手慰み


作:しにを

 睡眠前のひと時。  まだ眠気は訪れず、身を横たえてはいても意識ははっきりとしている。  天井を向いたままで、志貴は今日あった事など考えるともなく考えていた。  そんな時だった。  唐突に。  志貴はもよおした。  いや、尿意ではない。  トイレは寝る前にすませてある。  それでも残尿感が身を苛み始めたのだとしても、別段問題とはならない。  ならば、じりじりと身を焦がして耐えずとも良い。  とっととトイレに行けば、解決。  余人の注視の的となる授業中ではないし、志貴は小学生ではない。  小学生ではないから、夜の廊下を怖れてもいない。  最悪、局部を出して窓から夜に輝く弧を描くという最終手段もある。  実行したらどうなるかは、わからないが。  ともあれ、今志貴が感じているのは違うものだった。  奇しくも、同じ器官に伴うモノではあったが。  とは言っても、その神秘の器官の役割は少々違っており、出てくるものが異 なっている。色とか粘度などが。  出すまでの手続きや煩雑さも、概ね異なっている。  背反関係にあるのだろうか、同時には放出される事はない。    露骨な肉体描写を避けて言うならば、そう、遠野志貴は性的な衝動を覚えて いた。  股間のむずむず感。  排泄したい欲求。  何もせぬのに、何もそれらしき事を考えていないのに。  蛇足ながら述べれば、直前に志貴が考えていたのは、パンの耳について。  何で耳という名前なのという疑問。パンだけに元々は向こう(漠然と欧州の 地図が脳裏に)なのだろうか等と、どうして浮かんだのかもわからぬ事をぼん やりと考えていた。  どうしても気になるなら確認方法は幾らでもあるが、それほどの熱意は無く。  揚げて食べると美味しいんだよな、と内容も変化していく。  これに激しく性的興奮を覚えたのであれば、相当にフェティッシュな人物で あると言える。  ともかく、身中から湧き起こった衝動に基づいて、志貴の手が自らの意志を 持つかのように股間に伸びた。  数時間前に風呂に入った時よりも速やかに、下半身が外気に触れる。  誇らしげに現れる、いや飛び出る股間のソレ。  これより始まるは―――  自慰行為。    精神的とか代償行為の異名としての表現ではない。  文字通りの、自分で自分の面倒を見る簡単なる欲求の充足であった。  柔らかく言えば、一人遊び。  ちなみに、今の状態から判断するに、下半身は全部脱がないとダメな一派で はない。  全裸にならないと行えない派でもないらしい。  膝の辺りまで寝間着とパンツが降りるに留まっている。    相応しき格好となると、速やかに行動は開始された。  ためらいは無い。微塵も無い。  こんな事をしちゃダメだという罪の意識。  最低な恥ずかしい事をしているという自嘲の念。  僅かな物音に誰かに見られているのではとびくつく怯え。  それらがあれば、むしろ甘美なアクセントとなるのだが、そんな障害は無い ご様子。  まあ、青少年の発育の為には抑圧する方が悪影響とされているので、文句を つける事もないのだが。  それに、ふと素に戻って己が行為や人生を考え始めると、なかなか辛いもの がなくもない。  だから、風の如く手を動かす。  手馴れた様子で剣を握る。熟練した戦士の如く己が得物を打ち振るう。  その鋼の大剣は……、いや、そんなに大きくは無い、さすがに。  ……。  とにかく、むずむずとした欲求を充足させていく。  手の中は熱い。  はちきれそうな勢いがある。  確かに幾多の戦いを経て、勝利を得た業物ではある。  その偉容、他に誰一人見る事も無く鞘から抜かれるのが、残念にも思える。  しかしながら、  それにしても、  つと考えるに、  これはある意味、とんでもなく贅沢な行為であるかもしれない。  一流の料理人たちが集い、吟味された厳選素材を惜しげも無く使い、存分に 腕を振るった料理の数々。  どれ一つをとってみても、言葉を失うほどの絶品。  繊細なる技巧を持ってなる日本料理でも、  火を持って全てを御する中華料理でも、  豪華絢爛たる仏蘭西料理でも、  その他諸々、あらゆるものが食せるし、欲しいと一言口にすれば、直ぐに望 みの一皿が目の前にやって来る。  そんな中にあって、あえて自作のインスタントラーメンを啜っているのにも 似た贅沢さ。  丼にすら移さず、鍋ごと食す。具無し、簡素この上ない。  しかしそれは、享受せぬ贅沢と言える。  誰もが垂涎するものを、あえてお断りする罰当たりな贅沢。  今の志貴の行為は、それであった。  何も、自ら勃起した肉棒を擦り上げなくても良い。  ひとり無骨な手をもって慰める必要は無い。  他に、美味しい山海の珍味は手の届く処にあるのだ。  例えば、 「おい、秋葉。抱いてやるからすぐに来い。そうだな、脱がすのが面倒だから 全裸、いや靴下だけ。五分以内に来ないと出した後、舐めさせてやらないぞ」  そんな風に叫べぶとしよう。  五分後には、濡れつつもきつく締めつける膣道を、肉棒は心地よげに往来し ているだろう。  それとも、 「翡翠、部屋まで夜伽に来てくれ。スカートの下には何もつけないで、部屋を 入るときには裾を両手で持って、ちゃんと言いつけを守っているか見せるんだ」  となれば、震える下腹部が、それでも色づいているのを観賞できるだろう。  あるいは、 「琥珀さん。翡翠の格好をして、寝たふりをしている俺を誘惑しに来てくださ い。あくまで翡翠として。ただし、目の色はそのままで。よろしく」  はたまた、 「シオン、髪の毛でまた尿道可愛がってあげるから来てよ。後ろから挿入しな がらね。胸の先はゼムクリップつけて、絶頂の瞬間に引っ張ろうか」  もう一人。 「レン。いるなら少女バージョンで姿見せて。挿入無し素股で最後までやって、 それから全部舐めて。足でも久々にして欲しいから……、二回しようか?」  いずれにしても、腕には柔らかい女体を抱き、頭に浮かんだ諸々を実際に行 う事が可能。  屋敷内だけでもこんな状態ではあるが、少しは変化を求めようとしても、取 れる選択肢は多い。  手段も簡単。電話を手にして、囁くだけ。 「アルクェイド? 前にさ、妹の部屋の前でしてみたいとか言ってたろ。  それなら今から。寝てるから、うん……」 「シエル先輩、腋の下を使った新しいプレイを思いついたんです。  ぜひ試したいので、すぐに来て下さい。法衣で……」 「イチゴさん、久々に。ええ、外でしたいです。裸ワイシャツがいいなあ……」 「朱鷺絵さん、女医プレイを。今回は密かにサドっ気がある設定で苛めて……」 「都古ちゃん、会いたいな。また、可愛がってあげ……、もう、変なのいきな り飲ませたりしないから。うん」  話を終え、しばしワクワクとした時間を過ごす。  待った分だけ高ぶった心と体は、より深い悦楽へと向かう。  寝静まった妹の部屋の前での、危険と裏腹の快感、すべすべとしつつも湿っ た処に突っ込む異種の興奮、どれにしても。    さすがに足は運ばせられないにしても、声だけで共に悦楽に浸る選択もある。  これまた、電話を手にとり、相手の声を待つだけ。  ベッドで楽な姿勢を取り、片手は自由な状態。   「アキラちゃん、また一緒にしようよ。可愛い声が聴きたいな。  あれ、もう、声が湿っている。もうお尻に手をやってるのかな?」 「うん、気持ちいいよ、蒼香。じゃあ、今度はね、自分で摘んでみて。  そうだよ、硬くなった処を、俺がするみたいに剥き出しにして、ダメ……」 「羽居ちゃん、うん。そうだなあ、お姉さん口調で叱って。  うん、……はい、ごめんなさい。いやらしい事をしてたよ、お姉ちゃん」 「秋葉に見つかったらどうなるかわからないと本気で怯えてて、それでもやめ られないんだ。淫乱だね、つかさちゃん?」 「うん、俺。今、何してたと思う? ベッドでさ……」  選べと言われても困るほど。端的に言えば、選び放題。  志貴の頭に浮かぶ誰であれ、志貴の言葉を拒絶はしない。  どんな要求にも応えるだろう。  嬉々としてか、恥じらいを持ってかの違いはあれど。決してその誰一人とし て嫌々としてではなく。  けれども、同時に彼女らの誰もがよく知っている。  志貴がそんな事を自分にはしないと。  確かにベッドを共にしている時に、志貴はときどき人が変わる。  とんでもない事を望む。実際にさせたり、したりもする。  朝になって頭を抱えてのた打ち回るような。土下座して平謝り、そんな事も。  それでも、決して相手を単なる道具として扱っての、痴態ではない。  それは快感を共にし、頭を痺れさせているからこその、激しい交わり、逸脱 しかけた行為。  少なくとも、無理矢理に行ったり、嫌がるのを従わせる真似は絶対にしない。  事の前後であるのなら、なおの事。  時にはその……、はっちゃけもないではないが。  とにかく、消灯時間が過ぎた時間だというのに、自分が性交をしたくなった から急に誰かを部屋まで呼びつける。  志貴はそんな自分本位な事を考えはしない。  誰かが枕を片手にドアをそっとノックしたり、窓から思いがけぬお誘いがあ ったりと、そんなサプライズがあれば喜んで受け入れただろうけれど。  今夜はあいにくそうした予期せぬイベントは起こらなかった。  それ故に、志貴は黙々と一人作業に取り組み始めた。  別段、不満の色は無い。  しかしながら、志貴は他に何かを取り出す気配は見せなかった。  いわゆる夜のオカズ、それらしきものは何も無い。  この部屋で何かと見回しても、映像の類いは無いのだが。  さる部屋にはテレビもビデオもあるが、そこまで行って頼む訳にもいくまい。  主はにこやかに出迎えるだろうし、訳を話せば快諾しそうであっても。  邪魔はしないだろうが、興味津々に眺められて自己内に没入できるほど志貴 の神経は太くない。そもそも、そこまで行くのならば素直にお願いをした方が 早い。  映像の力に頼らないとなると、印刷物だろうか。  写真、絵、活字。  あいにく違う。  妖しげな道具を取り出すでもない。  マニキュアも、艶やかな髪の毛も、洗われるのを待つ脱がれた靴下も何も。  何も使わない。  そう、志貴は今、外からの助力を求めなかった。  頼るのは、己の経験の蓄積。  イメージをする力。  ゆるゆると逸物を手で上下にあやしつつ、志貴は脳裏にいろんなビジョンを 浮かべ始めた。  しかし、遠野志貴という男は、がちがちのリアリストではないものの、夢想 家としての資質に溢れている訳でもない。  死というものと近しくしていた者が、甘い妄想の中に安住していられるもの ではない。  狂気の中へは道を違えば向かっていたかもしれない。しかし、曲ってはいて も正気の中に彼はいる。  だからだろうか。  志貴の思い浮かべるものは完全なる妄想で形づくられたものでなく、己の体 験を源とするものが主であった。  他人から見れば、華麗なる妄想図。  果てしなきエロ幻想の絢爛たる大絵巻。  しかして、それらは、かつてあった現実の姿。  一つとってすら垂涎の的たる体験は、山積みとなり異様な志貴の骨格となっ ている。  馬乗りになったアルクェイドが自ら腰を前後に揺すり、なおかつ志貴に上下 に動かされ、胸を感動的なほどに振るわせている。  ぎゅっと左右から寄せられこぼれそうな胸の谷間。そこから覗いたり消えた りしている赤い肉棒の先を、シエルがちろりと舐めようとしている。  四つん這いになった秋葉が高く腰を上げ、濡れた膣口も不浄の穴も間近にい る兄に晒している。さらに性器に片手を伸ばし、自ら手で開いて見せる。  翡翠が積極的に、姉の唇にむしゃぶりつき舌さえ差し込んでいる。琥珀の方 は驚きつつも、それに応えて舌を絡ませている。ぴちゃぴちゃ言う音。  半裸の姿で立ったまま両手を使い、股間を弄るシオン。ぽとぽとと愛液をこ ぼし、さらに分泌させるべく指を滑らせる。忘我の表情が美しい。  ペニスの先から根本まで、さらに袋や肛門にまで、レンの小さな舌が這いま わっている。邪気無く、しかし男の弱点を知り尽くしたような舌の動き。  それから……。  克明な映像として頭に浮かび、それだけでなく他の感覚までが再現される。  柔らかい肌触り、吸い付くきめの細かさ。  体から立ち上る甘い匂い。  荒げた息の熱さ。  まさぐった胸の弾力、食い込む指の感触。  指を入れた膣口のきつさ、ぬめり。  喘ぎ声。  胸を甘噛みする歯の感触。  注ぎこまれた唾液の甘美さ。  突き入れる度に、ぎゅっと収縮して離すまいと締め付ける狭道。    はあ、と溜息をついて、志貴はいつしか速めていた手のしごきを和らげた。  先端からこぼれた先触れが指を濡らしている。  あっさりと放出のみして寝てしまおうと思っていたのに、思わず高ぶりを自 分で制御してしまっていた。  しているうちに興がのってきた。いざ始めると、このソロプレイはたいそう 気持ち良かったのだ。  そうなればただ、突っ走るだけでは足りない。もっとと望んでしまう。  いわばこれは、後の快感の為のブレーキ。  先ほどの例えで言えば、ご馳走と比べるのも申し訳ない簡素な即席麺が、た いそう美味だったのだ。  その瞬間だけは、完璧に打たれた本物の麺よりも。  そんな事実を先ほど来の頭の中の出演者に告げれば、みんな怒り出すかもし れない。  自分と体を重ねるより、一人でする方が良いとはどういう事かと。  誰もが羨む魅力ある少女が、おざなりではなく心からの愛情を持って交わり 愛し合っていると云うのに。  それは志貴も同意する。心底からそう思う。  ただ、実際の性交とは違う悦び、いつもではありえぬ味がある。  強いて言えば、一人でいるが故の放埓なハーレム構成。  ありえぬ束の間の世界の構築。  琥珀と翡翠。  秋葉と琥珀。  アルクェイドと翡翠。  シエルと秋葉。  シオンとシエル。  翡翠とレン。  レンとアルクェイド。  その他、幾つかの組み合わせ。  二人とは限らぬ、三人、四人、五人……。  これらは全てを実際に志貴が体験していた訳ではないが、複数人との交わり が皆無でもない。  いろんな前提があり、望んだ場合あり、成り行きあり。有無を言わさず引き ずり込まれた事もあり。  しかし、片手の指で足らぬほど侍らしたり、好き放題縦横無尽に女体布団の 一夜を過ごした事はない。  気が向くままにあれよこれよと伽を命じる状態になるとも思えないし、志貴 自身がそんな天国とも地獄ともつかぬ有り様を本気で望んではいない。  しかし空想の中でなら。  アルクェイド、シエル、シオンといった豊かな胸々に囲まれてみたり、逆に 薄い胸の妙味を味わう組み合わせで臨んだり。  浅上女学院の清楚なるセーラー服を一着、二着と次々とドロドロに染め上げ てみたり。  皆で真祖の姫君を、慎ましやかなメイドを、冷静な錬金術師を、淫らに喘が せ悦楽の果てにあえかな姿を晒させてみたり。  直接の面識関係を持たない組み合わせで、同じ喜びに浸ったり。  体を三重、四重と重ねさせ、次々と貫き、違いを味わい比べてみたり。  複数ならではの、攻めていながら同時に受身になっているというドロドロに 溶けそうな悦楽に震えたり。  そんな行為までもが、全て志貴の思いのまま。  そう、思いのまま、……であるのだが。  遠野志貴という男は、そんな幻想力に乏しいのではなかったか?  ありもしない多人数プレイを頭で構築し切れはしない筈。  それに、多少の逸脱はあるにしても、志貴は彼女達とそれほどに多彩極まり ない行為を毎度毎度、体験しているのか?  さすがにそんな筈は無い。  実際のところ、そうそう珍奇なプレイに走るとは限らない。  彼女らの背丈や体形からのいちばん相性良い交わり方というのはあるし、彼 女らのお気に入りのやり方というものもそれぞれある。  ベッドに横たわり志貴の重み感じるのが幸せであったり、後ろから貫かれる 時にいちばん感じたり、どんな形であれ、最後は強い抱擁を求めたり。  取れる手段は四十八手あろうが、実際に使うのはその一部。  それが変化無いと言うのは誤り。同じやり方であっても、事前の行為の積み 重ね、僅かな差異、当日のコンディション、その他諸々の要素で驚くほど変化 に富むひとときとなる。  流れがわかっている安心感から、放埓に身を委ねられる側面もあるであろう。  彼女らにすれば、逢瀬を楽しみ、幾ばくかの間だけでも自分ひとりが志貴を 独占し、志貴が自分だけを見つめているという事実だけで、幸せになれる。  ただ、それだけで満たされるのだ。    とは言っても、もちろん、精神的な充足だけではなく、それを確かめ合うよ うな行為も喜びであり、必要な事ではあった。  端的には、互いに触れ合う事であり、眺めるだけではなく肉体をもって確か め合う事であり、深く貫き、奥深く受け入れる行為であり、恥ずかしい姿を求 めに応じてさらけ出す行為であり、相手の一部を口に含み、飲み込んで己の一 部とする事であり、子宮から溢れ出すほど精液を何度も何度も注がれる事であ り、顔から胸、臍の窪みから股に至るまでドロドロとした熱い白濁液で染め上 げられる事であり、頭を熱夢の如き状態にされて耳元で囁かれるがままに普段 なら絶対に口にせぬ単語や己の隠すべき処の状態を部屋から外に聞こえるほど 大きく赤裸々に叫ぶ事であり、優しいキスで体の隅々まで蕩けさせられる事で あり、何日も他人に肌を晒せないほど赤い吸い痕を残される事であり、仰向け になり俯けになり捻り曲り天地の区別すらつかなくされる事であり、自分でこ っそりと触れる時とのあまりの感覚違いを思い知る事であり、普段の取り澄ま した仮面を外す事であり、排泄に使うべき器官が何でこんなに熱を持ち疼き、 気持ち良くなっていくのだろうと頭の片隅でちらりと思う事であり、これだけ 縦横無尽に自分を翻弄している相手が、反対に限界に近づいた時には、すがる ような目で見るので心臓をきゅんとさせられる事であり、独特の匂いを放つ小 さくなったソレを手で転がし舌でくすぐり唇で挟む事によってムクムクと回復 させる事にたまらない喜びを覚える事であり、絡めた指と指、そっと握り締め た手にこの上ない存在感を感じる事であり、果てて敏感になっている体を弄ら れて悲鳴を上げつつも、硬いままの陰茎が再び潜り込むのに小さく歓喜の声を 上げる事であり、放心した体から力が抜け、激しい抽送に開いたままの膣口か ら逆流してこぼれ出すものの存在を感じる事であり、それだけ注がれた喜びと それが体から出てしまう寂しさを同時に味わうひと時であり、どちらからキス をした数が多いか口論しつつも共に数を増やしていくやり取りであり、終わっ た後を優しく拭われるのがたまらなく嬉しいと感じる事であり、思いがけぬ時 の唇や軽い抱擁が、時には何時間にも及ぶ性行為よりも頭を沸騰させるのだと 思い知らされる事であり、請われてとは言え、愛する人に冷たい視線を投げか け侮蔑の言葉を叩きつけ足で踏みつける事にぞくぞくとした背徳の悦びを感じ たり、後で後悔しつつも「もう一度……」などと考えて真っ赤になってしまう 事であり、胸に飛び散った熱いものを心から嬉しげに手で伸ばしたり集めたり する事であり、丹念に乳首を吸われ手で転がされ悦びに悶えつつも「こんなに 引っ張られたりしたら形が変わってしまって、いやらしく見えないかしら。う うん、胸だけでなくて下のびら…あああ、もっと…」とか気にする事であり、 一度終わって再戦するまでの僅かな休憩を軽く抱きしめられる事であり、洗う と称して風呂場で体を泡と共に弄られ、すっかりまたトロトロとなって股をお 湯ではないものが伝い…………、これ位で良いだろうか?  どうも、志貴と志貴を巡る少女達の普通は、守備範囲の広い普通らしい。  これであればだ、 確かに志貴は、途方も無い妄想力には欠けている。  しかし、まったくの無から創り上げる必要は無い。  次々とフラッシュバックのように、過去のの豊富な性行為を思い起こせば。  それぞれは単一の行為であれ、それを合わせ編み上げて行けば。  何十、何百の日々、あるいは夜を経ての経験の蓄積。  両手の指で足らぬほどの相手と何度も体を重ねれば、それなりに幅も出る。  ただ一度だけ試して、もはや普通には拒否されるだけの行為もある。  もう志貴としては断念しているもの、機会を覗っているもの、逆に志貴とし ては勘弁して欲しいがおねだりされるもの等など。  そうしたものを足してシェイクして見ると、無限の可能性の荒野が広がる。  それぞれは既知であろうとも、組合せで変化がする。  コラージュのように、誰かの行為を別の誰かに演繹する。  その時に発現するのは、とんでもない桃色固有結界。  実際には手で自らを慰めているのだとしても、それは姿を変える。  シエルの豊かな胸に挟まれ揉まれているのであり、羽居に舌先でほじられて いるのであり。  アルクェイドがキスをしているのであり、蒼香が恥ずかしそうに幹に唇を這 わせているのであり。  そうしている間にも、朱鷺絵が背中に胸を押し付け、翡翠が乳首を口に含ま せようとしている。  耳に琥珀が息を吹きかけ、反対側も一子に穴に舌を差し入れられて思わず首 を竦ませる事になる。  その首筋にマシュマロのような感触。  腰に抱きつく腕。胸を這い回る手。  唇はあちこちに押し当てられ、悪戯っぽくぺろりと舌で舐められる。  それらは、全て体験済みの行為。  少し趣向を変えてみる。  普段、志貴がしている行為を逆にされた時の記憶。  驚くほどに敏感に志貴を身悶えさせた感覚の再現。  乳首を舌でくすぐられ、背中を舐め上げられ。  耳や指先や首筋。それほどに感じると思えぬ処にまで、舌が這い寄ると志貴 は声を抑えきれない。  それを面白がって、琥珀や秋葉などは、より激しく舌を動かす。  組み合わせ、変換をする。  アルクェイドみたいに羽居ちゃんに胸で愛撫を頼んで、その埋もれるような 柔らかさを堪能して、最後はその谷間に注いで、それを舌で舐めて貰って。  シオンの排泄器官と思えぬほど綺麗な後腔は、シエル先輩みたいな素晴らし い感触なのだろうか。それとも翡翠に近い気持ち良さなのだろうか。  イチゴさんが朱鷺絵さんみたいに振舞ったらどうだろうか。  逆に一子さんにするみたいに、受身になりつつこっそりと朱鷺絵さんをリー ドしたらどうだろうか。せがまれ、困った顔をしつつ胸を……。  レンくらいの舌使いをする都古ちゃん。あるいは同時に。  秋葉がどれだけ可愛くなるかを、クラスメートや後輩に見せつけたらどうだ ろうか。甘いキスで蕩けさせ、優しく優しく可愛がってやる。  琥珀さんと秋葉を同時に侍らせ二人の手や胸や唇を楽しみつつ、翡翠にだけ は何もせず、おねだりするのをじっと待つ。  シエル先輩とアルクェイドに胸で挟まれてもみくちゃにされ、二人の顔と言 わず胸といわず、真っ白に。それを互いに舐め取らせて。  それから、それから……。  志貴は夢想し、その生み出された蜜酒に酔っていく。  酔いつつもさらに断片を頭で合成する。行為や反応を頭で入れ替える。  補強されるべき材料は多く、そうした想像も単なる妄想とは格が違う。  幾多の妄想が花開いたろう。  何度交わりこね転がし丸め伸ばしただろう。  そうしているうちにも、猛りに猛ったペニスは限界を迎えようとしていた。  雄々しく終わりに向かって疾走していた。  手にはぬらぬらとした液が付着している。  膨らんだ亀頭は、擦りあげた為だろうか、光るようにつやつや。    頭の走馬灯のような幻想がさらに速度を上げていく。    胸、アルクェイドの胸、シオンの胸。  柔らかい朱鷺恵さんの胸。  アキラちゃんのおっぱい。  レンの乳首。  秋葉のつんと尖った乳首。  小さいけど敏感な蒼香の蕾。  揺れる先輩の胸。    今日は、胸への執着で終着。  柔らかい人形のような足指、真珠のような爪に思いを馳せる事も有る。  端的に濡れた肉穴、包むようだったり、拒むように締め付けたり、飲み込む や離すまいと締め付けたり、何もしていないのにうねうねと襞が動いたりする 狭道を克明に思い浮かべつつ手でしごいたり。  ちろちろと舐める舌先だけをペニスの先に感じたり。  肉体よりも、甘い匂い、欲情した女の匂い、汗の匂い、ミルクのような匂い、 麝香のような香り、そんな嗅覚による刺激を再現する事もあり。  名を掠れた声で呼ぶ様、喘ぎ声、吐息、嬌声、艶めいた悲鳴、歓喜の声、す すり泣く声、甘い甘いとろけそうな声、そんな耳からの官能もあり。  その中の一つとしての胸、乳房、おっぱい、青い果実、こぼれそうなバスト。  頭の中にあるはおっぱい、おっぱい。  無数の揺れ、たわみ、たゆんたゆん。  難なく先から幹全体を挟んでしまう二つの肉の頂き。  手で寄せて、何とか挟みこむ肉の谷間、重なり潰される。  そんな感触を思い出す。  では、豊かな胸を持つ女性たちが有利だろうか。  ぶるぶると震えてたわむ胸だけに志貴の目が向けられるのだろうか。  いや、そうではない。  否である。  あるかなしかの膨らみ。  僅かな起伏と柔らかさ。  平たい白い胸にあるビンクの尖り。  これからの成長が楽しみな小さな胸。  そんな微乳も志貴は心より愛していた。  強弱をつける手の握り、緩急のある上下運動。それは胸肉に包まれる様、挟 まれ擦られる乳房の愛撫を連想させる。  同時に、くびれに当たる指、変化をつけようと亀頭をなでる指は、尖った乳 首に擦りつける感触、挟む事こそ出来ないまでも、熱い肉棒を胸に擦り付けら れる甘美さを思い起こさせる。  幾多の胸が志貴の脳裏で乱舞し、体に押し付けられた柔らかさを再現させる。  手が速くなる。  息が乱れる。  腰が自然に動き出す。  限界、限界。  じゅくじゅくと管が震えている。  力を抜けば、溢れ出しそう。  出る、出る。いっぱい出る。  ダメ、駄目だ、だーめーだーーーー。  ああッッ、    !!!!    誰かの名を小さく洩らしつつ、最後を迎えた。  幸せそうな笑顔。  遠野志貴という男を知る者であれば、その表情に心打たれるような。  それを浮かべさせたのが自分だと知れば、彼女が誇らしくなるような。  そんな、翳りのない笑顔、純粋な微笑み。  その時誰を想い、誰に向かって精を迸らせたのかは言わぬが花であろう。  ルーレットのような巡り会わせ。  幾多もの相手を思い浮かべ、たまたま止まった相手に向かったのやも知れず。  意図的にフィニッシュは誰と定めていた訳でも無いだろう。  もし誰かひとりを思って始めたのでであれば、そもそも擬似ハーレムでの行 為に耽る事もなかっただろう。    とりあえず、気だるげに、ガサゴソガサゴソと後始末。  ぺちゃりと濡れた音が何度となく続く辺り、どれだけ使っているのだろうか。  数え切れぬ精虫に哀悼。  全てを終えると、志貴は安らかにベッドに横たわった。  満たされた表情。  すぐに瞼は落ちる。  後は穏やかなもの。  乱れた息遣いも聞こえず、静かな寝息のみ。  外には綺麗な月。  見る者がいないのが惜しいほど。  清浄な空気が部屋を柔らかく掻き乱す。  寝る前に志貴の手が窓にかかり、小さく隙間を作り出していた。  夜風がそっと忍び入っていた。    これならば、部屋中に漂う栗花の香りも霧散し消える事だろう。  きっと……。   了 ―――あとがき  サイトの200万ヒット記念作品です。  あるいはそれから最初に仕上がったSS。たまたまですが。  よりによって……。  主人公を不当に貶めつつ、同時に意味無くハーレムでもあるSS。  シモネタだし。  ……実に、作者に相応しい作品ではないかと思います。  順序がずれれば、志貴と秋葉の初めてのお話が完成してたのに。  まあ、少しでも楽しんでいただければ、幸いです。     by しにを(2004/12/10)

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