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              『お嬢様』 


              by クラザメ

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 黄昏が宵闇にかわる時間、茜と群青が混じり合う空の下、私は兄さんと家路
についた。

 はじめてこうして二人で歩いた日は、もう既に思い出として整理され始める
頃であり、そこを振り返ってみると私はずいぶんとぎくしゃくしていたと思う。

 道案内するみたいく先導するのか、控え目に後ろにつくのか、それとも横に
いた方が良いのか、右か左か、くっついていると妹らしくないか、離れすぎる
のはもっと変ではないかと、何でもないふうを装っても、一挙手一投足に色々
と考え込んで、ただ一緒に歩くのが私には簡単にできなかった。

 兄さんが私をどう思うか、総てはその一点に集約される想いに私は縛られて
いた。子供の頃と同じ様に、いいえ、それ以上に兄さんと……………。

 本質は変わっていない筈なのに、長く兄さんと離れていた時間が過剰に意識
させていたのだと思う。

 それでも今は並んで―――肩が触れそうな距離で―――歩けるようになった。
屋敷で外で兄さんと共有する時間が、現在を現在として馴染ませてくれたから。
授業のことや、明日の天気、何でもない出来事、他愛ない話を楽しんだりもで
きる。

 もっとも、私が隣を別の意味で強く意識しているのは、あまり変わってない
かもしれない。当然兄さんは気付いてない。兄さん、ある種の鈍感だし、私は
私で意地っ張り、体裁をつくろうのは得意だから。

 どちらかが少しだけそうでなければ、もっと上手くいくかもしれない。私の
本音を、直線的な表現の苦手なそれを兄さんが察してくれたら良い、そんな事
を思ってみたが、寧ろ私の方が改善の比重は大きいのだろうなと、内心だけで
苦笑していたら、ふと兄さんが訊ねて来た。こうして歩き始めた頃と同じ昔の
出来事を。

「そう言えば前にパンの食べ方わからなかったな、秋葉は」
「パン?………ああ、あの時のことですか?」

 浅上から転校しての直後、兄さんと一緒の昼食となった時の事であった。食
べるのはパン、ビニールでパックをされた餡、チョコ、クリームなどを詰めた
所謂菓子パン。小売では至極普通な形式だと後で知ったけれど、手渡された時
にはひどく戸惑った覚えがある。

「パンだとはわかってたのか?」
「それは勿論そうです………………って、兄さんは、私を何だと思ってるんで
すか?」
「い、いや、パンも知らないとか言いたいんじゃなくて、パンなのに食べ方の
何が分からなかったのかなと思って。
もしかして袋の開け方、またはマナー?」
「それも分かってました。と言いますか、薄手の袋でどうにでも開けて構わな
いでしょう」
「じゃあ何?」
「開けた後にどうするかです。袋から出す手段もないし、出した先のお皿もな
いし、ナプキンで包むでもないし、そこからどうするかがあの時には分からな
かったんです」
「なるほどな。手で掴んで食べるとは思わなかったのか?」
「そんな、手掴みと言う習慣はありません」
「だったら直接袋に口をつけるは?」
「普通に誰でも触っている外側に、直接口をなんて少なくとも選択肢に浮かん
では来ませんでしたね」

 私の常識に照らし合わせられない、当時菓子パンはかなり未知の食べ物だっ
た。正直兄さんに教えてもらえなければ、昼食は抜き、家に持ち帰って琥珀に
質問する羽目になったことだろう。

「そっか、手も口もなしか。当たり前過ぎて気にした事もないんだけどな」

 生活圏に無かったのだから仕方がないと思うが、私の回答に兄さんは逆の意
味でのカルチャーショックを相当に受けたみたい。しきりに肯き一人で納得し
ている。

 一方的に言われるのが何だか癪になって、遠野の屋敷での食事の時には、兄
さんも居心地悪そうにしていたと指摘する。あまり素直でない態度だと解って
いるけれど、ついつい負けず嫌いな面が顔を出してしまう。相手が兄さんなの
に、我ながら可愛くない。

「う〜ん、そうかな。和食が中心だったから、フォークとナイフだと緊張する
のかも。あ、いやだけど、食べ方が分からないことは今までにないぞ?」
「それは琥珀が気を使ってくれているんです」
「え、そうなんだ?」

 首を傾げる兄さんに、逆に手で食べるのが当然の食材や、和食では出合う機
会の無いもの幾つかをそのマナーを含めて教えると、兄さんは今度こそ得心が
いったと深く首肯した。同時に珍しく、むず痒くなる程に誉めそやしてくれる。

「そんなの良く知ってるな。
マナーの本でも見ないと普通は縁のない事なのに。まあ、習い事の一環な?」
「それほど仰々しいものではありません。
兄さんとは逆で洋食が中心でしたから、そのうちで自然と身に付いたんです」
「秋葉にとってはフォークとナイフが普通か。確かに借りて来たような感じが
まるでないからな、食べてる時の秋葉を見てても。
そもそも和洋の区別なくぜんぜん自然体で、しかも凛と気品が溢れている」
「そ、そうですか?」
「ああ、感心したよ、秋葉は完璧にお嬢様だな」
「え?」


――――――秋葉はお嬢様


 何気なく兄さんが言った。その表情や言葉の響きは、何故だか慣れた感覚が
ある気がした。一体なんだろうか?

 ああ、そうだ、浅上で私に向けられていたモノに似ているのだ。曰く、全て
を持ち、全てを完璧にこなし、全てを意のままにして、流石は遠野秋葉様、遠
野家のご令嬢、上級下級に関係無く、時には教師さえも、憧れ、または妬みを
籠めて私を評した。

 所謂名門な筈の浅上でさえ曖昧であるお嬢様と言うイメージを私は張り付け
られる事が多かった。或いは、そうであると各人が信じるお嬢様像を押し付け
られていたのかもしれない。

 他愛ないものから、不愉快なものまで、色々とあったけれど大して気にはし
ていなかった。矜持の為に演じたりも、時に敢えて偶像を利用したりもしたが、
なによりも自分は自分であり、私の表面、それも一部をなぞって決められた事
など些細なことだと思っていた。

 でも、それが兄さんだと全く違った。赤の他人に思われるのと、兄さんとで
は雲泥の差がある。

 お嬢様だなんて、兄さんは私をそう捉えているのだろうか?いつでも兄さん
の後を追い掛けていた、小さい秋葉では最早なくなっているのだろうか?あの
頃の――――切ない程の楽しかった日々の私は兄さんの中で昔日のものになっ
ているのだろうか?止処ない思考が渦を巻き、心を惑わせた。

「秋葉、どうかしたのか?」
「………いえ、なんでもありません」




 冷静になれば、会話の流れから出ただけで、格別の意味が無かったのは理解
していた。でも、胸の奥に何かがつかえて取れない感じがする。

 それは屋敷に戻っても、夕食が終わっても消えず、まんじりともしない夜の
訪れを予感させた。

 このまま部屋でじっとしていると、もやもやとした感覚が余計に増す気がす
る。冷たい物で気分を変えたい。

 深夜には程遠い時間に早々と夜が支配する屋敷、その中でも最も静まった場
所の一つである調理場へ足を運んだ。

「琥珀……いない?」

 しんとした空間、とうに片付けも終わり誰の姿も無いのは具合が良い。みっ
ともない不機嫌な顔を見られなくてすむから。

 ナイトキャップの気分ではなかったから、私はフリーザーを開けて中を覗い
てみた。ひんやりとした冷気が白く舞い降りて、苛立ちを少しだけさませてく
れる。

「………………」

 静かにフリーザー内を物色しつつ、やはり考えるのは兄さんの事だけど、自
分でもどんな答えを求めてるのか、なにを確認したいのか、上手く形にならず
に漠然としている。考えれば考えるほど思考の迷宮に嵌るみたい。

 いっそ千々に乱れた心のままをぶつけてみようか?そう、今から兄さんの部
屋に行ったらどうだろう?でも何と説明すれば良いのか?変だと思われない
か?

 ああ、なにもかも、分からない事ばかり。解けないパズルの連続。

 せめて兄さんの部屋に行く理由があれば良いのに。


―――――――もう、やっぱりバカみたい。


 食事のマナーでもあるまいし、きっちりとした理由から探してでないと、兄
さんの部屋を訪ねられないなんて、私もどうかしてる。普通ならば胸を高鳴ら
せて行くクセに、肝腎な時に限って躊躇いが先行してしまうなんて、本当にバ
カみたいだ。

「なにコレは?」

 またぞろ苛立ちが強くなろうとした折り、がさりと手に触れた薄手のビニー
ル袋。表には原色のデザインが安っぽいソレには氷菓子とあった。何からなに
までどう見ても子供向けの品。

「琥珀が買ったのかしら?」

 八つ当たり気味に屋敷にこんな余計な物を買ってと琥珀に文句でもと思った
時、天啓の如き閃きが舞い降りた。気分転換には使えなくても、別の方には、
兄さんを訪ねるのにはぴったりではないか。



 数分後、冷たいビニールの感触を手にして兄さんの部屋の前にいた。

「兄さん、まだ起きてますか?」

 控え目にノックをすると、果たして兄さんは起きていた。深夜でもない、か
と言って気軽に行き来するのにも相応しくない、そんな微妙な時間の唐突な来
訪に驚きはしたものの、部屋には快く入れてくれた。

 どうしたんだと訊く兄さんに、冷たいものが欲しくて見付けたものがコレだ
と例の氷菓子を出して見せた。兄さんには馴染みの物だったらしい。

「ああ、チュウチュウ吸うヤツか。この家には珍しい物かな。
琥珀さんが買って来たのかな?」
「多分そうでしょう」
「買い物帰りに駄菓子屋へ寄ってそうだからな、琥珀さん。
で、それを見せに来たの?」
「いえ、他には適当なものがなかったので。
それで、あの兄さんに食べ方を…………」
「ああ、なんだパンのことを気にしてるのか?」

 食べ方ならば琥珀に訊く方が良いのに、態々こんな時間に来たのだから、兄
さんも直ぐに帰り路の話と繋がったみたいだ。そして私らしい行動だと思った
のか、クスクスと笑いながら説明してくれる。

 兄さんと私は、ベットの端に並んで座り、まるで寄り道をする子供達みたい
に氷菓子を。

「ビニールは適当に破って中身を出すと……ほら、こんなふうに二本つながっ
て入ってるんだ。まあ結局はジュースを凍らせた様なものかな?実際凍らせな
いでそのまま飲んだりもする」
「コレ、開け口は?どこから食べるんですか?」
「この細くなってるところ。開け方は、あーその口で齧って取るんだ。
後は溶けた分をじっくりチュウチュウと吸うか、はたまた手で粉々にしたり、
やっぱり齧ったりして中を出して行くんだよ」

 内包されていた双子のチューブ、その片割れを兄さんは実際に食べてみせて
くれた。手だけではなく、口も使いガリガリと音をさせて、かなり乱暴で無作
法で、兄さんも同じ事を思った様だ。

「うーん、秋葉にはちょっと合わないか。
流石に齧りとってチュウチュウとかは抵抗あるだろ?」
「いいえ、大丈夫ですから」
「そうか?じゃあ、やってみる?」
「はい」

 差し出される氷菓子、私は受け取る為に手を伸ばして、でも本当に触れたの
は兄さんの手。そっと顔を寄せて説明されたみたく口を、唇をつけたのは兄さ
んの指。勿論間違えた訳ではない。だったら兄さんの指に舌を這わせる事など
しない。

「え、あ、秋葉?」

 吃驚した兄さんの掌から冷たさが転がって落ちる。でも、私の方は構わず兄
さんの指に舌を絡めていく。部屋に来る切っ掛けを探していたのが嘘みたいに、
積極的に迷いも無く。

 兄さんの戸惑いが舌先に伝わる。突然の行動の意味が掴めず、さりとて振り
払う訳にも行かず、じっとするだけ。

 私はそれを良いことに、唾液を塗布しながら指の先から根元までを舐める。
一本を濡らして終わったら、次へ、また次へと兄さんの指全てを舌でなぞって、
溶けない氷菓子を懸命にしゃぶって味わう私。

 兄さん、どうして私がこんな事を始めたのか解らないでしょう?実は私だっ
てよく解らないんですから、安心してください。

 ちらりと見た兄さんの顔は、ほけっとした感じが可愛いかもしれない。でも、
こんな風に指を舐められて、何時までも呆けているのは失礼ですよ?

 私は窄めた唇を見せ付けて、そこへ兄さんの指をあてがい、ゆっくりと口の
中へ。終わりまで来たら、唾液の膜ができる位もっと時間を掛けて抜いてみせ
る。指先が顔を出しそうになったら、また同じ事を繰り返す。

「秋葉………」

 兄さんの声が掠れる。最後まで含んだ時、指の先がつうっと曲げられ舌の奥
を擽った。喉へと繋がる微妙な部分の感触を愉しむみたいに指先が。

 嘔吐きそうな刺激、苦しさに直結する筈が、どきどきと躰を疼かせる。喉奥
まで兄さんに嬲って欲しいと、より指をしゃぶった。

 呆れるほど淫らな反応。兄さん自身を口腔で愛撫している訳ではない、たん
に指を舐めているだけなのに、ああ、何ていやらしいのだろう。私に流れる淫
蕩な血がそうさせるているのだ。

「ん、んっ」

 兄さんが能動的に動き出した。絡めた舌をほどいて捏ね、歯茎や、舌裏の粘
膜を弄る。指と舌、粘液と空気を撹拌する音が部屋に響く。

 そうです、兄さん。もっと淫らな秋葉の口の中をいじめてください。息を詰
まらせても悦んでいる顔が見えるでしょう?喉を嘔吐かせて真っ赤になってい
るのが解りますか?


でもそれは、兄さん、貴方にだけ――――――。


 腹腔の中心にぽうっと燈る火。それは小さくとも高温で周囲の肉を炙って熔
かした。ドロリと真下に落ちる流れは、股間の出口へと続く女の隧道を甘くな
ぞり、内側から拡げて進む。あたかもぬるま湯が躰の裡から流れ出す感じで、
心地好さに肌が泡立つ。

 舌を摘ままれ軽く扱かれたり、上顎の粘膜を擦られたり、含む本数も増やさ
れ、私の口内はすっかり兄さんの遊び場となり、私は溢れた涎を垂らせて躰を
小刻みに震わせるようになった。

 お腹は甘美さを弥増して、熔けた感触が引っ切り無い。火のついた蝋燭みた
いに、ぽつぽつと滴りが落ちる勢いは強まる一方。もじもじとしてしまう内腿、
股間の合わせ目に意識が集中する。

「あ、あぁん!」

 やがてショーツがしっとりと合わせ目に張り付いた感触で、私は軽い絶頂を
味わってしまった。

 粘りが糸を引き口から兄さんの指が抜け落ちる。相当舐っていたのだろう、
指からは仄かに湯気が上がり、ふやけてしまっている。

 自分の物でない唾液で濡れそぼった指を鼻に近付け兄さんが言った。

「秋葉の甘い匂い」

 ああ、ぞくぞくする。
 自分のを嗅がれるのが恥ずかしく、それでいて興奮する。生乾きになった唾
液の何とも言えない匂いを、兄さんに知られるのが堪らない。羞恥を穿り返さ
れる露出の快感に、私はさらに下着を濡らしていた。

 これで止まれる筈もなく、私はベットに寝かされた。兄さんの濡れた指が頬
を撫で、首筋、そして襟元へと進む。

「ぃ…ぁ……んっ」

 手足を揃えている姿勢を崩させずに服の上からの愛撫。気付かないうちに大
分発汗していて、触れられる感覚がひどく生々しい。粘りついたショーツだけ
でなく、胸も直に指が触れているみたい。膨らみ全体を覆われて揉まれると、
しっとり掌に吸い付いた感じで、胸の芯に蕩ける疼きが生じる。

 兄さんは私のツボを的確に刺激し、時にわざと外して焦らしを加える。シ
ョーツの内側でニチャニチャと音をさせる花芯を丁寧になぞったかと思えば、
いきそうなタイミングで下腹部の盛り上がりを撫でたり、胸の蕾みを転がし摘
まみ尖らせ切ったところで、その周囲を指先で軽くなぞるだけになったり、緩
急をつけて私の官能を燃え上がらせる。

「は、ぅ…ぁ…兄さん」

 ベットのスプリングを何度軋ませたことだろう。私の躰は舐めて濡らした兄
さんの指と同じに、いえもっと卑猥な状態になっていた。じっとりと湿った服
を取れば、茹で上がったみたいな私があらわれるに違いない。

 肌を晒して、剥き出しの器官に指を挿れたりした訳でもないのに、あまりに
も熱くなって桃色に霞んだ視界が揺れていた。

 ひくつく割れ目は下手をすれば、粗相をしかねない位ほころび、奥に続く襞
の連なりも力が抜けている。はやく、はやく、兄さんに塞いで欲しい、頭に浮
かぶのはもうそれだけ。膝を立てて私は兄さんに強請った。

「まだ琥珀と翡翠が起きていますから…………」
「わかった」

 兄さんが覆い被さる。服は着たまま、スカートのたくし上げも最小限に、け
れど大胆なまでに肢を曲げられ、ずらしたショーツの合間から、泥濘に挿入さ
れる硬い欲望。

 恥蜜の粘りで接着していた内壁がどんどん剥がされて、私を遡るほんの少し
の奇妙な違和感と、お腹を内側から押し上げられる充実感。腿を上げて筋が引
き攣っているから、花びらが捲られて挿入されている感触がとても鮮明だ。

「秋葉、奥まで…ん」
「ぅ…ぁ…に、兄さんっ」

 そこからは言葉を交わさないのが約束のように、熱気が籠った静寂が部屋を
満たした。押し殺した二人の呻きが、僅かな細波となるだけ。

 肉で構成されているとは信じられない兄さんのは、逞しい湾曲で私の内部を
その形状に修正する。私のカーブと一番違う部分は、やはり奥まった関門で、
その付近での密着感は言葉にできないほど。兄さんが律動を始めると、直ぐ様
に粘膜を剥ぎ取られてごしごしと摩擦された。

 ただでさえ発熱し熟れている場所は、兄さんに何度も擦られ敏感になってい
る場所であり、痺れる快感で躰の中心を貫いてくる。数度の往復で内奥がぎゅ
っと収縮して、私は目眩く絶頂に痙攣する。

 私の締め付けを味わう兄さんも常よりも激しい。抽送は寧ろ穏やかだけれど、
内に溜め込んだ滾りが高密度とでも言うのだろうか、花芯を抉る一撃一撃が私
を貫通して喉から出て来そうなくらい力強い。絡み付く肉の凹凸をものともせ
ず逆に強張りの張り出しで私を削ってしまう。

「く……ふうぅ…っ」

 太腿を強く掴まれ、一層あられもなく開脚させられた。靴はそのままなのに
上半分が晒される。

 こんなのが好きですよね、兄さんは。恥ずかしい草叢だって裸にしてまさぐ
れると言うのに、正反対に隠して愉しむのが。

 息んで強張りの形を確かめると、肯定するみたく兄さんが脈打った。

 ふふ、私もそう、そんな風に兄さんに染められました。

 普段と変わりない姿で、言葉をなくして交わっているのが興奮する。弾ける
様に肉と肉とぶつけられない変わりに、制約が、禁忌を犯す背徳に似た感覚が
躰の裡を堪らなく蕩けさせる。

 お互いの耳元で囁き合っても別段問題ないのに、だから押し黙って牡と牝の
粘膜を擦り合わせて快楽を内部に籠らせる。

 でも、一人で悶えていた時よりも明らかに大きなベットの軋む音が、真っ白
になってただ快楽に耽るのを許さない。

 兄さんの強張りを奥深くに咥え込んで艶声を放って悦んでいるのを、その淫
奔さ加減を責め立てる。或いはそう意識する事で、被虐的な悦楽を堪能したい。


――――――ああ、兄さんの先が気持ち良い。


 不規則に兄さんの先端が肉壁を叩いている。一段と太くなった気がする。私
の収縮も強くなったのかも。

 濁った汁が止処なく内側から湧いている。それでも何度も往復している内に、
溢れた腺液が空気を含んで粘り付き、ショーツまで絡め取りそう。汗で張り付
く服が躰を拘束して、少しの身動ぎでも肌を刺激して愛撫の様に感じてしまう。

 兄さんの動きで女の器官が振動して躰の中身全てが揺動する。それは重く響
く快感。こうして内臓から良くなってしまうのを何と言ったか?確か兄さんに
教えてもらったけれど、もう思考が纏まらない。

 躰の内側から粟立つみたいで、背筋を甘々しい疼きが行き来する。快美な果
てが数え切れなく私を洗い、もう終わりが近付いているが解る。兄さんのリズ
ムも短く、そして早いものになり、強張りも脈動している。

 爛れた粘膜に馴染んだ射精の前触れ。しとどになった媚肉でどのくらい擦れ
たら、兄さんの表情の切なさと心地好さの度合いがどうなったら、あの灼けそ
うな体液が放たれるのか、この頃は何となくだけど判るようになった。

 もうすぐなんですね、兄さん?今日はいつになく不可解な行動で兄さんを困
惑させたのだから、最後は兄さんに。

 こんなのが良いだろうと、こっそり練習した吐息めいた喘ぎで兄さんの耳を
擽り、お尻を前に突き出して硬い先端を奥の盛り上がりにキスさせる。同時に
腹筋と後ろのう窄まりをいきませて、兄さんを強く噛み締める。


―――――あ、ああ、もう兄さん、いってください。


 でないと、私の方が先に……快感に流されてしまうから、ダ、ダメ、い、い
ってしまう!!

 熱い兄さんの樹液の奔流を奥に感じたのと、蕩け切って躰が消えてしまいそ
うになったのは、どちらが先か?

 兄さんの方だったら嬉しいけれど、同時だとしたらもっと嬉しい。

 充血した秘肉を捏ね回されて何を夢見ているのかと思うが、やはり一緒に極
まりたい、兄さんと一緒が好きだから。




 激情は過ぎて怠惰にベットの上で微睡むような。

 隣には兄さんの温もりが在って、快楽の余韻は未だに燻ぶり続ける。頭にか
かる霞みも晴れ上がった訳ではない。

 しかし、そんな状態だから、そして快感のうねりが躊躇いを流してしまった
から、兄さんの疑問にある程度は答えられた。即ちお嬢様という一言がどうし
ても引っ掛かり、どうしようもない気分になったと。

「あまり深い意味は無かったんだけどな」
「いえ、それは多分そうだとは思ってましたけど」
「いや、悪かったよ。
決まり切ったイメージみたいのを押し付けられたら嫌だよな」
「でも、やっぱり兄さんにはお嬢様としてうつるんですよね?」
「なんと言うか秋葉にはお嬢様の魅力があるって感じが一番近いかな?
こうやって隣に寝ている秋葉とか、一緒に帰ってる時とか、怒った時とか、拗
ねてる時とか、色々な秋葉を見せてくれるけど、どんな秋葉でも………うーん、
言葉で説明するのは難しいんだけど。
ああ、ごめん何を言ってるのか解らないよな」

 途中でごにょごにょと口を濁した兄さん。でも私にははっきりと聞こえまし
た。

 お嬢様の魅力なんて可笑しなことで胡魔化してはいたけれど、結局それは私
が一番聞きたかった事。妙に鈍感なくせに何故か兄さんは、自分でも分からな
い求める答えをくれるのだ。

 もしかしたら全ては兄さんの中にあるのかもしれない―――――ああ、どう
だろう、ちょっとロマンチックが過ぎるかも?

 こんな風に夢見るのも私、氷菓子片手に押し掛けるのも私。

 そう、お嬢様の遠野秋葉ではない、遠野秋葉がお嬢様なのだ。
兄さんは触れるのが叶わぬ憧憬を、遠くに眺める視線では私を見てしなかった。
それが真実で、単純な様で深く深くにある、兄さんと私との答えはそうなのだ。

 本当の晴れ上がりが訪れた。濡れた服と下着が蒸れたみたいで、まったく全
然気持ち良くないけれど、私の内で黒々と蟠っていたものは氷解した。何だか
欲求不満が解消された見たいなのは恥ずかしいけれど、偶には良いと思う。

 たぶん笑みがこぼれてしまったのだろう、そこから兄さんは恥ずかしい事を
きちんと聞かれたのを察して、何とも照れた表情になり、それでも茶化すでも
ない真面目な口調で言った。

「しかし秋葉もパンで勉強したから、包んだままで食べるのは慣れていたな」
「あ、せっかく持って来たのに落したままで………」
「いやいや、そっちじゃなくて、さ」
「え?」

 一転して妙にニヤニヤとした視線の先は、粘液に濡れたままの兄さんが。即
ち服と包装をかけての冗談のつもりなのだ。

 はあ、時々繰り出されるこの手の事には、どうしてもため息が出てしまう。
卑猥が嫌いとかではなくて、使い古した胡麻油みたいな感性が合わないと言う
か、何と言うか。

 私の反応の悪さに、情後または未だ途中とは取れない仏頂面に、兄さんは虎
の尾を踏んだみたいな顔になって慌て始めた。

 ああもう平気ですよ、兄さん。普通ならば怒りますけれど、今の私はかなり
寛容な気分ですからムードを壊しても大丈夫です。

―――――――いえ、今はではなくて、貴方が私の意思を確認してくれさえす
れば、如何なる時でも私は“ハイ”と応えます。

 そうです、それはどんな時でも変わらない私の真実。

 ただこの場は、別の答えが良いでしょうね。悪戯っぽく笑い、私は兄さんに
やり返す。

「そういう兄さんは、流石に包装されたのに慣れてますね。
包んだままでも上手に食べてしまうんですから」

 私はスカートをそっとスカートを捲り、膝頭の感覚を拡げて見せた。
ドロドロな感触に支配された場所を晒して続ける。

「ですから、もう一度私に教えていただけませんか?」



              《終了》





 

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