立たない人形

作:しにを

            





「先輩」

 そう呼ぶだけの声。
 実際に言葉にせねば何も伝えられないのだとすれば、明らかに足りない。
 しかしただの呼びかけだけの言葉が、今は多くの想いを伝えていた。
 そこに潜む甘い響きが。
 問うような抑揚が。
 間違いようが無く伝えていた。
 可愛がって欲しいと。
 抱いて欲しいと。
 言葉を重ねるより遥かに雄弁に、あるいは明らかに。
 蕩けるように甘く誘っている。 
 もっとも、言葉より何より、夜の寝室に意味ありげに薄衣でいる事が、よほ
ど鈍い男へも来訪の意図を察せさせたかもしれないが。
 ともかくも、桜は柔らかく問いかけをしたのだった。
 しかし、それに対して士郎は相反するような硬質の声で返事をした。

「しない」

 拒否の響き。硬く、端的すぎる言葉。
 これまた、あまりにもにべのない調子で間違えようがなく意思は伝わる。
 それに対してさしてがっかりした様子も見せず、やっぱりなという表情を桜
は浮かべた。
 ただし、そうですか、それは仕方ありませんねと引き下がりはしなかった。
 拒否による失望はゼロではないだろうが、むしろ、予期したとおりと言わん
ばかりに、笑みを浮かべた。
 布団の上に座した姿勢で、士郎は桜を見上げる形だった。
 その視線を受けつつ、桜は形だけまとっていた一枚を脱ぎ捨てた。
 さすがに下着は身につけてはいる。
 しかし薄暗がりの中で白い肌が露わになると、何一つ身につけていないよう
に見える。
 全裸であれば、むしろ幻想的に美しさが上回っていたかもしれない。
 下着姿であると、隠された部分がある事が、むしろそこを強調する。
 ほぼ裸になっていると言う事を異性の目に意識させる。
 事実、士郎の視線は自然に注視していた。否応なく、男としての本能として。
 特に胸を見つめられているとわかっていて、桜は腕を動かした。見せつける
様に。
 わざとらしく自分で揉みしだくような露骨過ぎる真似ではなく、腋を閉じた
まま肘を曲げていき手を顎に近づけるような動き。自然と上腕部が前にずれて
いく。両の胸が外側から圧迫されていく。
 形の良い乳房が、ゆっくりと形を変えた。僅かに押されて突き出て、柔らか
い部分がつぶれたわむ。
 下着をつけていてなお、それがはっきりとわかる。
 何もせぬ状態が胸が一番美しい状態であるのかもしれない。けれど今の方が
その量感と柔らかさを感じさせていた。
 より魅惑的になっていたかもしれない。
 次いで腕組みをするようにして胸の下で腕を絡ませあう。
 横ではなく真下から胸が押された。
 その動き、胸の大きさと重みのさりげなくもはっきりとした強調。
 充分に視線を引きつけた上で、そっと胸を露わにした。
 弾むように現れた姿は、あれほど存在感があったのに、それでもまだ抑えら
れていたのだと思い知らせる。
 さらに下も脱ぎ捨てた。
 もう髪につけたリボン以外、桜は何も身につけていない。
 白い肌が士郎の前にある。
 
「ダメですか、先輩」

 甘えるような色が、薄く薄く滲んでいる。
 これより強かったとすればむしろあっさりと拒絶できただろう。
 どこか断わりにくいぎりぎりの媚び。
 無邪気にすら見える顔で答えを待つ。
 桜らしくない表情だと頭の片隅で思いつつも、効果があるなとも感じる。
 そけでもなお、士郎は意固地に答えた。

「そんな気分じゃない」
「ふーん」
 
 意思表示は、はっきりとしている。
 お断りだと士郎は答えているし、それを桜も曲解せずに受けとっている。
 だが状況は変わらなかった。
 それならまたお願いしますと言って桜は背を向けようとはしない。
 あるいは寂しげな子犬のような様子でなおもすがろうともしない。
 退きもせず、未練も見せず、逆に桜は前進した。
 士郎に近寄ると、そっと身を屈めた。ぺたんと自分も座ってしまい、視線を
同じ辺りまで落とした。そしてさらに近くへとにじり寄った。
 
「そんな事言っても体は正直ですよ」
「正直?」

 怪訝そうな声で士郎はオウム返しをした。
 ありえない。
 正直な訳はない。
 むしろ、そうであったらどれだけ良いか。
 
「先輩の体はちゃんと期待してます」

 そう言って桜は士郎の胸に触れた。
 服の上からではあるが掌の感触が伝わり、いきなりの柔らかさに士郎の体が
ぴくりと反応する。
 桜の口元に微笑らしきものが浮かんだ。意地の悪い笑みではなく喜びの笑み。
 そのまま掌が下へと降りていく。
 腹部から、さらに下へと。
 へその下、躊躇せずについに股間へと到った。
 いきなりそこを触れられたのではなく、ゆっくりと軌跡を描いていただけに、
先に予想をしてそれに実感覚が追いついた形。
 予期していたのに、実際の感触を得て、士郎は声を思わず漏らした。

「あっ」
「ふふっ」

 今度は少しだけ悪戯っぽく桜は笑った。
 士郎の今の反応と言うよりも、行動について笑みを浮かべていた。
 何かをした訳ではない。むしろその逆。
 言葉でも実際の行動でも、士郎は桜の手で触れられる事を積極的に止めよう
とはしていなかった。
 本当に嫌だったら、止めていましたよね。そんな言葉の代わりに、同じ意味
を持って桜は笑っていた。
 愛撫らしい動きはせず、ただ、掌で触れているだけでじっとしていたが、膠
着を解くように桜は言葉を口にした。

「脱がせますね、先輩」

 拒絶の言葉を待たずに、てきぱきと桜は士郎のベルトを解き、ジッパーをお
ろした。
 たちまち士郎の下半身は露わとなった。
 士郎は積極的な協力はしないものの、あえて抵抗はせず、多少体を動かすな
どして桜の自由にさせていた。
 内心では嫌がっていないとは見て取られていたし、もしもそんな気がなかっ
たとしても、全裸の少女に甲斐甲斐しくそんな真似をされれば、素っ気無くも
していられなかったろう。

 事実、士郎の目の色が僅かに変わっていた。
 何度となく体を重ねている桜なら情欲の色を見て取れるほどには。
 が、桜の体を引き寄せようとしたり、寝かせて逆に上からのしかかるという
動きはまったくしていない。
 以前ならば、そんな流れになった事もしばしばあったのに。

 そう、以前であれば。
 士郎の顔にちらりと陰が浮かんだ。
 どこか耐えるような顔。あるいは、悔しそうな顔と言えるかもしれない。
 ままならぬ状態にある者の不満。
 そうしようにも、そうできない事への憤りや嘆き。
 そして渇望。
 
 ありし日の聖杯戦争、それは衛宮士郎にとっては一人の少女を守る為の戦い
だったと言える。
 聖杯戦争の存在すら知らず、それでいて最後まで関わり終止符をうったのは、
聖杯に求めるものなど何も無い者だったのは、誰にとっていちばん皮肉な事実
だっただろうか。
 運良く生き残りはした。しかし代償は大きかった。士郎は翻弄の中で幾つか
の決断をし、行動をした。それが正解であったのか、誤りであったのか。過酷
な結果が常にもたらされた。傷つき、片腕を失い、記憶片すら零れ落ちた。
 傍らで剣を取っていた少女を失い、そうあらんと年少より誓っていた正義の
味方への尊き志すら自ら曲げた。
 最後には、己の体をすら喪失した。無残と言えばあまりにも無残な結末。
 死ななかったのはただの僥倖と言えたかもしれない。
 もしもそのまま死んだとしても、最後に桜を救えた事で何ら後悔しなかった
であろう事が、あるいはより無残な事実であったかもしれない。
 
 でも、今こうして生きているんだよな。
 時に士郎は振り返る。
 平穏な日常を再び取り戻している事を、信じがたく感じながら。    
 死んでいった者達、自分を助けてくれた者への忸怩たる思いを持ちながら。
 そして、今生きている周りの人々への感謝の念が浮かぶ。
 この体は、桜や凛のが奔走がなければ存在しなかったものだったから。

 今の士郎の体は、魔術的に構築された義体だった。
 人形とも呼ばれるが、それはむしろ人の身体と区別の付かない卓越した技術
である事を踏まえた故での呼称でもあろう。
 魂は器を再生させる。魂の器としてあてがわれた義体は、元となる人間の体
へと変じていく。現在の科学技術を遥かに凌駕した秘法であると言える。

 しかし、そうした人形でも、遺伝子レベルまで衛宮士郎を再現していても、
完全ではなかったのだろう。
 問題が発生していた。
 理由は色々と考えられる。
 人形師が専用の体として作っていなかったからか。
 処置を講じたのが、門外漢の魔術師だったからか。
 異端の魔術師たる士郎自身に問題があったからか。
 そうであるのによくぞ成功させたと、むしろ感嘆すべきかもしれない。
 ただ、完全でなかった事は、やがて微妙なズレを生じさせてしまった。
 微細な違和感、何がしかの不具合、そうした予兆に気付かぬまま、ある日、
由々しき不具合が顕在化した。

 衛宮士郎の体は、おかしな状態にあった。
 日常では何ら不具合は無いが、明らかに問題を含んでいた。
 最初は疲れているのかで済んでいたが、日にちが経つにつれ、それは恐怖と
絶望とを士郎に与えた。
 確実なる死の影にすら立ち向かった男の驚愕。
 それは、男性の男性たる部分の機能の低下。
 端的に言えば、衛宮士郎のそれはまったく性的興奮に反応しなくなっていた。
 今もそうだった。
 桜の体を見ていて、触れられていて、士郎は抑えがたく興奮を覚えていた。
 しかし、縮こまったまま。
 勃とうという気配も見せていなかった。
 桜は手で、小さいままの士郎を弄りながら、何度か目になる会話を試みた。

「深刻な事態ではないんですから。
 普通のその手の症状と違って、感情と体の同調が少しずれているだけで」
「でも、それを治す方法自体はまだわからないだろう」

 もちろん、手をこまねいていた訳でない。皆で非常に熱を入れて回復の手立
てを調べ、施策を講じた。
 しかし士郎が言ったように、決定的な解決方法には到っていない。
 強いて言えば、ほっておくよりも、何度も試した方が良いという方向性のみ
は確認できている。

「今まで通りにいろんな事をした方が良いって判断したじゃないですか」
「そうは言ってもなあ」

 言葉を交わしている間も、桜の手は動いていた。
 掌で優しく撫で、時に淫らさを感じさせるやり方を交える。
 以前であれば、そんな軽い愛撫であっても、次第に否応無しに反応していた。
 しかし今はずっと柔らかい掌を揺り篭に出来る状態のまま。
 快感がない訳ではない。たとえ小さく柔らかい状態であれ、自分以外の手が
触れれば強く触覚が刺激される。柔らかい女性の手であればそれは快感になる。
 まして、桜の手であるのだから、こうして弄ばれ、幹を撫でられ、亀頭を摘
まれ包まれたりしていれば、うっとりするような気持ちよさが生じる。
 ふにゃふにゃとして頼りない姿形ながらも、根本からしごかれれば反応せざ
るを得ない。
 しかし、そうした事での快美の波が作用しない。心は促しているのに体は応
えようとしない。
 それがふがいない。

 いろいろとしているのに反応がないというのは、桜にしてみたらどうなんだ
ろう。そんな余計な事も士郎は考えてしまう。
 胸を揉みほぐし、太腿に手を滑らせて撫でさすり、花弁を開いてをいかに弄
ろうとも、まったく熱を持たない。湿り気を少しも増す事もない。
 立場が逆として、何度試そうとそんなだったらどうだろう。
 失望感は相当なものではないだろうか。
 もう何度となく、こうして試みては何も起こっていない結果に終わっている。
 いい加減桜の方が嫌になっているのてはと士郎は思う。
 だが、そんながっかりした様子をまったく桜は見せていなかった。
 可愛いですねと言いながら変化の兆しのないそれを見て、飽きる事無く弄る。
 終わりまで、それは続く。
 不思議に思えるが、まったく勃起していなかったとしても、一定の刺激を受
けさえすれば、そんな状態からでも終わりを迎える。
 今もその最後の気配は近づいていた。

「びくびく言ってますよ」
 
 すっぽりと桜の手に収まるってしまうような姿でありながら、製精の機能は
活きている。快楽からのシグナルを受けて、きちんと作用する。
 もよおし、士郎は小さく声を洩らした。
 本来よりも短い、カーブを描いた精管を白濁液は走りぬけた。
 びゅくと先端から弾けた。
 痺れるような快感。
 それでいて何かが足りないように思えるのは、純粋に肉体的な快感の大小の
問題なのか。
 塊のように吐精をして、さらにごぼりと粘液がこぼれる。
 量も勢いもあるかもしれないが、噴出ではなくこぼしているような感覚。
 それが幾ばくかの不足感を生じさせているのかもしれない。
 快感の残滓に、それはそれで満足しつつも、はやくも頭の方は冷める。

「こんなに、いっぱい」

 対照的に、嬉しそうに桜は言葉にする。
 ほらと掌を窪ませて士郎に見せる。
 確かに、驚くほどの量。濃厚なのも見て取れる。
 それに対しては、少しばかりの気恥ずかしさと誇らしい気分が浮かぶ。
 
 士郎に見せ付けるようにして、桜は殊更に舌を伸ばしてドロドロに触れた。
 舌先で舐めとり、少量を口に含む。
 味わうように少し動きを止め、そのまま飲み込んでしまう。
 いったん少量を試してお気に召したようで、今度は唇を直接つけて舐めてす
すり始める。
 品が無い行為なのに、不思議にそう目に映らない。
 しかし、快美に乱れている時とは違った、静的な貪欲さ、淫らさが見える。
 とてもそんな事をしそうにない少女が、そんな真似している。そのギャップ
があまりに大きい。
 
「ここにも残ってる」

 手に散った放出物を全て飲み込んでしまうと、今度は先端を濡らしているペ
ニスの先にキスをする。
 舌先で撫でるようにちろちろと動かし、綺麗にする。
 舐め取った残滓はさっきと同じように飲み込んでしまう。
 どれほど耐えようとしても、疲れきっていても反応せずにはいられない。
 そんな光景であり、肉体的な刺激であったが、ペニスの体積は変わらない。

「凄いです、先輩の。
 まるでお酒を呑んだみたい。酔ってしまいそう」

 言葉を裏付けるように、頬が薄く紅に染まっていた。
 どきりとするほど色っぽい。 

「もっと、欲しいです、先輩」

 遠慮がちな態度でいる事が多い少女には珍しい率直なおねだり。
 士郎としてはためらうが、拒絶もしにくい。
 特に返事はいらないのだろう。反応をまたずに桜は行動に移ってしまう。
 再び愛しそうに指が愛撫の動きを取る。
 先端だけでなく幹や袋にも唇が触れる。
 吸い取られても精臭を残している士郎のものにうっとりとキスをする。何度
も繰り返す。
 そうされて隆起したり、放ってなお揺るぎもせぬ威容を保ってたりしていれ
ば良いのだが、小さいまま。

「ねえ、先輩。立って貰ってもいいですか」
「ああ」

 促されるままに従ってしまう。
 最初と逆に、士郎が見下ろし、桜が見上げる形。
  
 何をするのかと士郎が思っていると、かわりにふたつの白い球体が近づいて
きた。
 ことさらに胸の大きさを強調するようにしながら、押し付ける。
 手とは違ったすべすべとした肌の感触。
 両手で胸を左右にわけるように動かすと、大きな谷間が出来る。そこにに士
郎のものを挟み込む。
 いや、挟むというよりもすっぽりと胸に潜り込ませてしまう。

「可愛いですね、こうすると隠れてしまう」

 手で押さえつつ、ぐにゅぐにゅと揉むように動す。
 なまじ硬さが無いだけに、翻弄される度合いが大きい。
 胸が動いて擦る感覚を与えているというよりも、柔らかく大きい滑らかな壁
に挟まれて小さな肉棒が右に左に、上に下へと、動いていってしまっているよ
うに感じる。
 実際にはその根本の部分が動いている訳ではないのだからそんな事は無いの
だが、取れて肉間に漂い翻弄されている気分。

「気持ちいいですか、先輩」
「気持ちいい」

 嘘偽りのない返答。
 にこりとして桜はその感想を受け取る。
 一度射精をする事で、それまでの高揚も興奮も嘘のように消え去る事はある。
 我に返るというか、欲望と理性のスイッチが切り替わるとでもいうか。
 それと仕組みは同じなのかもしれないが、マイナス方向への感情の動きが絶
頂へと導かれた事でかなり軽減されていた。
 放心にも似た気楽さが多少なりとも士郎に生じていた。
 
「でも、このままで終わりじゃないんです。こんなのはどうですか」

 そうした状態で挟んだまま口でも愛撫するのはさすがに不可能だからだろう、
ひとしきり続けてから胸の甘美な拘束を解くと、桜は士郎のものを口に含んだ。
 根本に桜の口が触れる。
 勃起した状態であれば多少苦労するだろうが、今は何ら問題は無い。

「え」

 その状態で、桜の手が下から袋と玉とを掬い上げた。
 肉棒を口に収めたままで、新たに玉も口に含んだ。
 濡れた温かい感触。
 柔らかく温かい感触。
 濡れた柔らかい感触。
 未知の異様な感覚が士郎の下半身に染みていく。
 しかし、それは不快なものではなかった。間違いなくその逆だった。

 それで終わりではない。
 右の玉に続き、もうひとつも桜は口に含んだ。
 多少苦労しつつも、手でやんわりと寄せつつ口へ導く。
 士郎の背中に寒気とも恐怖とも付かぬ何物かが走った。ぞくぞくとした異様
な感覚。
 桜が全てを口にしたのを感じ、ねこそぎ全てを奪われ拘束されたような感覚
が生じた。
 焦燥感にも似たものが浮かび、すぐさま異質の何物かに転じている。

 亀頭や肉柱を咥えて喉奥にまで飲み込まれた事は何度となくある。
 唇と舌とでさんざん刺激され、頬肉に挟まれ、満ち足りて射精まで導かれる
のは大きな喜びだった。
 ぶら下がる袋と玉とをやわやわとあやされ、時に唇で吸われたり舌で舐めら
れ回されたりした事もある。
 あげく口の中に含まれ、日常ではありえぬ熱くぬめった感触に、声まであげ
させられた事もあった。
 ただ、陰茎とふたつの睾丸を全て口に含まれたのは初めてだった。
 たとえやろうとしても普通の時なら物理的に不可能だろう。
 今だからこその、間違っても勃たないからこその、異端の戯れだった。
 もしもこんな状態で、急に口の中でむくむくと屹立し始めたとしたら。
 想像してみると寒気すらした。玉が過度に圧迫されるのも、幹がめきめきと
軋み折れるのも、非常に恐怖を誘う。
 桜にとっても、士郎にとっても、悲惨なる事故と成っただろう。
 その最悪の状態には程遠いとはいえ、全てが桜の口の中にいれるのは相当に
無理なことの筈だった。
 桜にしても、何がどうなっているのかわからないのではないか。

「おおっ」

 思わず士郎の口から声が漏れた。
 くんずほぐれつで、どこでどう感じているのかも定かでないが、強い刺激が
生じた。
 全体の局面を掌握した後は、状況把握に勤めようというのか。
 それまではただの口中に横たわっていただけの舌が動き出した。
 まだ動くスペースがあった事が不思議に思えるが、そろそろと舌が伸び、這
っていた。頬肉に密着した右の玉を撫で回し、竿と左の玉の隙間に潜る。
 舌が動く事で口の中も揺れ、崩れ、形を変える。
 分泌される唾液を何とか啜ろうとする。
 口をふさがれ、鼻から息をする。
 密着した状態で、鼻息が下腹にかかるのが、異質の快感につながる。
 しかし攪拌しきれていない。それは士郎にも伝わり、同時に玉も袋も竿も何
かもが吸引されている事でのむずむずとした感覚が、全身に広がる。
 驚くほど早く限界が迫った。
 さっきの自然決壊した時と違って、のっぴきならない焦燥感が起こる。
 
 出してもいいのか、でも。
 それが何であれ、口にいっぱいに物が入っている状態は普通ではない。
 例えそれがただの水であったとしても、ずっと口を閉じている事自体に人間
は困難を感じ始める。
 さすがに今の状態ですら無理があるのはわかる。桜が今何ともない訳はなか
った。
 さらにその上どっぷりと白濁液を吐き出して平気とは思えなかった。
 喉奥へ驚くほど突き入れさせ、そのまま出してくださいとせがまれた事もあ
るが、その時よりも無理がありそうだった。
 そうしている間にも腰がひくつく。甘美な痺れが湧く。

「桜、もう出そうだ。早く、放してくれ」

 密着しすぎて容易に視線も合わせられない。
 しかし、切迫した声に対する返事として、むしろ桜は口を閉じようとした。
 根本を包む唇の輪の感触が強くなる。

「ちょっと、ダメだ。桜、本当に、もう……」

 舌がなおも這う。
 桜も士郎の状態はよくわかっているのだろう。
 それでいて吐出を助けるように促している。

「わかった、このまま…、う、出るッ」

 言うや否や、堰を切ったように噴出した。
 道なき道を潜り抜けて外へと飛び出したような無理やりな感じ。
 桜が本気になって膣内を締め上げた時なども、抜き差しもままならず精菅を
押し潰され閉じさせられたようになって、痛みすら感じるような射精を体験し
た事はある。
 しかし、その時には少なくとも弾がいざ銃身まで到ればまっすぐな経路を進
むようにはなっていた。
 今は違う。出口まで到るのに苦心惨憺するような蛇行の道、そこに一気に押
し寄せても潤滑にとはいかない。心持ち詰まる。
 だが、そんな状態を抜けた時のぞくぞく感。
 相当な快美感を伴っていて、放心して士郎は動けず、声も出せなかった。
 
 一方、桜の方も完全に止まっていた。
 少なくとも、外からはそう見える。
 しかし、完全に静止している訳ではないのは士郎にはわかっていた。何故な
ら、微妙な振動がダイレクトに伝わっていた。まだ桜の口の中が動いている。
 溢れそうになった粘液が流動している。
 ただでさえ口いっぱいの処にさらに容量を増やされたのだ。そのままでいれ
ば当然溢れる。そうさせない、無秩序に溢れさせないとすれば、取り除いてい
くしかない。
 溜まっていた唾液と共に、混ざり合ったであろう精液を、桜は顔を動かせな
い状態のままですすり、喉に送り込もうとしていた。
 もちろん平易に行う事は出来ていないのだろう。
 咳き込みそうになり、時にえづきそうになっているのがわかる。
 
「おい、桜、もういいだろ。
 無理しないで、出しちゃえ。いいから」

 しかし桜は離れようとはしない。
 言葉が聞こえていないのか、聞こえていても従いたくはないのか。
 無理やり引き剥がす事も出来ず、仕方なく士郎は桜の好きにさせた。
 皮肉な事に、桜が苦しい思いで悪戦苦闘をしているのと逆に、その原因たる
士郎自身は心地よい刺激を受け続けていた。
 精液と唾液に塗れ、口中はじんわりと温かい。
 そこでまだ敏感なままの亀頭は舌であやされ、残滓を吸われている。
 やんわりと清められるのは、蕩けるような感触だった。
 頬が窄まり、性器全体が奥へと吸われる感触。
 付着したドロドロのみが喉奥へと吸い込まれていく。
 舌でこそげつつ、桜が飲み込んでいく。
 しばらくそうしていて、ようやく桜が口を開けた。
 
「ふあ……」
 
 きゅぽんと士郎のものが姿を現す。
 大きく桜が息を吸い、はあと吐き出した。
 少し目元に涙が浮かんでいた。

「ちょっと大変でした」
「ちょっとどころじゃないだろう」

 それには答えず、逆にどうでしたと問う瞳。
 じっと士郎の答えを待っている。

「凄く、気持ちよかった」
「それならよかったです」

 にこりと桜は笑った。
 
「綺麗にしますね」

 士郎を座らせると、桜は股間に顔をうずめた。
 さすがに先ほどの口いっぱいの状態では最低限度の処置しか出来ていない。
 舌先で、唾液でねとねとになり、まだ白濁液を滲ませた小さい陰茎と袋とを
厭う事無く舐め取っていく。
 厭うどころか、嬉しそうに。

「桜」
「にゅあんんでしゅか」

 ごもごとした声。
 喋った事で、妙な刺激が走った。

「口にものを入れたまま喋るな」
「ん…ッ、なんですか」

 まっすぐと桜を見つつ、士郎は表情を変えずに言った。

「桜ばかり楽しんでいてずるい」
「え?」

 ぽかんとした顔になる桜。
 健気な様子も、一転しての淫靡な表情も良いが、こんな自然な顔も可愛いな
と士郎は思う。
 今日始めて主導権を握った形で言葉を続けた。

「さっきから桜だけ楽しんでいるよな」
「ええと、……はい?」

 何だか分からないまま、押される様に同意してしまう桜だった。
 冷静に考えれば、一方的にすぎる言葉に異論はあるだろうが。
 それとも、もしかすると冷静に考えたとしても同意する方に転ぶだろうか。

「俺だって桜のを可愛がりたい。
 だから、それはもういい。交代」

 士郎のひねくれさせた言葉の意を解して、桜の表情から当惑は消えた。
 はい、と従おうとして、まだ後始末は途中だと気づく。
 こちらはこちらでしないといけないし、でも先輩はああ言っているし。
 そんな逡巡が士郎にも見て取れた。そんな様子が妙に桜らしかった。

「じゃあ、先輩、そのまま仰向けになってください」
「わかった」

 ようやく妥協点を見出したのだろう。
 桜の指示に四郎は素直に従った。足を少しずらしながら横たわった。
 さて、どうするのかと受身で待つ。
 桜は体の向きを反対にした。座した士郎の股間に顔をうずめる体勢から、四
つんばいになって仰向けの士郎を跨ぐ形に。
 そうして、また士郎にたいしての奉仕が再開された。
 口に咥えられたのがわかる。
 天井を向いている士郎の視界には、桜の下半身が現れた。少し顔を上げれば、
桜の太もも、丸みを帯びた尻、秘裂までが間近に見える。
 弄ったりはしていないのに、既にそこはほころびかけていた。
 白い肌に薄桃の柔肉が映えているのは常だが、粘膜がてらてらと濡れ光って
いると、可憐さよりも悩ましく淫らな感じが増す。
 誘っているようにも見える。

 考えるより先に士郎の指が伸びる。
 ひだひだとなっている部分を広げ、さらにその奥をあからさまにする。
 より色の濃い部分がむき出しになる。
 濡れたピンク色の肉が、息づくような生々しい様子。
 陰唇のあわせは肉に覆われ盛り上がっている。丹念に弄り皮を後ろへとずら
していくと赤くなった突起が顔を出すだろう。
 ぬめぬめとした粘膜があり、多少のでこぼこに隠れるように排尿の為の小さ
な穴が息づいている。
 花弁のようなひらひらとしたものに周りを覆われ、小さな膣口がひっそりと
佇んでいる。驚くほど伸縮するのはわかっているが、そのままだと指ですら容
易に受け入れるとは思えない。
 そうは見えないが、迷わず指を滑り込ませると、柔軟に指が当たった部分が
沈み、開口部分は少し広がった。
 滲んだ透明な露液がただでさえ柔らかい部分の滑りをよくしている。
 すっと指が潜り、きゅっと柔肉が締め付けた。
 意識してそうしているのか、異物を感じ取って捕まえようとする器官の自然
な動作なのか。
 たんに挟み込むだけでなく微妙な伸縮が感じられた。
 指を止めたとしても、周りの動きで抽送でもしているように感じられる。
 直接目で見ているからどうなっているのかがわかるが、これが肉棒を挿入し
ているのであれば、自分で小刻みに出し入れしているのか、濡れ肉がしごいて
いるのかわからなくなるかもしれない。

 かつての感覚が再現される。
 ぎゅっと腰を掴み挿入した時の感触。
 亀頭が吸い込まれた時の何ともいえないあの温かさ。
 狭さとゆるゆるの柔らかさが何ら矛盾無く共存している膣道。
 さらにつき込み、先端に何かあたった時の、全部いれたという満足感。
 そのまま射精しそうになる快感の波をやり過ごし、ゆっくり動き始めて……。

「ああ、くそッ。
 なんで、ここに、桜の中に入れられないんだよッ」

 ねっとりと唇と舌とで包まれているペニスは腰が痺れるように気持ちよく、
触れている桜の体は温かく柔らかく、それだけで快感を生じさせている。
 あからさまにしている秘裂はとろとろと濡れ光り、目を楽しませている。
 いやらしい部分を舐め、存分に指で触れ、ぴくぴくと反応する様を間近にす
る事は喜びを感じる。 
 その不満など感じていられない状態の中での、やるせない、吐き捨てるよう
な言葉。その響き。
 丹念に奉仕をし、尽くしている側からすれば、理不尽であっただろう。ある
意味侮辱的な言葉ですらあったかもしれない。こんなにしているのにと、怒り
出したとしてもおかしくはない。しかし、桜の反応はまったく違っていた。

「ああ」

 甘美な声を洩らしていた。
 寒気が走ったように、背中がブルっと震える。
 くちゅりと新たに分泌された愛液が滲み出た。
 明らかに、士郎の言葉に強く反応していた。
 より強く甘美な状態へ押し上げられた反応を示していた。
 思わぬ反応に、鬱憤を露わにしていた士郎も我に返った。

「桜?」
「え、あ、感じて、ちょっと変です。
 先輩に求められていると思ったら、じわってお腹の中が熱くなって」

 士郎の手に小さな震えが伝わった。
 軽く絶頂まで押し上げられたのかもしれない。
 試しに指を何回か抽出すると、ピクピクと過敏に反応した。

「それに、嬉しくて」
「嬉しい?」
「したいって言いましたよね。わたしの中に入れたいって」
「ああ」

 言った。
 思わず声に出た。
 今、そうできない事に対して、怒りと悔しさとで叫んでいた。

「ずいぶんと久々ですよ、そう言ったの」
「そうだったか、いや、そうだったな」

 どうやっても屹立する兆しも見せない事に焦り、不安になった。
 このままなのかと絶望感すらあった。
 士郎はそれでも表面上での泣き言や桜への八つ当たりなどは見せなかった。
 見せられる訳がなかった。
 逆にその事への感情と思いは消し去ろうとし、同時に桜への性的な意味への
関心も閉ざしていた。
 その逆の努力こそが大事だと桜たちが言っても、意固地になって頑なに。

「もっともっと言ってください。
 泣き言でも構いません。正直に言ってください」

 確かに、言葉にした方が良いのだろう。
 口にして望んでいる方が楽になれる気もする。
 今までとは違った気持ちになっているのが士郎には少し不思議だった。
 精神で肉体を凌駕する事は何度と無くして来たではないか。
 強い願望で治癒の後押しできるのならば。

「安心してください。
 わたしが先輩を絶対に治します」

 桜らしからぬというか、今の流れからは少し唐突なほど明るい言葉。
 握りこぶしが似合いそうな強い調子。 
 ここでじめじめとしないで、あえて明るくしようとしているんだな。
 強くなったな、桜。
 藤ねえを彷彿とさせる。それはいかがなものか。

「俺は桜としたい。何回でもしたい。ずっとこんなのは嫌だ」
「はい。治しましょう、先輩。一緒に」
「ああ、そうだな」

 桜の言葉に、何だか少し楽になった気がした。

「とりあえず、今出来ることをしようか」

 互いへの愛撫を再開した。
 士郎は指を包み込む柔肉を擦った。
 人差し指だけでなく、中指も加えた。指の腹を探ると、天井のザラザラとし
た部分に触れる。指を内側に曲げ、そこだけを何度も擦り上げ、一転して指全
体を回すようにして膣内全体に刺激を与える。

「先輩、もっと。
 それ、いいです。や、あん、あッ、ああん……」

 面白いように桜が声を上げた。
 やはり一回持ち上げられた事で、すぐに高みに上る状態になっていた。
 少し激しく出し入れをすると、指だけでなく掌まで、濡れてしまう。
 尻朶を掴んだ手はそのままで、力を入れてみる。
 爪は立てていないが、かすかに痛みとなっているかもしれない。
 そんな刺激も心地よく感じているようだった。

 お互いに愛撫し合っていたのに、士郎のものを咥える余裕が桜には無くなっ
ていた。動きに反応してあえぎ声が洩れ、何度と無く「先輩」と声を上げる。
 感じている。このままいけは桜はイク。
 そんな思いが士郎を積極的に揺り動かした。
 一番快感を与えているであろうポイントを攻め、そのまま桜を絶頂へと押し
上げていく。
 さらに、もう一箇所。
 尻肉を抑えるようにしていた左手を潜らせる。
 下腹の辺りに触れていた柔らかい乳房をぎゅっと掴んだ。
 柔らかくも張りもある桜の美乳だが、下を向くとさすがにその自重で多少こ
ぼれる様に垂れ気味になっている。それを下から掌ですくうと、驚くほどの重
みを感じる。
 指が埋まっていくような柔らかい感触。そして温かく、多少の汗ばみがある。
 ぎゅっと潰すように力を入れる。多少痛みが生じるくらいに。
 掌に、硬くなった乳首の感触があった。

「や、痛い、ん、気持ちいい」

 矛盾する言葉は、切羽詰った色を含んでいた。
 さらに指で深奥を探り、胸を揉み続ける。
 そして、いよいよという震えを見て取り、士郎は止めを刺した。
 肉芽のあたりを舌で突き、舐め、唇でで挟み込みひっぱる。
 包皮ごと、肉芽を軽く噛んだ。甘く、強く。

「ひゃあ、や、あ、先輩、イク、イっちゃいます。あッッッッ…ッッッああ」

 イカせた。
 言いようの無い満足感が士郎に満ちた。
 久々の、本当に久々となる充実感。
 しまった、桜の顔見ながらにすれば良かった。
 そんな事をちらりと思った。

 それで終わりにせず、最後に指と口とを交代をした。
 指でつんと突き出したクリトリスを優しくつまみ、皮の中の根本とも言うべ
き部分をゆっくりとしごくように刺激する。
 一方で舌を、膣口から潜り込ませる。
 指でさんざん掘り起こし刺激した結果のしとどに濡れた様、淫靡な匂い、熱。
 多少の体液としての生々しさはあるものの、ほとんど匂いなどは無い。でも
視覚的な効果が、それをいやらしい匂いであると士郎に認識させる。こんなに
興奮してどろどろとなるまで溢れさせ、充血した粘膜をまみれさせている淫液
に牝の匂いを感じさせている。
 誘い込まれるように、士郎はそこに口付けした。
 唇が蜜液に濡れる。たれるほどの状態で、口の回りも濡れていく。
 かすかな女の匂いとが嗅覚と味覚を刺激する。
 その時、士郎のペニスもまた温かく柔らかいもので包まれ、吸われた。
 息も絶え絶えになりながらの桜の愛撫。
 ふにゃふにゃのままで、しかし自然に士郎は桜の口に三度目の精を放った。
 満足感が広がった。








 ぐったりとした桜を傍らに寝かせてやると、そのまま士郎も寝転んだ。
 さすがに脱力感があった。
 どこか充実感のある疲労だったが、寝転がっているのは心地よかった。
 しばらくそうして休んでいて、ふと喉の渇きを覚えた。
 何か取りにいこうと立ち上がりかけると、部屋の片隅にあるお盆が目に入っ
た。水差しとコップが載せてある。こんなのあったっけ。最初から桜が用意し
ていたのかとも思ったが、まったくそこにあった覚えが無い。
 まさかライダーがこっそりと置いてったとかじゃないよな。手を伸ばしかけ
て、そんな事を思いついて士郎は動きを止めたが、どのみち既にそこにあるの
はどうしようもない。素直に使う事にした。
 腕を伸ばしてそろそろと引き寄せると、水をコップに注いだ。
 そのまま一息に飲み干す。
 甘露だった。
 ほうっと溜息をつくと、桜がもぞりと動いた。
 顔を向けると視線が合う。
 いつから意識を戻していたのだろう。
 桜はいいなあという顔をして士郎を見た。

「桜もいるか」
「はい」

 士郎はコップに水を注ぎ、上半身を起こした桜に手渡そうとした。
 しかし、桜は拒絶するようにやんわりと掌でそれを止めた。

「飲ませてください」

 桜の言葉に一瞬戸惑いを見せ、ああと士郎は意図を察した。
 伸ばしかけた手をいったん戻し、再びコップを傾けた。水を口に含む。
 桜はそれを見ていそいそと体を寄せる。
 軽く頬を膨らませて、士郎は桜と唇を合わせた。
 そろそろと水を流し込む。
 こくこくと桜はそれを飲み込んだ。

「はあ、美味しいです」
「もっといるか」
「はい」

 再び士郎から口移しされた水をこくりと桜は飲んだ。喉が小さく動く。
 先ほどと同じ行為の筈だが、少しだけ違いが生じていた。
 士郎の行為にわずかに熱がこもっていた。ほんの少しだけ、しかしはっきり
と強く。
 水を口移しに飲ませるという行為を、一度目はわりあい素で行っていたのに、
もう一度となると妙に意識してしまっていた。
 そうなると、今しがたまで痴態を晒していたというのに、別種の説明しがた
い気恥ずかしさが生じた。
 性行為とは違った中で触れ、唇を合わせるのは何だか頬を熱くさせる。
 平静でいられない感情の乱れと、肉体的な接触、それらは同時に興奮を招い
ていた。士郎だけでなく受ける側の桜もいつしかうっとりとした表情に変わっ
ていた。士郎に向けていた瞳が熱を帯びている。それがまた士郎に桜を意識さ
せる。

 一滴たりとも水が残っていない状態になっても、士郎は離れなかった。ある
いは離れられなかった。桜が離させようとしなかったのかもしれない。
 そのまま唇を合わせていて、やがてどちらともなく舌先が互いを探り出した。
 いったん触れ合うと、それだけでは足らず絡みあってしまう。互いに相手の
口へ舌を差し入れあい、少し離れかけては唇で唇を噛みあい、またぎゅっと押
し付けあう。
 何回となくキスを繰り返すと言うより、ずっとし続けている状態。
 そうしているうちに桜の様子が変わった。
 士郎からの行為を受ける形となり、舌を吸われ、唇を吸われ、口を探られ、
そうしているうちに体がまたぐにゃりと柔らかくなる。
 差し込まれた舌を強く吸い、強く桜の体を抱きしめた。
 ピクンと桜の体が反応した。

「先輩、またイっちゃいました」
「ああ」
「こうやってるだけて、わたし、イっちゃえるんです。
 女の子ならみんなそうです」

 そうなのか。
 士郎の顔に疑問符が浮かんだのだろう。
 桜は言葉を足した。

「もちろん、先輩の熱くて鉄みたいに固いのを入れられて、中でめちゃくちゃ
に暴れ回って欲しいなあとか、上のお口だけでなくてお腹にも熱くて濃いのを
いっぱい飲ませて欲しいなあとか、思いますよ。ええ、思いますとも。
 でも、そうでなくてもちゃんと満足できるんです」

 今、自分はどんな顔をしているだろう。
 士郎にはわからなかった。
 もしかすると少しだけ泣きそうな顔なのか。
 それとも微笑みを浮かべられているのか。
 何度となく、あせらなくていいと、今も不満なんか無いと桜は言ってくれて
いる。それにどう返事をしていいの、適切な言葉が浮かばなかった。
 だから、何も言わずに桜を抱きしめた。腕に少しだけ力をこめて、愛おしい
体を抱きしめた。
 どうやら、その返答は間違いではなかったようだった。

「先輩のここが元気になったら、擦り切れるまでやりまくりましょう」

 しばらく抱き合い、いつしか寝床に並んで横になった。
 少しだけまどろみつつも、眠りには落ちていない曖昧な状態のままでいた。
 桜の手がまた士郎のものに触れる。
 愛撫ではなく、頭でも撫ぜるかのように優しく。

「ああ。桜が許してくださいと言ったって容赦しない」
「受けてたちます」

 なおも掌が這っている。
 桜の手は柔らかいなと士郎は思う。
 ちょっと指先が触れるだけで背筋がぞくりとする程の快美を送り込む事もあ
るのに、性器のみならず股や下腹まで触れられているのに、不思議と性的な刺
激が少ない。柔らかさと、かすかな心地よさだけがすっと通り過ぎていく。
 そっとそよ風に撫でられるように。

「もうすぐ朝になるかな」
「そうですね。まだ暗いですけど」
「ちょっとは寝ておくか」

 眠気はなかったが、目をつぶっていればすっと深く眠れそうな気もした。
 別段、このまま昼まで眠っても構わない。
 自然に目を覚ますまでこうやっているのも悪くは無かった。

「もう少しだけこのままでいたいです」

 士郎は黙って頷いた。
 薄暗がりの中、静寂が満ちた。

  了










―――あとがき

 久々にFateのSSなど。
 男性が根源的に有する恐怖をテーマにして書いてみました。
 まあ、唐突に浮かんだだけですが。骨格としては、ままならない士郎と桜の
やり取りだったのですが、さるシーンが途中で現れて、そうかこれを書きたか
ったんだと内心で頷きました。
 このところ完成しているものは、どれも途中まで書いてずっと停滞していて、
思い出したようにまとめるというパターンばかりだったので、比較的日数開け
ずに書けて、なんだまだ新しいの書けるなと少し嬉しくなりました。
 楽しんで頂ければ幸いです。

 それと、今年からの試みとなりますが、要望もありましたので作品毎にメー
ルフォームを設置してみる事にしました。何か意思表示してやろうという方は、
お願い致します。特にエロSSの場合、きちんとエロになってるかアドバイスを
頂けると本当にありがたいです。


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