休日

作:しにを

            




「何よ……」
「うん?」

 手触りの良い艶やかな流れ。
 機械的に凛の髪を弄っていた手が止まっていた。
 それに気がついたのだろう。
 問うように凛がこちらに目を向けている。

「ああ、何でもない」
「嘘。何か考えてた」

 凛が少し口を尖らせる。
 相変わらずだな。
 こんな処は全然変わらない。
 凄く可愛くなっても。
 凄く柔らかくなっても。
 こんな関係になる前の凛と同じ。それが何だか嬉しい。

「信じられないな、と思ってさ。
 凛とこうしているなんてさ」
「あ……」

 こうして、と言う部分を僅かに強調する。
 いろんな意味を込めて、凛にいろいろと思い出させるように。
 じっと反応を待つ。
 こんな時の凛の反応は二つ。
 照れを隠すように怒るか、恥ずかしがる姿を見せるか。 

 今回はどうだろう。間近にあった凛の顔を見つめる。
 凛はぱっと顔を赤くしてしまう。
 少し俯き加減。
 後者だな、それを見て、先に手を前に回す。
 もともと、俺の腕の中におさまっていた凛を、もっと拘束してしまう。
 柔らかい胸が手と腕に触れる。
 それほど大きい訳では無いけど、形よく半球を作る凛の胸が心地よい感触を
伝える。
 柔らかいけれど、それよりも張りを感じさせる。
 抱き締めた時の何とも言えない弾力。
 これは、まるで違う。
 俺の良く知る、もうひとりの女の子とは全然異なる。

「最初は、俺に敵意剥き出しだったしさ」
「そ、それはそうよ」

 軽く身を捩って、でも凛はすぐに抵抗を止めた。
 また、ぽすんと背中を俺の胸に預ける。
 凛の髪がくすぐるように俺の胸と腹に触れた。
 さっきの動きで、サイドで髪を束ねたリボンが緩んでいる。
 甘い匂い。
 柔らかさ。
 その重み。
 どれもがとても嬉しい。
 手は後ろから凛を抱き締めるように、胸に触れている。
 触るとも揉むとも違う微妙な具合。
 凛は抵抗しないけれど、体が勝手にぴくんと反応する。小さく息を吐く音。

「だって、敵だったんだから。
 不倶戴天で、敵対してあたりまえだったでしょ」
「まあ、そうだな。
 その辺の仕組みが最初、俺には良くわからなかったけど」
「そんな甘ちゃんに、負けたのよね、わたしは……」

 感情は過度に込められていない。
 僅かに呆れたように。
 僅かに悔いるように。
 俺の事とも違う、何かを思い浮かべている凛。

「ごめん」

 思わず謝っていた。
 言うのはおかしいと思っていたけど。
 負ける訳にはいかなかった。
 凛が己の全てを賭けていたように、俺もまた理由があってあの戦いに身を投
じていたのだ。
 同じ条件。
 それに対しては、凛も文句は無い。
 いや条件が違っていようと、どんな手段を講じていようとも、文句なんて互
いにつけられない。最後の瞬間が分かつ結果だけが全て。
 対峙の結果、勝ったのが俺で負けたのが凛だった。それは曲げられぬ事実。

 でも、凛の思いを知っているだけに、胸に湧くものがある。
 これまでの凛の犠牲を無駄にし、未来を変えたのは、誰でもない。
 この俺だ。
 凛がこれまで積み重ねてきた過去に対しては、後ろめたさを禁じえなかった。
 
「いいわ。負けは負けだし」

 俺の考えている事は読んでいるだろう。
 でも凛はそれに触れない。
 あっさりと自分の背負ってきた物を横へと置く。
 それはそれで凛の本心の欠片ではあるのだろう。

 それも凛らしい。
 矜持と誇り。
 それを裏付ける高い能力。
 そして現実を認識する知性。
 ぎりぎりの所で自分を律する精神。
 俺が凛の中に見る尊敬に値する部分。

「それに今は、こうなっている事が嬉しいから……」

 少し恥ずかしそうに顔だけこちらを向く。
 そして凛は少し伸び上がる。 
 掌を擦るようにして、ぷるんと胸は飛び出してしまった。 
 おねだり。
 摘まれるのを待つようなピンクの花がちょんとこちらに向けられている。
 僅かに開かれかけて、可憐な姿。
 それに応えてキスをする。
 ゼリーのような柔らかい唇。
 その感触があまりに良くて、少し左右に擦るようにこちらの唇を動かす。
 ……気持ちいい。

 こんな凛も良い。
 はっとするほど綺麗で、そして可愛い女の子。
 それもまた、凛のなかなか見せない姿。

 念入りに作り上げた芸術品のような唇。
 それと相反する淫具のような快感を生み出す事に特化したような唇。
 けれど、その唇はそれだけではない。
 ここから、ビルをも一瞬で残骸と変える詠呪が洩れる。
 ここから、冷徹な『言葉』が紡がれる。

 信じられない。
 こんなに官能的で、触れるだけで男を酔わせるのに。
 蕩けるような柔らかさで男をおかしくするのに。
 ほら、今も冷静にしていられない。
 ただ、唇の感触を楽しむだけでなく、次を求めてしまう。
 僅かに唇が開く。
 甘い息。
 吐息を混ぜあう。

 これで舌を絡ませあって、唾液を飲みあったら、もう戻れない。
 正気でなんていられず、狂ってしまう。
 凛の虜になり、言われるままに動かされてしまう。
 そういう意味では、これも俺からすれば凛の強力なる魔法だった。

「あ……ッ」

 ゆっくりと離れると、凛も少しぼうっとした顔で、小さく声を洩らした。
 キスを止めた事を惜しんだ声か。
 それとも不満の表れだろうか。

 と、くるりと凛が体の向きを変えた。
 腕の中で体が半回転する。後ろ向きから向かい合う形へ。
 そして、胸が押し当てられ、顔が近づく。
 形の良い二つの胸が押し付けられる。
 柔らかく潰れ、そのまま凛の動きに従って俺の胸板を擦る。
 身震いし、その双つの隆起を味わう。
 動けずになすがままにされ、今度は凛によってこちらが唇を奪われた。

 舌が這い寄る。
 けっこう素早くも動く凛の舌がゆっくりと俺の唇を割って、入ってくる。
 拒まず受け入れる。
 瞬時に迎える準備を整える。
 俺の舌を擦るようにして、凛の舌がまっすぐに伸びた。
 言葉にできない感触。
 舌と舌が触れ合い、絡み合う時の感触だけは、どうにも表現できない。
 ただ、熱い。
 ただ、甘い。
 ただ、気持ちいい。

 でも、このまま受けているだけでは男として面目が立たない。
 こちらからもお返ししないと。
 凛の舌が伸びきった辺りで、こちらは斜め下から這わせていく。
 ねちゃり。
 唾液が絡む。
 甘い。

 自分の唾液を擦り付けて。
 代わりに凛の唾液をすすって。
 それだけで酔ってしまう。
 どろどろに唾液を溶かして、舌でぴちゃぴちゃと混ぜあった。
 絡ませあいつつ、舌でそれを凛の方へと押しやり、流し込む。
 どちらのモノとも判別不能な、温い小さな泡に塗れた液体を凛は嫌がりもせ
ず呑み込む。
 こくんと喉が動いたのを舌を通して感じる。

 嫌がるどころか、もっとと乞う凛の瞳。
 唾液だけでなく、舌を、唇を。
 吐息と唾液をどろどろにする淫らな遊びを。
 もちろんだ、幾らでも凛にしてあげたい。
 凛に貪って欲しい。
 それに、こちらだって凛が欲しい。
 もっともっと凛を貪りたい。
 そんな互いの気持ちに忠実に、俺と凛は飽く事無く舌を絡ませあった。
 水音が二人の唇から、こぼれ続ける。

 幸せだった。
 今の心蕩けさせるキスの感触。
 そしてそんな事を当たり前にしている今の二人の関係。

 僅か前には信じられなかった今の姿。
 どうなっていただろうか。
 あの時。
 あの場所。
 戦いの果ての決断。
 選択の瞬間。

 俺が、凛の力を奪う事を選んでいたら。
 凛の体を欲しいままにし、それによって力を、凛の持つ力を奪っていたら。

 下手をすれば魔術師たる能力を喪失する交わり。
 勝者の権利の行使。
 敗北故に奪われるもの。
 それはそれで、正しい行為。
 人の法を、理を、道を、僅かに外れた者達にとっての、当り前の道理。

 それを俺は否定した。
 正しかったのか、間違っていたのか。
 わからない。

 でも、それによって「現在」がある。
 あの状態で凛は命を失っていたかもしれない。
 屈辱に、自ら命を絶っていたかもしれない。
 生き残り俺を憎悪し、復讐心を燃やしていたかもしれない。

 いや、もっと前。
 そもそも俺が凛に勝つ事が僥倖だったのだ。
 勝負どころではなく、あっけなく、死んだ事すら意識せずに粉微塵にされて
いてもおかしくはなかった。
 もし生き残っていたとしても。
 セイバーを失っていたら。
 この身に持つ凛からすれば貧弱な魔力を奪われていたら。
 俺はどうしていただろうか。

 幾つもの選択肢。
 幾つもの起こりえた未来の可能性。
 そんな無数の別な「現在」は、可能性のままに潰え消えた。

 無数の岐路から選び取った今。
 戦いを終えた今。
 凛とこうしている今。

 でも、もしかしたら凛と触れ合う事無く終わっていたのかもしれない。
 この唇と舌とを知らなかった可能性?
 考えただけで身震いが起きた。

 そうだ、今はそんなぞっとするIFを考えても仕方ない。それならもっと。
 絡ませあうスタンスを変えた。
 舌を僅かに引っ込め、凛の挿入された舌を唇で挟む。
 凛は怪訝な顔をしたが、逆らう事は無い。
 むしろもっと舌を差し入れてくれる。

 吸った。
 凛の舌を吸った。
 口をすぼめ、唇でぎゅっとして、吸った。
 凛の舌。
 凛の唾液。
 凛の吐息。
 凛の洩らす声。

 いつしか、俺が主導権を握っていた。
 凛もそれを受け入れている。
 いや、受け入れざるを得ないのか。
 その酔った目。
 男の舌に翻弄された目。
 嬉しさを覚え、もっと凛の口を犯した。
 優しく蹂躙し、甘美に陵辱した。
 
 離れた時には、舌が違和感を覚えていた。
 凛と触れ合い、異物たる感覚が消え、こうして絡ませあっているのが当り前
のように思えていた。
 寂しさすら感じる。
 奇妙な喪失感。

 凛はどうだろう。
 垂れた唾液の細い銀糸を指で拭った。
 息を乱している凛を見つめる。
 あれ、何だろう、この表情?
 じっと、俺を見て……。

「どうした?」
「また、上手くなってる気がする」
「え?」

 戸惑う。
 少し膨れたような凛の顔。
 それはいつもの怒った顔なのに、どこか……、悲しそうな顔でもあった。
 上手くって……?
 何を言っているのか、わからない。

「凛……?」
「あの子と……、ごめん、そうだよね」
「セイバーがどう……。ああ、そう言うことか」

 今のキスと言うには激しすぎる、口での交わりにも似た行為。
 それに対しての凛の頭に浮かんだ事。
 きっと前の時とは違った感触だったのだろう。
 どうとは凛自身にも言えないのかもしれないけど、何らかの相違があったの
だろう。それはあり得る気がする。

 では、それを変えたのは誰か。
 もっと端的に言えば、誰として俺はそうした行為を憶えたのか。
 凛でない以上、その相手は……。
 明白なる事実。
 誤魔化しようもないし、偽るつもりもない。
 だけど、少し気後れの気持ちが心に起こってくる。
 それはそうだろう。
 凛は俺の……、恋人ではないにしても、それに限りなく近い存在だった。
 その相手への不実なる仕打ち。
 でも……。
 一口では言えない複雑な気持ちの中から、偽りでない言葉を返した。

「凛も、俺の大切な人だよ」
「うん」

 飾りも無い、ただ真実であるというだけの言葉。
 だけど、凛はわかっていると言うように頷いてくれた。
 少し嬉しそうな顔。

 セイバーの事は凛もよくわかっている。
 契約せしサーヴァント、セイバー。
 ある意味、俺よりも凛の方がその存在を、役割を、その意義を理解している
とも言える。
 でも、そんな魔術師の領域とは別の意味で、セイバーは俺の大切な人だ。
 俺にとっての剣、未熟なる者の楯である存在。
 そのセイバーの為に、少しでもマスターとしての絆を深め、力を与え、そし
て俺が成長する為にセイバーとひとつになる。
 戦いがひとつ終わる度に、新たな力を得る度に。
 セイバーが力を失う度に、傷つき癒しを求める度に。
 契約と、そしてそれとはまるで違う約束の為に、俺はセイバーを抱く。
 心からセイバーを愛し、その全てを余す事無く可愛がる。
 あのセイバーが乱れ、正体を失い、その果てに悦びを得る迄、交わる。
  
 それが、この常識外れの戦いに身を投じてからの、俺のマスターとして使い
魔に接する態度だった。
 ただ機械的に、道具として彼女を抱くような真似は出来ない。
 ただ、それは、凛から見れば……。

「今は?」

 凛がぽつりと呟く。
 え、と間抜けな顔をする。

「今はどうなの?
 わたしか、それとも……」

 そこで言葉を止める。
 ああ、これはありがたい言葉の誘い。
 少し気詰まりな雰囲気を拭ってくれる。
 答える。
 まっすぐに、本当の言葉を。嘘なんかは微塵も無い。

「今は凛が欲しいよ。
 他の誰よりも俺は凛を、凛だけを求める」
「……」
「それに凛にも、俺を求めて欲しい。ううん、俺だけを」
「我が侭ね」
「ああ、駄目かな?」
「いいわ。わたしはもっと我が侭だから……」

 少し怖い事をさらりと言って、でも凛は悪戯っぽく俺を見つめる。
 早く我が侭になりなさい、その目が唆している。
 我が侭な自分を満足させなさい、その目が命じている。
 従った。
 手を伸ばす。
 まずは、胸の膨らみに。
 白くて、もう少しでたわわに実ろうとする半熟の果実。
 さっきも揉みしだいたそれを、大きく広げた掌に収める。

 柔らかく形を変える乳房。
 その中にあって、硬く突き出た突起。
 それを存分に堪能し始める。
 ゆるゆると手を動かすだけで、うっとりとしてしまう。
 凛も嫌がってはいない。
 胸が潰され、左右に寄せられるのを、小さく息を吐きつつ受け入れている。
 時折指でピンク色の乳首を撫ぜてやると、息だけでなく声を上げる。
 弾力。
 手に馴染む滑らかさ。
 感度の良さ。
 いつまでもこうしていたくなる。

「本当に……っああ、好きね。胸を、ひゃ……ふ…うぅん…」 
「うーん、いつもはこんな感触楽しめないから」
「あ、そうね。そうよ…んん…ね……」

 幾分勝ち誇ったような可愛い顔。
 他を比較すれば怒るだろうけど、こと胸に関してはその限りではないらしい。
 セイバーとの差を、正面きっては訊かないまでも、自分から意識させる事が
しばしばある。
 何とも子供っぽくも微笑ましいと思う。
 まあ、少なくとも胸の大きさについては、凛の方が勝っている。
 圧勝と言っても良い。
 凛もそんなに大きい訳では決して無い。
 それでも標準以上ではあるようだし、何より丸みを帯びた様は眼を奪うほど
見事な形だった。
 ただ大きいだけな胸よりもずっと綺麗で、色っぽいと思う。
 半球形で少したわんで、滑らかな手触りの白い肌に、ぽつんと薄紅の突起が
あって。
 じっとしている時の姿も、交わってる時に揺れる様も、目を奪う程に魅力的
だった。
 それと比べるとセイバーは……。
 膨らみはあるが、揺れるとか、俯けになった時に形を変えるかと言うと……。
 少々、その変化に富むとは言いがたくて……、あ、泣きながら剣を振り回さ
れるビジュアルが容易にイメージできた。

「でも、感度はいいぞ、セイバーは」

 余計な想像をした為だろうか。
 弁護にも似た言葉を口にしてしまった。
 どちらかと言うと不在者への言い訳だったろうか。
 いずれにしても、こんな時、こんな相手に。
 当然ながら、凛は俺を睨んでいた。

「ああ、凛もそこは負けてないよな。
 うん、こんなにしているもの……」

 凛が何か言おうとした瞬間に、止めていた手を動かした。
 尖った胸の先、そこをぎゅっと指で摘み、軽く潰した。
 すこしばかりの力は跳ね返すほど硬いから、けっこうな力。
 右胸はさらに、乳首を前に引っ張る動作を加える。
 
 開きかけた口から悲鳴が洩れる。
 構わず凛の敏感な部分をさらに可愛がってやる。

「や、やめて…痛いわよ。あん…あああッッ…そこ、そんな……。
 伸びちゃうぅ……はぁッッ」

 すぐに痛みに耐えかねた声が、甘いものを混じらせていく。
 こちらが大丈夫かと思うくらいの、先端への集中攻撃。
 それが凛のお気に入りだった。

「期待して最初から勃たせている事があるくらいだものな。
 ほら、うん……、もっとだね?」

 凛の反応が嬉しくて俺ものめり込む。
 誤魔化そうという意図は既に消え去っている。

「あん……、ピリピリする。
 ね、指だけでなくて、口で……」
「しゃぶって欲しいんだ?」
「うん……、して……」

 熱に浮かされたように、素直に言う。
 珍しい凛の様子に、少し意地悪したくなる。
 すぐには従わないでさらに言葉を重ねる。

「唇で挟んで、舌で弄って、それから歯で……。
 そうされたいんだよな、凛?」
「そうよ……」

 ちょっと我に返って睨むものの、凛は否定せず頷く。
 懇願の色が目に宿っている。

「イキそうになって噛んでって叫ぶほどだものなあ、凛は。
 いいよ、んん……」

 乳首を口に含む。
 凛の口から満足そうな声がこぼれた。
 しゃぶり、舌でちろちろと舐め、ひとしきり小さな果実の実を味わう。
 口のいろんな部分で味わい、最後は歯を立てる。

「んぅぅ…はあッッ……」

 息のみ荒くして、声になっていない。
 凛は軽く達したみたいだった。
 強すぎたかな。
 少し危惧しつつ、軽く乳首を吸い、口から離した。

「凛……?」
「……」

 放心。
 見ると唾液に濡れ光った乳首は、少し噛み跡を残している。

「ごめんな、痛かっただろ?」
「ん……、平気」

 咎める色はまるで無く、むしろ喜びの残滓が感じられた。
 それなら、いいか。
 こちらも軽く安堵する。
 なんだかんだで最後は凛の望むようにこちらが動いたな、と今更ながら気が
つく。
 こういう処はやはり凛だった。
 
 セイバーもただ、俺の好きにさせるだけではなく、自分の望みを要求したり
もする。
 それは、むしろ俺にとっても嬉しい事だった。
 でも凛のように言葉をもって求めるかと言うと、セイバーはそうはしない。
 さりげなく左胸だけ責めていると、右の乳首を自分で触れたりする。
 自ら慰めているのかと横目で見ると、そうではなくて。
 つんと突き出た乳首を摘んで軽く引っ張って、俺にアピールしているのだ。
 こっちも可愛がって下さいと。
 言葉でそんな事告げられなくて、行動でおねだりをする。
 その可愛さに、すぐに唇を寄せると、軽く喜びの声をあげて……。
 
 軽い物思い。
 すぐに気持ちを凛に向け直す。
 幸い、凛は特に気にした様子も無い。代わりに何を気にしていたかと言うと、
俺の股間に目をやっていた。
 さっきの一度の放出から、僅かな間でもう回復している。さっき以上に。
 
「あの子とは、いつもしている訳ではないのよね?」
「ああ」
「しなくても平気なんだ……」
「俺がか、それともセイバー?」
「両方。もし、わたしが毎日してって言ったらどうする?」

 どういう意図の質問なのだろう。
 変な質問するなと言えば、それで終わるだろう。
 嫉妬や感情の深さみたいなものは、今の凛には無いから。
 でも逆に、その淡々とした言葉ゆえに、俺は会話を打ち切れなかった。
 だから、そのまま答えた。

「……努力はする」
「わたしが全部搾り取ったらどうするの?
 その後で必要となったら。契約による交わりを。あるいはセイバーが強く望
んだら」
「そうしたら這ってでも戻って、セイバーに残りの命をやる」
「そう…なんだ」

 凛は頷く。
 その顔からも、声からも、どう受け止めたのかはわからない。

「でも、逆もあるな」
「セイバーが止めても、凛が俺を必要なら何処にでも行くよ」
「……」

 言葉は無い。
 ただ、凛が近寄って、俺の胸に自分の額をつけた。
 小さな軽い感触。

「馬鹿……」
「馬鹿でも、そうする」
「……」
「セイバーはセイバーで、凛は凛だろう。当たり前の事だよ」

 しばらくじっとする。
 俺も凛もその姿で固まったままだった。
 唐突に又、凛は離れた。
 感情は読めない。

「今度は、わたしがする」
「へ?」

 打って変わっての、重々しいまでの宣言。
 逆らったら容赦しないわよ、そんな感じを含んでいる。
 戸惑っている俺を尻目に、凛はベッドに上がって俺を引っ張った。
 もちろん、お姫様の命じるままに従う。
 俺もベッドに上がって、寝ればいいんですね、はい。
 そして凛は俺の股間に体を動かす。
 って事は、ええと……?
 
「え、おい。凛」
「何、文句あるのかしら?」
「文句って……、いいの?」

 凛は俺のペニスに手を添え、顔を近づけていた。
 唇をつけ、口でペニスを愛撫する体勢。
 そうされるのは初めてではない。
 何度となく、先端や幹に唇を触れさせた事はある。
 手と舌とで性器全体を弄られ、高められ、口の中で果てた事もある。
 思わず制御不能なまま放出し、やがて意図的に口に出すようにもなって。
 凛も狼狽と恐慌するしかなかった初めてから、だいぶ慣れてきてはいた。
 最初は口の中のドロドロを全て吐き出していたが、ある時から呑んでくれる
ようになってきたし。

 凛が、あの気位の高い凛が、口戯をしてあげく精液を嫌がる事無く嚥下する。
 何度見てもどうしても信じがたく、そしてそれ故に深い満足感と歓喜とを俺
に与える光景。
 そんな事をしそうも無いという点ではセイバーも同じだが、俺を喜ばせたい
という気持ちを全面に出す彼女よりも、凛の方が興奮を誘った。
 いちど訊いた時の答えによると、自分の行為で俺が呻き声を上げたり、腰を
浮かせるようにして最後まで達するのが、それはそれで楽しいからだそうだが。

 だけど、それは性交の始めに限られていた。
 まだ凛の中に挿入する前。
 鈴口から垂れる先触れには平気で舌先を伸ばすけれど、精液にどろどろにな
ったペニスに口をつける真似はしなかった。
 まして自分の愛液と交じり合った状態のペニスを口で清める真似など、絶対
にしない。さすがに、そこまでは抵抗あってできないだろう。
 俺からも、そんな事を口に出して頼んでみる事は出来なかった。

 なのに、今、凛はそれをしようとしている。
 簡単に拭いはしたけど、まだ最初の射精の跡は濃厚に残っている。
 手で一擦りすれば、精液と愛液にぬるぬるになってしまう。
 それなのに、根本を手で支え、唇を……。
 触れる。触れ……、ああ。

 ぎりぎりのところで凛は動きを止め、視線を上げた。
 何だ、冗談か。
 何故かほっとする。

「何よ、その顔」
「え?」

 怒っている。
 何が、どうしたのだろう。
 
「嫌なの? わたしの唇は、舌は、そんなに嫌なの? 気持ち悪いの?」
「まさか、いつも気持ちいいよ」
「だったら、何でさせないの? あの子にはさせるんでしょ、後始末」
「セイバー? うん、いつもじゃないけど舌で全部舐めとって、綺麗にしてく
れる事は多いけど」

 交わった後、口で、手で、膣で射精に至り、白濁液に濡れたペニス。
 跪いたセイバーが、それに花の様に可憐な唇を寄せる。
 丹念に舌で淫液を舐め取り、根元からくびれと先端まで余すところ無く清め
てくれる。
 あの舌の感触。
 そしてその行為に喜びを見せる姿。
 あの奉仕による極上の……。

「気持ちいい?」
「あ、ああ。時にはすぐにまた出そうになるくらい……」
「なのに、わたしにはさせてくれないの?」

 反射的に質問に答える。
 すると……、あれ、凛?
 どうして、そんな顔……。

「凛?」
「わたしだって、それくらい出来るもの」
「だって、凛にそんな真似させられないだろう?」
「どうして?」
「どうしてって、凛、嫌だろう、そんなの?」
「……したい。わたし、喜んで貰えるなら何でもしたい」
「凛……」

 驚いた。
 普段の凛らしからぬ声。
 そして表情。
 俺の顔を見て、凛が軽く笑みを浮かべる。

「そんなに驚かれるんだ。
 ううん、そうかもしれない。
 そうだよね……。わたし、可愛くないもの」
「おい、凛?」
「言っておくけど、容姿に関してはけっこう自信あるの。
 あくまで女の子らしい態度ってやつね、不得手なのは」

 ちょっと冗談ぽく凛は俺を制した。

「人に頼るとか、甘えるなんて事をしないで今まで来たのだもの。
 幾ら完膚なきまでに負けて、意識変化があっても、急には変えられないわよ
ね……」
「そうだろうな……」
「でも、自分からなんて出来ない。可愛くないわよ、でも、わたしは……」

 ぽんと頭に手を乗せた。
 子供にするみたいに。

「凛は可愛いよ。保障する。少なくとも俺には、堪らなく可愛い女の子だよ。
 でも言っている事もよくわかる」
「うん……」
「凛は凛だから。だから俺は今のままの凛でも、全然文句なんて無い。
 でも、俺の前では素直になってくれればもっと嬉しい……、我が侭かな?」
「我が侭。でも、その我が侭なら聴いてあげてもいいわ」

 少し演技がかった尊大さでのお許し。
 でも表情はどうすればいいのと恭順にも似た感じを示している。俺の言葉を
待っている。

「じゃあね、おねだりしてみようか?
 欲しいものを、欲しいと言うだけ。
 でも、意外と難しいかもしれない、凛には」
「そうかな。そうね……」

 凛は首を傾げ、頭の中で何かを考える。
 中断したペニスは、柔らかい掌の感触に小康状態。

「わたしに、あなたの……」

 あなた?
 いつもは名前の呼び捨てなのに。
 ちょっとまじまじと見つめてしまう。

「せ…、精……、うう」

 言いかけては口ごもる。

「…・…難しい」
「だろ?」

 言いながら、腰を動かした。
 掌を擦る時の、身震いする柔らかさ。
 そして、凛の下唇をつん、と突付く。
 鈴口とのキス。
 少し唇が濡れる。

「これをどうしたいの?」
「舐めて、しゃぶりたいの……」
「そして?」
「口の中に、出して欲しいの」
「何を?」
「……精液」
「よく出来ました」

 そのまま唇の隙間を割ろうとしたが、凛に手で止められた。

「まだ。ちゃんと言っていないもの。
 いくわよ……。
 お願いします、わたしの口にあなたの美味しい精液をいっぱい出して下さい」

 少しぎこちない言い方。
 お願いしますなんて言葉。
 こんな内容。
 でも、すがるような目で見る凛の姿は……、思考を停止するほど可愛かった。

「いいよ、いっぱいあげる。
 だから、最後まで頑張って」
「はい」

 言いながら、ペニスを口に含む。
 驚くほど根本まで。
 こんなにまでして。
 喉を突いているんじゃないだろうか。

 でも凛は目を瞑ってじっとしている。
 その顔には苦痛の色は無い。
 ただ、少し動けずに何かをやり過ごしている様子。
 馴染むのを待っているのだろうか。

 温かい。
 凛の口の中。
 それに濡れていて、溶けそうな感じ。
 動きが無く、ただ口中深くに飲み込まれているだけだけど、それだけで刺激
される。
 心身共に。
 凛が口に俺のものを、それも自分から望んで咥えている姿。
 それが眼から脳をちりちりと刺激する。
 セイバーへの対抗心も大きいのだろう。
 でも、嫌ならば絶対に凛はしないだろう。
 逆に言えば、したくて男のものをしゃぶっていると言う事になる。
 あの、凛が……。

 凛がという驚きと喜びの感慨は、他でも得る事は出来る。
 あのお嬢様が、俺のものを手にして、恐々と上下に動かしている。
 あの勝気な少女が、震えを隠しつつ唇を突き出している。
 あの他を圧する魔術師が、抑えきれず歓喜の声を洩らしている。
 あの凛が、俺の前に、細い美しい生まれたままの姿を晒している。 
 そんな行為のさなかの無数の喜びの瞬間。

 それだけじゃない、いくらだってある。
 抱き締めたら、躊躇いがちに腕を背中に回してくれている。 
 ぎこちなく腰を振っている。
 妖艶な表情で俺の唇を奪う。
 終わって離れようとすると、ダメと言う様に足を絡ませる。 
 いずれも、心を震わせ、その事実が俺をおかしくさせる。
 肉体の愉悦とは違った快感と悦びと絶頂とを与えてくれる。
 
 とは言っても、だったら肉の悦びが薄い訳では無い。
 薄いどころの話ではない。
 今だってそうだ。
 何もしていないのに。
 ただ、口にあるだけなのに。
 なんでこんなに気持ち良いのだろう?

 ぎこちない動きから生み出される快感も嬉しいけど、この取り立てて動きの
無い状態もまた何とも気持ち良い。
 舌の絶えず小さく動いている柔らかさ。
 頬の内肉のぬめぬめとした柔らかさ。
 上口蓋の硬くて、でも濡れて不思議と感じる柔らかさ。
 口の中のまるで違った感触。
 それが心地よいのだ。
 幹に、亀頭に、鈴口に、雁に、それぞれの柔らかさが当たっている。
 じっとしていて、でも呼吸をし、唾を飲み込む度に、僅かに動いてペニスを
擦り上げる。
 
「ひゅごひゅひゅ」

 まったく声になっていない。
 何だろうと凛を見ると、それ以上は喋ろうとしないで行動で示してみせる。 
 涎をすする音。
 もしかしたら、これが垂れそうで口を噤んだのかもしれない。

 音を立てないようにはしているのだろう。
 でも、どうしても少し品の無い音になってしまう。
 口いっぱい頬張っているのだから、当然だけど。

 勝気なお嬢様然とした凛のそんな行為は、俺を酒なんかよりも酔わせていく。 
 そして、そのアルコール度数は急に度数の高いものにチェンジした。
 凛の温かく濡れた口の感触は素晴らしかった。
 そんなものを口に含んでいる姿を眼にするのも、堪らない喜びだった。

 でも、動きが加わるとやはりレベルが変わる。
 そんなに激しくはない。
 ゆっくりと頭を上下させて、亀頭辺りまで吐き出してはまた喉に届きそうな
ほど飲み込む。
 それをゆっくりと繰り返すだけ。
 だけど、それだけで快感は増す。
 口の色々な感触がペニスの様々な場所に当たり、擦りあげる。
 唇はきつめに閉じられて輪となって幹を締め付けている。
 舌はもうじっとしていないで、幹や亀頭に絡み、舐めている。
 時折溜まった涎をすする動きがペニスをも吸上げて、異種の感激を与えてく
れる。

 それに凛がこうしていると言う事。
 無理やり口にしゃぶらせている訳ではない。
 口を力づくで犯し喉まで突き込んでのイマラチオではない。
 あくまで凛の意思。
 凛がしようと思って、自分の淫液と精液をまだこびり付かせたペニスを咥え
たのだ。
 そして、おれにを喜ばせる為に動いている。
 最初の不慣れな頃とは違う、俺がどうすれば気持ちいいのかを憶えつつある
口戯。

 やっぱり信じられない。
 セイバーとは違う。
 彼女も俺が命じれば、跪きチャックを歯で咥えておろす真似をするだろう。
 パンツを涎でべとべとにしながらずり下げ、雄の匂いに躊躇する事無く唇を
寄せるだろう。
 横咥えで唇を滑らす事も、喉奥まで飲み込むこともするだろう。
 命に従い、涙を堪えつつも。
 皺だらけの睾丸をしゃぶり、肛門にまで舌を差し入れる事も厭わないだろう。
 そんな命令をした事は無いけれど。
 
 命令ではなく、どうすれば良いですかと問われ、頼む事はある。
 セイバーが自らしてくれる事もある。
 頼んでしてくれる事もある。
 俺が彼女のマスターだからと言うのが第一の理由だろう。
 だが、セイバーは俺を喜ばせたいから、そしてそれが自分の喜びでもあるか
ら、そんな事をしてくれる。
 それは微笑ましく、そして感動を覚える行為。
 マスターへの奉仕を、俺が都合よく愛情であると錯覚している可能性もある。
 でも俺はそうでないと信じている。
 短くも濃厚な絆を築いてきたつもりだから。
 それにセイバーは最初から、隠し事はしていても決して嘘をつく人ではなか
ったから。
 嘘をつくのが下手くそで、自分をすら欺けない、そういう意味では不器用な
少女。
 だから、彼女の愛情と信頼故の、恥ずかしさを押し殺して俺の為にと思って
くれる行為と気持ちとは真実であると心の底から信じられる。
 
 セイバーは本質が従う者である。
 だけど凛は違う。
 敵意を剥き出しにされた。
 殺してやると言われた。
 俺などとはレベルが違う魔術で何度となく攻撃された。
 
 戦い、そして勝った。
 地の利と、己と敵を、自分のなせる事を考え抜いて、必死に行動し、その果
てに僥倖を得ての勝利。
 それしかなかったけれど、本来ならば成立しなかった綱渡り。

 最初から同じ側に立っていたセイバーとは違っている。
 もしかしたら全て演技かもしれない。
 恭順を示していても、それは偽りかもしれない。
 今は雌伏の時と思い、敵の手の中で抱かれる事を耐えているのかもしれない。
 屈辱に一人の時は悔し涙を流しているのかもしれない。

 でも、セイバーと違った意味でだけど、凛もまた不器用だと思う。
 己の力を支えとし、頂点を目指して研鑚してきた少女。
 自負に足る力を持った魔術師。
 けれどそれ故に自分を自分で汚す行為は出来ない。
 敗北は昂然と受け止めても、惨めな奴隷となる事は受け入れない誇り高さ。

 もし俺が凛に対して偽りを持って接していたら今の関係はなかっただろう。
 その時、俺が勝者としての権利を選んだとしても、凛は従った筈。
 だが、対等の存在でありたいと望んだ俺が、真実そう振舞っていなければ、
おそらくは凛の死を持って終わる結果があったかもしれない。
 
 俺の凛への想いは偽りは無い。
 だから、凛の俺への想いも本物だと信じたい。
 
 凛の初めてを捧げられた時の、あの震え。
 時々口にする「馬鹿ね」というあの優しい響き。
 自然なお嬢様な我が侭振り。
 気づこうとすれば幾らでも見え隠れする俺へのまっすぐではない愛情表現。
 セイバーへの可愛らしい対抗意識。
 その誇り高い精神。

 彼女は嘘なんてついていない。

 だから、彼女の言葉が嬉しい。
 彼女のキスが嬉しい。
 彼女を抱き締めるのが嬉しい。
 彼女を抱くのが嬉しい。
 彼女が喜ぶのが嬉しい。

 彼女が俺を喜ばせようとしているのは、この上なく嬉しい。
 ペニスへの愛撫を自分の意志でしてくれているという事が、何度認識しても
頭を痺れさせる。

 ふっと、それが止まった。
 思いがけぬ喪失感。
 飢餓。

「どうしたの?
 気持ち良くないの?」

 凛が顔を上げている。
 思わず手が伸びた。
 子供にするように、猫にするように、頭を撫でた。
 乱れかけた両の髪を縛ったリボンが触れる。
 嫌がるかな、と思ったが凛は嬉しそうにしている。

「気に入ったと言う事よね」

 当然よね、という表情。
 なのに、安堵の気持ちが見え隠れしている。

「凛に口でして貰えて嬉しい。
 とても、気持ちいいよ。もっと、して?」
「うん、する……」

 また口戯が始まる。
 さっきより速い。
 さっきより激しい。
 さっきより熱心だった。
 口はもっとすぼめられ、頬も内側にへこんでいる。
 舌が大胆に動いてペニスを隈なく探っている。
 喉がしきりに動く。
 口が閉じて鼻から息が洩れる。
 それが濡れたペニスに柔らかく触れる。

 体で感じ、眼でそれを確認する。

「蕩けそうだ、凛」

 感嘆を思わず洩らす。
 頭部を動かしつつ、眼だけを上に向ける凛。
 
 俺の声にどう反応を示しただろう。
 得意そうに嬉しそうにしているだろうか。
 それとも「仕方ないわね」と余裕を見せて艶然としているだろうか。
 それはそれで凛の可愛い処だと思うけど。

 え?
 何で?
 眼が合って、凛は真っ赤になっていた。
 恥ずかしそうにして……。
 いや、もしかして、本当に恥ずかしいのだろうか。
 でも、自分からし始めたのに。
 こういう処も、虚勢は張らず素直になっているのか。

 動きが変わった。
 さらに早く、強く。
 唇が痛いほど締め付け、幹を上下にしごき上げる。
 絶えず息と唾液と共に、ペニスを吸上げる。
 舌が蠢き、要所要所を責めまくる。
 快感。
 強すぎる快感。
 痛みであり、苦しみであるほどの容赦ない快感。

「凛、やめて、こんなの……」

 絞った声が唇から洩れる。
 動きが止まった。
 ふぅと大きく息を吐く。

「頼むから、止めてくれ。
 せっかく凛にして貰っているのに、こんなのじゃ勿体無い」
「?」
「気持よくてすぐに出ちゃいそう。
 それもいいけど、もっと凛がしてくれるのを味わいたい。
 強くされすぎると凛だって辛い事あるだろう?」
「そうね、ごめんなさい……」
「謝る事じゃないけど……。うん、もう少し弱くしてくれる?」

 凛が素直に従う。
 さっきまでの緩やかな動きよりは速い。
 でもそれは十全に快楽となって俺の腰を蕩けさせる。

「手でも弄って……」

 ペニスの根本に当てられた手が動いた。
 片手は幹の向きを固定したままだが、もう一方を自由にする。
 根本から袋へと伸びる。
 吊り上がったペニスに引っ張られるように玉袋が目立つ。
 それを手で握る様に包んでくれた。
 気持ちいい柔らかい手。

「舌を……」

 説明する前に凛は反応した。
 舌全体で幹を絡める動きが変わる。
 雁をちろちろと舌先とサイドが撫ぜる。
 右、左、また右。
 ひとしきり呻き声を俺に上げさせると、今度は亀頭の表面を撫でながら上が
っていく。
 舌先が、先端の穴へと潜ろうと動く。

「ああ、凛……」

 その責めは堪らない。
 先端に腰をびくつかせる快感を掻き立てられ、根本では柔々と玉袋がほぐさ
れている。
 それを見つめる。

 イメージする。
 実際には口の中に潜って見えない俺のペニス。
 凛の舌。
 それが、克明に脳裏に描かれる。
 眼で見るよりもはっきりと視える。
 なんてはちきれそうなほど昂ぶっているのだろう。
 それが凛の口でのたうっている。
 口の中の柔肉で嬲られ、唾液と自らこぼした腺液に塗れ、漂い。
 凛の舌が、まるで生き物のように的確に動き、俺の感じる部分をちろちろと
舐める。
 舌を小刻みに動かして擦る。
 あ、噛まれる。
 凛の小さな白い歯。
 それが赤黒い肉槐に当たる。
 一瞬だけ噛まれちぎられる想像をする。
 根源的な恐怖、そして裏腹な興奮。
 実際には、優しく甘噛みするだけ。
 痛みに至る少し手前。
 柔らかさで構成された刺激の中の、異質な硬さ。

 限界だった。

 膨らみ。
 びくんと動き。
 鈴口を広げる。
 圧倒的な放出の快感。

 そのイメージをなぞる様に―――、放出した。
 尿道が膨らみ、中から管を破裂させるほど。
 あまりの量に鈴口が切れそうなほど。
 ペニスが、消防車のホースのように、押さえていなければ水流の激しさに制
御不能でのたうつほど。

 凛の口。
 柔らかくて、ざらざらしていて、甘い舌。
 ぬめぬめした柔らかさの内頬肉。
 白い小さな歯。
 しっとりとして溶けそうな唇。
 それらの感触が混ざり、それでいてそれぞれが消え去る事無く、ペニスを迎
え入れる。
 硬い幹も。
 張った雁首と、そのすぐ下の敏感な輪も。
 赤黒く充血して硬くなった亀頭も。

 ペニスと凛の口が結合し、蕩け、一つになっていた。
 精液。
 俺の白濁液が、そのままダイレクトに流れ、放出口を広げ、口腔をいっぱい
に流れる。

 ぷくっと凛の頬が膨らんでいる。
 まさかあの中いっぱいにミルクが満ちている訳ではないだろうけど。
 それが動き、収縮する様。
 出し切って、少し萎んで、でもまだ凛の極上の口の感触に奮っているペニス。
 凛の口の中に触れた部分が動いて、周りのどろどろしたのが喉奥に動いて、
まだまだ呻き声をあげそうな刺激が断続的に続いていた。
 凛の喉が動いた。
 一回じゃない。
 何度も。
 そうするにつれ、ペニスにまとわり付く粘っこくぬるい液が減っていく。
 
 飲んでいる。
 まだペニスを口に含んだままで、精液を飲んでいる。
 凛が。
 あの凛が……。
 
 ペニスに付着した粘液を吸われる感触。
 凛に後始末をしてペニスを清めて貰っている感激。
 
 昂ぶったまま、凛の口から反り返ったペニスは姿を表した。
 亀頭がちゅぷんと姿を表した時の、背中をぞくぞくさせる快感。
 最後に凛は鈴口にキスしてくれた。
 お姫様が可愛く口づけするような仕草で。
 ちょんとペニスの先に口を触れさせ離れる。

 これがおとぎ話なら、汚れ無き姫の口づけで、醜悪なる化け物は変化するの
だろうが。
 この赤黒いのは、さらに猛々しくなりびくんと身震いしただけだった。

「まだ、元気なのね?」
「おさまるはずないだろ?」

 凛はハンカチで口を軽く拭いた。
 その姿も、とてもペニスをしゃぶり白濁液を噴出に導き一滴残さず嚥下した
とは思えない。
 午後のティータイムを終えてナプキンで口を拭っているお嬢様。
 そんな姿。

 しかしそのお嬢様が、正座のような座り方から、脚を開いて見せる。
 濡れているのがそれだけでわかる。
 上目がちの表情。

「お願い……」
「ああ、もちろんだ。
 嫌だって言っても、我慢できないよ。もう一回、凛が欲しい」

 今度はこちらからお願いをする。

「……はい」

 凛が恥ずかしそうに頷く。
 でも眼はまっすぐ俺を見つめたまま。

「どうしたらいいの?」
「そうだな。まだした事のない体位を試してみようか?」
「……うん」

 今日の初めては、凛をベッドに横たえ、俺が上から覆い被さった体位だった。
 いちばん安心できると言う、凛の好きな形。
 俺の体の重みを感じられるからだそうだ。
 
 まだ潤み始めたばかりの凛にゆっくりと挿入したのだった。
 二人とも痛いくらいなのを承知で。
 穿つ感覚。
 引き剥がす感覚。
 こじ開ける感覚。
 それがやがて楽になっていく。
 抽送の動きが次第にスムースになっていく。

 さらに俺のペニスは快楽に大きく膨らみ、凛の締め付けはむしろ強くなって
いるのに。
 まるで初めてから何回かめかの交わりまでを一時に体験しているよう。
 舌や手でなく、ペニスの挿入によって、凛が初めて最後まで達した時の再現。
 
 それとは逆の形がいいかな。
 とは言っても凛が上ではなくて、別の形。

「四つん這いになってくれる、凛?」

 返事は無い。
 でも、凛は素直に従う。
 染み一つ無い綺麗な白い肌。
 背中のラインがたまらなく艶かしい。

「後ろから、凛の事愛してあげる」
「え、は、はい」

 そうした知識はあるのだろう。
 少し躊躇して、それからゆっくりと膝が立てられる。
 代わりに、上半身が少し沈む。
 意図を理解した的確なポーズ。
 獣のように背中から被さって貫く為のポーズ。
 事細かに指示したのではない凛の半自主的な動きは、生唾を飲み込むほど扇
情的だった。
 腰周りについてはあまり凛は豊かでない。
 スリムでいわゆる安産型ではないけど、でもそうしているとやはり女の子だ
った。
 柔らかく弧を描く二つの球のようなお尻。
 突き出されるような格好で、その形のよさが強調される。

 それに、後ろから見ると、丸見えだった。
 お尻の谷間に隠された部分。
 白いお尻の中で少しくすんだ色合いのすぼまり、お尻の穴。
 放射線状に薄い皺が走り、クレターターのような形をしている。
 不浄の場所の筈なのに、凛のだと思うととても可愛らしい。
 何度か弄って、指を挿入した事もある秘められた場所。

 そしてそこから少し下へと目をやれば、先ほど堪能した凛の秘処が花開いて
いる。
 滴ったもので、周辺まで濡れ光っている。 
 覗き込むようにして、手で触れた。
 濡れて溶けている、触手のようなびらびらを掻き分ける。
 左右に開いてやると、危うい均衡が崩れたのだろう。
 どろりとした粘液が膣から滴り落ちた。
 さっき吐き出した精液の逆流。
 それに、新たに分泌しつづけているのだろう。
 透明な露のような淫液が俺の手を濡らしていた。

 顔を近づける。
 新たな露が滴り落ちる。
 メスの匂いがする。
 なおも弄ろうとすると、嫌々をするように凛のヒップが左右に小さく揺れた。

「入れて」

 小さく声がした。
 凛が、顔は前に向けたまま、声に出している。
 シーツに向かっていて、凛がどんな顔をしているのかはわからない。
 でもきっと、真っ赤な顔をしている。
 
「了解」

 もっと焦らしたり、構わず探索を続けるのも、凛の反応という点では楽しか
っただろう。
 でも、今はお願いを叶えてあげた時の反応が見たかった。
 凛の喜びの声が聴きたかった。

「もっとお尻上げられる?」
「う、うん……」

 顔と肩を下につけるようにして、凛は大きく腰全体を持ち上げた。
 さらに上向きにアヌスが向けられる。
 力が入って、少し突っ張った為か、お尻が左右に割れ、凛の窄まりも少し開
いて中の濃紅が覗いていた。
 くらくらするような、卑猥な光景。
 キスして、舌を入れて、指を突っ込んで、そしてさんざんほぐしてから猛り
きったペニスを挿入。
 後ろの初めてを頂戴するのは、きっと得がたい感動だろう。
 前の味わいがセイバーとは違うように、凛の後ろの締め付けや直腸の感触も
まるで違うのだろうか。

 セイバーとはここでも愛し合っているよ。
 嘘でもそう言えば、ここも許して貰えるかもしれない。
 凛のもう一つ残された初めて。
 それもきっと甘美だろう。
 ゴムのように締め付けて、でも凛ならばきっとすぐに馴染んで極上の性器と
化すだろう。
 
 でも、今はそんな事はしない。
 だいたいセイバーをダシにして、凛の対抗心を利用して、体を自由にするの
は嫌だ。
 少しずつでいい。
 凛ともっと何度も一つになって、頭のてっぺんからつま先まで全部愛したい
のだと理解して貰って。
 それからで充分だった。
 もちろん凛と交わるのは、快楽の行為ではある。
 でも同時に相手をもっと知りたい、もっと求めたいという、好意を抱く相手
への当たり前の要求の発露でもある。
 ならば無理に俺だけが凛を貪っても仕方ない。
 凛も同時に俺を求めてくれて、それからでいいと思う。
 初めて凛とひとつにつながった時のように。
 
 アナルを堪能するのは、そういう事でいつかのお楽しみ。
 別にこちらに飽きたなんて事は、まったくないのだし。
 初めての時からずっと凛のここに心惹かれているのだから。
 毎回、毎回感激が新たになっている。
 さっきとは比較にならないほど、あからさまにされた凛の生殖器。
 わざわざ覗き込む姿勢にならなくても、全て丸見え。
 充血した全体の様子。
 挿入を待ちわびる膣口。
 ぽつんとした窪みの尿道口。
 ここを丹念に舌でほじってあげたら、また今日も耐え切れなくて失禁するだ
ろうか。
 その上のクリトリス。
 厚く包皮は被っているけれど、つんと突き出ているのは一目瞭然だった。
 その上の、いや今は下か。
 さっきまでほわほわとしていた恥毛はだいぶ濡れてぺたんとしている。
 こんな格好をしているから、垂れてきたのだろう。
 
 ほぼ無毛に近いセイバーと比べると、凛のここはかなり豊かだった。
 肌に紛れそうな金色と白い肌に映える黒色という違いもあるのだろう、セイ
バーのに見慣れるとけっこう目立つ。
 別段、悪い訳ではない。これも目を惹く艶やかな眺め。
 恥丘を撫で摩る時の、柔らかい感触は手に心地よさを与える。
 凛を貫き、腰もお腹も胸も一つになるように強く抱き締めた時は、触れた処
をくすぐるようで一風変わったアクセントになる。
 でも、こうして濡れたのを見ると、意外に量的には少ないんだなと感じた。
 引っ張ったらちぎれそうな恥毛に、思わず触れてしまう。

「やん……」

 些細な接触なのに、思いがけでず、可愛い声が聞こえた。
 首を捻じ曲げ、凛がこっちを見て、軽く睨む。

「ごめん」

 つい、謝ってしまう。
 そして、さらに猛ったペニスを凛の視線に晒して、軽く振って見せた。
 息を呑む気配。
 凛の目が、少しとろんとする。
 俺が凛の女の子を見つめて目が離せなくなるように。

「挿入するよ」
「……うん」

 待っている。
 再び、顔を下に向けてしまって、凛の表情は覗えない。
 でも、わかる。
 細胞のひとつひとつまで、俺を待っている。
 俺が挿入するのを。
 ひとつに繋がるのを待っている。

 いいよ。
 想いは同じだ。

 切先が、触れる。
 凛のとろとろな媚肉を擦る。
 今日二回目の凛の秘裂。
 さっき何度も小さく達し、とろとろに蕩けたからだろうか。
 固くもどこか違う。

 中でしとどに放った精液と共に、びしょびしょに濡れたそこを拭ったのに。
 もう先ほど以上に濡れている。
 狭い膣道で、温かい口腔で、もう精を迸らせているのに、むしろより期待し
ていた。
 凛の中に入りたくて仕方ない。
 狭い膣口を押し開いて。
 ぎゅっとしめつける門を越えて潜り。
 奥の奥まで挿入して。
 考えただけでより硬く大きくなる。

 ぐいと腰を前に出す。
 抵抗。
 圧倒的な快感を伴う抵抗。
 でも、ずぶずぶと潜っていく。
 ああ、この感触。
 他の誰でもない、凛の中の感触。
 今はいつもと向きが逆だけど、その感触は良く知るものだった。

 きつくて、でも拒否の意思はまるでない
 膣奥へ誘う柔肉。
 最初とは違う馴染んだ心地よさ。
 突くと言うより、吸い込まれるように凛の中へ全てを挿入した。

「全部、入ったの?」
「ああ。物足りない?」
「ううん、これだけでわたし変になりそう……」

 うっとりとした声。
 これだけで凛の喜びが、俺をも嬉しくさせる。
 でも、もちろんこれで終わりではない。
 満足はしていない。凛も、俺も。

「これよりもっと奥までなんて言われたら、そんな事されたら、狂っちゃう」
「ふうん、狂わせたいなあ、凛を」

 誘いの言葉に乗る。
 凛ももちろん言葉と裏腹に、俺が動くのを嬌声で向かえる。
 根本をもっと潜り込ませようとする。
 腰がぶつかり、恥骨を覆う肉に凛の柔らかさが強く押し付けられる。

「こんなの……い、息が出来ない」
「先っぽが当たってる。
 うわ、そんなに締め付けるなよ、凛」
「締め付けてなんて……、くうんんんッッ」

 小さな波が来たのか。
 歯を噛み締める。
 やり過ごしたらしい。
 きゅっと収縮した膣が余裕を取り戻す。
 このきつきつが余裕ある状態と言うのも凄いお話だが……。

 これ以上凛の中を進めない。
 可愛いお尻が潰れるほど密着している。
 軽く腰を引く。
 圧迫が解かれ、白い半球が二つ美麗なラインを取り戻す。
 
 それだけの動き。
 無理が解かれた時の戻りの動き。
 その挿入とは逆の動きによる接触。
 穂先が引っ掛かる感触。
 雁が擦られる摩擦。
 それが、こんなに快美感を生み出す。
 こんなに気を張っていないで不意打ちだったなら、情けない声を出していた
だろう。

 そうか、と肉体が要求する。
 深く突っ込む、
 狭道を無理に行く、
 柔々とした濡れ肉を掻き分ける、
 そんな快感とは別の種類の快感に気づいて。
 今度は、
 握り締めるような締め付けを脱せよと、
 痛いくらいの狭路を逆送しろと、
 雁首を反り返らせながら、復路の摩擦を味わえと、
 そう求める。

 もちろん、異論は無い。
 ゆっくりと抜く。
 意図して、突き入れた時の何倍もの時間を掛けて。
 同じにしようと思っても出来なかったかもしれない。
 なんて狭さ。
 なんて引っ張り。
 そしてなんて快感。
 もっと速く動けばもっとこのぞくりとする快感は強まる。
 そうわかっていても、恐くて出来ない。
 快感もいきなりでは、あまりに強ければ、それは苦痛にも似ていると知って
いるから。

 ぬめぬめと粘液に塗れた幹が姿を現す。
 ずっと去るのを留めるような凛の膣の締め付けの、最後の挾門。
 確かに、膣口から出て幹が太さをましている気がする。
 どれだけ四方八方から甘美な圧迫を受けていたのだろう。

 また、突き入れる。
 とたんにぎゅっと握られるかのような感触。
 たまらない。
 もう、何も考えたくなくなる。
 凛を。
 凛の体を。
 ただただ、貪り、その蕩ける蜜液に浸っていたくなる。
 
 だが、それに逆らうように、ふと違う夢想が頭に浮かぶ。
 凛とただ肉の交わり、快楽に浸るだけでは嫌だと、別な俺が呟いている。
 ある意味、もっと貪欲に凛を求めようとする。
 ただ、束の間の逢瀬に、裸で抱き合うだけでなくて、もっと……。
 もっと他の形でも凛を……。
 
 そうだな、凛。
 また、二人で出掛けよう。
 何処だって構わない。
 街をぶらぶらするだけだって。
 公園でのんびりするだけだって。
 前みたいに、凛が作ったお弁当を食べるのもいいな。

 傷ついて傷ついてボロボロになってようやく掴んだ貴重な……、ただの何も
無い毎日だ。
 それだって束の間かもしれない。この先にまだ待っているものがあるのかも
しれない。
 でも、その休日の日々を、好きな女の子と過ごして誰に文句言われる筋合い
も無いよな。
 ああ、余計な事だ、ただ休日を楽しめばいい。
 凛を感じていればいいんだ。

 凛が全部欲しいんだ。
 可愛い凛も。
 素直になれない凛も。
 澄ました顔をした凛も。
 学校での凛も。
 家にいる凛も。
 もちろんベッドの中での凛も。
 少し怒って恐い凛だって、俺は大好きだ。

 ゆるやかに抜き差ししていた凛の中が変化した。
 前以上とろとろとペニスを引き抜くたびに、じゅぷじゅぷと蜜が滴って。
 でも、ずっときつくなっていた。
 なんて気持ちいい。
 こんな凛も最高だ。
 手で凛の腰を固定するようにして、何度も俺の腰を打ちつける。 
 背中が反り、また反転して丸まるように動く。
 綺麗な曲線。
 
 体の揺れを受けて、凛の乳房もまた振られていた。
 下を向いている事で、少したわんでいる。
 凛にのしかかるようにして、その乳房を掴んだ。
 僅かに汗ばんでいる。
 しこった乳首を探る。
 
「あうッッ、そこ……」

 抽送は止まってしまったが、深く貫いたままでペニスの先をぐりぐりと凛の
奥に押し当てている。
 体も密着している。
 そこへ、無防備になっていた胸への愛撫。
 凛の口から、抑えきれぬ声が迸る。

「凛……」

 少し俺も上ずった声。
 呼びかけて凛を振り向かせ、無理ある姿勢で凛に口づけする。
 荒い息の交換。

 そして、バックの姿勢から、形を変えた。
 繋がったままで、凛の片足を持って上げた。
 大きく股が開かれる格好。
 こうすると、こちらからも凛からも、そこがどんなになっているかがわかる。

「やだ、こんなの……」
「ダメ、このまま続ける」
「はぁ、うん。さっきとまた違う。凄い、何……これぇ」

 甘い声。
 少しペニスが捻れる形。
 そこから抽送によって、穿ちつつ傾きが変わる。
 雁が凛の膣口をえぐり、幹が斜めに凛を擦っていた。
 その後も、さっきまでと違う体位で、当たる角度や感触が異なっている。
 俺がその変化を感じる以上に、凛にとって反応が顕著だった。
 この辺、急所なのかな。
 膣壁を擦る角度をいろいろ試しつつそう思う。

「凄くいいよ、凛の中」
「は、はぁ……ほん…と……、嬉し…いぃぃ……」
「もうそろそろ限界が近い。こうやって繋がったまま出してやるよ」
「う、……うん」

 出すという言葉に、驚くほど反応される。
 あれだけ狭くて入れているだけで痛いほど締め付ける凛の中がもっと狭まる
なんて。
 締め付けと言うより、絞るように、飲み込むように、膣が奥へと引っ張る。
 子宮を突くほど深くペニスを求めている。
 ありったけの放出でなみなみと満たされるのを望んでいる。
 二人揃って、最後の高みまで駆け上がった。

 強く突く。
 凛の入り口が歪み、ぴゅっとしぶきのように結合部から愛液が飛び散る。
 深いストローク。
 ぐちゅぐちゅと音が響き、ぽたぽたと次から次へと凛の潤滑油が洩れる。

「やだ、恥ずか……あん、深い、うん、ううン……」

 うわ言のように凛が喘ぎつつ声を出す。
 艶のある、耳に残って脳を溶かすような声。

「ッッあ、もう……、だぁ……めぇぇ…………」

 膣壁に擦るようにして、何度も突いた。
 もう抑えない。
 こちらも後戻りできない。
 切先で溝を描くように。
 洩れている俺の腺液を擦りつけて染みさせるように。
 凛に俺を刻むように。

 ふっと凛の体の力が抜けた。
 軽くイッたな。
 今の膣の感触の強弱の揺れで、限界を越えた。

「凛、出すよ。
 いっぱいにしてやる」
「来て、わたしの中、全部……、あ、あああああッッッ」

 言いながら、凛は声を張り上げた。
 びくびくと体が動く。
 よし、と。
 底知れない満足を持って、最後の努力を放棄した。

 堰切って精液が迸る。
 口とは違う。
 舌が敏感な部分を舐め、強く吸上げてくれる口の中での放出も気持ちいい。
 でも、凛と繋がっての放出は、格別だった。
 一体感。
 奥深く精が届く感覚。
 ペニスの先から根本までの包み込む純然たる快楽。
 凛の悦びの顔。
 
 全て注ぎ込んで空っぽになった気がする。
 でも貪欲に凛の中は奥へと波打っている。
 筒に残る僅かなエキスさえ残さないと、吸い出している。

 凛と眼が合った。
 満足そうな顔。
 声はなかった。

 俺も同じ顔をしているだろうか。
 こんな、相手への想いに溢れた顔。
 こちらも言葉はない。

 声を出す気力が一時的に無くなっている。
 崩れそうになる体を支えるのがやっと。

 そして、必要がない。
 視線を交わすだけで、凛の事がわかる。
 いや、何かを求めようという必要がない。

 肉で繋がる一体感。
 射精による一瞬の楔。

 そして気だるさの中の混ざり合い。
 その幸せの中で。
 ただ凛だけを感じて。
 いつまでも俺達は離れる事無く、快楽の残滓の中をたゆたっていた。
 
  
  了
 
 




 

―――あとがき

 【重要】このSSは03年7月に書かれたものです

 いえ、ただの言い訳ですが。さすがに冒頭に置くのは躊躇。
 要するに本作品は「Fate」の発売日前、まだヒロイン三人紹介がされた
だけ……な辺りの断片情報で書いております。
 個人的には元作品を体験せずに書かれたSSに好感を持ち難いですが、今回
は自分で禁じ手を使いました。あえて名は伏せますが、僅かな情報と己の妄想
力だけで、「Fate」の二次創作をされた凄い人がおられまして(それも複
数人)、こんな事も出来るんだなあと感嘆したのが執筆動機になっています。
 先行の三人ヒロインでは凛が気に入っているので、題材は凛に。
 結果は遠く及びませんでしたが……。

 まあ公開するつもりはないお遊びのつもりだったんですけど、妙に熱入って
勿体無くなったのと、サイト開設二周年記念としての出し物が他に無かったの
で、外に晒す事に。

 今後、ぞくぞくと設定が公開されて、最終的にゲームが完成するとあまりの
ズレに居たたまれなくなって、こっそりと消去するなんて事もありそうです。
 といった、期間限定テイストな作品ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
 
  by しにを(2003/10/1)


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