私の次には朱鷺恵さんは志貴さんと唇を重ねた。
 体を起こして私はそれを眺めて、それから朱鷺恵さんの中から出たままにな
っている志貴さんのものに気がついた。
 途中で体位は替えていたけど、ほぼ入れたままで二回も朱鷺恵さんの中で射
精した志貴さんのものは、小さくなっていた。

 這いよって、それに手で触れた。
 掌に乗せてみる。
 こうなると、さっきまで私や朱鷺恵さんを貫いて絶頂を迎えさせてくれたも
のだとは信じられないほど可愛らしい。
 でも、さすがにどろどろで凄い状態。
 綺麗にしてあげようと思って、ぺろっといつものように舐めた。
 少しむっとする匂い。
 オトコとオンナの混ざった匂い。

「あ、アキラちゃん」

 え、何だろう。
 少し慌てた志貴さんの声。

「あの、アキラちゃん、平気なのかな?」

 今度は朱鷺恵さんまで。
 ちょっと変わったものを見る目で私を見ている。
 あたりまえの事と思っていたけど、こうやって終わった後で男の人のものを
綺麗にするのって、もしかしておかしな行為なんだろうか。

「私ので汚しちゃってて、アキラちゃんにそんなの舐めさせるの……」

 朱鷺恵さんが恥ずかしそうに言葉を続けた。
 あ、そうか。
 自分で汚しちゃったものじゃないんだ。
 言われるまで全然意識していなかった。
 ええと、どうしよう……。

 ちょっとだけ迷って私は舌の動きを再開した。
 ここで止めるのもかえって気まずい感じだし、実のところ抵抗はほとんどな
かった。
 朱鷺恵さんの谷間を舐めるとなればもっと躊躇するけど、あくまでこれは志
貴さんだし。

 それ以上は朱鷺恵さんは何も言わなかったし、志貴さんも私がしやすいよう
に足を開いてくれた。

 する事自体は平気だけど、朱鷺恵さんの視線を感じて凄く恥かしい。
 さっきの繋がっている所を観察されたのも恥かしかったけど、あれは志貴さ
んが動いて私は受身でいられたから、まだ良かったけど。
 お口でするのは、完全に私の行動だ。

 てっぺんを舌先で舐める。
 まだ染み出てくる。
 唇を直接つけてちゅっと吸った。
 中からとろりとしたものが出てくる。
 
 美味しくはない。
 でも、いつもだと嬉しい。
 志貴さんが愛してくれた証で、喜んでくれたことの結果だから。
 だけど、これは朱鷺恵さんを愛して、朱鷺恵さんの体に気持ち良くなったか
らの訳で、少し複雑だった。
 でも、志貴さんを上目遣いで見ると、私が舐めるのを嬉しそうにしているの
で、とたんに私も嬉しくなってしまった。
 舌を動かす。
 上から下へぬめぬめと這わせて、また戻る。
 そうやってどろどろの粘膜を舌で清める。
 いつもと少し匂いが違う。
 これが朱鷺恵さんなんだなと思うとなんだかどきどきする。
 嫌だという気持ちはまるで起きなかった。

「そうやってアキラちゃんは志貴君にしてあげてるんだ。志貴君喜んでくれる
ものね」

 独り言のような朱鷺恵さんの呟き。
 朱鷺恵さんも志貴さんにこうした事あるのかな。
 そんな事を思いつつ、舌を動かす。
 
「アキラちゃん」
「なんですか」
「舌だけでなくて、その……」
「はっきり言ってくれないとわかりませんよ」

 指で先端を擦りながら、少し意地悪を言う。
 さっきのお返し。

「アキラちゃんの口に入れさせてよ、俺のやつ」
「はい」

 口を大きく開けて志貴さんを一杯に呑み込む。
 大きくなったのを頬張るのとは違った悦びがある。
 こうして、だんだんと口の中で膨れ上がるの何ともいえない嬉しさ。
 ゆっくりと頭を前後に動かす。
 いったん、引き出して唇にかかるひっかかりの処で止める。
 そしてまたできるだけ奥まで呑み込む。 
 唾液が洩れてくる。
 幹を支える手に垂れ落ちる。

 左手で、志貴さんの揺れる睾丸を軽く握った。
 おかしな感触。
 でも、ここを転がしたり、ほんの少し軽く握ると志貴さんはびっくりするく
らい喜んでくれる。
 
「ああっ、アキラちゃん、気持ちいい」

 女の子みたいに声をあげる。
 いつもならもっと熱を入れるところだけど、今は反対に動きを止めてしまう。

「え?」

 だいぶ名残惜しいけど……、口を開いて頭を後ろへ動かす。
 てらてらと光って、今にも射精してしまいそうになっている姿を現す。

「アキラちゃん、なんで?」
「朱鷺恵さんの番です」

 朱鷺恵さんは驚いた顔をして、でも私の促しに従ってくれた。
 私の横に並び、志貴さんの回復したものを一緒に見つめる。

「アキラちゃん、凄いのね。志貴君、本当に気持ちよさそうだったし、もうこ
んなにして」
「今度は朱鷺恵さんがするんですよ」
「うん、でも初めてじゃないけど、多分今のアキラちゃんみたいじゃなくて、
ぎこちないと思うの。
 今見せてくれたみたいにするけど、おかしかったら教えてくれるかな、どう
したら志貴君に喜んでもらえるのか」
「はい」

 先に、アドバイスした。
 こんなずっと年下の女の子が大人の女性に、教えるなんて変。
 それも志貴さんのを、その……、咥えて気持ち良くしてあげる方法なんて。
 でも朱鷺恵さんは真剣に聞いていた。

 朱鷺恵さんと場所を替わり、今度は私が横からそれを眺める。 
 まだ、志貴さんの精液とか、私と朱鷺恵さんのどろどろしたものは全部は取
れていない。
 加えて私の舐めた跡が濡れ光っている。
 朱鷺恵さんはまったく気にする事無く舌を伸ばした。
 ぺろりと裏側から志貴さんの膨らんだところを舐める。

 前に志貴さんにお願いされて初めてフェラチオをした時の事を思い出す。
 私だって、そういう知識はあったし、志貴さんのためなら喜んで出来た。
 でも、実際始めると、口に入れるには大きすぎたし、上手く出来なかった。
 歯が当たって志貴さんに悲鳴を上げさせたりしたし、正直な所、ただ口に咥
えただけという有り様だった。
 でも志貴さんはとても喜んでくれた。
 それから少しずつコツを覚えて、唇や舌で志貴さんを気持よくさせてあげら
れたし、お口で志貴さんが出すのを受け止める事も出来るようになった。

 自分では少し上手くなったかなと思っていたら、志貴さんが何か言いたそう
な顔で私のことを見つめていた事がある。
 気持ち良くないですかって訊いたら、凄く気持ち良くて、それで複雑な気持
ちになっちゃった、そんな風に答えていた。
 痛いだけでなくてアキラちゃんが感じてくれて、一緒に気持ち良くなってく
れたのは嬉しいんだけど、こういうのに慣れて上手くなっているのを見るとち
ょっと複雑だよ……。
 まだこんな事教えないでも良かったかなって少し後悔している、そう言った。
 でも、下手くそで志貴さんばかりに良くして貰うのは嫌だし、私が喜ばせて
上げられたら嬉しいけどなあ、って言ったら頭を撫ぜてくれて。
 それも嬉しいけど、アキラちゃんが一生懸命、本当に愛情を込めてしてくれ
るのが凄く幸せなんだよと志貴さんは言ってキスしてくれたっけ。

 それがわかる。
 朱鷺恵さんは志貴さんのを咥えてゆっくりと顔を上下させている。
 初めてでないと言っていたし、私の実演講座が少しは役に立っているのか、
少し戸惑いながらも口戯を行っている。
 頬が少し動いていて、舌も動かしているのかなとわかる。
 でも、そんなことよりも。
 朱鷺恵さんの表情、見ている私にも伝わってくる想い。
 志貴さんのモノを朱鷺恵さんは凄く幸せそうに、嬉しそうに唇と舌とで触れ
ている。
 愛しそうに、ゆっくりと、その全ての感触を逃さないというように。
 志貴さんも、気持ち良さそうに、そしてとても感激して朱鷺恵さんに身を委
ねている。
 
 見ているこっちがどきどきしてしまうような口での行為。
 さっきの志貴さんと朱鷺恵さんの交わっているところも凄かったけれど、こ
うしている二人の姿も負けず劣らずだった。

 志貴さんの表情。
 わかる。
 私には見せない表情。
 甘えるような表情。
 私にも甘えてくる事はあるけれど、あんな顔はしない。
 私と志貴さんでは私の方が年下だし、朱鷺恵さんのような包容力も無いから。
 少し悔しい。
 でも、穏かに見ていられた。
 慈しむような朱鷺恵さんの動きと、全てを委ねて無防備ですらある志貴さん
の顔を。

 ゆっくりと朱鷺恵さんの口から、志貴さんのモノが出た。
 大きくなって、反り返っている。
 見ているだけで火のついた私の体は疼く。

「まだ、出来そうね、志貴君?」
「はい」
「じゃあ、アキラちゃんを」
「いえ、朱鷺恵さんが」

 正直、志貴さんが欲しくないと言えば嘘になるけど、私は先にして貰ってる
し、その後で朱鷺恵さんにもイカせて貰った。
 それで、かなり満足はしている。
 朱鷺恵さんは、実質一回されただけだし、ずっと志貴さんとは……。

「優しいのね、アキラちゃん。なら、甘えさせてもらって、二人で志貴君に可
愛がってもらいましょ」

 そう言いながら朱鷺恵さんは四つん這いになった。
 
「アキラちゃんも。ね?」
「あ、わかりました」

 私も朱鷺恵さんに倣って横に並んだ。
 志貴さんにお尻を向けて。
 そして申し合わせたように少し体を動かした。
 
 志貴さんが息を呑んで見つめているのがわかる。
 凄い眺めだと思う。
 だって、こんなに高々とお尻を上げているのだもの。
 柔らかい白いお尻のライン、恥ずかしいお尻の穴、充血した谷間も何もかも
隠す事無く志貴さんの視線に晒されている。
 志貴さん自身が貫き、広げ、こねて、ぐちょぐちょにした様子。
 蕩けるほど濡らして志貴さんが出したものをこぼした様が見て取れるのだ。
 それも一人でなくて、朱鷺恵さんと私がお尻を並べている。

「志貴君、見てるだけで満足なの?」
「そうです、二人してこんなに切なくなって待っているんですよ」

 たまらず志貴さんがにじり寄る。
 あ、お尻に手が触れた。

「そうだな、じゃあ、今度はアキラちゃんの番だから」

 言いながら志貴さんは私を後ろから貫いた。
 凄い。
 まだ冷め切らない体が一気に高まる。
 こんな格好で後ろから挿入されるのは、他の体位とは全然違う。
 志貴さんがもっと強く突き入れて、もっと激しく動いたら、あっという間に
イッてしまったと思う。
 でも、幸か不幸か、志貴さんはゆっくりと動いている。
 私の中の感触を味わっているようにゆっくりと。

「アキラちゃんの中、きつくて、でも柔らかくて、最高だよ」

 そう言ってニ三回抽送を楽しんで、志貴さんは抜いてしまった。
 くびれが完全に膣穴から出る時の感触に、私は身震いした。

「今度は、朱鷺恵さん」

 息を荒くして、首を曲げて志貴さんを見る。
 ああやって、ゆっくり挿入したんだ。
 ゆっくりと、でも奥まで入れている。
 入れる時より少し早く後ろに引いて、また突き入れる。
 数回そうしてから深く挿入すると、志貴さんは朱鷺恵さんの腰を抱くように
して目をつぶった。
 動かないが、その顔は気持ちよさそうだ。

 あ、唐突に気づいた。
 今、志貴さん、私と比べている。
 朱鷺恵さんと私の中の感触を、比べている。
 だからゆっくりと動いていたんだ。
 なんだかどきどきする。

「朱鷺恵さんの中も凄いよ、締め付けてきて熱くて……」

 うっとりしたような志貴さんの声。
 私と比べて、どうなんだろう。

「どっちがキモチイイかな、志貴君?」

 朱鷺恵さんが突然口を開いた。
 わ、凄いこと訊くなあ。
 でも、ちょっと興味は……、どっちかな?

「……そんなのわからないよ、どっちもキモチイイもの」
「よかった。ね、アキラちゃん?」
「え、は、はい」

 朱鷺恵さんが私を見て、くすりと笑った。
 顔に出てたのかな。
 私の気持ち。

 え、んんんッ、ふッ……。んんんんッッ。
 照れ隠しのように、いきなり志貴さんが入ってきた。
 さっきより熱い。
 さっきより速い。
 ああ、もっとされたら、耐えられなく……。
 あんん。
 抜かれちゃった。

 今度は朱鷺恵さんが小さく悲鳴を上げた。
 朱鷺恵さんの感じている顔、可愛い。
 もっと我慢しないで声を出せばいいのに。
 こんなに、耳に響いて、頭を溶かしてくれるんだから。
 きっと志貴さんも同じ気持ちだろう。
 
 あ、志貴さん。
 ずぶりって入ってくる。
 鶯の谷渡り、とか言うんだっけ。
 こうやって、二人同時にするのって。
 なんで、こんな事知っているんだろう、恥ずかしい。
 はぁぁ、抜かれちゃった。

 志貴さんはそうやって私と朱鷺恵さんを交互に可愛がってくれた。
 突き入れて、優しくしてくれたり、激しくしたりして、膣を擦り上げる。
 そうして、すっと離れてしまう。
 でも、まだ今しがたの感触が残っているうちに、戻ってきてくれる。
 ほとんど絶えず志貴さんに入れられているみたい。
 ずっと志貴さんを感じていられる。
 横を見ると朱鷺恵さんも、直接的な肉体の悦びを露わにした顔と、余韻に浸
り酔っている顔を繰り返し見せている。

 志貴さん、こんなにしてくれて、大丈夫かな。
 凄い運動量だけど。
 そんな心配をしかけても、その思考はすぐに霧散する。
 志貴さんの動きで、何も考えられなくなる。
 あんん。
 両手でお尻に手をかけて、左右に開いている。
 やだ、そんな事されるとお尻の穴が開いちゃうよう。
 ふあ。
 指で弄っている。
 そんなところ、いやだ、んんんッッッ。
 指とあわせて突き上げられると、じんじんと響いて、凄い。

 こんなにされたら、もう……。
 離れちゃった。
 ああ、ダメ、戻れない。

「ああ、そろそろ限界だよ」

 志貴さんも?
 ああ、朱鷺恵さんももうそろそろみたい。

「志貴君、もう我慢できないなら、アキラちゃんに……」
「だめです、朱鷺恵さんにしてあげて下さい」
「もう、アキラちゃんは。うん、じゃあ一緒に……」

 朱鷺恵さんが私の体を抱き締めた。
 え、な、何を。

 足が絡んでくる。

「ひゃん、ああ、ダメ、擦れて……」

 まったく未知の快感。
 ひくひくとなっている私のあそこが擦られていた。
 熱くて濡れたもの。
 舌で舐められる時の感触ともまた違う。

 朱鷺恵さんの秘裂。
 その花弁が、少し斜めに体を傾けて私のものに密着している。
 位置を合わせようと動く度に、ぬめぬめと擦れてしまう。

「志貴君」
「は、はい……」
「これなら、同時に二人をお相手できるでしょう」
 
 志貴さんが唾を飲み込んでいる。
 それも口の中がカラカラになっているように、何度も何度も。

「興奮して、触れただけでイキそうだよ」

 その言葉のとおり、手で押さえているけど志貴さんのペニスは驚くほど張り
詰めて、びくびくと動いている。
 本当に、もう限界が近いみたい。

「挿入するよ、アキラちゃん、朱鷺恵さん」

 触れた。
 挿入された感覚とはまるで違う。
 でも、擦りあげられて、悲鳴をあげそうな快感が湧き起こった。

「なんだ、これ。柔らかく絡み付いて、気持ちいい、うぁっ」

 志貴さんもほとんど悲鳴のように声をあげる。
 それでいながら、体は動きを早める。
 少し体勢が悪いのか、いろいろと体の向きを変えながら。
 すると志貴さんのも抽送しながら。捩れたり、違う部分が私と朱鷺恵さんを
擦り上げたりして、次々と違った快感を与えてくれる。

 私はひしと朱鷺恵さんにしがみついた。
 そうしないとどうにかなってしまいそうだった。
 朱鷺恵さんも、私を抱き返す。

「あああ、気持ちいい。
もう、出すよ、アキラちゃん、朱鷺恵さん、んッッッッッ」

 志貴さんが叫んだ。
 志貴さんのモノが強く引き抜かれ、そして今までより早く突き入れられた。
 花弁を捲り上げ、敏感な陰核をこすり上げながら。
 そして、びくんびくんとした脈動を伝えた。
 志貴さんが朱鷺恵さんと私に向かって弾けさせた。
胸と、肩や顎にも少し飛び散った。

 その志貴さんのオトコの匂い、下半身に受けた鋭い快感、上半身に伝わる朱
鷺恵さんの柔らかさとあたたかさ。
 私も叫んでいた。
 ううん、志貴さんと私だけでなくて、朱鷺恵さんも。
 三人で、絶頂を迎え、その幸せを共有しあった。







「凄い勢いだったね」
「本当ですね」

 折り重なってじっと余韻に浸っていた。
志貴さんが身を離し、私と朱鷺恵さんも少し物憂げに抱擁を解いたのはしば
らく時間が経ってからだった。。
 さすがに立て続けに四回もしたので、最初のよりも水っぽいけれど、たっぷ
りとした量の志貴さんの出したものが私と朱鷺恵さんを白く染めていた。
 お腹と、胸の方まで飛んでいた。 
 志貴さんの下半身も私と朱鷺恵さんのでびしょびしょになっている。

「お布団もこっそり綺麗にしないと……」
「それに、志貴君もアキラちゃんも凄い状態よ。お風呂入らないと」
「朱鷺恵さんだって」

 本当にこれじゃタオルで拭くくらいじゃダメだ。
 そんな事をしても三人分の淫香を体に塗り込める役にしか立たない。
 全部洗い流さないと。
 母屋までこのまま戻るのも抵抗があったので、ここのお風呂にする事にした。
 
「こんな事もあろうかと、さっきお風呂の準備はしておきました」
「気が利くね、アキラちゃん、じゃあ少し沸かし直せばOKかな」
「三人一緒には無理よね、志貴君良かったら先に入って。私はアキラちゃんと
一緒に入りたいから、私達はその後でいいわ」
「わかりました。じゃあ、なるべく早く出るから」
「いいですよ、志貴さん、ゆっくりつかって下さい」

 何とはなくわかった。
 朱鷺恵さんが志貴さん抜きで、私と話をしたがっているのは。
 志貴さんもそれを察したのだと思う。
 そうでなければ、私達に先にお風呂に譲ろうとしたと思う。

 志貴さんがいなくなると、思ったとおり朱鷺恵さんは口を開いた。

「ありがとう、アキラちゃん。いいの、まずはそう言わせて。
 でも、アキラちゃんは良かったの? 志貴君の中の焼けぼっくいに火がつい
たりするって思わなかったの?」
「思いました。でも……」

 どう言ったらいいだろう。
 次の言葉が出てこない。

「でも、何かな。アキラちゃんの方が若いし可愛いから、こんなずっと年上の
女なんかには負けない自信があったのかな?」
「そんな事ないです。朱鷺恵さん綺麗で、凄く女の私から見ても魅力的です。
きっと志貴さんにとっても同じです。
 だから、朱鷺恵さんには、昔の事をそのままで引きずらないで欲しかったん
です。
 朱鷺恵さんみたいな素敵な人が、昔の志貴さんにとらわれてしまうのはダメ
です。絶対に。
 他の人、いえ志貴さんを愛するのなら、それでもいいんです。ただ、それな
ら今の志貴さんを愛して欲しいんです。昔の思い出の志貴さんではなくて」

 朱鷺恵さんに向けて叩きつけるように喋った。
 一度口を開くと、どんどんと言葉が自然に出てきた。
 もっと違った言い方、違った言葉を言いたかった気もするけど、きっとこれ
が私の中の想いだ。
 志貴さんにも言ったように、志貴さんを好きな人には幸せになって欲しい。

「……そうね」

 言葉は、短かいが、朱鷺恵さんは頷いた。
 はっきりと、肯定の意味を込めて。

「じゃあ、しばらくは甘えさせてもらおうかな。ずっと一人で寂しかったのは
本当だし。
 それにね……」
「え?」

 あ、唇が近づいて。
 優しいキス。

「アキラちゃんが凄く可愛いから。
 志貴君より素敵な人が見つかるまでは、アキラちゃんにも甘えちゃおうかな」
「え、……はい、わかりました。いくらでも甘えてください」

 何を言っているんだろう、私。
 朱鷺恵さんは、ふふふと笑った。

「本当に可愛いな。これじゃ、志貴君を取り戻すのは難しいかも。
 かと言って、ねえ、アキラちゃん、志貴君より素敵な人なんているのかな?」
「ええと……」

 少なくとも私にはいません。
 世界で一番志貴さんが素敵です。
 となると?

「何年もずっと私には見つけられないでいるんだけど。それでもいいの、アキ
ラちゃん?」
「いいです。私は朱鷺恵さんにも負けませんから」
「わかったわ、じゃあ、本気になろうかな。もしも志貴君を取り戻したら、傷
心のアキラちゃんは慰めてあげるから」
「そんな事はないから平気です。朱鷺恵さんこそ、私にずっと甘えてていいで
すから」

 二人でくすくすと笑う。
 変なの。
 ライバル同士であるのに。

「さてと、ところでどっちが志貴君の背中を流しに行く?」
「やっぱり、志貴さん期待してますよね。
 ええと、二人で行くというのはどうです。ちょっと手狭ですけど、代わりば
んこでもいいですし」
「そうね、そうしましょう」

 頷き合う。
 二人でそっと足を忍ばせて浴室へ向かった。
 ちょっと悪戯をするような気分で。
 
「アキラちゃん」
 
 朱鷺恵さんが小声で囁く。
  
「なんですか?」
「ありがとう」

 そう言った時の朱鷺恵さんの顔。
 嬉しそうな、明るい笑顔。
 少し寂しげな笑みではなく。
 私まで嬉しくなるような笑顔。

 それは私が初めて見た、本当の朱鷺恵さんの笑顔だった。


 《了》









―――あとがき

 終わった…………。
 と言う事で、「三人祭り」での古守久万さんの指定である『右手の痛みは』
の、続きのお話でした。

 ああ、もう、難しかったです。
 元の作品が前半での濃厚なえっちシーンと後半のしっとりとした話で構成さ
れていて、それを受けるとなると生半可な覚悟では書けない。
 加えてこれは『あの夏、一番静かな夜』、古守さんが現時点でのベストと自
負している作品の流れをくんでいるので、そちらも視野に入れないといけない。
 しかし、わたしは朱鷺恵さんという存在がはっきり言って苦手です。
 嫌いではないですが、なんだか怖いのです。
 そのキャラがメインキャラ。
 難しくてどうしようかと思いました。
 
 いろいろ逃げ道は考えましたが、基本に戻って、自分なりに元作品の敬意を
もって、この晶ちゃんと朱鷺恵さん・志貴の関係をつくるにはどうしようかと
考えて、こういう形にしました。

 いろいろ弁解もしたいし、後で見返せばきっとあちこち手を入れたくなるで
しょう。
 でも、現時点では、古守さんの朱鷺恵さんと晶ちゃんと志貴の関係を肯定的
に前進させるという目標への到達は自分なりに納得できました。……今はね。

 やたらと長いのにお付き合いいただき、ありがとうございました。

  by しにを (2002/9/8)



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