シーツを替えて

作:しにを

 




 良いお天気。
 シーツの交換とお洗濯。
 何日かぐずついたお天気だったから、今のうち
 晴れるのは気持ち良いけど暑くなりそうだし、早めにすませよう。

 まずは秋葉さまのお部屋。
 柔らかくて大きなベッド。
 ふわふわ。
 こんなベッドで眠ったらどんな感じなのだろう?
 かえって眠れなくなりそう。
 やはり秋葉さまみたいなお嬢様でないと。
 
 ……さあ、早くしよう。
 お布団を……?
 あッ。
 ……。
 姉さんが言っていた……、これ。
 うん、秋葉さまの匂い。
 秋葉さまが一人で、ご自分をお慰めになった移り香。
 夜ではなくて、これは朝だろうか。

 わたしを見てちょっぴり視線を外していたから、きっと朝ですよ、朝。

 姉さんの嬉しそうな声が耳に甦る。
 そんな事を聞かされても、わたしとしては何もしようがないのだけど。
 前に、秋葉さまのシーツが濡れていたと姉さんに話したりしなければ。
 
 それはね、翡翠ちゃん。志貴さんを想われて、秋葉さまが……。

 まるで見たかのように、秋葉さまの行為を語り始めた姉さん。
 止めるに止められなくて。
 それに、秋葉さまが……と想像すると、少しだけ、ほんの少しだけ……。
 主の醜聞じみた事に興味を示すなんて、わたしはメイドとして失格だ。
 わたしは何ていやらしいんだろう。
 反省しないと。
 
 でも、やっぱり秋葉さまも……なさるんだ。
 自分の指で、志貴さまを思われて、胸やあそこに触れて。
 これが志貴さまの指だったらと思って。
 そして体を熱くして、声を堪えて。
 そんな風に、なさっているんだ。
 わたしが時々志貴さまを想うように……。

 前も、私がこっそり濡れた下着を洗おうとした時、秋葉さまのものが他の洗
濯物に紛れていた事があったけど。一回や二回ではなく。
 それらは姉さんが処理する事になっているけど。

 偶然、覗いてしまった事もあるのよ、翡翠ちゃん。
 見るからに話したそうな姉さんをわたしは冷たく見つめただけだったけど。
 そうしたらがっかり顔。

 凄く可愛くて、見惚れちゃうのに……。
 じゃあ翡翠ちゃんは、秋葉さまの普通じゃない下着はわたしに任せてね。
 オンナの匂いとか、おもらしの跡とかは始末しなくていいから。
 翡翠ちゃんが秋葉さまへの敬意を減らしてしまうといけないから。

 そんな事ないのに……。
 少し頭を振って気持ちを切り替える。
 シーツを交換し、ざっとお部屋の様子を確認。
 秋葉さまは、部屋をいつも綺麗にされているから、特に何も無いのだけど。
 ベッド、本棚、鏡台、チェスト、机。
 そう言えば机に志貴さまの写真をお入れになっているって姉さんが。
 もちろん、主の私物を探るような最低な行為はしないけど、少し気になる。
 
 写真だけでなくて、本もあるんですよ。
 男の子同士のえっちなお話とか。
 兄妹モノとか。
 秋葉さまもディープですねえ。

 ちゃんと姉さんに言い聞かせないと。
 でも、男の子同士って何だろう。
 ボーイズラブとか、瀬尾さまも言ってらしたけど?
 少し興味が……。
 志貴さまはご存知だろうか。
 今度、お聞きしてみよう。




                 ◇



 姉さんの部屋。
 少し、躊躇いを感じる。
 志貴さま、秋葉さまのお部屋に入る時は感じないのに。
 うん、シーツ交換するだけ。
 入りますね、姉さん。
 
 ……。
 乱雑。
 なんでこんなに散らかっているの?
 この有り様を見ると、さっきの気後れに似たものは消えてしまう。
 せめてわたしに整理させてくれればいいのに。
 でも遠慮でなくて、あんなに嫌がられると無理強いできない。
 
 翡翠ちゃんには危険がいっぱいなのよーって。
 どうして普通のお部屋が危険な状態に……。
 でも、前にガラス器具を片付けようとして手を傷つけた事があった。
 指が紫色に変色して、姉さんが泣きながら手当してくれて。
 そんな看護も、涙を流しながら叱ってくれたのも嬉しかったっけ。
 ……でも、わたしが悪かったのかしら、あれは?

 一応、姉さんには片付けをお願いしてみよう。
 掃除はしているみたいで汚れは少ないけど、これではあんまりだ。
 お手伝いだけでも、わたしにさせてくれたら。
 だけど……。
 志貴さまは、ここが居心地良いと前に仰られていた。
 そうなんだろうか。
 わたしの方が変なのかな?

 いえ、そんな事はない。
 志貴さまも少しだらしない処がおありだから。
 少しずつでも改善を図って頂かないと。
 秋葉さまも、賛成なさって下さるだろう。

 さてと。
 うん、これでいい。
 姉さんにも気持ち良く眠ってもらえそう。
 いつもお料理したり、いっぱい働いているのだもの。
 休む時は、少しでも気持ち良くなれるように。
 お布団もそろそろお日様に当てたいけど、それはまた今度に。

 こちらの箱を戻して、と。
 ……。
 でも、これ何だろう。
 いつも不思議。
 針の無い注射器なんて何にするのだろう?
 ロープはまだわかるのだけど、このネックレスみたいなものは?
 姉さんはこんな飾り物なんて使わないのに。
 それに、ちょっと玉が大きくてあまり趣味がよくない……。
 いらないものならしまっておかないだろうし。
 こんなバネが緩んだ洗濯バサミとか、他にいろいろお医者様が使うような器
具とか。
 わからない。
 でも、何だか姉さんに確認してはいけない気がするのは何故だろう。
 うん、詮索はしないでおこう。

 後は、特にはすぐ始末するようなものは……。
 あ、これは……。
 志貴さまの写真。
 なんで、こんなにいっぱい。
 これもこれも、あ、これも見た事が無い。
 少し幼いみたい。
 有間のお家におられた時のものかしら……。

 可愛い。
 志貴さまの事、そんな風に思うのいけないかもしれないけど。
 でも……、やっぱり可愛い。
 わたしの知らない志貴さま。
 今とは笑い方が違う。 
 寂しそうな、ううん、何だろう……。

 こんな処にいっぱい志貴さまの写真を置いて。
 ……。
 姉さんも、…かな。
 姉さんも志貴さまを想って……。
 一人で夜に、手を……。
 わたしみた…。
 いけない。
 何を考えている…でも……。

 恥ずかしい事で。
 誰にも秘密で。
 志貴さまを自ら貶めるような事かもしれないけど。
 いけない事じゃない、と思う。
 せめて、志貴さまに、夢の中だけでも愛されたいと思って……。
 それは決して、だから。
 でも、今朝はどうかしていた。
 なんで朝から。
 何か夢でも見たのだろうか。
 下着の湿り気を覚えて、そして……。
 志貴さまのお顔がまともに見られなかった。

 姉さんはどうやっているのだろう。
 わたしとは違うのだろうか。
 
 わたしは……。
 服をはだけて、下着を完全には外さなくて。
 裸にはなれない。
 自分に言い訳するように、あくまで脱がないで。

 そして手で触れる。
 胸を押さえるようにして。
 もう一つの手を、もっと下へ。
 でも、ためらって、しばらくそこへは近づけなくて。
 体が熱くなって、それから指を触れさせる。

 自分でもよくわからない処。
 お風呂で、鏡に写して見たりはしたけど、わからない変な処。
 そこに指を忍ばせる。
 どきどきして。
 怖くて。
 でも、指先を入れてそっと動かしてみる。
 そうしていると、潤んで、熱くなって、指がぴちゃぴちゃ音を立てる。
 それだけで、声が洩れて、呼吸が変になって。
 すがるように何かを求める。
 おかしくなっていく自分を繋ぎ止めたくて。
 志貴さまを。

 志貴さまの姿を思い浮かべて。
 志貴さまの声を聞いて。
 志貴さまの写真を見つめて。
 そうすると気持ち良くなる。
 どきどきが気持ちよさに変わる。
 指は止めようもなく……。

 姉さんはどうなのだろう。
 もっと凄い事をするのだろうか。

 わたしにこんな行為を唆したのは姉さんだ。
 きちんと教えた訳では無い。
 やってみなさいと言った訳では無い。
 でも、気がついたら、ここが男性を迎える処だと私は知っていた。
 自分の指でその辺りを触れて弄ると、男性にされるのと同じ快感を覚えるの
だと知っていた。
 それは、決しておかしな行為ではないと知っていた。
 どう、伝えられただろう。
 憶えていない。
 でも、確かに姉さんが教育してくれたのだ。
 断片の知識を折々、わたしに与えて。

 ならば、姉さんもしているのだろう。
 どんな声を出すのだろう。
 どんな顔をするのだろう。
 こんなためらいがちではなく、もっと指は激しく動くのだろうか。
 浅く、突付くだけではなくて、奥まで指を入れて。
 それはどんな感覚だろう。
 奥のざらざらとした処とか言っていただろうか。
 そこはどんな感じなのだろう。
 指で触れたら、気持ち良いのだろうか。

 ここも。
 触れると硬くなって、押すと悲鳴が出るほど感じて、でも気持ち良いここか
らも、もっともっと違った刺激を得るのだろうか。
 ただそっと触れるだけでなくて。
 指で軽く摘んだらどうなるのだろう。
 もっとぎゅっと押したらどれほど感じるだろう。
 わたしには怖くて出来ない。
 でも……。

 きゃっ。
 びっくりした。
 カタン、て音。
 何かしら。

 あ、これ。
 前に皆で順番に写真を撮ってみた時の。
 志貴さまと姉さんの一緒に映った。
 ……。
 なんて、嬉しそうな顔。
 いつもの笑顔とは違う。
 姉さん……。

 ……。
 ごめんなさい、姉さん。
 想像で、姉さんを貶めるような事を。
 恥ずかしい。
 わたし、何を考えているんだろう。
 実の姉が、慰めている光景を思い浮かべるなんて……。
 いやらしい。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 わたしは恥知らずだ。
 こんな……。

 しばらく姉さんの顔が見られない。



                 ◇



 最後は志貴さまのお部屋。
 どうして最後にしてしまうのだろう。
 順番からすれば、最初でも良いのに。
 
 入ります、志貴さま。

 朝とは違う。
 志貴さまのいない志貴さまのお部屋。
 他の部屋とは違う。
 志貴さまはいないけど、志貴さまを感じる。
 志貴さまの匂いがする。
 ……。
 何を考えているのだろう。
 でも、志貴さまだ。

 シーツを替えたりすると、どきどきする事がある。
 姉さんはどうなのかな。
 こんな事をちらりとでも話したら、おかしいと言われてしまうから言わない
けど。
 
 さて、と。
 あ、シーツの端が。
 乗ったほうが早いかな。
 失礼します、志貴さま。
 さあ、これでよし。
 ……。
 ちょっとだけ。
 そう、ちょっとだけ。
 一度試してみたかった……。
 いいですか、志貴さま。
 お許しください。

 ああ。
 志貴さまのベッドに寝てしまった。
 ふふ。
 志貴さまの匂い。
 うん……、どきどきする。
 でも、幸せだなあ。
 
 ええと?
 何かしら、これ。
 え……。
 志貴さまの下着。
 どうして?
 洗濯したものでない。
 濡れてる。

 おねしょ?
 まさか。 
 お布団は濡れていないし。

 うん、何だろう。
 変な匂い。
 わからない。
 何だろう、もっと……。
 嫌な匂いではないけど?

 パンツの内側から。
 だいぶ布地が吸ってるみたいだけど、これねばねばしている。
 うん……。
 ずっと匂いが濃い。
 白くて、透明で、濁ったところも……。

 もしかして。
 これ……。
 志貴さまの?
 男の人が出す……。





 あ、頭が真っ白に……、なった。
 こんな。
 やだ。
 でも。
 投げ捨てて、悲鳴を上げてもいいのに。
 何で、わたしまだ志貴さまのパンツを手にしたままなんだろう。
 気が動転しすぎて反応できなかったのかな。
 違うみたい。
 ……。
 興味あるのかな、これに。
 志貴さまの精液。

 でも……。
 そんなに気持ち悪くは無い。
 生卵とか、そういうものみたいだし。
 志貴さまのだから、平気なのかな。
 そうかもしれない。
 
 どんななのかな。
 触ったら。
 ……。
 何を考えているんだろう、わたし。
 でも、こんな事、もう無いかもしれない。

 こんな風なんだ。
 水っぽい処と、どろどろしている処。
 そんなに変な感触じゃない。
 ふーん。
 これが、志貴さまの精液なんだ。

 うん…ふぅ……。
 近くで匂いを嗅ぐと、何だろう、ぽうっとなるみたい。
 これは、そうだ、お酒の匂いを嗅いだ時みたい。
 指に突いたのでなくて、こっちなら。
 鼻につきそうな程、近くで……。
 どうにかなっちゃうかな。

 ダメ。
 そんな、ダメ。
 あ、ああ。
 ん……はぁ……。
 くらくらする。
 なんて凄い匂い。
 変な匂いなのに、こんな……。
 あ、体が変。
 何だか切ない。
 どうしたんだろう。
 わたし、変だ。

 もう、止めなきゃ。
 お仕事……。
 そうだ、お仕事しないと。

 こんなバカな真似。
 誰かに見られたら。
 志貴さまや秋葉さまに見られたら、わたし生きていけない。
 こんな精液の匂いをうっとりと……。
 え、わたし。
 うっとり?
 そ…う、なんだ……。
 違う、でも……。
 
 そうだ、もう一度だけ。
 ほら、全然、平気。
 舐めるのだって平気だろう。
 志貴さまの体液を舐める事だって平気で、平気……?

 ……。
 ……。
 ……。
 正気じゃない。
 何を考えているの、わたしは。
 そんな、気が狂ったような真似。
 精液を舐めるなんて。

 さあ、行こう。
 これはお洗濯してしまおう。
 
 あれ、体に力が入らない。
 熱っぽくて。
 どう…し…た……の……?

 あ、ああ。
 体が勝手に。
 やだ、ダメ。
 さあ、早く。
 違う。
 ダメよ、舌をこんな…こん……ぴちゃ、ちゅっ……。

 志貴さまの。
 志貴さまの精液。
 変な味。
 気持ち悪い。
 舌にねばって絡んで。
 生臭くて。
 でも。
 もっと……。

 ああ、わたし変な女の子だったんだ。 
 こんな、志貴さまのお留守に、ベッドの上に横たわって。
 志貴さまのパンツを舐めて。
 精液をしゃぶって。

 こんな姿、誰にも見せられない。
 姉さんだって、こんな姿見たら呆れかえって。
 軽蔑される。
 こんな変態の妹を軽蔑する。

 姉さんに、蔑みの目で見られる?
 ああ、体が震える。
 ぞくぞくする。
 怖くて、ぞっとして、でも、わたし……。
 
 んん、ふぅ……。
 体が熱い。
 何?
 急に服を着ているのが、ひゃん……、何もしていないのに。
 これ、何なの?

 幾らなんでも、それは。
 志貴さまのベッドで、そんな真似は……。

 姉さんだっていつ戻って来るか。
 いつ、やって来るかわからない。

 どう思うだろう。
 こんな、もどかしくボタンを外している姿を。
 こんな、下着をずらしている姿を。
 こんな、もう胸の先を敏感にしている姿を。

 見られてはいけない。
 こんな、もじもじと太股を擦り合わせている姿を。
 こんな、スカートを捲り上げている姿を。
 こんな、下着をぐしょりと濡らしている姿を。
 
 考えただけで、こんなに。
 それにちょっと指を滑らせるだけ……、ふぁぁああんッッ。
 凄い、何…これ?
 びりびりくる。
 
 ああ、もっと……。
 姉さんが、階段を上がってくる。
 姉さんが、廊下を歩いている。
 姉さんが、ドアを……。

 こんな妹が恥ずかしい姿でいる事なんてまったく想像しないで。
 こんな唇を精液で濡らしてぴちゃぴちゃ舌を動かしているとは思いもよらず。
 こんな下着を脱ぎかけて、シーツまでぐっしょりさせているとは知らないで。

 そして開ける!



 え?
 

 
 ね、ね、姉さん?
 なんで。
 なんで、姉さん。
 本当はもっと遅くまで出掛けている筈……。

 違う、違うの、姉さん。
 違うのよ。

 泣いてる。
 姉さんが涙をぼろぼろ流している。
 
 翡翠ちゃんが壊れちゃったって、そんな……。
 
 ああ、もう、どうすればいいの。
 志貴さま。
 
 え、何、姉さん。
 こうなったのもわたしの責任って、ちょっと……。
 きゃあ。

 共に堕ちるのも幸せって、姉さん。
 何を、姉さんってば。
 ちょ……ん…ちぅ…んんッ、あ…んん……ッ……。

 待って、あん。
 やだ、そんな処。
 あ、姉さんの体、柔らかい。
 違います。
 だから、そんな目で、いいのよ翡翠ちゃんじゃなくて。
 
 そこダメ。
 あッ……、やぁぁん…………。
 そんな処を舐めないで。
 ひゃん、あ…ああ……ッッ。

 何で、こんな事に…ああああッッ。  
 
 《おしまい》

 

 

 

―――あとがき

 こちらの作品はサイトの50万ヒットの企画作品で、過去作品の改変といっ
たテーマでリクエスト頂いて書いたものの一つになります。
 出題者は、鰯丸さん。
 リク内容は「『鬼の居ぬ間の』を翡翠の一人称」でした。配役チェンジと受
けとめたのですが、よかったのかな? あいにく「凄くいやらしくなるような」
という期待には添えませんでした、すみませんです。

 かなり翡翠をアレな人にしてしまい、慙愧の思いですが……。
 秋葉ならいざ知らず。
 最後は、パンツ持って真っ赤になって立ち往生していたら、琥珀さんとばっ
たりで大わらわ位にしておけば良かったかなあ。


 ※元作品は、MoonGazer様への寄稿作です。
  統一シチュエーション企画第二回「琥珀さん一人遊び」コーナーにあります。


  by しにを(2003/7/4)


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