天抜き 其の弐


五十一 「鬼の霍乱」  志貴「馬鹿だなあ、秋葉は」  秋葉「あ、兄さんったら酷いです、もう」  志貴「ごめん、ごめん、もう怒るなって」  秋葉「知りません」  志貴「まあ、そういう処も可愛いけどな、俺の秋葉は」  秋葉「兄さん……」    蕩けそうな表情で秋葉が志貴に体を預ける。  羽居「ねえ、蒼ちゃん、あれ、本当に秋葉ちゃんなの? わたし、怖い……」  蒼香「見るな、忘れるんだ。いいか、あたし達は何も見なかった。     あれは遠野じゃない。遠野であるものか……」 五十二 「自分らしく」  秋葉「やっぱり兄さん、私の事なんか……」  琥珀「秋葉さま、僭越ながら申し上げます。 そんな落ち込まれる秋葉さまなんて、秋葉さまらしくありません」 秋葉「……」  琥珀「あんな横から出てきた方々に志貴さんをいい様にされて黙っているなんて。     それで引き下がる秋葉さまなんて……、出過ぎた言葉でした、申し訳ありません」 秋葉「そうね、そうかもしれないわね。このまま引き下がる訳には行かない」  琥珀「それでこそ秋葉さま」 秋葉「時に、琥珀」 琥珀「はい、秋葉さま?」 秋葉「あなたの思う処の『秋葉さまらしい』遠野秋葉像ってのが少々興味あるんだけど」 琥珀「えっ」(凍りつく) 五十三 「いもうと」  秋葉「兄さんの思い描く理想の妹像ってどんなのですか?」  志貴「妹か……。そうだな、ショートカットで活発で明るくて、 何にでも一生懸命。それでいてちょっとドジだったり、甘えん坊だったり。 やたらとお兄ちゃんとか言って寄って来るのが鬱陶しいけど嬉しかったり。     そんな感じかなあ」  秋葉「…………」  志貴「どうした秋葉?」  秋葉「私と随分違うんだなあって。つまり兄さんにとって私はまったく妹として……」  志貴「馬鹿だな、秋葉。本当にはいないから、そんなのが良いかなって思うんだよ。     妹として秋葉に不満なんてほとんど無いぞ」  秋葉「……本当、兄さん?」  志貴「本当だとも(妹としては、だけどな)」 五十四 「お料理教室」    琥珀「あら、志貴さん、随分とお疲れのご様子ですが、どうなされたんです?」 志貴「うん。何故か翡翠に料理教える事になってさ」  琥珀「あらあら」 志貴「まあ、それは別に構わないんだけど。 なんで翡翠って料理してる時は日本語が通じなくなるんだろう……」  琥珀「あははは」(虚ろに) 五十五 「忘れえぬ味」    琥珀「でも、志貴さん。翡翠ちゃんも成功する場合だってあるんですよ」  志貴「へえ、本当?」  琥珀「ええ。前なんか私でも勝てないくらい美味しいお料理作ったんですよ」  志貴「それは凄いなあ。で、何を作ったの?」  琥珀「それは……、謎なんですけどねえ。レシピも残ってませんし。     残った食材から推理すると、お魚が原料だったのかなあって思うんですけど」 五十六 「ミザリー」    珍しく琥珀の部屋で秋葉、志貴、琥珀という面々でテレビを観ている。  志貴「ああ、面白かった」 秋葉「そうですね」  琥珀「あら、秋葉さまがそんな事おっしゃるなんて」 志貴「だいたい秋葉がビデオ持ってきて映画を観たいなんてのが珍しいよな」 秋葉「勧められたんです。それで観てみようかなって。 でもサスペンスは登場人物に感情移入出来て面白いですね」 志貴「まあ、そうだな」  秋葉「あんなに一つの事を想って行動に出るのって、ちょっと素敵」 琥珀「目的の為には手段を選ばずって処も良いですよねえ」  志貴「……(そういう映画じゃなかったよな)」(異次元のものを見る目で) 五十七 「進路相談」  志貴「あれ、秋葉何見てるの?」  秋葉「保護者向けに進路相談の案内状が届いてたんです」  志貴「ふうん、いちいち郵送で。ああ、そうか全寮制で遠方の子も多いんだっけ」  秋葉「そうですね。私の場合、本人に届く事に意味があるとは思えませんけど」  志貴「秋葉の進路ってまあ決まってるしなあ。で、どうするの。何なら俺が行こうか?     一応兄貴な訳だし」  秋葉「え、兄さんが来るのですか。……お断りします」  志貴「やっぱり、役に立たないか」  秋葉「いえ、兄さんが浅上に来るなんて、狼の群れに羊を放り込むようなものですから」  志貴「人を色情魔みたいに。……? 羊の群れに狼じゃないのか?」  秋葉「いえ、狼の群れに羊です。あんな危険な処に兄さんを連れて行けるものですか」  志貴「……。取り合えず行くのは止めとくよ」 五十八 「蛇玉」  志貴「そうか、アキラちゃんも、お酒強いんだ」  晶 「強いってほどでもないです」  志貴「そう言えば秋葉もうわばみと言うかザルだったな」  晶 「そうですね」  志貴「アキラちゃんもそうだけど、外見はそうは見えないのになあ」  晶 「何言っているんですか、志貴さん。浅上にいるんですよ?」  志貴「だからどうし……。いや、説明しなくていいよ。 何だか凄く嫌な事聞かされそうだから」 五十九 「霊長類として」  秋葉「あら、兄さんの猫。     ……。     抱かれて頭を撫ぜられたり、遊んで貰ったり、ご飯作って貰ったりしてるのよね……。     一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで眠ったり……。     いいなあ。     ……。     ふふっ、猫を羨ましがるなんてどうかしてるわね」(薄く自嘲の笑み)  レン「にゃあ」 六十 「想い」  秋葉「……………………」(ティーカップを唇につける)    「……………………」(無表情)    「……………………」(無表情)    「……兄さんの馬鹿」(やっぱり無表情) 六十一 「達観と無神経の差異」  琥珀「志貴さんって、自分が可哀想だとお思いになった事ありますか?」  志貴「無いけど」  琥珀「……無いんですか?」  志貴「うん。なんで?」  琥珀「なんでって……」 六十ニ 「仰ぐ者」  琥珀「すみませんね、もう少しで秋葉さまか志貴さんがお戻りになると思うんですが」  晶 「いえ、いきなり来たんですから」  琥珀「まあ、お茶でもどうぞ」  晶 「あ、おかまいなく。     ……あの、琥珀さんてずっと遠野先輩のお世話をしているんですよね」  琥珀「そうですよ。遠野家と言うより秋葉さま付きでずっとお仕えしていますね」  晶 「そうですか、遠野先輩にずっと」(重く)  琥珀「ええ、秋葉さまにずっと」(重く) 六十三 「下級生」  志貴「秋葉と話をしてて、アキラちゃんの話題が出てくることもあるんだ」  晶 「えっ。そ、そうですか」(動揺というか警戒心に満ちた表情)  志貴「けっこう誉めてるよ。生徒会の仕事も一生懸命やってるって」  晶 「でも、わたしは事務能力が乏しくて、けっこう怒られてますよ」  志貴「そういう処も含めてアキラちやんは、秋葉に気に入られてるんじゃないかな」  翡翠「わたしは泣きながら走っていくのをお見かけしただけで、会話の中身までは……」  秋葉「いったい瀬尾に何をしたんです、兄さん」(怒気を湛えて)  志貴「だからさっきから言ってるように、いきなり泣き出したんだってば」 六十四 「ここで調味料です」  志貴「そうそう、包丁を押すんで無くて引くようにして」  秋葉「あ、潰れないで切れますね」  志貴「やっぱり秋葉はのみ込み早いな」  秋葉「兄さんの教え方がいいからですよ」  琥珀「兄妹でお料理しているなんて微笑ましいですねー。     けど、あんな大量の血肝……。喜々として切り刻むのは似合いすぎて怖いなあ」 六十五 「白百合の園」  羽居「あ、秋葉ちゃん」  秋葉「あら、羽居。相変わらず幸せそうね」  羽居「何気に酷い事言われてる気がする。     これでも秋葉ちゃんとは学校でしか会えないからちょっぴり寂しいんだよ」  秋葉「そう……。でも蒼香とは仲良くしてるんでしょ?」  羽居「蒼ちゃんと仲良く? ふふふ……」(表情の読めない笑み)  秋葉「え、羽居、何……、ええと……」(訊くのをためらっている) 六十六 「潜在的脅威」  秋葉 「また、兄さんは。いい加減にしてください」  志貴 「仕方ないだろ。秋葉は細かすぎるぞ」  秋葉 「何ですって」  シエル「またやってますねえ」  琥珀 「秋葉さま、志貴さんに対しては変に意固地になっちゃいますからねー」  シエル「もっと素直になればいいのに……」  琥珀 「でも、秋葉さまが志貴さんに素直になってしまわれたら……」  シエル「そうですね、素直にお兄さんLOVEな態度見せたら……。      トップぶっちぎりでゴールインって感じになりそうですね」  琥珀 「現状維持でいいかもしれませんね」  シエル「ふふふふふ」(邪気に満ちた笑み)  琥珀 「うふふふふ」(同じく) 六十七 「理想と現実」  琥珀「料理って奥深いですよね。     単に卵を割って焼くだけの目玉焼き、単に茹でるだけのほうれん草のおひたしだって」  志貴「本当に美味しいものを作ろうと思ったら、凄く大変だよね。     琥珀さんの言う通りだと俺も思うよ」   琥珀「なのにどうして料理を始めようって人に限って、決まって料理の本のとびきり手間が     かかって難しいのを選ぶんでしょうねえ」(詠嘆調)   二人の前に散々たる有り様の厨房が広がっていた。 六十八 「死の天使」  シエル「……わたしはためらいなく遠野くんを殺せます。      死体を抱き締めて泣きじゃくるでしょうけど、その瞬間には感情を捨てて……」  志貴 「……」  シエル「せめて、苦痛を感じる間もないように、慈悲を持って……」  志貴 「どんな夢を見てるんだろう……。起こすのも怖いし……」 六十九 「世に孵る事を望まぬ卵は無く……」  シエル「ときどき遠野くんがわたしやアルクェイドに関わらなかったらって思うんです」  志貴 「先輩と出会わなかったらって事?」  シエル「そうです。死徒や教会なんかに関係なく高校生活を送っていたら。      そうしたらもっと平穏に生きられたんじゃないかなって、そう思いませんか?」  志貴 「……どうだろう。それはそれで、普通には生きてないんじゃないかな」  シエル「そうでしょうか」  志貴 「多分ね。だったらその中できっと一番正しい選択をしたんだよ。      シエル先輩とこうしていられるんだから……」(どこか透き通った笑み)  シエル「……」(少し悲しそうに微笑み、志貴の肩に頬を寄せる) 七十 「白いキャンバス」  志貴 「先輩ってわりと何着ても似合うよね」  シエル「そうですか?」  志貴 「うん。いつもの制服とかカソックもそうだけど、ラフな格好もフォーマルもね。      プロポーション良いからかな、ドレスとかも案外似合うんじゃないかと思うよ」  シエル「真顔でそんな事言われたら、本気にしちゃいますよ。嬉しいですけど……」  志貴 「お世辞なんかじゃないってば」  アルク「単にこれだっていうお似合いのが無いから、何着ても同じって事じゃないのかなあ」  秋葉 「そうね……」 七十一 「それなら秋葉の替わりにアキラちゃんを」  一子「……」  志貴「……?」  一子「……」  志貴「……?」  一子「ふう」(溜息)  志貴「人の顔見てどうしたんですか、イチゴさん?」  一子「うん? ああ、弟ってトレード出来ないものかなと思ってね」 七十二 「料理人」  琥珀「料理へのやる気を無くせない処が翡翠ちゃんの不幸かもしれませんね」  志貴「他にいっぱい長所あるんだから、そんな弱点あるくらいの方がいいのに……」  琥珀「でも女の子にとって男の人に料理をつくってあげられるって大事なんです」  志貴「そんなものかな。まあ手料理って嬉しいものなあ」  琥珀「喜んで食べてくれたら、本当に嬉しいんですよ。     それに自分の手中にあるっていう感じがしますものね……」 七十三 「死のように優しく」  志貴「もしも俺が浮気したら……、待て、もしもだ、もしも」  秋葉「脅かさないでください、兄さんったら」  志貴「もう聞くまでも無いけど。浮気したらどうする?     やっぱり今みたいにして殺されちゃうのかな」  秋葉「そんなことはしません」  志貴「本当?」  秋葉「ええ。……殺してなんてあげる訳、無いじゃないですか」 七十四 「甘美なる……」  シエル「秋葉さんも、どうせ転校するのなら妹である事隠せば良かったのに」  秋葉 「何をおっしゃりたいんです?」  シエル「データを改変して、赤の他人として来る方法もあったでしょうと言ってるんです」  秋葉 「何故、そんな真似をしなくてはならないんです」  シエル「学校の中では遠野くんの事、先輩って呼べたんですよ。      ちょっと魅惑的じゃないですか? 呼ばれる方もぞくぞくしますしね」  秋葉 「……」(陶然から悔恨へ表情変化)  七十五 「清く貧しく」  秋葉「もし、遠野グループが崩壊、破綻したら兄さんはどうなさいます?     屋敷も何もかも手放す羽目になって路頭に迷ったら」  志貴「幾らなんでもありえないだろうけど……。     まあ、そうなったら秋葉一人くらいは何とか面倒見るさ」  秋葉「本当……、ですか、兄さん?」(どこか恐々と)  志貴「当然だろ、秋葉の兄貴なんだから。ただ、今みたいな暮らしは無理だぞ。     せいぜい狭い四畳一間のアパートとかでさ」  秋葉「……」  志貴「なんでそんなにうっとりとしてるんだよ」 七十六 「大鍋で作ったほうが美味しいです」  志貴 「しかし大きな鍋だね、いつ見ても」  シエル「業務用ですからね。もっと大きくてもいいくらいですよ」  志貴 「幾らなんでも作り過ぎじゃないの?」  シエル「甘いですね、遠野くん。翌日、また次の日と味が熟成するじゃないですか。      それに煮込んでいる間に1/5位目減りしますしね」  志貴 「そんなに煮詰まるものかなあ」  シエル「違いますよ、味見しているうちに何故か無くなるんです」  志貴 「何故か……、ね」 七十七 「異教徒には鉄を」  シエル「秋葉さんの後輩なんですよね?」  晶  「は、はい」  シエル「一つ質問ですが、あなたはカレーは好きですか?」  晶  「え、カレーですか?」  シエル「カレーです。答えが難しければカレーライスと限って頂いてもかまいません」  晶  「ええと……(何なの、この緊張感は? もし答えを間違えたら……)」 七十八 「精神的贅沢病」  秋葉「最近は兄さんはどう?」  琥珀「夜に出歩く事も無くなりましたし、体の具合もよろしいようですね」  翡翠「朝のお目覚めが少々気になりますが、規則正しい生活をなさっています」  琥珀「テスト近いからって最近は部屋で勉強なさってる事が多いですしね」  秋葉「ふうん、そうなんだ」  翡翠「あの、秋葉さま、何か?」  琥珀「もしかして、不満が無いのが不満なのではありませんか?」  秋葉「ち、違うわよ」(動揺) 七十九 (256と65536)Oo。. (´-`) 作:古守久万さん  志貴 「ふっふっふ、先輩に内緒で携帯電話を購入しちゃったもんね」  シエル「!?これは……?」  志貴 「『先輩〜(^O^)/携帯買ったよ〜( ̄ー ̄)>ニヤッ』」  シエル「『えー? :-O そんないたずらにはだまされませんよーだ :-P 』」  志貴 「い、1バイトの顔文字か……流石欧米圏の人だ」 八十 「佇ちて待つのみなる者またよく主に仕う」  琥珀「翡翠ちゃん、本当はいろいろと状況を楽しんでいるでしょ?」  翡翠「…………、ええ」 八十一 「デート」  志貴「秋葉、兄さんと一緒なら何処へ出掛けるのでも構いませんとか言ってたろ?」  秋葉「ええ、そう言いましたよ。実際、今も凄く嬉しくて幸せですけど」  志貴「そのわりにはさっきから、文句が多いじゃないか」  秋葉「男の人って、こういうデートの時にはあらん限りの力で、恋人を喜ばせてあ     げようとするものなんじゃないですか。」  志貴「まあ、そうかな……?」  秋葉「だから、私は兄さんのお手伝いをしているだけですよ。それをどうするかは、     兄さんの甲斐性ですけどね」  志貴「……ああ」 八十二 「人の数と同じだけの私」  蒼香「遠野が言う兄さんと、アキラの言う志貴さんとやらはさ」  羽居「うん、何?」  蒼香「同一人物と思えないんだけど」  羽居「うーん、そうかなあ」  蒼香「どっちが実像に近いと思う?」  羽居「それは簡単だよ」  蒼香「ほう、どっちだ、羽居?」  羽居「両方とも」  蒼香「……なるほど、深いな」 八十三 「プレゼント」作:TAMAKIさん     遠野家の居間にて。  志貴「秋葉、これ、やるよ。」  秋葉「え・・・?兄さんが?」  志貴「あぁ、気に入って・・・ってなんで髪の毛赤いのデスカ?」  秋葉「・・・兄さん、このブランドをご存知?」  志貴「え・・・・?」  秋葉「ふふふ、あてつけですか?『ナイチチ』って」  志貴「あ・・・え・・・?」  秋葉「さぁ、兄さん、地下の座敷牢に行きましょうか?」  志貴「うわぁぁぁぁぁぁぁああ」   ───ズルズル───   ちなみに「ナイチチ」というブランドは実在します。      八十四 「○○プレイ」  晶 「もしも、今この鞄の中に入っている本が一冊でも志貴さんに見られたら、     おまけに、アレなんか私が作者なんだってバレたら、その瞬間から永遠に     志貴さんを失うんだなあ。うふふふふ」  志貴「ごめん、アキラちゃん、待った?」  晶 「いえ、ちょっとだけです」(謎めいた笑みで) 八十五 「気まずい時」    二人でテレビを見ている。  志貴「……」  琥珀「……」  志貴「あ……」(かなりやらしい映像に慌てる)  琥珀「……」(平然) 八十六 「水を一升瓶で飲んだらとか」  志貴「壮観だなあ」  琥珀「あ、見るのは構いませんが絶対に蓋を開けたりしないで下さいね」  志貴「うん。色からして危なそうなのもあるしね」  琥珀「ふふふ。基本的にここにあるのは全て毒薬たりえますからね」  志貴「え? ……冗談だよね」  琥珀「いえいえ、お薬って基本的に毒なんです。言い方は極端ですけどね」  志貴「……」 八十七 「選びようが無い」        秋葉「兄さんの好みの女性のタイプって、どんななんでしょうか?」  志貴「なんだよ、唐突だな」  秋葉「いいじゃないですか……、さあ」  志貴「わかったよ。そうだなあ……」  秋葉「……」  志貴「……」  秋葉「兄さん?」  志貴「すまない、秋葉、一晩考えさせてくれ」  秋葉「はい。(多すぎて一つに絞れないのか、全然頭に浮かばないのか、     どっちなのかしら?)」  八十八 「触れ得ざるモノ」        志貴「翡翠って黙っている時、何を考えているんだろう」  秋葉「そうですねえ……」  志貴「ああ見えて凄い事、考えていたりして」  秋葉「ありそうですね、例えば……」  琥珀「……」(いつになく真剣な顔でふるふると首を横に振る)  志貴「……明日は晴れかなあ」(ちょっと怯えつつ)  秋葉「……雲もないし多分」(ちょっと怯えつつ) 八十九 「妹ではなくて……」        秋葉「まったく何を考えているんです、兄さんは」  志貴「その台詞はこっちが言いたいよ」  秋葉「非を認めないと言うのですか」  志貴「それは秋葉の方だ。もう、秋葉なんか妹でも何でもない」  秋葉「妹じゃない?」  志貴「あ……」  秋葉「……」  志貴「ごめん、秋葉。言いすぎた、謝る」(後悔の表情)  秋葉「いえ、その……」   志貴「なんで嬉しそうな顔しているんだ?」  秋葉「……だって妹じゃないって(呟き声)」 九十 「応用も大事」        琥珀「では、おやすみなさい、志貴さん」  志貴「おやすみ、琥珀さん」    自分の部屋へ戻る琥珀さん  琥珀「……」  琥珀「……」  琥珀「……どこであんな事憶えて来るんだろう?」 九十一 「こすちゅーむぷれい」        志貴「琥珀さんッッ!」  琥珀「あらあら、凄い剣幕で。どうなさいました、志貴さん?」  志貴「どうなさいましたじゃないよ。     翡翠が忘れ物届けに学校来てくれたけど……、あの格好、琥珀さんだろ?」  琥珀「ああ、あれですか。ええ、翡翠ちゃんに相談されたんでアドバイスを。     志貴さん、翡翠ちゃんにメイド服で学校来るなとかおっしゃったんでしょ?」  志貴「言ったけどさ」  琥珀「だから、翡翠ちゃんに似合って志貴さんにも喜んで貰えるよう選んだんですよ。     似合っていたでしょ、翡翠ちゃん?」  志貴「それは、似合ってたけどさあ、あれは……」  九十二 「表紙」作:風原 誠さん       志貴「晶ちゃん、次なんだけど・・・・・・」  晶 「ひッ(目いっぱいに涙を湛えている)」  志貴「ど、どうしたの、晶ちゃん!?」  晶 「中ですらひぃひぃ言ってたのに、今度は後ろなんてもうムリですよぉ(涙)」  ざわざわ(中学生相手に後ろだってよ)  ざわざわ(中でひぃひぃ言わせたってさ)  志貴「誤解だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(涙)」 九十三 「逢わせてはいけない」        秋葉「兄さんはこの前も乾さんの家でお世話になりましたよね」  志貴「お世話……、ねえ?」  秋葉「泊めて頂いたり、食事をご馳走になったりしているのでしょう。     一度きちんとお礼しなくてはと思っているんですけど」  志貴「お礼か……」  秋葉「ええ、夕食にでも招いたらどうでしょうか?」  志貴「そうだな、有彦の都合聞いておくよ」  秋葉「お願いします。それとお姉さまにも」  志貴「お姉さま……イチゴさん?」  秋葉「はい、よくお話に出てきますし」  志貴「イチゴさんは……、ダメ。絶対に呼んだらダメ」  秋葉「え? 何でです」  志貴「秋葉が怒るから。アルクェイドや先輩どころじゃない     お願いだから、それだけは許してくれ」(懇願)  秋葉「は、はい」(疑問符でいっぱいになりつつも迫力で押し切られる) 九十四 「もう、寝坊なんだから」        秋葉「何を考えてるんです、兄さんは」  志貴「いや、その、ちょっと好奇心で……」  秋葉「呆れ果てて何も言う気にもなれません」(と言いつつ怒涛の如く言葉が噴出)  琥珀「どうしたの、秋葉さま? あれほど怒っているのも珍しいわね」  翡翠「志貴さまに頼まれた起こし方を、秋葉さまが見られて……」  琥珀「ふうん。……もしかしてお目覚めのキスとかかな?」  翡翠「違うわ、姉さん(真っ赤)     ただ、『お兄ちゃん、起きて』って声掛けて起こしてくれって言われて」  琥珀「なるほど、お気に召さない筈ね……」 九十五 「しあわせのかたち」        有彦「俺は自分が幸せなのに気がつかない奴ほど忌々しいもんはないと思うな」  志貴「そうかな? 本人は逃げ出したいのに、周りから見て羨ましいって言われ     るのって、けっこう忌々しい境遇だと思うけど」(しみじみと)  有彦「昼飯でも食いに行くか」  志貴「そうだね」 九十六 「強いって何ですか?」        シエル「珍しいですね、あなたが考え事なんて」  アルク「なんだ、シエルか。あ、ちょうどいいや」  シエル「なんです?」   アルク「志貴の家で一番偉いのは妹だよね」  シエル「そうですね、当主ですし」  アルク「じゃあね、あの家で本当に一番強いのは誰かな?」  シエル「……難問ですねえ。ただ戦闘能力あってとかの話じゃないんでしょ?」  アルク「うん。ね、悩むよね」 九十七 「晴れた日には」        志貴「……」  翡翠「どうかなさいましたか、志貴さま?」(洗濯物を干しながら)  志貴「いやね……」(色とりどりの服や女物の下着から目を背けつつ)  琥珀「下着が何か?」  志貴「自分のパンツは自分で洗おうかなって」(真ん中に干してあるのを見て)  翡翠「え……」(傷ついた顔で)  琥珀「そんな……」(不本意そうに)  志貴「だって嫌じゃないの、二人共?」(慌てつつ)  翡翠「……」(ぷるぷると首を左右に)  琥珀「……」(同じく)  志貴「……ええと、ならお願いするよ」(ちょっと不思議そうに) 九十八 「幼き日の」        志貴「こういう事を口にするべきじゃないかもしれないけど」  秋葉「どうなさいました、兄さん?」  志貴「琥珀さんて、昔の翡翠を演じていたんだよな」  秋葉「そうですね」(暗く重い声)  志貴「翡翠ってさ、昔の翡翠ってあんなだったかな?」  秋葉「え?」(だんだんと当惑した顔に)  志貴「……忘れてくれ」  秋葉「……はい」    九十九 「アメリカの家に住み、フランスの料理人を……」        琥珀「ねえ、志貴さん、志貴さんの周りにいろんな女の方がいますよね」  志貴「そうだね」  琥珀「その長所のみを集めた女性ってどうでしょうね?」  志貴「ええと、つまり料理は琥珀さんで、家事は翡翠、とかかな?」  琥珀「はい。シエルさんの聡明な処とか、アルクェイドさんの明るさとか     秋葉さまでしたら、あれで一途な処とか気品とか」  志貴「ちょっと壮絶なキャラクターになりそうな気もするけど。     でも、先輩……、翡翠で、胸はまあ、で、琥珀さんは……、いいかも」  琥珀「その場合ですね、夜のお勤めはどなたがよろしいですか?」(さりげなく)  志貴「それはもちろん……」  秋葉「誰です?」  志貴「いつ、現れたんだ、おまえは」  秋葉「誰です?」   百 「自由の価格」        志貴「頼むよ、秋葉」  秋葉「今日はまた随分としつこいですね。……わかりました」  志貴「え、じゃあ小遣いくれるの?」  秋葉「ええ。ただし条件があります」  志貴「条件?」(嫌な予感を胸に)  秋葉「簡単な事です。まる一日、兄さんが私のものになるなら。     何でも私の言う事を聞いて、素直に従うならあげますよ、お小遣い」  志貴「……いいよ、それで」  秋葉「ええっ?」(動揺して)  志貴「ただし、秋葉が後で自分の行動を省みて恥じない事を命じるのなら」  秋葉「……。言いますね。わかりました、今回は特別ですからね」
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