昏い意識の底で

作:しにを

            



 ※ 本作品は、調教ADV+SLG『シオン・キューブ 〜練金調教伝〜』
 の体験版のおまけに収録された番外編です。
  企画時の設定を基に書かれている為、幾分製品版との相違もありますが、
 お遊びとしてお読み頂ければ幸いです。


   ――――――――――――――――――――――――――――――



 遠野家の地下室。
 換気と明かり。かつてとは比べ物にならぬほど整えられている。
 過去の淀みを消し去ろうとした証。
 快適とまでは言えないかもしれない。
 しかし、不快となる要素は出来うる限り除かれてはいる。
 ただし、それでも、いや今以上に改装を進めたとしても、此処は居住の場と
は言い難かったかもしれない。
 
 今なお、自由を奪い拘束する場としての役割を喪失してはいなかったから。
 鉄格子も、鎖も、そこにまだ存在していたのだから……。

 その格子の嵌った戸は開いたままだった。
 それなりに広い空間には、志貴とシオンだけが存在していた。
 
 二人ともほぼ何も身につけていない状態。
 重なるように、志貴はシオンの体に被さっていた。
 唇を合わせている。
 頬と唇が絶えず動く様は、ただ口づけしているだけではなく、二人の口を舌
と唾液とが行き来しているのを覗わせる。

「ふぁ…ああッ……」

 志貴が顔を話すと、息苦しそうにシオンは声を漏らした。
 口が大きく開けられている。
 そこから僅かに、尖った牙が見える。
 人にはないもの。もしも噛まれたらと想像する者に恐怖を抱かせそうなほど
の鋭さを持った牙。
 閉じられていた目も開く。
 赤い眼。
 これまた、人ではない事を示している。

 吸血鬼化した姿。
 兇悪にして、強い、人の眷属たる事を離れた魔の者。
 しかし、その表情は高慢さとも侮蔑とも違う色で志貴を見つめていた。
 
「どうしたの、シオン?」
「もっとして……」
「何を?」
「……」

 酔ったような顔に、僅かに理性が戻る。
 葛藤している表情。
 それを見て、志貴はベッドを降りた。
 何の未練もない様子。
 シオンに背を向ける。

「待て、ううん、待って、志貴」

 志貴がゆっくりと振り向く。
 シオンの必死な表情が志貴を見ている。

「私のことをもっと可愛がってください」

 恥ずかしげな言葉。
 か細い声。
 居丈高な態度でいた何日か前の姿が、信じられなくなる。
 志貴はすぐに返事をしない。
 ただじいっとシオンを見つめている。
 感情を読み取らせない表情のまま。
 数秒、数十秒?
 静止した時間を破るように、志貴は微笑んだ。
 

「いいよ。でも、まずはシオンにして貰おうかな」

 再びベッドの上で、志貴は胡座をかいた。
 シオンを見つめ、そして視線を軽く下に向ける。

「はい」

 意を察して、シオンが四つん這いになって近づく。
 戸惑いもなく、むしろ嬉々とした様子。
 唇が、ゆっくりと近づき触れた。
 口づけの如く。
 志貴の屹立へと。

 何度もペニスに唇で触れ、やがて舌が加わった。
 ぴちゃぴちゃと言う音を、シオンの姿を、何よりもその柔らかい快感を、志
貴は受け入れる。
 頭を撫でてやり、よりいっそう熱意をましたシオンの口戯に、声を洩らす。
 ぎこちなさが、時に亀頭をかすめる牙の感触が、かえって快感だった。
 シオンの口の中で、さらに志貴は膨らみを増していく。

 だが、その顔に少し快楽とは断絶した表情が浮かんだ。

「だいぶ、日は経ったけど、これでいいのかな。
 シオン……」

 ここにいるシオンとは別のシオン。
 熱心に愛撫を繰り返すシオンの体に沈んでいる、本当のシオン。
 彼女はどうしているだろうか。
 まだ、間に合うだろうか。
 徐々に激しくなる舌使いに呻き声を上げつつも、志貴は完全には快楽に埋没
しきらずに、考えていた。
 心配する心は、この調教が始まってから、一時たりとも志貴の心から消えて
いなかった。










 そのシオンは、目覚めようとしていた。
 閉じられた目を開き、うなだれた頭を上げる。
 覚醒。
 シオンはゆっくりと辺りを見回した。
 瞬時に頭の働きは完全なるものになっている。

 何処とも知れぬ場所。
 強いて言えば、巨大な獣の腹の中であれば、こんな感じであろうか。
 しかし、その推察に意味は無い。
 シオンは、そう感想を抱き、呟く。

「はなはだ非現実的ですね」

 そして、皮肉そうに笑う。
 冷静に判断している自分に。
 もっとも他の事をしようとしても無駄であったろう。

 木とも樹脂ともゴムとも違う、弾力のある柱。
 そこに拘束されている。
 足首には枷と鎖。
 手は頭上に伸ばされ、手首を纏めてやはり枷をはめられている。
 緊縛されている訳ではないが、体の自由は無い。
 せいぜい顔を動かす事と、思考を行うだけ。
 持つものは、自分はシオン・エルトナム・アトラシアであるという強烈なる
意識だけ。唯一にして絶対の剣にして鎧。

 しかし、それでは、自由のみとなる事は叶わない。
 これが現実の事であれば、それでもシオンは拘束から逃れるべく動いていた
だろう。
 少なくとも情勢の変化を待ち、機会を待望していだろう。
 しかし、明晰なる頭脳は、これが現実ではないと結論を出していた。 

 どことも知れぬ場所。
 いつとも知れぬ時間。
 ある意味、外の世界全てに匹敵する処。
 己がインナースペース。

「分析すると言うよりも、単なる既定の事実。
 姿は変われど、根本たるものは何も変わらない」

 何度も繰り返された事。
 手を変え、品を変え。
 しかし拘束されている事は同じ。
 そして、自分に対する……。

 今度は何だろうか。あるいは誰?
 そんな疑問が浮かぶ。
 それだけはシオンにもわからない。
 出来る事なら……、そう思う。

「志貴にあんな真似をされるのは嫌だけど……」

 言葉として口にする。
 それが事実となるだろうか、とちらりと考える。
 恐れが具象となるのであれば、それはタタリにも似ている、そうも考える。
 悪夢というものは、すべからくタタリの存在と似た根源を持つものなのかも
しれない。
 意識と無意識から考察するのなら……。
 と、そこで思考は停止する。

 シオンは顔を上げた。
 そこには、人影。
 ほんの一秒前には存在し得なかった存在。

「こんにちは、シオン」

 驚いた様子も無く、シオンは目の前の人物を見つめる。
 細い身体つきの女性。
 ベレーに編んだ髪。
 紫を基調とする服。
 ニーソックス。
 腕には独特の腕輪、おそらくはエーテライトが納められている。

「今度は私自身に責められるのですか。ある意味、理にかなっていますね」

 独り言めいた言葉。
 それに対し、現れたシオンは頷く。

「誰が望んだと思っているのです、あなたは?」

 皮肉げな表情。
 そうか、私はこんな表情をするのだ、と他人事のようにシオンは自分と瓜二
つの顔を眺める。
 これは、代行者や真祖の姫の反発を招く一因となっているのかもしれない。
 そうシオンは呟く。
 次は気をつけよう。そう、次には。
 とりあえず、あなたは私ではない。
 私がシオンであるなら、まったく同じ根源からゴーストのように現れたあな
たは、シオン’だ。内心でシオンはそう名づけた。

「この混沌たる状態、その中で自分自身を、『本当のシオン』を拡散させぬ為、
埋没させぬ為、自ら自分自身を縛り拘束し隔離している。
 そして、他の全てを敵と判断し拒絶し排斥している。
 あくまで比喩的な捉え方ではあるけれど……」
「強く認識する為に。
 敵の存在こそが、私を強くする。
 私が私であると心に刻ませる……」

 何かを読み上げるように、シオン’は説明を続ける。
 それに異議を唱えず、シオンは黙って聞いている。
 肯定の意を表すように。

「そして同時に罰でもある」
「罰……?」

 初めて訝しげな顔をする拘束されしシオン。

「眼を背けているのですか?
 今、体を支配しかけているシオンも、シオンという存在の一部である事に違
いは無い。
 それを他者の手を借りて、歪め弱らせ消し去ろうとしている。
 忸怩たるものがない訳が無い。
 だから、自分自身を罰する、罰せざるを得ない。違いますか、シオン・エル
トナム・アトラシア?」
「……」
「まあ、そんな自己分析は幾らでも後で行う事は出来ますね。
 そんな事より始めましょうか、シオン?」

 淡々と、シオン’は拘束されたシオンに問う。
 答えは無い。
 
「あなたが望んだ事とは言え、同時に他のシオン達は、これであなたが堕ちる
事を望んでいる。
 それが敵わぬまでも、あなたが弱くなる事を……。
 せいぜい耐えてあなたの正統性を示す事ですね」

 指揮者の最初の手の振りの如きシオン’の動き。
 それで、始まった。
 シオンへの陵辱じみた異端の責めが。

 小さな破裂音。
 ぬめる音。
 這いずる音。

 植物の蔦。
 巨大なイカや蛸の足。
 戯画化したような長い舌。
 あるいは、海洋生物の触手。
 そう、触手だった。
 地から、壁から、柱から。
 数限りなく触手が出現していた。

「ひッッ」

 さすがにシオンが声を挙げる。
 見た事もない異様な様。
 服の上から、柔らかい無数の触手がシオンの体に触れた。
 濡れている。
 べちょりと粘液をまとっている。
 あるものは硬く、あるものは柔らかく。
 袖口から忍び込むものがある。
 ニーソックスを這い登り腿へと至るものがある。
 髪にはりつくものがある。
 剥き出しの手に、頬に、さっと触れるものがある。

 強く荒々しく体を嬲るものは無い。
 むしろ、不躾なものも混ざっていたが、全体としては柔らかくシオンに絡み
付いてくる。
 さながら愛撫の如く。
 不統一で、無秩序で、しかしそれでいながら全体としての動きに奇妙な意思
を感じる。
 それが何かわからないが、かえって不気味だった。

「く、うううッッ」

 胸を指ほどの太さの触手が這いまわっている。
 比較的外側が固いのか、まるで無数の指が這いまわり、胸の膨らみを揉み、
潰し、食い込ませているように感じられる。
 乳房の形を変えつつ、そこが弱点であるとわかっているように、先端の蕾を
突付いてくる。

 その刺激に仰け反ると、粘液を滴らせた触手が白い喉をさっとかすめる。
 まるで長い舌が舐め上げるように。

 そんなものは皮切り。
 頭を、腰を、胸を、足を、頬を、瞼を、髪を、踝を、耳を、腋を、首を、尻
を、掌を……。
 無数の触手が。
 雑多な触手が。
 這い回り、シオンを嬲っていた。

 いつしか、拘束は解かれていたが、シオンには立ち上がることも、身を捻る
事も出来なかった。
 様々に体を動かされ、否応無しに身悶えさせられる。
 衣服も、いつのまにか乱され、器用に動く細い触手に脱がされかけていた。
 辛うじて上衣には手を通していたものの、胸は剥き出し。
 足はニーソックスを残し、下着までが脱がされ、転がっていた。

 おぞましく。
 気持ち悪く。
 それでいて、それを認めることに怖気を震わせるが……。
 肉体には異端の快美が広がっていた。
 時折、口に入り込み、舌に残していく甘い露液。
 吐き出しても、吐き出しても、それは何度も注がれ、幾分かは飲み下してし
まっている。
 それも、体を熱くさせる一因となっているのかもしれない。

 体を同時にあちこち刺激する触手群。
 強く弱く。
 速く遅く。
 羽毛のように軽く。
 鞭のように激しく。
 一つの官能の煌めきには耐えられる。
 しかし、無数の、予期せぬ責めの絶え間なさ。
 否応無く、乱される。
 否応無く、声を上げさせられる。
 否応無く、喘がされる。

 息を乱し、肌を紅潮させ、体を震わせ。
 シオンは何度となく、軽い高みに昇らされていた。

「はぁ……、ああ……、んんんッ」

 ぺたんと腰を地に付けて座り込んでいる。
 あえいだ唇からは、触手の甘露とも唾液ともつかぬきらきら光る粘液がこぼ
れている。
 小休止の状態。
 触手は手足に絡んではいるが、さっきまでの入れ代わり立ち代わりは無くな
っている。

「お楽しみですね」
「うあ……」

 冷静な自分自身の声に、呆けた顔に僅かに理性が戻る。
 シオン’がじっと自分が嬲られている様を観察していた。
 その冷たい実験動物でも見る目は、シオンに反発よりも激しい動揺をもたら
した。
 
「では、今度は変わった事をしてみましょう」
「ま、待って……ッああ」

 股に巻きついていた、腕ほどもある触手が動く。
 足を広く開かせる。
 同時に、シオンと地面に潜った幾つかの触手が、シオンの体を浮かせる。
 下腹部を、濡れてとろとろになっている谷間を、さらけ出す姿。

 細い、糸の如き触手が伸びる。
 幾つも、うねうねと動きつつ一点を目指す。
 秘裂の粘膜の一点。
 小さな窪み。
 尿道口を探る。
 自分でもほとんど触れる事のない器官。
 そこを探られるだけでも、強い拒絶感と気持ち悪さがシオンの体を走る。
 さらに……。

「入っ……、うぁ……」

 そんな処にも感覚があるのか。
 擽るような感触が、入り口のみならず奥へと忍び込むのがわかる。

 むずむずとした居たたまれなさにも似た強い感覚。
 違和感による吐き気とも言うべき感覚。
 それでいて秘裂が新たな露液を滴らせるのを感じる自己嫌悪。
 蠢いていた。
 シオンの尿の狭道を、触手が遠慮なく探っていた。 
 そして、別種の感覚。
 それが何であるのか戸惑う。
 異種の感覚が溢れていて、自分に何が起こっているのかわからない。

「あ、ああ」

 止めようが無かった。
 それを認知していなかった故に。
 いや、そうと知っていても肉体上の働きを止め得たか?

 身を震わせる。
 否応無しにこみあげる感覚。

 逆らっても無駄と知ってなお、シオンは抗おうとして……。
 単純なる体の働きに敗れた。

 尿道口が震え、
 その狭口から尿がほとばしった。

 触手を生温かい液体が伝う。
 それに構わずに、まだ動いているのを感じた。
 むしろ、尿液に身を浸すのを喜んでいるかのように。

 半ばを塞がれ、まったく真逆の器官なのに、息苦しさを感じる。
 充分に通れぬ尿液が、やっと出口を迎えると、圧力から四方に弾け飛ぶ。
 シャワーの如く、触手に向かって、シオンの尿道口から放尿の輝液が飛び散
っていった。

 どれだけ、続いただろうか。
 ついに迸りが途絶え、触手に散った雫がぽたぽたと垂れるのもとなった時に
は、シオンは息も絶え絶えとなっていた。

「気に入ったようですね。
 今度は別な処を試してみましょう」

 指程度の太さの触手が鎌首をもたげるように現れた。
 何をとシオンが力無く見つめる中、近づき、股間へと顔を埋める。
 まだ尿に濡れる粘膜。
 その下。
 淫液に濡れた膣口。
 迷う事無く、触手は身を埋めた。

「それくらいなら、平気でしょう?」
「んん……」

 あっさりとシオンは指のような触手を飲み込んでいた。
 さんざん弄られ蕩けさせられた膣口は苦も無く受け入れている。
 返事は無いが、攻め手のシオンは肯定と受け止めたのか、頷いてみせる。

「そのままなら、問題はないですね……。
 でも、それ、ある種の液体に反応して膨張して……、あ、吸っている」
「な、何、これ……」

 異物に性器をつら貫かれつつも、反応が鈍かったシオンが急にびくりと体を
動かす。
 触手に押さえられた体が身悶えている。

「どこまで太くなるかしら」

 触手を飲み込んだシオンの膣口が痛々しいまでに押し広げられている。
 そして、奥へと進むのは限界なのだろうか、ずるずると引き出される。
 
「あああ……」

 絶叫が満足に声になっていない。
 内蔵が引き出されるような感覚に、シオンは涙すらこぼしていた。
 そして、また触手がシオンの奥を貪る。
 何度も繰り返される。
 挿入され、引き出される度に、触手は膨らんでいる。
 何度目かの奥への挿入。
 その時、抜き差しの動きが自然に止まった。
 しかし、触手の根本はぶるぶると震えて振動を中へと伝えていた。

「こちらは、そこまでね」
「う……」
「声も出ない?
 でも、それだけでは面白くありませんね」

 その声に反応したように。
 先端に幾つもの節があり、さながら指のような触手が数本伸びる。
 足を掴まれ、そのまま腰を高く突き上げられているシオンに伸びる。
 それがよく窺い知れない。

「くッッ、な、なに……」

 異様な感触。
 それまで異次元の快楽に悶えていたシオンをして、異様として感じさせしめ
た、それ。
 まるい尻を這い回る触手。
 それはまだ、先ほどから体験している。
 慣れてこそいないまでも、知っている。
 しかし……。

「やだ、そんな……。
 いやです、あ、あああッッッ」

 動転の声。
 必死に身を捩ろうとする。
 だが、下半身は岩のように動けない。
 シオンに出来るのは、せいぜい上半身を痛いまでに捻って、己の身に何が起
こっているのかを眼で確かめるだけ。

 触手は、迷う事無くシオンの一転に向かっていた。
 白い尻の、谷間に潜む蕾。
 僅かにピンクに色づいた後ろの窄まり。

 先ほどまでの秘裂への責めによる、膣液のこぼれ。
 触手自身がぬめぬめと分泌する体液。

 それがシオンの後ろの穴を濡らしていた。
 放射線状の薄い皺を湿らせるように、少し膨らんだ穴の周囲を溶かすように。
 幾つもの細指が粘液を塗りたくっていく。
 
 水分を肌が吸収する。
 あたりまえの作用として、少しふやけ柔らかくなる。
 そして、マッサージをするようにその周辺を揉まれ、ほぐされる。
 それもまた、皮膚だけでなく肉をも緊縮から解放させる。
 目に見えて、シオンの閉じた後肛は、開きかけていた。

 それをどこが確認したのであろうか。
 幾つかの触手が同時に先端をシオンの後ろの穴へと潜らせた。
 争うように、ずるずるとシオンの中へ入っていく。

「いや、うんんん……」

 外か不浄の穴を通って体の奥へと潜ろうとする……。
 その異端の感触に、シオンは身悶えた。
 実際には大した事をされている訳ではない。 
 だが、その実際よりも、事実がシオンの脳を刺激する。

 そして、指は少し潜ると、さらなる深奥を目指そうとはしなかった。
 停止する。
 それを感じ取ってシオンがわずかに安堵した瞬間。
 それらは動いた。
 あるものは右へ。
 あるものはその反対へ。
 上へ、下へ、さらにその間へ。

 内側から壁を押すように。
 押し広げるように。
 ミシ……。
 そんな音が聞こえる気がする。

 シオンの肛門が、開き始めた。
 挿入によってでなく、無数の指がいっせいに内側から動く事によって。
 
 とろ……。

 ぽかりと開いた穴に滴り落ちる何か。
 幾分かは、弾ける。
 しかし大部分は、開かれた後腔に直接呑まれ、また内側面を伝って滴り落ち
ていく。

 急に、細い触手が離れた。

「うぅ…、ああ……」

 解放を望んでいたのに、いざ侵入者が撤退を始めると、シオンはうめいた。
 まるで嫌々をするように白い尻が揺れる。

「もっと欲しかったのですか?」
「う……、ふぅ」

 否定している余裕が無い。
 実際には、排泄の際の動きにも似た直腸への刺激が、強すぎただけだった。

 何も無くなって。
 しかし、シオンの肛門は、指程度なら簡単に飲み込むほどの穴が開いたまま
だった。

 ぴたりと触手の先があてがわれる。
 太い。
 そして長い。

 ずる、ずる、ずる……。

 不浄の場所に、異物が入り込む。
 嫌悪感。
 拒否。

 潜っていくおぞましさ。

 息を吐く。
 受けきったと思った。
 呼吸器官とは隔絶した処なのに、不可思議な息苦しさ。
 
「こうまで受け入れられるのですね、実に興味深い。
 それでは、これでラストとしましょう」
「え?」

 訝しげに声を出すのと同時。
 前と後ろに潜った触手が動いた。
 震え。
 うねり。
 根本からうねうねと回り。
 左右に動き。
 前後に曲がり。

 無秩序に。
 強弱も定かならず。
 前と後ろに挿入されたそれが、くっつくように動き、また互いに離れ。

「ひ、いぃぃッッッ…………」

 絶叫すら漏らせず。
 ただ、がくんがくんとシオンの体が弾けた。

「強すぎた、か」

 冷静な声。
 すると、そのシオンを責める触手はぴたりと動きを止めた。
 そして、あれほどの怒張となっていたものが、一回り以上もその太さを減じ
てしまう。
 
「少し楽にしてあげました」

 触手が動く。
 また、それ自体が震えるようにしながら、そして膣道を、直腸を、抜き差し
する。

 じゅる、ぴちゅ……じゅちゅ……。

 さきほどはなかった粘液の音。
 奥から抜け出る触手は、粘っこい汁に塗れていた。
 前も後ろも。
 さきほど栓されていたものが外れたが如く。

「っあ……」

 先ほどの、苦痛まじりの声とは少し違う。
 隠し切れぬ艶。
 それをさらに増そうと言うのか。
 しゅるしゅると細い触手が伸びる。

 シオンの形の良い乳房を這い回るように動く。
 先端の突起に巻き付き、ひっぱるように動く。
 首筋を、腋を、脇腹を、擽るように擦り動く。
 幾本もの触手が重点的にシオンの股間へと潜り込んだ。
 抽送を邪魔しないようにしつつも、陰唇を舐める。
 先ほどの放尿の源を探るように突付く。
 包皮から弾けそうになった肉芽には、後から後から繊毛のような触手が寄っ
て来る。

「いや、こんな、ダメ……、ああ、擦れる。お腹が……、出ちゃう。ああ、あ
ああ。いやあ…い……」

 うわ言のように、断片的な言葉が口から漏れる。
 知を己が拠り所とする者の面影はない。
 大きく開いた口から嬌声と、涎がこぼれる。
 それをすくうように、新たな触手が近寄る。

「もう……、ダメ、我慢、わた…し……、ああ、ッうう……」

 前を貫く太い触手と、細い無数の触手が、霧のように拭いた飛沫に塗れる。
 シオンの絶頂。
 淫液を吹き上げての、快楽の果て。

 苦痛に耐えるのに似た顔に、確かな愉悦の色が浮かんでいた。
 人ならざるグロテスクなモノに嬲られた挙句の快楽。

 絶頂と共に、シオンの意識が薄れていった。
 同時に、周りも薄れていく。
 あれほどシオンを責めていた触手も、影のように薄れていく。

「今度は、どんな責め苦を望むのです、あなたは?」

 シオン’がむしろ優しいと言ってよい口調で囁く。
 その、愉悦混じりの声を聞きつつ、シオンは意識を完全に沈めていった。
 
 束の間の沈静、無が現れる。
 次の責めまで。
 シオン自身による、新たな……。


   Fin















―――あとがき

 本作品は、某絵描き様開催の秘密のお祭りに参加した時のものです。
 触手物という縛りで、そんなの書いた事ないしなあと悩みつつ書いており、
読み返しても、何とも苦労の跡が……。
 
 この経験を踏まえ、また別な馬鹿なのを書いてみたりもしているのですが。
 そちらはまたいずれ折を見て。

 お読み頂き、ありがとうございました。

  by しにを(2003/8/5)
        (2004/1/14改訂)
         

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