
 でも、よくわからないですし、こんな大きなもの口に入るのかなって……」

 申し訳無さそうに秋葉が言う。
 志貴はその言葉に破願していた。
 嫌で拒まれたのではないと、秋葉の様子からわかった。
 それだけでも嬉しかった。だからこその自然な笑み。

「そうだな、いきなりなんて無理だよな」
「はい」

 ちょっと志貴は考える。
 秋葉の唇を見つめて。
 そして、穏やかな口調で秋葉に指示をする。

「そのままで、唇は閉じていていいから」

 秋葉は従う。と言っても、なにをする訳でもない。
 ただ、兄のすることを見て、待つだけ。
 ペニスが下に倒される。
 近づく。
 まっすぐに鮮やかな紅の唇に向け、深紅色の亀頭が。
 秋葉に、秋葉の唇に触れる。

 志貴は深く溜息をついた。 
 軽い接触に底知れぬ満足さを露わにしている。
 柔らかい。柔らかい。柔らかい。
 秋葉の唇にペニスが触れている。
 あれだけためらっていたのが嘘のような志貴の歓喜。
 動かず、触れ合った部分を強く見つめている。
 秋葉もどうしていいかわからないように動きを止めたまま。
 それでも、呼吸により空気が動く。
 僅かに触れている唇が震える。
 志貴自身の男根もまた、強く脈打つ。
 
 このままでも強い満足。
 だが、これだけでは足りないと思うのも事実。
 動きを。
 もっと唇の感触を。
 秋葉を、もっと秋葉を。
 その衝動に、志貴は行動を再開する。

「無理に口に入れたりはしないから。
 嫌だったり、気持ち悪かったら、手で止めて」
「……」

 頷きは無いが、秋葉は目で同意する。
 志貴は動き始めた。
 唇の隙間にあてがわれている先端。
 そのまま突き入れたくなる気持ちを抑える。
 縦の動きとも言うべき挿入ではなく、横の動きを開始する。
 唇のふくらみの作るなだらかな丘陵。その隙間、谷間を進む。
 くちづけの時の甘美なるすべすべの感触が、ふっくらとした感触が、切っ先
を振るわせる。
 行き、戻る。
 左右にペニスが動き、亀頭の先が唇と摩擦を作り出す。

「ああ、秋葉」

 感極まった声。
 声だけではなく、腰がびくんと動く。
 敏感な鈴口への刺激に身を震わせ、つやつやした亀頭をさらに赤く充血させ
ていく。
 想像もしなかった快感だった。
 そろそろと動くだけで、尋常でない甘美な痺れが腰に広がる。
 唇の感触だけでなく、もうひとつ軽やかな快美があった。
 呼気。呼吸による空気の動き。
 鼻から洩れる息。口からも息が洩れる。
 それが、ペニスに触れる。
 亀頭に触れ、雁首をふわりと撫でる。
 ぞくぞくとした快感が、志貴の背筋を走り抜ける。

 飽かず、動く。
 手を添えねばバネ細工のように唇から飛び跳ねてしまうのを、押えて傾きを
保っている。
 押し過ぎぬように、そろそろと動かし続ける。
 まだ準備の整わない谷間に、擦りつけるのに似ている。
 あちらも唇と言えば唇。
 口中には突き入れず、ただ入り口の軟肉に触れて擦られる。
 そんな処は、本当にそっくりだと志貴は感じる。
 違いは……。

「秋葉、少し唾を口から出して」
 
 切っ先を少し離す。
 少し唇を付きだせば、すぐに再開できる程度の隙間。
 わずかに唇を開き、秋葉は息を吐く。
 そんな秋葉に頼む口調で志貴は言葉を続ける。

「キスしてる時みたいに、少し秋葉の唾液を舌に載せてくれるか、唇の隙間に。
 うん、こぼれない程度に」

 ここまで来ては、拒もうという気持ちも起きないのか。
 唇に男のものを擦りつけられる異体験に、頭のどこかが酔ってしまったのか。
 従順に秋葉は従う。
 隙間の開いた唇に動きが起こる。
 少し空気粒の混じった液体。
 今までなかたそれが、泉が湧くように現れた。

 無言で秋葉は志貴を見た。
 どうぞと応えるように。
 声は出せないけれど、兄妹にのみ通じる会話が成立する。
 ペニスを迷わずそこにつける。
 濡れた感触。
 そのまま、唇を滑らせる。
 また、左右にペニスの先が動く。

「ああ、凄い。秋葉……」

 声に驚きが現れている。
 僅かに、摩擦の音すら違うだろうか。
 さっきまでと擦れる感触がまるで違う。
 僅かな湿り気が、大きな変化を起こしていた。

「もう少し、くれる?」

 再び僅かに浮かせる、濡れて先端の色が変わっている亀頭を離す。
 すぼめた口から、とろりと唾液が現れる。
 さっきより量が多い。
 嬉しそうに濡れた唇にペニスを擦りつける。
 秋葉の口から出たものだけでなく、志貴自身が滲ませた粘液も混ざっていた
だろうか。
 さっきより粘音が水気を持っている。
 唇のスリットをペニスが滑るように動く。
 にちゃ、と音がする。
 手で支えていてなお、びくんとペニスが跳ねそうに動く。
 単純な動き、技巧も無いただの往復運動。
 だが、生み出される多彩な快美に志貴は魅惑されていた。
 息のペニスを滑る感触。
 押し返し、擦れ、違方に動く。ほんの僅かな唇の動きが、敏感なペニスに大
きな変化として伝わる。
 そんな行為を受け入れている秋葉の顔。
 決して嫌がってはいない。
 むしろ、と希望的観測で志貴は最愛の妹を見る。
 その最愛の妹を、淫具のように使っている倒錯感を感じつつ。それにちょっ
ぴり悦びを憶えているのを自覚しつつ。
 とにかく、思った以上に惑溺しそうな行為だった。
 このまま続けていたい。そう思った時。

「え?」

 異種の感覚。
 驚きに、忘我の表情の志貴が、止まる。
 はっきりとした何か。

 それは、冷静に判断すれば快感。
 刺すが如き鮮烈な。
 貫かれるが如き激烈な。
 背筋に電気が走り、動きが停止するような、狂気の如き甘い痛み。

 わからない。
 触れた部分を見つめる。そこを見つめる。
 実際に震源となったそこは、正確に何事かを伝えられてはいなかった。
 だから、眼で見る。
 終わった後だけれど。

 また。
 快感が束の間、体中を駆け巡る。
 今度は一部始終を志貴は見た。
 触れるのを。
 自分の肉棒の先に触れるのを。
 唇だけでなく、秋葉の舌が触れるのを。
 自らの意思で秋葉が舌を出してペニスに触れるのを。

 亀頭の裏をなぞる。
 そこが快感に弱い部分だと知ってか。
 裏筋を舌先がかすめ、笠を張る頭の部分をなぞる。
 そして、露を滲ませた鈴口にちろりと触れた。
 何という快感。
 信じがたい姿を目にして思考は止まる。

 それゆえ、制御を失う。
 突然の爆発じみた内からの衝動を抑える術が無い。
 腰がびくびくと動く。
 全ての力を抜き、崩れるように膝を落としてしまいそうになる。

 しかし、志貴は止まった。
 このままではいけない。
 こんな格好のままではいられない。

 ペニスの先は、秋葉に向けられている。
 艶やかな秋葉の顔に向けられている。
 唇に触れ、舌先がまだ覗いている、その口に向けられている。

 このまま身を委ねる訳にはいかない。
 快感の爆発、歓喜の射精。
 頭の中まで溶けてしまいそうに柔々となっているただ中で、唯一硬き存在。
 膨らみに膨らみ、痛いほどに大きくなった股間のモノ。
 それが根本から爆ぜて跳ね回るのを、そのままにはしておけない。

 汚せない。

 秋葉の顔だけは汚す訳にはいかないと、身を引く。
 それと刹那の間が空き、そそり立ったものの先端が膨らみ、弾けた。 
 びしゅびしゅと吐き出される白濁液。
 唇の甘い感触だけで沸騰した精液のどろどろ。
 跳ね上がり虚空に撒き散らせられるべき奔流が、強引に曲げられていた。
 秋葉の首筋、胸の当たりにぴちゃぴちゃと熱い精液が降り注いだ。
 幾分、顎にまで飛び散っている。

 無理を強いたにもかかわらず、快感は尋常ではなかった。
 全て出てしまうのではないか。
 ねばねばとした熱い白濁液だけではなく、体内にあるもの全て。
 そんな事を本気で思うほどの、底の知れぬ放出感。

 ぱたんと志貴は背中から倒れた。
 放心の顔。
 激しい吐精は、一時的に体力と気力とを対価に求めた。
 余韻の深さに、志貴は起き上がれない。

「大丈夫ですか、兄さん」

 代わりに、秋葉が上半身を起こす。
 心配そうな顔。
 体についた飛滴を拭おうともしない。

「ああ。ごめんな、秋葉……、かけるつもりはなかったんだけど」
「わかっています。
 でも、兄さん、そのままでよろしかったのに」

 あっさりと秋葉は言う。
 火のついたように怒り出すか。
 それとも嫌そうな顔で文句を言われるか。
 あるいは思いもよらず泣かせてしまうか。
 少なくとも、秋葉があっさりと受け入れる事など考えも及ばなかった。
 唖然とした顔をして、志貴は秋葉の顔を見つめ、そして左右に首を振った。

「できるか、そんな事」
「どうしてです?」
「だって、顔になんか、嫌だろ、秋葉。こんな綺麗な……」

 顔を俺のものでなどと言いかけて、志貴は言葉を止めた。
 正面きって妹の美貌を口にするのは、気恥ずかしかった。

「では、兄さんはわたしの胸やお腹、それに背中はどうでも良いのですね?」
「え」
「気にせず、いっぱい出してしまわれるではないですか。ぺっとりと。
 それに、外だけでなく、お腹の中にも溢れるほど」
「それは……、秋葉も嫌じゃないだろ」
「ええ。変な匂いで、濃厚でべとべとしたおかしな感触で……。
 でも、決して嫌ではありません」

 嘘ではないですよ、と志貴を見る。
 それ単体は確かにそれほど好ましいものではないかもしれない。
 でも、これは志貴の迸らせたもの。
 それも快感の果て、自分の体や行為とによって出されたのであれば。
 喜びが凌駕してしまう。

「その……、口の中に出されるのは、抵抗がありますけど。
 兄さんはあんなに激しく…ですし、口から溢れるほど出されたらどうしてい
いかわかりません」

 それはそれで正直な気持ち。
 こうした交わり自体が、完全に馴染んでいる訳ではない。
 思うが侭に振舞われれば、心は受け入れようとすれども体がついていかない。
 少しずつ、兄の望む事なら何でもしたいと思うが、時間はかかるだろう。

「でも、これならば」

 己の指を立て、顎についたねっとりとした粘液をこそげ取る。
 垂れ落ちる事無く、指で盛り上がりふるふると震えるほど濃厚。
 それを秋葉は口に運んだ。
 唇の隙間で指を動かす。
 さっきの志貴のように。
 
 今のを模しているのだと志貴は悟る。
 つまり、あの細指は、太い肉幹。
 見ていると、口が開いた。
 ペニスがその隙間に潜る。
 まっすぐに屹立した切っ先が口へ突き入れられる。
 秋葉の口が閉じる。飲み込んでいる。
 もごもごとした動き。

 もちろん、本当にそれを行うのはまだ無理だろう。
 ただ、その意志はある。
 そうしたい。
 言葉でなく秋葉は伝え、志貴はそれを感動すら交えて理解する。

「秋葉」
「兄さん、うん…ふぁ」

 いまだ肉棒での抽送が行われていた口を志貴は自分の口で塞いだ。
 逃げ切れなかった秋葉の指が、横からもぞもぞと動いて抜かれる。
 代わりに忍び寄る志貴の舌。
 絡まりあう。
 今しがたまで兄のペニスである指に這いまわっていた舌が、今度は志貴の舌
を迎え入れる。
 ぴちゃりと絡みあい、互いを求め合う。

 長いキスが終わると、志貴の屹立はその勢いを取り戻していた。
 秋葉は志貴の視線を意識しつつ脚を開いた。
 乱れて淫靡さを増した花びら、その奥が濡れて待っている。
 誘うかのよう。
 拒むつもりなどもとよりない。
 志貴は迷わず切っ先をあてがい、そのままずぶずぶと沈めていった。
 上の口ではまだ出来ぬ事を引き受けようと言うのか。柔らかく志貴を受けと
め包み込む膣口。
 その熱さと甘美さとが体に広がり、志貴の口から呻き声が洩れる。
 秋葉の口からも、小さく甘い歓声が。
 さらに深く、二人の体が結ばれていく……。









「何を思い出していたんです、兄さん?」
「秋葉と同じ事だと思う」

 視線を絡ませあい、言葉を交わす。

「そうですか」
「ああ」
「で、今のはどちらの私が頂いたんです?」

 やや、発声に難がある。
 喋り難そうにしている。
 妙に冷静に、志貴は秋葉の様子を判断する。
 志貴はちょっと考え、誤魔化す事無く答えた。

「両方かな。
 初々しい秋葉のこと思い出して。それから今の姿と……、何より秋葉の口が
気持ちよくて」

 それならいいです、と言うように、秋葉は残っていたものを飲み下した。
 舌と口蓋にねばつく熱い精液。
 二人、回想に浸りつつも、秋葉による口戯は続けられ、志貴は大量の精を迸
らせていた。
 口淫処女であった頃の秋葉と、愛情と悦びに満ちて兄のものをしゃぶる今と
に想いを馳せて。
 秋葉だけではなく、志貴にしても変化はある。
 今では口の中への放出に、微塵のためらいも無い。
 今は、それがどれだけ秋葉のお好みであるか知っているから。

 先端は秋葉の唾液にまみれ、今の射精の残りを先端に残していた。
 志貴は根本を手にして、秋葉に近づく。
 唇に紅を引くように、白で染める。
 可憐な唇に白濁液で化粧をする。
 ほんの悪戯心、しかし秋葉は受け止め、艶然と微笑む。

「綺麗にしますね、兄さん」

 返事を待たずに秋葉は口を開ける。
 あえて志貴は近づかない。前へは出ない。
 秋葉が唇の輪でペニスを包み、奥へと導くのを動かず味わう。
 ねっとりとした舌の動き。
 熱い口中がもごもごと動く。
 しゃぶられ、吸われ。
 確かに、絶頂の跡を清められてはいるのだろう。
 しかし、むくりと秋葉の口の中で鋭さを取り戻す志貴のもの。
 もう一度と望むように、秋葉の口の動きが変わる。

 それもまた、面白い。
 最初とは違った強さ、別の動きで秋葉は志貴を満足させてくれる筈。
 でも、今度はこうやって。
 頭を撫でてやりながら、志貴は自分も腰を動かした。
 志貴自身も秋葉の口を出入りしようとする。
 秋葉は順応し、志貴の動きを邪魔しないようにしつつ、口戯を止めはしない。

「ほんとに、最初は口でしてくれるなんて思ってもみなかったのになあ」

 嫌なら止めますよ、と秋葉が目で語る。
 お願いするよと志貴は軽く腰を突き出す事で答える。
 喉突くような逸物を平然と受け止めると、秋葉の動きが強さと速さを増して
いく。
 それでも、どこか優美ですらある姿。
 快感よりも愛情が露わな為もあるだろう。
 貪るといった感じは無い。あったとしても薄い。
 どれだけ秋葉が貪欲に精を求め啜りこむのか。それを熟知している志貴の目
にとっても。
 
 ああ、やっぱり続けて口の中に出さざるを得ないな。
 そう志貴は苦笑する。
 絡まる秋葉の舌に思わず声が洩れる。それを嬉しそうに舌の這い方に熱が入
る。唇の締め付けが強弱の幅を強くしていく。
 堪らない。でも、もっと欲しくなる。どこまでも秋葉が欲しくなる。
 志貴はさらに秋葉の口腔を味わおうと、動きに合わせて腰を動かし始めた。
 ねっとりと熱く口の中が変化する。
 秋葉の口がさらなる歓迎をし始めた。
 
 口での交わり、口交。
 あるいは口幸。


 了










―――あとがき

 秋葉です。
 とりあえず出来はともかく、秋葉を書いていると幸せなようです。
 あんまり考えずに、筆の赴くまま書いています。
 クリスマスだし、いいでしょう。
 イメージカラーが紅で、誰よりも白い肌、クリスマスっぽい。

 楽しんで頂ければ、幸いです。


  by しにを(2004/12/24)


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