天抜き 其の五十六






 二千七百五十一「勝ち負け」

 凛   「あんたって、聖杯で何か願いをとかでなくて単純に強い敵と
      戦いたかった訳よね」
 ランサー「ああ」
 凛   「それで、ゲイボルクって発動すれば間違いなく敵を倒す訳ね」
 ランサー「まあな。
      因果を逆転させ、結果を先に作りだす。
      放てば敵の心臓を穿つ……、必ずな」
 凛   「だとすると、それ出した時点で負けじゃないの?」
 ランサー「あん?」
 凛   「戦うのが目的なのに、自分から勝負終わらせるんだから。
      必殺技出すまで追い詰められたから出すんでしょうし。
      だから、その勝利は敗北なのよ、うん」
 ランサー「何……だと? 勝ったから、負け?
      もう一回言ってくれ、もう一回」



 二千七百五十二ノ一「前進のみ」

 ライダー「おや、どうしました」
 士郎  「自転車のブレーキが二つともワイヤー切れちゃってさ」
 ライダー「誰かの悪戯ですか」
 士郎  「いや、藤ねえがそこの坂凄い勢いで、そしてこう来て、ここで
      こうして。弾みでプチっといったみたい」
 ライダー「なるほど。まあ怪我が無くて良かったですね」
 藤ねえ 「あーあ。仕方ないから自転車屋さんまで押していくわ。
      バスには乗せてくれないだろうし」
 ライダー「それなら、ちょっと貨して下さい。直してきましょう」
 藤ねえ 「ちょっとライダーさん。……行っちゃった」
 士郎  「凄いスピードだな」
 藤ねえ 「え、あれ、ブレーキ壊れてるのよね?」
 士郎  「壊したの藤ねえだろ。
      でも、何であれでスピード落とせるんだ」



 二千七百五十二ノ二「ただいま」

 ライダー「お待たせしました。
      もともと弱っていたようですね。金属疲労でしょう」
 藤ねえ 「おお、元通り。嬉しい」
 士郎  「どうやってブレーキなしで運転したんだ」
 ライダー「ライダーのクラスを舐めてはいけませんよ、士郎。
      状態の良い馬を駆るだけなら凡庸な乗り手でもできます。
      暴れ馬でも難物でも変わりなく乗りこなしてこそのスキルです」
 士郎  「なるほど。ちょっと違う気もするけど」
 
 

 二千七百五十三「暑い」

 藤ねえ「まだ夏じゃないってのに、この暑さは何なのよ」
 士郎 「騒ぐと余計に暑いぞ」
 藤ねえ「それならいっそ我慢大会でもやりたくなるわね」
 士郎 「藤ねえだけだ、そんなの」
 藤ねえ「最近人が多いしやったら面白いに違いないと思うなあ」
 士郎 「でも、みんな尋常でなく我慢強いと思うけどな」(小声)



 二千七百五十四「眠れる」

 青子「ふーん、妙なところに結界張ってあると思って見てみたら。
    どこかの封印指定のお人形とはね。
    なるほど……、今はこんな姿なのか。
    見つけてしまった以上は放っとくのも気になるし壊しておくべきかな。
    うんん、どうしたものかしら。
    生きて動いているならまったく躊躇なく消去できるんだけど」



 二千七百五十五「演じる」

 志貴「翡翠が琥珀さんの格好をしたのなら、入れ替わってもわかる気がする。
    その逆は無理だろうけど」
 琥珀「そうですかね。もしも翡翠ちゃんがわたしになり変らなくてはならなくて
    本気で真似たとして、それでも見抜けますかるんですか?」
 志貴「できると思う」
 琥珀「そうですか?」(静かにゆっくりと)
 志貴「う、どうだろう」



 二千七百五十六「一夜」

 志貴 「タタリって一夜のみの存在なんだな」
 シオン「そうです。今日を逃せば次はまた待たねばなりません。
     確実に仕留めなくては……」
 志貴 「夜という事は日没から日の出までなのか?」
 シオン「……恐らくは」
 志貴 「それなら秋とか冬ならば出現時間が長いのか。
     白夜とかだとそもそも出ないのかな。いや、夜は夜か」
 シオン「さあ」(どうでも良い顔で)



 二千七百五十七ノ一「レンズ」

 ライダー「コンタクトレンズで魔眼封じは作れないものでしょうか」
 凛   「眼球に密着させるかどうかの違いだから、理屈で言えば
      可能だと思うけど」
 ライダー「そうですか」
 凛   「でも、やめておいた方が良いわね」
 ライダー「と言うと何か、問題でも?」
 凛   「ライダーは眼鏡似合っているもの。勿体無いわ」


 二千七百五十七ノ二「スキル」

 凛 「でも魔眼封じを作れる能力があって、なおかつ自前でコンタクト
    レンズを作れ魔術師なんて、とんでもなく珍しい存在かしら」



 二千七百五十八「満員電車」

 志貴 「……アルクェイド、俺の傍にくっついていろ」
 アルク「え、え、志貴がそんな事言うなんて珍しい」
 志貴 「まあ、お前なら別段何ともないんだろうけど、揺れもしないで
     根っこ生やしたみたいに突っ立ってると、他の人が危ないような
     気がするから」
 アルク「うーん? まあ、いいや。えへへ」



 二千七百五十九「停止状態」

 シエル「あ、放送が。なるほど、何かの事故みたいですね」
 志貴 「この先の踏み切りでどうとか言ってる。
     復旧の見込みはまだって、ずっとここにいなくちゃいけないのか」
 シエル「いっそ降りちゃいますか」
 志貴 「と言っても、この辺だと他に交通手段無いですよ」
 シエル「走っていけばすぐですよ」
 志貴 「フルマラソンの半分くらいあるんですけど……」
 シエル「それがどうかしましたか。
     冗談ですよ、そんな顔しなくてもいいです。復旧を待ちましょう」



 二千七百六十「効果」

 琥珀「人を陰謀家とか、火に油を注ぐとか言いますけど、わたしに出来る
    事なんてほとんどないんですよ。
    皆さんがああも騒ぎおこしちゃうとお手上げです」
 志貴「そうかなあ」
 琥珀「そうです。無力なんです
    何も起こっていない平穏な状態だったり、あるいは緊張による均衡
    状態なら多少は何か出来るかもしれませんけど。
    細波ひとつない様な水面に小さな石でも放ると波紋が広がったり、
    シーンとしている時は小さな音が響いているように聞こえたりする
    でしょう。せいぜいそんなものです」
 志貴「ピンと来る様な来ない様な」
 琥珀「でも、それが遠因で結果的にああなってますよ、今。
    志貴さんには言えませんけどね」(呟く様に)



 二千七百六十一「疑いなく」

 キャスター「これが強化の魔術です」
 葛木   「ふむ。感触は元とまるで変わらないな」
 キャスター「鋼の刃などにも耐えるようになっていて、痛みも感じません」
 葛木   「そうか」(無造作に渾身の力で庭石を殴り、砕く)
      「なるほど、凄いものだな。場面によっては活用しよう」
 キャスター「……微塵も疑問を抱かず、全力で。
       偽りであれば拳が砕けるのに? わたしを信じると?」
      (一人残り、戸惑うように)
  
     
   
 二千七百六十二「才能ある者」

 士郎  「あれ、美綴、何だってセイバーと」
 綾子  「ああ、ちょっと用あって寄ったら、セイバーさんがいたから。
      前に藤村先生が強いのよーとか吼えてたから、ちょっとだけ
      立ち合いして貰ったんだ。
      手加減されて、あれかあ。鬼のように強いって本当だなあ」
 セイバー「鬼……、大河の言葉ですか。
      綾子も見事なものです。経験者ではあるそうですが、それより
      足の運びや重心の保ち方に、相当な素質を感じます」
 士郎  「へえ。セイバーがそんな言い方するとは」
 セイバー「じっくりと育てたら強くなるでしょう」(心引かれるように)
 士郎  「ふうん」(そんな目で見られた事無いなあと思いつつ)
      


 二千七百六十三「カニもあるが」

 セイバー「お昼ご飯にしましょう、ライダー」
 ライダー「もうそんな時間ですか。
      別段わたしは食事は必須ではないのですけどね」
 セイバー「む、文句でも?」
 ライダー「いえ。桜と士郎が用意してくれたものですから、ありがたく
      頂きましょう」
 セイバー「そうです。味だけでなく見栄えまでも素晴らしい。
      ウィンナーなどもただ焼くのではなくて、こうして一手間を
      加えています。面白く、そして美味しい」(はむはむ)
 ライダー「……タコさんウィンナー」
 セイバー「ん、何か言いましたか?」
 ライダー「いえ、別に」



 二千七百六十四「才ある者たち」

 凛 「まあ、何だかんだ言っても、倫敦塔あたりの魔術師から見たら
    日本なんて辺境の地よね。
    わたしだっていざ留学したら委縮するかもしれないわよ。
    周りは凄い優秀な魔術師ばかりで劣等感に苛まれたり」
 士郎「そうなのか」
 凛 「ええ、可能性はあるわね」
 士郎「でもさ、少しもそんな心配していない顔だけど」
 凛 「当然でしょ」



 二千七百六十五「りゅう」

 凛「ただいまあ。
   あら、どうしたの、あの二人?」
 桜「先輩がセイバーさんにヨーロッパの方だと、竜って悪者じゃ
   ないのかって言って」
 凛「まあ、そうかも。東洋だと神様扱いされたりするけど。
   それで揉めているんだ。
   なるほど、まさに、逆鱗に触れた訳ね」
 桜「うまい事を言ったでしょって顔してないで、止めて下さい」



 二千七百六十六「簡にして単」

 藤ねえ 「そこぉッ、一本ッッッ!!」
 士郎  「うああッッ。
      あーあ、まだ藤ねえには勝ちきれないか」
 藤ねえ 「ふっふっ、士郎も強くなってるけど、まだまだね。
      何だか前より難しく考えてるみたい。
      ええとね、打たれる前に打てばいいのよ。
      そして先に打たれた時は、避けるか受けるかする。
      ほら、簡単でしょ」
 士郎  「そりゃ言うのは簡単だけど」
 セイバー「ふむ」
 士郎  「あれ、何かセイバー凄く強く頷いている。
      そういうレベルの高い領域の話なのか、これ」



 二千七百六十七「小は大を兼ねる」

 セイバー「なるほど、アーチャー、あなたがあえて短剣を愛用
      している理由がわかったような気がします」
 アーチャ「あの技量には敬意を払うが、否定だ」

     出刃包丁ひとつで行うマグロの解体ショーを見つつ。



 二千七百六十八「グランドでもコロシアムでも」

 志貴「しかしうちの庭だとプールの一つや二つ作れるな」
 秋葉「いいですね、造りますか」
 志貴「うんと言えば冗談でなく造っちゃうよな」
 秋葉「どうします?」
 志貴「冗談じゃないんだよな、やっぱり」



 二千七百六十九「因果」

 シエル「遠野君には死徒だの魔術師だのの世界とはなるべく無縁で
     いて欲しい。そう思っているんですけど……。
     でも良く考えたら、最初からもう手遅れなんですよね。
     本当に、本当に厄介な人だこと」



 二千七百七十「ポチャリ」

 志貴「ふうん、こんなところにも井戸なんてあったんだ」
 琥珀「昔は使用人も多いし使っていたんですかね。」
 志貴「確かにこの屋敷ならあってもおかしくないか。
    まだ使えるのかな」
 琥珀「どうでしょう。今は不要ですし」
 志貴「深そうだな。間違って落ちたら」
 琥珀「助かりませんよ」
 志貴「(なんでそこだけ推測じゃないんだろう)」



 二千七百七十一「ネットは広大だわ」

 琥珀「そこで、こう。それ、とどめです」
 志貴「え、嘘。一気にやられた」
 琥珀「ふふふ、鍛え方が違いますよ」
 志貴「いつの間にこのゲーム、こんなに上手くなったんだ」
 琥珀「今は便利になってますからねえ。
    何だったら世界中の強豪を相手にして腕を磨けるのですよ」
    この部屋にいながらにして」
 志貴「いながらにして、か」
 琥珀「そこで、寂しげな表情をされても困るんですけどー」



 二千七百七十二「夜が明けて」

 幹也「何だか、機嫌がいいね、式」
 式 「ああ。何だか夢見がいいというか。よくは憶えてないけど」
 幹也「ふうん。式が喜ぶ夢か」
 橙子「多分、凄く殺伐とした内容だと思うぞ」
 式 「そんな気がする。
    ん……?」
 橙子「何だね、人の顔を見て首をひねって」
 式 「いや、何かトウコに恩着せられる夢を見たような」



 二千七百七十三「憧憬の形」

 氷室「人が人に憧れるという場合、幾つかのパターンがある。
    その人のいろんな資質自体に魅せられて近しくなりたいと思う
    パターン。そして、自分もそうなりたいというパターン、それに
    言い方は悪いがおこぼれにあずかりたいと思うのも、その変種と
    見ていい。我々3人で、両方ともサンプルがある訳だな。遠坂嬢
    に対して。
    ああ、もうひとつ憧れの形はあるな。対象に対しての恋愛感情、
    性的欲求という。
    いや、わたしがそうだと言う訳ではなくて」
 


 二千七百七十四「秋刀魚の味」

 凛 「平穏無事な生活ねえ。
    まあ、否定はしないけど、わたしは嫌ね。なんか、つまらない」
 士郎「なるほど、遠坂らしいな。遠坂一人だったか」
 凛 「わたしだけ何よ?」
 士郎「さっき桜とライダーで、慎ましく穏やかな暮らしをするのが
    いちばん幸せだとか話したんだ。そしたらセイバーも遠い目を
    しながら頷いて。買い物でキャスターと会って立ち話したら、
    キャスターにも深く同意されたんだ。
    遠坂だけは否定派なんだな」



 二千七百七十五「故郷の空」

 ランサー「現世で国の土を踏みたいと思うか?」
 セイバー「それは、難しい質問ですね。
      興味がないと言えば嘘になりますが、しかし」
 ランサー「しかし、何だ」
 セイバー「私の生まれた国はない、もはや」
 ランサー「まあ、確かにそうだな。
      故郷なんてのは遠くにいてたまに懐かしむくらいで
      いいのかもしれんな」
 セイバー「英霊たるあなたはそうかもしれないが、私は……。
      本当に答え難い問いですよ、ランサー」(呟き)



 二千七百七十六「進路選択」

 士郎「そう言えば、なんで遠坂はうちの学校選んだんだ」
 凛 「家から近いから」
 士郎「それだけ?」
 凛 「そっ。でも重要よ。
    冬木の地から離れてるうちに聖杯戦争開始なんてなったら、
    死んでも死にきれないでしょ」
 士郎「なるほど」




 二千七百七十七「闘いの挽歌」

 小次郎 「時に、アーチャーよ」
 アーチャ「この場に及んで命乞いか」
 小次郎 「いや。ふと思ったのだがな。
      アサシンではあるがこの身は佐々木小次郎な訳だな」
 アーチャ「ああ。燕返しで名高き剣の使い手であろう。
      ふ、二刀流相手の戦いに不利を感じているのか」
 小次郎 「いや、それはない。
      戦いに水を差したな。いざッ」
 アーチャ「ああ」
 小次郎 (むしろ、二刀流の達人が、二刀流のままでは勝機を
      見出せなかったとの逸話を背負っている訳だが……)



 二千七百七十八「敗残者達」

 綾子「妹だから、身を引いたのか」
 凛 「違うわよ。あの娘を選んだのはあくまで衛宮君」
 綾子「ふうん」
 凛 「並んで歩いてて一番嬉しそうなのは、わたしより桜だし」
 綾子「そうなんだよなあ」(溜息)
 凛 「あらあら、なんで溜息なの、美綴さん?」
 綾子「うるさい」



 二千七百七十九「○○に行ってきました」

 式 「どうした、トウコ」
 橙子「ちょっと調べ物があって黒桐に頼んだんだがな」
    さっき報告書と土産物だけ置いて帰った」
 式 「ふうん。それがどうかしたのか」
 橙子「どんな行程だったのかなと思ってな」
 式 「うん? ええと、トラピストクッキーとわさび漬けとういろうと
    生八橋、それともみじ饅頭に、博多ラーメンセット。
    北から南にか。随分とわかりやすい土産だな」
 橙子「日帰りで滋賀に行った筈なんだ。
    何をどうして、どう広がったんだろう。それでも日帰りだし」



 二千七百八十「世界で一番硬い食材」

 志貴「ふうん、やっぱりこの家だと削ったのじゃなくて自分で削る
    んだな」
 琥珀「ああ、鰹節ですか。そうですねえ。最高級のものとなると、
    そうなりますかね」
 志貴「削り器はこれか。刃はこんな具合か」
 琥珀「やってみたい……ようですね。お願いしましょうかね」
 志貴「了解」
 琥珀「それではお出しを夕食に。ん、そうそう、志貴さん」
 志貴「何?」(熱中の最中)
 琥珀「全部削っちゃ駄目ですよ。せっかくの風味が落ちますから」
 志貴「え、あ、うん、わかった」
 琥珀「(危なかったですかね)」


 
 二千七百八十一「消化」

 志貴 「もうすぐ十月ですね」
 シエル「夏も終わり。いろいろありましたけど」
 志貴 「学校で言うと進級してやっと折り返しなんですけど、カレンダー見ると
     一年ってもう残り少ないんですよね」
 シエル「なかなか、趣き深い言葉ですが、結論は?」
 志貴 「いや、別に。それだけなんですけど」
 シエル「そうですか」



 二千七百八十二「心得」

 晶 「普通ではない事をきちんと自覚しつつも、普通ではない事にただ安穏と
    していては駄目なんです」
 秋葉「何の事かはわからないけど、頷けるわね」



 二千七百八十三「ファイル」

 橙子「けっこう事件の記録もたまっていくものだな」
 幹也「そうですね」
 橙子「解決済みと、未解決に分けている訳か。
    解決しているのだろうかな。これやこれなど」
 幹也「そう言われるとちょっと迷いますね。
    完了済み、と直しましょうか」
 橙子「そうだな、そちらの方が正しい。
    何も解決せずとも、もしかしたら始まってすらいないのに、
    完了となるものはあるのだしな」



 二千七百八十四「壁」

 橙子「単純に技術論で言えば、魔術も数学の定理や公式と変わらない。
    いったん教われば、それを利用した問題は全て解けるだろう。
    魔術についても、例えば…」
 幹也「あの、所長。
    数学の定理や公式を教われば、全て問題が解けるという部分が
    少々違和感あるんですけど」
 橙子「うん? 文字通りの意味だが。
    そうだろう?」
 鮮花「はい」
 幹也「こういうところの差が厳としてあるのか、なるほど」



 二千七百八十五「異端は惹かれあう」

 橙子「異常なモノに好かれる者というのはいるものでね。
    黒桐などもそういうきらいがある」
 幹也「そうですか」
 橙子「ああ。どういうものか、異常は普通を好む」
 幹也「でも、ほとんどの人は普通でしょう」
 橙子「いやいや。異常に好かれるような者は、異常な普通なんだな」
 幹也「それ、矛盾してるじゃないですか」
 橙子「完全に普通であると言う事は、それはそれで異常なのだろう。
    全ての点において平均値の人間などほとんどいない。
    整理すると、異常も普通も持ち合わせた人間の、他の者には
    窺い知れない普通さに異常は惹かれるのだろう」
 幹也「結局わからないという意味になりませんか、それは」
 橙子「そうだな。どこで言い方を間違えたかな」
 幹也「わかりません」



 二千七百八十六「味噌焼きも美味いよ」

 士郎「どうだ、桜」
 桜 「炊けました」
 士郎「そうか、お櫃に移して少し冷まそう」
 桜 「はい」
 士郎「でもさ、焼きおにぎりなんてのは普通、余りご飯とかで
    作るものだよなあ」
 桜 「そうかもしれませんけど……」
 士郎「いや、わかってて言ってるけど。さて、始めるか」



 二千七百八十七「抜けば玉散る氷の刃」

 小次郎「宝具でこそないが、この一刀、そこそこの業物ではあるな。
     自動で修復されるのは、有難いと言えば有難い。
     だが……、確か刀を研ぐという行為は楽しいものであった、
     そんな記憶が微かにあるようだな。
     鈍ら刀しか手に入らぬ身分であったから」



 二千七百八十八「立て込み中」

 橙子「兎と亀の話があるが、亀が一万年生きるとすれば、生涯に歩いた
    距離は容易く兎を凌駕するだろう。そう思わないか」
 幹也「そうですね、凄いですね
    で、それが何か関係すると?」
 橙子「いや、別に」
 幹也「いいから、早く仕事片付けてください」
 橙子「散文的な男だな、黒桐」



 二千七百八十九「恐怖」

 志貴 「そうだなあ、この眼鏡が無くなる事かな」
 シエル「間接的ですね」



 二千七百九十「暗黒」

 志貴 「明るい所から暗い所に行ったらモノが見えなくなるだろう」
 アルク「ううん」
 志貴 「そうなのか」
 アルク「うん。で、それで?」
 志貴 「逆に暗い所から外に出たらしばらく眩しくて……、これもないか。
     いや、もういい」



 二千七百九十一「挑戦」

 琥珀「難易度高いですねえ」
 志貴「ふうん」
 琥珀「いろんな方が挑んで、いまだ倒しきれないんです」
 志貴「それは手強いね」
 琥珀「それでですね面白いのはボスキャラを倒すと得られるものが普通の
    宝物じゃないんですよ」
 志貴「じゃあ何なの」
 琥珀「ボスキャラ自身です」
 志貴「うーん?」
 琥珀「攻略法が見つからないんですよねえ」(しみじみと)



 二千七百九十二「脅威」

 アーチャー「……無様だな。
       セイバーと凛という才ある師につきながらあの程度か。
       目前の敵が圧倒的であれば、搦め手からの攻め口を考えるべきだ。
       正面突破の力技でどうとでもなる二人に教わると、ああなるのは
       必定なのかも知れぬな。力なきものの為の異端の技術など、無縁で
       あろうから。
       そう考えるとある意味不幸なのか」 



 二千七百九十三「秘宝」

 秋葉「そうですね、ちょっと探せばいろいろ出てくると思いますけど。
    あまり興味がないので正確には把握できていません」
 志貴「持ち主すら知らないって、本格的だな」

 琥珀「つまり、ひとつふたつ無くなってもわからない訳ですね」
 翡翠「わたしはわかりますよ、姉さん」
 琥珀「え?」
 翡翠「わかりますよ」
 琥珀「うわ、本当っぽいですね」



 二千七百九十四「謎」

 凛 「この家って何でこんなものが置いてあるのよ」
 士郎「前に藤ねえが……」
 凛 「便利な返し言葉よねえ。
    ま、本当なんだろうけど」



 二千七百九十五「危機一髪」

 シエル「危なかったですねえ」
 志貴 「危なかったって、先輩」
 シエル「危機一髪でしたよ」
 志貴 「もろに食らったじゃないか」
 シエル「でも、無事ですよ?」
 志貴 「それはむしろ全然危機でも一髪でもなかったんじゃないのか」



 二千七百九十六「時」

 橙子「ちょうど良い。ここですませていこう」
 幹也「はい。
    ……所長でも立ち食い蕎麦なんて食べるんですね」
 橙子「急ぎの時には便利だろう」
 幹也「でも、何と言うかイメージが」
 橙子「そんなものは…、おい、黒桐」
 幹也「は、はい?」
 橙子「この辺りに来るの初めてと言っていたな?」
 幹也「そうですけど」
 橙子「ならばこの店も初めてな訳だ。
    何故、いきなり七味を掛ける」
 幹也「いつも掛けていますから」
 橙子「先に汁の味を見てからだろう、まったく嘆かわしい。
    おい、ちょっと待て。何をしている」
 幹也「何ですか、今度は」
 橙子「いきなり黄身を割るとは、何を考えて生きているんだ」
 幹也「(こういう人だったのか、意外だ……)」



 二千七百九十七「星々」

 シエル「前に空や星は好きだと言ってましたよね。
     さすがにそこには死を見る事はないからって」
 志貴 「うん」
 シエル「星にも死はありますけど、それは人間で言えば、寿命や事故死
     みたいなものですね。膨張して爆発したりエネルギーを失って
     冷え切ったり、他の天体とのバランスで崩壊したり
     でも、そういうのって遠野君の魔眼の範囲外ですよね。
     人にしてもほとんどは寿命や本人の持たぬ要素で死ぬ訳ですけ
     れど……、何か変な事を言っていますね」
 志貴 「でも何とはなく気遣いの言葉をくれようとしたのはわかったよ。
     ありがとう、先輩」」



 二千七百九十八「無法者」

 橙子「魔術師であるという事は多かれ少なかれ法の枠内から、はみ出すと
    言う事だ。まあ、法律で魔術的な事を裁けるのかと言えば整備不足
    であったりもするがね。
    呪術で人を殺しても、罪を問えないだろう。
    ……。
    そんな前置きをして何を言うつもりかって?
    さあて……」
 幹也「真顔? むしろほくそ笑んでくれた方が安心なんだけど」
 

 
 二千七百九十九「陰謀」

 琥珀「陰で謀られてこその陰謀です。
    失敗して骸を晒しても、成功して花開いても、どちらも終わった
    結果に過ぎない。渦中にあっても気づかれない、それが肝要です」
 秋葉「ためになる解説ね。
    つまり別の言い方をすれば、白日の下に晒されればそれで陰謀は
    潰える……そういう訳よね」
 琥珀「その通りですねえ」
 秋葉「ふふふ」
 琥珀「ふふふ」



 二千八百「救出」

 幹也「なんだか圧倒的に強い人が弱い人を助けに行くケースはほとんど
    なくて、弱いほうが助けに向かう事が多い気がするんだけど」
 式 「圧倒的に強い奴が自由に動けるんだったら、全然危機的状況には
    ならないだろう」
 幹也「そういうものなのかなあ」



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