むねきん

作:しにを

            




「おっぱい禁止」

 唐突な言葉だった。
 それなりの雰囲気を作り、共に衣服を脱ぎ捨てベッドに。
 そしてさて、といったタイミングでの言葉。
 志貴はアルクェイドの顔を見つめて、それからわずかに視線を下に落した。
 ことさらに見ようとしなくとも眼を引き付けてやまぬ胸の膨らみ。
 惚れ惚れとするようなボリューム。
 しかし、アルクェイドの腕がそこを隠すように遮った。
 もっとも、細い腕ひとつで覆い隠せるものではない。
 潰れてはみ出る柔肉が、むしろ胸の大きさを強調しているかのようだった。
 裸なのに見えないという事実、それが晒されているよりも強く意識させたり
もする。
 志貴の視線もしばしそこに釘付けになり、そしてはっとしたように慌てて上
に戻った。

「アルクェイド?」

 志貴の口から当惑の言葉が洩れる。
 その数秒で、アルクェイドの機嫌は確実に悪くなっていた。 
 
「だから、おっぱいは禁止」
「禁止って何がさ」
「触ったり、揉んだり、しゃぶったり、ぐにぐにむにゅってしたりとか、とに
かく全部禁止」

 びしっと告げる言葉。
 アルクェイドらしからぬ態度。
 それだけでも志貴を戸惑わせる。それに何よりも内容の訳のわからなさ。

「禁止って、何でさ」
「何ででも禁止。見るのもダメ」
「ダメったって、目に入るのはどうしようもないだろ」
「じゃあ、そこだけ禁止するの止める」
「そうか、助かった。…じゃなくてさ、どうして禁止なんだよ。何か俺がアル
クェイドのおっぱいに悪い事したか」
「ううん、してない。いろいろと可愛がってくれてると思う」
「だったら、なんで」

 なおも言葉を続けようとする志貴に、アルクェイドは今度はびしりと指を突
きつける。
 思わず息を呑む志貴。
 強い口調でアルクェイドは続けた。

「逆。志貴は胸ばっかり弄るんだもの」
「へ?」

 戸惑った顔の志貴に対し、アルクェイドの軽い弾劾は続く。
 とりあえず志貴は聞いているしかない。
 
「例えばね、この前の志貴が泊まっていった時」
「ああ、寝過ごしそうになって日の出くらいに慌てて窓から部屋に戻った時な」
「あの時にね、部屋に入ってから志貴は九十三回、キスしてくれたの」
「へえ……」
「それでね、乳首を吸ったり、胸のあちこちにキスしてくれたのは、百と七回」
「ふううん……」

 数えていたのかという驚き。
 あの、悶えて、声を上げて、悲鳴を上げて、甘く泣いていたあの最中に。
 しかし、嘘や冗談では無いと志貴は直感で悟った。
 どうやっていたかはわからないが、きっとその数は正しいのだろう。
 恐るべし、アルクェイド。さすがは真祖の姫君。
 でも、と判断する。
 確かに数は多いけど、それは当然だろう。

「そうか。でもさ、胸はふたつあるんだから、両方を足してそれだけになるの
はさ、むしろ…」
「今のは右胸についての数ね。左はねえ、百二十一回。
 そうだ、胸の間に顔を埋めてキスしたのは、左右で半分こしたから」
「そ、そうか」

 反論を未然に封じられた。
 左右合わせて二百二十八回。半分にしても、唇へのキスを凌駕している。
 そんなにかと思わなくも無いが、疑う余地は無さそうだった。

「確かに俺がアルクェイドの胸に何かするの、多いかもしれないな」

 どこまでも柔らかい感触を上から堪能したり。
 下から掬うようにして、重みや弾力を楽しんだり。
 そこだけはツンと突き出て固くなる乳首を転がしたり突付いたりするのも何
とも楽しい。
 志貴は特に意識せずに思い出していた。

「でもそれさ、アルクェイドも嫌じゃないだろ。
 あんなに感じてるんだし」
「それはそうだけど。
 志貴に触られるのは好きだし、志貴が夢中になってるのも嬉しい」

 アルクェイドはうんうんと頷く。
 こういう処は素直だよなあと志貴は小さく呟く。

「でもね、胸ばっかり弄られると、ちょっと変な気持ちになるの」
「変な気持ち?」
「もしもわたしのおっぱいがなかったら、志貴はこんなにわたしの事愛してく
れないのかなって」
「馬鹿。そんな事あるわけないだろ」

 とっさに声に出して、志貴はしまったかなという顔をした。
 今はあまり刺激する言葉を出さない方が良かったかと。
 しかし、アルクェイドは馬鹿と言われて気分を損ねた反応を示さない。
 むしろ志貴の今の反応に好意を持った様子。

「そうだよね。志貴ならそう言ってくれると思った。
 でも、一回だけでいいから、安心させて」
「ああ。それが……」
「そう。今日だけはね、胸に触ったり挟んだりは禁止。そういうの無しで、い
つもみたいにして。
 我が侭かな?」
「いや。言いたい事はわかったような気がする。
 そうだな、たまにはそんなのもいいだろう。
 確かにアルクェイドのおっぱいは魅力的だけど、それだけがアルクェイドじ
ゃない。
 髪の毛から爪先まで、どこもかしこも魅力的だと思ってる」
「志貴ぃ」

 体が近づく。
 志貴が、アルクェイドが、互いを求めたから。
 アルクェイドの柔らかい体を志貴は受け止めた。
 ふたつの膨らみが、志貴の胸板に押し付けられ―――

「どうしよう、これ」
「ええと。今だけ不可抗力。キスしたら離れる」
「うん。んんっ」

 それではと、志貴はアルクェイドの体を抱きしめた。
 今だけだと思うと、その柔らかい弾力がいつも以上に感じられる。
 でも、それに意識を向けず、いやむしろ外してアルクェイドの唇に集中する。
 プリンやゼリーのような息を吹きかければ震えるほどの柔らかさ。
 唇を滑らせ、軽く啄ばみ、そりだけでは足らずに志貴は舌を差し入れていた。
 その割れ目に忍びこむ舌は、まったく拒まれない。
 白い真珠のように輝く歯をかすめ、動く。
 アルクェイドもまたピンク色の舌を差し出し、志貴を迎え入れた。
 とろりとした唾液が絡む。
 志貴の舌からアルクェイドへ。
 アルクェイドから志貴へ。
 
 舌を伸ばし差し入れたままなのに、器用に志貴は啜りこんだ。
 二人分の舌で塞がれながら、苦もなくアルクェイドは飲み込んだ。
 美酒のように、喉を熱くさせる。
 舌の先を触れ合わせ、擦り合わせ、ようやく離れた時には、眼に酔った色が
浮かんでいた。

「アルクェイド」
「んん……、志貴ぃ」

 名前を呼び合う。
 誘いであり、受諾であり。
 そのまま二人でベッドへと倒れこむ。
 
 そこでまた唇を合わせる。
 さっきよりも性急な。
 唇よりも舌で繋がり、唾液で繋がるようなキス。
 くちゅと音がこぼれる。
 アルクェイドの舌を志貴が吸い、悲鳴じみた声が小さく洩れる。
 唇を離した時には、口元が濡れ汚れていた。シーツの端でそれを拭うと、志
貴はそのまま頬にキスし、舌を這わせるように耳元へ動いた。
 軽く息を吹きかける。
 そんな些細な行為で、アルクェイドは身震いをする。
 くすぐったさと、そこに混じる官能の揺らぎに。
 それを間近に見つつ、志貴はあえて息を止めて口を近づける。
 触れるか触れないかの瞬間、ふっと強くアルクェイドの耳を急襲する。

「や、志貴、変になっちゃう」

 突然の刺激に、アルクェイドは声を上げた。
 いや、予期せぬ不意打ちではなかっただろう。
 何度となくした愛撫。
 息を吹きかけたり、そのまま耳にキスをしたりといった違いはあっても、決
して初めてではない。
 むしろ何か来ると予期して待っていて、その想像をなぞるような刺激に過敏
に反応しているのかもしれない。
 
「ほんとに耳感じやすいな、アルクェイドは」

 囁く。
 声と息とを小さな穴へと送り込む。
 アルクェイドの体がぴくんと動く。
 そのまま耳朶に舌先をつける。
 直接の接触。
 さらに、アルクェイドの注意をそこに集めておいて、奇襲のように左手を動
かす。
 寝てなお崩れず、身悶えにぶるぶると動く乳房へと。
 手でぎゅっと掴むように、掴むように……。

「えっと、ダメなんだったな」

 触れる前に停止。
 志貴が自分で止めたのと同時に、アルクェイドの手が志貴の手に触れていた。

「うん、胸はダメ」

 声が乱れている。
 それでも機敏に手だけは動く辺り、野生動物は眠っていても敵を察して云々
などと多少的外れな事を志貴は思い浮かべた。

「そうだよな、ごめん」

 志貴は謝ると手を動かした。
 アルクェイドの指に指を絡ませる動き。
 軽く力を入れる。
 そんな指同士で抱き合うような仕草にアルクェイドは笑みを浮かべた。
 抱擁を解き、志貴の指は今度は掌から手首へ、さらに腕をと滑っていく。
 ほっそりとした腕。撫でるだけでぞくぞくするような肌の滑り。
 肘を撫で、そのまま肩へは行かずに腋へと滑り込む。

「やだ、志貴」
「なんでさ」
 
 言いながら、窪みを指が撫で摩る。
 すべすべとして、それでいて少し湿り気を志貴に感じさせる。
 より強く淫靡さを感じさせる手触り。
 さらに手が動く。その感触が性感を刺激したのか、くすぐったかったのか、
アルクェイドの背中が小さく反った。
 僅かな震えにも似た動き、それだけで揺れる。
 重量と柔らかさとを共に感じさせる、胸の大きな揺れ。
 自然に志貴の視線が向けられる。
 手も衝動的に、胸脇から伸びそうになる。
 が、堪えた。何とか。
 僅かに指がわきわきと何かを掴むように動いたのは、何度となく行った思い
出の反芻だろうか。

 特に力を込めなくても指が埋もれ、そのまま左右に手をふると、ぶるぶると
下の柔肉が動く。
 そのまま少し持ち上げてみた時の重み。
 掌に当たる先端。
 そんな胸の幻視、あるいは幻触。


「あ」
 
 志貴の口から声が洩れた。
 視線の先にあるはアルクェイドの胸の先端。
 白い肌に融けそうなほど薄いピンク色をした乳首。
 そこが、常よりも色づいていた。
 そして、その姿もまた。明らかにさっきまでとは違う。
 興奮の表れ。
 胸に比して小さく見える花の蕾のようなそれは、通常は慎ましくしている。
 でも、触れれば指の押すがままに従ってしまう。
 たおやかにして、可憐。
 それが、指で転がされ、舌で突付かれ、唇で挟まれるうちに変えられていく。
 内側より硬く、縮こまっていたのが少しだけ大きく。
 でも、それはあくまで刺激を受けての反応。弄られての変貌。
 それが今、直接的な接触は何もなしに、自ら変化していた。
 息を吹きかけられる事すら無しで。
 つんと突き出た可愛い様。
 
 触れたい。でも触れられない。
 背反の状況に、志貴は生唾を飲み込んだ。
 ともすれば伸びそうな手をあえて意志で封じ、別の動きを与える。
 脇腹を撫で、細い腰のくびれを這い、そこから丸みを帯びる臀部へ。
 すべすへとした尻肉、柔らかい感触に、ようやく志貴は渇きの衝動を薄めさ
せた。
 決して代替というだけではない。
 撫で摩り、掴む。
 アルクェイドの桃のような膨らみを堪能する。素晴らしい。
 ただ、執拗にいつも以上に掴み指を滑らせるのは、乳房への憧憬の作用によ
ったかもしれない。
 また一方で、唇を耳に再び寄せる。
 柔らかい耳朶を唇で咥える。
 ちゅっと吸う。
 舌で突付き、噛んだまま軽く引っ張る。
 これも、何かを連想させる愛撫の様。
 
 存分に尻肉を這いまわった手が、そのまま潜り込んでいく。
 桃肉と桃肉の間。
 アルクェイドの秘められた部分、すでに潤いに溢れた谷間へ。
 指先が熱く濡れていく。
 掌でむにゅむにゅと従順に形を変える尻肉の柔らかさとは別テリトリーにあ
る蕩ける柔らかさ。
 性器の周辺ですら、触れた指がゆっくりと沈みそうだった。
 
 突如、志貴はバネ仕掛けの人形の如く跳ね動いた。
 頭と足が入れ替わったの如く、今まで手を伸ばして弄っていた処へ顔を埋め
んばかりにしている。
 アルクェイドの体もいつの間にか足を広げて全てを晒す形になっている。志
貴の手によって。
 さっきの乳首と同じように、直接的にはほとんど触れていない。
 なのに、ずっと指で刺激を与えていたように、そこは濡れていた。
 びらびらとした陰唇も、粘膜も。まだ慎ましく広がりきっていない膣口も。
 期待するように、潤んでいた。
 乞うように光り、匂い立っている。
 志貴は舌を伸ばした。焦らす事も無く、舐め上げる。
 とろりとした蜜液を掬い取る。
 アルクェイドの興奮の味。そして志貴を何倍も興奮させる魔法のような媚薬。

「アルクェイド、凄い。こんなにとろとろに濡らして。
 幾ら舐めてもどんどん溢れてくる」
「や、志貴。そんな…強いよう。
 感じすぎちゃう。や、噛んじゃ…や……んん…ああ」
「ここは嫌がってないぞ」

 指を這わせ、谷間を広げ、奥底へと舌を突き入れる。
 飽く事無く舐め啜り、舌をストローのように丸めて突き入れたりもする。
 唇も、頬も、アルクェイドに濡れていた。
 美酒に酔うが如く、触覚、嗅覚、味覚が酩酊感をもたらして来る。
 さらには視覚も。
 可愛く、いやらしいのは当然として、舌技でぴくぴくと反応する様が。
 痙攣したようにふるふると震えながら、とろりと汁を垂らす様が。
 自分の愛撫で感じているのだと語っている。されが誇らしく、そして興奮を
誘う。
 ピンク色がより濃くなっていくのが、間近であれば良く見て取れる。
 それだけで射精してしまいそうだ。
 と、思った時に、志貴の下半身は大きく跳ねた。
 いや、体の信号はその動きを伝えた。
 しかし、体は動かない。
 その原因たる強い刺激。
 本当に射精を促し、下半身を蕩けさす甘い衝撃。
 顔を上げ、振り向く。
 見るまでもなかった。
 アルクェイドの唇が、志貴の肉棒を咥えていた。
 
「アルクェイド、いきなり」
「んにゅゅんんん、んっんん……」
「咥えたまま喋るな」
「んんっ、志貴だっていきなりだったもの。お返し」

 アルクェイドも志貴の方に顔を向けている。
 手はより固くなった志貴の物をつかんだまま。
 全体にてらてらと濡れ光っているのが志貴には見て取れた。

「それとも止める?」

 少しだけ悪戯っぽい表情が混ざる。
 きゅっと手の握りが強くなった。
 痛いほどではないが、少し不安になる程度に強い。
 志貴の顔を見て、笑いながら緩ませる。
 その緩急が妙に快感になった。
 
「ね?」

 ああ、と頷くのは簡単だったが、志貴はそうしなかった。
 志貴は黙ったまま顔を動かした。
 また、アルクェイドの秘苑に埋める。
 両の唇の奥、ピンク色の陰唇を唇で咥え、引っ張った。

「ひゃん、志貴、や……」
 
 伸びそうなほど引張り離す。そして強くふっと息を吐く。
 志貴の背後で悲鳴が聞こえた。
 指で陰核を剥いて、軽く吹いて応える。
 少しの間の後、志貴はまた温かく濡れた感触を股間に覚えた。
 蕩ける快感。
 互いに性器を唇と舌で愛撫する体勢。
 一番感じて、それ故に恥ずかしい部分を、舐め合う。しゃぶり合う。
 普段であれば、どちらがするにしろ一方的にする、される関係となるが、今
は同時。
 受けた分の心のこもった行為を、そのままに返す。
 あるいは感じさせられ身悶えさせられたら、より一層の刺激をもって仕返し
する。
 愛する相手にして貰っている姿が見えないのが欠点ではあるが、何をされて
いるのか見えない事がアクセントにもなっている。
 夢中で志貴はアルクェイドを舐めすすった。
 指で広げ、舌を這わせ、息を吹き込み、クリットを甘噛みする。
 同時に、鈴口をちろちろとされ、くびれを指で擦られ、喉に届くほど深く呑
み込まれる。
 相性の合った者ならではの、互いに邪魔する事無く、もさらにっともっとと
高ぶらせあう口戯。

 が、何度目だったろうか。もう少しで出てしまうというむすむずとした痺れ
をやり過ごしている時に、志貴は違和感を覚えた。
 そうした愛撫の様も決して初めてではない。
 今のように上とも下ともつかぬ体勢であったり、志貴が寝てアルクェイドが
四つん這いになって重なる形であったり。
 ただ、そうした時にあるものが今はない。
 快楽にぼうっとした頭では、それが何であるのかわからない。
 膣口に指を入れて壁面に螺旋を描く動きをしたまま、志貴は顔を伸ばした。
 アルクェイドの口淫の様子を目にしようとした。

 そんな様子に気付かないのか、アルクェイドは熱中したまま。
 根本に手を添えている。
 親指と人差し指、中指。薬指と小指はそれだけでは足りぬと貪欲に他方へ向
けられていた。
 根本からぶら下がる袋を弄っている。
 白い肌に映える薄紅の唇。
 それは志貴の幹を這っていた。
 上から下へ、手の添えられた部分迄へと。
 そしてぬめぬめと唾液を塗りこめ、上へと戻る。
 口に含んでの上下運動だけでなく、全体を吸い上げたり、軽く歯で噛んだり
もする。
 さらに口中で絡みついている舌。
 端整なアルクェイドの顔が不釣合いに大きいモノを口に含んで、少し歪む。
 それは魅力を何ら減じさせない。むしろそうやって尽くす様が愛しく思える。

 もうもたない。
 抗えないアルクェイドの口戯。
 それに足らぬものなど何もない。
 いや―――ない、筈だった。
 しかし、それは存在した。
 片手は確かに志貴の肉棒の根本や袋に触れている。
 しかしもう一方の手は。
 いつもであれば、片手を幹に添えたりしごいたりして、もう一方は掌で二つ
の柔玉を転がしたり揉み解したりしているのではなかったか。
 では今はどうしているのか。
 空いているはずの手は、ふさがっていた。
 大きな球体を押えていた。二つのたわわな乳房を片腕でもって抱くようにし
ていた。
 一瞬戸惑い、志貴は意図を察した。
 二人で逆さまになってではあっても密着した状態。さらには互いの脚の間に
顔を寄せている。
 ならば当然ながら、胸も当たる。志貴の腰の辺りか下腹部か、いずれにしろ
何処かに。
 あれほど巨大なものが少しでも触れない事はあり得ない。
 その感触が無かったのだ。
 アルクェイドが自分の手で封じていたのだ。その為の手による愛撫も普段と
は違っていたという事。
 それらがそこはかとなく漂っていた違和感の正体。

 んんん……ッッ、ちぅぅぅ…ちゅっ、ちゅぷぷッッ……。

 志貴の動きが止まった為だろうか。
 アルクェイドの口が、複雑にして玄妙な快美の波が、変化した。
 レベルが上がったといっても良い動き。
 堪えようとする気持ちが起きる前の、突然の快楽の疾風。
 あっさりと限界突破し、志貴はアルクェイドの口に激しく射精した。
 自ら出したというより、吸い出されたような勢いの良さ。

「んんーーー、ンンッッんんん………」

 アルクェイドにしても、突然過ぎたのか。
 志貴のペニスで口いっぱいの状態だったのがびくんと跳ね動こうとし、潤滑
油となっていた唾液は泡立ちつつこぼれそうだった。そんな状態で尋常でない
志貴の白濁液の吐出。
 一気に吐き出してしまいそうなのを堪えて、飲み込み必死で喉に送っていた。
 その流動の動きがまた、射精したてのペニスに悲鳴を上げそうなほどの快感
をもたらす。

 何とか飲み下すと、アルクェイドは唇で締め付けながら、ゆっくりと口から
志貴のものを出した。
 垂れ落ちそうなドロドロの残滓は、的確に舌で舐め取られていく。

「志貴に勝ったね」

 アルクェイドの笑顔。
 いつから勝負になったんだと突っ込む言葉も引っ込めざるを得ない破壊力の
笑顔。
 普段からそんなようなやり取りをしていなくもない。

「じゃあ、今度は俺がアルクェイドを喜ばせてやる番だな。
 今度は最後まで」
「うん」

 一回の放出では志貴はまったく衰えていない。少し大人しくなりかけていた
としても、後始末の唇と舌とがあっさりと回復に導いていた。
 そうしながらも、志貴の先端からはまだこぼれ出すものがある。
 アルクェイドはそれを指で拭き取り、さらには幹の根本から先端へと握った
手を滑らせた。
 搾り出された白濁液も同様に指に集め、しゃぶってしまう。
 やっている行為、指に絡む粘液は別として、子供っぽく見える仕草。
 それでいて、見つめるだけでむずむずと志貴の情欲は刺激されていく。
 ベッドの上で向きを変えにじり寄る。
 アルクェイドの体を抱きしめ、そのまま押し倒そうとして、止められる。

「今日は別のやり方がいいな」
「どうして欲しい?」
「そうね、志貴はベッドに寝てくれればいいよ。
 ええとねえ、またがってしてあげる」

 言いながら、手と視線で促す。
 別段抗う事無く、志貴は身を横たえた。
 受身は意図していなかったが、それはそれでわくわくとする交合の仕方。

「でもさ、アルクェイド」
「うん?」
「それだと、俺がアルクェイドを喜ばせるというより、逆じゃないか?」
「こっちでも嬉しいもん」

 そうかと素直に志貴は納得する。
 言葉の通り、アルクェイドの体が膝立てで志貴に跨る形になる。
 顔を上げてその美体を志貴は眺めていた。
 白い太股、豊かな腰。
 細いくびれ、そしてこぼれそうな胸。
 溜息を誘う姿。
 それらを惜しげも無く晒しながら、信じがたい程の美女が、いそいそと動い
ている。
 待っててねなどと声を掛けて、肉棒を手に取り、濡れた谷間にあてがおうと
する。
 そんな姿を見ているだけで、志貴の胸に強い満足感が満ちる。
 
「入れるね、志貴」
「ああ」
「ん…ぅんんッッ……」

 挿入されていく。
 何度となく貫いている、交わっている。けれど初めてのような新鮮さを志貴
に感じさせた。
 そのきつさ、摩擦の強さ。
 それでいて濡れていて通り良く迎える隘路の気持ち良さ。
 飽きる事など考えられない。
 
「もう少し…」
「無理するなよ、ゆっくりでいいぞ」
「んん。ああ、志貴がいっぱい」

 忘我の表情でアルクェイドが呟く。
 体重をかけながら、ゆっくりとアルクェイドの腰が沈んだ。
 収めきったという充実感もあるのだろう、満足そうなアルクェイド。
 しばし味わうように、そのままじっとしている。
 志貴も深奥まで挿入し、それ以上をとは求めない。
 これだけでも快感は生じている。蕩けるように熱い。
 アルクェイドの中は、ただ締め付けるだけでなく、微妙な強弱の波を起こし
ている。
 呼吸による収縮なのか、そこだけが勝手に動いているのか。
 志貴にしても身動きならぬ狭道の中で、はちきれそうになったペニスを脈打
たせている。
 びくんと意図せずに根本から動きもする。それがアルクェイドに堪らない刺
激を与えていた。

「動くね、志貴」
「ああ」

 上下の動きと言うより、前後の動き。
 腰自体をスライドさせるように、アルクェイドは体を揺らした。
 膣道に収まったまま志貴の肉棒は中を動く。
 直接的な抜き差しは小さいが、抽送の動きも伴い、摩擦の快感を生み出して
もいる。
 アルクェイドの上半身は前屈みになっていた。
 手の支えは無くても問題なく、不安定な体勢と動きを保っている。
 志貴はただ、横たわり与えられる悦楽を享受していた。
 声が、漏れる。
 
「ふふっ、志貴、可愛い顔してる」
「何だよ、それ」
「誉めてるのに」
「男の場合はそんな事言われても……ああっ」
「ほら、その顔」

 受身でいて、コントロールできないからだろう。
 快感に過敏に反応してしまう。
 感じてしまうの自体は問題ないが、それを上から眺められるている事に、志
貴は恥ずかしさを覚えた。
 これで立場が逆であれば、もっと動きを強くしたり速める処であるが、アル
クェイドは動きを抑え目にした。
 爆発しそうな急激な高まりが少しおさまり、志貴は一息つく。
 アルクェイドは体全体をリズミカルに動かし続けている。

 そうなると、必然的に目につく魅力的な部分。
 こぼれるような美乳。
 それが揺れている。
 上下に。
 根本からたわむように大きく。
 また、互いにぶつかるように横に。
 ぐっと前屈みになり、重み自体で下に向き。
 触れずにはおれないその姿で、魅了する。

 志貴はじっと見つめていた。
 一方で必死に堪える。手に、腕に不自然なまでに力が篭っている。
 それを知っているのかどうか。
 アルクェイドは気持ち良いまでに胸を震わせ続ける。

「おい、アルクェイド」
「何、志貴?」

 ぐっと顔が下がる。
 触れるほど近いアルクェイドの顔。
 そして、先端がかすめた。
 志貴の胸に、柔らかい一瞬の感触。

「あ…くっ」
「え、志貴……」

 放出。
 二回目だというのに。
 アルクェイドはまだ騎上位での真髄を見せていないのに。
 志貴は強烈な緊張と弛緩の狭間で、射精してしまっていた。

「志貴、あの…きゃっ」

 無言で、志貴は体勢を変えた。
 繋がったままで。
 どこをどう動かしたのか。どう動いたのか。
 いつの間にかアルクェイドが下に。
 それも四つん這いの体勢。
 志貴は上がった腰を抱えるように、背後から貫いていた。

「これなら、見なくて済むからな」

 自分に言い聞かせる独り言のようにも、弁明のようにも聞こえる声。
 アルクェイドは少し戸惑ったものの、志貴がゆっくりと動き出すと、異を唱
える事無く身を任せた。
 より腰を上げ、上半身はシーツに擦り付けるようにして協力する。
 ある意味、恭順の印にも見える体勢。
 その全面的な受け入れの姿は、志貴に強い興奮を与えた。
 膣道を滑る肉棒が再び硬さと重量を増していく。
 雁の部分が、今しがたしとどに放った白濁液を掻き出すように膣壁を擦り上
げる。
 あるいは子宮に満ちたものだけでは足りぬと、全てに塗りたくっている様に
も見える。
 くびれが見える辺りまで腰を引くから、ぽとぽとと交じり合った粘液がこぼ
れ続ける。
 そしてまた、周りの花弁も巻き込むようにして突き入れて行く。

「志貴、凄い。さっきよりいっぱい」
「お前の中もきつきつに締め付けて、それにうねって、凄く気持ちいいぞ」

 幹は強く締め付け、それでいてより圧迫を受ける筈の亀頭は柔らかく包まれ
ている。
 そんな整合の取れないアルクェイドの中が堪らなく気持ち良かった。
 気を抜くとそのまま精を放ってしまいそうだった。
 爆発的な射精ではなく、飲み込まれた物全てが解けて流れるような放出で。

 獣のような格好での交合では合ったが、志貴の頭の中は違った。
 志貴は蕩けつつも、アルクェイドを喜ばせなくてはと考えていた。
 二度も先に絶頂を迎えて、そのままアルクェイドを終わらせる訳にはいかな
かった。
 律動的に抜き差しをしつつも、気が付かぬうちにリズムを速くしそうになる。
 それを抑え、ゆっくりを保つ。幾分ストロークは短く、突き入れている状態
を多めに。

 腰を抑えていた手を離す。
 片方はそのままに、空けた手を白いシミひとつない背に当てる。
 さするように腰から肩までを動く。
 吸い付くような肌。
 胸や腰回りなどと比べれば何ということはない部分のはずなのに、それだけ
でうっとりしそうな肌触りだった。
 それに、意外にアルクェイドの反応が激しい。
 背骨のラインにそってキスをしたりすると、驚くほど声を上げたりもするの
だが。
 優しく何度か撫で摩るだけで、性器への抽送とは違った吐息を洩らす。

「志貴、それ何だか気持ちいい」
「そうか」

 では、と掌全体を使ったり、指だけに集中してみたりと、背中に愛撫をする。
 唇をそっと這わせたりも。
 良好な反応だった。
 志貴としても気分が良くなり、今度は首筋と肩を攻めてみる。
 繋がって腰を押し付けたまま抜き差しは一時止める。
 強く押したり止めたりと、振動のみを与える。
 そして両手を空ける。
 首筋を撫で、耳の後ろを擽る。
 反射的に首をすくめても構わず指を忍ばせ、ふっと息を吹きかける。
 鎖骨の窪みを指で撫で、肩と腕をマッサージするように揉み始めた。

「何、志貴、これ」
「嫌か」
「ううん、もっとして欲しい」
「確かに胸ばかり弄っておろそかにしてたからさ」

 二の腕を軽く握っては緩める。
 手首の裏を親指で押し、手を繋ぐように指を絡ませ合う。
 まったくの無毛ですべすべとしている腋の下を指で探る。
 それぞれは、単純な愛撫ではないが、同じような効果を与えていた。
 どこもかしこも性感帯であるようにアルクェイドが悶えていた。

 強くなりすぎないように加減もする。
 同じ箇所ばかりに集中しているのに気付くと、また腰の動きを軽く再開させ
たりもする。

「アルクェイド、キスしたい」
「うん。志貴ぃ…んん…ちぅぅ…」
 
 首だけを曲げるアルクェイドに覆い被さり、顔を寄せる。
 舌が先に触れ合い、少しの差で唇が求め合った。
 くちゅくちゅという水音。
 アルクェイドの喉が動く。
 限りなく密着した状態で、志貴は手を伸ばした。
 二人のもう一つの結合部分、熱を持って潤んでいる谷間へと。
 鉄のような硬い肉柱とまとわりつく媚肉を探り、アルクェイドの一番敏感な
部分へと辿り着く。
 指で触れるだけで、硬く張りつめているのが分かる。
 志貴は指で摘み、捻るように動かした。
 密着している背中から、痙攣するような動きがダイレクトに指先に伝わった。
 差し入れて口蓋に触れていた志貴の舌が、ぎゅっとアルクェイドに吸われた。
 少し痛みはあるが、そのまま受け入れる。
 舌吸いが緩むと、志貴は口を離した。

「軽くイっちゃった」
「まだ、これだけじゃないぞ」

 包皮ごとクリトリスをあやすように指を使い、志貴が囁く。
 アルクェイドは頷いた。期待に満ちた顔。

 もう一度と、唇を合わせあう。
 今度は延々と舌戯に耽る事は無く、唾液を交換しあって離れた。
 濡れた唇で肩にキスをする。
 指は腋から鎖骨の辺りを愛撫する。
 意外な性感帯を刺激され、アルクェイドが気持ち良さそうにうめく。
 胸に触れぬよう注意しながら、脇腹へと移行する。唇は首筋を優しく何度も
啄ばむ。

 体全体を隈なく愛撫していく。
 後背位で繋がったままで手や唇が届く範囲で。
 腿も、腹も、耳の後ろも、後孔も。
 何度となく交わり、恐らくは指や舌の触れていない所はない。
 数多くの感じるツボを志貴は知っていた。
 でも、普段は、されらをいかに忘れ去っているか。
 それに、幾らでも新たな発見もあった。
 
 確かに、柔らかく大きい胸にすぐに手を出して夢中になりすぎていたかもし
れない。
 ちらりと目をやる。
 シーツに押し付けられつぶれている様。体が絶え間なく動いているので、形
がひと時も一定していない。
 確かにそれは、抗う事の困難な魅力を放ってはいる。

 だけど、今日は触れない。
 体中を愛撫するつもりで、でもふたつの膨らみだけは外して。

 腰の縊れを手で抱きしめ、少し強く何度も腰を打ちつける。
 粘性を増している愛液がぐちゅぐちゅと音を立てている。
 飛び散り、垂れ落ちてもいる。
 
 アルクェイドの喘ぎ声を聞きながら、腋に顔を潜らせる。
 汗ばんだ匂いが、興奮をさせる。
 腕をやさしく揉んでやり、肋骨の上を撫で摩る。

「志貴ぃ…、ねえ……」
「どうした、アルクェイド」
「お願い…、胸も、胸も触って、シーツに擦られて疼いて、志貴に弄って欲し
いの」

 体を傾け、張りつめた乳房が露わになる。
 確かに、突き出た乳首がもの欲しそうに見える。
 指で摘んでやったり、強く吸い上げると、それだけで強い歓喜の声を上げる
だろう。
 そのままぎゅっと膣内を収縮させ達してしまうかもしれない。
 さきほどから繰り返し小さくイってはいるが、その小波とは比較にならない
絶頂へ。

 体がさらに捻れるように上に向く。
 圧倒的なボリューム、質量感。
 揺れる。
 その柔らかさ、手触りの滑らかさ。
 指が埋もれ、掌からこぼれるような、他の部分とは異質とも思える感触。
 掬い上げるように手で持った時の、たっぷりとした感動を思い起こさせる。
 実際に触っているように思い起こさせる。

 志貴の手が、意志によらず伸びそうになる。
 その胸の感触を強く憶えている。
 今日はまだ触れていないアルクェイドの胸。
 アルクェイドのおっぱい。
 おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱ……。

 触れる寸前で手が止まった。
 掌の形が、アルクェイドにジャストフィットする半球を描いていた。
 手が極度の力を込めて震えている。
 停止にどれだけの力を使っているのか。
 ぎりぎりでの理性による制御。

「うん……、いや、ダメだな」
「なんでよ、志貴」
「おまえが言い出した事だろ。禁止って」

 アルクェイドは恨みがましい眼で志貴を見つめている。
 何で責められるのだろうかと志貴は内心で呟く。

「でも、そんなに胸可愛がって欲しいのか」
「うん」
「ぎゅって両手で後ろから掴んで揉んだり」
「うん」
「軽くさわさわして、乳首の先を指の腹で擦ったり」
「うん」
「乳首が取れちゃうってアルクェイドが悲鳴上げるまで吸ったり」
「うん」

 期待に満ちた顔に変わる。
 こういう可愛い顔は反則だなと志貴は声に出さず呟く。
 こんな顔をされたら、何でも言う事を聞いてやりたくなる。
 あるいは……。

「わかってるよ、アルクェイド」
「志貴」

 志貴はじっと、胸の先を見つめた。アルクェイドもそれに気がついている。
 そうだ、アルクェイド。
 そんな顔をされると、期待を外されてじたばたするのを見たくなる。

「俺がそんな手に引っ掛かって、胸に触るのを期待してるんだろうが、無駄だ」
「え?」
「禁止を解かれてないものな。
 だいたいアルクェイドがそんなに前言を翻す訳ないよな」
「え、え、志貴ぃ」
「確かに、アルクェイドの胸は魅力的だ。後でどれだけ怒られてもむしゃぶり
つきたくなる。
 でも、約束は破れない。俺はアルクェイドのおっぱいは好きだ。
 だけど、アルクェイドが……、好きだから吸わない」

 沈黙。
 見詰め合う。
 目と目でのやり取り。

「志貴、口の端が笑ってる」
「さてと、ラストスパートだ。さあ、行くぞ、アルクェイド」
「志貴、ひど…や、はげし、んん、はうううんんん」

 アクセントとしての小刻みで速い抽送を行ってはいたが、概ねずっとスロー
テンポ。
 その下半身の動きが、突如変わった。
 腰をぶつけ合うような、激しく強い交わり。
 止まらない。スピードが緩まない。
 ただ機械的に出し入れされるのでなく、多彩な角度から、
 どちらかと言えば、めちゃくちゃに動いていて荒れているのに近いが、何度
となく繰り返した経験が補助をしている。
 弾みで抜けてしまったり空回りする事無く、膣道を行き来する。
 志貴自身の手綱は決して離さない制御力と、合せて腰を振るアルクェイドの
息の合い方も大きい。

「いい、志貴、どうにかなっちゃう」
「アルクェイド、ぎゅうぎゅうに締め付けて、俺も……、もうもたない」
「わたしもダメ、もうダメ」

 志貴の胸板がアルクェイドに被さる。
 手がアルクェイドの胸の辺りを抱きしめようとして、止まる。
 改めて脇腹から腰の上に手を回す。
 大きくは出し入れせず、少し腰を引いては強く叩きつけていく。
 腰全体で衝撃をアルクェイドに伝え、深く穿つような一撃の繰り返し。
 アルクェイドの嬌声が、強い呼気音だけになる。
 息も絶え絶えになって、志貴が起こす感覚の奔流に耐えている。
 志貴にしても、自ら動きながらも、息を荒げ限界に近い様子。
 
「ダメ…、もう……、志貴、イクッッッ!!!」

 深い結合のなかで、アルクェイドは叫び、絶頂を迎えた。
 びくびくと体が痙攣するように動く。
 きゅっと締め付けが志貴の三度目の決壊を招いた。
 悩ましい絶頂の声もまた、志貴の限界を突破させた。
 声に出して知らしめはしないが、耐え切れぬ悲鳴にも似た呼気が漏れる。

 びゅくびゅくと、さっき注いだ以上にアルクェイドの中に精液が迸る。
 体がふわふわと飛んでいるようなエクスタシー、その渦中でアルクェイドは
志貴もまたイッたのだと知った。
 肉体の喜びにさらに強い喜びが加わる。
 
「し…きぃ……」

 満ち足りた響きが声に乗っていた。
 志貴もまた、離したくないとアルクェイドの体を抱き締めたまま。
 二人で迎えた絶頂に、身動きもせず浸っていた。



 






 動から静へ。
 ベッドの中で並んで寝転びながら、会話をする二人。
 情交の跡は色濃く残っている、
 体に飛び散った体液などは互いに拭きあった程度。
 疲れすら妙に心地よい。
 体は動かさず、言葉だけを交わし合う。

「禁止?」
「違うの、禁止の禁止」
「それなら禁止の解除とか言った方がいいな」
「あ、そうか。でも意味は通じるでしょ」

 アルクェイドの顔が志貴の方を向く。
 志貴も顔を相手に向けた。
 見つめ合い、少し考えて志貴は答えた。

「つまり、アルクェイドは自分で俺に胸弄るの禁止したくせに、あっさり撤回
してしまうんだな」
「むう、ちがうー。
 じゃあ、志貴はそのままでいいの、ずっとわたしの胸は触らなくて?」

 脅し文句に、志貴は手で否定の仕草をする。

「それは困るなあ。
 だいたい、アルクェイドから胸取ったら何が残るんだよ」
「それは……、って、いっぱいあるでしょ」
「あるのか」

 真顔の恋人に、アルクェイドは一瞬怯む。
 にやと笑った顔に、からかいと悟ったが。

「志貴の意地悪。さっきと言ってる事違うー」
「先にお姫様に無理難題言われたからな。
 それじゃ、もういいんだな?」
「うん。志貴はねえ、わたしの胸に何してもいいの」

 まっすぐな物の言い方に、今度は志貴が言葉を詰まらせる。
 少し頬の熱さを感じ、それがまた軽い狼狽を誘う。

「そうか。とは言っても、さすがに今夜はもう充分だけど」
「そうね」
「充分だけど、少しだけ」
「きゃッ、志貴」

 アルクェイドの二つの乳房の谷間へ志貴は顔を埋めた。
 頬に触れる胸の弾力感と柔らかい触感。
 深々と志貴はアルクェイドの乳間の匂いを嗅いだ。甘い香りに満たされる。
 突然の行動にアルクェイドは戸惑ったものの、文句は言わずに志貴の頭を軽
く抱きしめた。
 仕方ないなあと言いだけな笑顔。
 ぎゅっと力を入れかけて止める。前に同じようにして、加減を考えずあやう
く窒息させそうになった教訓は活きていた。

「柔らかいな、アルクェイド」

 顔を埋めたまま、志貴が声を出す。
 くぐもった言葉は、満足そうな響きを持っていた。

「もう……」

 アルクェイドの声にも、同じような色がある。
 特に強い愛撫や、技巧的な行為をされている訳ではない。
 けれど、志貴を感じているだけで、胸から痺れるような快感がアルクェイド
の体全体に広がっていく。

「今度は胸、可愛がってね」
「嫌と言っても、ずっと可愛がってやる」
「うん」

 胸に顔を埋めたままの志貴と、その後頭部を優しく抱くアルクェイド。
 そのまま時間が流れる。
 トクントクンと、心臓の音が時を刻んでいる。
 シャワーでも浴びようなどと志貴は呟くが、動こうという気配は無い。
 アルクェイドも頷きつつも、そのまま動かない。
 体は離れない。
 
 恐らくは、朝までこのまま。


   了











―――あとがき

 アルクェイドと言えば乳という固定概念を打ち破るべく、その魅力に頼らず
書いてみた……筈ですが、馬鹿SSになってますね。
 結局、乳頼りの気もします。
 久々のアルクェイドSSですが、ちゃんとアルクェイドに見えれば良いので
すが。

 お読みいただきありがとうございました。

  By しにを(2005/08/21)


二次創作頁へ TOPへ