お願い

作:しにを

 
            



「今日は遠坂にしたい事あるんだけど」

 本格的に始める前に、言い差しておく。
 相手の顔が正面にないのが少し間抜けで、少しありがたい。
 胸に当たっていた柔らかい感触がもぞもぞと位置を変える。
 脇から背に回されていた手が、少し力加減を変える。

「ふうん、何かしら?」

 肩の辺りにつけられていた遠坂の額が動く。
 抱き合ったままの格好はそのままに、首だけをこっちに向ける。
 俺の方も、遠坂の方を見る。
 変な角度ながら、視線が合う。
 もう少し近づけば唇が触れ合うのは、先ほど確認済み。
 その、柔らかい唇が今度は言葉を発する為に動いていた。

「内緒」
「内緒って何よ」

 ちょっと唇が尖る。
 素直にそんな表情を見せるのは、昔と少しだけ違うかもしれない。
 なんだか可愛くて、笑ってしまう。

「な、何笑っているのよ」
「遠坂、可愛いなあって思って」

 こっちもそのまま素直に言う。
 こっちの気持ちが伝わっているのか、言葉自体に反応したのか。
 遠坂の顔が赤くなる。

 それで、「士郎がしたいなら、何でもして……」とか「何でもしてあげる」
とか反応が返れば楽だけど、もとよりそんな事は期待していない。俺の好きな
遠坂はそんなに素直ではない。
 自分の火照った頬を自覚したのか、努めて冷静っぽい顔をする。
 身を離して、こっちを見据える。
 そして、反論。何とも言えず遠坂凛。
 裸だと、今ひとつ決まらないけど。

「誤魔化してもダメよ。士郎の自由にさせたら、きっととんでもない事を要求
するんだから」
「とんでもない事?」
 
 はて、と思う。
 
「そうよ。きっと、外でやろうとかいって連れ出したり、剃ってもいいかとか、
見ている前で出……、どうしたの?」
「いや、頭が痛くなった。
 そういう疑いを持たれている点と、遠坂がそんな知識持っている点、両方で」
「じゃあ、違うの?」
「似てなくもないのかも……どうだろう。
 ともかく、別に、変な事じゃないよ。嫌だったら言ってくれればいいし」
「言ったら、止めてくれる保証は?」
「ないけど、いざとなったら実力行使するだろ、遠坂は」

 そうよねと遠坂は頷く。
 前に調子に乗りすぎて、枕に火がついた事を思い出した。

「それに、今までどれだけ遠坂の言う通りしたか、わからないぞ。
 男の子の体の機能に興味あるとか、繋がった状態での魔力の流れの検証とか
言ってさ」
「それは、そうだけど。
 士郎、それで嫌な思いしてた?」
「してないな」

 それは確か。
 遠坂には言えないけど、真面目な顔されて弄繰り回されるのって、一種独特
な快感が……。
 なんだか、旗色が悪くなった。
 これから俺がする事は、絶対に遠坂には苦痛を与える筈。
 今から言うと、即座に拒否されるだろうから、本当の直前までは黙っている
けど。
 それてフェアではないよな。

「それに、さんざん士郎には……、まあ、いいわ。ここで等価交換とか言うの
も興醒めだし。
 士郎がしたいって言うなら、出来る限り叶えてあげる。
 でも、あんまり変な事はダメだからね」

 と、俺の考えている事がわかったかのようなタイミングで、遠坂は突然、同
意した。
 仕方ないわねと言っている顔。

「わかった。無理矢理とかはしないし、したくないから。遠坂に合わなかった
ら言ってくれ」
 
 なんだかんだで、頼みを聞いてくれる遠坂がいつも以上に愛しく思える。
 まずは、普通に抱きしめる。
 別段、物凄く変わった事をしようって訳ではない。
 少なくとも―――、最初は。










「ああ、ひゃん、やだ…」
「そんなに、しがみついて、嫌なのか?」
「強い……、しろ…う、おかしくなっちゃう」

 あぐらをかいたままで、腰を沈め、上へと浮かす。
 姿勢が姿勢なので、そう上下の移動幅は大きくはない。ただ、動きは激しか
った。単純な上下運動ではなく。下げると同時に間髪を入れずに上がったり、
ぐっと沈めて間を取って跳ね上がったり。
 その俺の動きに、遠坂は翻弄されていた。
 腿の上に乗る格好は安定感に欠ける。
 その細い腰は俺の手で支えられていたし、遠坂自身もしっかりとこっちの背
に手を回していた。
 けれども、体全体が上下に動かされ、時には変則的な方向へも揺さぶられる
状態。
 落ちてしまわないかと、必死にならざるをえないようだった。
 もうひとつ、俺と遠坂を結び付けている部分、遠坂を下から貫いている俺の
ものが、遠坂によってきつく締め付けられている。
 この体位だと、さすがに大きな抽送は出来ない。
 俺が上に行く時には、遠坂も同じく上へ。下の時もそれは同じ。
 遠坂の中に挿入したまま、突き上げてさらに深く潜り、引く動きで多少、ぬ
める膣道を擦るが、基本的には遠坂の中にいるまま。
 一体感が堪らない。
 
 ぎゅっと握るように遠坂の中が収縮した。
 終わりが近いなと悟る。
 いつもなら、ここでこちらのリズムと合わせる。
 俺だけではなく、遠坂だけでもなく、二人で絶頂を共にするあの、溶け合う
快感。
 それを、今は、諦める。
 もともと、座位は自分よりも相手への注意に気が向きやすい。
 その体位をあえて選んでいた。
 注意深く、腰を突き上げる。
 どこか、甘い匂いの増した遠坂の胸に顔を近づける。
 汗ばんだ胸の頂点、突き出した蕾を啄ばむ。

「やだ、もう、ダメ」

 もう、余裕がない。
 耳に聞こえる、その絶息前の声の艶かしさ。満足感。

「あ、イク、士郎、しろ…………」

 その瞬間、これまでにないほど深く突き入れた。
 手では腰と背とを固定していた。
 胸を、少し痛いほど歯で齧った。

 びくびくと痙攣する体。
 ちょっと気を抜くと、そのままこちらも射精してしまいそうな締め付け。
 甘い、甘い声。
 遠坂の、快楽に果てた姿。
 今更ながらに再認識する。
 遠坂とこんな関係になって、しかも俺の手で悦ばせたのだという信じがたい
事実。
 そう思うだけで体が震えるような甘美さ。

 しばらく、そのままで余韻に浸って貰う。
 脱力した遠坂の体は、支えてやらねば崩れそうだった。
 僅かな、こちらの動きで、小さく悲鳴じみた声が洩れる。
 快楽の余韻。
 敏感な体は、僅かな変化で反応する。
 
「よっと」

 そろそろかな、と出来るだけそっと、体を下ろす。
 布団の上に、体を横たえる。

「平気か」
「うん」

 まだ、眼を瞑ったまま、気持ち良さそうな表情。
 それが、何かに気づいたように、こっちを見る。

「あれ、士郎、まだ…だよね?」
「うん、まだだ」
「ごめんなさい、もう平気だから」

 身を起こそうとする遠坂を止める。

「いいよ、遠坂が感じてくれたんなら、俺も嬉しいんだから。
 気持ち良かった?」
「うん。最初の頃からは想像もつかないくらい。
 初めての時も、嬉しくて幸せだったけど……」

 それからはしばらく、痛みが続いたしな。

「やっぱり、最初は痛かったよな」
「え、まあ。痛みには耐性あるけど、慣れない処だったし」
「もしもさ、初めてに戻ったら、もう嫌?
 後で慣れるのが分かっていても、痛い思いするのはたくさんかな?」
「耐えられると思う。相手が士郎なら」

 可愛い事を言ってくれる。
 言質を取った訳ではないけど、それなら大丈夫だろう。
 遠坂に身を寄せて、上半身を抱き寄せる。
 顔を近づけると、キスのおねだり。
 もちろん異存はない。
 唇を合わせて、舌を絡ませ合う。
 そのまま、支えでない右手を遠坂の肌に這わせた。

「んんふぁ」

 軽く息が洩れるが、俺の唇で弾ける。
 目は嫌がっていない。むしろ嬉しそう。

 背から脇腹、小股を経由して、潤んだ太股の合わせへと。
 湿る。 
 滴り落ちるほどの、先ほどの名残。
 いや、この熱さは、今のだけで反応したのかもしれない。あるいは期待の現
われか。
 くちづけし続け、目は遠坂と見詰め合っている。
 視界に頼らず、触覚と記憶だけを頼りに、遠坂の秘められた部分を探索する。
 突付けば蕩けそうな柔らかい感触。
 ぴらぴらとしたものが指先に当たる。
 ぐっと沈み込む、肉の重なり。
 そこをさらに奥へと進める。
 くちゅっという水音を、耳でなく指で感じる。
 二本、三本と、指を潜らせる。
 いつもなら、もっと抵抗がある。
 下手をすれば一本でも困難なほど。
 さすがに、今までもっと大きく広げられ、深く抉られた後。
 おまけに絶頂して体が弛緩した状態。
 指はずぶりと遠坂の中に沈む。
 今の今まで、自分のものがこの中にあったんだと思うと、とんでもなく興奮
する。
 何度か入れては出しをしていると、中のとろみを帯びた膣液が、指をびしょ
びしょにした。

 準備は良し。
 あっさりと指を抜く。
 僅かな喪失感に、遠坂は怪訝な顔を仕掛ける。
 けれど、すぐに俺が次にする事を待っている。
 別のところに触れるのか。唇を寄せるのか。
 あるいは、さっきとは違う貫かれ方をするのかと。

 まだ、指なんだ、遠坂。
 背から前に回ってきた指は、今度はまた裏へと戻る。
 さらに下へと潜りながら。
 秘裂の真下をそのまま指は伝う。
 行き先はすぐ傍。
 以前、目ではなく、感触でそこと知る。

 濡れた指で、そこに触れた。
 僅かな膨らみ。
 線を刻んだような感触。

「やだ、何するのよ、士郎」

 遠坂の悲鳴。
 予想通り。
 構わず、そこに触れつづけた。
 遠坂の後ろの窄まりに。

 遠坂は体を捩って不躾な指から逃れようとする。
 けれど、出来ない。
 こちらが既に、遠坂を抱くようにして体を固定しているから。

「最初に言っただろう、遠坂にしたい事があるってさ」
「え?」

 一瞬、変な顔。
 そしてさすがに瞬時に思い出す。

「だって、こんな……」
「痛い事もしていないし、遠坂に酷い事をしているつもりもないぞ」
「士郎」
「嫌なら止めるけど、そんなに俺の指、嫌か?」

 ゆっくりと、露骨に説得口調にならないように言う。
 遠坂は顔を顰め、それから、溜息をつく。

「さんざん、余計な事言っちゃった気がする。
 確かに、わたしの許可をって、話している時くらい、その指止めてよ」
「うん? 触ってるだけだし」
「士郎にこんな変態趣味あるなんて思わなかった。
 こんな処弄って、本気で楽しい訳? ッッあ、行動で示さなくていいわよ。
 ちょっと、ダメ、ダメぇ……」

 指を弱める。
 悲鳴が収まる。
 僅かな動きで、目に見えて遠坂の表情が変わる。

「楽しい。遠坂の反応も楽しいし。
 だいたい、汚い処とか思って抵抗あるんだろ?」
「それは、まあ、その……。綺麗にはしてるのよ、でも……」
「綺麗だよ。今までだってさんざん見てるんだから、よく知ってる。
 さっきだって、後ろからした時に、良く見えてた」

 座位に移行する前の交わり。
 崩れそうな腰を掴んでの激しい抽送。
 その時に、揺れていた白いお尻、その谷間の可愛い穴。

「そ、そんな処見てるの、なんで」
「いや、遠坂の綺麗だぞ。色なんて薄いし、形も小さくてさ。
 不思議なくらい、可愛い」

 かあーっと真っ赤になる遠坂。
 生半可な誉め言葉は平然と受け流す奴だけど、さすがにこんな処を誉められ
た事はないのだろう。
 本当に排泄の為の器官と思えないほどなんだけど。
 それと、意識した事で、いっそう、皺をなぞっている指が気になっているの
かもしれない。

「だから、やっぱり直接見て、弄りたいなあ」
「え」

 遠坂の上半身を乱暴でなく寝かせ、そのままほっそりとした足を掴んで上へ。
 突然の上下逆転に反応し得ない内に、有利な姿勢を取る。
 逆立ち仕掛けて倒れた姿というか、前転の途中と言うか、天地逆の格好で押
さえ込まれた状態。
 じたばた、じたばた。

「何するのよ」
「うーん、したい事をさせて貰っているだけだけど」

 かなりな眺めだった。
 遠坂の秘裂と今の今まで弄っていた後腔が目の前に。
 指で濡らして、少し湿っているのがわかる。
 ああ、やっぱり色素沈着もまるでなくて、綺麗だ。
 遠坂はけっこう薄い毛だし、本当に綺麗だ。
 このままでもほとんど丸見えだけど、あえて、腿を掴んで開いた。
 両方を左右に押し開いた。
 穴が少し開く。
 白い皮膚から、赤身が見える。
 本当に秘められた部分の開示。
 ぞくぞくとした。

「やめて、やめてったら、士郎」
「見られるの嫌?」
「そうよ、お願い、恥ずかしいの」

 それでは、このまま鑑賞する訳にはいかない。
 隠すとしよう。
 手っ取り早く動いた。
 唇で塞いだ。

「やだ、何考えてるのよ、士郎」

 遠坂は、じたばたと激しく動く。
 しっかりと押さえ込んで、くちづけを続ける。
 これで、目からは隠されているので、触覚のみとなる。
 シャワーを浴びてもいるし、遠坂が気にするような変な異臭などはない。
 あったとしても、遠坂がさんざん洩らした愛液の匂いが優ってる。
 秘裂は鼻先だし、滴り落ちたものは周りをも濡らすほど。
 それに、指であれだけ塗りたくっていたのだ。
 
 しばらくそうしてから、舌で軽く突付いてもみる。
 手で触るのとはまた違った、薄い皺の形状、窪みの感触が伝わる。
 やはり遠坂の反応が可愛い。
 何だか凄い罵倒を聞いた気もするけど、今は聞こえない。
 でも、少し遠坂の調子が変わったかな。
 違和感だけではないみたいだけど。
 
 少し動きを変えようか。
 せっかくだし、ここだけでは勿体無い。
 唇を這わせたまま、移動する。
 蟻の門渡りから、濡れたままの秘裂に。
 さっきの挿入の跡は少し薄れた感じ。
 あんな大きいものが入るとは思えない、可憐なほどの遠坂のもの。
 口の周りが濡れる。
 構わずに、舌を伸ばして舐め、音を立てて啜る。
 なんだかアルコールでも飲んだように、酩酊感が漂う。
 遠坂の匂い。遠坂が蕩けたものを啜り、吸っているのだから、当然か。

 そうしつつも、開いた処はただは遊ばせてはおかない。
 唇と舌で、少しふやけた後腔口を、また指で弄りまわす。
 今度は触れるだけでない。
 指先で穴を突付き、僅かに挿入する。
 縁にそって滑らせ、穴を広げるようにする。
 そうしては抜いて、秘裂のぬかるみに塗れさせ、また同じ行為を。

 それだけなら、遠坂の反発を招いただろうが、口戯は熱心に出来るだけの愛
情を込めて続けている。
 単に気をそらす意図だけでなく、本気で俺は遠坂の性器を舌と唇とで味わう
事に夢中になっていた。
 だから、まぎれている。
 ここからの快感で、他の刺激も快感に転じている。
 不浄の部分を弄られているという事実が、遠坂の中で意識を薄れさせていく。

 でも、もう一歩進まないといけない。
 今日はこれだけにして徐々に、というやり方もあるだろうけど、希望を実現
させたかった。
 
 少し、指に力を入れた。
 さっきまでの効果が出ている。
 一連の遠坂の窄まりへの行為は、全て準備。
 もちろん、触れているだけでも何とも嬉しいけど、先がある。
 今までしているのは、全てマッサージだった。
 この、固い口を開く為の、ほぐし蕩かせ柔らかくするための。

 今は、爪の部分だけでも難しかったのに、人差し指がずぶりと潜っている。
 きつい。
 けれども、確かに入っている。何とか動く余地もある。

 さすがに、遠坂が悲鳴を上げる。
 ならばと、剥き出しにした陰核を舌先で転がしてやった。
 強烈な快感に打ち消させようとする。さっきとは少し違う誤魔化しの行為。
 さすがに、しばらくは指を入れたまま動かさない。
 遠坂が馴染んだ後で、ようやく少し捻ってみる。
 また、悲鳴。
 ぴらぴらした小陰唇を唇で啄ばみ宥める。
 落ち着いたら、抜く動作。
 そんな繰り返し。

 どれだけ繰り返しただろうか。
 かなりの長時間に及んでいたようにも思うし、あっという間だった気もする。
 遠坂は少しぐったりしている。
 さすがにちょっとやり過ぎたか。
 でも、今では簡単に指を呑み込む。
 一本だけでなく、もう一本も何とか。

 そっと、遠坂の体の向きを変える。
 指を挿入したまま、また寝かせてやる。
 体の捻りで、指がどう作用したのか。
 小さく遠坂は喘いだ。

 そして、あっさりと指を抜いた。
 もう、遠坂には触れていない。
 頬にも、首筋にも、胸にも、脚にも。
 さっきまで舐めしゃぶっていた谷間にも。
 指を馴染ませた後ろの窄まりにも。

 それは、遠坂にはどうだったのだろうか。
 完全に刺激を奪われた無風状態は。

「あっ」

 声が洩れた。
 その声は、遠坂の正直な心を表していた。

「もっと?」
「うん……」

 顔を覗き込むと、赤くなりながらも、素直に頷く。
 無理もない。
 さっきから絶えず刺激は与えられていたけど、決して一定以上にはいかなか
った。
 途中で止められた状態で、物足りない状態。
 遠坂は、さらに強い何かを望んでいる。 

 さて、ここだ。
 遠坂の抵抗感、期待、感度。

「また、遠坂の後ろを弄りたい。いいか?」
「……士郎がしたいなら」

 これはこれで可愛い返事だ。
 いつもの強気が消えている遠坂の様子は、抱きしめずにおられない魅力を放
っている。
 でも耐える。
 今は、遠坂の意志を示して貰いたいんだ。
 俺が望むからではなくて。
 遠坂が自分からされたいんだって。
 
「でも、そのままだとやりにくいんだ。
 遠坂も手伝ってくれるか?」
「手伝うって」
「自分で広げて。お尻を上げてくれるといいな。やりやすいように」
「えっ」

 説明はしない。
 それだけで遠坂は何を求められているか悟っている。
 何をしないといけないか理解している。

 遠坂がうつ伏せになった。
 そして、躊躇いがちに、でもゆっくりではあるが確かに、遠坂は腰を上げた。
 丸みを帯びたお尻が、俺の方に浮かび上がる。
 それで充分ではある。
 でも、俺はまだ何もしない。

 少しの逡巡。
 でも、腰が上がったまま。
 そして、ついに……、遠坂の手が伸びる。
 ゆっくりと。
 下から上がってくる。
 頬を布団に押し付け、肩と胸とで体を支えて、両手を自由にして。
 その手を後ろ手にして、上げてくる。

 自分の柔らかい白い二つの丘に手を掛ける。
 開いた。
 間で窄まっていたくすんだ色が割れた。
 外からはわからない紅を含んだ粘膜が露わになる。

 遠坂が、あの遠坂が。
 誇り高い有能な魔術師である遠坂が。
 誰に対しても屈しない赤いあくまな遠坂が。
 学校で知らぬ者のない優等生にしてアイドルの遠坂が。

 遠坂が―――
 自分の手でお尻を開き、排泄器官を他人の目に晒している。
 それも、おねだりする為に。
 見てくれと言っている。
 触ってくれと言っている。
 舐めてくれと言っている。
 ここを気持ち良くしてくれとおねだりをしている。

 もちろん、そのお願いは叶える。
 全霊を込めて。
 まずはくちづけ。
 そして……、手を伸ばした。
 震えた遠坂の手は、拒否や嫌悪ではなく、期待に震えていた。

 ぴちゃぴちゃと音をたてて舐める。
 それに合わせて洩れる、遠坂の声。
 いつものような喘ぎ声ではないけれど、押し殺した声は艶めいていた。

 でも、これだけじゃないよ、遠坂。
 胸を舐めた。
 首筋に舌を這わせた。
 背中をさするように撫でた。
 胸の谷間に顔を埋めた。
 髪を何度も梳いてやった。
 遠坂の全てを可愛がった。どこもかしこも。

 その間も指は、遠坂の後ろの穴を弄っていた。
 人差し指が第二関節まで、遠坂の窄まりに潜っていた。
 小さく動き、折り曲がり、絶えず刺激を与えつづける。
 残りの指もじっとしていない。
 穴の縁を、揉むようにマッサージする。
 前の穴からこぼれる汁気を、穴に塗りこめ、ふやけさせる。
 丹念に。
 飽く事無く。
 ただ、そこがほぐれてもっともっと柔らかくなるようにと。
 もっともっとしておかないと、最後まで至らない。
 ここに指なんかとは比べ物にならないものが入る。
 まだ、今日は一回も満足していない強張りを、ここに。
 それが最終的な目的。

 入念にしすぎただろうか。
 一回、遠坂が軽く達した。
 後ろを弄られて。
 それだけではなかったけど、少なくとも後ろを弄られながら、遠坂は体を歓
喜に震わせた。

 少し休憩する。
 遠坂の胸に顔を埋めて。
 さっきの魅惑的な格好はさすがに崩れていた。
 普通に抱き合う形。
 本当に小休止。
 まだ、二人とも満足していない。

「遠坂」
「ふぁ、な、何……」
「手が空いてるよな」
「手? うん、何をするの」
「自分の弄って」

 戸惑った表情が返る。
 いつもの遠坂なら、すぐにこっちの意図を悟っただろう。その結果、素直に
従うか、怒り出すかは別として。
 遠坂の手を取る。
 綺麗な細い指。
 とても、これで料理をしたり、魔術のいろいろな細工をしたりするとは思え
ない。
 人差し指を伸ばさせ、下へと引っ張る。
 そして、そこにあてがった。

「ひゃん、何を……」
「さっき、俺がしたように、自分でするんだ」

 遠坂の指は、濡れに濡れた谷間の下にある。
 充血した媚肉の襞を越えて溢れ出した、遠坂の蜜が伝わり落ちている所。
 さっきまで、俺が干渉し、舐め、弄った処。
 遠坂の後ろの穴。

 恐る恐るといった様子で、しかし遠坂は拒まない。
 手を払う事は不可能ではないが、俺が導いた手のままに指を動かす。
 当然ながら、触れた事は無数にあるだろうが、こんな目的の為に手を伸ばし
たのは初めて。
 こんな感覚を持っている事も知らなかったのだろう。
 手を離しても、動きは止まらなかった。
 ぎこちなくはあるけれど、指はそこを弄り続けていた。

 その、頭がおかしくなりそうな光景。
 促されたたとは言え、遠坂の一人遊びの姿を見つめているのだ。
 それも、肛門でよがっている遠坂。
 今では俺に言われたからではなく、自分の手で快楽を引き出そうとしている。

 もう、限界だった。
 最後の目的。
 今まで我慢していた終局。

 遠坂の手をどける。
 何かを感じたのか、遠坂が俺の目を見て、それからこれ以上ないほど反り返
った俺のものを見つめる。

「遠坂に入れたい」

 はっきりと告げる。
 何処にとは言わない。
 何をとも言わない。
 遠坂は、気づいていたのだろう。
 さすがに即答はしない。

「わたし、士郎に全部あげちゃうんだ」

 ぽつりと言う。
 それはどこか、嬉しそうで。

「嫌といったらやめる?」
「やめる」

 即答した。
 さすがに嫌がるのを無理矢理する気はない。
 どう考えても、これほど入念に準備してもなお、絶対に痛い。
 想像も出来ないほど痛い。
 だから、遠坂が拒むなら、引き下がる。
 俺だけ気持ち良くなって欲望を満足させて、遠坂だけが自分の意志に反して
苦痛に耐える。そんなのは嫌だ。
 遠坂も望んでくれる、それが条件。
 だから、出来るだけ平気であるようにと準備をしたのだ。
 肉体的に可能な状態にして、遠坂の心もほぐして。
 ここにも性感はあるのだと、納得させて。

「けれど、凛が欲しい。俺のこれも正直な気持ちだ」

 意識せずに出た、“遠坂”でなくて“凛”という名前。
 遠坂は、ぴくんと反応して俺を見た。
 ずるいなあという顔をされた。
 そして、まあいいやと納得した顔に変わる。
 柔らかい笑みが俺を見る。
 遠坂には珍しい、でもとても遠坂に似合っている笑顔。 
 
「いいわよ。士郎にあげる」
「ありかとう」

 この場ではそぐわない言葉かもしれない。
 でも、そうとしか言えなかった。
 
 許しは出た。
 後はこちらの意志。こちらの行動。
 動く。

「始めるぞ」

 声が上ずる。
 抑えようとしても、ダメだった。
 喉がからから。
 
「優しくして、無理は嫌」

 遠坂はそれだけを言った。
 体を固くしていてはいけないと理解はしているのだろう。
 意識して体を弛緩させようとしてはいる。ただ、緊張がそれに反している。

 このままだと無理と悟る。
 遠坂も、俺自身も。
 二人で緊張しつつ、唇を合わせた。
 自分の蜜液に濡れた唇を、嫌がりもせず遠坂は受け入れた。
 馴染みの、極めつけの感触に、少し落ち着いた。
 遠坂も、多少力を抜いてくれた。

 身を離し、どういう形で行おうかと考える。
 少し迷って、四つん這いでお尻を上げて貰った。
 さっきのような、局部を突き出す姿。

 似てはいるけど、全然違う感慨で、遠坂の挿入口を見つめる。
 入るんだろうかと不安になる可憐さ。

 膝立ちで近づき、痛いほどの反り返りを下に向ける。
 期待に震えるそれをあてがった。
 いつにないほどの興奮。
 大丈夫かと、目の前の小さな肛口と見比べる。
 指で探った限りでは、何とかなる筈。
 遠坂は覚悟を決めている。
 ここで俺が怖気づいては何にもならない。

 先端が触れた。
 柔らかい拒絶。
 構わず挿入する。
 圧迫感。
 そして膣内とは違う温かい肉の感触。
 押し込む。

「うッ、ああッッ」

 押し殺した声。
 遠坂の声。
 悲鳴ではない。堪えようとしている声。

 さらに押し込んだ。
 いざ入れると、ちゃんと進んでくれる。
 だいぶ柔らかくほぐれていて、亀頭の大部分は消えた。
 でも、きつい。
 ゴムの……と表現されるのがよくわかる。
 
「遠坂……」
「まだ、よね。まだ…全部……じゃないのよね?」
「ああ、まだだ」
「まだ、平気みたい。続けて、平気」

 声が少したどたどしい。
 息を合わせる。
 遠坂の呼吸を確認して、突き入れた。
 めりめりと進む。

「うぉッ」

 声が洩れた。
 一番きつい部分を抜ける時の精神的なつんのめり。
 同じきつさでも、前の狭道とは違う。
 入れてもなお、幹の部分の圧迫を感じる。
 でも、膨らんだ先端部を抜けたからだろう。
 だいぶ余裕がある。
 震えている遠坂の背中も、多少落ち着いた気がする。

「どうしたの?」
「入った。まだ、あるけど、辛い部分は終わったぞ」
「そ…う。よかっ…た……」

 そう言いながらも、苦悶混じりの声。
 後腔に半ばまで挿入し、いったん進行を止める。
 腰をそのままに上半身を倒して、遠坂の体を抱いた。

「きゃっ、何よ」
「凄く、嬉しいんだ。でも、遠坂はまだ辛いだけだよな」
「本当に、ダメなら、そう言うわよ」

 でも、ぎりぎりまで我慢するだろ、遠坂は。
 被さって遠坂と体を重ねたまま、肌の触れるのをただ感じる。
 片手は体を支えるために、下へ。
 空いた手は遠坂の胸に触れた。
 下向きで、少し撓んでいる。
 そんなには大きくないけど、形の良い胸。
 まさぐる。
 なるべく優しく胸を揉み、指先や掌で乳首を転がす。
 左を、そして右を。
 弾力と共に柔らかさを併せ持つ遠坂の胸。
 感度も良い。
 ゆっくりと揉んでいる内に、遠坂の吐く息に、声のようなものが混じる事が
あった。艶めいた音色。
 先端を摘んだ時、膨らみの脇を擽るように撫でた時。
 遠坂の感じる部分。

「俺の我が侭かもしれないけど、遠坂も少しでも気持ち良くなって欲しい」

 耳元で囁く。
 息が掛かり、遠坂の顔が少し動く。
 遠坂の弱い部分。さらに舌を伸ばして、耳朶を突付く。
 声としての反応はない。けれど、肯定を感じた。
 胸の次は、もっと敏感な部分。
 挿入中の場所の前。
 迷い無く、秘裂に指を滑らせる。

「さっきより、濡れてるかな」
「……そんな事ないわよ」

 小さな反論。
 でも、遠坂自身も事実は認めている。
 必ずしも感じているのとは違うのかもしれない。
 最初の、遠坂と結ばれた時にもそうだった。痛みに体を強張らせつつも、そ
こは潤み、熱いものを滴らせていた。
 体の防御機能。性行為に際して意識せずに、起こす反応。
 今は、その膣道への挿入ではないけれど、錯覚し、こちらが蜜液を分泌させ
ているのだろう。
 たちまち指が濡れる。その指を動かす、膣口を擦り、そのまま縁をなぞるよ
うに一点へ。
 柔らかさで構成された秘裂の中の、固い真珠。
 薄い包皮に守られた遠坂の敏感な肉芽。
 それとも、勃起し、自然に姿を覗かせているのだろうか、遠坂の小さなクリ
トリスは?

 指で確かめる。
 ああ、固くなっている。
 でも、指で突付いてみると、ふにふにと皮が動いた。
 根本の方をさぐり、皮をずらすように擦る。

「やだ、そこは感じすぎちゃう」
「感じていいんだよ」

 ゆっくりと指で弄る。
 小指の先ほどの小さな突起。
 目で見るよりも、触れているだけだと大きく感じる。
 ぬるぬるとした皮の中に隠された芯芽。
 剥き出しにして、息を吹きかけたり、しげしげと間近に見て遠坂を恥ずかし
さで真っ赤にさせたり、といつもの真似は出来ない。
 ただ、触れて、転がすだけ。
 でも、そんな軽いタッチが今は良いのだろう。
 遠坂は、僅かに息を荒げながらも、気持ち良さそうにしている。

 そうやっているうちに、なんだか、だいぶ楽になっている気がする。
 きつさに慣れてきただけなのか。それとも実際に緩んでいるのか。
 前者だとしても、それは遠坂にとっても同じだろうか。

「動くよ」
「うん」

 どんなものかと腸道を動かす。
 ずずっと音がするような擦れ。
 膣道の襞やざらざらとは違う、別な摩擦。
 でも、それはやっぱりしっとりと濡れて暖かく。
 何ともいえない気持ち良さ。
 難なくとは言えないけど、さほど力を入れなくても動けていた。
 そのまま動く。
 そろそろと、まっすぐ突き入れる。
 前とは違って、奥まで行っても先端に触れるものは無い。
 どこまでも潜っていけそうだった。
 根本が、遠坂の柔らかいお尻に当たって、ようやく止まる。

「全部、入った」
「本当?」
「ああ、どうだ?」
「なんだか、いっぱい。でも、これなら大丈夫だったみたい」
「動いてもいいか」
「ゆっくりとね」

 今度は抜く動き。
 やはりゆっくりと動く。
 基本的は同じ筈だが、幹やペニスの雁首を擦る感触がぞくぞくするほど気持
ちいい。
 半分ほど抜いて、また挿入。
 前で結ばれる時とはまったく違うスピードを保つ。
 絶対に無理はしない。遠坂が辛そうに見えたら、動きを止めようとしながら
動く。

 純然たる肉体への刺激としては物足りないかもしれない。
 けれど、遠坂の初めて。
 こんな部分まで許されているという感激。
 精神的なものは、遥かに優っていた。

 次第に余裕が出てくると、遠坂の様子にも気づく。
 遠坂自身も、まだ違和感や苦しさはあるみたいだ。
 でも、それ以上は無いとわかった事が、余計な不安を霧散させたのだろう。
 幾分か、体の強張りも消えていた。

 俺の動きに合わせて、声を……。
 声?
 少し違和感。
 いや、声ではない。
 挿入の時は、息を乱さない。
 抜く時に、少し息が乱れる。声にならない声が洩れる。

「苦しいのか、遠坂」
「違うわよ」
「だって、そんな我慢した顔」
「うるさいわよ、シロウ」

 一瞬、怒り声。
 排泄をなぞる動きは体をむずむずさせるといった、どこかで拾った知識が頭
に浮かぶ。
 本当かどうかは、わからない。
 でも、遠坂は、外から進入するよりは、出る動きに弱いみたいだった。

 そして、何度も何度も出入りし。
 その何十回目かの、動きの時。

 唐突に思えるほどあっけなく、込み上げてくるものを感じた。
 ずっと高みに昇りつめていたから、いつ終わってもおかしくはなかったけど。
 腰に熱があるような違和感。
 射精の予兆。

「遠坂、このまま出す」

 許可は求めない。
 いいかとは訊かない。
 否定されたら従う。だから、否定させない。 
 どうしても、前とは違う遠坂の深奥で果てたかった。
 小刻みに腰を動かす。
 僅かな擦れ、遠坂の直腸の意外な性感の刺激。
 持たない。けれど、両手だけで川の決壊を食い止めているような無理を、あ
えて自分に強いる。
 もはやもどかしさではなく、苦痛。
 でも、その苦痛が極めて、快美だった。

「やん、あ、ちょっと士郎、もっとゆっくり」
「ごめん、遠坂。もう少し、もう少し。
 あ。あッ―――」

 決壊。
 どくんと脈動を最後に感じた。
 遠坂を支えつつも、しがみつく。
 腰が落ちそうなのを食い止める。

 そのまま、射精した。
 直腸へ躊躇いなく放出した。
 何秒も、何十秒も続くような、激しい吐精。
 多分この世で一番気持ちいい遠坂の前の穴、膣内。それとは違った、でも別
な気持ち良さにあふれた狭道。
 出し尽くしてなお、射精時の感動が、すぐには消えず留まっていた。
 余韻というより、その至福のままの状態に浸る。

 遠坂も、声も出さないし、動こうとはしない。
 いたわりや感謝の声を掛けようと思ったが、強く抱きしめるだけにした。
 遠坂にはきちんと伝わったと思う。


 それから、どれだけじっとしていたのか。
 ようやく結合を解こうと試みる。
 腰を引く。 
 挿入に苦労したのと同じように、抜くのにも苦労した。
 まるで最初からそうして繋がったままのように、ぴたりとはまっていたから。
 そこを力づくで抜くのは簡単だったが、そうもいかない。
 ゆっくりと、遠坂に無用な苦痛を与えないようにと、そろそろ動く。
 引き抜く動きは、快楽の残滓を増幅させた。
 でも、もう満足だった。
 完全に抜き取った。
 
「あ…ふ」

 抜けた瞬間、遠坂が小さく息を洩らした。
 やはりほっとしたのだろう。
 あるいは、苦痛以外の感触も得られていたのかもしれない。
 こちらを見る目は、少し涙を浮かべていた。
 たまらなく愛しさが込み上げる表情。

 そして一方、現場跡。
 開いたままの遠坂のそこは、何とも淫靡だった。
 血は出ていなかったが、ぬるりとした腸液と、白濁液が滲んでいた。
 性交の跡をまざまざと示していた。










「まだ、痛い?」
「痛いわよ」

 当たり前でしょうとこっちを見る顔は、怒っている。
 ただ、いつもの死を覚悟させるような大激怒ではない。
 どこか、怒り切っていない部分が残っている。

「最初に、士郎の好きにしていいって言っちゃったし」
「うん」
「無理矢理で、わたしの意志を無視した訳じゃないし」
「うん」
「あそこで、もう嫌だって言ったら、止めてくれたのよね?」
「…………うん」
「何よ、その間は」

 あ、少し怒った。
 背筋がぴんと伸びる感覚。

「それは、男の生理と言うか。
 あそこまでいっちゃうと、もう引き返せなかったかもしれない」
「……」
「遠坂、気持ちよすぎた。
 あれで止める真似は……、本気で無理かも。
 もう、ガンドの乱れ撃ち喰らっても構わないなと思うくらい」
「そう、遅まきながら、実現してあげましょうか」

 かなり本気っぽい目をして、体を動かしかけて、遠坂は「ひゃん」と小さい
悲鳴を洩らした。
 奇妙な動きで手を動かしている。背後へと。

「どうした」
「お尻、痛い……」

 小さい声。
 なまじ、叫び声とかでないだけに、本気で痛そう。
 そうだよなあ。

「さっき手当てした時は、腫れぼったくなってたからな。
 切れたりはしてなかったけど」
「本当に、痛かったんだから」
「ごめんな」

 急に罪悪感が込み上げる。
 こちらは、完全に快感だけ。
 今思い出しても恍惚とするような、初めての快美感。
 千切れるかと思う締め付けだって、むしろ甘美な思いだった。
 けれど、それを俺に与えてくれた遠坂はまるで逆。
 普通ならば決して味合わなくて良い、初めての苦痛と苦悶。
 もう一度、謝る。
 そんな俺を遠坂は見つめ、責める事無く溜息をついて、それから答えた。

「いいわよ。
 別に後悔している訳ではないし」
「遠坂……」
「すまないと思うのなら、等価交換の原則に従いなさい」
「等価交換?」

 遠坂は答えない。
 何を考えているのだろう。
 どこか笑っている感じ。
 何だ、何だろう。
 痛みを与えたんだから、こっちも同じ痛みを、とかそんな事か。
 変な実験対象にさせられたり。
 いや、遠坂なら、もしや。
 まったく同じ事をとか。それは……。

「何か凄い事考えたでしょ。
 どうせ……。
 いいわよ、士郎のお尻の処女貰ってあげても」

 引いた。
 本能的に引き下がった。
 恐怖。

「冗談よ。
 あのね……、士郎がわたしのここで、そんなに気持ち良くなったのなら……」

 言葉をいったん切る。
 何だか、遠坂の顔が躊躇っている。
 挙句、頬が赤みを差したりしている。 
 これ、凄く可愛いんだけど。

「今度は、わたしがここで気持ち良くなれるようにして?」

 自分で言って、遠坂はついに真っ赤になった。
 でも、それはこちらも同じ。
 何の事だと意味を解さない、物分りの悪いと罵られる、いつもの衛宮士郎は
どこに消えたのか。
 俺は遠坂の言葉をきちんと理解した。

 今の行為を許してくれて。
 別段、物凄く嫌ではなかったと告げて。
 何より、これからもOKだよと。

 負けた。
 もう、衛宮士郎は、遠坂凛に負けた。
 こっちから言ったのに、何だか最初から遠坂に絡め取られていた気分。
 こっちが真っ赤になったのを確認すると、照れは残るものの遠坂は復帰した。
 上位である事を認識した表情。
 でも、まだして欲しい事はいっぱいあるんだぞ。
 そんな内心の声もあったが、俺は遠坂の笑顔に見惚れていた。

「お返事は?」

 そんなの、決まっている。

「はい」

 にこりと、遠坂は笑った。
 極上の笑みで。


   Fin

 








―――あとがき

 初セイバーSSは、18禁もの(裏剣祭投稿作品)でしたが、初凛もこうな
ってしまいました。きっと、初桜もきっとそうなのでしょう。
 所詮、こういう道を進むしかないのか……。

 それはそれとして、キャラ掴み&エロ練習として、あまり考えずに書いたも
のなので、状況とかは設定しておりません。
 とりあえず布団を敷いてるみたいなので、倫敦ではないのでしょう。

 思った以上に書きやすかったです、凛。少なくともセイバーよりは遥かに。
 多分、桜と比べても上ではないかと。秋葉には遠く及びませんが……。
 全般、あまり凛っぽくなっていませんが、その辺は今後の課題とします。

 お読み頂き、ありがとうございました。


 by しにを(2004/3/25)


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