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『酔花酔夢』

by クラザメ


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明晰夢――――それは夢の中にいるとは思えないほど鮮やかな夢。

仮にそんな夢を見ているとしよう。
その時に現実との区別は、どうつけるのだろうか?
果たして自分が夢を見ているとの認識は?

そこで眠れる事なども何も証明しないし、頬を抓るのも無駄だろう。
五感も何もかも、夢では夢が現実世界なのだから。

でも、いまの私は夢を見ているのが判っていた。
全てが存在感を持っているのに、ふわふわした曖昧な感覚があり、
目に映る天井が右に左に揺れているからではない。
私が兄さんに抱っこされている確かな感じが、これが夢である証拠。

私は兄さんの首に齧り付く様に手を回し、兄さんは背中と膝裏に支えてくれている。
身を任せるのが、大切にされる実感が、そして無闇に甘えるみたいなのが良い。
誰かに明かしたことはないけれど、それは私の大好きなお姫様の格好。

だけど、お姫様気分であること自体が問題ではない。
現状を願ったのが私であったというのが、重要なのだった。

これは遠野秋葉に選択可能な行動の内、下位も下位に属している。
雑多な日々に硬質の鎧を纏った私には、街中でおんぶを求めるのと同等の困難さ。

そんな意固地で素直じゃない私が、子供のように兄さんに抱っこを強請ったのが夢の証。
しかも恥ずかしさに掠れた声で、兄さんとお願いをした私。
我ながら恋する乙女の風情だったに違いない。
兄さん以上に私が驚いた程だから。

そこで兄さんが言う通りにしてくれたのは、どこか悔しいけれど普通かもしれない。
なんだかんだと言いながら兄さんは、私にとても甘いのだ。

ああでも、兄さんが照れなかったのは夢ならでは。
睦み合いでは大胆なくせに、こんな場面の兄さんはどうにも決まらない。
それも真摯さのあらわれで好きではあるが、蜜酒を酌み交わすのには不向きだ。
馬鹿馬鹿しいほどに乙女な遠野秋葉は、それが不満。

やはり時には、耽美な甘さに泥濘るまなくてはいけない。
欲望と紙一重の愛欲に爛れて‥‥‥‥‥‥いいえ、兎も角これは夢でしかありえない。

こんな夢でもなければ素直じゃないのは寂しいけれど、ここでは兄さんと二人だけ。
ただ二人だけの素晴らしい世界。

そしていま向かっているのは、私――私達の――寝室。
もう、胸の奥がむずむずして仕様がない。

鍋の中で、ワインに煮込まれるチーズの様、これから溶かされ、
食べられてしまう為、私は兄さんに運んで貰っている途中なのだから。

胸に抱かれる私の顔は、どんなだろう。
深い兄さんの瞳に映る自分は確かに、はにかんでいる。
でも情事を期待した表情をしている。

胸を高鳴らせた少女の顔。
欲情に彩られた女の貌。

相反する二つの要素。
でも、これは不自然ではないだろうか?
ふと気になる。

淫蕩で清純、相反する要素が同居する私、演技だと疑われるかもしれない。
態と作ったのだと思われるのは嫌だ。

しがらみから解放されたこの時は、余計な意図を持った秋葉だとは見られたくない。
抱っこを素直に強請れる秋葉のままでいたい。
夢の中ですら、兄さんへの想いに真っ直ぐになれないのは嫌だった。

そんな不安が顔に浮んだのだろう。
そして夢の中の兄さんは、普段の朴念仁では無かった。

気遣いを籠めた視線をくれて、そして優しい問い掛けてくれる。
宇宙の深淵を思う哲学者の様な声で。

「どうかしたのかな、お姫様は?」
「――――!」

ああ、お姫様とはっ!
そんなの夢だとしても恥ずかしい。
私の怜悧な部分が嘲い、赤面させる。

けれど何と甘美な響きだろう。
感激が、何もかも洗い流してくれた。

兄さんとただ一人対になるのはお姫様である私だけ。
硝子の靴など必要もない運命の二人。

幼女の夢物語でも構わない、時に夢に浸って何が悪いのか?
面と向かって断言する者があれば、私は全力で叩きのめそう。
誓っても良いし、ここにはそんな無粋な者は居ない。

なんの遠慮も必要ない。
私は兄さんの首に回した腕に力を籠める。
密着して、頬を摺り寄せて、兄さんを躰で感じる。

「兄さん、好きっ‥‥もっと抱きしめて!」

寝室まで道すがら、仔猫の気分で甘える私。
夢の中なのだ、思いっきり兄さんを独り占めするのに、やはり誰からも文句は出ない。

なんて、なんて愉快で素敵なことか。
しかもこれは、歓喜のとば口に立ったばかりなのだ。

この先は、童話では語られない大人の時間。
愛を睦み合い、悦びを分かち合う炎熱の時間。
はしたないけど、やはり期待に高鳴る。

ああ、でも‥‥‥‥でも、何故だろうか?
私は夢の中でも、何時もの秋葉のままだった。

せっかくの夢ならば、胸、もう少し大きければ良いのに。
兄さんは白く可憐で、上品な感じが好きだと言ってくれる。
それは嬉しいけれど、もう少しあれば胸を使って悦ばせる事も出来るから。

思いのままの夢の中‥‥‥なのに現実は厳しいものだった。
抱かれる体勢で、多少なりとも胸は圧迫されている筈なのに、
その量感は見慣れた値を僅かも超えていない。

ええ、勿論これは夢なんだけれど。

「兄さん」
「?」
「秋葉の胸、大きい方が好き?」
「‥‥いや、秋葉の胸はとっても良いよ。
 触り心地も手にしっとりとするし、乳首もピンク色に透き通って綺麗だから」

答えるのに少しだけ間。
でも、今日は許してあげます。
私は寛大なの、なにしろお姫様なんだから。
兄さんの頬に軽くキスをする。
賛辞にはこうして返すのが嗜みだもの。

「ありがとう‥兄さん」
「いいえ、本当の事ですよ、お姫様」

今度は即答。
頬の筋肉が緩んでしまう。
兄さんの腕に揺られながら、むず痒い程の幸福感。

このまま廊下がずっと続いても、別段文句はないけれど、
私の望み通りなのか、ほどなく寝室に到着してしまう。

少し惜しさもある。
けれど見慣れた自分の部屋に入ったら、そんな気持ちも吹き飛んでしまった。
一歩入っただけで、ため息が漏れる光景が広がっていたから。

「はぁ‥こんな‥‥‥」

まさかの一言。
こんな物が用意されているのは夢ならでは。

部屋の床は、一面薔薇の花びらで覆われていた。
まるで赤い天鵞絨、馨しい匂いは酔ってしまいそうに濃密で、
これから兄さんとの一時を象徴しているみたくて、鼓動が跳ねあがる。

そして真紅の部屋で、唯一白く浮び上がるのはベットだけ。
清潔なシーツをひかれた、兄さんと私の目的地。

あのシーツ、少し後には皺だらけになるのだ。
純白の清潔な色は、濡れて汚れる為に用意されている。

ああ、心臓が一層鼓動を早めた。
頭がくらくらして、頬が熱い。

まだ部屋に足を踏み入れたばかりなのに、
これではベットに着く前に気絶してしまうかもしれない。

「兄さん」
「秋葉の好みに合ってるかな?」
「ええ‥ええ、とても素敵です」

ベットに横たえられると、薔薇の香りは更に強くなる。
真紅の花弁は、その色の通りに官能的に私の神経を励起する。
傍らに立つ兄さんの視線も心地好く、そして貫く熱さを感じてしまう。

いよいよ‥‥‥‥これから兄さんと。
深呼吸をしても包みこむ匂いが、落ち着かせてはくれない。
躰中が過敏になって服でさえ、妙に肌を刺激している気がする。

先ずは胸からかしら?
服の上から、ゆるゆると揉まれてしまう。
どうすれば良いのか知りつくしている兄さんは、感じさせ私の表情を愉しむの。
兄さんは、いってしまう直前の切ない顔が好きだと、
何度も寸止めを繰り返され、焦らされる。
私は泣いて乞い、股間をびちょびちょにしてしまうだろう。

それともスカートを捲らされ、じっくりと観察されるなか、指を使えと命令される?
おずおずと自分を慰める私に、兄さんはもっといやらしくしろと言う。
思い切り開いた裂け目を、蜜が蒸発するくらい指で擦る。
けれど兄さんは満足せずに、指を中に入れろと。
その頃には完全に気持ち良くなっている私は、指を三本も使って、
兄さんに淫らな女だと思われる。

それともお尻を高く掲げるのか?
ベットの上で四つん這いになり、兄さんのものを口で良くするのだろうか?
唾液を滴らせて、くぐもった喘ぎを響かせる私。

手足を真っ直ぐにのばし、
普通に寝ているよりも余程きっちりと澄ました体勢なのに、
私は何時の間にか、そんな卑猥なことばかりを思っていた。

ショーツの中心に、ぬめりが少し。
仄かに酔ったみたいな火照りの前触れ。
いやらしい私が、少女の私の躰に絡み付き、脳裏で淫靡な行為をそそのかす。

けれど待とう、兄さんを。
そっちの方がずっと悦びが大きいのだから。

「‥‥兄さん」

兄さんが腰かけ、きしりとベットが鳴いた。
目を瞑り、夜曲の前奏を心待ちにする。
近付く気配、早鐘を打つ心臓。

「秋葉」
「あ‥‥ん、に、兄さん」

はじまりは、甘い口づけ。
感喜が痺れとなって背筋を往復した。

そう、こうでなくては夢ではない。
切ない程に素敵なキスから全てがはじまるものだから。

夢の中でもやっぱり夢見心地になる。
重なる唇がじんじんと溶けてしまう。

啄む軽さなのに触れているそこから、骨も筋肉も内臓も、
固体が液体になって躰がふやける感覚が襲う。
甘く疼く、それは発情の予兆。
乙女の秋葉の願いは叶えられ、躰を熱くする女になる私。

それを見越した様に、口づけが終わり、兄さんの手が触る。
服越しだけれど感電したみたいで、思わず力が入ってしまう。

「あ、ん‥に、兄さん」
「じっとしてて秋葉」
「‥‥‥はい」

姿勢は崩さず心持ち手足を広げると、タイが少しだけ緩められた。
結びが解かれる音が、心を煽る。

ボタンが一つずつ外される。
一つ、一つ、上から順に、ゆっくりと。
開いた隙間を兄さんの指が下ると、私の躰が半分露出する。

「白い肌‥‥すべすべだ」
「はんっ!」

鎖骨から腰骨まで、つっと兄さんの指先がなぞる。
毛筆でも使われた様な妖しい感触の甘美さに、背筋が震えてしまう。

スカートのホックが外される。
チャックが下ろされ、衣擦れの音も密やかに脱がされる。
これで躰にはブラとショーツが残った。

少しずつ、少しずつ、裸にされる私。
最後には靴だけ残されるかもしれない。

それともストッキングだろうか?
肌を半分だけ透かせて見せる感じは、兄さんの嗜好。
そして大事な部分だけを破り、私の女を貫くのがいやらしいから。

けれど選ぶのは私自身。
兄さんが訊ねるのだ、どんな風が良いのかと。

「下だけ脱がせてください‥‥‥ショーツを。
 ストッキングは‥その―――」
「必要な分だけ破いて構わない?」
「ええ」
「靴は?」
「‥‥‥そのままで」
「ブラはホックだけを外すの?」
「フロントですから、それで平気です」
「全部脱がない方が良いんだ。
 恥ずかしいのかな?」
「‥‥‥はい」

肯いた。
可愛いね、と兄さんは初な様子に頭を撫でてくれた。
でも私には本当と嘘が混ざっている。

乙女の刻、薔薇の間で、正反対の淫らを晒す。
半裸で交わりシャツを皺だらけにし、腰を抱えられればブーツが見える。
背徳的な、退廃的な、それは淫蕩な私の中心をどろどろに溢れさせてくれる筈。

「じゃあ」
「あ‥はぅん」

恥丘の盛り上がりで兄さんが爪を立てる。
連続して繊維が断たれる生々しい音。
透けた黒色の下から白が現われ、それは股間の三角形になった。
ストッキングの毳立ちが、荒々しい行為を連想させる。

「秋葉、脚を」
「は、はい」

片方ずつ膝を曲げられ、まるで着せ替え。
兄さんの好きにされる人形。

だとしたらリボンとなったタイは、まるでプレゼント。
とうの昔に私は兄さんの物だから、それも当然だった。

「秋葉、出来たよ」
「―――」

促され、頭を浮かせて見た姿の何と卑猥な。

垂直に重力を受けた胸の膨らみは等方向に丸く潰れて、
裾野に見せる僅かなたるみが、柔肉を端的に表現している。
真上を向く乳首は、勃ち、充血しているのが良く分かる。
臍下の起伏と黒々とした叢は、どこか熱帯の湿潤を感じさせていた。

全体に細身であるのは否めないけれど、
よく兄さんが言うように、だからこそ淫靡な躰と言うのは本当かもしれない。
特に女の部分だけ暴露している今は、妖しい色香が匂わせる気がする。

「‥‥‥いやらしいですか、私の格好?」
「うん、見てるだけで痛くなるほど魅力的だ」
「こんなの好きですか?」
「好きだ」
「では、お好きに味わってください。
 秋葉のどこでも兄さんの物‥‥‥‥私の躰に溺れて欲しい、兄さんの悦ぶのが見たいです」

これは絶対に変わらない真実であり、私の願い。
身も心も、遠野秋葉は兄さんの物なのだ。

「胸も?」
「ん‥‥そ、そうです‥あ、兄さんのです」

兄さんの手で覆われる両の膨らみ。
上から押され潰されると、切ない疼きが甘く渦巻く。
舌を噛みそうな快感、蕩けてしまうとしか言いようが無い。

「女の子の部分は?」
「そこも‥‥はっ、兄さんの物‥くぁ!」

もじもじと擦り合せたくなる内腿の合間に、兄さんが肢を差し込んだ。
目的地はその付け根、ほとびれた花弁に膝頭が押し付けられる。
ごわごわと硬い布地は、剥き出しの媚肉を容赦なく摩擦する。
緩い出出しを省略された行為は、今の盛った私には丁度良い。

「ひくぅんっ!
 兄さんのだから、も、もっといじって‥‥‥あっ‥そ、そこ――」

ズボンの生地は淫水を良く吸収して、潤滑させないから刺激が強烈だった。

二重の唇が捲られて、ぷっくりとした剥き身の女が嬲られてしまう。
ゆっくりとした動きなのに、まるで削られているみたい。
秘裂の皮は破けそうで、じんじんと火傷の様な状態だった。

肉芽の方も飛び出している分だけ、もっと感じさせられる。
太い神経で脳に直結しているみたいで、
ズボンに御辞儀をさせられる度に悲鳴が漏れる。

とぷりと蜜が流れる。
お尻の方にまで、止まることなく。
遂にはズボンをびちょびちょにしてしまう。

「このお豆は?」
「きゃうぅっ‥‥あ、ふぁ、兄さんの」

胸から離れた指が股間を弄る。
乳首と競うように尖った肉芽を摘まみ、根元から捻られる。
血が集まり張った中は心地好く、よじれる薄皮からは鈍痛が。

「こっちの穴は?」
「きゃふんっ‥‥‥お、お尻も兄さんの―――ですっ!」

背後からお尻の谷間に忍び込んだ指が、中心の窄まりに触れる。
前からの蜜があり、力んでしまうそこも簡単に弄ばれる。
皺の周囲を指が押し、盛り上がってほころぶ真ん中を指先が突つく。
躰を裏返される妖靡な感覚に、私は、吐息のような喘ぎが止まらない。

躰の全てを兄さんに爪弾かれる。
一箇所を集中して、また同時に責められもする。
その何もかもが快楽に直結している。

私は与えられる刺激にも、躰を強張らせてじっとした。
反応して動き、本来ならば逃げてしまうものが減って、その代わりに快感が増すのだ。
汗が玉になって浮び、火照る肌が赤く色付く。

「に、兄さぁん‥‥‥わ、私の‥‥どうなってますか?」
「蕩けてる。
 たくさん濡れて、柔らかく開いて‥‥でも上品なまま。
 細い腰のラインから女の子の部分まで、蜜で一杯なのに秋葉の三角形は綺麗だよ。
 この中にいやらしい肉が詰まってるなんて信じられないくらいだ」
「ああ、兄さんっ」

紛れもない賞賛に子宮がきゅんとなってしまった。
濡れ切った私が、なおも美しいと言ってくれるなんて、不覚にも泣いてしまいそうだ。
感謝と愛しさで胸が張り裂けそう。

この気持ちを伝えるには、兄さんにもそうなってもらう為には、
口で舐めてあげるのも良いだろう、手で扱いて導くのも良いだろう、
でも今は一つに繋がり、悦楽を受けてもらう事が相応しい。

「中も‥‥中も兄さんの物だから、はやく入って確かめてください。
 兄さんを包んであげるから、蜜で溶かしてあげるから、ええ兄さん」

脚を拡げて兄さんを誘う。
内腿を鷲掴み、濡れた花びらを良く見てもらう。
はしたないけれど構わない。
兄さんの前では、寧ろそうしたい。

ひくつく裂け目を、兄さんが凝視している。
腫れた様に充血した女が視姦される。

「秋葉‥‥」

兄さんの掠れた呟き。
喉仏が上下し、生唾が飲み込まれた。

嬉しい。
私を求めてくれている。
こんなになった秘部で欲情してくれている。
ふやけた躰が、幸福で満腔になる。

「兄さん‥‥‥」

もどかしげに着衣を捨てる兄さん、股間の男性の象徴は天を衝く勢い。
血管を浮き出させ、ごつごつした形状は何より雄弁に興奮を物語っていて、
私は一層の満足を得た。

ならばもっと――――。

遠野秋葉は妥協をしない、兄さんを悦ばせると決めたのだ。
何事も徹底するのが私の流儀、それが淫らな奉仕だって少しも変わりはしない。

「兄さん‥‥んんあぁ」

二本の指を揃えて自身にあてがい、水音を立てて第一関節まで沈めた。
兄さんを惹き付けているのを意識しながら、泥濘るむ小穴を拡張する。

「‥‥‥き、来て」

入り口の肉筋が引き攣れ、お尻の方まで息んでしまう。
感じ過ぎる内壁へと続く穴、しとどで湯気が上がるそこ。
気化熱だろうか、冷やされる刺激に収縮するのが何とも言えない。
脊髄を悪寒にも等しい波が昇って脳髄を擽り、内臓を撹拌する。

耳を甘噛みされるのに、似ていなくもない小春日和な快感。
愛液をそのまま搾り出せそうな心地で、ちょっとだけいってしまった。
指を窄めてまた開き、兄さんを悦ばせる淫戯に自分が没頭しそう。

なんと恥ずかしい。
けれど自慰でも指は挿入しないのに、
兄さんを魅せるのならばやれてしまう自分は誇らしい。

「さあ、兄さん」

中を晒したまま、兄さんの幹へと手を伸ばす。
押え付けるのに苦労する硬いものは、掌でどくどくと脈打つ。
初めて目にした時は随分と奇怪な形に感じたが、
こうして鼓動に馴染んでいると、何故だかやんちゃな子にさえ思える。

「ん、秋葉の手は絹の感触だ。
 冷たくてこのままでも良いくらい」
「それは兄さんが熱いから。
 こんな、中に骨が入ってるみたいに硬くて‥‥‥私の中に入りたがってる」
「うん、奥まで秋葉を拡げたい、一番奥を抉じ開けたいよ」
「ああ‥‥‥」

ぞくぞくした。
正面からぶつけられる欲望に。

花芯が指から弾けそう戦慄く。
握る兄さんも同じ様に興奮していた。
先端に透明な滴が玉になっている。

阿吽の呼吸で重なる私達。
繋げるのは私の役目。
見えなくなる下半身で、自分と兄さんを導き、そして――――――兄さんが入ってくる。

「は、くんっ‥‥‥」

この瞬間、私は如何なるものからも解放される。
躰を構成する細胞の結合がほどけ、肉が蜜に変わる。
張り詰めていた神経は瞬時に溶解し、純粋な愉悦へと昇華する。

股座を掻き毟りたい程の気持ち良さ。
無数の舌で皮膚の内と外とを同時に舐められているみたい。
ぞわぞわと躰中の産毛が逆立ち、私は蕩けて女を溢れさせる。
女とは、どこまでも感じるものだと実感する刹那。

「は、んふ‥‥‥っっ」

陰唇が合わさり、ぐちゃりと捻れる。
縦筋が兄さんの形に拡張され、捲れ返る。
それは何とも言えない刺激を齎らし、勝手に口から嬌声を上げさせる。

そして私の肉へと兄さんが。
粘膜にされているとは思えない感覚。
兄さんと接触した場所からは、怖気に近い陶酔感が跳ね回る。

少しずつ進む強張り、触れ合う箇所はそれまでと性質を変え、極上の悦楽を発生させる。
桜前線が北上するみたいに、猛烈な情感が結合部から登って来る。

「う、ううぁ‥‥‥‥お腹がいっぱい‥んぁ」

大小の陰唇がぴっちり伸ばされ、兄さんが最後まで結びついた。
媚肉を開かれる動きが一段落し、ため息を吐いただけで、
その僅かな振動で、私は呆気なく達してしまった。

強張り、弛緩する躰。
快感が凝縮して、発散する。
それは血流に載って私の隅々にまで運ばれる。

黙っていても何度でも絶頂を愉しめる状態。
でも兄さんは責め始めたばかり。
私の中で逞しいものが、ぞわりと蠢く。

「あっ‥‥に、兄さんっ‥‥も、もう動くんですか?」
「今いっただろ?
 だから、このまま愉しませてあげる。
 いく度に感度が上がるんだから、続けるだけどんどん良くなるよ」
「で、でも‥‥やんっ‥‥あ、に、兄さんは?」
「秋葉の悦ぶ顔で満足だよ。
 綺麗な唇が、ピンク色の舌が震えるのが見たい。
 凛とした声が甘く鳴くのが聞きたいし、お嬢様の上気した顔が見たい。
 この躰が、いやらしく濡れて痙攣するのを感じたい」
「いぅんっ‥‥そ、そうしたら‥はぁ‥兄さんも、ぁ、出ちゃいますか?
 私の中で‥‥硬くして、震えながら、濃い精液を出してしまうんですか?」
「そうしたら‥‥ん、たくさん出るよ」
「あ、あぁん!」

密着したまま腰が円を描き、兄さんの先端が奥を掻き回す。
花弁の小刻みな摩擦と、内側への重い響き。
胸が一層張り、兄さんと合わさった叢の中で肉芽が痺れる。

目を閉じても瞼の裏が、ちかちかと快楽に明滅している。
もう頭の中で射精されてしまったみたく、意識が白濁する。

「さあ‥秋葉のソプラノを聞かせて」
「に、兄さん‥‥‥私の声を‥‥き、聞いたんですか?」
「そう、秋葉のが聞きたいよ‥‥ね、唄ってみせて」

なんと甘美な囁き。
兄さんだけに聞かせる私の歌声が欲しいんですか?

ええ、勿論。
兄さんだけの為に、私は喉が嗄れても唄います。
たとえ私をもっと乱れさせる甘言でも、あまんじて受けましょう。
貴方の為にならば、恥じも外聞もないのですから。

「あぁん‥‥に、兄さん」

小さな悦声を皮切りに、蕩けた独唱が幕を開ける。
ただ指揮するのは兄さん私の内側をいらい、好きな音色を引き出してくれる。

「お、奥がいいのぉ‥‥やあん、ふあぁぁ」
「胸は?
 乳首が硬くなってるよ」
「い、いいです、胸も気持ちいい‥‥ひゃうぅ!
 爪の先でくりくりして‥‥ああ―――!!」
「脇まで震えてるよ‥‥秋葉、こっちは擽ったいかな?」
「ひぅ?!
 はぁん‥‥そんな一緒に‥ん‥く、擽ったいのか分かりません、
 に、兄さんが中でいいんだもの‥‥やぅ、く、首まで舐めるなんて‥‥っああん!」

強張りに指、そして舌、兄さんは私の性感を何箇所も同時に弄ってくる。
味わいの違う快感が躰の内側で交差し堪らない劣情になる。

私は兄さんの望みのまま、私の思うまま、
私は躰を開いて自分の奥底にある雌の本性を曝け出した。
失禁と見間違える程に愛液が流れるのに任せ、
知る限りの淫語を並び立て、濡れ、硬くなる自分の躰を卑猥な単語であらわした。

「ああぁ‥‥い、いきます、秋葉はまた‥‥んくっ‥‥いっちゃいます!」

これで兄さんに何度絶頂を伝えただろう?
片手で足りないのは間違いない。
いや、泣き叫び、兄さんを締め付け、愛液を垂れ流す、
そんな口には出さない回数もいれれば、両手ですら足りないだろう。

なのに貧欲で淫蕩な私は、兄さんが子宮の入り口を小突くたび、
押し付けた根元で陰唇を引き伸ばすたびに、もっともっとと欲しがってしまう。

痙攣する程に下腹部をくねらせ、膣道で兄さんに密着し、
蜜どころか潮さえ吹いて快楽の極みに耽ってしまう。
終いには達しっ放しで、絶頂を数えるなど意味がなくなってしまう。

なのに兄さんは、丁寧に、優しく、永久を誓う騎士の如く、愛してくれる。
律動で終わらない悦楽を注ぎ込み、髪の毛一本でさえ疎かにせず愛撫してくれる。
肉の悦び、そして惜しみない情感で、子宮が歓喜に疼いて止まらない。
覚醒した神経が快楽に戦慄き、奥底から蜜が溢れ続ける。

「ひんっ!
 に、兄さんのが‥‥んくぅ、こ、こんなに私を!
 ああ、好き、兄さん‥‥‥世界と引き換えにしてもいいっ」
「わかってるよ、秋葉」

抱きしめられる。
汗みどろで密着する私達、逞しく反り返った兄さんの先端が中で女の器官を押し上げた。
外からも薄ら盛り上がりが判る程で、
柔らかい私の襞が、自分の腹筋と兄さんとで両側から挟まれている。

充血して敏感になった性器には、堪えられない刺激だった。
それだけで甘く鳴いて軽い絶頂を連続させてしまう。

「あぅんっ‥‥あ、ああ、に、兄さん、中と‥外から‥は、はあぁんっ‥い、いいの!」
「感じるよ、先の当たったところがうねってる。
 秋葉の粘々したお肉が、気持ち良いって蠢いてる」
「は、はい、溶けちゃうそう‥‥‥うくっん‥‥う、動くとああ、も、もっと来る?!」
「ほら、もっと挟んであげるよ‥‥ん、秋葉の女の子をいっぱい擦ってあげる」
「くうぅんっ‥‥は、はあ、はあ、襞が、いうっ‥つぶれちゃう‥‥ひぁん!」

腰を密着させて兄さんは躰を反らせる。

中で暴れる強張りの切っ先は角度をきつくして、
引き締まった兄さんの腹筋とで圧迫され、ごりごりと振動が子宮にまで伝わって来る。
私の柔肉は、内と外から扱かれていた。

内奥が爛れていた。
これ以上なく媚肉が充血し、淫液を分泌する。
神経は絶え間なく快感を脳に伝え、脊髄はその甘美さに蜜に変わってしまう。

「はぁ‥‥奥の、兄さんの先が当たってる‥な、なにか泌みるみたい‥‥きゃうっ!」
「とろとろにほぐれてるね、秋葉。
 感じるよ、秋葉の肉、もう形がなくなるくらいに熱くなってる。
 どこまでも中に入れそうな具合だ‥‥‥ここかな、秋葉の入り口?」
「ひくぅ!!
 そ、そこです、あ―――」
「お腹に力を入れて息を吐くんだ‥‥そうしたらもっと密着して気持ちいいから」
「は、はい‥‥‥い、いやぁ‥‥か、感じすぎるっ‥に、兄さん」

有機的な機械である躰、快感を愉しむ機能も完備されている。
自分を慰めれば、その片鱗が理解する。
けれど兄さんは、その全てを使用することが可能なのだ。

私の躰だと言うのに、私の触れられない奥まったスイッチを突き、
火照る粘膜を摩擦し、最適なリズムで肉芽を捏ね回し、
私には到達しえない高みで翻弄することが出来る。

自分の躰を自由にされてしまう、本来は恐怖。
けれど相手が兄さんであると、それは幸福だった。
非論理的な女の――――遠野秋葉の当然の理論。
子宮口を抉られ蜜を搾り出しながら、私は笑い出しそうな歓喜に鳴いていた。

「い、いひ‥‥‥あ‥‥あう‥‥あぁ‥‥‥‥に、にいさぁん」

うずうずと神経を苛む淫悦。
じっとりと濡れて、その浮遊感に思わず震え上がる。

兄さんの律動に身を任せ、私は肉欲に耽る。
忘我の一歩手前、なのに躰は勝手により淫悦を求めて動いてしまう。

お尻に力が入り、それは前にも伝わり兄さんを締め付ける。
括れた先端だけでなく、幹の部分も粘膜を擦る形状になっているのを感じる。
私の中を削るように刺激して蜜を出させ、代わりに快感をくれる強張り。

勢い良く挿入されると、内側の襞が毳立たされるみたい。
息が詰まりそうな、内臓まで押し上げる充足。
出て行く時の切なさが、どうしようもない。

「兄さん‥‥‥き、気持ちいいです‥‥ああ、も、もう――――!」

私は躰中で感じていた。
手と肢の先に纏わり付くシーツだって気持ち良い。

「に、兄さん‥‥‥キ、キスしてぇ‥‥ああ、はやく、お願いっ」
「ああ、勿論」
「ん、んむ‥‥は、んあっ」

目眩く快楽のなか重なる唇。
兄さんの舌が入り込むのももどかしく、はしたなくも私から吸い立てる。
嚥下する兄さんの唾液、あまりにも甘い事に噎せてしまいそう。
喉を鳴らす度に、私はいってしまった。
キスだけで―――――。

「ふぁあ‥‥‥兄さん?」
「雨上がりの胡蝶蘭だ」
「な、なにが‥‥です?」
「秋葉の匂い‥‥高貴で扇情的だ」

汗ばむ首筋へ口づけるように、兄さんは息を吸い込む。
その鼻先は抉じ開けるように腋へと進み、私を嗅いだ。

「あ‥‥いや」
「虜になるよ、秋葉」
「んぅっ‥‥だ、だめ」

否定しながらも饐えた匂いを暴かれる行為に陶然とする。
そのいやらしさが肌をぞくぞくと感じさせる。
兄さんが更に口を使うと、もう悦びの声を抑えられなかった。
腋の肉に歯を立てられ、齧られると思わず仰け反ってしまう。

「ひ、くぅ‥‥そ、そこはもう、ああ」
「痛かった?」
「あぅ、へ、平気ですから‥‥あん、い、いや」

今度は腋を舐められる。
唾液の音を態とさせ、兄さんが私のそこを舐めている。

這い進む舌先が擽ったくて、心地好くて、股間が疼いてしまう。
どこか不浄な感じが私を昂ぶらせる。

「秋葉のに唾の匂いが混じって‥‥まずいくらいの匂いだ。
 いやらしい凄く良い匂い」
「あ、に、兄さんがしたのに‥‥!」
「こんなに濃い女の薫りをさせるようになったんだな秋葉は」
「あの?」
「本当、立派なレディになったんだな」
「そうですよ。
 兄さんがそうしたんです。
 ええ、ぜんぶ兄さんが‥‥‥‥‥」
「ああ、光栄だな‥‥‥でも」
「でも?」
「頭を撫でてやるのは似合わなくなったかな?
 もうちっちゃい秋葉じゃないからね。
 それは少し残念かな」
「そんなことありません。
 いまだって私は昔と変わりません――――兄さんが好きで好きで、
ずっと後を追い掛けてた秋葉のままです」
「じゃあどっちが良いの?
 こうしてあげるのと、可愛がってあげるの、どっちが好き?」
「どっちもです。
 昔みたいに構って欲しいし、閨を共に朝までずっと兄さんと居たいです」
「はは、欲張りだな秋葉は」
「‥‥‥いけませんか?」
「構わないよ、秋葉ならば何でもしてあげたい」

言葉通りに、今は睦み合う。
汗を散らし、肌を合わせて悦び合う。
夜の夢は殊更淫らなものになる。

快楽に晒された女は蜜になる。
肉が溶け、心も蕩けて、甘い汁に変わってしまう。
そんな話を聞いた覚えがあるが、真実だった。
兄さんの強張りを内に、私はそうなっている。

そして兄さんに啜られて行く―――――――。

「くはぁっ‥‥ふ、深い、あ、兄さん、深くまで来てるの‥‥はっ!」

ベットが腰の下で窪む。
兄さんと私、二人分の体重がそこに集中している。

兄さんの形に私が変えられる。
汁を一杯に含んだ私の肉が潰れている。
強張りと背骨の間に粘膜が挟まれて、揉みくちゃにされる。
感じ過ぎる柔肉が、ごりごりと音を立てていた。

「んふぅ‥‥‥あ、あぅ、兄さんが入っちゃうのっ‥‥‥わ、私の子宮に――――やはぁ?!」

割れ目が捲れ返る程ほど繋がり、兄さんの切っ先が柔肉を抉っていた。
逃れ様のなく密着し、奥の扉を潰し、こじって嬲る。

かちかちと歯の根が合わない。
強引な挿入感が背筋を凍らせる。

普段は意識しない最奥、兄さんが中に居るときだけ、こんなにも感じる。
肉が合わさって出来る秘めやかな女の構造、快楽を無尽蔵に発生させる肉の器。
膨らんだ先端に捲き付く私の襞が、ぐりぐりと捻れて汁を搾られる。

ああ、激しく疼いて仕方ない。
躰が蕩けまくってどうにも止まらない。

「ああぁあ‥‥‥くくっ‥こ、こわれちゃう‥‥に、にいさんっ!」

瘧に罹った様に躰が痙攣する。
内側で津波となった妖靡な悦びに、血が出るくらいに指を噛み締めた。
息をする鼻の奥がつんとする。
狂いそうな淫悦の極致、私の股間はどろりと濡れそぼる。

ふと、どかされる指、そして口づけ。
すると兄さんは私の濡れた指先を唇に―――――!

「に、兄さんっ」
「そんなに噛んだら切れちゃうよ。
 ほら、もう痕がついてる」
「い、いいの‥‥‥‥あやぁ、舐めちゃうなんて‥んっ‥ど、どうして?!」

唾液がまぶされる指。
それから、あっという間に兄さんの口に消えてしまう。
湿った口内で吸い立てられ、舌に這われ、唾液に浸される。
まるで‥‥‥いや、まるで躰中を舐め回されているみたい。

「ひゃくぅん‥‥‥く、擽ったい、はん、に、兄さん、ゆ、指が‥‥!
いぃあ、してる最中なのに、こ、こんな‥‥‥ぞ、ぞくぞくしちゃうっ」

緩やかに舐られる感覚と、子宮の鮮烈な快感。
ともに肯定的な刺激だけれど、方向性が違う。
柔さと性感が処理しきれずに、感覚に惑乱する。

それは絶頂の手前で私の快楽を固定する効果があった。
果てる寸前、焦燥が綯い交ぜになった愉悦の坩堝に溶かされる。
神経を沸騰させる堪えられない甘露な心地に耽溺させてくれる性の極致。

そんな中、快感にぼやけた視界の中心で兄さんが微笑んでいた。
兄さんも汗にまみれ、私の肉の味に陶酔した顔だけど、確かにそう。

「‥‥‥‥兄さん?」
「ああ、秋葉があんまり可愛いから」

それが問い掛けに対する答え。
頭の中で理解するまで数秒掛かった。

つまり兄さんは私の顔を見ていたのだ。
性感に耽る私の事を眺めていた。

「いやぁ‥笑わないで」

ああ、そんな‥‥‥‥!
きっと、さぞ惚けた顔になっていたに違いない。
なにしろ兄さんに弄ばれ、絶頂の連続に正体をなくして悶えていたんだから。
薔薇の香りを駆逐するほど股間を濡らし、喘ぎ声を部屋中に響かせていたんだから。

やはり気恥ずかしい。
散々痴態を晒してはいたけれど、身も置けない心地になってしまう。

と同時に、淫蕩さを明け透けにした事が、
知られる事が秘部を疼かせ、背筋を蕩けさせもする。

遠野秋葉はなんて淫らなのだろう。
感極まる。
望んだ夢の中でこうもいやらしいなんて。

そこへ兄さんが、そんなことないと宥めて来る。
思わず憤る私を、絶妙な腰の動き一つで戒めて、
両頬を掌にそっと包んで、私の顔を覗き込む。

視線が逸らせない。
触れられる頬が火照り、兄さんの手の感触が快い。

「恥ずかしがるのも見たいな」
 そんな秋葉も好きだから‥‥‥いや、秋葉はぜんぶ好きだよ」
「あ‥‥っ」

全ての肯定。
愉悦に壊れそうな鼓動とは別に、とくとくと穏やかに脈打つものが私の内にあった。
多過ぎる感情の中で、けれど私の中核を占める想い。

歓喜の嵐。
たまらず兄さんに齧り付く。

「兄さん、兄さんっ!」

絶頂とは、こんな時の為にあるに違いない。
それで区切りがつかないと、この気持ちが抑えられない。
どれだけの快楽に流されても、永遠に兄さんにしがみついて放さなくなりそう。

息をするのさえ、自分が誰かもを忘れて求め続けてしまう。
だから性悦には極点が用意されているのだ。
果てて激情を再起動する為だと、今の私は得心した。

そんな私の理論を証明するみたく、兄さんの抽送が加速する。
秘め肉を蹂躙し、私の奥を擦り立てる強張りが小刻みに震える。
よりいやらしい表情を見たいと、歓喜に震える顔が欲しいと、兄さんが。

「ふぁあんっ‥‥‥ひ、開いちゃう‥‥あ‥こ、こんなに、兄さん、いけないの‥‥あはぁ!」
「駄目だよ‥‥‥んん、秋葉の具合がいいんだから。
 ぬるぬるで括れていて、襞も奥の方にある感触も堪らなく良いんだから、やめられない」
「え、ええ、やめないでください‥‥‥秋葉の中が良いなら‥‥はふぅっ!
 こ、このまま‥‥‥兄さんの好きにつかってください!!」

兄さんが激しく腰を打ち付ける。
ひどく撹拌された粘膜だけが立てるいやらしい音が、部屋中に満ちる。
快感で張り詰めた性器は、互いに絡み付き抽送すらままならない程。

体重を乗せてくる兄さんに、私の子宮は定位置から縦横に蠕動される。
内臓を刺激される重々しい感覚は、官能に直結する。
まるでお腹の中が淫水で一杯になった様。
喘ぎと一緒に口から溢れても不思議ではない。
私はそれほどに快楽に悶悦していた。

そして兄さんも―――――。

「あ、秋葉‥‥んっ‥いくよ」
「うはぅっ‥に、兄さぁん‥‥‥き、きてぇ!」

最後の力で、躰を兄さんに絡み付ける。
次の瞬間、灼けそうな熱、それが私の中で破裂する。
胎内でねっとりと濃い兄さんの感触が拡がった。
噴火して流出する溶岩の様に、容赦なく私の内側を満たして行く。

「くふぅぅ‥‥‥あぁ、兄さんが弾けて‥‥‥やぅ、ど、どくどく私の中で脈打ってるっ」

襞の隅々、肉洞の奥々まで兄さんが流れ込んで私を侵食する。
粘膜に染み、神経まで溶かしてしまう。

ぎゅっと秘部が収縮する。
精を逃さないように陰唇が兄さんに密着し、千切れそうに肉芽が張りつめる。
胸もお尻も戦慄き悶え、躰中の筋肉が強張り絶頂を閉じ込める。
震える刺激が尿道にまで達した。

「い、いっちゃう‥‥‥んぁ、わたしも‥‥い、はてちゃう―――――!!」

幾重にも躰を駆け抜ける濃密な甘美感に、恍惚として高みを彷徨う私の意識。
兄さん以上に溢れさせたのだろう股間の生温かさが遠くに感じる。
絶頂から脱力して行く、その解放感が耐え切れないほど心地好い。

とても満足。
兄さんと愛を交わし白濁にまみれられるなんて、至福の刻。
どろどろの愛液に、このまま二人で溶けてしまいたいくらい。

でも‥‥‥‥‥でも、こんなに気持ち良い夢を見ているなんて、
もしかしたら寝ながら指で秘裂を開き、自慰行為にでも耽っている?

きっと夜が明けて夢が醒めれば、言い訳無用の状態。
それでも止まらない、これは二人だけの夢だから。

‥‥‥‥‥ええ、終わらなければ良い。

けれども思う、明日のおはようはどんなだろうか、と‥‥‥。
夢から溢れた素直な私、淫夢の余韻に爛れた色香の残滓を浮べた私、
ときめきを覚えてはにかむ私、いつもの朝とは異なる顔での挨拶。

私の違った雰囲気に兄さんはどう反応する?
どぎまぎと赤くなってしまうかも、それとも照れて慌ててしまう?
気の利いた夢の中とは違うけれど、
そんな兄さんの顔を見るのがとても楽しみ。

私を喜ばせてくれる事があれば、ふふ、キスしてあげますね。
頬に軽くだけれど、そしたら兄さんは?

とてもわくわくする。
夢も現も兄さん、貴方とともにあれば私は――――――――。


◆


「ふぅ、疲れた〜〜〜」
「志貴さん、ご苦労様ですね。
 秋葉様はどうなさいました?」
「姫様におかれましては、ご満足して眠っていただきましたよ、はい」
「それはようございました。
 功労者の志貴さんには、お怪我の手当て、優しくサービス致しますね。
 明日の朝日を拝ませていただける、ちょっとしたご褒美です」
「大袈裟な‥‥‥と言えないのが怖いね。
 で、腫れてるかな、琥珀さん?」
「ええ、右目がもう見事な青タンですよ。
 愛情表現とはいえ、秋葉様の素晴らしいライトクロスを頂いたんですから、当然ですけど」
「クロスしてないよ、一方的にやられたんだからさ。
 適宜なお姫様扱いをしろって、問答無用。
 まったく限度を超えると酒乱が発動するって、琥珀さんは知ってたんでしょ?」
「いえいえ、あそこまで飲まれた秋葉様は初めてでしたから。
 まあ、お姫様願望があるのは知ってましたけど」
「ワイン五本とブランデーも‥‥‥五本だっけ?」
「六本です、志貴様」
「アルコール換算の摂取量は二リットル程か‥‥‥とんでもないな。
 あ、翡翠もお疲れ様‥‥‥秋葉も喜んでたよ」
「いいえ、お役にたてて恐縮です」
「またまた翡翠ちゃんも謙遜して〜。
 薔薇で部屋を一杯にしろと仰しゃられた時には、どうしようかと思ったのに」
「そうそう翡翠の機転で助かった」
「あ、い、いえ、ちょうど間違って注文した赤ピーマンの在庫が、
大量にあったのを思い出しただけです。
 たいしたことはありません、志貴様」
「スライスされた赤ピーマンに、大量に振りかけられたトイレの芳香剤。
 秋葉様の見る夢はどんな何でしょうか?」
「さあね‥‥‥‥‥ただ明日起きた時が見物だな」
「そうですね〜、きっとびっくりなされますね」
「ははは、だね」
「うふふ、ですよ」
「あの‥‥‥‥‥秋葉様は今夜の事を覚えていらっしゃらないのでは?」
「そうかも泥酔すると記憶を無くすって言うからね」
「だとすると、赤ピーマンと芳香剤を撒いた犯人は志貴さんか、私ですね。
 または二人の共謀でしょう」
「‥‥‥‥‥‥って、怒られるのかな?」
「ええ、きっと怒られるんですね、私達」
「琥珀さん、いろいろと理不尽だね」
「はい、本当に世の中理不尽ですね」
「あ、あの、私が疑われないのは、日頃の行いの所為かと思うんですが‥‥‥‥」
「うん、翡翠は良いメイドさんだから平気だよ」
「そうそう、翡翠ちゃんは良い娘だもの疑われません」
「そ、そんな言い方‥‥‥や、八つ当たりです」


   終了








――あとがき

志貴と琥珀さんは夜中に侘しく片付けをすることに。
秋葉の朝は、乙女チックなものでなく青痣と対面。
そして何処までが夢であったのかは、ご想像にお任せいたします。
と、以上補足説明的に。
 

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