前を向いて、手を伸ばして 作:しにを * この作品は古守久万さんの『右手の痛みは』の続編的SSです。 未読の方はまず こちらへどうぞ。 さらにその前の『あの夏、一番静かな夜』は、こちらの「裏姫嬢祭」へ。 ――――――――――――――――――――――――――――――― 遠野家のお屋敷。 その広い立派な居間。 普段なら遠野先輩をはじめ、琥珀さんや翡翠さん達がいるお部屋。 でも今は、ここにいるのは二人。 ソファーの端に志貴さんは座っている。 柔らかい笑顔。 普段は笑っていてもそんな顔は見せてくれない。 二人きりの時、私にだけ見せてくれる特別の笑顔。 なんでも許してしまいたくなってしまう笑顔。 すごく稀に志貴さんと口喧嘩をした時にも、ちょっと困った顔をした志貴さ んがその笑顔を見せてくれたら、私はすぐに仲直りをしてしまう。 志貴さんが私のことを可愛がってくれて、すごく恥ずかしい事を囁いて、私 が真っ赤になって嫌ですと叫んでも、その笑顔でついつい従ってしまう。 遠野先輩も、琥珀さんや翡翠さんも、この笑顔は見た事がない筈だ。 私だけの、志貴さんの笑顔。 志貴さんは、少しずつ擦り寄っている。 動いているとは感じさせないのに、ふと気がつくとすぐ傍に。 最初は少し離れていたのに、もうお尻や肩が触れている。 あ、髪に触れた。 本当に軽く接触しただけなのに、触れられた方は少し意識してしまう。 志貴さんの手が髪を梳くように動く。 そうしながら志貴さんが耳元に顔を近づける。 二言、三言囁く。 志貴さんの声。 あれを耳元で聞かされると、私はいつも痺れたような快感を感じる。 電話でもそう。 まして直接に息のかかる程の近くで耳を震わせるように囁かれたら、それだ けでどうにかなってしまう。 本当に官能的な声。 志貴さんの表情が、少しずつ変わっている。 口元が、目元が、その瞳が。 普段は優しく、ううん、あの時もとても優しくしてくれるけど、私の事を抱 こうとするその時には、何て言えばいいのだろう、オトコの顔になる。 それじゃ普段の俺は何なのかな、なんて首を傾げるけど、急に男の人という 感じがしてくる。 これから私は志貴さんに食べられちゃうんだ。 そんな甘い痺れを感じる。 どこからでも好きなように食べて欲しい。 そう思って身を震わせてしまう。 今も、志貴さんはそんな、目に微かな欲情の色を浮かべている。 手が肩に触れる。 掌で撫ぜて、抱いてしまう。 そうなるともう動けない。 志貴さんはそうして余裕をもって腕を回して、暖かい抱擁の環で包んでくる。 顔を近づける。 唇を合わせる為に。 甘い口づけを志貴さんは求めている。 私はそうされるとすぐに顔を志貴さんに向けて待つ。 志貴さんの唇を。 あの、ぽうっとなってしまう感触を。 私なら。 そう、私なら。 でも、私ではない。 今、志貴さんの部屋にいるのは。 ベッドに一緒に座っているのは。 志貴さんが求めているのは、私ではない。 朱鷺恵さん。 時南朱鷺恵さん。 志貴さんが私と知り合う前に好きだった女の人。 志貴さんの事を今でも愛している女の人。 志貴さんの初めての―――、女の人。 志貴さんが二人で言葉を交わし、体を抱き寄せてその先に進もうとしている 相手は、私ではなくて朱鷺恵さんだった。 朱鷺恵さんと志貴さんの様子を、私はさっきからこっそりと覗いていた。 ニ三時間前から、この広いお屋敷には自分以外誰もいない、そう志貴さんは 思っている筈だった。 遠野先輩が女の子だけでお買い物する為に出掛けていて、私もそれにお供す ると嘘を伝えてあったから。 本当は、たまには瀬尾と兄さんを二人っきりにしてあげると言って、遠野先 輩は琥珀さんと翡翠さんだけを連れて行ったのだけど、私は志貴さんにそれを 告げずにこっそりと残っていた。 朝、ちょっと抱き締められてキスされて、寂しいなあ、アキラちゃんも行っ ちゃうのかいと志貴さんに言われた時には、思わず私も残りますと答えそうに なった。 けれど、ずっと考えていた事を実行する好機だったから、ちょっぴり後悔し つつも、ごめんなさいしてしまった。 一人でお留守番とあってお出掛けも出来ず、ぱらぱらと本を捲ったりしつつ も、少し暇を持て余している志貴さん。 朱鷺恵さんが尋ねて来たのは、そんな時だった。 予想通り、志貴さんは朱鷺恵さんを上がらせた。 お茶などいれて朱鷺恵さんと話を始めている。 ここまでは私の計画通りだけど、後は朱鷺恵さんに頑張ってもらって、見て いる事しか出来ない。 私の計画。 私が強引に朱鷺恵さんを説得してやっている事、それは志貴さんの朱鷺恵さ んへの想いを確かめる事だった。 誰も邪魔する者がいない状態で、朱鷺恵さんが志貴さんを誘惑したら、志貴 さんはどんな反応を示すだろうか。 もちろん、簡単に朱鷺恵さんの誘いには乗らないだろうけど、脈ありと見え たなら前に言っていた志貴さんと朱鷺恵さんと三人で……、っていうのを実行 に移そうと私は思っていた。 志貴君はそんな事しないわよと朱鷺恵さんは否定したけど、私の真剣なお願 いに、首を縦に振ってくれた。 穏かに話していた朱鷺恵さんと志貴さん。 でも、だんだんと雰囲気が変わっていくのが、言葉も届かない距離の私にも わかった。 朱鷺恵さんの顔が少し穏かだったものから、悪戯っぽい表情に変わっている。 向かい合わせだったのに、隣に移って心なしか志貴さんに寄り添うようにな っている。 志貴さんも少し落ち着かない仕草になって朱鷺恵さんに応対している。 何を話しているのだろう。 時々、朱鷺恵さんの顔が大人のオンナの顔になる。 志貴さんも戸惑いつつもどこか嬉しそうな表情で。 えっ? 今まで受け身気味だった志貴さんが、動き始めた。 身を乗り出して、朱鷺恵さんに何か囁いた。 朱鷺恵さんが驚いた顔をした。 そして。 そして志貴さんは驚くほど積極的に動き始めた。 私が呆然とするほど。 まったく予期しなかった事態。 それを私は離れて見ていた。 志貴さんが朱鷺恵さんとキスしようとしている。 嘘……。 信じられない。 朱鷺恵さんは? 朱鷺恵さんは抵抗していない。 志貴さんを受け入れようとしている。 最終的にはもっと進んだ事を期待していた筈なのに。 私は何も考えられなくなった。 このまま、このまま志貴さんが……。 そう思うと、私はひとりでに二人の前に飛び出していた。 「ダメ、志貴さん。ダメです」 志貴さんは驚いた顔をせずに私を見ている。 「あれ、アキラちゃんは出掛けたんじゃなかったの?」 「残っていたんです」 「ああ、そうなんだ。何をしていたの?」 「何をって……」 なんだろう。 当たり前のように、私達は、いえ志貴さんは普通の会話をしている。 志貴さんにしてみたら、恋人である私の留守中の浮気みたいなものだし、そ うでないにしても突然いない筈の私が現れたら、もっと動揺してもよさそうな ものなのに。 朱鷺恵さんと二人の処に現れたのだから。 「アキラちゃん、あのね……」 朱鷺恵さんが少し困ったような顔。 「気づかれちゃっていたの」 「へ?」 きっと間抜けな顔をしていたと思う。 志貴さんはくすりと笑う。 「アキラちゃんが企んでいたんだろう?」 「ええと、何をですか」 「俺を一人で留守番させて、そして、そこに朱鷺恵さんが訪ねてくる。 誰も夕方まで帰らない状態で二人で過ごしていて、そして朱鷺恵さんが俺を 誘惑するのを、アキラちゃんはこっそりと覗って……、そんな感じかな」 とぼけようとしたが、ダメだった。 ぼかんと口を開けそうになる。 「な、なんで、わかったんです」 「そうだなあ。ちょっとアキラちゃんの行動が不自然だったから、どこか変だ なって思ってたんだ。 俺が残念がってても、普通の顔して留守番してて下さいねなんてあっさり言 い残して行くのは、アキラちゃんの普段の行動じゃないよ」 「あうう」 「それに朱鷺恵さんも、なんだか感じが違うし、少し外の方を気にしているみ たいだったしね。だから、アキラちゃんいるんですかってカマかけたら、正解」 なんで、こんな時には鋭いの、志貴さん。 いつもは……。 「ごめんなさい、アキラちゃん。私も動揺しちゃって」 「私が見てるのわかってたんなら、どうしてあんな真似したんです」 「ご期待にそおうかなって思ってね。そうしたらアキラちゃんが、自分から出 てくるだろうって。朱鷺恵さんにも黙っていてくださいってお願いしてさ」 志貴さんはちょっと悪戯っぽく笑った。 その通りでした。 そして、私がああ、とか、うう、とか声を出しているのをちょっと眺めて表 情を変えた。 真面目な顔、そしてまっすぐに私の目を見つめる。 「ところで、どうしてこんな真似をしたの、アキラちゃん?」 志貴さん、怒っている……? 静かな声だけど、私の背筋をぴんとさせるような声。 空気が硬くなった。 「私、朱鷺恵さんと一緒に志貴さんを愛したかったんです。 朱鷺恵さんは、そんな誘惑なんてしても志貴さんは乗らないわよって言っ ていて、私もそう思っていたけど……。 でも、もしもそれで志貴さんに少しでも応じようとする気持ちが現れたら、 そうしたらって考えたんです」 必死に言葉を引っ張り出す。 一応、登場した時の台詞なんかも考えていたけど、そんなのは今はそぐわな いし、そもそも出てこなかった。 「ああ、そんな事言っていたね、アキラちゃん」 「それが、あんなに積極的に動いて、私、頭の中がぐちゃぐちゃになって……」 なるほどと志貴さんは頷く。 少し目が優しくなった。 「でもね、それは残酷な事だよ。俺はアキラちゃんのことが一番好きだよ。ア キラちゃん以外の女の人は目に入らないくらい。 でも、朱鷺恵さんは特別な人だし、正直心が動かないでもない。何故かはア キラちゃんだけが知っている。それを利用して朱鷺恵さんに誘惑させて、俺を 試したり、アキラちゃんを裏切らせるような真似をさせるのは……。 それは酷い事じゃないかな」 顔が青くなるのがわかった。 不思議と、こじれた事態になる事なんて考えていなかった。 朱鷺恵さんはずっと志貴さんの事が好きで、志貴さんだって朱鷺恵さんへの 想いは残っていて、そのままじゃいけないと考えたら、じっとしていられなく て、でも……。 「ごめんなさい。そんな、志貴さんを試すような真似をしたわけじゃなくて、 ただ私は……」 「志貴君……」 朱鷺恵さんも心配そうに志貴さんに声を掛けた。 でも、志貴さんは黙って私の頭に手を置いた。 少し髪をくしゃっとして、そして微笑んだ。 「少し言い過ぎた。わかっているよ。アキラちゃんは、俺と朱鷺恵さんの為に 考えてくれたんだろ。 本当は、もう昔の人の事なんか忘れて下さい、もう会ったりしないで下さい って言っても良かったし、そう泣いて頼まれたら俺は従ったと思う。 でもアキラちゃんは、そうしないで自分なりに二人の事をいろいろ考えてく れたんだよね」 「私、志貴さんが好きになった人には、そして志貴さんを好きな人には幸せに なって欲しいんです。志貴さんを好きな人は他にもいるけど、朱鷺恵さんは特 別だから」 必死で強く言った。 上手く伝えられないけど、これはいろいろ考えてはっきりさせた私の気持ち だから。 「でも、だからと言ってこういうのは……、アキラちゃんは本当にいいの? その、無理やり三角関係を作ってると言うか……」 「はい。志貴さんに私だけでなくて朱鷺恵さんも愛して欲しいんです」 「朱鷺恵さんは、いいの? こんな……」 朱鷺恵さんは頷いた。 「もう、志貴君のことは諦めていたと思っていたんだけどね。志貴君の可愛い、 お節介な恋人さんが、それは私が自分についている嘘だって思い知らせてくれ たの。 志貴君は、私のこと少しでも好きでいてくれる?」 「朱鷺恵さん……」 「あれから長かったから、そろそろ整理したいな。 ずっと志貴君のことを想うのもいいかなって、そうも思ってもいたけど、志 貴君にはアキラちゃんていう素敵な恋人さんが出来たしね。 私のせいでアキラちゃんと志貴君に影を射すのは、正直、嬉しくないな」 朱鷺恵さんの静かな声。 私と志貴さんはじっとそれに耳を傾けた。 「どちらに転んでも昔の事はとても大切な思い出にして、新しい一歩を踏み出 したいの。 志貴君のことを昔好きだった人として諦めて、一生大事にする想い出に出来 るなら、それはそれでいい。 だから、私は志貴君にもう一度抱いて欲しい」 朱鷺恵さんはそう言って口を閉じた。 じっと志貴さんを見つめている。 少しだけ、痛みを感じているような顔をして。 後悔もあるのだろうか、ずっと隠していたものを外に出してしまった事への。 そしてまた口を開く。 志貴さんの目に何か見たのだろうか。 ほんの少し顔が柔らかくなっていた。 「もし、やっぱり志貴君の事が好きなんだって思い知らされたら、諦め切れら れないって悟ったら、そしたらそれでもいい。 そうなったら正々堂々とアキラちゃんに勝負を挑むわ。 アキラちゃんもそれでいいんだよね?」 「はい」 私は大きく頷いた。 志貴さんは、朱鷺恵さんと、私の顔を見て言った。 ゆっくりと一言一言を噛み締めるようにして。 「わかった。離れに行こうか。そちらの方がいいと思う」 まだ日が照っている中。 お布団を引いて準備を整える。 誰も見る者などはいないけれど、戸も何も閉めきって密室を作り出す。 そして、自分の支度をした。 と言ってもするのは、着ている物を脱いでしまうことだけ。 みんな無言で体を動かした。 志貴さんはやっぱり早い。すぐに全部脱いでしまった。 そして志貴さんは私たちを見つめた。 私と朱鷺恵さんが志貴さんの前で一枚一枚着ているものを脱いで、肌を晒す のを無言で眺めていた。 準備が出来て、申し合わせたように二人で並んで、志貴さんを待った。 そう、志貴さんの選択を待った。 志貴さんはどっちに目をやったらいいのか困っているようだった。 見慣れた私よりは、朱鷺恵さんの方を見たいけれど、そうすると私に文句を 言われるのではないかと躊躇するという葛藤があるみたいだ。 私の事を気にしてくれるのは嬉しいけれど、どう見ても朱鷺恵さんに向ける 視線の方が多い。 仕方ないとは思う。 だって、朱鷺恵さんの体、私から見ても凄く綺麗だ。 胸とかお尻とかまだ成長途中なんだから、大人の朱鷺恵さんと比べるのはそ もそも間違いなんだけど、それだけでなくて。 単純に大きな胸とか形のいいお尻とかが女の私から見ても綺麗だというだ けでなくて、そこから匂い立つような大人の女性の魅力が漂う。 本当に溜息をつくような艶かしさ。 前に遠野先輩とお風呂に一緒に入った事があって、遠野先輩は信じられない ほど胸は小さくて、もしかして私の方が勝っているかなと思ったりもした。 だけど、その滑らかな肌は綺麗で、それに貧弱な筈の胸も背中の線も何も息 を呑むほど色っぽくて、私はドキドキしながらちらちらと、先輩が体を洗うの を眺めていた。 それに近い感じかな。 遠野先輩の体と比べたら、朱鷺恵さんにずいぶんと失礼かもしれないけど。 ……なんだか私、凄い事を言っている気がする。 「二人の愛し合うところ、見せて欲しいな」 朱鷺恵さんが微笑んで言う。 そうだろうな。 いきなり、というのは朱鷺恵さんも抵抗があると思う。 頷いた。 そして志貴さんと目を合わせる。 わかったよ、と志貴さんは目で答えて、私に手を伸ばした。 「おいで、アキラちゃん」 朱鷺恵さんの目を感じながら、志貴さんと唇を合わせた。 これだけでも、恥ずかしい。 でも、志貴さんの唇の感触を感じていたら、少しだけ頭の中のものが消えて いった。 ねっとりとした舌の動き、それだけに心が奪われる。 酔い、そして少しだけ落ち着いた。 ちゅぷっと舌を絡めたまま唇を離す。 息が少し乱れている。 どうしよう。 また戸惑いの気持ちが少し起こる。 いつもなら考えないような事、どうしようかなとか、変じゃないかなとか、 朱鷺恵さんの視線を感じて手順なんて事が頭をよぎる。 そんな事、最初から承知して朱鷺恵さんと志貴さんと一緒にと計画したとい うのに。 結局、私は志貴さんをすがるような目で見てしまった。 志貴さんは、いざ私と始めてしまうと戸惑うような表情は残していなかった。 内心はわからない。 私と初めての時も、心の中では本当にいいのかなっていう不安とか、私を傷 つけちゃいけないっていう怖れもあったと、後で教えてくれた。 凄く頼りがいがありましたよって言ったら、女の子の方が不安なんだから男 としてはそういうの見せないで安心させてあげないといけないだろうって言っ てたっけ。 今もそうなんだろう。 私は受け身で、志貴さんはリードする側で、おまけに朱鷺恵さんとの事を誰 よりも意識しているのは志貴さんだ。 緊張して、心の中はいろんなものが渦巻いているに違いない。 でも、そんなものは見せていない。 私と、朱鷺恵さんの為に。 もう一回、キス。 そして唇をついばんで、耳に舌を伸ばす。 耳たぶを舌先で舐めて、唇で挟むようにして噛む。 くすぐったい、それでいてじんわりとした甘い感覚が起こる。 耳たぶだけでなくて、耳に濡れた感触が走る。 穴にもちろちろと舌がくすぐりに入る。 そうしながら、志貴さんは体勢を変えた。 向かい合わせに正座をするようにして抱き合っていた格好から、志貴さんは 背中を支えながら、私の体をベッドに寝かせた。 その間も舌は休まず、私は小さく押し殺したような声を洩らしていた。 志貴さんの手が胸に伸びた。 さわさわと触れるだけの軽い動き。 手を広げて全体で胸を包むようにして、柔らかくさすっている。 それだけでも声が洩れる。 と、志貴さんの手が止まった。 あれ、と言う顔で私をちらりと見る。 そして、人差し指を折り曲げて胸の先を突付いた。 指の腹で引っ掛けるようにして。 「あっ、んふぅ」 少し大きな声を洩らしてしまった。 志貴さんがにやっと笑った。 あ、嫌な予感。 「アキラちゃん」 「は、はい」 「まだ何もしていないのに、こんなになってるよ」 言いながら、爪で軽く掻くように動かす。 また、声が洩れる。 「アキラちゃんはいやらしい女の子だね。朱鷺恵さんに見られて緊張して萎縮 するどころか、興奮してもう乳首を硬く尖らせているんだ」 「そんな」 「ふうん、違うとでも言うの? ここは正直だよ」 周りの部分ごと摘まれる。 痛くはない。 けれど、そこが急に熱を持ったように熱くなる。 少し搾られるように押されて、乳首が前にせり出すように強調されている。 そうすると一目瞭然。 そこはもう、硬くなっている。 既にキスする前から、こんなになっていた事がわかってしまう。 自分ではわかっていたけれど、志貴さんに事実として見せつけられ、そして 朱鷺恵さんにも見られてしまっている。 胸全体への愛撫が変わった。 乳首への一極集中の動きに。 指で転がすように、摘むように。 その度に喘いで、乱れてしまう。 まだ、ほんの少し胸を責められただけなのに。 朱鷺恵さんはどう思っているだろう。 「やっ、はぅぅ、んんんッッ……」 指だけではなく、いきなり乳首をキスされ、口に含まれた。 さんざん弄られ、敏感になっているから、ほんの少し唇で挟まれ舌が擦った だけで、信じられないほどの快感。 声と一緒に涙もこぼれる。 志貴さんは私の反応を見ながら、耐えがたくなる少し手前まで乳首を責めた。 指で強く潰しながら、一方を優しく舌でちろちろとさせたり。 逆に痛いほど吸い付きながら、指の腹で乳首の先端のすこし窪んだあたりを 羽で撫ぜるように軽くくすぐったり。 なんだか、いつもと違う。 いつもなら、最初はもっとそっとしてくれるのに。 なんだか、少し強い気がする。 確かに気持ちはいいけれど、体についていけてない。 志貴さんは胸をさんざん責めてから、手を離した。 荒くなった息を隠そうとしている私を志貴さんは見た。 そして……。 志貴さんの指が胸からお腹へと滑る。 そしてぴたりと閉じている太股の間に忍び込んだ。 ぎゅって力を入れたけど、志貴さんは平気で指を伸ばす。 「あーあ、こっちももうこんなにぐしょぐしょに濡らしてる。 アキラちゃんて本当にえっちな女の子だな。 ねえ、朱鷺恵さん?」 「そうね、感じやすいものね、アキラちゃんは」 ああ、酷い。朱鷺恵さんまで。 でも、志貴さんの言葉を裏付けるように、誤魔化しきれないほど濡れてしま っている。 恥ずかしい。 そう思えば思うほど溢れてくるのがわかる。 太股を閉じたところに溜まって、志貴さんの指がぴしょびしょになっている。 そして、志貴さんの興味は胸からそちらへ移ったようだ。 舌でぺろりと乳首を責めながら、両手で私の太股を開いてしまう。 無理やりではないけれど、ちょっとの抵抗を構わず力を入れて。 私のはしたなく濡らしたところが晒される。 視線を感じて、ひくひくと動いて。 恥かしい……。 志貴さんの指が開いた股間を探る。 どこもかしこも濡れていて、志貴さんの手もねばつく愛液にまみれて光って いる。 いつもみたいに念入りに、いろんなところを弄らないで、陰核の包皮をつつ いて、花弁を指でそよがせると、志貴さんは迷わずに膣口へ指先を動かした。 「アキラちゃんはキツキツなのに、平気で指を呑み込むものね。 ほら、こんなに涎を垂らして、もの欲しそうにして」 やだ、そんな言い方。 いつもはこんな事言わないのに。 でも、間違っていない。 ああッッ。 いきなり、んふぅぅぅッッ……。 志貴さんはつぷりと人差し指を膣に挿入した。 濡れきっている指はあっさりと沈む。 いつもなら、指一本でも少し異物感を覚えるのに、今は全然ない。 志貴さんの指を何の抵抗もなく受け入れていた。 ゆっくりと出し入れする。 スムーズだ。 くちゅという小さな音が、凄く恥ずかしい。 「ほら、二本め」 「あ、やだ……」 止める間もなく、中指も潜る。 苦もなくそれを受け入れる。 凄く、キモチイイ。 二本ともなるとけっこうきつくて膣口も開かされるのに。 全然、平気だ。 朱鷺恵さんの目。 直接視線は合わないけど、志貴さんの指が出入りするところに向けられた視 線の熱さを感じた。 それで、頬がかあーっと熱くなる。 こんなあっさりと志貴さんの指を受け入れて、そして喘いでいる私をどう思 っているだろう。 いくらなんでも、変だと思われていないだろうか。 いつもは、いつもはこんなじゃないのに……。 「指だけじゃ足らないかな、アキラちゃん」 熱くなりつつも、少し醒めてもいる。 そんな私に気づかず、志貴さんはさらにエスカレートする。 顔を寄せて、耳元で囁く。 逆らえない、体に響く声。 じゅぷじゅぷと出し入れしていた指の動きが止まる。 物足りない。 二人きりなら、はしたなくおねだりするけれど。 朱鷺恵さんの前では、そんなの……。 志貴さんを見る。 ダメだ。 私から懇願の言葉を口にするまでは、続けてくれないみたい。 さあ、早くと目が促している。 「お願いします、志貴さん」 「うん、何をお願いするのかな?」 ああ、素直に続けてはくれないんだ。 仕方なく、でもそんなあからさまなおねだりを言わされる事に、少しどきど きとした熱さを感じながら、私は言葉を続けた。 「志貴さんのを……、私の中に下さい」 「もっとはっきり言わないとわからないなあ」 「わ、私の……」 口ごもる。 さすがに、朱鷺恵さんの前で露骨には言えない。 でも志貴さんは許してくれない。 私の愛液で濡れた指で、自分のを押さえて私に見せつけるようにしている。 これが欲しいなら……、そう言っている。 欲しい。 アレをいれて欲しい。 体が疼いている。 指だけでなくて、アレが欲しい。 でも、朱鷺恵さんの前でそんな……。 ああ、あんなに大きくなっている。 それに先っちょを濡らしていて。 おねだりしなくちゃ。 このままじらされたら、変になっちゃうよう。 つづく ――――――――――――――――――――――――――――――― |